○橋本敦君 法務大臣もお聞きのように、まさに自白偏重になってはならぬという現在の刑訴の基本的建前は十分おわかりになっていらっしゃるはずであるにもかかわらず、やっぱり
捜査の問題としては、この
事件から重要な教訓を引き出さなくてはならぬという問題があるわけですね。
もう
一つ、最近大変これも希有な
事件の
一つだと私は思いますが、判決の言い渡しがありました。それは三月二十九日に言い渡されまして、被告東京都が
警察官の少年に対する取り調べが違法であったことを理由に損害賠償請求で、損害賠償金を払いなさいという判決を東京地裁で下された
事件であります。
この
事件で私はこの判決を読んでみてまことに驚いたのでありますけれ
ども、窃盗をたくさんやったという少年に対する取り調べで、その
被害者と称する人物を連れてきて、そしてこの少年の目の前でこの男に対して、この人がスナックエムの宮田さんだ、宮田さんが早くゴルフ道具を返してくれと言っているから出してやれ、こういうようにその少年に申し向けて、そして少年がこの宮田という人物からゴルフ道具一式あるいは洋酒、こういったものを窃取したという事実を自白させたという問題であります。
しかも、この宮田という人物がどういう人物かといいますと、
裁判所の判決を読んでみますと、「右の各証拠によれば、宮田」なる者は「服装及び髪型から見て、一見して暴力団員風に見える男であり、また現に暴力団員であつて、」
警察官もその事実を知っていたことが認められる、こうまで認定をしているわけですね。そこで
裁判所は「少年である窃盗
事件の被疑者と一面識もない暴力団員の
被害者を面接させること自体が既に異常かつ非常識であつて、少年法の
目的とするところと背馳するもの」であるということで厳しくこれを批判して、結局この男に返還しなかったら後日
被害者から危害が加えられることがあり得るかもしれぬということを暗に告知するようなことで、まさに
脅迫したものと評価されても仕方のないやり方で自白をとったということで、まさにこれは適法な
行為と断ずるほかはないと
裁判所が認定したわけであります。こういうような非常識なことまで
警察段階でやられて、そして間違った自白調書がとられるということは、これはまさに言語道断と言わなくてはならぬわけであります。
これは
警察がやった
仕事でありますが、私はここで
刑事局長なり法務大臣に聞きたいのは、
警察がこういう違法な
捜査をやることは許せぬ。あるいは旭川日通
事件でも、
警察が暴行、
脅迫まがいの
行為をやって自白を強要することは許せない、それはそのとおりであります。しかし検察官が公訴を提起する、そういう責任と権限がある立場ですね。第一次
捜査権は
警察だということであっても、検察官はその
捜査を裏づけて、そして公訴を提起するかしないかをまさに公益者の立場で判断をして、
警察の行き過ぎはチェックをし、そして公判が維持できないようなことは公訴してはならないわけですから、それにおのずから自省をして正確な判断を下すという責任がある。これがまさに検察官が
国民に対して負っている責任だと思うんですが、
警察の違法な
捜査をそのまま追随したり、うのみにするようなことで
国民の人権を侵害したら、これは検察官の責任が十分果たせないことになるのではないか。
私は、この
事件でもこういう不当な
警察の調べがやられたことを検察官はなぜチェックできなかったのだろうか。そして検察官はこの
警察の適法な
捜査の結果をそのままうのみにして家裁へ送致をして、その結果、この少年
事件でも私は驚くべきことだと思うんですが、何とこの少年について家裁送りになった窃盗五十一件の
事件のうち、前から
犯行を認めていた一部の
事件はこれはありますけれ
ども、三十一件の送致についていずれも
裁判所は非行事実なし、こういう審判をしているわけですね。その理由は、この三十一件の窃盗、これは供述の
内容が極めて真実性に乏しい、そしてまた供述どおりの方法では窃盗という
犯行が不可能となるものが入っている。こういうようなことまで含めて
裁判所がチェックをして、これらについては非行事実なし、こういう審判を下しているのでありますから、
警察のでたらめな
捜査を検察官が本当に真剣にチェックしようと思えばこれはできたはずの
事件だと私は思わざるを得ないのであります。
そこで、
局長に伺いますけれ
ども、検察官の
捜査というのは
警察の上に安住しておっていいものじゃないはずなので、
警察の不当な
捜査をなぜチェックできないという、こういう重大な事態が起こるのかどうかについて、反省を含めて御意見を聞かしていただきたいのであります。