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政府委員(
志賀学君) 私
どもが、この
優先権制度を設ける必要があるというふうに考えました
理由は、最近
技術開発が進められているわけでありますけれ
ども、その内容というのは大変高度であり、かつ複雑なものになってまいっているわけでございます。その
技術関発の現状、実態というものを見てみますと、基本的なあるいは原理的な発明というものが行われる、それを出発点として組織的にまた計画的にこれを具体的なものにしていく、その過程で改良発明が行われる、あるいは追加的な発明というものが出てくるというのが、最近の
技術開発の実態であろうというふうに思われるわけであります。
ところで、そういったような
技術開発の現状に照らしまして、それに伴う、その
技術開発によって創造されます発明についての
特許制度というものが、十分そのような実態に合います
技術開発の発明に対して付与されるような、そういう仕掛けになっているであろうかという点について考えてみますと、やや疑問があるのではないか、問題があるのではないかというふうに考えられるわけでございます。
この
技術開発をした、発明をした発明者の立場からいえば、できるだけその発明に伴っていろいろな発明を網羅的に
特許権の対象として
特許を取りたいと、こういうふうに考えるわけでありますけれ
ども、その点についてかなり問題がある、必ずしも十分ではないのではないかということであるわけでありますけれ
ども、具体的に申しますと、例えばある基本的な
出願が行われます。その後、改良発明が行われます。それについて、例えば
最初の
出願について補正をして、つけ加えていくということを仮に考えてみた場合に、その補正が要旨変更になりますと補正が認められないということになるわけでございます。
それでは、独立の
出願をすればいいではないかということになるわけでありますけれ
ども、その独立の
出願をした場合に、前の
出願が公開されるわけでありまして、それとの
関係からいって、どうも進歩性というものがないということから、
特許要件がないということから拒絶されるというケースがかなりあるということになるわけであります。したがって要旨変更でもできない、あるいは新
出願としても難しい、そういう発明というのが出てくるわけであります。
それでは、その前の
出願を取り下げればいいではないかというのが次の問題として考えられるわけでありますけれ
ども、先の
最初の
出願をうっかり取り下げますと、その間にいろいろなほかの人の
出願が行われていたり、いろいろな状況があるわけでございまして、一番
最初の
出願を取り下げるということもなかなか危険でできない、こういうような実態があるわけであります。
そこで、そういうことを解決して、網羅的に
特許を認めていく、そういう仕掛けをつくることが必要ではないかということで考えたのが、この
優先権制度でございます。なお、こういったような
優先権制度というのは、主要な
先進国におきましては既にこのような
制度をつくり、運用しているわけでございます。その辺も踏まえまして、私
どもとしてこのような
制度を考えたわけでございます。
この
優先権制度の性格、内容と申しますのは、
先ほど先生から
お話がございましたように、
特許法の四十二条の二に規定されているわけでございますが、これをごらんいただきましてもなかなかわかりにくいわけでありますが、
先ほど申し上げましたような実態を踏まえまして、要するに、先の
最初の
出願、先に行われました
出願を基礎といたしまして、後からその優先権を主張して
出願ができるということになっているわけでありまして、例えば、先の一番
最初の
出願に添付されました明細書あるいは図面、これと重複する後から行われます
出願のうち、先の
出願に添付されました明細書あるいは図面に添付された発明と重複する部分につきましては、後から
出願されましても、先の
出願のときに
出願されたというふうに優先的に取り扱っていこうと、こういうのが、
一言で言うとこの
制度の内容でございます。
この四十二条の二の一項というのは、これはどういう場合にこの優先権を主張することができるかということが書いてあるわけであります。いろいろ書いてございますけれ
ども、先の
出願から一年以内に行われたものでなければいけないとか、あるいは先の
出願が
特許庁に係属しているものでなければいけないとか、いろいろな
幾つかの要件が書かれております。また、二項、三項、これは優先権の効果について定められているわけでありまして、
先ほど申し上げましたように、この後から
出願されましたものであっても、先の
出願と重複する部分につきましては、ここに書いてありますようなその
特許要件の判断に際して、先の
出願のときに
出願されたものとして判断を行ってやろう、こういう効果が二項、三項に書かれているわけでございます。
そこで、
パリ条約に基づく優先権との違いでありますけれ
ども、これは本質的には同じような性格のものであろうというふうに思っております。
ただ、
パリ条約と申しますのは、言ってみますと、例えば
日本と
アメリカであるとか、そういう横のほかの国との
関係において優先権というものを定めているわけでありますけれ
ども、それをいわば縦の
関係に転換したというのが、今回お願いしております
優先権制度の性格とお考えいただければよろしいのではないかというふうに存じます。