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参考人(西堀正弘君) 本日は、この
委員会でお話をする
機会を与えられましたことを私としては大変ありがたくかつ光栄に存じております。
ただ問題は、どの程度諸先生の御
参考になるお話ができますか大変心もとない次第でございます。つたない経験ではございますけれ
ども、私の体験に基づきまして、私なりに日ごろ考えていること、実は私まだ
国家公務員でございますけれ
ども、外務省の禄ははんでおりませんので、何ら制約なしに無責任の
立場から自由奔放にお話をさせていただきたいと存じます。
さて、
日本の国力が今日のように増大したといいますか、増強してまいります。ただ私、GNP、国民総生産ですか、この概念は、確かに
経済のフロー、流れ、
経済活動の大きさは示します。したがいまして、
日本人のようにあくせくあくせく働いている者の場合非常にこれが大きくなりますんで、ただ、どこかに事故があってアンビュランスがすっ飛んでってもこれがGNPを増すというようなことだそうでございます。国際的に見ますとどうも
日本の実力以上に買いかぶられる、
一つ蓄積された国富といったものを示す指標でもできないことにはどうも買いかぶられる傾向があるのじゃなかろうかとかねがね思っているわけなんでございます。
それはいずれにいたしましても、敗戦当時に比べましたら
日本の国力が増大したことはこれはもう否みがたい事実でございますので、それに相応して国際責任ということが盛んに言われるようになりまして、特に
日本のように
資源が何にもない、
日本の安全と繁栄というものは
世界の平和と安定に依存している、
日本の生存そのものが
世界の平和と安定に依存していると言って差し支えないと思うのでございます。したがいまして
世界あっての
日本でございますから、国際責任をどういう形で負っていくか、遂行していくかということが本日の問題だろうと思うのでございますけれ
ども、国際責任を遂行していくということは当然のことでございます。
国際責任と申しますと、まず先生方の脳裏をかすめるものは現在の米国
政府、もっとはっきり言いますならば、レーガン政権から非常に激しいかつ執拗な
軍事力の増強ということが国際責任の遂行であるという形であらわれてきているわけでございます。そこで、ただ我々
日本国民は敗戦後営営としてがむしゃらに働いてきたわけでございまして、国際責任というようなことは余り考えもせずに今日まで来て、ひょっと気がついてみたら自分の影の大きさに驚きと戸惑いを感じていると申しても私は差し支えないのじゃないかと思うわけでございます。したがいまして、国際責任といいましても、どうも自律的に考えて何が
日本として最も
世界の平和と安定に貢献するかということ、自律的に私はよく考えて対処しなきゃならぬと思うのですが、どうも他律的なんでございますね。その点これからお話ししたいと思うのでございますが、どうもアメリカから非常に要求を受ける、今、日米
関係が
日本にとって有しているところの圧倒的
重要性ということから考えますと、
現実外交の場でこのレーガン大統領の要請をむげに断るということはこれはできない相談でございますし、その点大変面倒なことではあります。
しかし、
日本は
日本なりの考えで私は対処していくべきだと思うわけでございます。そこの肝心のアメリカの現在の
世界戦略に基づくところの
政策、どうしてそうなってきているか、またそれ以外になかなかレーガンとしてもやりようがないと思われることにつきましては、時間の許します映り後ほどお話し申し上げることにいたしまして、まず外堀を埋めると申しますか、今、
日本が若干でございますけれ
ども軍事力の増強をやっている。このことが
国際社会においてどういう受け取られ方をしているか、
国際社会にどういう反響があるのかということを私の経験に基づいて率直にお話を申し上げたい。まず外堀を埋めさしていただいてから本論に入りたいと思うのでございます。
私、二年半前にニューヨークから
国連大使を最後に帰ってまいりましたが、
国連におきます
日本の評判と申しますか、
日本の一般の受け取られ方というのは、
日本は分担金は米ソに次いでおりますし、また、自発的な拠出金を考えましたならばこれはもう米国に次いで第二位、圧倒的にソ連なんぞは足元にも寄らない貢献をしているわけで、決して悪いことをしているわけじゃございませんけれ
ども、どうも
一つ芳しくないのでございますね。それでいろいろ考えてみたんでございますけれ
ども、一体なぜこう
日本の
国連における評判は芳しかるべきが余り芳しくないということを私なりに考えてみますと、
三つあるように思うのでございます。
一つは、ソ連を初め東欧
諸国の代表が、あらゆるフォーラムにおいて
機会があれば
日本の軍国主義の
復活という悪宣伝をするわけでございます。商業広告の真髄はレペティションにあるということが言われますけれ
ども、そのとおりでございまして、この東欧
諸国の連中が、
機会さえあれば
日本の現在の軍国主義の
復活、我々も毛頭考えてもいないことでございますけれ
ども、を言うわけでございます。
日本という名前がメンションされますと、もちろんこれは徹底的に答弁権を行使して論駁する、スタンディングメンストラクションがございましたからこれはやるわけでございますけれ
ども、このごろは巧妙になりまして、
日本という名前は出さない。聞いていればよくわかるのですね、アジアの一
大国というような言い方しますので。しかし、それに反論しますことは、いわば語るに落ちるということになりますので、これは反駁できないというようなこともございまして、商業広告と同じで、レペティションによって相当各国の代表に影響を及ぼしているということが言えるかと思うのでございます。
第二の
理由は、特にレーガン大統領が強いアメリカということを標榜して出て以来、
国連におけるアメリカ代表の活動が非常に強がりといいますか、正しい姿なんではありますけれ
ども、適当にいなすというようなことがなしに、そこへもってきて、これは偶人の批判になりますので――名前さえ出さなきゃいいですか。速記をとめていただこうと思ったが、よろしゅうございます。やはりその代表の人柄というようなこともありまして、それは非常に立派な方で、個人的には本当に私、楽しくおつき合いしたんでございますが、どうも不必要にこの第三
世界の方々をいら立たせるというようなことがありまして、アメリカの
国連における、評判というのはいわばもう最低といいますか総スカンなわけでございますね。その状況は私がこちらへ帰ってまいりましてから二年半の間でも変わっていないようでございます。
実はちょっと抜き書きしてきたんでございますが、昨年の
国連総会における決議案の投票パターンですが、非同盟
諸国がソ連と組んでイエスならイエスのボートをする、ノーならノーのボート、とにかく一緒のボート、一緒の投票のパターンが八六%に対して、米国と非同盟
諸国が一緒になって同じ投票態度をとるというのが一三%。ソ連の方は過去最高のパーセンテージだし、アメリカの方の一三%にすぎないというこれはこれまた過去最低の投票パターンだということが最近報道されておりました。これは国務省の計算でございますから間違いないと思うのでございます。ということで、アメリカの
国連における評判が総スカンであるということは、現在ますますそういうことになっているのじゃなかろうかと思うわけでございます。
そこで、各国の代表連中に映る姿というのは、ただいま
日本が若干ながら
軍事力の増強をやっている、それはこの憎らしきアメリカの要請に従ってやっているのだというようなことで、いわば坊主憎けりゃけさまでという、そういったことが
日本の評判がよくないということの
一つの
理由。
もう
一つ、第三番目の
理由といたしましては、何といいましても
国連というのは言うなれば理想主義的なところがございます。もちろん、実際にはそんなものではございませんで、それこそ我利我利の実利、実害に従ってやりとりをしているわけで、決してそんなことじゃございませんけれ
ども、どちらかというと理想主義的なところが普通一般の
現実外交の面よりは、特に各国代表の
演説等を聞いておりますとあるわけでございます。それは一九四六年、ロンドンで開かれた第一回の
国連総会における第一の
国連決議、これが軍縮に関することであったということからもおわかりいただけますとおり、軍縮というものについては
国連は非常に熱を入れているわけです、当然のことなんでございますが。といたしますと、現在
日本がやりますところの
軍事力の増強というのは、現象形態的に申しますならば軍縮に逆行するというようなこと、こういった
三つの
理由が私は
理由じゃなかろうかと思うのでございますが、ともかく
日本の
国連における評判というのは、我々が考えるより余り芳しくない。特にレーガン政権になってからそういう状況になってきたということが言えるかと思います。
さて、
国連なんというのは、もうそんなに重要視する必要はないのだとおっしゃる先生方もおられるかもしれません。しかし、やはり
国連というのは
世界の世論の
一つの集約的に集まるところでございますし、特に
日本を含めて一流国と申しますか、レスペクタブルな国の代表というのは職業
外交官を長いことやって階段を上り詰めた私のようなものがなる。そういう連中が各国に帰りますと、これは何のインフルエンスもない、まことにつまらぬ
存在でございますけれ
ども、これはアメリカは違います。アメリカはポリティカルアポイシティーでございますからちょっと違いますけれ
ども、第三
世界の
国連大使というのを見ますと、これは相当な人物ばかり来ておりまして、外務
大臣を務めたなんというのは本当に何十人もおりますし、中には総理をやったというのも私のときには二人もおりました。またそれから
国連大使で総理になるために本国へ帰るというのもおります。というようなことで、彼らが本国へ帰ってからその国々で世論に及ぼすところの影響というものは決して無視できないという
意味において、
国連における
日本の評判というのはやはり大いに我々は注意しなきゃならないことだと思うわけでございます。
さて、ただいまは外堀を埋めるという
意味でまず
国連のお話を申し上げましたけれ
ども、
国連の場以外にでも
日本の
世界各国における評判というのは皆、先生方御承知のとおりまことによろしくない。数年前のことでございますけれ
ども、稲山ミッションがヨーロッパに訪欧使節でもっておいでになったときは、面と向かって向こうの代表が稲山さんに、今仮に
日本とソ連が
世界からなくなったということになれば我々は非常に楽しいのだがということを、まあ冗談だったのかどうか存じませんが、少なくともそういうことを言った。また、オランダのある有力な新聞の社説で、今、本日、
日本が、小松左京じゃございませんけれ
ども、途端に沈没したと言ってもだれも嘆き悲しむ者はいないであろうというようなことを社説で堂々と述べる。
非常に評判が悪いのでございますが、その評判の悪い
理由というのは、国際責任といいますか、
軍事力の増強による国際責任の遂行ということが実は
理由になっていないのでございます。今の二つのあれも、すべては
日本の閉鎖
社会といいますか、
経済活動における閉鎖
社会という点が非常に大きく
理由となって掲げられているようでございます。
さてそこで、これは国際一般
社会の風評でございますが、アメリカ自体はどうなんだということ。これは今のアメリカ
政府から来ているところの要請から当然わかるじゃないかとあるいは先生方おっしゃるかもしれませんが、そこが私もよくわからないのでございます。なぜかアメリカ全体のといいますか、アメリカは何分にも五十州もございますので、そこにおける一般世論と大分かけ離れておる。アメリカ
政府が
日本にとってきているところの態度と大部変わっているということが、これは四年間の在勤の間に私は大体八〇%、五十州のうち四十州の各地を
演説して回ったんでございますけれ
ども、アメリカで
演説する場合には大体三十分、あとの三十分ないしはあるいはもっとふえて四十分ぐらいになってしまうのでございますが、質疑応答になるのでございます。その質疑応答のときに、
日本は安保ただ乗りをやっているといった質問は、全然なかったと言えばうそになります。しかし、まことにりょうりょうたるものでございまして、非難攻撃されるのは
日本の
経済面における閉鎖
社会ということだけでございまして、その点非常にちょっとそごがあるといいますか、ワシントンから聞こえてくるところの声と違うということを私は非常に感じたのでございます。
それを外務省あたりで申しますと、いや、それは、おまえがアメリカじゅうを講演して回ったスポンサーになったのは――主としてはそのスポンサーなんでございます、もう八、九〇%このスポンサーが金を出して私は行ったわけでございますが、UNウィー・ビリーブという団体なんでございます。我らが信頼するUNという団体がスポンサーして私をあちこち連れて回ったんでございますので、各地における集まった連中が
国連協会のメンバーとかそういうものだろうということを言われるわけでございます。そうじゃなしに、各地、各州のそういった小さな町も随分参りました。もちろん
国連協会のメンバーも出ていないわけじゃございませんけれ
ども、主として
出席しているのは市長さんでありあるいはそこの主たるビジネスマンであり、要するにその市、町の有識者であり、指導階級の方々でありまして、決して
国連というものに普通の人が抱いているよりも以上の信頼というか、あれを持っているような人だけの集まりではございません。そういった
意味で本当の世論の一部といいますか一端を見ることができると私は考えておったんでございますけれ
ども、そういう場所で全然なかったと言えばうそになりますけれ
ども、非常にりょうりょうたるものであったということを申し上げたいと思うのでございます。
彼らは、今、
日本のとっている平和憲法に基づくところの平和主義
外交というのは非常にうまいことをやっている、実はアメリカもそうなってほしいのだけれ
ども、そうはなかなかいかないのが現状だというような言い方。本当にそういうような
意見の開陳が多かったのでございまして、早い話、そういった市井の一般の方々の世論もさることながら、有識者といいますか、有力なる政界の方々あるいは指導者に属する方々でも、現在のレーガン政権の行き方に非常に批判的な声が大きいということは諸先生御存じのとおりでございます。
例えば、今ギャング・オブ・フォーというのがおります。ギャング・オブ・フォーというのは、中国の
文化大革命のときに四人組というのがおりましたね、それになぞらえまして、今アメリカの良識ある方々ということになっているわけなんでございます。ロバート・マクナマラ、これはかつての国防長官を務めた方ですね、それから
世界銀行の総裁もやった。それからマクジョージ・バンディ、これは歴代大統領の
国家安全保障に関する補佐官でございました。それからもう一人はジョージ・ケナン、これはもう諸先生御存じの
世界最高のソ連
専門家といいますかソ連
研究家。ソ連の大使も長くやっておられまして、若いときにソ連に留学をされて、それ以来ずっとソ連の
専門家として有名な方でございます。それにもう一人はジェラード・スミス、これは軍縮大使。といいましても、私が軍縮大使をやっておりましたジュネーブの軍縮
委員会、そんなものじゃございませんで、米ソの最も重要な軍縮交渉のアメリカ代表を長く務められた方でございます。この四万がギャング・オブ・フォーと実はアメリカで呼ばれているのでございますが、非常にレーガン政権の批判をやっているわけでございます。
例えばマクナマラ、これはかって風防長官
時代にはコンピューターというあだ名を得られたほど頭脳の明断な方なんでございますが、この方は明確におととしの何月でございましたか言っておられます。現在
日本に
軍事力の増強を要請することは
日本のためにもならぬしアメリカのためにもならぬ、それよりは日米両方の共通の利益を最も増進するものは、
日本が
国際社会においてもっともっと非軍事的面での貢献をしてもらうことである、こういうことを言っておられます。
また、先ほど実は五十嵐先生とあそこでちょっと話し合ったときに申し上げたんでございますが、この六月にサンフランシスコで
国連憲章署名四十周年記念がございまして、私、
日本から招かれまして講演とそれからパネルディスカッションに参加させていただいたんです。そのときに実は質問がありまして、それをよせばよいのにモデレーターは私に指名いたしまして、しまったと思ったんでございますが、それは今レーガン大統領がえらい熱を入れておりますSDIについて
日本はどう思うかという質問でございました。
これは下手なこと言ったらとっちめられるだろうと内心戦々恐々として、しかし、良心に従って自分の考えを述べざるを得ませんので、自分はここに出ているけれ
ども日本政府の代表じゃない、しかも、そういった非常に戦略的なことは
専門家でもないのでよくわからぬけれ
ども、伝えられるところを極めて常識的に考えてみても、SDIというのは、やっぱり敵方から打ち込んでこられるところのミサイルを宇宙で撃破してしまうということになりますと、これが一般に言われておりますとおりとてもとても
実現までには時間がありますでしょうけれ
ども、実際にそういうことになったといたしますならば、これはアメリカとしては自分だけ安全で、それで報復のおそれなしに第一撃を加えることができるということになるわけでございますから、ソ連としてはそんなことに合意できるはずはないのでございますと。
したがいまして、そこの場所に実はトリアノフスキーじゃなかったんですが次席のソ連大使がいたので非常に言いにくかったんでございますが、私ははっきりと、今のアメリカの
先端技術のまたその
先端をいくSDI、こういった
技術の面においてソ連はもうはるかに劣っているので、もし万一アメリカがこのSDIを強行するということになったら、ソ連としてはもちろんSDIに対抗するSDI的なものを
研究開発するでございましょうけれ
ども、それより先にまず攻撃用のミサイルを、その方がやさしゅうございますので、つくるということに相ならざるを得ないだろうと。これはもう軍拡ということにならざるを得ない、これた、仮にSDIが本当にワークして、宇宙でもってパカンと相手のミサイルをやってしまうということになったら、これはやはり核兵器同士の衝突でございますので、本当の
核戦争のときと同じように今言われております核の冬ですか、こういうことになって、
地球上は汚染されるということで
核戦争と同じじゃないかというようなことを、実は戦々恐々として私は自分の個人的
意見だということを冒頭に申してそれを言いましたところが、これはもう満場の拍手喝采を受けまして、私はちょっと妙な感じになったんでございます。
もっとも、この場合は
国連憲章のサインの四十周年記念でございますので、
国連というものについての感じが一般の市井の方々よりはあるいは平和主義的あるいは理想主義的な方々が多かったと思います、このサンフランシスコの
会議は。私が講演して回ったときと大分聴衆の質は違うと思います。しかし、中には恐らく反発してくる者がいるかと私はおそれておったんでございますが、そうでなかった。
これなんかも、今、アメリカ
政府のといいますか、レーガン
政府からの要請とどうも平仄が合わないような気がいたしますので、どうしてそうなるのかということを私なりに推測してみますと、
日本に非常に激しい執拗な
軍事力要請をしてきている。もちろん、インバランスの問題もひっかかっておりますけれ
ども、このワシントンが特にひどいのでございます。その
理由を私なりに推測してみますと、
一つの議会の雰囲気といいますか、議員心理というものが働いている。
そこら辺はそれこそ先生方にお聞きしたいと思うところなんでございますけれ
ども、今アメリカの議会で
日本をかばうということは、何かはばかられる空気があるのでございます。というのは、来年選挙がございますので、あの議員候補は
日本に甘いと言われることは、どう考えてもその議員さんにとっては間尺に合わないというような気持ちが働く。したがって、
日本が今
軍事力の増強をすることには釈然としない議員さんも、どうもそういった議員心理といいますか、議会の雰囲気にのまれて、コングレスの声といいますか、アメリカ
政府あるいはレーガン政権の声として出てくるものが今申し上げたようなことになるのじゃないかと私は考えるわけでございます。それ以外にも随分、私は良識と言いますが、人によっては良識じゃないと言われるが、とにかくレーガン政権と違う
意見を述べる有識者がたくさんいるわけでございます。
「原子力科学者月報」ですか、これの最近号でございますが、それに、先生方御承知と思いますけれ
ども、歴代の米国大統領の科学
関係のアドバイザーを務めましたジェローム・ウイズナーというのが書いております。これは後ほど時間がありましたら申し上げたいと思いますけれ
ども、アイゼンハワーの離任
演説にありましたとおり、軍産複合体からのプレッシャーというのが非常に多いのでございます。このウイズナーが今度書いておりますのは、今のアメリカ国民をこの軍産複合体のプレッシャーから救うというような
時代ではもはやなくなった、もっとひどいのだと。トータルイン ミリタリー カルチャー、要するに全面的に
軍事力といいますか、軍事的な
文化からアメリカ国民を救うということがただいまの問題であるというような強烈な書き方をしている。これはウイズナー、かつての大統領補佐官がそういうことを言っているのでございます。
それから、ちょっとど忘れいたしまして平仄は違うかもしれませんけれ
ども、例えばフルブライト前の上院議員は非常にいいことを先年言っておられました。今の
世界において偉大な国として尊敬されるためには、
軍事力によらず、非軍事的な
手段でそういった国になり得る資格と
能力を持っているのは
日本だということを、これは数回あの方はあちこちの
演説で言って回っておられますけれ
ども、私はこれなどは非常に拝聴すべき
意見でなかろうかと思うわけでございます。
ということで、今、
日本のやっております
政策に対するところの
国連内での風評、それから各
世界における風評、特にアメリカ自体における世論の動向というものが、どうもアメリカ
政府のあれと必ずしも平仄が合っていないということを実は申し上げたわけでございます。
そこで、なぜ一体そうなっているのか、レーガン政権の
政策が今のようになっているのかということは、これはもうここで繰り返すまでもございませんで、要するに力の信奉者であるところのソ連と対決していくためには、こちらも力を持たなければならないということで軍備の拡張に努める。そうしてこちらの主張を通すには、まずその軍備拡張に努めるということでございますが、ソ連の側にしても当然のことでございまして、これし対抗する。非難の応酬はますます声高になっていく。こういった状況において、軍縮ということを考えることは、これは到底不可能なことでございます。と申しますのは、どちらか一方が譲歩をする、あるいは妥協をするということは、とりもなおさず自分の弱味を認めるという証拠にほかならないということになるわけでございますから、これはもう到底できぬ相談である。
もう
一つは、力の均衡、抑止力の均衡ということが盛んに言われます。第二次大戦が終わりましてから四十年間にわたってとにかく大きな
戦争はなかったということは、考えようによっては確かに抑止力の均衡があったことは歪みがたい事実でございます。しかし、これはある一定限度を越えてしまって、ただいまではとにかく広島型で言いますならば八十万発の核兵器があるそうでございますが、オーバーキル、過剰殺りくの段階になっている。先ほど申しましたジョージ・ケナンなどは、その点を非常についているわけでございまして、一番最近の著書の中で言っているそうでございますが、私は不勉強でまだ読んでおりませんで、孫引きでございますけれ
ども、とにかく相手国を何回も
破壊し尽くすだけの核兵器を持っておりながら、一発でも相手国よりこれを多く持つことが
安全保障に寄与するのだといった発想自体が全くの錯覚であるというような言い方をしておられます。私はまことにそのとおりだと思うわけでございます。
抑止力の均衡ということを申す以上、これは長靴の泥みたいなものでございまして、どんどんエスカレートしていく。行き着く先は限りなき軍拡のエスカレーションだ。これは今までの米ソ間の軍縮交渉の成り行きを見てもおわかりになるとおりでございまして、この抑止力の均衡、力の均衡ということを言っている限り、とても軍縮ということは望みがたい事実だと思うのでございます。
したがいまして、これも先生方御存じのとおり、パルメ
委員会というものが往年設けられまして、このパルメさんというのはスウェーデンの、現在また再び総理になっておられますが、軍縮と
安全保障に関する独立
委員会というものをつくられました。これは単に学者のみならず、実務家、それから政治家の方々も、
世界じゅうの有能な政治家の方々を網羅したところの
委員会でございますが、それが結局結論として出しましたのは、この核の
時代においては、とにかく新しい
世界観に基づくべきで、今までは敵方に対抗してやってきたんだけれ
ども、その敵方に対抗してではなく、敵方と一緒になって、共同して共通の
安全保障を図らなければならない
時代になっているということを言っている。
これも実際問題となりますと、確かに理屈はそのとおりでございますが、なかなか面倒でございます。しかし、その核の均衡といいますか、抑止力の均衡ということではできないのだということを論破した点において私は非常に高く評価しているのでございます。
さてそこで、そういった理論づけといいますか、ができるわけでございますが、もっと端的に考えますと、アメリカの側においてもソ連の側においても、
社会構造的に軍事
努力の増強ということに利益を見出す
グループがいるということが最大の軍縮交渉がいかない
理由じゃなかろうかと思うわけでございます。これにつきましては、かの有名なアイゼンハワーの離任
演説がございまして、これは先生方十分御存じのことだと思いますけれ
ども、大変重要なことで、現在ますますそういった状況がひどくなってきておりますから、あえてもう一回繰り返さしていただきまして、
皆様の御記憶を新たにしたいと思うのでございます。
アイゼンハワー大統領が離任するに当たりまして、恒例に従いまして、上下両院の合同
会議におきまして
演説をなさいました。その中で、実は自分が大統領を引き受けた最大の
理由というのは、軍縮を何としてもなし遂げたかったから引き受けたんだ、しかし、今、八年の任期が終わるに当たって自分が考えるに、全く失敗をした、自分が軍縮をそれほど心がけたと言うと皆さんはおかしな顔をするかもしれない、なぜならば、自分は軍人の出身である、しかし、軍人の出身であるがゆえに自分は何としてもこの軍縮をやり遂げたかったんだと。これに失敗した
理由というのは、二つのプレッシャー
グループ、圧力団体からの圧力がこれほど強いということは自分は知らなかった、そして、自分はその圧力に負けたんだ、その圧力団体というのは、
一つにはミリタリー・インダストリアル・コンプレックス、軍産複合体であり、もう
一つはサイエンティフィック・テクノロジカル・エリート、要するに
科学技術のエリート陣営、これからのプレッシャーがこれほど強いものだとは思わなかった、これのプレッシャーに実は自分は負けた、したがって、軍縮に失敗したということを言われた。
これは十分御承知のとおりでございますが、この状況は、私は現在ますますひどくなっているのじゃなかろうかと思うわけでございまして、今度のSDI
一つとってみましても、何でレーガン大統領があれほどこれに執着するかというのは、やはりこの二つのプレッシャー
グループからのSDIにかける熱意といいますか、彼らは軍拡に利益を見出すと申しましたが、決して私利私欲に基づいて言っているわけじゃなしに、心底信じているわけなんでございます。したがってそれだけにかえってやりにくいというか、反対しにくいわけでございますが、それが現在非常に当時よりももっとひどくなっているという、こういった
社会構造的なものがあると思うのでございます。
そこで、お話が大分あっちに飛びこっちに飛び申しわけございませんけれ
ども、
日本といたしましては、冒頭に申し上げましたとおり、自律的に一体どうするのが本当の
日本の国際責任を遂行する方途であるかということをひとつ十分に考えて、
日本は
日本なりの行き方でいくべきでなかろうかと思うわけでございます。防衛
政策一つとってみましても、
日本の防衛は平和憲法のもとで、専守防衛、非核三原則、
武器輸出の抑制といった、要するに小
規模かつ限定された侵略に対抗して国土を守る、国土防衛ということが
日本の防衛
政策でございまして、これはやはりアメリカのように、
世界戦略上ソ連に対して軍事優位を確保するというのとは大分話が違うわけでございまして、
日本には
日本の行き方があるわけでございます。したがいまして、一部には
日本の現在の平和憲法を制約であるとか、足かせであるとか、あるいは負い目であると感ずる向きもあるようでございますが、私はそうは考えておりません。これはやはり我が国の平和憲法というのは、
日本が二十一世紀以後における民族
国家のあり方を先取りしたものだというくらいの矜持を持ってしかるべきだと思うのでございます。
こういうことを私実は申し上げますと、外務省のごく一部でございますが、先輩から、おまえは一体四十三年間も職業
外交官をやっておって、そんなナイーブな、素朴な理想主義的なことを言って回って、少しおかしいのじゃないかというおしかりをこうむるのでございますが、私は私の信念に基づいてそういうことを言って回っておるのでございます。実はジュネーブにおける軍縮大使として、あるいはニューヨークにおける
国連大使として訓令がございますので、心ならずも先ほどの均衡論というようなことをぶっておったわけでございますが、ただいまは私、北は北海道から南は九州まで、お求めがあればどこへでも薄謝に甘んじまして出かけましてこういうお話を申し上げておりますのは、実は罪滅ぼしのつもりでやっておるわけでございます。
ということで、
日本の行くべき姿というのは、やはり先ほど申しましたフルブライトさんじゃございませんけれ
ども、軍事
努力というよりは非軍事的な面で大いに国際責任を遂行していくということが平和憲法の精神でもありましょうし、また、素朴な国民の平和志向的な国民意識に素直に従っていくということの方がだれからも非難攻撃を受けない。先ほど来申し上げておりました外堀を埋めるといいますか、
国連あるいはそれ以外の各国における反響というものを見ましても、早い話――ちょっともうあと二、三分お願いいたします。
国連に関してせっかくの
機会でもございますから申し上げさせていただきますが、
平和維持機構PKOですね、ピース・キーピング・オペレーション、これは恐らくは
緒方先生あたりからお話があったんじゃないかと思いますけれ
ども、
日本は金、物の面では大いに貢献しておりますが、人はどうしても出せない。自衛隊の海外派遣につながるというような議論もあるようでございますが、これはまことにおかしな議論でございまして、国際的に申しますならば、
日本が今自衛隊を
平和維持機構に派遣するということになりましても、どこからも非難攻撃を受けません。これは賞讃されこそすれ非難攻撃を受けない。ただこれは全く
日本の国内問題でございます。
したがいまして、国際的には、
日本は平和憲法に籍口して人を出さないということになっております。これはもっと手近な例を申し上げますと、例えば、一千海里海上路の防衛ということを言いましたときに、
日本と意思疎通が非常によろしいASEANの
諸国、フィリピン、インドネシア、マレーシア、そこら辺の首脳者が直ちに懸念を表明し、危惧を表明したのとは違いまして、
日本の自衛隊を派遣いたしましても、どこからも非難攻撃は受けません。そうして、しかもそれは私をして言わさせていただきますならば、平和憲法の精神に沿ったものでありこそすれ、憲法のどこにもそんなことは書いていないのでございまして、これはまことに平和憲法に籍口してあれしているのでございますから、何としてもこの点は全くの国内問題でございますので、前向きに御検討いただければ非常にありがたいと思います。
これは、もっと直截に申しますならば、
国連における
日本の風評を上げる
意味においても大いに貢献するところだろうと思いますので、特にこの点せっかくの
機会でもございますからお話し申し上げました。
準備もしないで参りまして、勝手気ままな自由奔放にお話を申し上げましたので、あっちへ飛びこっちへ飛びで大変申しわけございませんでしたが、時間が参りましたのでここでとめまして、あとは御質問がございましたらそれにお答えをするという形で私の考えているところをお話し申し上げたいと存じます。
大変ありがとうございました。