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柄谷道一君 私は、民社党・国民連合を代表して、ただいま
議題となっております
昭和六十年度予算三案及び
日本社会党提出の修正案に対し、一括して反対の討論を行います。
その第一の理由は、
政府が経済計画や財政計画、今後の具体的目標数値等を何ら示さず、本
委員会の質疑を通じても
政策選択に言及することを意図的に避けるなど、
政府の公約である増税なき財政再建を達成するための具体的
対策や対処方針が国民の前に全く明らかにされていないことであります。
我が党は、本
委員会の審議に際し、財政の中期展望の主要経費別内訳を提出するよう
政府に要求するとともに、今後あるべき経済、財政指標や、
政府の
政策選択を具体的に盛り込んだローリングシステムによる中期経済計画と、それとの
政策的に連続性と整合性を持った中期財政計画を策定し、提示するよう求め続けてきました。こうした我が党の建設的な提言に対し、昨年末の与野党
政策責任者会談で藤尾自民党政調会長は前向きの検討を約したのであります。しかるに
政府は、先見性と実効性を欠く抽象的な答弁を繰り返すだけで、計画の名に値する内容を示さず今日に至りました。
政府が長期的展望を欠き、毎年見せかけの歳出削減による予算の帳じり合わせに終始するという姿勢を続ける限り、国民に将来に対する増税、福祉切り捨て等の不安感、不透明感を与えることは避けられず、また民間の経済活動に対する足かせとなって、今後の持続的な適正成長の実現を妨げる危険があることを指摘するものであります。
第二は、
政府が縮小均衡型経済、財政運営に固執し、内容の乏しい民間活力
期待を声高に叫び続けるばかりであるということであります。
昨年十月ないし十二月期の実質経済成長率は、前期に比べ年率換算で九・六%と八年ぶりの高い伸びを示しました。しかし、この成長率のうち八割以上は外需に依存したものであり、内需主導による潜在成長力の顕在化というにはほど遠いものと言わざるを得ません。特に内需の過半を占める個人消費の伸び悩み、公共
投資の鈍化、不透明な
アメリカ経済の先行き、
貿易摩擦の未解消など、
我が国経済を取り巻く情勢はなお厳しく、当面設備
投資の堅調な動きなどをもって楽観することはできません。
このような現状を打破し、
我が国経済を内需主導による安定的な適正成長軌道に乗せるため、我が党は、所得減税の実施、
政策減税の推進、社会資本の充実と建設国債の活用、自然増収の確保等積極経済
政策への転換を要求しましたが、
政府はこれに耳をかさず、または問題を先送りして、あくまでも縮小均衡型経済運営に固執したのであります。このような
政策運営によっては適正成長の実現も大幅な税の自然増収の確保も望めず、ひいては中曽根内閣最大の公約である増税なき財政再建もかけ声だけに終わり、早晩大増税が余儀なくされることは必至であります。かかる大増税路線への端緒となる六十年度予算は到底我が党の容認できるものではありません。また、
政府は、所得税、法人税などの直接税の減税と抱き合わせであれば
EC型付加価値税などの大型間接税を導入し、租税負担率が上昇しても臨調答申の理念に反しないことをにおわせておりますが、このような論理はまさに国民を欺く詭弁にほかならないことをこの際特に強調するものであります。
第三は、国民に増税を求める以前になされるべき
政府・与党の
政策努力、すなわち行財政改革による歳出の削減、現行税制の不公平の是正等がいずれも極めて不十分であるということであります。これまで中曽根
総理は、臨調答申の最大尊重を約束し、行政改革は現内閣の生命線とまで公言してきました。しかるに
政府が六十年度予算において臨調答申を自分勝手に解釈し、不十分なものにとどめていることは極めて遺憾であります。また、国民の税に対する不信感、不公平感に目を覆い、所得捕捉の徹底、利子配当課税の是正、有価証券譲渡所得の適正化など、制度面、執行面の不公正税制の是正について見るべき施策を講じていないことを指摘するものであります。我が党は、
政府の
政策努力が極めて不十分な現状のもとで、仕組み自体にも懸念をはらんだ大型間接税を導入することには強く反対することを明らかにするとともに、今後
政府が本格的行財政の改革、すなわち退職者不補充措置の
拡大による公務員定員の約一万七千人純減、
政策判断に基づく補助金の削減、地方公務員給与適正化法の制定などに速やかに着手するとともに、税制の不公平の是正を徹底して実践するよう強く要求するものであります。
第四は、
政府が臨調答申の指摘に反して、住宅金融公庫の利子補給金の繰り延べ、住宅・都市整備公団補給金の未計上、政管健保に対する国庫負担の時限的な削減などの財政技術的操作による見せかけの歳出削減を六十年度においても再び行おうとしていることであります。これらは実質的な赤字国債の発行であり、まことに遺憾というほかはありません。我が党は、
政府が今後糊塗的な財政操作を繰り返さないことを確約するとともに、既往の措置を速やかに解消することを強く求めるものであります。
第五は、
政府が
政府管掌健康保険の国庫補助削減、児童扶養手当制度の改悪など、福祉
政策の後退を図っていることであります。
我が国は二十一世紀に向かって急速に高齢化社会へ移行しようとしており、こうした社会への移行に伴って、雇用、年金、医療、住宅、福祉サービスなどの諸施策は新たな視点から総合的、計画的に充実することが急務と言わなければなりません。しかるに
政府の姿勢は、場当たり的な歳出削減という城を出ておらず、極めて遺憾であります。今後
政府がノーマライゼーションの理念に基づく福祉のナショナルミニマムを確保し、活力ある福祉社会の建設に向けて、確たる総合
政策を計画的に推進することを要求いたします。
なお、
日本社会党提出の修正案は、現実性と整合性を欠くものとして賛成することはできません。
最後に、さきに与野党間で協議し、自民党が本年中の実施を我々に確約した単身赴任減税などの
政策減税と、所得税減税の検討及び労働時間短縮、連続休日等休日の増加の今国会中の実現について、
政府・与党が誠実にその約束を履行するよう強く求め、私の反対討論を終わります。(拍手)