○
竹内参考人 東京大学に勤めております
竹内でございます。
御承知のとおり、
訪問販売法におきます
連鎖販売業の
定義は、物品
販売業であって、その再
販売をする者を
特定利益を収受し得ることをもって誘引し、
特定負担をすることを
条件とするその
商品の
販売に係る
取引をすることであります。そして、この再
販売という言葉は、
訪問販売法の十一条一項の括弧の中で「
販売の相手方が
商品を買い受けて
販売することをいう。」つまり一たん仕入れをした上で他の者に売ることだというふうに
定義をしております。そこで、最近行われているいわゆる
マルチまがいはここに目をつけまして、参加者は仕入れをして再
販売をするのではなしに、
委託販売または
販売の媒介をすることとしているわけであります。
訪問販売法を制定した際にも、参加者に
販売の
委託をするという方式の
マルチもあり得るということは意識されていなかったわけではございません。現に、私が書きました
訪問販売法の解説書の中でも触れておりますように、「
取引方法も、理論的に考えれば売買に限定されるわけではなく、
販売の
委託でもよいわけであるけれども、実際問題として、
マルチが売買以外の
方法で行われることはないと考えられる」こと、そういうことから再
販売というふうに限ったわけであります、そういうふうに述べております。それからもう
一つ考えられますのは、当時の
マルチの典型的
被害が、売れもしない洗剤などを大量に仕入れてしまって泣いているという類型の
被害でありましたために、
商品を仕入れて再
販売するということを
要件として押さえれば
マルチはまず根絶できるであろうというふうに考えたということであります。
しかし、その裏をかきまして
販売の
委託、媒介という
方法の
マルチまがいが行われるようになったわけでございます。もっともこの
マルチまがいが本当の
マルチまがいなのか本物の
マルチなのか、これはまだ
裁判所が
判断しておりませんから、本物の
マルチだと
判断される可能性もあり得るとは思いますけれども、しかしながらこのように現に
被害が出ている以上は、
裁判所の
判断が固まるのを待たないで
法律を改正することが適当であろうというふうに考えております。
と申しますのは、
訪販法が
マルチについては御承知のとおり実質禁止という
趣旨を貫く
立法をしたわけでございますけれども、しかしそれは真性の
マルチ、つまり本物
マルチは禁止する、しかし疑似
マルチ、
マルチまがいは野放しにするということを考えたわけでは毛頭ないわけであります。不当な
被害を生ぜしめるような
取引方法であれば、真性
マルチであろうと疑似
マルチであろうと規制しなければならないのは申し上げるまでもありません。それは、国民に対して重大な健康上の
被害を生ぜしめるようなものであれば、それが真性コレラであれ疑似コレラであれ国としてその防止、防疫に努めなければならないのは当然のことというのと同じことであります。
そこで、それでは次に
法律を改正するとすればどういう改正が考えられるかということになります。まずしなければならないのは、
訪問販売法十一条一項の
連鎖販売業及び
連鎖販売取引、これに関係してまいりますが、この第一項の
連鎖販売業の
定義規定の改正でございましょう。そこで「再
販売」という言葉を、先ほど読みましたように「
販売の相手方が
商品を買い受けて
販売することをいう。」と
定義しております。それを改めまして、
販売の相手方が
商品を買い受けて
販売することのほか、
委託に基づく
販売、
販売の媒介を含むというような旨を明らかにすべきであろうと思います。もちろん、それとの関連で改正を要する点もありましょう。それは技術的に十分慎重に詰めなければならないと思いますけれども、中心的な改正点は十一条一項の
定義規定の中における括弧内の文言の改正ではないかというふうに考えるわけでございます。
もちろん、このような改正をいたしましてもまたその
脱法行為が出てくるかもしれない。だまされる者が後を絶たないのだから一々
法律で追っかけていっても仕方がないという
意見もあるかもしれません。しかし、人間の病気を治す薬も、
一つ一つの病気に効くような薬を苦心して追っかけているわけであります。昔から風邪薬を発明すればノーベル賞は間違いないということが言われておりますけれども、
一つの病気に効く薬の発明は人類に対する偉大な貢献であります。それと同じように
マルチを押さえ込んだことは、私をして率直に言わしめれば、一年おくれたという感じがいたしますけれども、その点を別にすれば、
訪問販売法の偉大な功績であったと評価すべきではなかろうかと思います。
そこで、次の改正で
マルチまがいを押さえ込めば、これもまた大きな貢献でありましょう。もちろん、そうやりましても次に
マルチまがいまがいというのが出てくる可能性は否定できませんけれども、それは出てきたときにまたそれを押さえ込む改正をすればよいことでありまして、考え得るあらゆる
脱法行為をすべて押さえ込んでしまって、しかも正常健全な
取引に一切の支障を生ぜしめないような、そういう意味で万能薬ではあるけれども副作用一切なし、そういう
法律を今すぐつくれというのは無理難題ではなかろうかと思うわけであります。現に
被害があるところを一歩ずつ着実に追っかけるということでもって、それがおくれなければ十分な功績と評価すべきであろうと私は思います。
その意味で私は、
訪販法の改正を
検討すべきである。このように現に
被害が出てきている以上はそれが当然であろうと思いますけれども、だからといって、改正しなければ現在の
マルチまがいに対して
法律上何にも手を打てないというふうに考えるべきでは決してないと思います。その意味で、先ほど堺さんが言われたように
法律の
解釈というものは最終的には
裁判所がするものだ。とすれば、
警察の権限の発動を期待するということもさりながら、
被害者もまたみずから
裁判所に訴えて、自己の主張を力強く展開するように努めるべきでありましょう。また、有能な弁護士であれば現行法を活用してその
被害の救済、防止にどこまで役立てることができるかという点について十分な努力をしてくれるはずです。かなりの成果が上がるような
法律構成を見つけ出し得るのではないかと考えておるわけであります。
一、二申し上げますと、第一は、既に大阪地方
裁判所で
昭和五十五年二月二十九日の判決で、
マルチは公序良俗に反する違法行為であるというように判示しております。そしていわゆる
マルチまがいも組織の自己増殖性とリクルートの有限性、平たく申しますと無限に新規加入者が続かない限りはもはや勧誘の相手がいなくなって、
自分は他人を勧誘するつもりで入ったけれどもだれも勧誘できないという人間が大量に出ておしまいになる、そういう構造的な欺瞞性を持っている点は
マルチと全く同じでありますから、したがって公序良俗に違反するというふうに
裁判所が
判断してくる可能性は十分あろうと思います。公序良俗違反ということになれば、その行為は無効ということになりましょうから、受け取った
商品等の返還と引きかえに、支払った金銭の返還を求めるということも考え得るわけであります。
それから第二に、
委託販売であるということであれば、受け取った
委託商品を返還し得るのは当然のことでありまして、それは買い入れたのではなく預かっているにすぎないはずだからであります。
第三に、もしその
商品の引き取りに応じられない、それは参加者は買ったんだから、したがって引き取りに応じられないというのなら、それは
マルチまがいではなくて
マルチそのものだということになります。それは再
販売をする相手方、会員が再
販売をするために相手方に売ったんだ、だから
自分は引き取れないということになれば、これは
マルチまがいではなくて
訪販法上の
連鎖販売業そのものだということになってしまうはずであります。そうだとすれば、クーリングオフができる旨を告げられてから二週間内は、無店舗
販売をする個人であれば、今でもクーリングオフが可能なはずでありますから、
訪販法に基づいて、無店舗の個人であれば解除権を行使するという旨を相手方に意思表示して
商品の引き取りを求めるということも可能であろうと思います。
もちろん、個々の事案についてここで私は
意見を申し上げるつもりはございません。個々の事案の解決の仕方は、弁護士がそれぞれの事案の特殊性について十分実情を調べ、いわば病気を診断した上で処方せんを書くことでありまして、それぞれのケースにふさわしい
法律構成が何かということを工夫するのは弁護士の仕事になります。
私は、ただここで申し上げたかったのは、
マルチまがいが仮に現在の
訪販法の適用外であるというふうに
裁判所において
解釈されたとしても、しかし、現在の
マルチまがいを、それにひっかかった人が救済を受ける
法律上の手段が絶無というわけでは決してないということを申し上げたかったわけでございます。取りあえず、これだけ
意見を申し上げておきます。