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1985-11-27 第103回国会 参議院 外交・総合安全保障に関する調査特別委員会外交問題小委員会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十年十一月二十七日(水曜日)    午後一時二分開会     ――――――――――――― 昭和六十年十月十八日外交総合安全保障に関す る調査特別委員長において本小委員を左のとおり 指名した。                 石井 一二君                 大木  浩君                 大鷹 淑子君                 鳩山威一郎君                 宮澤  弘君                 久保田真苗君                 佐藤 三吾君                 和田 教美君                 立木  洋君                 田  英夫君 同日外交総合安全保障に関する調査特別委員長 は左の者を小委員長に指名した。                 大木  浩君     ―――――――――――――    小委員の異動  十一月十九日     辞任          立木  洋君  十一月二十七日     補欠選任        立木  洋君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     小委員長        大木  浩君     小委員                 石井 一二君                 宮澤  弘君                 久保田真苗君                 佐藤 三吾君                 和田 教美君                 立木  洋君                 田  英夫君        外交総合安全        保障に関する調        査特別委員長   植木 光教君    小委員外委員                 高平 公文君                 大木 正吾君                 中西 珠子君    事務局側        常任委員会専門        員        山本 義彰君    参考人        国際連合大学学        長       スジャトモコ君            (通訳 池田  薫君)        上智大学教授   緒方 貞子君        前国際連合日本        政府代表部特命        全権大使     西堀 正弘君        東京大学教授   五十嵐武士君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○参考人出席要求に関する件 ○外交問題に関する調査  (国際平和年日本外交に関する件)     ―――――――――――――
  2. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) ただいまから外交総合安全保障に関する調査特別委員会外交問題小委員会を開会いたします。  一言あいさつを申し上げます。  私、このたび外交問題小委員長に再び選任されました。小委員会運営につきましては円満公正に行ってまいりたいと思います。皆様の御協力をお願いいたします。     ―――――――――――――
  3. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  外交問題に関する調査のため、必要に応じ参考人出席を求めたいと存じますが、御異議ごさいませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) 御異議ないと認めます。  その人選等については、これを小委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ―――――――――――――
  6. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) 外交問題に関する調査のうち、国際平和年日本外交に関する件を議題といたします。  本日は、国際平和年日本外交について参考人から意見を聴取いたします。  参考人として国際連合大学学長スジャトモコ君及び上智大学教授緒方貞子君に御出席いただきます。なお、通訳池田薫君でございます。よろしくお願いいたします。  この際、参考人の方々に一言あいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ、本小委員会に御出席いただきましてまことにありがとうございます。本日は、国際平和年日本外交につきまして忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  次に、会議の進め方について申し上げます。  最初に参考人に御意見をお述べいただき、その後小委員からの質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  それでは、スジャトモコ参考人にお願いいたします。
  7. スジャトモコ

    参考人スジャトモコ君) (池田薫通訳) 大木委員長初め参議院の議員の皆様、また御来席の皆様、まず、国際平和と日本外交というテーマのもとに開催されております当審議に発言する機会を与えてくださり、どうもありがとうございます。  当委員会がこのテーマを重要視なさっていること、また全般的に日本政府国際情勢の平和的な運営管理関心を寄せられていることに感銘を受けております。なぜなら、日本の繁栄は明らかに他の主要大国に比べユニークなほど国際的な相互依存体制がスムーズかつ協力的に機能することにかかっているからであります。本日当委員会がこのテーマを取り上げられたことは、確固たる現実を認識なさっているゆえと考えております。  私は国際公務員でございますので、その立場上値の国の内政問題に口を挟むということは適当ではございませんし、またそうするつもりもございません。現在の世の中での平和の前提となるものは何なのか。また、平和に通じる手はず、アレンジメントはどのようなものがあるのか。あくまでも個人的な意見、考えを述べることができるということだけであります。もちろん、私の所属する国際連合は平和を主要な目的かつ最大の任務としております。  国連事務総長が最も最近国連総会に提出いたしました報告の中で、国際的な無政府状態に陥る危険があると指摘しており、私たちが直面している諸問題が一見解決不可能のように見受けられ、多くの者が困惑していると述べております。ファナティシズム、狂信的行為がさまざまな形で蔓延している以上、また、武器が容易に入手できるようになったことも手伝い、国際的な政治面では暴力行為の激しさが度を増しております。  疑いなく、世界はすべての人々国家にとって一層危険な場所になっております。デタント緊張緩和が悪化したため、超大国間の対立がより間近に迫ったものになっております。先般のジュネーブでの米ソ首脳会談でこの危機から一歩後退することができたかもしれませんが、依然緊張の度合いは危険なほど高まっております。  大規模核戦争がもたらす長期的な影響、いわゆる核の冬につきましては、まだ完全にわかっているわけではございませんが、理解は広まっており、超大国の軍事的な対決は今日の文明の終末を意味すると察するに十分であります。だからこそ、世界のすべての国々はデタント復活させ、弱々しいまでもこれまで第三次世界大戦勃発を食いとめてまいりました諸機構維持させるべく、直接かつ身近なこととして関心を示すべきであります。  核の破壊による脅威に圧倒される余り、その他の問題がかすみがちでありますが、過去四十年の間に何十万人もの人々通常戦争犠牲になっていることも忘れてはなりません。局地戦争が人間に苦しみと破壊という恐るべき犠牲を強要し、レバノン、カンボジアの場合には社会そのものが抹消されてしまいました。よって、平和の維持を核の問題だけから考えるのは誤りではないでしょうか。  個々の国及び国際体制の安全を脅かす要素は何も政治的なものばかりではございません。社会的、経済的な要素も同様にございます。中でも特に重要な点は、少なくとも十億人の人々が今もって極貧の状態で取り残されているという事実であります。  世界経済の低成長はまだ当分続きそうであり、先進国開発途上国双方安全保障脅威となっております。国際的な金融、通貨体制が極めて混乱をしている折、力の強い経済大国は、経済的な優位に立とうと規律を欠いた自滅的な路線に走り、保護主義的な措置為替レートの操作、無責任な財政政策等々を講じております。この間、途上国の多くは、一方では債務増加を抱え、もう一方では国際市場の収縮で板挟みになり、息も絶え絶えのありさまであります。新たな、過酷な経済的な現実に対処すべく、債務国の多くは輸入、生活水準開発計画をぎりぎりまで削減しており、この結果、社会政治的緊張が増大し、安定が重大な脅威にさらされかねません。  国際経済体制混乱政治体制を反映したものであり、かつ相互作用を及ぼしております。私どもは無政府状態に陥りつつあると申し上げても過言ではないでしょう。国家の一方的な措置、テロの横行、大規模な麻薬の密売、また武器の密輸といった法を無視した行動も起こっており、どの政府にも忠誠心を持たず、多くは武装している人たちでありますけれども、こういった人たち政治機構から全く切り離されたところで存在するグループ増加等がそのあらわれであります。  このような状況下での外交チャレンジは並み大抵のものではございません。主要大国にとりまして、戦争は有意義な政策手段として使うには今や余りにも破壊力を持ち過ぎてしまいました。大規模な介入でさえ将来はなくなるのではないかと私は考えております。スエズ、ベトナム、アフガニスタンでも、いかに政治経済に、人的資源という意味犠牲が大きかったか、また高くついてしまったかということは余りにも明白になっているからであります。つまり、現在の紛争、問題の管理に関するチャレンジ外交に帰結するのであります。私たちは、つまり外交を通じてどうすれば私たち自身を破滅させるのを防げるのか、どうすればこの地球上に存在する八十億から百億もの人々と仲良く暮らせるのか、どうすればこれほど大勢の人々を養える、実行可能でしかも生態学的にも健全な経済体制を築くことができるのかなとの答えを見出さなくてはいけません。そのためには技術やコミットメント、政治的意思などとともに、根本的に考え方を変えることも必要になってきます。  この十年間の歴史は、現在の世界が抱える緊急の政治経済問題は、たとえ超大国が取り組む場合であっても、一方的あるいは二国間ベースでの取り組み方では到底解決できないことをはっきりと証明しております。このことをこれほど決定的に証明した時代が、また同時にマルチラテラリズム、すなわち多国間協調主義からの後退で特徴づけられた時代でもあったことは皮肉なことでありますし、悲しいことでもあるかもしれません。  国連は現在、これまでにはなかったほど大国小国双方から批判にさらされております。大国は、今の国連に忠実に反映されていますように、高度に多元的になった世界を思うようにコントロールすることができなくなったため、国連にその責任を押しつけようとしております。小国国連の舞台を利用しまして欲求不満を表現したりレトリックの応酬をしております。しかし、国連は平和と安全を脅かす諸問題の解決を図るための、全世界を包含する話し合いの場としては私たちが持っている唯一のものであります。国連は、事実これまでに常に一貫していつも成功したとは限りませんけれども、私が既に指摘いたしました核兵器、通常戦争経済社会的な混乱三つ脅威も含めまして、この急激に変化して荒れ狂う世界が生み出す難問と取り組んでまいりました。  国連では、大国の無関心さと小国の声の甲高さとの間の対立が生じたため、現実危機が発生しております。しかし、この危機の中にも新たな機会存在するということがようやく明らかになってきたのではないかと私は考えております。国連中枢部真空状態ができたことは、例えば日本を初めヨーロッパの一部の諸国、それに大きくて有力な途上国などの主要な中大国マルチラテラリズムを生き返らせる上で重大な役割を演じる機会をつくり出しているのです。このような主要中大国は、超大国のそれとは異なる重要な国際的利害を持っております。これらの諸国は、一方的あるいは二国間ベースでの行動の範囲も限定されていること、多極的な世界では二国間主義にも限界があるということを承知しております。しかも、これらの諸国は健全な国際的なシステム存在に特に依存しているのです。つまり、多数国が参加する効果的な機構に特にその存在がかかっているのであります。  しかし、マルチラテラリズム復活を望むこれらの諸国は、これには実は特別の外交的な技術を必要とするということを認識しておかねばなりません。これは単に二国間ベース関係を積み重ねただけのものではないのです。多角的な外交はそうではなく、それ自体の規則やそれなり考え方、時間の枠、力学、制度的な機構、交渉のテクニックなどを持っておりますし、少なくともそれを必要としております。こうした条件は現在はまだまだ到底整っているとは申せません。これをつくり上げるためには革新的な外交上の努力を入念に積み重ねる必要があります。  私は、相互依存という現実を受け入れた多角的な外交をよみがえらせることができるかもしれない国としては、日本こそ最も重要な国の一つだと考えるものでありますが、そのことは皆様方にもおわかりだと思います。そう考えるのには幾つかの理由がございます。日本は主要中大国の中でもずば抜けて経済的に強力な国です。日本はまた西欧の国ではなく、アジアの古来からの文明と深いつながりを持っている上、西欧先進工業諸国とも経済的、技術的に親密な関係を持っています。日本は、ですから近代的な工業諸国途上国の橋渡しができる他に比類のない立場にあるのです。これは世界的な変化の時代、大きくて強力な国の利害も小さな新興諸国利害と不可分に絡み合っている時代においては、まことに重要な役割であります。  日本近代化チャレンジに速やかに、しかも創造的に対応できたのは、日本社会均質性によるものであると考えます。日本はおかけで文化的な断絶や社会的な分裂を経験することもなく大きく飛躍することができました。ですが、成功を伴った均質性には他の社会や他の民族に対する感受性が低下するという危険がつきまといます。他国のニーズや願望に対する鋭い感受性はこの上ない外交上の資源でありまして、これは意識的に培う価値があります。この感受性に欠けることは外交的なハンディキャップとなるばかりでなく、指導力を発揮する上での障害ともなりますし、歴史的な疑惑の念や緊張を存続させる原因ともなってくるでしょう。  私は、歴史の現時点は、主要中大国がその力を利用して多角的な枠組みの中で新たな指導力を発揮する機会を秘めていると信じております。かつてのような指導力はつまり利己主義による支配や軍事力、また協調関係ではなく競争関係に基づくような指導力機能しなくなった上、非常に危険であることが証明されているからです。軍事能力の向上にも厳重な制限を設けている日本にとっては、このような新しい種類の指導力のあり方や方向が特に重要な意味を持っています。  では、主要中大国はどうすれば軍事力に頼らなくてもより安全な国際関係をつくり出すことができるのでしょうか。その中でも最も強力な国はどうすればその経済力技術的な能力外交的な力に振りかえることができるのでしょうか。アメリカのセオドア・ルーズベルト大統領がかつて、言葉はやわらかくして大きなむちを振るえと勧めたことがあります。しかし、現在必要な処方せんは、言葉をやわらかくした上に大きなニンジンもしくはあめを示すことではないでしょうか。つまりおどしをかけるのではなく、そうしたいというインセンティブ、奨励策を提供するのです。その奨励策とは経済的、政治的、社会的な分野での協力関係がもたらす恩恵のことです。まして基礎科学先端技術などの分野指導力を発揮できる能力を持つ国ならば、他の諸国協力する用意がありさえすればより一層その外交的な効果を高めることができるでしょう。  主要中大国は、それだけではなく、平和に必要な社会構造とでも申しましょうか、そうした体系を築くのに重要な役割を演じることができます。これは、例えば集団安全保障開発に必要な地域的な取り決め防衛用の兵器の共回生産、原子力発電所共同査察軍事計画戦略的評価の共有などといった信頼醸成措置を基盤とする社会構造のことであります。また、経済政策を一致させることも長期的には協力を成功させる条件となってくることでしょう。協力のための取り決めには国連枠組みの中での実施が最適なものもある。でしょうし、またそれとは逆に国連の外での方がより効果的に実現できるものもあるかもしれません。  国連平和維持活動は、抑制できないほどエスカレートする危険をはらんだ紛争幾つかを抑える安全弁としての役割を果たしてまいりました。しかし、有力な加盟国グループの広い支持が集まりさえすれば、この平和維持機能紛争の拡大を阻止するためのさらに重要なメカニズムに発展させることができます。科学技術先端を行く国ならば、例えば紛争地域を監視する通信監視用人工衛星システムをつくってはどうかという提案を復活させ、その実現に必要な第一歩を踏み出すことにより、平和維持に必要な技術的な下部構造、インフラストラクチャーの建設に貢献することができるでありましょう。  平和維持には機構的、技術的な側面も重要ではございますが、人的な側面もやはり無視することはできません。外交は最近ではしばしば、もはや失われた技術などと形容されております。もちろん、このように複雑で多極化した世界で必要とされる外交は、自然発生的に生まれてくることが期待できるような技術あるいは芸術ではあり得ません。国際的なシステム機能を高めたいと願う諸国は、みずから進んで紛争解決やそのための機構づくりに秀でた専門家の育成に努めねばなりません。  このような専門家は生まれるものではなく、訓練によってつくられるもので、その国ばかりではなく国際社会全体にとって大事な資源となります。彼らには幅広い外交的な手腕が要求されるばかりでなく、核戦略から開発経済に至る多様な専門知識が要求されます。異なる文化についての理解もまた不可欠の手段となることでしょう。また、この時代外交官にはとりわけ地域的あるいは国家的なものと国際的なものとの相互関係、または経済的、生態学的、技術的なものと社会学的なものとの相互関係安全保障上の利害関係開発面での利害関係の間の相互関係などと見合って、これに基づいて行動する能力が必要となってきます。  平和と安全を強化するための努力においては、開発についての考慮もまた戦略的、軍事的な利害関係にも劣らない重要性を発揮します。開発途上国での紛争の多くには政治的、生態学的、そして経済的な不安定の悪循環が絡んでおります。この悪循環を何とか断ち切らないことには、最近では私たちもすっかり見なれてしまったような戦争や飢餓、それに大量の国外脱出などの危機が発生してしまいます。このような大惨事の犠牲者、特に難民たちを救うことは国際協力の重要な課題一つでございますが、私たちはそれにも増して、このような危機の再発を予期し防止するためにはどうすればいいのかを学ぶ必要があります。  世界的な大国としての日本復活はまことに急速でした。しかし、日本の力の増大とその経済力技術力、戦略的な立場と知的な資源などにふさわしい指導的な役割を引き受けるまでの間には幾分かの時間的なずれがあります。現在は既に述べましたように、一部の大国マルチラテラリズムから後退している時期でございますが、このような流れはぜひとも逆転させなければなりません。日本には独特の長所と弱点がありますだけに、国連システムあるいはその他の多角的な機構を通じて、国際協力を活性化するために他の諸国と力を合わせながら大きな役割を演じることができます。  安倍外務大臣が去る九月の国連第四十回総会で行われました演説は、国連システムの保全を願う日本の真剣な態度と、このシステムを効率的、効果的に機能させるためには困難ではあっても必要な手段をとろうとする現実的な取り組み方とを物語るものでありました。この演説の中で大臣が提案された国連の効率を高めるための賢人グループ設置案が、他の加盟諸国の熱心な支持を集めることを私は心から期待しております。  日本は、ユネスコから一部の加盟国が脱退し、あるいは脱退をほのめかしている現状においても慎重に独自の立場をとっておいでのように見受けられますが、これもまた日本国連システムをいかに重要視なさっているかを示すものでありましょう。もちろん、日本はさらに国連がイニシアチブをとったもう一つ分野におきましても重大な役割を演じられております。私が特にこの点を強調いたします理由はおわかりかと存じますが、それはすなわち国連大学設置についてであります。  私がこの席で述べてまいりましたような地球外交には、地球的規模の諸問題やその総合関係の徹底的な研究が必要でございます。それにはまた新たに登場する地球的規模の問題を冷静にイデオロギーとは無関係に検討する独自の討論の場や、イデオロギー文化の違いを越えて異なる意見を表明できる場、さまざまな国の人々が抱いている意見をぶっつけ合える場も必要になります。  国連大学は、それなり地球的規模の問題の学究的な研究と異なる意見を発表できる場の両方を兼ね備えております。私どもは今や世界的な研究ネットワークを確立いたしましたし、地球規模の問題の研究についてもかなりの成果をおさめておりますので、これからはますますその設置にこれほど大きな役割を果たされた日本にとっても、また国連のその他の加盟諸国政府と国民、さらに国連そのものにとりましても、情報と知識の重要な供給源として理解していただけることを期待しております。  御清聴ありがとうございました。
  8. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) スジャトモコ参考人、どうもありがとうございました。  次に、緒方参考人にお願いいたします。
  9. 緒方貞子

    参考人緒方貞子君) 本日は、この外交問題小委員会参考人として出席させていただきまして大変ありがとうございました。  私は、国連平和維持機能について集中的にお話し申し上げたいと思っております。  実は、来年が国際平和年であるということが決まったということを聞きましたときに、私は大変驚きましたし、何か泣きたいような気がいたしました。と申しますのは、国連は本来平和のためにできました機関で、国連殊さら平和年を設けなければならないということに非常な矛盾を感じたからでございます。国連としては毎年、毎月、毎日、毎秒平和のことをやってほしいというのが私の願いでございまして、平和年機会に、より平和に対して貢献できる機関にどうやって持っていくかということが私ども課題ではないかというふうに考えております。  きょうは、国連平和維持機能構想、それから、それがどのように実際に発展してきたか、そして現在の課題というものがどういうものであって、日本はどういう面で今後国連を通して、あるいは日本平和外交というものを直接発展させていったらいいかというようなことについてお話し申し上げたいと思います。  国連のできましたときの構想では、世界平和の実現及び確保のために国連加盟国とそれから地域機関三つのレベルで、三者相まって平和を促進するというのが本来の構想であったと思います。国連におきましては集団安全保障、それと紛争平和的解決の促進、加盟国におきましては各国が紛争平和的解決義務を履行する、そして集団安全保障目的とした安全保障理事会の決定を受諾し、かつ履行する、これが加盟国側義務でございました。さらに加えまして、地域間による紛争平和的解決への努力も重要なものとして考えられていたわけでございます。したがって、国連ができましたときから、国連だけが世界の平和を実現するための機関として存在するということはあり得なかったわけでございます。その後、国連を通しての平和の維持と確保というものにはさまざまな問題が出てくるわけでございますが、国連を通じての平和と安全の維持、確保の問題というのは加盟国協力の問題ということと裏腹の関係にあると考えております。  それからもう一点、軍縮と軍備管理についてでございますが、国連は軍備そのものが国際平和を脅かすというような考えに立ってはおりませんでした。少なくともできましたころは、第一次世界大戦の後の体験で、軍備が危険をもたらすのはこれが非平和愛好国の手に落ちたときであるというふうな発想に立っておりました。つまり、ナチの台頭というものは、英仏の軍事力の弱体化というものがドイツの脅威というものを激化したという発想に立ちましたから、国連そのものは軍縮を促進するということを大きな使命として掲げたわけではございませんでした。むしろ考えたのは軍備の管理、規制でございます。もちろん、これは核兵器が出現する前の段階でございましたから、当然核兵器が出現しました後は、国連におきましては核兵器の管理、規制ということが大きな課題になったわけでございます。  こういうことを前提といたしまして、それでは国連平和維持機能というものはどういう形で発展したかということを大変かいつまんで申し上げたいと思います。  まず、集団安全保障につきましてでございますが、これは本来安全保障理事会が、侵略があったときにはこれを認定し、暫定措置というものを勧告し、そしてそれでも侵略がおさまらなかったときに初めて強制措置というものを決定する。そして、この強制措置につきましては、軍事的なものと非軍事的なものというものが考えられたわけでございます。ただし、軍事的な強制措置をするためには、安全保障理事会加盟国との間に特別協定を結びまして、そして国連軍というものを設定いたしまして、これをもって軍事的に強制措置に当たるというのが憲章の構想であったわけでございます。非軍事的な強制措置としては、経済関係あるいは通信、運輸手段の中断というものが考えられました。  これを一体どういう形で実現したかと申しますと、軍事手段を含む集団安全保障というものは朝鮮戦争を除いては一度も発動しておりません。しかも、朝鮮戦争はこの集団安全保障体制の発動ではございましたが、あくまでも軍事的な強制措置ではなくて勧告措置であった、それは国連軍がなかったということにも基づいているわけでございます。  ところが、歴史的に考えますと、武力を用いての強制措置というものには非常な無理があったということがこの四十年間に証明されたと思います。それは、よく安全保障理事会が米ソの対立等によって、拒否権の発動によって機能していないということがその大きな理由として挙げられておりますが、実はより基本的な問題としては、近代兵器の発達そのものが武力による侵略の除去というものを非常に難しくしてきたというのが基本的な原因ではないかと私は考えます。つまり、武力を用いて侵略を除去しようといたしますと、結果的には非常に大きな戦争の拡大につながってしまうという矛盾があるわけでございます。  それでは、非強制的な手段、制裁措置というものはどういう形で発揮されたかと申しますと、現在も南アに対する武器禁輸というものが発動されておりまして、守られております。それから南ローデシアに対しましては経済制裁が行われまして、これが結果的にはかなりローデシアの政変、そしてその後のジンバブエの独立というものに寄与したのではないかと考えられております。したがって、経済制裁というものは状況次第ではある種の効果が上げられるというふうに考えたらいいのではないかと私考えております。  それから、第二の国連の大きな平和維持機能の柱として紛争平和的解決というものがあるわけでございますが、これは当然国連加盟国との非常な連携関係によって、主に調停、調査、仲介というような手段を通して紛争解決していくわけでございます。これは非常にはっきりとした華やかな国連独特の手段というようなものではございません。むしろ地道な努力の積み重ねという形をとるわけでございますが、国連に持ち込まれました紛争が百二十五前後あったかと思いますが、そのうち約半数がこの紛争平和的解決努力を通して何らかの形で解決されてきたというのが実績でございます。特に、非植民地化過程につながるさまざまな紛争については、国連はかなりの業績を上げてまいりました。  この紛争平和的解決というものの問題点としては、どれだけ迅速に紛争が起こったときに解決に当たれるか、そのためには事実調査ということが非常に大事なものだと考えられておりますので、せめて事実調査だけでも、紛争が起こりましたらすぐに調査団を出せるような制度ができないだろうかというようなことが考えられてきております。日本国連に対して調査機能の強化ということで提案を出しておりまして、この中身といたしましては、事務総長に大幅な調査機能をゆだねるということ、それから安全保障理事会の拒否権の対象から調査団の事実調査というものは外そうというようなこと、それからもう一つは、事実調査のために安全保障理事会に下部機関設置しようと、これらのことを内容としておりまして、これは支持はかなりあるのでございますが、具体的な制度として実現するというところまでには至っておりません。  現在も国際的な多くの紛争があるわけでございますが、事務総長自身あるいはその代理を通しまして、イラン、イラク、アフガニスタン、ナミビア、キプロス等にも積極的な調査、調停活動というものを続けているわけでございます。それから、国連平和維持機能の三本目の柱として平和維持活動、ピース・キーピング・オペレーションと呼ばれるものについてお話ししたいと思います。  この平和維持活動というものは憲章の中に全くうたわれておりません。これはむしろ紛争平和的解決側面から促すために限定的な軍事手段を用いるという非常に独創的な国連のもとで開発された機能でございます。これは強制措置を伴う集団安全保障とどういうふうに根本的に違うかと申しますと、強制措置ではなくて、あくまで紛争当事国の同意を原則としております。紛争当事国が同意したときにのみ限定的な平和維持軍というものを出すわけでございます。そしてまた、この場合に出します軍隊というものは、休戦、停戦の監視や治安の維持のみにその役割が限定されているというのが通常でございます。これは考え方といたしましては、紛争の当事者の間に軍隊を介在させることによって紛争の再発あるいは拡大を防ぐということでございます。  これがどういう形でそもそもでき上がったかと申しますと、スエズ紛争の際に、このときはイスラエル、イギリス、フランスの軍隊がそれぞれシナイ半島あるいはスエズ地域に出動したわけでございますが、アメリカ及びソ連が両方ともここでの紛争の拡大を望まなかった、また、イギリス、フランスも国内において早く軍隊を撤退させてほしいというような要求が強くあり、そしてまた、フランスとイギリスがどうにか事態を収拾するために第三者の助力というものを求めていたという状況があったのでございます。  この状況に対して、国連が積極的な対応ができるように新しい機能を考えついたのが、実は時の事務総長であったハマーショルドとカナダの外務大臣であったピアソンであったわけでございます。この方たちの考えというのは、国連がただ決議案だけを出す機関、幾ら侵略あるいは紛争についてでも、ただ決議案で撤退せよということを繰り返すだけの機関になっては効果が上がらない、何かこれを裏づけすることが必要であるということを考えまして、決議案というものに加えて非常に限定的な軍隊の出動ということを考えたわけでございます。そして、これによって超大国であった米ソも賛成する、英仏も顔を失わない形で軍隊を撤退するということができるということがございまして、最初の国連緊急軍として六千名がシナイ半島に出されたわけでございます。その後、シナイ半島には二度国連緊急軍が出されましたし、そしてまたキプロスにも現在国連軍が存在している、インド、パキスタンにもまだ非常に小規模でございますが国連軍はいるわけでございます。  こういう国連軍の果たした紛争解決への実績というものは、直ちに紛争解決につながったのではなくても、紛争解決への重要な状況づくりに貢献したという形で非常に高く評価されております。この国連平和維持軍については、監視団という全く数人の将校による純粋の監視活動と、それから今国連緊急軍で見られましたような大隊単位の軍の存在による停戦、休戦の監視という二通りがございます。こういうものができてまいりまして、これが非常に高く評価されているわけでございます。  これがその後何回も、現在レバノンにも出ておりますが、繰り返しこういうものができ上がっていった経過というものをちょっと考えてみたいと思うのでございますが、その努力は、国連からこういう軍を出すということを決定してそれに各国が応じたというだけではなくて、今度は加盟国の側におきましても、紛争が起こりましたときには何とか迅速に平和維持活動に参加できるような準備をしたということが見逃すことができない事実であるというふうに私は考えます。つまり、最初に国連緊急軍がスエズに発動されました後、ハマーショルドが各国に対して、各国において今後こういう事態が起こったときにどうしたらいいだろうか、それに対して役に立つような軍を編成してほしいという要請をいたしましたところから端を発するわけでございます。  これに対しまして、北欧四カ国が共同で四年かけまして北欧待機軍、常に国連に役立っために待機しているということでスタンドバイフォースと呼ばれておりますが、国連待機軍の制度というものをつくったわけでございます。これは一九六〇年からストックホルムで北欧諸国の国防大臣会議を持ちまして、そして六四年に四千六百名の北欧の四カ国による北欧軍というものをつくったわけでございます。この北欧軍の役割というものは、その後も繰り返し平和維持活動に参加するという形で非常に大きな役割を果たしてまいりました。  それから、その北欧四カ国のほかに中立国でありましたオーストリアも独自の国連のための平和維持活動に参加する軍というものを準備いたしました。オーストリアの場合は、一九五五年に独立を回復しましたときには永世中立国ということで独立を回復したわけでございますが、国連のために何らかの役に立つということが中立国の非常に大きな役割であるというふうに考えまして、憲法を改正いたしまして、国連のために国際機構の要請に基づく海外援助のためのオーストリア部隊の派遣に関する憲法法規というものを採択いたしまして、国連から要請があったときに限って連邦軍を派遣するという制度をとったわけでございます。これは、オーストリアの場合は正規軍の中から志願兵を募って国連に派遣いたしております。  一番純粋な国軍の派遣をいたしておりますのがカナダでございまして、カナダは最初に国連緊急軍を考えましたピアソンの強い指導力もございまして、ピアソンが計画を出しまして、そのピアソン計画というものを受けて国家防衛法に基づいてカナダ軍の一部を国連軍に指定しておりまして、常にカナダにおきましては、国連平和維持活動のためにいつでもどこへでも行ける非常な融通性と機動性を持った軍隊というものが決められております。カナダの場合は国連のすべてのこの種の平和維持活動には、一度だけ西イリアン国連保安隊というのにだけ参加しなかっただけで全部に参加してきております。カナダの国連平和維持活動に対する非常に大きな貢献というものは内外で広く認められていることでございます。  こういう国連平和維持活動というものは、国連がこの四十年の歴史の中で初めてつくり上げてきた新しい平和総持を保つ方法として非常に高く評価されている。今後の国連平和維持に対する役割というものは、私は軍事的な意味での集団安全保障というものはほとんど発動されるチャンスはないのではないかと考えておりますが、経済制裁というものは今後も場合によっては用いられていくかもしれない。しかし、非常に多くの場合は紛争平和的解決、つまり外交交渉、そしてそれを裏づけるための平和維持活動の使用、こういう形で進められていくのではないかというふうに考えております。  最後に、今後の日本平和外交の上で国連平和維持活動への協力はどういうものであるかということについて、全く私見でございますが述べさせていただきたいと思います。  日本も、全般的に申しますと経済協力というようなものを通して、非常に広い意味国連平和維持が可能になるような国際社会のインフラづくりというものに貢献していくことはもちろんのことだと思います。ただ、それにさらに加えまして紛争平和的解決のための外交努力、こういうことにももっともっと今後は大きな役割を果たしていっていただきたいと考えております。  第三に、平和維持活動についてそれではどういうふうにかかわっていくのか。従来日本はこの平和維持活動には一切参加しておりません。それは日本の憲法が、自衛隊の国連軍への参加というものは憲法の精神に治ったものではないかというような考え方が国民に広くあったわけでございます。一応自衛隊の国連軍参加は、国際平和のための協力であって武力行使を伴わないものについてであれば九条の問題ではないというような解釈が成立してきてはおりますが、自衛隊の任務として海外の軍事活動というものは問題があるというふうにされておりますし、また、海外派遣への何らかの突破口になるのではないかというような考え方が世論にございますために、自衛隊の海外派遣ということ、国連平和維持活動への参加というものは、現在までのところこれは日本としてはできないというふうになっております。  私自身は、平和維持活動というものの成立過程、そしてこれの運営の現状等を考えまして、日本がこれに参加することは非常に望ましいものであるというふうに個人としては考えております。ただし私は、この場合日本は、軍事的な領域に直接結びつかないような領域、つまり通信であるとかあるいは医療であるとか兵たんであるとか、こういう領域に限って日本能力を非常に示せるような形でこれに加わっていくことが望ましいというふうに考えております。  自衛隊の派遣というものが世間の世論において非常にこれは望ましくないと考えられているというふうにも見受けられますし、またそういう実態であると考えますので、現在ではむしろ国連協力隊というようなものを新たにつくった方がいいのではないかというふうに考えます。この場合、この国連協力隊の役割というものは、例えば平和維持活動についてでございましたら兵たん部門というようなものについて責任が負えるような形、そしてまた、さらにもう少し広く災害救済であるとか、これは天然災害、人災等両方の場合に役に立てると一番効果的ではないかと思いますが、そういう場合の輸送隊のような役割を果たせるものと併用できれば一番望ましいのではないかと思うのでございます。  北欧軍の場合でもあるいはカナダの場合でも、自分の国が一番できるという領域を自分たちで設定して、そして国連への協力体制をつくってきた。その上に国連平和維持機能というものは強化されてきたということを考えますと、日本も自分の一番強い領域で、そしてできる限りの領域で国連協力するようなこと、協力隊というようなものをつくるのが一番望ましいのではないか、そしてそれが今後の課題ではないかというふうに考えます。  日本は全然外の国々のためにリスクを負わない国じゃないかというような批判を時折聞くことがございます。やはり自分の国の安全を確保するというためには多少のリスク、リスクという言葉が適当であるかどうかは私はやや疑問には存じますが、自分の国の利害を離れたところで国際平和全般のために何らかの積極的な対応をしているということを形にしてあらわす必要が今後はあるのではないかというふうに考えます。国際平和年を迎えての日本平和外交は非常に多角的、多面的に進められていかなければならないと思いますが、やはり国際的にこれこそ日本平和外交を試みているのだということが形になってあらわれるようなものを制度としても何とか発足させたい、こういうふうに思っているわけでございます。  どうもありがとうございました。
  10. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) どうもありがとうございました。  以上で参考人からの意見聴取は終わりました。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は、小委員長の許可を得て順次御発言を願います。
  11. 石井一二

    石井一二君 自由民主党の石井でございますが、私は、スジャトモコ参考人緒方参考人にそれぞれ一問ずつ質問をいたしたいと思います。  まず最初に、スジャトモコ参考人に対してでございますが、お話はおおむねごもっともな御意見と拝察をいたしました。特に日本に対して、メジャー ミドルパワー ラージ アンド パワフルカントリーというようなお褒めの言葉もいただきましたし、また、過日の安倍外務大臣演説に対しましても、日本の外務大臣として国連システムの保全あるいは国連機能を高めるためにいろいろ努力をしておるといったような御評価もいただいたことをうれしく思うのでございます。  さて、日本は、そういった前向きな姿勢で国連機能が十二分にその効果を上げるべく努力する決意と、また実際そういう行動をしてきたわけでございますが、国連そのものの中にそういった日本努力実現することが不可能なような要素がある場合にやはりやりにくいと思うわけでございます。  具体的にどういうことを私が言わんとしておるかといいますと、私は、国連には少なくとも二つの非常識があるというように理解をいたしております。  一つは、ちょっとお話も出ましたけれども大国の拒否権、特にソ連の拒否権というものは約二百回近い数にも及び、本来なされるべき決議というものが拒否されてきておるということ。やはりこういったことは機能的に改正する必要があるのではないかと思います。  もう一つの非常識は、あえて小国の非常識という私は言葉をもって表現したいわけでございますが、セクショナリズムに走って、大国小国も中国も、とにかく国と名がつけば一票であるという規則のもとになれ合い的な票が投じられる。例えば、客観的に見て日本は今経済大国とも言われておるわけですが、なぜ非常任理事国への立候補をして日本がバングラデシュに負けなければならないか。私は、常識的、客観的に考えて日本の方がやはり適当な国であろうと私自身思うわけでございますが、こういったところにもその一端があらわれておると思うわけであります。  以上申した大国のそういった拒否権、小国に平等な一票を与えているという事実、そして最後に、事務総長に大きな権限が与えられていないためになすべきことがなされないという批判がよくありますが、この三点について簡単に、どのようなお考えを持っておられるかお聞きできればありがたいと思います。
  12. スジャトモコ

    参考人スジャトモコ君) (池田薫通訳) ただいまのコメントをいただき、感謝申し上げます。  すべての国、また日本も含めてでありますけれども、現在直面している問題の一つというのは、あくまでも国連というのは第二次世界大戦直後につくられた機関でございますので、もはや世界の現状を十分反映したものになっていないというのが事実でありまして、この問題はすべての国が直面している問題であります。例えば、安保理事国の拒否権の発動ということも、現在の各国の力の配分を比例した形で拒否権が認められているわけではございません。よって、国連の活動、性格といったものも時とともに変わってまいりました。例えば、昔植民地であったところが独立したということで、加盟国になった国の数がふえております。そして加盟国の数がふえたこと自体は、言いかえれば、それは国連の成功の度合いを示すものと解釈することができますけれども、このように成功を余りにもおさめてしまったがゆえにかえって問題を引き起こしたということは言えると思います。  ただ問題は、ここで日本は、機構自体が調整され、かつ変わるのを待って初めてこの機構に参加をしてくるのか否かという点なんですけれども、ずっと待ってから、事が全部正されてから参加しましょうというのでは日本側の大きなミステークになると思います。やはり現実を直視することが必要でありますし、現在の状況では国連の憲章を改正するといった可能性は不可能に近いと考えております。  ただ、このような時代とともに機構が変わってくるのはどの政治体制にも言えることだと思います。先生方もよく御存じだと思いますけれども日本でも、日本の政治家もまた国民も現在、定数是正という問題をお抱えになっているわけであります。このように、各国も、また各国の機構も変わってくるものであります。しかし、だからといって、時代を反映しないからといいましてその機構自体が無意味になるということを申し上げているわけではありません。国連枠組みも完璧なものではない、不完全なものかもしれませんけれども、そういった枠組みにおいてでさえ効果的な行動をとるというのは、緒方先生のお話にもありましたし、できるわけです。ですから、この意味でぜひ日本の果たすべき役割は強化していただきたいと思っております。そして、願わくは新しい機会が開けてくることを念じております。  例えば、日本がこの安保理のメンバーになるといったようなことになりましたら、日本が果たせる役割というのはたくさんのものがあるわけですから、これを期待しております。こういったことに対しても機会が開けてくると考えております。もちろんある時期においてバングラデシュの方が選ばれてしまったということもありますけれども、これは日本が候補になりたかったと、その表明をなさる前から何となく決まっていた風潮でありましたので、今回はこうなりました。  しかし、もう一度強調したい点は、どのような機関であっても、機構であっても、政治体制であっても、時とともに変わっていくということをぜひ申し上げたいと思います。
  13. 石井一二

    石井一二君 緒方参考人に質問する前に、一言スジャトモコさんに申し上げておこうと思いましたら、ちょっと席を外されましたので、もし発言中に帰ってこられたら一言申し上げたいと思います。  緒方参考人、時間の関係で簡単に御質問いたしますが、あなたの御発言の中で、朝鮮戦争に絡んで国連軍という御発言があった。あるいはまた国連緊急軍という御発言もあった、キプロスに関連して。また国連待機軍というお話もあった。あるいは国連協力隊というお言葉もあった。すべて国連が平和を維持するための軍隊というぐあいに解釈をさしていただきたいわけですが、あなた御自身のお気持ちとしてこの軍隊の質についてどのようにお考えになっておるかということを聞きたいわけです。  なぜならば、武力による侵略の拒否が難しくなってきた理由として、近代兵器の発達、下手に騒ぐとどんどん戦争が大きくなると言われましたけれども、やはり力は力なりというのが私の信条なんです。と申しますのは、米ソが今バランスを保っている裏にはやはり力が均衡しておるからバランスが保てておる。あなたもおっしゃったように、ナチが台頭してしまったのは英国やフランスに力がなくて、アンバランスがあったからああいうことが起こった。そういう観点から、未来的なお答えでいいのですが、国連軍と一応称さしていただくとすれば、どのような質のものであるべきかということを、あなたの御意見を聞きたい。  特にポイントで聞きたいことは、私は非常な近代兵器を備えた、非常な有力な兵士による、むしろ大軍であった方が本来的な機能が果たせるのではないか、その脅威感というものが平和を維持できるのじゃないかという考えを持つわけですが、現状は、例えば装備の面でも国家間の秘密というようなことから一番大事な兵器というものは自分のところの国だけでしまっておきたいという気持ち、あるいは国家を愛するという気持ちがあっても、世界を愛する気持ちというのは国家を愛する気持ちよりも弱いと思いますから、やっぱり士気あふるる軍隊というものは人的資源の面でも劣ってくるのじゃないか。またこういった軍隊に勤めた人が年金だとか何とかいうような、国境を超えて保障されるかどうかということにも問題があろうと思います。そういった意味で、あるべき国連軍の質についてどのような考えをお持ちかお聞かせいただきたいと思います。
  14. 緒方貞子

    参考人緒方貞子君) 強い国連軍の脅威による平和の維持あるいは抑止という考え方は、国連ができましたときの考え方でございます。そしてこれは、その場合は強い軍を持った超大国が一致できるという前提に立っていたわけでございます。ところが、その後の世界は超大国の一致による国連軍の保持と抑止力の発動によって平和を守ることはできないということは、国際政治の現状としてもはっきりしてきたと思います。現在の国連軍というのは、力によって抑止する性格の国連軍ではございません、これは非常に限られた、停戦とか休戦ラインを見守っていくという程度のものでございますから。質がいいとか悪いとかいう士気の問題を考えましたときの士気は高くなければならないのでございますが、武力は限定されたもので十分であると思います。  ただいま一つだけ例を出して申しますと、UNIFIL軍の中を突破してイスラエルがレバノンに進攻いたしました。そのときにおりました国連軍は非常に限られた武力を持っているだけではなくて、中小国の出した軍隊だったわけです。国連の中には今その事態を踏まえまして、武力行使そのものは限定されたものでなければならないけれども大国がもし国連平和維持活動に参加していてUNIFILの展開地に駐屯していたならば、あれほど容易にイスラエル軍はUNIFIL展開地点を突破しなかったであろう、こういう考え方があるわけでございます。だから国連軍はあくまでも存在する介在的効果、モラルプレゼンスというか、そういうものを必要とするわけでございますが、従来考えられたように中小国だけでいいのかどうか。やはり大国の威厳、威力というものを装備は限定、武力の行使は極めて抑制的、ただし威力そのものはもう少しあった方が効果が上がるのではないかという考え方はできるであろうと思います。
  15. 石井一二

    石井一二君 ちょっと一言だけ、答弁は要りませんが、スジャトモコ参考人、先ほど私の質問に対してあなたがお答えになった中で、現段階で国連憲章を改正することは不可能であるということをはっきり言われたわけです。それに対して私は異議がある。なぜならば、世界の情勢は変わっているのだから、いろいろなルールというものは改正されるためにあるということに立った場合に、断定的にそれは不可能だということをできればおっしゃっていただきたくないという気がいたします。要望事項として申し上げておきます。
  16. 久保田真苗

    久保田真苗君 緒方先生にお伺いします。  今、国連軍のプレゼンス、平和維持活動の問題が出ましたんですけれども国連平和維持軍の中でよく亡くなる方があると思うのです。亡くなる方があって、そしてそれを迎える故郷が大変悲嘆に暮れるということがある。その一方、国連軍そのものは、相手方に対して限定された武力とはいいながら、どの程度の武力なり被害なりを与えているのが現実か、あるいは国連のマニュアルにそういうことが決められているのかどうか。  そしてまた、先生のおっしゃる国連協力隊の問題がもう一点なんですけれども、例えばアメリカなり日本なりが出している平和部隊とがそれから青年協力隊といったものは、相手はマルチでこちらは単独という形で出しているわけですが、こういうものとの関連で見ましたときに、これが国連に何らかの国連のマニュアルに従って協力するという可能性をお考えになったことがあるかどうか。  二点をお伺いいたします。
  17. 緒方貞子

    参考人緒方貞子君) 国連平和維持活動に参加している軍隊が許されている武力行使の程度という問題でございますが、これは自衛ということに限られております。監視団の場合にはピストルも持っておりません。国連平和維持軍の場合には自分の銃程度は持って出ております。ただ、その銃の装備の程度は相手の軍隊でございますね、ゲリラ部隊ならゲリラ部隊、軍隊なら軍隊の持っている武器と多少対応するようには考えているというふうな説明はございます。そのマニュアル自身は、私マニュアルにどういうふうに記載されているかまでは存じませんが、非常に自衛ということに限られているということははっきり記されております。  それから、日本の青年協力隊が国連協力する可能性はあるかということでございますが、これは今のところ全く別個のものになっていると思います。国連には国連ボランティアコア、国連奉士隊といいますか、そういうものはございますが、極めて数は限られていると思います。
  18. 久保田真苗

    久保田真苗君 今、相手に対して平和維持軍がどんな被害を与えたことがあるかということなんですが、例えばどのくらいの人を殺傷したことがあるかとかそういう――じゃ結構です。  スジャトモコ学長にお伺いします。  日本が中くらいの大国として非常に指導的な役割を果たせるであろうといういろいろな処方せんをお伺いしましてありがとうございました。  ところで、緊張の高まりについて先ほど局地紛争、核の冬、局地紛争のほかにも経済社会的な要素が平和を脅かす要素だと、こうおっしゃっていらっしゃいます。そして日本がまた非常に経済的な力を持っているということをお認めいただいているのですが、私の感じでは、例えばこの十年間に日本世界経済に果たした役割というものを考えてみますと、果たして日本はそのすぐれた経済力を使って世界経済を引っ張る牽引力のような役割を果たしたかという点なんです。私自身はそういう場面もあったかもしれないけれども、かなり否定的なんでございます。それはつまり、先ほど言われましたいわゆる保護主義に火をつけるとが、あるいはいろいろな自分自身も保護主義に頼ってきた面もありますし、それから日本は勤勉で貯蓄もしましたけれども、その金が行くところへ行ったのかどうか、途上国に回るようなことではなかったんじゃないか、アメリカの金融市場に流れたんじゃないかと、そんなふうに見ておるわけです。  そこで、この点につきまして日本世界経済的に果たし得る役割といいますか、今までの経験を踏まえて果たし得る役割を先生はどんなふうにごらんになっていらっしゃいますでしょうか。何をどうしたらいいとお考えになりますでしょうか。
  19. スジャトモコ

    参考人スジャトモコ君) (池田薫通訳) 今私がお答えするということにはちゅうちょの念を覚えます。と申しますのは、このような皆様方がお集まりの当委員会の場において、特に皆様方というのは、一国の政治的な意思を代表している皆様でございますので、お答えがしにくいかとは思いますけれども、まずこの地域紛争について、例えば、これはまた将来地域紛争が起こるといったようなことになりますと、それは必ず国際的な経済状況の混乱に密接な形を持って発生してくるのではないかと考えます。現在でも、第三諸国が抱えている債務累積問題というのは大きなものがございまして、この債務累積問題を先進国間の経済的な再統合という面から全く切り離し別個に解決しようとしているということ自体を見ましても、この辺で新しい種類のリーダーシップを行使できるような国が出てくることが必要であるということを示しているものだと思います。  例えば、サハラ周辺ですとかアフリカの国、地域全体を取り上げましても、現在アフリカの諸国というのは、資源といったものは国外に流出するばかりで、もう非常に苦しんでおります。つまり、国外からアフリカ諸国内に入ってくるリソースよりも国外へ利払いなどとして流出していくリソースの方が高いという現実であります。そして、現在のところかなりまだ、当分国際的な景気というのは低成長を遂げる可能性が強いです。そうなりますと、アフリカに対して十分なリソースが入ってくるという可能性も低くなりましょう。そうなりますと、アフリカの社会的な力といったものがどんどん浸食されてまいりまして、それがひいては不安定な状況につながり、紛争の発生へとつながってしまうかもしれません。そういたしますと、結果としてアフリカの政治的な地理といったものがまるっきり入れかわってしまうということになるかもしれません。これはイコール紛争であります。それからまた、世界的な景気の問題とその政治的な問題を関連して考えませんと、最終的についてくる政治的なコストというものが非常に高くついてしまいます。  例えば、アフリカのこともさることながら、第三諸国世界が不安定になってしまう。また、中南米諸国で民主主義からまた逸脱した形に機構がなってしまうといったようなコストがついて回るわけです。ですから、社会的なコスト、また政治的なコスト全体を絡めて考えること、そして全体的なアプローチをとることが大切であります。そして、この間で日本が果たせる役割は何かと申しますと、先生が指摘なさった点はもっともであり、私も合意いたしますけれども、もしかいたしましたら、現実の問題というのは先生がおっしゃった以上に深刻かもしれませんし、また、機会というものも同時に存在するものと考えます。長期にわたって世界経済は低成長を遂げるであろうと予想されておりますし、アメリカの成長率もまた今より下がるということが予想されます。  そうなりますと、ヨーロッパと日本はこのような状況でどの程度まで自国の経済を膨らまし、かつリフレートすることができるのかということが問題になります。また、リフレートする意思がヨーロッパ諸国また日本にあるのかということも問題になってきます。ここで私が言わんとしていることは、日本が抱えている資本余剰、黒字といったものを、例えば他国に回してリサイクルさせるといったようなことを申し上げているわけです。ですから、日本もこの辺でまず再評価するということが必要ではないでしょうか。世界的な経済状況にかんがみまして、機会があるということも同時に認識した上で、日本世界的な経済、政治的な状況でどのような役割を果たすことができるのか、またこの辺で再評価し、考え直すということが肝要ではないかと考えます。そして、ぜひ途上国のためになるもののみならず、世界的な国国の経済にとってためになるような形で新しい政策を組み立てていく、この努力にぜひ日本にも加わっていただきたいと思っております。
  20. 久保田真苗

    久保田真苗君 どうもありがとうございました。
  21. 和田教美

    和田教美君 スジャトモコ学長にまずお伺いします。  スジャトモコさんは、平和の問題を単に核の問題だけに考えるのは間違いである、通常戦争犠牲というものも非常に深刻だということを強調されましたけれども、その点は私も全く同感であります。それで、それに関連して申し上げるのですけれども、主として通常兵器ですけれども、アジアにおける地域的な軍縮の話し合いの場というものを何かつくらなければいけないのではないかということを私は考えるわけです。  と申しますのは、ヨーロッパにはジュネーブにおける各種の会議はもちろんのこと、いろいろな軍縮に関する接触の場があるわけです。と。ころが、アジアにおいてはいろいろ複雑な事情ももちろんございますけれども、そういう場合が全くないわけです。そこで、その問題を日本政府がひとつ音頭を取ったらどうかということを私は言うのですけれども日本政府は状況が非常に複雑だということを理由に非常に消極的であります。一挙に政府レベルでそういう場をつくるということは、あるいは現状では難しいかもしれません。そうだとすれば、民衆のレベル、民際レベル、あるいはまた学者のレベル、そういうレベルでまずそういうイニシアチブをどこかがとられたらどうかというふうに思うわけです。幸い国連大学が非常に活躍をされておりますので、国連大学でかりにそういうものの音頭を取ってもらえたら国際平和年一つの意義ある事業になるのではないかと思いますが、いかがでございますか。
  22. スジャトモコ

    参考人スジャトモコ君) (池田薫通訳) 先生からいただきました御評価は賛成いたします。アジアにおいて地域紛争について話す場が必要であるという点、先生に賛同です。また確かに、日本政府がこの分野に参入するということにはまずは十分な準備が必要であるということで、現在難しいということもよくわかっております。  ただ、個々の紛争というのはそれなりに皆違った性格を持っております。その個々の紛争が持っている意味合い、またその紛争が、その紛争当事地域、域外に与える影響につきましても、すべてコンフリクトごとに違いますので、問題というのは、一つ一つ紛争に対して個々の対応が必要であるということも事実であります。ただ、先生がおっしゃいましたことはもう全面的に支持したいと思います。つまり政府ではなく、非政府のレベルで何とか話し合える場を設けるということについてであります。そしてその非政府のレベルで当事者間が集まりまして、双方でよく話し合うということが必要であると考えます。現在でも、日本皆様方のような政策決定者が使える外交的な手段というのはありとあらゆる形でそろっております。しかし、だからと申しまして、いつも外交メカニズム、公式なメカニズムを通じて話し合いをするというのではございません。他方、その非政府のレベルにおきましても、日本には現在たくさんのメカニズムまたリソース等があります。こういったものも利用できますし、日本日本国外にあるようなメカニズムを利用するということもいつでもできるわけです。ですから、こういったことをいつでも動員するということが可能であります。  そのうちの一つ国連大学であります。国連大学では、事実アジアの地域的な安全保障について継続的な研究をもうやっております。最近ソ連のタシケントというところでもやはり会議がございまして、そこでは南北朝鮮両方から代表者が参加した、またベトナムからも参加者があったと聞いております。また、東京におきましても、地域安全保障問題を取り上げる会議がありまして、そこにも南北朝鮮の方がそれぞれ出席なさっていました。既にこのように今おっしゃったような方向に物事は動いております。ただ、これで十分というわけではございませんで、まだまだ国連大学がなすべきことはあると考えますと、日本に対してはもっと貢献できると思っておりますし、また先生がおっしゃいましたように、ほかの話し合いの場を設けるということももちろん考えられます。
  23. 和田教美

    和田教美君 時間がなくなりましたので、緒方参考人に簡単にお伺いをいたしますが、緒方さんは国連創設のときの安全保障考え方として、いわゆる軍縮ではなくて軍備管理、つまりディスアーマメントでなくてアームズコントロールという考え方であったというお話をされました。現在でも国連の主潮的な考え方というのはやはりそうであるかどうか。というのは、例えば国連に対するパルメ委員会の報告などを見ましても、単に軍備管理というだけよりも、もっと一歩進んでいるのではないかという感じも私は受けるわけなんですけれども、その辺緒方さんのお考えはどういうふうに考えられるかということが第一点。  もう一つは、最後に触れられました国連協力隊という考え方、これは非常に私興味を持って拝聴したわけでございますけれども、この国連協力隊がその任務を非常に限定をして、警察とかあるいは輸送という部門に限定をしても、全く軍事的な行動というものから切り離してそういう任務の遂行ができるのかどうか。やはりある程度の軽武装を必要としないかどうかという問題についてどうお考えなのか。  二点お尋ねいたします。
  24. 緒方貞子

    参考人緒方貞子君) 私は、国連の軍縮に対する考え方は主として軍備管理であるということは、現在でも軍備管理であるというふうに考えております。ただ、軍備管理の上に、そのかなたに双方でバランスのとれた軍縮をしていくということは目標としては考えていると思いますが、第一段階としては軍備管理であるというふうに考えております。  それから、国際協力隊ということについてでございますが、軽武装は、これはこの協力隊をどこに送るかということに非常にかかわると思います。私は輸送等が非常に大事だと思いましたのは、実は、国連がカンボジアを緊急援助いたしましたときに緊急援助状況を視察に参ったことがございました。ここで見ましたのは、一番大事なことはやはり輸送なんでございます。食糧は世界各国から持ってくる、医療も持ってくるけれども、輸送というのはいかにこれが大きい問題かということが非常によくわかりました。しかも、あの地域で輸送に用いられたのはほとんどが日本製のトラックであったわけでございます。あの国じゅう日本のトラックが走っていたというふうに、イメージとしてはそういうイメージでございまして、その輸送のトラックの確保、運転手の確保、修理の確保ということが実は国際機関の一番大きい悩みでございます。その辺が日本がかなり独自性を持って手伝える分野じゃないかというふうに考えました。  それからまた、国連軍の後方支援におきましても輸送の問題は非常に大きい問題でございます。この場合、それでは輸送に当たる人は武装しなくていいかどうかということになりますと、輸送に当たる地域が例えば非常にたくさんの地雷とかそういうものが置かれているような地域である場合には、多少地雷を取り除くという形の作業を一体するのかしないのかという形で武装の問題は出てくるかと思います。ですけれども協力隊を日本はどういう形で日本として一番、日本の強いところ、やりたいところということを限定する作業がまず大事ではないか。その上で国際機関等と話し合いまして、そして相互に裨益するところで日本協力構想というものをだんだんにつくっていったらどうかというのが、私考えましたのでそういうふうに申し上げた次第でございます。
  25. 立木洋

    立木洋君 今との関連で先に緒方参考人にお伺いしたいのですが、依然としてやっぱり国連の主な内容は軍備管理であると。私は核が出現して以来、軍縮、それより核軍縮をもっと国連が重視する必要がある。これはもう御承知だと思いますけれども、例えば一九七六年に非同盟諸国の調整ビューロー外相会議がアルジェで開かれましたね。やっぱり大国だけに任じていくような軍備管理ではだめだ、本当に軍縮せぬといかぬ、これがSSDI、Ⅱというふうになっていったわけでございますね。ですから、国連の持つ役割というのが新しい状態の中で力による抑止力ではだめなんだということが問題になってきて、ワルトハイム事務総長ども、今の平和の維持というものが抑止均衡という考え方で平和が維持できるというふうに見るのは、これは今日における最大の集団的な誤謬であるという指摘まで出されているわけですね。ですから、もっとその点で核軍縮を中心にした軍縮という方向に国連努力をしていくということにならなければならないのではないか。依然として軍備管理というのが太田を中心にやっていますけれども、というふうな感じを持つんですが、その点いかがでしょうか。
  26. 緒方貞子

    参考人緒方貞子君) 私も感じとしては同じようなことを感じるわけでございますが、ただ、国連において軍縮特総の一回目、二回目がございまして、ここでその軍縮を願う国際世論というものを結集させまして、これを通して今度は核を持っている国々の軍備管理から軍縮へという道を圧力を行使しているわけでございます。軍縮交渉そのものは実はジュネーブの軍縮委員会で行っておりまして、国連世界の国々が全部当たって軍縮をやっているわけではないものですから、むしろ国連の現段階での仕事は軍縮への環境づくりと申しますか、その辺が現実の姿ではないかと思います。ただし環境ができるということは、軍備管理から軍縮へ進む可能性を目指すものではあるというふうに考えております。
  27. 立木洋

    立木洋君 スジャトモコ参考人にお伺いしたいのですが、先ほどの御発言は興味深く聞いたわけですが、参考人がお国の独立運動に参加されて、そしてその独立した事態を国際的にも認めさせるということをなさってきたということを聞いているわけです。その点で、世界の平和の維持ということと民族自決権の擁護とのかかわり、民族自決権尊重とのかかわり、私の考えで言いますと、平和を維持するためにはやっぱり民族の自決権が尊重されなければならない、非常に不可分な関係にあるというふうに考えているわけです。しかし、残念ながら今日依然として他国の主権あるいは自決権に対する介入、干渉、場合によっては軍事的な介入まで存在する。これは極めて遺憾な事態ではないかというふうに考えるわけです。ですからいかなる国であろうとも他国の民族の主権や自決権を侵害してはならない、こういうふうに私は思うわけですが、世界の平和の維持という見地から見ても民族自決権の尊重ということをどういうふうに参考人は位置づけなさるのか、そういう経歴もおありなのでお伺いしたいと思います。
  28. スジャトモコ

    参考人スジャトモコ君) (池田薫通訳) 現在の状態を考えますと、ただいまいただいた御質問というのはとても関心深く、また肝心な点をおつきになっていると思います。  第三世界で起こっている紛争の多くというのはこれ自身に関連していることであります。私自身も最近オスロにあるノーベル委員会に対しまして、軍備紛争が第三世界に及ぼす影響というところで研究をまとめたばかりなんですけれども、この中でも国境紛争をめぐっての民族自決がどのように考えられるのかという点を探ってみました。つまり、民族自決と申しましても少数民族の民族自決を決めるのは一体どこから始まりどこまで続くのか。また、一国をバイアブルな形で維持していくためには、それに関連してくる民族の自決というのは一体どこから始まりどこで終わるのかという定義の問題が非常に難しい問題であるわけです。アフリカ統一機構の方もこの点の難しさを確認いたしまして、少なくとも国境紛争解決するようなメカニズムだけはつくっております。しかし、実際のところこの制度というのは効果的には現在動いておりません。問題が多々あるからであります。つまり、現在ある国境線というのは昔からの植民地の国境線を継いだもので、その国境線というのは人為的かつ恣意的につくられたものであります。そして、植民地が独立国になった後も昔の国境線をそのまま引き継いでいるというところで問題が出てきているところもあります。  また、その政治的意識といったようなものも高まっているということもありまして、多くの問題が現在出てきております。例えば自決を認めるといたしましても、地域ベースで認める、もしくは特定の種族に認める、もしくは特定の人種に認めるといったようないろいろなアプローチの方法があるわけで、さまざまな要求が今出てきております。もっと自治権を拡大したい、もしくは独立をしたいといったような要求であります。このようにたくさんのニーズが高まっておりますので、より効果的なメカニズムをつくり、もっと効果的に国境紛争と対処できるようなものができればとみんなが思っているわけであります。  パルメ委員会の話がさっき出ましたけれども、私も実はこの委員会のメンバーです。この委員会の出した勧告の中で、国連事務総長の権限をもっと増大した方がいいといったような勧告を出しました。そして、もう少し平和維持という面でも強化した方がいいという勧告が出ていたはずであります。そしてまた、安保理事会においても事務総長の持っている権限を強くした方がいいのではないかという勧告を出したんですけれども、どうもパルメ委員会の報告というのは大きな影響は及ぼさなかったようであります。どうしてでありましょうか。これはリーダーシップが欠けていたからだと思います。ですから日本が安保理事会のメンバーになるときがきましたならば、きっとそのときには事務総長の権限も強化されるでありましょうし、それに関連しての平和維持能力というものも強化できるでありましょう。  もう一つ緒方先生がおっしゃったことに一つ加えたいのですけれども、重要なことは、紛争が起きましたときに国連平和維持軍が使われるということがあるのですけれども、あくまでも国連平和維持軍というのは敵と直面しているわけではございません。直面すべき敵というのは最初から国連平和維持軍にとっては存在しないのです。あくまでも国連平和維持軍の役割というのは、敵対心を持っている当事者同士の間に入り、その当事者同士を分けるという役割だけであります。つまり国連平和維持軍としては、その参加者に対して国連平和維持軍からの意思を押しつけるといったようなことはしないわけであります。ですから、その果たすべき役割というのは非常に限定的なものであります。  それからまた、どのような維持軍が必要か、そのクォリティーのレベルはどの辺に持っていくべきかということは、その都度都度の要求事項によって違ってくると思います。そのときどきの問題の性格に応じまして、敏感な感受性の高い能力が必要になるときもありましょうし、より深い理解また情報収集能力が要求されるときもあるでしょう。ですけれども、心構えとしてはいつも軍備には訴えないということを徹底させるようにしております。  つまり、国連平和維持軍というのは、考え方からもう普通の軍隊とは違うわけです。カナダももちろん平和部隊というものを持っておりますけれども、そのカナダの軍隊にしても、平和維持部隊になっている人たちに対しては、平和維持軍というのは普通の軍隊とは違う、そして考え方も通常の軍隊とは違うのだということをちゃんと教育しているはずですので、これはほかの全面的な平和維持部隊全体についても言えることであります。
  29. 田英夫

    ○田英夫君 スジャトモコさんに伺いたいと思います。  今、人類にとっての最大の課題一つは核軍縮だと思いますが、スジャトモコさんは国連大学の学長として、あるいはパルメ委員会のメンバーとして、平和の問題、核軍縮の問題に取り組んでこられたことに心から敬意を表したいと思います。  実は先日のジュネーブの米ソ首脳会談、一定の前進はいたしましたけれども、米ソが話し合って最終的に本当の核軍縮ができるとは思えないのです。つまり、米ソはその点では利害が一致していて、自分たちが大きな核の力を持っていることを背景にして世界の中に君臨をしているということですから、そのみずからの力をみずからの手で弱めてしまうということはやらないのじゃないのでしょうか。一方で国連もまた、先ほどの緒方さんのお話に、軍縮ではなくて軍備管理だという、そういう考え方が基本にあるほどですから、国連の手で核軍縮を進めるということも現実には大変困難があるのではないかと思います。そうなりますと、人類にとって最大の課題である核軍縮を一体どうやったら進められるのかということが非常に難しい問題になってしまう。これはこういうところで短時間にお答えいただけるような問題ではないかもしれませんが、基本的な哲学のようなものをお聞かせいただければと思います。
  30. スジャトモコ

    参考人スジャトモコ君) (池田薫通訳) まず、私に対しまして御親切なお言葉をいただき、どうもありがとうございました。  また、第二の点、先生がただいま御説明した点でありますけれども、今おっしゃった点こそもう本当に問題の肝心かなめの中心でございます。  現在、外交的なチャレンジが高まっていると思います。そして、中大国こそ現時点でこの問題解決にかかわるべきと考えます。つまり、現在の軍備管理交渉の中に割って入るということ、そして超大国だけにこの場を独占させておかないために入るということができると思います。この意味でパルメ委員会の方も努力をしてまいりました。全く今までとは違ったコンセプトを紹介したというのがパルメ委員会努力であります、例えばヨーロッパに非核地帯を設けてはどうかといったような提案をしました、余り大きなインパクトこそはございませんでしたけれども。それからまた、思い起こしていただきますと、トルドー首相もかつて、どの政治家の方か忘れましたけれども、政治家の方と一緒になりましてピースミッションということをみずからおつくりになり国を回りました。そして人々の世論を喚起しようとしたわけであります。人々の世論を高めまして、軍備管理については核を持たない国も発言をすべきだといったような話をして回ったわけであります。  それからまた、第二番目に重要なことは、これからはよりその力点を軍縮に置くということだと思います。つまり、国民ですとか世論ですとか、超大国が直接コントロールできないようなところにある社会の要因等をすべて動員いたしましてこの方向に進んでいくのが肝要でありましょう。ある意味歴史が私どもに味方をしてくれると思います。  と申しますのは、現在明らかになってきたのは、何も核の軍拡競争をどんどん高進させましても、これだからといってその結果超大国の政治力の力が高まっているということはないわけです。つまり、いろいろな世界地域で超大国は全く力のない状態、力を発揮するすべがないといったような地点もたくさん出てきております。世界じゅうで力が分散しているということ、それからまた武装したグループといったように、力がいわゆる正当な国の範囲からシフトしまして武装したグループに移るといったようなことにまで今はなってきているわけであります。  こうなってしまいますと超大国が核兵器を幾つ持とうとそれほど関係のないことになってしまいます。テロ行為などが発生いたしますと、超大国としては今やもうなすすべがないわけです。ですからこのように、これからはもっともっとこのような形で実際の核の力から離れたところで問題が変遷してくると考えます。これはある意味では私たちに味方していると考えられると思います。そして核の軍備管理から核の軍縮へとシフトができるということになるのではないでしょうか。実際にこのようなシフトをするにはそれなりに時間がかかります。しかし、国際的な機関である国連とか国連大学、それからまた各国のベースであるさまざまな機構、それからまた政策決定者として果たすべき役割はともに大きいと思います。
  31. 田英夫

    ○田英夫君 ありがとうございました。
  32. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) 以上で質疑は終わりました。  両参考人にお礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、大変お忙しい中を本小委員会に御出席いただき、貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。  ただいまお述べいただきました御意見等につきましては、今後の本小委員会調査参考にいたしたいと存じます。小委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  暫時休憩いたします。    午後三時十八分休憩      ―――――・―――――    午後三時二十四分開会
  33. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) 休憩前に引き続き、国際平和年日本外交について参考人から意見を聴取いたします。  参考人として前国際連合日本代表部特命全権大使西堀正弘君及び東京大学教授五十嵐武士君に御出席いただきます。  この際、参考人の方々に一言あいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ、本小委員会に御出席いただきましてまことにありがとうございます。本日は、国際平和年日本外交につきまして忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  次に、会議の進め方について申し上げます。  最初に参考人に御意見をお述べいただき、その後小委員からの質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  それでは、西堀参考人にお願いいたします。
  34. 西堀正弘

    参考人(西堀正弘君) 本日は、この委員会でお話をする機会を与えられましたことを私としては大変ありがたくかつ光栄に存じております。  ただ問題は、どの程度諸先生の御参考になるお話ができますか大変心もとない次第でございます。つたない経験ではございますけれども、私の体験に基づきまして、私なりに日ごろ考えていること、実は私まだ国家公務員でございますけれども、外務省の禄ははんでおりませんので、何ら制約なしに無責任の立場から自由奔放にお話をさせていただきたいと存じます。  さて、日本の国力が今日のように増大したといいますか、増強してまいります。ただ私、GNP、国民総生産ですか、この概念は、確かに経済のフロー、流れ、経済活動の大きさは示します。したがいまして、日本人のようにあくせくあくせく働いている者の場合非常にこれが大きくなりますんで、ただ、どこかに事故があってアンビュランスがすっ飛んでってもこれがGNPを増すというようなことだそうでございます。国際的に見ますとどうも日本の実力以上に買いかぶられる、一つ蓄積された国富といったものを示す指標でもできないことにはどうも買いかぶられる傾向があるのじゃなかろうかとかねがね思っているわけなんでございます。  それはいずれにいたしましても、敗戦当時に比べましたら日本の国力が増大したことはこれはもう否みがたい事実でございますので、それに相応して国際責任ということが盛んに言われるようになりまして、特に日本のように資源が何にもない、日本の安全と繁栄というものは世界の平和と安定に依存している、日本の生存そのものが世界の平和と安定に依存していると言って差し支えないと思うのでございます。したがいまして世界あっての日本でございますから、国際責任をどういう形で負っていくか、遂行していくかということが本日の問題だろうと思うのでございますけれども、国際責任を遂行していくということは当然のことでございます。  国際責任と申しますと、まず先生方の脳裏をかすめるものは現在の米国政府、もっとはっきり言いますならば、レーガン政権から非常に激しいかつ執拗な軍事力の増強ということが国際責任の遂行であるという形であらわれてきているわけでございます。そこで、ただ我々日本国民は敗戦後営営としてがむしゃらに働いてきたわけでございまして、国際責任というようなことは余り考えもせずに今日まで来て、ひょっと気がついてみたら自分の影の大きさに驚きと戸惑いを感じていると申しても私は差し支えないのじゃないかと思うわけでございます。したがいまして、国際責任といいましても、どうも自律的に考えて何が日本として最も世界の平和と安定に貢献するかということ、自律的に私はよく考えて対処しなきゃならぬと思うのですが、どうも他律的なんでございますね。その点これからお話ししたいと思うのでございますが、どうもアメリカから非常に要求を受ける、今、日米関係日本にとって有しているところの圧倒的重要性ということから考えますと、現実外交の場でこのレーガン大統領の要請をむげに断るということはこれはできない相談でございますし、その点大変面倒なことではあります。  しかし、日本日本なりの考えで私は対処していくべきだと思うわけでございます。そこの肝心のアメリカの現在の世界戦略に基づくところの政策、どうしてそうなってきているか、またそれ以外になかなかレーガンとしてもやりようがないと思われることにつきましては、時間の許します映り後ほどお話し申し上げることにいたしまして、まず外堀を埋めると申しますか、今、日本が若干でございますけれども軍事力の増強をやっている。このことが国際社会においてどういう受け取られ方をしているか、国際社会にどういう反響があるのかということを私の経験に基づいて率直にお話を申し上げたい。まず外堀を埋めさしていただいてから本論に入りたいと思うのでございます。  私、二年半前にニューヨークから国連大使を最後に帰ってまいりましたが、国連におきます日本の評判と申しますか、日本の一般の受け取られ方というのは、日本は分担金は米ソに次いでおりますし、また、自発的な拠出金を考えましたならばこれはもう米国に次いで第二位、圧倒的にソ連なんぞは足元にも寄らない貢献をしているわけで、決して悪いことをしているわけじゃございませんけれども、どうも一つ芳しくないのでございますね。それでいろいろ考えてみたんでございますけれども、一体なぜこう日本国連における評判は芳しかるべきが余り芳しくないということを私なりに考えてみますと、三つあるように思うのでございます。  一つは、ソ連を初め東欧諸国の代表が、あらゆるフォーラムにおいて機会があれば日本の軍国主義の復活という悪宣伝をするわけでございます。商業広告の真髄はレペティションにあるということが言われますけれども、そのとおりでございまして、この東欧諸国の連中が、機会さえあれば日本の現在の軍国主義の復活、我々も毛頭考えてもいないことでございますけれども、を言うわけでございます。日本という名前がメンションされますと、もちろんこれは徹底的に答弁権を行使して論駁する、スタンディングメンストラクションがございましたからこれはやるわけでございますけれども、このごろは巧妙になりまして、日本という名前は出さない。聞いていればよくわかるのですね、アジアの一大国というような言い方しますので。しかし、それに反論しますことは、いわば語るに落ちるということになりますので、これは反駁できないというようなこともございまして、商業広告と同じで、レペティションによって相当各国の代表に影響を及ぼしているということが言えるかと思うのでございます。  第二の理由は、特にレーガン大統領が強いアメリカということを標榜して出て以来、国連におけるアメリカ代表の活動が非常に強がりといいますか、正しい姿なんではありますけれども、適当にいなすというようなことがなしに、そこへもってきて、これは偶人の批判になりますので――名前さえ出さなきゃいいですか。速記をとめていただこうと思ったが、よろしゅうございます。やはりその代表の人柄というようなこともありまして、それは非常に立派な方で、個人的には本当に私、楽しくおつき合いしたんでございますが、どうも不必要にこの第三世界の方々をいら立たせるというようなことがありまして、アメリカの国連における、評判というのはいわばもう最低といいますか総スカンなわけでございますね。その状況は私がこちらへ帰ってまいりましてから二年半の間でも変わっていないようでございます。  実はちょっと抜き書きしてきたんでございますが、昨年の国連総会における決議案の投票パターンですが、非同盟諸国がソ連と組んでイエスならイエスのボートをする、ノーならノーのボート、とにかく一緒のボート、一緒の投票のパターンが八六%に対して、米国と非同盟諸国が一緒になって同じ投票態度をとるというのが一三%。ソ連の方は過去最高のパーセンテージだし、アメリカの方の一三%にすぎないというこれはこれまた過去最低の投票パターンだということが最近報道されておりました。これは国務省の計算でございますから間違いないと思うのでございます。ということで、アメリカの国連における評判が総スカンであるということは、現在ますますそういうことになっているのじゃなかろうかと思うわけでございます。  そこで、各国の代表連中に映る姿というのは、ただいま日本が若干ながら軍事力の増強をやっている、それはこの憎らしきアメリカの要請に従ってやっているのだというようなことで、いわば坊主憎けりゃけさまでという、そういったことが日本の評判がよくないということの一つ理由。  もう一つ、第三番目の理由といたしましては、何といいましても国連というのは言うなれば理想主義的なところがございます。もちろん、実際にはそんなものではございませんで、それこそ我利我利の実利、実害に従ってやりとりをしているわけで、決してそんなことじゃございませんけれども、どちらかというと理想主義的なところが普通一般の現実外交の面よりは、特に各国代表の演説等を聞いておりますとあるわけでございます。それは一九四六年、ロンドンで開かれた第一回の国連総会における第一の国連決議、これが軍縮に関することであったということからもおわかりいただけますとおり、軍縮というものについては国連は非常に熱を入れているわけです、当然のことなんでございますが。といたしますと、現在日本がやりますところの軍事力の増強というのは、現象形態的に申しますならば軍縮に逆行するというようなこと、こういった三つ理由が私は理由じゃなかろうかと思うのでございますが、ともかく日本国連における評判というのは、我々が考えるより余り芳しくない。特にレーガン政権になってからそういう状況になってきたということが言えるかと思います。  さて、国連なんというのは、もうそんなに重要視する必要はないのだとおっしゃる先生方もおられるかもしれません。しかし、やはり国連というのは世界の世論の一つの集約的に集まるところでございますし、特に日本を含めて一流国と申しますか、レスペクタブルな国の代表というのは職業外交官を長いことやって階段を上り詰めた私のようなものがなる。そういう連中が各国に帰りますと、これは何のインフルエンスもない、まことにつまらぬ存在でございますけれども、これはアメリカは違います。アメリカはポリティカルアポイシティーでございますからちょっと違いますけれども、第三世界国連大使というのを見ますと、これは相当な人物ばかり来ておりまして、外務大臣を務めたなんというのは本当に何十人もおりますし、中には総理をやったというのも私のときには二人もおりました。またそれから国連大使で総理になるために本国へ帰るというのもおります。というようなことで、彼らが本国へ帰ってからその国々で世論に及ぼすところの影響というものは決して無視できないという意味において、国連における日本の評判というのはやはり大いに我々は注意しなきゃならないことだと思うわけでございます。  さて、ただいまは外堀を埋めるという意味でまず国連のお話を申し上げましたけれども国連の場以外にでも日本世界各国における評判というのは皆、先生方御承知のとおりまことによろしくない。数年前のことでございますけれども、稲山ミッションがヨーロッパに訪欧使節でもっておいでになったときは、面と向かって向こうの代表が稲山さんに、今仮に日本とソ連が世界からなくなったということになれば我々は非常に楽しいのだがということを、まあ冗談だったのかどうか存じませんが、少なくともそういうことを言った。また、オランダのある有力な新聞の社説で、今、本日、日本が、小松左京じゃございませんけれども、途端に沈没したと言ってもだれも嘆き悲しむ者はいないであろうというようなことを社説で堂々と述べる。  非常に評判が悪いのでございますが、その評判の悪い理由というのは、国際責任といいますか、軍事力の増強による国際責任の遂行ということが実は理由になっていないのでございます。今の二つのあれも、すべては日本の閉鎖社会といいますか、経済活動における閉鎖社会という点が非常に大きく理由となって掲げられているようでございます。  さてそこで、これは国際一般社会の風評でございますが、アメリカ自体はどうなんだということ。これは今のアメリカ政府から来ているところの要請から当然わかるじゃないかとあるいは先生方おっしゃるかもしれませんが、そこが私もよくわからないのでございます。なぜかアメリカ全体のといいますか、アメリカは何分にも五十州もございますので、そこにおける一般世論と大分かけ離れておる。アメリカ政府日本にとってきているところの態度と大部変わっているということが、これは四年間の在勤の間に私は大体八〇%、五十州のうち四十州の各地を演説して回ったんでございますけれども、アメリカで演説する場合には大体三十分、あとの三十分ないしはあるいはもっとふえて四十分ぐらいになってしまうのでございますが、質疑応答になるのでございます。その質疑応答のときに、日本は安保ただ乗りをやっているといった質問は、全然なかったと言えばうそになります。しかし、まことにりょうりょうたるものでございまして、非難攻撃されるのは日本経済面における閉鎖社会ということだけでございまして、その点非常にちょっとそごがあるといいますか、ワシントンから聞こえてくるところの声と違うということを私は非常に感じたのでございます。  それを外務省あたりで申しますと、いや、それは、おまえがアメリカじゅうを講演して回ったスポンサーになったのは――主としてはそのスポンサーなんでございます、もう八、九〇%このスポンサーが金を出して私は行ったわけでございますが、UNウィー・ビリーブという団体なんでございます。我らが信頼するUNという団体がスポンサーして私をあちこち連れて回ったんでございますので、各地における集まった連中が国連協会のメンバーとかそういうものだろうということを言われるわけでございます。そうじゃなしに、各地、各州のそういった小さな町も随分参りました。もちろん国連協会のメンバーも出ていないわけじゃございませんけれども、主として出席しているのは市長さんでありあるいはそこの主たるビジネスマンであり、要するにその市、町の有識者であり、指導階級の方々でありまして、決して国連というものに普通の人が抱いているよりも以上の信頼というか、あれを持っているような人だけの集まりではございません。そういった意味で本当の世論の一部といいますか一端を見ることができると私は考えておったんでございますけれども、そういう場所で全然なかったと言えばうそになりますけれども、非常にりょうりょうたるものであったということを申し上げたいと思うのでございます。  彼らは、今、日本のとっている平和憲法に基づくところの平和主義外交というのは非常にうまいことをやっている、実はアメリカもそうなってほしいのだけれども、そうはなかなかいかないのが現状だというような言い方。本当にそういうような意見の開陳が多かったのでございまして、早い話、そういった市井の一般の方々の世論もさることながら、有識者といいますか、有力なる政界の方々あるいは指導者に属する方々でも、現在のレーガン政権の行き方に非常に批判的な声が大きいということは諸先生御存じのとおりでございます。  例えば、今ギャング・オブ・フォーというのがおります。ギャング・オブ・フォーというのは、中国の文化大革命のときに四人組というのがおりましたね、それになぞらえまして、今アメリカの良識ある方々ということになっているわけなんでございます。ロバート・マクナマラ、これはかつての国防長官を務めた方ですね、それから世界銀行の総裁もやった。それからマクジョージ・バンディ、これは歴代大統領の国家安全保障に関する補佐官でございました。それからもう一人はジョージ・ケナン、これはもう諸先生御存じの世界最高のソ連専門家といいますかソ連研究家。ソ連の大使も長くやっておられまして、若いときにソ連に留学をされて、それ以来ずっとソ連の専門家として有名な方でございます。それにもう一人はジェラード・スミス、これは軍縮大使。といいましても、私が軍縮大使をやっておりましたジュネーブの軍縮委員会、そんなものじゃございませんで、米ソの最も重要な軍縮交渉のアメリカ代表を長く務められた方でございます。この四万がギャング・オブ・フォーと実はアメリカで呼ばれているのでございますが、非常にレーガン政権の批判をやっているわけでございます。  例えばマクナマラ、これはかって風防長官時代にはコンピューターというあだ名を得られたほど頭脳の明断な方なんでございますが、この方は明確におととしの何月でございましたか言っておられます。現在日本軍事力の増強を要請することは日本のためにもならぬしアメリカのためにもならぬ、それよりは日米両方の共通の利益を最も増進するものは、日本国際社会においてもっともっと非軍事的面での貢献をしてもらうことである、こういうことを言っておられます。  また、先ほど実は五十嵐先生とあそこでちょっと話し合ったときに申し上げたんでございますが、この六月にサンフランシスコで国連憲章署名四十周年記念がございまして、私、日本から招かれまして講演とそれからパネルディスカッションに参加させていただいたんです。そのときに実は質問がありまして、それをよせばよいのにモデレーターは私に指名いたしまして、しまったと思ったんでございますが、それは今レーガン大統領がえらい熱を入れておりますSDIについて日本はどう思うかという質問でございました。  これは下手なこと言ったらとっちめられるだろうと内心戦々恐々として、しかし、良心に従って自分の考えを述べざるを得ませんので、自分はここに出ているけれども日本政府の代表じゃない、しかも、そういった非常に戦略的なことは専門家でもないのでよくわからぬけれども、伝えられるところを極めて常識的に考えてみても、SDIというのは、やっぱり敵方から打ち込んでこられるところのミサイルを宇宙で撃破してしまうということになりますと、これが一般に言われておりますとおりとてもとても実現までには時間がありますでしょうけれども、実際にそういうことになったといたしますならば、これはアメリカとしては自分だけ安全で、それで報復のおそれなしに第一撃を加えることができるということになるわけでございますから、ソ連としてはそんなことに合意できるはずはないのでございますと。  したがいまして、そこの場所に実はトリアノフスキーじゃなかったんですが次席のソ連大使がいたので非常に言いにくかったんでございますが、私ははっきりと、今のアメリカの先端技術のまたその先端をいくSDI、こういった技術の面においてソ連はもうはるかに劣っているので、もし万一アメリカがこのSDIを強行するということになったら、ソ連としてはもちろんSDIに対抗するSDI的なものを研究開発するでございましょうけれども、それより先にまず攻撃用のミサイルを、その方がやさしゅうございますので、つくるということに相ならざるを得ないだろうと。これはもう軍拡ということにならざるを得ない、これた、仮にSDIが本当にワークして、宇宙でもってパカンと相手のミサイルをやってしまうということになったら、これはやはり核兵器同士の衝突でございますので、本当の核戦争のときと同じように今言われております核の冬ですか、こういうことになって、地球上は汚染されるということで核戦争と同じじゃないかというようなことを、実は戦々恐々として私は自分の個人的意見だということを冒頭に申してそれを言いましたところが、これはもう満場の拍手喝采を受けまして、私はちょっと妙な感じになったんでございます。  もっとも、この場合は国連憲章のサインの四十周年記念でございますので、国連というものについての感じが一般の市井の方々よりはあるいは平和主義的あるいは理想主義的な方々が多かったと思います、このサンフランシスコの会議は。私が講演して回ったときと大分聴衆の質は違うと思います。しかし、中には恐らく反発してくる者がいるかと私はおそれておったんでございますが、そうでなかった。  これなんかも、今、アメリカ政府のといいますか、レーガン政府からの要請とどうも平仄が合わないような気がいたしますので、どうしてそうなるのかということを私なりに推測してみますと、日本に非常に激しい執拗な軍事力要請をしてきている。もちろん、インバランスの問題もひっかかっておりますけれども、このワシントンが特にひどいのでございます。その理由を私なりに推測してみますと、一つの議会の雰囲気といいますか、議員心理というものが働いている。  そこら辺はそれこそ先生方にお聞きしたいと思うところなんでございますけれども、今アメリカの議会で日本をかばうということは、何かはばかられる空気があるのでございます。というのは、来年選挙がございますので、あの議員候補は日本に甘いと言われることは、どう考えてもその議員さんにとっては間尺に合わないというような気持ちが働く。したがって、日本が今軍事力の増強をすることには釈然としない議員さんも、どうもそういった議員心理といいますか、議会の雰囲気にのまれて、コングレスの声といいますか、アメリカ政府あるいはレーガン政権の声として出てくるものが今申し上げたようなことになるのじゃないかと私は考えるわけでございます。それ以外にも随分、私は良識と言いますが、人によっては良識じゃないと言われるが、とにかくレーガン政権と違う意見を述べる有識者がたくさんいるわけでございます。  「原子力科学者月報」ですか、これの最近号でございますが、それに、先生方御承知と思いますけれども、歴代の米国大統領の科学関係のアドバイザーを務めましたジェローム・ウイズナーというのが書いております。これは後ほど時間がありましたら申し上げたいと思いますけれども、アイゼンハワーの離任演説にありましたとおり、軍産複合体からのプレッシャーというのが非常に多いのでございます。このウイズナーが今度書いておりますのは、今のアメリカ国民をこの軍産複合体のプレッシャーから救うというような時代ではもはやなくなった、もっとひどいのだと。トータルイン ミリタリー カルチャー、要するに全面的に軍事力といいますか、軍事的な文化からアメリカ国民を救うということがただいまの問題であるというような強烈な書き方をしている。これはウイズナー、かつての大統領補佐官がそういうことを言っているのでございます。  それから、ちょっとど忘れいたしまして平仄は違うかもしれませんけれども、例えばフルブライト前の上院議員は非常にいいことを先年言っておられました。今の世界において偉大な国として尊敬されるためには、軍事力によらず、非軍事的な手段でそういった国になり得る資格と能力を持っているのは日本だということを、これは数回あの方はあちこちの演説で言って回っておられますけれども、私はこれなどは非常に拝聴すべき意見でなかろうかと思うわけでございます。  ということで、今、日本のやっております政策に対するところの国連内での風評、それから各世界における風評、特にアメリカ自体における世論の動向というものが、どうもアメリカ政府のあれと必ずしも平仄が合っていないということを実は申し上げたわけでございます。  そこで、なぜ一体そうなっているのか、レーガン政権の政策が今のようになっているのかということは、これはもうここで繰り返すまでもございませんで、要するに力の信奉者であるところのソ連と対決していくためには、こちらも力を持たなければならないということで軍備の拡張に努める。そうしてこちらの主張を通すには、まずその軍備拡張に努めるということでございますが、ソ連の側にしても当然のことでございまして、これし対抗する。非難の応酬はますます声高になっていく。こういった状況において、軍縮ということを考えることは、これは到底不可能なことでございます。と申しますのは、どちらか一方が譲歩をする、あるいは妥協をするということは、とりもなおさず自分の弱味を認めるという証拠にほかならないということになるわけでございますから、これはもう到底できぬ相談である。  もう一つは、力の均衡、抑止力の均衡ということが盛んに言われます。第二次大戦が終わりましてから四十年間にわたってとにかく大きな戦争はなかったということは、考えようによっては確かに抑止力の均衡があったことは歪みがたい事実でございます。しかし、これはある一定限度を越えてしまって、ただいまではとにかく広島型で言いますならば八十万発の核兵器があるそうでございますが、オーバーキル、過剰殺りくの段階になっている。先ほど申しましたジョージ・ケナンなどは、その点を非常についているわけでございまして、一番最近の著書の中で言っているそうでございますが、私は不勉強でまだ読んでおりませんで、孫引きでございますけれども、とにかく相手国を何回も破壊し尽くすだけの核兵器を持っておりながら、一発でも相手国よりこれを多く持つことが安全保障に寄与するのだといった発想自体が全くの錯覚であるというような言い方をしておられます。私はまことにそのとおりだと思うわけでございます。  抑止力の均衡ということを申す以上、これは長靴の泥みたいなものでございまして、どんどんエスカレートしていく。行き着く先は限りなき軍拡のエスカレーションだ。これは今までの米ソ間の軍縮交渉の成り行きを見てもおわかりになるとおりでございまして、この抑止力の均衡、力の均衡ということを言っている限り、とても軍縮ということは望みがたい事実だと思うのでございます。  したがいまして、これも先生方御存じのとおり、パルメ委員会というものが往年設けられまして、このパルメさんというのはスウェーデンの、現在また再び総理になっておられますが、軍縮と安全保障に関する独立委員会というものをつくられました。これは単に学者のみならず、実務家、それから政治家の方々も、世界じゅうの有能な政治家の方々を網羅したところの委員会でございますが、それが結局結論として出しましたのは、この核の時代においては、とにかく新しい世界観に基づくべきで、今までは敵方に対抗してやってきたんだけれども、その敵方に対抗してではなく、敵方と一緒になって、共同して共通の安全保障を図らなければならない時代になっているということを言っている。  これも実際問題となりますと、確かに理屈はそのとおりでございますが、なかなか面倒でございます。しかし、その核の均衡といいますか、抑止力の均衡ということではできないのだということを論破した点において私は非常に高く評価しているのでございます。  さてそこで、そういった理論づけといいますか、ができるわけでございますが、もっと端的に考えますと、アメリカの側においてもソ連の側においても、社会構造的に軍事努力の増強ということに利益を見出すグループがいるということが最大の軍縮交渉がいかない理由じゃなかろうかと思うわけでございます。これにつきましては、かの有名なアイゼンハワーの離任演説がございまして、これは先生方十分御存じのことだと思いますけれども、大変重要なことで、現在ますますそういった状況がひどくなってきておりますから、あえてもう一回繰り返さしていただきまして、皆様の御記憶を新たにしたいと思うのでございます。  アイゼンハワー大統領が離任するに当たりまして、恒例に従いまして、上下両院の合同会議におきまして演説をなさいました。その中で、実は自分が大統領を引き受けた最大の理由というのは、軍縮を何としてもなし遂げたかったから引き受けたんだ、しかし、今、八年の任期が終わるに当たって自分が考えるに、全く失敗をした、自分が軍縮をそれほど心がけたと言うと皆さんはおかしな顔をするかもしれない、なぜならば、自分は軍人の出身である、しかし、軍人の出身であるがゆえに自分は何としてもこの軍縮をやり遂げたかったんだと。これに失敗した理由というのは、二つのプレッシャーグループ、圧力団体からの圧力がこれほど強いということは自分は知らなかった、そして、自分はその圧力に負けたんだ、その圧力団体というのは、一つにはミリタリー・インダストリアル・コンプレックス、軍産複合体であり、もう一つはサイエンティフィック・テクノロジカル・エリート、要するに科学技術のエリート陣営、これからのプレッシャーがこれほど強いものだとは思わなかった、これのプレッシャーに実は自分は負けた、したがって、軍縮に失敗したということを言われた。  これは十分御承知のとおりでございますが、この状況は、私は現在ますますひどくなっているのじゃなかろうかと思うわけでございまして、今度のSDI一つとってみましても、何でレーガン大統領があれほどこれに執着するかというのは、やはりこの二つのプレッシャーグループからのSDIにかける熱意といいますか、彼らは軍拡に利益を見出すと申しましたが、決して私利私欲に基づいて言っているわけじゃなしに、心底信じているわけなんでございます。したがってそれだけにかえってやりにくいというか、反対しにくいわけでございますが、それが現在非常に当時よりももっとひどくなっているという、こういった社会構造的なものがあると思うのでございます。  そこで、お話が大分あっちに飛びこっちに飛び申しわけございませんけれども日本といたしましては、冒頭に申し上げましたとおり、自律的に一体どうするのが本当の日本の国際責任を遂行する方途であるかということをひとつ十分に考えて、日本日本なりの行き方でいくべきでなかろうかと思うわけでございます。防衛政策一つとってみましても、日本の防衛は平和憲法のもとで、専守防衛、非核三原則、武器輸出の抑制といった、要するに小規模かつ限定された侵略に対抗して国土を守る、国土防衛ということが日本の防衛政策でございまして、これはやはりアメリカのように、世界戦略上ソ連に対して軍事優位を確保するというのとは大分話が違うわけでございまして、日本には日本の行き方があるわけでございます。したがいまして、一部には日本の現在の平和憲法を制約であるとか、足かせであるとか、あるいは負い目であると感ずる向きもあるようでございますが、私はそうは考えておりません。これはやはり我が国の平和憲法というのは、日本が二十一世紀以後における民族国家のあり方を先取りしたものだというくらいの矜持を持ってしかるべきだと思うのでございます。  こういうことを私実は申し上げますと、外務省のごく一部でございますが、先輩から、おまえは一体四十三年間も職業外交官をやっておって、そんなナイーブな、素朴な理想主義的なことを言って回って、少しおかしいのじゃないかというおしかりをこうむるのでございますが、私は私の信念に基づいてそういうことを言って回っておるのでございます。実はジュネーブにおける軍縮大使として、あるいはニューヨークにおける国連大使として訓令がございますので、心ならずも先ほどの均衡論というようなことをぶっておったわけでございますが、ただいまは私、北は北海道から南は九州まで、お求めがあればどこへでも薄謝に甘んじまして出かけましてこういうお話を申し上げておりますのは、実は罪滅ぼしのつもりでやっておるわけでございます。  ということで、日本の行くべき姿というのは、やはり先ほど申しましたフルブライトさんじゃございませんけれども、軍事努力というよりは非軍事的な面で大いに国際責任を遂行していくということが平和憲法の精神でもありましょうし、また、素朴な国民の平和志向的な国民意識に素直に従っていくということの方がだれからも非難攻撃を受けない。先ほど来申し上げておりました外堀を埋めるといいますか、国連あるいはそれ以外の各国における反響というものを見ましても、早い話――ちょっともうあと二、三分お願いいたします。国連に関してせっかくの機会でもございますから申し上げさせていただきますが、平和維持機構PKOですね、ピース・キーピング・オペレーション、これは恐らくは緒方先生あたりからお話があったんじゃないかと思いますけれども日本は金、物の面では大いに貢献しておりますが、人はどうしても出せない。自衛隊の海外派遣につながるというような議論もあるようでございますが、これはまことにおかしな議論でございまして、国際的に申しますならば、日本が今自衛隊を平和維持機構に派遣するということになりましても、どこからも非難攻撃を受けません。これは賞讃されこそすれ非難攻撃を受けない。ただこれは全く日本の国内問題でございます。  したがいまして、国際的には、日本は平和憲法に籍口して人を出さないということになっております。これはもっと手近な例を申し上げますと、例えば、一千海里海上路の防衛ということを言いましたときに、日本と意思疎通が非常によろしいASEANの諸国、フィリピン、インドネシア、マレーシア、そこら辺の首脳者が直ちに懸念を表明し、危惧を表明したのとは違いまして、日本の自衛隊を派遣いたしましても、どこからも非難攻撃は受けません。そうして、しかもそれは私をして言わさせていただきますならば、平和憲法の精神に沿ったものでありこそすれ、憲法のどこにもそんなことは書いていないのでございまして、これはまことに平和憲法に籍口してあれしているのでございますから、何としてもこの点は全くの国内問題でございますので、前向きに御検討いただければ非常にありがたいと思います。  これは、もっと直截に申しますならば、国連における日本の風評を上げる意味においても大いに貢献するところだろうと思いますので、特にこの点せっかくの機会でもございますからお話し申し上げました。  準備もしないで参りまして、勝手気ままな自由奔放にお話を申し上げましたので、あっちへ飛びこっちへ飛びで大変申しわけございませんでしたが、時間が参りましたのでここでとめまして、あとは御質問がございましたらそれにお答えをするという形で私の考えているところをお話し申し上げたいと存じます。  大変ありがとうございました。
  35. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) ありがとうございました。  次に、五十嵐参考人にお願いいたします。
  36. 五十嵐武士

    参考人五十嵐武士君) 五十嵐です。  本委員会にお招きいただきまして非常に光栄に思っております。  ただ、今までのお三方の参考人の方がいずれも国連における経験をお持ちの方だったわけですが、私の場合には国連における実務経験が全くございませんものですから、国連平和年日本外交というタイトルでお話しするわけですけれども、むしろ国連の実務というものではなくて、国連平和年にちなんで日本外交を考えるというような観点からお話しさしていただければと思います。  私はアメリカの政治外交史というのを専攻いたしておりまして、特に戦後のアメリカの外交を専攻しておりますが、具体的には五一年の日本とアメリカとの対日講和条約の締結その他については実証的な研究をやっておる者です。そういうふうに戦後の日米関係を専門にする立場から考えまして国連平和年というものを想定しますと、一番最初に考えつくもの、思い起こされるものは何かといいますと、日本国憲法第九条の問題になるわけです。  これは今でもいろいろ論議の対象になっておりますけれども、そもそもこの条項が起草されましたゆえんというのは、国連による集団安全保障というものを前提にして日本世界国際社会安全保障のもとに戦後再出発するという誓いを立てたものであったわけです。また、御存じのように日米安全保障条約というものでも国連における集団安全保障が十分ではない、それが実現するまでの間の暫定的な措置として日米安全保障条約というものを締結するということがうたってあるわけです。それが戦後の日本国際社会への出発点であったわけで、それを国連平和年に当たりましてもう一度想起する必要があるのではないかと思っております。  そうした戦後日本国際社会への第一の出発を前提にして現在の状況を考えますと、これはこれまでのように国際社会においていわばマイナーな存在で余り目につかなかった日本から、経済大国になり、だれもが注目しだれもが挙動、一挙手に関心を抱く、また対外的にもいろいろな意味で影響を与えております。単なる影響だけではなく脅威すら感じている国が多くなっているという状況の中で、現在の日本は戦後第二の国際社会への出発というような段階に来ております。将来にわたって今後の日本がいかなる国際的なアイデンティティーのもとで外交を展開し、国際社会における一員としての責務を果たしていかなければいけないかというのを考えていかざるを得ない地点に立っているのではないかと考えられるわけです。  御存じのように、大平首相以来、西側諸国の同盟国という位置づけが日本外交の中で主張されるようになっておりますが、そうした大平首相以来の日本の国際的な地位の位置づけというものも、先ほど西堀大使がおっしゃいましたことに関連いたしますが、具体的な面を見ていきますと、やはりアメリカの外圧というものに対する一種の対応である。そうした意味で外発的な自己規定であって、日本自体の内発的なまた将来にわたる展望のもとで設定されているような措置では必ずしもないのではないか。現在、特にアメリカから経済問題あるいは防衛問題でさまざまな要求が来ます。これは幸いなことに日本では余りナショナリスティックな反発の対象にはなっておりません。この点はこれまでのいわゆる外圧と言われる外国からの不当な介入というイメージとは違って、日本にも一半の責任があるという自覚が日本国内にかなりあるからではないかと思うわけです。  ただ、それにもかかわらずこうした外圧は続いている。この点については、やはり日本国内の一種の既得権益の体系があって、それに対して十分こたえられない。またもう一つは、極めて重要な点ですが、これまで対外的に多くの面で依存しながら日本経済成長が進んできて、この結果、経済的な繁栄をともかくも達成することができた。そのことによって逆に自己充足的になって、国際的な関係日本が初めて国家的な存立を果たし得るのだという自覚が余りなくなってきているのではないか。そのことによって将来にわたっても日本はいかなる形で存立していかなければいけないかという真剣な討議が十分なされない、そうした精神的な安閑とした態度が現在の日本には見られるのではないかという感じを受けるわけです。  これも西堀大使がおっしゃいましたように、単にアメリカ側の外圧あるいは他の国からの要請にこたえるだけで今後日本国際社会との関係をなし崩し的に済ましていくということであれば、将来の展望、またこれまで平和国家というシンボルのもとで一応果たしてきた国家的な存立というものが損なわれる危険がかなりあるのではないか。現にGNPの一%の問題も出ていますし、非核三原則が果たして守られているのかという問題も出ている。そうした原則は、平和国家としての日本の存立にとっては極めて重要な点でありながら、そうした現実が果たして十分確保されているのかということについての論議また調査というものが十分になされない。そうしたままでいることは将来にとって禍根を残すのではないかという感じを持つものであるわけです。それで、果たして現在の国際情勢において日本が今までのような原則を持ち平和国家として存立することが不可能なものであるかどうか、そういうものを検討しておく必要があるのではないかという感じを受けるわけです。  安全保障の面で防衛力の整備がアメリカ側から要請され、また日本側からもこたえるといった動きが見られるわけです。これはアメリカの軍事力が必ずしも今までのように十分ではなく日本安全保障をカバーすることができなくなってきている。それはソ連の極東軍、特に太平洋艦隊の増強あるいは中距離核戦力のSS20などがあってソ連の脅威が増していることから日本の防衛力の整備が必要であるというふうにいわれるわけですが、この場合にソ連の太平洋艦隊が増強されているのは事実ですけれども、なぜソビエトの側は増強するのかという問題、原因が何かというのをやはり一応考えておく必要があるのではないか。これは、ソビエトは脅威がなくても増強するのだという主張もありますけれども、基本的にはやはりアメリカの脅威がソ連にある。それに対する防衛措置として行っていることは事実なわけで、このアメリカの脅威に対してソビエトが対抗する結果が日本に対してソ連の脅威としてあらわれてくるという基本的な事実を押さえておく必要があるのではないかと思うわけです。  こうした状況の中で、ソ連の脅威に対抗するために日本もまた防衛力を整備しアメリカの軍事力を補完するというようなことになれば、ソ連に対する日米の脅威というのが生じていき、またそれがソビエトに対する、ソビエトの軍拡を招いていくという悪循環の中にあるわけです。また、中距離核戦力であるSS20があることが日本にとって極めて脅威になっているという主張があるわけですが、ソ連も主張しますように、このSS20の大半は中国に対する防衛措置であるわけで、中国にとっては脅威になるわけですが、必ずしも日本を主たる対象とするものではない。これに対してアメリカ側は、巡航ミサイルを配備することによって対抗措置をとるということを行っていますが、実はヨーロッパの場合にパーシングⅡを配備しなければならなかったという事情とはかなり太平洋の場合には条件が違う。  それは端的に言ってなぜかといいますと、ヨーロッパの場合にはいわゆる戦域というのが成立するわけです。ワルシャワ条約機構軍に対してNATO軍が対峙するという戦域が成立するわけですが、北西太平洋に関する限りそうした戦域は成立しないわけです。なぜ成立しないかと言えば、北極を中心にする地図をごらんになればわかるわけですが、アメリカとソビエトはベーリング海峡を挟んでいわば陸続きの国なわけです。ですから、北西太平洋における問題は大韓航空機事件が非常に明らかにしたように、米ソが戦略的に対峙する、米ソが直接対峙している場の問題であって、この北西太平洋におけるアメリカ軍あるいはソビエト軍の増強というのはそれぞれにとっての本土防衛の問題です。  そういう点からいって、戦域核である、中距離核戦力であるSS20の脅威日本にあるわけですが、米ソの関係で言えばアメリカの戦略核で十分対抗できるという関係になりますから、あえて中距離核戦力でSS20に対抗する措置をとる必要はないわけです。巡航ミサイルのようなものを配備すると、核の相互の関係において不安定要素を増しますから、むしろ緊張が高まるという危険があるわけです。三海峡封鎖などのように日本がアメリカの直接軍事作戦に加担するというような措置も、またそうした意味での緊張を高めるということはおわかりになると存じます。したがって、日本の場合には非核三原則といった現在までの原則を保持する方が北西太平洋地域におけるソ連に対する脅威増加させないという面がありまして、むしろ米ソが軍拡競争を進める上で歯どめの役割を果たす可能性があるということになります。  今回のジュネーブにおける米ソ首脳会談でも明らかになりましたように、そうした核兵器における軍拡競争を抑制し得る唯一の可能性は何かといいますと、米ソの間に相互の信頼が曲がりなりにも形成されていくということなわけです。兵器だけではなくて、両国の首脳がどういう意図を持っているのかということを相互が理解し合うということが、軍縮交渉あるいは軍備管理交渉においてすら相互の軍事力を抑制する上で極めて重要な意味を持つわけです。今度の米ソ首脳会談は、恐らく軍縮という面では必ずしも即効的な成果をおさめたと言えないかもしれませんが、これまでの八○年代の第二次冷戦という極めて国際的な緊張をもたらした事態との連関で見るならば・少なくとも米ソ首脳が相互の信頼を修復する可能性を見出しているということが言えるのではないかと思います。  これは例えばどういうところであらわれているかといいますと、共同声明の発表が実はかなり危ぶまれていたわけです。ところがそれが結局は実現した。その実現した最大の理由は何かといいますと、ソビエトがSDIの反対を共同声明文に盛り込むことに固執しなかった、ゴルバチョフ書記長がこの点を譲歩したから可能になったわけです。それでは、ゴルバチョフ書記長はなぜ譲歩したのか。恐らくいろいろな理由があると思います。一つ理由は、レーガン大統領と四時間半にも及ぶ会談を行った結果、レーガン個人についての感触を得たのではないか。そうした面がやはり今回の会談の成果として挙げられるのではないかと思うわけです。軍縮の面についても、今後どういうふうになるか予断を許さない要素は多いわけですが、それでもINFに関する暫定協定あるいは核兵器の五〇%削減を目標にするということはうたっているわけです。これは米ソ双方にとっての戦後の軍備管理歴史の中でも特筆に値することではないか。今までは軍備管理はうたいましたけれども、軍縮を目標として掲げたことはありませんし、実現したものは一切ないわけです。そういう面で多少の希望が持てるということになるわけです。  それでは、日本外交を考える上でこうした状態の中でどういう可能性が見出せるかということになるわけですが、これは七〇年代のデタントの構造を一応考えてみる必要があるのではないか。といいますのは、御存じのように七〇年代のデタントが可能になった条件は、SALT(戦略兵器の制限交渉)が米ソ間で開始され、SALTI、SALTⅡといったような条約がともかくも調印されたということにあるわけです。そうすることによって核戦略レベルでの緊張が和らげられた。その反面、アメリカはグアム・ドクトリンその他でアジア地域から撤退しなければいけないという条件もありましたが、米ソが直接責任を負わない形で世界の各地域地域的な安定化を図るという措置をとっていったわけです。この地域的な安定化はいわゆる多極化というような表現でなされますように、米ソという超大国以外の国がそうした地域での安全保障に責任を負うという形で行われたもので、例えば一九六九年十一月の佐藤・ニクソン共同声明というのがありますが、この共同声明に韓国条項、台湾条項というのが入って、日本安全保障について関心を強く持つということを表明しているわけですが、これなども、アメリカにかわって日本がアジア地域における安全保障の担い手になるのだということを誓約させられたものだったわけです。  ただ、日本にとって幸いなことに、これはアメリカの外交的な努力、米中接近という画期的な外交努力によって日本側のコミットメント、安全保障上の責任というのは実質的にとらなくても済んだわけです。この点からいっても緊張緩和における外交役割というのは極めて重要であるということは言えますし、また日本ばかりではなく、朝鮮半島においても、こうした米中間の緊張緩和に基づいて韓国、北朝鮮が自主的に対話をせざるを得なくなる。大国が介入しないことによって地域的な紛争を抱える国が自主的に対応せざるを得ないという状況をつくり上げていったわけです。一九七二年七月四日の南北共同声明というのは、その後の時代の中で必ずしも成果を上げたとは言えませんが、ともかくも韓国、北朝鮮がこうした緊張緩和への努力をせざるを得ない事態をつくり上げていったわけであります。  しかも、こうした七〇年代のデタントの構造を考える上で重要なのはアフガニスタンへのソ連の侵攻という問題になるわけですが、デタントの構造が崩壊したということを考えますと、結局こうした地域紛争が災いしてソビエトとアメリカとの間の核兵器に関する相互理解まで破壊されていくという事態になっていきますから、こうした意味で、デタントの構造を保持する上では地域的な紛争を処理できる、あるいは穏便に済ませる可能性を探ることが重要ということになります。日本は、米ソの軍縮努力に対しては要請するという以上のことはなかなかできにくいことになりますけれども地域紛争のようなものに対しては軍事力を媒介にしなくても経済力を背景にして貢献し得る余地はかなりおるわけです。  同本の場合に問題になりますのは、この経済力を背景にして貢献する道になるわけですが、御存じのように政府開発援助費と言われるODAの額もそれほど大きくない。財政問題を抱えていますから、こういう点での努力は要請されながらなかなか果たせないというのが実情になっている。  この点について、素人考えですけれども、なぜ果たせないのかというのは考えてみる必要があるのではないか。中曽根首相が、日本の国民は豊かだけれども日本政府は貧しい、したがってこうした努力はできないのだということが果たして国際的に通用するか。なぜできないのかというのがいろいろな問題になって出てくると思いますが、多少考えただけでも、例えば経済摩擦との関連で考えただけでもアイデアは出し得るのではないか。先般も二階堂副総理がアメリカにいらしたときに、アメリカの小麦を日本が買ってそれをほかの国に回したらどうかという案を出されたわけです。これはアメリカとの経済摩擦を解消する上では非常に有効な考え方だったんではないかと思いますが、財政的な事情でこれはできないということで済まされてしまったように思いますが、果たしてそれ以外に日本としてはやりようがないのか。あるいはまた、アメリカから市場開放を要求されていますけれども日本の業界でも弱いところが対象になるような市場開放が要求されることによって、日本側はなかなかこたえられない。そのアメリカ側の要請する市場開放ができないことによってアメリカとの摩擦は続くということになるわけですが、果たしてこの問題も解決できないのか。  ここで考えていただきたいのは、貿易黒字がかなりありますけれども日本の産業全般がこの貿易による収益を享受しているわけではないということです。極めて不均等に享受していて、享受しているところは余り負担しない。ところが、市場開放の要求を受けるようなところはむしろそうした収益からは遠い産業であるという問題があるわけです。これは正確な数字ではありませんけれども、新聞の報道によれば、一昨年から昨年にかけて日本の在外資産は倍増して十九兆円になったというようなことも書かれているわけです。そうした日本の貿易活動における収益が、日本の国内に還元されないで在外資産としてとどまっている、そのことによって日本国内の内需というものが拡大できない、その結果貿易摩擦というものも解消できないという状況にあるわけで、そうした国際関係、貿易関係における収益を活用することを考えていくことが必要ではないかと思うわけです。  中曽根首相が民間企業に輸入振興を要請したところ、七十億ドルぐらいの計画が出てきたということになります。そうしますと、国民一人当たり百ドル輸入品を買ってくれという要請よりもはるかに効果的な措置がとれるわけです。そうした措置をもっと積極的にとる方法はないのか。自由貿易主義を主張するということは、日本の企業活動にとって極めて有益であるかもしれません。しかし、それによって利益をこうむる民間企業は、果たしてそれに相応するような国際関係緊張緩和あるいは経済摩擦の解消ということに対して努力をしているかといったら、努力をしていないのが現状なわけです。  そういう意味で、民間企業の公共的な活動についての指導ないし奨励策というものを検討していかなければいけない段階に現在は来ているように思えるわけです。例えば、いろいろな形でできると思います。財団の創設あるいは寄附行為等への税制的な面での優遇措置、あるいは優遇措置をとらないまでも必要性の指摘、そうしたものがなされるならば、かなり国際的な意味での日本のアイデンティティーも違った形で評価されてくるのではないか、それからまた、日本自体がそうした方針をとればそれなり努力もなされ得るのではないかと思います。  私のようにアメリカの研究をやっておりますと、アメリカの財団から常に援助を受けるわけです。研究をするためにアメリカに行かなければいけない。日本の財団を探してもなかなかないわけです。結局アメリカの財団に頼ってそちらから奨学金をもらって行く。日本経済的に豊かになったのになぜそんな大した額でもないものを出せないのだということをよく聞かれます。それはやはり税制その他で、まだまだ日本はそうした国際的な活動を行う、また国際的に貢献するという意識が十分育っていないせいではないかと思うわけです。民間企業の方々もお気づきになって小規模ながら財団がつくられているわけですけれども、もっとそうした面での努力を奨励することによって、政府レベルだけではなく、民間も加わった形での国際的な貢献というものを考えていく必要があるのではないかと思うわけです。  大学におりますので、一つだけ皆様にお願いをしておきたいことと、また国連との関係でお話ししたいことがございますが、それは国連日本人職員が極めて少ない、また、国際的に活躍できるような日本人がまだまだ少ないということでございます。私も、国際的な人間、社会科学者を養成しなければいけないというプログラムのもとで、フェローシップをもらってアメリカに二年ばかり行く機会を得られましたけれども、そうした養成計画、国際的な活躍ができるような人たちの養成計画を考えていただきたいと思うわけです。一つは奨学金という制度をつくっていただきたいと思いますし、もう一つは海外に行って活躍した人たち日本に戻っても相応に評価される、そうした組織の改善といいますか、そうした形の組織の運営をさまざまな形で考えていただきたい。  また、これは西堀大使を前にしてこういうことを言うのもなんですが、どうも日本外交官も、一定の任地には三年ぐらいが限度で、余りそれぞれの国の文化的な背景まで含めて熟知する人を養成するということができていないように思うわけですが、そうした意味外交関係のソフトウエアを充実させていくことがいろいろな意味日本外交の柔軟な展開というものを切り開いていけるのではないかと思うわけです。  以上、いろいろ申し上げましたけれども、現行の制度ではなかなかやりにくい問題が多いと思います。しかし、現時点で将来にわたって日本がいかなる国際的なアイデンティティーを確立するかという高所から考えていただいて、こうした措置実現できるようなリーダーシップを発揮していただきたいと存じます。
  37. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) ありがとうございました。  以上で参考人からの意見聴取は終わりました。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は、小委員長の許可を得て順次御発言を願います。
  38. 石井一二

    石井一二君 自民党の石井でございます。  本来なら両参考人に御質問すべきですが、やや時間もおくれて進んでおるようでございますので、私は西堀参考人にのみ御質問をさしていただきたいと思います。  いろいろなお話の中で、国連での日本の評価は芳しくないというお話があったかと思います。その二つとして、暗に日本を指しつつ日本が軍国主義の復活を図っておる云々という話も出ておるというような御意見でございましたが、やはり国連を含めて外交筋で日本は専守防衛だとか、非核三原則だとか、武器輸出の禁止をしておるのだということをもっともっと徹底さす努力が欠けておるのではないかという気がいたしました。意見として申し述べておきたいと思います。  それで質問ですが、同じく国連における日本の評価は芳しくないということに関連して三つ理由を言われたわけですが、その中で米国に対する同調ということがよくないというような御意見があったと思います。その関連で軍縮委員会の話が出てまいったと思いましたが、確かに軍縮委員会においては過去部分核禁条約であるとか核不拡散条約等を成立さしておりますし、また、核実験の全面禁止だとか非核兵器国の安全保障といったような論議もなされております。  それで、過去の日本のこういった国連関係あるいは軍縮委員会等の核軍縮という観点から見てみますと、核実験の禁止だとか核物質の生産禁止等を強く叫んでおりますけれども、事核不使用の決議ということになると、今まで言っておったことと逆に米国に同調してそれに反対あるいは棄権をするというややひきょうともいうような態度をとってきておる節があるように思うのです。この辺はなぜそういうことになっておるのか、その辺についてどう考えておられるのか、御所見があればちょっと聞きたいということと、軍縮に検証措置というものがつきものだ、そうでなけりゃ私は軍縮軍縮と言っておっても遵守を確保できない気がいたしますが、検証措置についてこういうことがあるのだと、簡単で結構でございます、時間の関係もございます、教えていただければありがたいと思います。
  39. 西堀正弘

    参考人(西堀正弘君) まず、第一問でございますが、核不使用の決議になぜ日本は妙な投票態度をとるか、しかもその投票態度がその年々によってくるくると変わる、おかしいじゃないかとおっしゃいました。そのとおりでございまして、我々といたしましては、対米考慮ということがなければもっとすっきりした投票態度がとれるわけでございますけれども、やはり先ほどちょっと申し上げましたように、日米関係というものが日本にとって有しているところの圧倒的重要性ということを考えますと、現実外交の場におきまして心ならずもそのときどきの状況によりまして投票態度が必ずしも一致しない、ないしは本当に純粋に考えた場合に日本はこうあるべきであるという投票態度をとりがたい実情があるということだけ申し上げたいと存じます。  もう一つの第二点、軍縮交渉におきます検証問題でございますけれども、これは確かにチーティングということを非常にアメリカなどはやかましく言うわけでございます。これまた日本政府のただいまとっておる立場と、私自身軍縮委員会における代表としてやってまいりました感覚から申しますならば、この検証問題というのは、アメリカがこれを理由にして実は軍縮を促進しないという面も多分にあるということを率直に申し上げたいと思うわけでございます。  例えば、地下核実験一つとってみましても、現在では十キロトンまで、日本、スウェーデン、カナダあたりが推進しておりますところの地震学的方法によりますと感知できるわけでございますね。にもかかわらず、この検証、特にオンサイトインスペクション、現地査察でございますね、これがどうしても必要なんだということ。なぜそれをやるのかということ、突き詰めて申しますならば、はっきり申しましてアメリカの軍部、これはソ連も同じでございますけれども、核実験を続行したいのだということでございます。これが基本にあるわけでございまして、言うなれば検証問題ということを一つの口実にしているということをはっきり言って申し上げられるかと思います。  しかし、その事情はソ連の軍部も同じでございます。したがって、ソ連を困らす意味におきましては、ここでひとつ芝居を打ったらどうかということを実は私は、アメリカの軍縮大使あるいは国連におきましてカークパトリック大使にも申し上げたことがあるのでございますが、アメリカがこの検証問題はひとつ譲歩する、言わないということをやったら、困るのはソ連だよということをよく言ったんでございますが、なかなかそれには、先ほどのアイゼンハワーじゃございませんけれども、ミリタリー・インダストリアル・コンプレックスの実情もございまして、とてもそこまではアメリカ政府もいけない、そういう芝居はとても打てた状況ではないというのが実情でございます。
  40. 久保田真苗

    久保田真苗君 西堀大使にお伺いします。  国際平和年なんですけれども、第三次軍縮特別総会が開かれることになっております。ところで、この前の第二次特別総会のときには日本その民間団体、婦人団体、宗教団体等は非常な熱を入れましてびっくりするような活動ぶりだったんですが、実際に行ってみまして、第二次特級の成果というものは極めて失望すべきものだったと言われております。このたびまた第三次特総があるということで民間団体がぼつぼつ張り切ってきているのですけれども、今度この国際平和年に関連して開かれる第三次特総を従来のようないわゆる草の根民間レベルと政府の著しいギャップを感じさせず、それをまた再度の失望にならないためには、これは大使として国連外交の中心にいらっしゃいましたので、何かアドバイスをいただけないかと思います。
  41. 西堀正弘

    参考人(西堀正弘君) 大変面倒な御質問でございまして、やはり民間団体、NGOですか、の代表としておいでになる方と、それから日本政府とがその出席を前にして意思の疎通を図る、そして相協調するといったことを地道に努力するという以外にこれに対する妙手はないのじゃないか。これでは先生の御質問に対するお答えにならないと思いますけれども、率直に申しまして私にはアイデアはございません。
  42. 久保田真苗

    久保田真苗君 ありがとうございました。  五十嵐先生に伺います。  企業活動をしている傍らアメリカの財団のような公益的な仕事が非常に少ないということですが、これは日本企業家が欲張りなのか、大蔵省が欲張りなのか、どの辺に理由がありますんでしょうか。
  43. 五十嵐武士

    参考人五十嵐武士君) 本質的に言えば二つあると思うのですが、一つは、日本の企業は組織がオーナーといいますか、個人企業的な性格が弱いものですから、もし寄附をするということになればいろいろな機関で討議しなければいけないという問題、あるいは長期的な企業経営の方が優先されるという面が一つあると思うのです。  もう一つは、もっと本質的なのは、やはり慈善の考え方がない、そして、どの程度が公正な利益で、それ以上の利益を社会還元するかというような発想が余りないからではないかと思うのです。アメリカの場合には、御存じのようにカーネギーにしても晩年かなりの資産を持った時点で財団をつくったり、その他の社会サービスの方に振り向けていくというような考え方がありまして、やはりそれは、残念なことにキリスト教的な考え方がないからではないかと思うのです。
  44. 中西珠子

    ○小委員外委員(中西珠子君) 西堀大使にお伺いさせていただきたいと思います。  まずお礼を申し上げたいのでございますが、大変率直な御意見を伺わせていただきまして大変参考になりました。  日本の平和憲法は二十一世紀における民族国家のあり方を先取りしたものであるという御発言に対しては、全く同感なんでございます。そしてまた、日本軍事力増強よりも非軍事的な面において世界の平和と安定のために貢献するべきだという御意見にも大賛成でございまして、全く同感なんでございますが、それでは、自衛隊の海外派遣が必要だとおっしゃいました、このこととはどのように結びつくのでございましょうか。時間がなくてゆっくりと御説明がおできにならなかったから私がちょっと疑問を感じたというふうにお考えくだすって結構なんでございますが、自衛隊派遣はどのような場面を考えて派遣するべきだとお考えになっているか、また、自衛隊がどのような機能を果たして世界平和に貢献するべきだとお思いなのか、この点についてまずお伺いしたいと思います。
  45. 西堀正弘

    参考人(西堀正弘君) 私、自衛隊の海外派遣とこう申しましたのは、実は国連平和維持活動に対することでございまして、平和維持活動というのは、これは実は国連憲章のファウンディングファーザーズがお考えになった、創始者が考えられた国連軍というものが米ソの対立でワークしなくなったということから、一つの生活の知恵として生まれたものでございます。したがいまして、平和維持活動というのは、二つの紛争国がある、そうすると、その両方の紛争国の了承を得て、例えば休戦の監視でありますとか、停戦の監視でありますとか、全く軍事活動を目的としないものなのでございます。これは御承知のとおりでございます。したがいまして、仮に自衛隊を派遣するにいたしましても、これは我が平和憲法の精神に沿うことではあれ、といいますのは、国際の平和と安定に寄与するものでございまして、軍事活動を目的としているものじゃございません。したがいまして、これは平和憲法の精神に沿うものだ。にもかかわらず、日本はそれができない。  私はよく講演で言うのでございますけれども、ある町に自警団ができた、それである金満家のところへ行きまして、その自警団をつくった世話人の連中がひとつお願いいたしますということに対して、その金満家は、ああそれは町の警護が完全になるので大変結構なことだ、金と物は幾らでも出しますよ、しかしうちの長男だけは勘弁してください、というのが国際社会に映じているところの日本の姿であるということをよく申し上げるのでございます。  そこで、平和憲法には何らそんな条章はない。そうすると、何が必要であるかということは、これは確かに自衛隊法の改正は必要でございます。自衛隊法の雑則の何条でございましたかに、自衛隊は次の場合には海外に派遣することができるということが書いてございます。第一、オリンピックの参加、これは実際に行っております。これは射撃、馬術で行っております。それからもう一つは南極探検、これも行っております。だから、第三に持ってきて、国連平和維持活動への参加とうたえばいいわけでございまして、それだけのことなんでございます。したがいまして、国際社会において、日本は平和憲法に藉口して、そのただいまの国際責任を果たしていないという声があるわけでございますから、これは小さなことではございますけれども、やはり日本としてはやるべきことである。しかし、その国内問題、全くの国内問題なんでございますが、どうしても不可能だということでありましたならば、その不可能だという理由は私には全く想像もつかないのでございます。  そういう実情でありますならば、例えばスウェーデンのように、確かにスウェーデンの場合は憲法に自分の国防に関する場合のみ派兵できるということを書いていますので、憲法を改正いたしまして――失礼しました。憲法改正したのはオーストリアでございました。スウェーデンの場合は憲法改正じゃなしに、自分の国防軍以外に、国際平和維持活動への、軍隊じゃないです、派遣軍という組織をつくりまして、そうして別途リザーブしてやるわけです。そしてそれの人気は非常に上々でございまして、若い人たちが、特にスウェーデンは日光が少のうございますから、中東方面は夏喜んで行く。大変人気がございまして、東大の受験率よりも高いそうでございます。  というようなことで、道は幾らでもございますが、国内問題が理由になってやるべきことができないというのは大変残念だということを申し上げた次第でございます。
  46. 中西珠子

    ○小委員外委員(中西珠子君) 自衛隊法の改正もさることながら、もしそういう派遣を平和維持活動のためにやるとするとなりましても、これはやはり国民的合意というものが必要じゃないかと思うのでございます。そうするとなかなかこれは難しいことでございますし、まずまず私は、現在日本がもっとやるべきことは国際経済協力、殊に政府開発援助を質、量ともに、量は大分大きくなってきましたけれども、質の面で非常に劣っておりますから、殊に技術協力の比率が大変少ない。例えば一〇%ぐらいということで、ODAの加盟国の中で十四位ですか十五位ですかと大変低い地位にあるぐらいでございますから、まずまず技術協力で国際的に活躍のできる人材の養成ということも大事ですし、また、金と物は出すけれどもというその金と物の出し方が、やはり草の根の開発途上国の国民に潤いを与えられ民生の向上につながるような、また福祉の向上につながるような、そういった開発援助をもっとやっていかなくちゃいけないというふうに考えているわけです。ますますその方が急務ではないかと考えているのですけれども、いかがでございますか。
  47. 西堀正弘

    参考人(西堀正弘君) まことにそのとおりであると思います。経済上の問題、技術上の問題、そういった点で日本が大いに国際協力をやるというのはまさに日本のお家芸でございますから、これをトップに置いて大いにやることは結構でございます。  ただいま先生が、自衛隊の海外派遣という点は国民の合意を得るのが困難であるとおっしゃいましたが、それこそ先生方の御努力が足りないのじゃないか。これは私あちこちで講演してまいりまして、反響は絶対に私がそういう自警団の話なんかを申しますと、そうだそうだということで、これはやはり、各党の間のいろいろな考慮がおありだと思いますけれども、先生方の御努力が足りないのじゃないか。これは話せばわかることなんで、おかしいので、どうしたって理屈が合わのうございますから、ということをお願い申し上げます。
  48. 中西珠子

    ○小委員外委員(中西珠子君) ただ、自衛隊そのものに対する評価の仕方ということが非常に国民の間で分かれておりますから、なかなかそこまで、ぱっと自衛隊そのものを持っていくということは難しいかもしれないと、これは非常に西堀大使もお気づきではないかと思うわけでございます。  それはちょっと別といたしまして、五十嵐先生にお伺いしたいのでございますが、国際的に活躍のできる人材の養成計画がぜひ必要だとおっしゃいました。私は全く同感でございまして、参議院に来る前にはそのような仕事をしていたわけでございますが、奨学金をつくるということと同時に、日本に戻ってからの評価を高めることが大事だというふうにおっしゃいました。そういうクライメートをつくっていくということは本当に大事なんですけれども、まずまず、大学において非常に排他的、閉鎖的な面があって、それでアメリカの大学で勉強してきた人をすぐに受け入れない。もちろん、その大学を卒業して大学院の段階で行ったとかいう人は迎え入れられる、そして教授の職にもつけられるということでございましょうが、そうじゃない人で、大変いい研究などしてきてもなかなか日本の学界で受け入れることが難しいという傾向はございませんですか。私はあるんじゃないかと思っておりますが。
  49. 五十嵐武士

    参考人五十嵐武士君) 国立大学は去年から初めて外国人教師の方を教授に採用することが可能になりまして、我田引水で恐縮なんですが、東京大学の法学部にも中国人の、台湾人の方ですけれども一人入られました。それから、アメリカの大学、あるいは海外の大学で学位を取られてきた方が日本の大学に就職しにくいというのは事実だと思うのです。この点についてはいろいろの可能性があって、これは今後努力していかなければいけないということは事実なんですが、それでも十年前に比べるとかなりふえてきていることは事実で、今後かなり改善される余地はあると思います。
  50. 立木洋

    立木洋君 西堀参考人にお伺いしたいのですが、今までの御経験からして今度の米ソ首脳会談についての評価をお聞きしたいのです。  もちろん、これは全体を見ていただくとなると大変長いので、端的に次の点でお伺いしたいのですが、これは先ほど言われました抑止力の均衡ということでは核軍縮がうまくいかないということを批判的にお述べになって、私も全くその点では共通の認識を持つわけです。この米ソ首脳会談では、もちろんあの共同文書を見てみますといろいろな肯定的な面はありますけれども、この核問題、核軍縮の問題という面から見て、やはり依然として抑止と均衡という枠内にとどまっているのではないか。これは戦略的な安定だとか核の存在を前提として、それでどうバランスを維持するかと見ると大分厳しく評価しなければならない面があるのではないかと考えるので、この点での評価をお伺いしたいと思います。
  51. 西堀正弘

    参考人(西堀正弘君) 全くそのとおりでございます。  軍縮問題につきましては、先ほど五十嵐先生がおっしゃいましたように戦略核の五〇%を目指すということ、INFについての暫定合意という点がちょっと触れられましたけれども、SDIについては対立したままでございました。しかもその根本にありますのは、やはり抑止力の均衡というようなものが両者の間にあったと思います。  したがいまして、私は事軍縮に関しましては、モスコーとワシントンに分かれてお互いに犬の遠ぼえのように非難し合うことから考えましたら、この両巨頭が一カ所であれだけの長い時間会って話されたということは大変結構なことであって、今後これが何回も繰り返されるということは大変国際平和の増進という点から望ましいことだと思いますけれども、ただいまの核抑止力ということの均衡を図るといったアイデアにつきましては一歩も出ていないという、したがいましてその点に関する評価は、おっしゃいましたように大変厳しいことになると思うのでございます。  そこで私、先ほどのお話の中でも申し上げたかったことの一つは、今、カーター政権時代にアメリカの軍備は非常に下がった、その間にソ連が非常に大きくなったということが言われておりますけれども、これはアメリカ人の書いている中にもよくございますが、非常にイグジャジャレートされている、非常に誇張されているということ、それはペンタゴンの立場からしたらそうでございましょうということが言われております。率直に申しまして、今、米ソの両超大国の力というものを考えてみますと、正直言ってアメリカ文明の総力というものはソ連の総力よりもよほど大きいということは、アメリカの方がもう圧倒的に私は強いということが言えるのじゃなかろうかと思います。核兵器自体につきましても誇張されているわけでございます。それを経済力でいいましたならば、ソ連の経済力というのは大体アメリカの六〇%と言われております。それからあと技術、科学、あらゆる面におきましてアメリカの方がやはり強いということが考えられると思います。  とすれば私、どちらが軍縮交渉などのときに自制し抑制すべきかということになりましたら、これはやはり強い方が抑制しかつ自制するイニシアチブをとるべきだろうと思うわけでございます。そこでちょっと困ったことは、アメリカ人というのは、非常に仲よくなって話しているときにこちらが図に乗って、なに今のアメリカはなっとらぬ、日本のこれだというようなことをうっかり言おうものなら、これは早速反発してまいります。というのは、あらゆることにおいてアメリカは世界一であらねばならない、世界一でありたいという妙な幼稚園的な心理を持っておりますので、そういった面で、どうしても今の核の均衡の点からいいましても一基でも多く持ちたいというそういった点、これがアメリカ人気質の一つなんでございますけれども、非常にぐあいが悪い。したがいまして、私は常日ごろ言うのでございますけれども、やはり強い方が抑制する、それがそうなっていないということが一つのガンじゃなかろうかと思っております。
  52. 立木洋

    立木洋君 時間がないので五十嵐参考人に簡単にお伺いしたいのですが、簡単にと言っても問題はあるのです。  お述べになった点では、アメリカに同調して、いたずらにソ連の姿勢を責めるべきではない、これは悪循環になる、だからそういうアメリカに同調した形は好ましくないのじゃないかと批判的な言葉を述べられたし、さらに、力に依存して力で対抗していくという点についても御批判的な意見を述べられたというふうに感じたわけです。  それで、先生がいろいろ研究されている講和条約の問題、あのときに日本が日米安保条約という道を選択したということになっているわけですが、これは私たちとしては極めて反対しているわけです。日本の平和の維持、あるいは日本の平和を国際的な平和維持に貢献するという日本の道とこの日米安保条約とはどういうふうにお考えになるのか、基本的な点だけで結構でございますが。
  53. 五十嵐武士

    参考人五十嵐武士君) 現在、廃棄した方がソ連に対する脅威その他を減らすだろうということはあり得るわけですけれども、ソ連の方も増強していることは事実なものですから、これで均衡ということは必ずしも言う必要はありませんけれども日本の場合にやはり非常に大きな問題は、外交的にソ連と直接対話するだけの態勢ができていないということなんですね。来年のソ連外相の訪日によってどういう局面が開かれるかわかりませんけれども、そうした外交努力によって開拓できる可能性を探っていかないと、軍事的な問題それ自体を展開する上でもかなり支障があるのじゃないかと考えております。
  54. 田英夫

    ○田英夫君 時間がないのにまた大きなことを御質問するので恐縮なんですけれども、非核三原則の問題で五十嵐先生に伺いたいのです。  言うまでもなく、西堀さんもおっしゃったように非常に日本世界に誇るべき一つ考え方だと思いますが、実は日米安保条約との関係でいいますと矛盾があるといいましょうか、その基本的な考え方、特に三番目の「持ち込ませず」というところに問題があるということなんですが、何とか非核三原則を日米安保条約の体制がある中で守り抜いていく方法はないか。実は予算委員会でこの間そういうことを質問しましたら、中曽根さんは、安保条約が主で非核三原則は従だというお答えをされて驚いたんですけれども、確かに安保条約があって後から非核三原則が出てきたことも事実でしょうけれども、この守り抜く方法ということで何かお考えがあればお聞かせいただきたい。
  55. 五十嵐武士

    参考人五十嵐武士君) それはアメリカ側との関係と、それからソビエトとの関係の問題があると思うのですね。アメリカ側が常に言っていることは、寄港はまだしも、通過はソビエトがしょっちゅうやっているじゃないかということなわけですね。それで、アメリカに対してだけ通過を認めないというのは片手落ちじゃないかという意見もあります。ですから、その点は先ほど言いましたソ連との関係にも非常にかかわることなわけです。それで、私はソビエトの核先制不使用どこの非核三原則を両者が確認し合うような形で核についてのソビエトとの協定を結んでもいいのではないかと考えておりますが、そのときに、やはりソビエトに対しても通過を控えるようにという要請をしていく、そういうことをやっていった方が、日米安保との関係においてもアメリカに対して相応の主張ができる可能性が生まれるのじゃないかというふうに考えております。
  56. 大木浩

    ○小委員長大木浩君) 以上で質疑は終わりました。  両参考人にお礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、大変お忙しい中を本小委員会に御出席いただき、貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。  ただいまお述べいただきました御意見等につきましては、今後の本小委員会調査参考にいたしたいと存じます。小委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時十分散会