○鈴木和美君 私は、
日本社会党を代表して、
中曽根総理を初め関係閣僚に
質問いたします。
総理は、一昨年、初の
施政方針演説以来一貫して、次の
時代を担う世代に何を引き継ぐかを重視され、あたかも中曽根さん二十一
世紀を行くといったイメージづくりをねらっているかのようであります。「
国際国家日本」と言い、また「たくましい文化と
福祉の国」と言い、未来はまるでユートピアのようであります。しかし、現実に
総理が進めているのは、
福祉の
削減に対して
防衛費の
拡大であり、公的なサービスの撤退に対して民間活力の培養というもので、決して
総理演説のような、あれもこれも式の総花的ではないと思うのであります。
総理、あなたが後の世代に残そうとしているのは、健康と平和よりも借金と大砲ではないのですか。自然と人間ではなくて、コンクリートとロボットではないですか。
福祉と人権ではなく、いじめと孤立ではないですか。このような疑問をただすため、以下、順次お尋ねしてまいりたいと思います。
〔議長退席、副議長着席〕
総理、あなたが後の世代に引き継ぐもののうちで最も大きいものが、百三十三兆円に及ぶ
国債というツケに加えて、防衛関係の装備費二兆三千億円という後
年度負担の累積であります。
国民は、このことについても一人一人が将来の
負担のあり方について真剣に
考え始めていると思います。けれども、まだまだ
増税の時期ではないと感じているのではないでしょうか。なぜならば、
国民に
負担増を求める前に、もっとやるべきことがあるからであります。
総理、あなたは
国民が進んで
負担や拠出に応じられる条件を整え、これを次の世代に引き継ぐ責務があるのではないでしょうか。その条件として、少なくとも次のことがあると思うのであります。
第一に、不公平
税制を徹底的に正すことであります。間接税は、社長さんもパートの奥さんも同
じ物を買えば同じ税額を
負担することになるため不公平感が強く、
政府・
自民党が
大型間接税の導入を検討すれば検討するほど、
国民はかたくなな
増税反対派に傾くと思われますが、いかがですか。
顧みて、
増税なき
財政再建という
政府方針は、
国民に
負担の
増大を求める前に、前提となる条件をしっかりと整備しておこうという
考えに裏打ちされていたと思われます。
総理はいわゆる直間比率の
見直しであって
増税ではないと言われますが、税の公平感を育てるという見地から見れば、それは一体どんな効果が期待できるのですか、
見解を承りたいと思います。
増税にコンセンサスを得る第二の条件は、その使い方であります。老後や、いざというときの不安のために自分で貯金したり民間の保険を頼りにするようでは、税金や
社会保険料を出し渋るのは余りにも当然と言わなければなりません。この見地に立って、
政府はこれからの
国民生活についてどこまで
責任を持つのか、公的な底支えのプログラムを明らかにすべきであると
考えますが、いかがですか。
ところで、
財政再建のもう一つの課題は、税収の安定した伸びを確保するためには、
内需拡大の主導型
経済に徹するべきだと思うのです。そのためには、勤労者の実質
増税を防ぐ
所得税減税を実施すること、二つには、限られた公共事業費を
住宅、公共下水道などといういわゆる生活
基盤整備に重点配分することであります。三つには、最近の好調な
企業収益を勤労者の賃金引き上げに結びつけることなどが必要不可欠ではないでしょうか。
総理は、これらの措置には極めて冷淡な態度をとる一方で、
内需拡大のために民間活力の導入を提唱し、目先の
財源対策として大都市における国公有地の売却を進めるとの
見解を明らかにしているのでありますが、私は、これは
国家大計を失うことにもなりかねませんと
考えているのであります。加えて
政府は、財界の求めに応じて、空中の利用、公有水面の埋め立て、地下の開発などに関する規制の緩和を目指しているのは周知のとおりであります。
このかけがえのない
国民共有
資産について、
政府がこれを保全して次の世代に残す使命があると
考えるのが常識と言うべきであります。国公有地についても、過密都市におけるゆとりの広場として尊重すべきでありますし、処分する場合といえども、あくまでも自治体の優先利用を
基本とすべきと
考えますが、いかがですか。
しかるに、
中曽根内閣の
政治は、
国民的
資産を残したり育成するどころか、民間
企業の手にどんどんと売り渡していこうというものであって、これを
国民的
資産投げ売り内閣と言わずして何と言うべきでしょう。
政府は、国鉄についても分割
民営化を進めようとしております。二十一
世紀を行く中曽根さんにお尋ねしますが、あなたは一体どんな交通体系を将来に残そうとしているのですか、今こそ明らかにしてほしいと思うのです。
国土庁の四全総中間取りまとめによりますと、二十一
世紀初頭には、旅客も貨物も
国内総輸送量は現状の二倍になると見込まれているのであります。一体これをどのような
手段で輸送しようというのですか。
我が国の山林、河川を除く人の住める土地面積当たりの自動車台数は、第二位の西ドイツの三倍近い水準で、断然
世界一です。さらに、歩行中の者や自転車に乗っている者が自動車に殺傷される割合も
世界一。
総理、あなたの言う心の豊かさやゆとりのためにも、むしろ鉄道の重要性を見直さなければならないのではありませんか。この立場から、国鉄つぶしの中曽根と言われないようにした方がよいのではないでしょうか、いかがですか。
政府は、国鉄
再建監理委員会の答申待ちということで、具体的なことに何も答えていません。これだけ注目を浴びている重大事を審議するに当たって、監理委員会は議事録も公開せず、すべてを密室の中で進めるとは何事ですか。また、七月の答申の前に、例えばこの三月末までに中間報告を求めてしかるべきだと
考えますが、いかがですか。
次に、
国民的
資産を保全育成する責務を怠り、荒廃させた典型的な事例として、森林、河川、それに農地を挙げなければなりません。
この冬の異常渇水は、昨年台風がなかったことや秋の長雨が少なかったことが原因に挙げられていますが、
我が国の
政策は、伝統的に水は天からという雨待ち主義で、積極的に水源を涵養する
努力に欠けていたのではないでしょうか。例えば、建設省の管理ダム七百六十九を初めとして全国のダムの集水区域ごとに、ダム水源を涵養するための森林整備計画や水源涵養保安林がありますか。その
実態さえ把握されていないのが現状なのであります。より安定した貯水量を確保するためにも、ダムに流れ込む土砂の量を減らすためにも、絶対に山を荒廃させてはならないのであります。今、
政府は水源としての森林整備の
資金の調達を流域自治体や地域住民に協力を求めていますが、この際、ダムの開設者にも拠出を求めないならば、それは片手落ちと
考えますが、いかがでございましょう。
山や森が
国民、いや人類共有の
資産であるあかしとして、私はそれが現代人の心のふるさとになっているという事実、緑を失ったとき文明さえ滅びたという歴史的な事実を指摘しなければなりません。この立場から二十一
世紀を
展望し全地球的規模で
対策を
考えるならば、何よりもまず外材の輸入を見直すことであります。
我が国の国土の七割が山林であるのに、なぜ
世界一の木材輸入国でなければならないのですか。国際的にも疑われるところであります。また、
我が国のために東南アジア熱帯雨林の大規模な皆伐が進み、地球の砂漠化に
日本が手をかしているとさえ言われているのであります。これに対して
政府はどう反論できますか。また、今でも主要諸国よりも低い関税をさらに引き下げたりせず、間伐期であるのに少しも手が入れられず、モヤシのような山がむせび泣いている現状を改めて直視し、
国内の育林事業の充実を図るとともに、国産材の
需要喚起に力を入れるべきだと
考えますが、いかがでございましょう。
農地もまた
国民的
資産であり、この荒廃は許されるものではありません。
政府は口を開けば農業は国の基幹産業であり、最も大切にされなければならないとは述べています。しかし、どうでしょう。
総理の
施政方針演説におきましては、食糧の確保という課題を「
国際社会における積極的貢献」という中で位置づけただけでありまして、内政に
おける農林漁業の振興には事実上何も触れていないのであります。
あなたは、食糧の供給をできるだけ輸入に頼ることが
アメリカを初め農産物
輸出国に貢献する道だとまさか
考えているわけではないでしょう。もしそうだとすれば、
総理は、かねて各党挙げて一致した食糧の
国内自給率向上の
国会決議に背き、その諸
施策を放棄するなら、農業つぶしの二枚舌という汚名を歴史に残すことになりはしないでしょうか。明確な答弁を求めるものであります。
総理、あなたがもし本気で次の世代に「明るく、力強い
時代のたいまつを引き渡す」と言うのであれば、老いた体にむちうって働く農林漁業の従事者にどんなあすがあるのか、またその後継者たちにどんな二十一
世紀があるのか、今ここで示すべきであり、それがない限り私はこの壇上からおりることすらできないような気がするのであります。
総理、せめて二十一
世紀の農林漁業を担う後継者づくり
基本計画をつくるぐらいのことだけでも、今ここで表明できませんか。
その際、ぜひ農業問題として採用すべき三つの提案をしたいと思うのであります。
その一つは、主要農作物を
中心とした食糧の備蓄
制度を
確立することであります。特に、米については需給計画の単
年度主義を改め、三カ年を単位として三百万トンの備蓄ができるようにすることであります。その二は、アジア、アフリカなど食糧危機に直面している諸国に米による援助を
拡大することであります。その三は、減反
政策をやめ、休耕田を活用して、例えばその一部を飢餓諸国援助用水田とか無農薬土づくり奨励水田などに指定して助成を図るとともに、一般市民の参加協力を求めることなども
考えてはいかがでしょう。
以上の提案に対する
政府の
見解を承りたいと思うのであります。
ところで、佐藤農水
大臣は急遽、けさの便でモスクワに立たれました。現在難航している日ソ漁業協定の交渉は、これに直接関係する漁民はもとより、伝統的に魚好きな
国民の共通した関心事であります。この際、何としても昨年実績を確保するために
大臣の
努力を期待しています。そこで、改めて今回の訪ソの目的とその見通しについて明らかにしていただきたいのであります。
そして、かねて問題となっているソ連漁船の
国内寄港地の安全については、いやしくもそれが一部の右翼によって攪乱されることのないようにすべきと
考えますが、
総理の
責任ある答弁を期待するものであります。
さて、私たち
政治家が後の世代に残さなければならないのは、人間の顔をした町や村を百年や二百年ではびくともしないような
観点から整備することではないかと思うのであります。人間復権の町や村の課題は、第一に
福祉と人権、第二に健康と環境、第三に自由と自治であって、
政府の重視する高度情報化は、あくまでもこれらを前進させる
手段として位置づけられるべきであると思うのでありますが、
総理の所信を承りたいと思います。
まず、
福祉と人権の町をつくるためには、
国際社会で
経済大国にしては人権意識の低い国と見られている現状を克服する必要があります。
国際社会からの糾弾は、本人の同意なし入院を
原則とした精神医療という最近のトピックスだけではありません。自分の国で安全性に疑問ありとして使用
禁止にしている危険な製品や技術を発展途上国に
輸出している現実、在日
外国人への
社会保障の不徹底や指紋押捺の強要、婦人の雇用条件が悪いために女性差別撤廃条約さえ批准できないという後進性、さらには寝たきりやひとり暮らしの老人に対する
福祉サービスの貧しさ、母子家庭の生活苦、子供たちの弱い者いじめや普通教室からの障害児の排除など、国際感覚に照らして批判されている事例は枚挙にいとまがないのであります。一体これらは、国際人をもって任ずる
中曽根総理の感覚にはどのように映っているのか、伺っておきたいのであります。
いわゆるいじめの問題は、文部省の小学校生徒指導資料によりますと三つの背景があるとされています。第一は対人関係の未熟さ、第二は欲求
不満の
増大、第三はストレスを解消する
手段の乏しさというものであります。しかし、弱い者、おとなしい者、体の不自由な者を取り囲んでいたぶるといういじめの
最大の背景は人権感覚の立ちおくれであり、思いやりの欠如ではないでしょうか。学校
教育において人権意識を育てるために
政府はどのような
努力をされるのですか。また、人権
教育に弾みをつけるためには、障害児を特殊
教育の場に隔離してしまうということをやめまして、できる限り普通学校で引き受けていく
方向が望ましいと
考えますが、
政府の
見解をお
伺いしておきます。
次に、健康と環境の町をつくるためには、自然と人間の関係を
見直し、自然のおきてに人間が背けば必ず復讐をこうむるという事実を踏まえる必要があります。
総理、ヨーロッパの都市がなぜ落ちつきがあり、ゆとりと潤いを与えているかを
考えてみたことがありましょうか。私は、一口で言うと、それは
日本は短距離選手、あちらは長距離選手のタイプだからと思うのであります。例えば貨物輸送で見ると、こちらはかつて水運を見捨てて鉄道にほぼ全面的に切りかえ、そして今、
政府は鉄道から自動車輸送に切りかえようとしているのでありますが、ヨーロッパにおいては、水運、鉄道、トラックの三者を共存させる
方向をとっているではありませんか。いかがですか。
また、健康と環境の町づくりで見逃してならないのは、そこに住む勤労者の生活
状態であります。心の豊かさ、ゆとりをこれから求めるとするなら、緑に包まれた環境で、家族との交わり、そして教養、趣味を
拡大し、高齢化
社会に向けて仕事を分かち合うためにも、労働時間の短縮は何よりも大切だと思うのです。それでなくとも働きバチという国際批判にどうこたえるのですか。この立場から、
政府はいつ四十時間、週休二日制を実現するのか、そのめどを明確にしていただきたいと思います。
健康と環境を守るには、その国の伝統と文化になじんだ町づくりをしなければなりません。この
観点から、私は四つの提案をしたいと思います。
その一つは、人と車を完全に分離する方式を採用することであります。欧米のいわゆるラドバーン方式の応用であります。
その二つは、木造建築を
見直し、学校、図書館、コミュニティーセンターなど公共施設は木造建築でも補助の対象とする道を広げることであります。ちなみに、五十七
年度から五十九
年度の三
年間に木造校舎を建築した公立の小中高等学校は
全国で十校しかありません。
さて、その第三は、地下水の涵養を図ることであります。
日本では水は早く海まで運び出せばいい、飲み水はその途中で急速なろ過を行い、それでもだめなら塩素や凝集剤をたっぷりほうり込んで、臭くてまずい水でもとにかく飲めるようにすればいいといった手っ取り早い技術に頼ってまいりました。しかし、生水を余り飲まないヨーロッパでさえ、わき水や地下水をいまだに重視し、河川水の場合でも原水の浄化に努めるとともに、長い時間をかけて砂れきを通す緩速ろ過方式を
基本としているのであります。
第四は、廃棄物として適正に処理できない物質は生産も使用も規制することであります。
以上、健康と環境を重視した町づくりのための提案について
政府の所信を承りたいと思います。
次に、自由と自治の町をつくるためには、分権の推進と行政情報の公開が急務ではないでしょうか。
まず、分権の推進に当たっては、少なくとも次の三つのことが必要不可欠であると
考えます。
その一つは、
国庫負担分を自治体
負担に切りかえる際は、
制度のあり方を先行させて個々の
施策項目に関する権限もまた自治体に移転し、
財源と権限とをセットで動かすべきであると思います。この
考え方とは全く異なる今回の高率の補助率一割カットは、国の帳じりだけを合わせただけで全く納得がいきません。撤回を求めるものであります。二つには、地方債の
内容にまで踏み込んだ干渉をやめることだと思います。そして三つ目には、公営事業の効率化に当たっては、民間委託を
考える前に、その関係している人と住民の参加によって経営改善を図ることなどが前提条件ではないでしょうか。
責任ある御答弁を承りたいと思います。
行政情報の公開に当たっては、今総務庁で調査研究を進めているのでありますが、何よりもまず、各省庁がどんな秘密文書の管理規程のもとに情報を処理しているのか、この際まとめて報告していただぎたいのであります。
また、お役所はどうしてこんな資料でさえ公表できないのか、かねがね疑問に思っている実例を幾つか申し上げたいと思います。その一つは、大蔵省は民間活力導入検討対象財産としてリストアップした全国百六十三カ所、六十五ヘクタールの国有地について、その全貌が公表されていません。もう一つは、厚生省並びに農水省の関係で、医薬品、食品添加物、農薬などの製造承認もしくは再評価に当たって使用した学術論文や実験データが公表されないのはなぜですか。もう一つは、文部省であります。幼稚園における障害児の就園
実態調査があるのに、なぜ小中学校における障害児の就学
実態がわからないのですか。
これら特徴的な例を挙げましたが、
政府の
見解を伺うとともに、総務庁による調査研究は一体いつをめどにするのか、この際、作業
日程を明確にしていただきたいのであります。
今、自立した市民グループはもとより、労働組合もまたあすの
企業と職場、あすの
社会を
考え、地域や職場の一角から新しい
方向を模索し実践する運動に向かおうとしているのであります。
総理、あなたが頼りにされる民間活力とは、本来民間
企業のことではなくて、その
企業をも支えているこのような自立した市民や労働者の実践であるべきではないでしょうか。つまり、二十一
世紀は自立した市民活力の
時代であるのであります。その主体に行政情報をマル秘にするなどということは、
民主政治の大道を子孫に伝えたいという
総理の姿勢とは余りにも大きな矛盾があるのではないでしょうか。
市民の活力でなくて
企業の活力に依存し、その市民の共有
資産を次々と
企業に投げ売りする
総理の姿は、失礼でございますが、悲しいかなハゲタカに食い荒らされる風見鶏、その一言に尽きます。
私は、
総理の施政方針をお
伺いして感じた所見と、幾つかの
質問及び幾つかの提案を行いましたが、
政府の答弁を要請して私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣中曽根康弘君
登壇、
拍手〕