○江田
委員 私は、社会民主連合を代表して、本
法律案につき、反対の討論を行います。
我が国は、現在世界に例を見ないほどに急速な高齢化の道をたどっています。このことが国の施策に対しさまざまな困難な問題を投げかけていることは言うまでもありませんが、一方、人間が長生きをすることは祝福されるべきことであって、その意味で我が国の将来を長寿社会と表現することは的を射ていると思います。
長寿社会における高齢者はどういう生き方をするのか。中曽根首相に言わせば、仕事と孫と
年金。医療と介護と
年金という人もいます。それに住宅を加える人もいます。いずれにしても、
年金が重要な課題となることは言うまでもありません。
年金についてのコンセンサスも変わりつつあります。単に年老いて
生活に困った人々の
生活を助けるためということではなく、次第に高齢期における生き方、ライフサイクルとしての
年金生活ということについての
理解が広がりつつあります。
このようなときに、従来の
年金制度を抜本的に改め、将来とも安定した
年金制度の基礎を築くことは、二十一世紀を迎えるために何よりも必要なことです。必須の条件と言えるでしょう。いわんや現状のままでは、従来の複雑多岐にわたった
年金各
制度が、程度の差はあれいずれも破綻してしまう運命となっているのですから、
改革は当然です。
年金各
制度の優等生ともいうべき
私学共済についてもこのことは同じです。国民みんなが、同時代では横に、また時間を超えて縦に、協同し合っていかなければならないということからいっても、
私学共済のみひとりよしとしていられないわけで、私も今回の
改正についてその必要性を認めるにやぶさかではありません。その
改正の骨子についても、
年金の官民格差を是正し、将来的に統合の
方向を、その具体策はまだ定かでないとしても、目指そうとしているものであることを評価します。
しかし、以上のとおり提出者と共通の
理解に立ちながら、なお本
法律案は国民の求めるところにこたえるに十分でないと言わざるを得ません。
既に各会派代表の各討論の中で本
法律案の不十分な点については詳述されているので、あえて重複は避けながら、私が今基本的に問題と
考えていることを二つだけ申し述べます。
一つは、今回の
年金改革の基本的精神がなお定かでないということです。今回の
制度改革についてのすべての主張と反論を尽くした後になお結論として残るのは、本
制度改革が、
給付の低下、
負担の増加、開始年齢の遷延という点で、
年金水準の下落となるという点です。国民に対してこれまでにした約束が部分的に不履行になるというわけです。
私学共済もそのそしりを免れません。
なぜこうなったのか。政府と与党だけの責任とは思いません。
国民年金不加入運動などということもあったのであり、いやそんなことを越えて、野党もまた政治過程に参画してきたのですから、野党にも責任があります。私は、この際、政治に携わってきた者が、とりわけ
行政を主宰してきた政府・自民党が、国民に向かって、表現は別として、こうべを垂れて遺憾の意を表し、新しい
考え方についての
理解を求めるべきであることを主張してきました。
年金制度の確立のためには、国民全体の
制度に対する確信、信頼が不可欠です。
年金制度というものが一人一人の人生を、老若男女を通じて支えていくのだ、これが社会を成り立たせる背骨の
制度なのだという信念です。こうしたコンセンサスを得るには、細目にわたった金の出入りや
期間の
計算、損得の勘定に先立って、政治に携わる者すべてが、新しい時代と新しい
制度について、
立場の違いを越えて共通の問題意識、いやもっと根源的な共通の時代精神を共有していることを国民に示すことが不可欠だと
考えるのです。
考えてみると、
年金改革については随分以前から積立
方式から賦課
方式にという主張がなされてきました。もっと早く
改革に着手し、国民合意の形成に
努力していれば、国民の不安はずっと少なくなっていたはずです。それなのに、いまだに社会保険的
考え方と公的扶助的
考え方との対立とか言って、新しい
考え方がすっきりと定着していません。これでは
年金統合と言っても日暮れて道遠しの感をぬぐえません。
年金水準の下落という犠牲を払ってもなお新しい社会連帯の精神を得ることができれば、国民は納得するでしょう。しかし、得るものがなお不安定なのでは、
水準の下落を納得しようがないではありませんか。
二つ目は、公的資金の配分のバランスが欠けているということです。政治にはさまざまな要請が寄せられます。それをすべて完全に満足させることはもとより不可能でしょう。事はバランスの問題です。
世界が大きく軍縮と平和の
方向に歩み始めようという時代です。レーガン・ゴルバチョフ会談の行方をにわかに見通すことはできませんが、紆余曲折はあっても、新たなる軍縮時代の幕を開く以外に人類の二十一世紀はありません。そうした歴史の大きな動きを洞察し、特に唯一の被爆国である日本の悲願を
考えれば、おのずから国民の求める公的資金の配分のバランスが決まってくると思います。
この点はさまざまな議論のある点ですが、私はやはりこの数年の予算の動向に異論があります。現在の世界の情勢のもとで防衛の役割を認識するにやぶさかではありませんが、防衛費ばかりが我が物顔で伸び、福祉や
教育の費用が抑えられ続けている現状に、国民は決して満足していません。最近の世論調査でも、中曽根
内閣の不支持理由の中で最高位を占めているのが福祉の後退です。今までどおりの福祉諸
制度をそのまま続けよというのではありません。
制度改革に大胆に取り組みながらも、なおバランスをほんの少し変えれば、例えば職域
年金部分の改善ぐらいすぐできるのではありませんか。今回の
改革が国庫
負担の減少と防衛費の増大とを目指すものだとまでは決めつけませんが、国民がマイナスシーリングのもとで初めに財政
負担の減少ありきだと
感じているのは事実です。
この点は、所管庁としては何とも対応できないことであって、
制度改革に大変な精力を傾けておられる担当の方々に責任のあることではありませんが、だからといって、担当者の
努力への賛辞をもって法案の賛否にかえるわけにはいかないことは言うまでもありません。
残余の点は省略しますが、以上さまざまな問題を抱えている本法案は、いい線行っているけれ
どもなお不合格と、遺憾ながら私は採点せざるを得ません。
いずれにせよ
年金改革は、今後も続く恐らく今世紀の残り十五年を通じて最大の課題の
一つだと思います。すばらしい
制度の実現のために、関係する者すべて全精力を傾けることをお願いし、私もそのことをお誓いして、反対の討論といたします。(拍手)