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参考人(
阿部浩二君) ただいま御指名いただきました
阿部でございます。初めに、
プログラムの
保護に関し
著作権法の一部を
改正する
法律案の
審議に当たりまして、私が若干の
意見を申し上げる
機会をいただきましたことについて御礼申し上げたいと存じます。
ところで、この
著作権法の一部を
改正する
法律案でございますが、その
要綱を拝見いたしまして、率直に、端的に、私の結論と申しますか、
意見をまず申し上げておきたいと思います。
プログラムの
保護につきまして
著作権法の一部を
改正する
法律案がこの
機会に提示されましたことにつきましては、国内的にも国際的にも極めて
時宜にかなったものであると確信いたしまして、できるだけ速やかに御賛成をいただきまして、
法律案の成立の一日も早いことを期待しているということを申し上げておきたいと思います。
と申しますのは、御
承知のように現在
コンピューター時代と申されておりますように、
コンピューターの
普及、開発、発展というものは極めて目覚ましいものがあるわけでございます。
コンピューターはいわゆる
ハードと
ソフトとの二つに分けて考えることができますけれども、過去におきましては、いわゆる
ハードも
ソフトも一体でございましたが、現在は
ハードと
ソフトとを分離いたしまして、いわばいわゆるアンバンドリングと申しますか、
ソフトは
ソフトとしての流通を非常に目覚ましくその姿を見せているわけでございます。そういう点から、この
プログラムにつきまして、
ソフトは
ソフトの
プログラム本体並びに
プログラムについての
説明書、あるいはフローチャート、そのほかのいわゆるドキュメントと称するものから成り立っておりますけれども、その
中核をなしますところの
プログラムの
保護につきまして、この
改正案というものが出されて現在の需要にこたえていくことは極めて重要なことではなかろうかと考えるからでございます。
私がこれにつきまして御賛成申し上げるところのゆえんをこれからこの
法律案要綱に則しまして申し上げてまいりたいと思います。
第一に、
プログラムの
定義を定めることをこの
法律案要綱では取り上げておるわけでございます。
プログラムと申しますと、
コンピューターはもちろん
プログラムでございますが、これにつきましても
各人各様のいろいろな
定義の仕様があるかと存じます。しかし、初めに議論が、あるいは
理解を一致せしめるためにも
プログラムの
定義を定めるということは非常に重要なことでございますし、
プログラムにつきまして、この
法律案要綱で定めている
定義の
内容というものは、これは極めて適切な
定義ではなかろうかと存ずる次第でございます。
と申しますのは、国内的にはもちろんのことでございますが、
昭和五十三年、つまり一九七八年に
WIPO(
世界知的所有権機関)の
パリ同盟規範におきまして
作成した
プログラムに関するところの
モデル法案というのがございます。そこにおきまして
プログラムの
定義を定めておりますが、
世界的に承認されると考えられます
プログラムの
定義につきまして、
著作権法の一部を
改正する
法律案における
プログラムの
定義もまたそれと
同一の
趣旨を含んでいるからでございます。 したがいまして、この
プログラムの
定義、これを定めて共通の
理解とし、また
世界的に共感を得ることができる極めて適切な
定義ではなかろうかというように考えているわけでございます。
第二には、
著作権法の第十条
関係の
例示に
プログラムの
著作物を加えていることでございます。
著作物の
例示として
プログラムを加えるということは、これはまさしく文字どおりの
例示であると私は考え、しかもまたこれが適切であると考える次第でございます。と申しますのは、
プログラムが
著作物であるということは、既に現在の
日本の
裁判例におきましても十分に
承知されているところでございます。前にはたしか五十七年十二月に
東京地方裁判所で、続いては五十八年三日に
横浜地方裁判所で、五十九年一月には
大阪地方裁判所で
プログラムは
著作物であると、このような判決が示されておりますけれども、それにつきましてもなお依然として
プログラムがこれが
著作物であるかどうか、いわば
利用技術にすぎないのではないかというような
誤解をなさっている方もいないわけではございません。そういう点から、
誤解を避けるためにもこの
プログラムを
著作権法における
著作物の
例示として取り上げたということは極めて適切ではなかろうかというように思う次第でございます。さらにその
プログラムの中に
プログラム言語や
規約や
解法、これを
保護しないということを取り上げたことも同じく適切ではなかろうかと思っております。
第三には、
法人の
発意に基づきましてその
業務に従事する者が職務上
作成する
プログラムの
著作物の
著作者は、
作成時の
契約等に別段の定めがない限りその
法人等とする、こういうふうに第三に
要綱としては取り上げているわけでございます。いわゆる
著作権法の第十五条の
関係の
法人著作の問題でございます。
現行の
著作権法には、
法人等の
発意に基づきその
業務に従事するということのほかに、
法人の
著作名義において公表するということが
法人著作の
要件とされておりますが、
法人名義において公表するということは
著作物としての
著作権の
発生については必ずしも必要ではないというところからその公表ということを除きまして、その
発意に基づいて
業務に従事する者ということを、このように簡潔にしたということは極めて適切であるというように考えている次第でございます。
プログラムの
作成に当たりましては、システムエンジニアであるとかあるいはプログラマーとか、多数の
人たちがその
プログラムの
作成に当たります。そのそれぞれの
著作行為が、個人の自然人のみが
行為するのであるというふうに考えますと
法人著作ということは本来起こり得ないはずでございますが、しかし
実態として
法人はやはり
人格者として
現行日本におけるところの
法制度のもとにおいては考えられている次第でございます。しかもまた、
実態上
法人が
法人格を持ち、そこに
著作行為があると考えてみましてもこれは別段の不思議はございませんので、この点におきましてもその
法人著作ということを極めて簡潔にこのように表示したということは適切ではなかろうかと思うわけでございます。
さらに続きましては第四に、特定の
電子計算機における
プログラムを
利用し得るようにするために、または
電子計算機においてより効果的に
利用し得るようにするために必要な
プログラムの
改変について
同一性保持権の
例外を定めたという
規定でございます。
第二十条に関連するところでございます。この
同一性保持権と申しますのは御
承知のとおり、まず
著作物を公表する
権利、あるいは
自己の名において公表する、あるいはその
著作物の
内容をみだりに変えられないというような
著作者人格権の一つでございます。
同一性保持権と申しますとすぐにこの
プログラムにおきまして出てまいりますのは、
プログラムを
利用するに当たりましては、より性能をアップするためにそれについての若干の
改変をするということは
プログラムにとってはつきものでございます。このようないわゆる
バージョンアップと申しておりますけれども、
バージョンアップあるいはレベルアップと称するような
行為が
同一性保持権に抵触するのではないのか、そうするとこれは、したがって
プログラムは
著作物として
保護することには適切ではない、このような
考え方、あるいはしばしば
意見が開かれるところでございます。その点からいきますと、その
同一性保持権というものをそのようにかたくなに考えますとそうでございますけれども、しかしもともと
著作権法に言う
同一性保持権というものはそのような性格のものではない。と申しますのは、
日本が加盟しております
ベルヌ条約の
パリ改正視定におきましても、たしか六条の二だったと思いますが、
著作者の
名誉声望を害するような
改変は困るということをとどめているのでありまして、その本来の
趣旨に反しないような若干の
改変、
日本のこの
著作権法におきましてもそれを受けまして、その
利用につきましてやむを得ない
改変はこれは仕方がないというようなことを申しているわけでございます。その
同一性保持権というものは単に表面上外形的に動かせない、そういうところにとどまるというふうにお考えいただいては困るのであって、
内容的な変更により重視されるところでございます。その点からいきますとその
バージョンアップということにつきましては、若干の
改変があったとしても
名誉声望を害しない限り、もともと
プログラムの
作成者はそれを予期しながら
作成しているということも言えますので、その点につきましては格別の
改正も必要ではないと私は個人的に考えますけれども、なおそのような
誤解を避けるために、
例外的に
現行著作権法におきましても
建築物についての
改変はこれはやむを得ない、このような
取り扱いがなされておりますが、
建築物の
改変と同様な
例外規定を定めておくという
態度もまたこの
誤解を避けるためにも、明確にするためにも適切ではなかろうかとこういうふうに考える次第でございます。
さらにそれと関連し、その第五の問題といたしまして、
プログラムの
著作物の
複製物の
所有者、簡単に申しますと
プログラムを購入しているところの者が、
プログラムを
現実に
使用するところの者が
電子計算機において
利用するために必要な場合に行う
複製または
翻案については
著作権者の
複製権はこれは及ばないものとして考えていこう、このような
提案が四十七条の二に取り上げられておりますけれども、それとの関連におけるこの
提案もまた適切ではなかろうかと思う次第でございます。と申しますのは、もちろんこの
プログラムを
現実に
使用するに当たりましてそれを走らせるときには必ず
複製という問題が起こってくる、こう考えて差し支えがないのであり、したがってそれに対するところのもともとの
著作権者の
複製権が及ぶというのでは何のためにその
プログラムを購入したのかわからないということになってまいりますので、これもまたもちろん適切な
規定ではなかろうかというように考える次第でございます。
さらに第六番目には、
プログラムの
著作物の
創作年月日登録の
制度を設けるとともに、その
登録に関しては必要な
事項は別な
法律で定める、こういう
提案がなされておりますが、この
著作物の
創作年月日の
登録というものは、
著作権の
発生の
登録、効力が
発生する、
著作権の
権利発生の意味を持つところの
登録ではない、後日
争いが生じたときに、単にこの
登録の
時点においては
著作物が、既に
プログラムが完成しておった、
プログラムが存在しておったという証明をなすところのものであり、別に
ベルヌ条約に反する、いわゆる無
方式の
権利発生をとっておるその
方式に反するものではないし、そしてまた
登録をすることによって後日の
争いについてそれを早期に解決するためにも適切ではなかろうかというように考える次第でございます。ただ、どのような
登録の
制度が持たれるのかということについては現在私にとっては全然わかりませんけれども、これをどのように展開していくのかということは、この
制度を生かすか殺すかということになってくるのではなかろうかと思うわけでございます。もっとも簡単に申しますと、特許に関しては特許庁がございますが、
プログラム著作物に関しても
著作権庁というものでもあれば別でしょうけれども、そうしますと
登録の
制度も極めて有効に生きてくるのではないかと思いますが、現在の状態においてはどうなのかはその辺のところは私がわかるところではございませんので、その点はそんな
程度にさしていただきたいと思います。
さらにその第七に、
プログラムの
著作物の
著作権を侵害する
行為によって
作成されたものを
業務上
電子計算機で
使用する
行為、これは
当該複製物の
使用の
権原を取得したときに情を知っていた場合に
限り著作権を侵害する
行為とみなす、これもまた適切ではなかろうかと存ずる次第でございます。と申しますのは、その違法に
作成された
プログラム、これを
使用する、基本的な
プログラムとしていわゆるオペレーティング・システム・
プログラムとして用いているような場合におきましては、それを知らないでその
電子計算機を購入しそれを動かしておきますと、それは違法なる
プログラムを
使用するということで本来の
権利者によって差しとめられた場合においては極めて大きな社会的にマイナスが生じてくるということも起こり得るわけであって、初めから購入の
時点においてその
使用の
権原を取得した
時点において違法な
プログラムであるということを知っている者ならばそれは仕方があるまいということを考えて、そのことを知らない場合においてはこの
著作権を侵害する
行為とは見ない、これは適切なやり方ではないか、極めて
現実に即したところの
考え方ではなかろうかというように考える次第でございます。
以上申し上げましたような点から見まして、現在この
著作権法の一部を
改正する
法律案が提出されておりますが、極めて適切ではなかろうかというのがこの
法案に対する私の総括でございます。
そしてまたもう一つ簡単ですがつけ加えておきたいのは、先ほど国際的にも国内的にもこの
改正案というものは極めて
時宜に適したものではなかろうか、こう申し上げましたが、国際的にと申しますと、簡単に申し上げますれば、ことしの二月の末、二十五日ころから三月一日にかけましてジュネーブで
コンピューター、この
ソフトウエアの
著作権法上の
保護に関するところの
国際会議が開かれたわけでございます。そこに私
機会がありまして
出席をすることが、
専門家の一人として呼ばれまして、そこで
審議に参加したわけでございますが、その
コンピューターの
国際会議に、これはユネスコと
WIPOとの共催で開かれた
会議でございます。そこには
専門家として
世界から九名、それから
参加国として三十九カ国が参加しております。その中で、
発言をしない国ももちろんございますけれども、
発言をした国が相当多数ございますが、たしか私の記憶では十九か二十くらい、二十五、六でしょうか、そのくらいの国が
発言しております。
専門家はもちろん
発言しておりますが、そのうちのほとんどの国が、この
コンピューターの
プログラムにつきましては
著作権の
保護によって現在適切な
措置をとりつつある、あるいは既に
著作権法による
保護によってこの
プログラムの
保護を図っている、
著作権法を
改正し
プログラムの
保護を図っている、あるいはそのような
保護を明文上
規定する必要もなく、既に
裁判上そのような
保護が図られているので自分の国としてはそのような
措置はとらない、しかしなお明確にするためにその
法案を考えてもいないわけではないと申すような、例えば西ドイツのような国もあったわけでございます。明確に
著作権法による
改正ではなくて、特別な
立法によるところの
改正を考えていこうというのは、私の聞いている限りにおきましては
ブラジルただ一カ国だったと記憶しております。そのほか五カ国くらいは
プログラムの
保護につきまして
著作権法の
改正によるのか、あるいはそうではなくて特別な
立法によってその
保護を図るというように考えている国が、現在検討中であるという国が五、六カ国あったわけでございます。それ以外の国はほとんどすべて
著作権法による
保護である、こういう
態度に固まっていると見て間違いはないのではないかと存じております。そうしますと、
世界的に
著作権による
保護を考えてまいりますと、
著作権条約は
ベルヌ条約、さらには
万国著作権条約、そのほか
南アメリカならば別個のまた
条約がございますけれども、そのような国際
条約に加盟している国は百カ国を下らないわけでございます。それらの国々が国際的にも
著作権法による
保護を考えていこうという場合には、これは無
方式でもありますし、極めて有効な国際的な
プログラムの
保護を達成することができるのではなかろうかと考えまして、国際的にも今回におけるこの
プログラムの
保護のための
著作権法の一部
改正法案、これは極めて適切ではないのかと、こういうように考えている次第でございます。
簡単でございますが、私の陳述をこれをもって終わらせていただきたいと思います。
ありがとうございました。