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国務大臣(
中曽根康弘君) そういうことはないと思います。
私は、今の
志苫さんの御質問を自分で今まとめてみまして、次のように感じます。
一つは、アメリカと
日本における統治概念、コンセプションの差があると思うんです。
日本の場合は
政府が護民官みたいに
国民を保護していく責任をしょっているという
考えを持っておる。これは律令国家以来千年も続いてきた体制であって、したがって、洪水が起これば
政府の責任じゃないかとすぐやられる。また、
政府はそういう体系を今までとってきて、それが
日本の統治概念であったと思うのです。特に明治以降なんかは、そういう
意味においては規制とか統制をずっとやってきたわけです。ところが、アメリカは契約国家で
国民が自分の責任で自分が選好したことをやる。選んでやると、それは自分の責任に帰する。ですから、アメリカの場合にはもう
国民がばしばし裁判に訴える。弁護士は、
日本は一万五千人しかいませんけれども、アメリカは五十五万人もいる。そういうわけで、電気通信の仕事なんかでもサービスをよくするように、音質を下げないように
政府はいろいろ規制をして、そして
国民の面倒を見て、
政府がひっかぶりながら水準を維持するようは今までやってきておるわけです。ところがアメリカ側は、そんなものは
国民が勝手に選べばいいので、音質の悪いのを買ったらかえればいい、それは自分の責任でやればいいのだ、この差が
一つあるのです。ですから、この間うち電気通信におけるいろいろな問題につきまして基準・認証制についていろいろ話があったときに、
日本の郵政省は今までの概念がありますから、できるだけ
国民に心配をかけないような規制を続けていこうとする。しかし、アメリカ側はそんなのは
国民の選択に任せればいいことで、そんな基準・認証制をごたごたやる必要ないでしょうと、その差が
一つはある、私はそのことを、律令国家以来の話をして、シグールさんにも話したです。統治概念の差というものが
一つあるんだと。しかし、その場合でも今のような情勢になりますと、私は必要最小限の公共性は維持するが、あとは
国民の選択に任せる、そういう方向に変えなさいと、そう小山事務次官に指示したわけなのであります。
それから第二は、景気の上昇速度のギャップがあります。アメリカの方が先にぐっと景気が上がりましたから
日本の輸出がぐっと伸びた。昨年の五月がピークでして、対前年比五七%も輸出が伸びました。しかし、最近は三・五%に落下してきておる。それは明らかに景気上昇のギャップというものがここで認められると思うのであります。何しろ五七%も、約倍近いぐらいのものが出たわけですからね、五七%増で。
それから第三番目は、
日本の高い生産性とアメリカの高いドルから来ておる。やはり商品、自動車でもその他でも生産性はいいし、それからアフターケアは非常によろしい。
日本流の非常にきめの細かいアフターケアもやる。アメリカは高いドルで動きがとれない。ドルの相場は一割ないし一割五分高くなってきている。これは一割五分の課徴金がアメリカの品物はかかっていることになります。ですから、関税を五%下げるとか一割下げるというような大騒ぎを起こすわけですが、現にそれだけの高関税がさらに上がっているという形になるわけです。これがアメリカの品物が出ないという原因になっておる。
それから四番目は、やはり
日本が持ってきた今までの伝統的閉鎖性というものもないとは言えない。それは善意でやってきておるわけなんであります。ところが、アメリカの側は売る
努力の不足というものが非常にあります。例えてみれば、合板にいたしましても、アメリカ人は
日本に合板売ろうとするけれども自分の規格どおりのもの以外つくらない。カナダの方は
日本の住居の規格に合ったものに合板のあれを変えるから、だからアメリカから
日本へ今輸出している合板というのは六億円しかないが、カナダは輸出を二十億円もしておる。しかし、
日本からは合板の輸出は六十億円行っているんです。向こうからは六億円しか買っていないが
日本からは六十億円、約十倍輸出しておるんです。カナダから二十億も来ておるというのは
日本の規格に合ったものにカナダは変えているわけです。よく自動車のハンドルの例を引きますが、このようにアメリカは広大な市場を自分で持っておるものだから、今まで外国に
努力して売るという
努力をしないでも国内で済んだわけです。電気通信なんかの場合は特にそうで、
日本は四兆円のマーケットです。アメリカは十八兆円のマーケットです。この四兆円の小さいマーケットから十八兆円の大きいマーケットに行くという場合にはよほど研さんをしていい品物をつくって売り出そうという血のにじむ
努力をやるわけです。ところが、十八兆円のマーケットから四兆円の小さいマーケットに行くよという場合には、十八兆も売れているのだからそんな四兆の小さいところへまで何も
努力していかぬでも国内で済むじゃないかという気分があって、アメリカの会社はそういう改良を怠るという面もあるわけです。このマーケットの広さの差というものも
一つは原因にある、
一つの例を申し上げますと。
そこで、この間もシグールさん来ましたから、私は
日本の商社や企業はアメリカへ行って商売しているけれども、みんな英語を話すよ、しかしアメリカの企業で
日本へ来て
日本語を話せる重役や職員が何人いますか、この差というものが出てきておるのだから、
日本でうんと売りたいと思ったらもっと
日本語を習わして、べらべらしゃべれるような人間をもっとよこしてもらわなければだめだ、そう言っておいたのです。こういうような事事が重なってこういうことになったと分析しております。