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国務大臣(
増岡博之君) ただいま議題になりました
国民年金法等の一部を改正する
法律案につきまして、その提案の理由及び内容の概要を御
説明いたします。
近時我が国の
社会経済は、人口構造の高齢化の進行、産業構造・就業構造の変化等により大きく変動しつつあり、これに伴い、
年金制度のよって立つ基盤そのものにも重大な変化が生じております。
年金制度は、
国民が安心して老後
生活を営んでいく上で最も重要な柱であり、このような
社会経済情勢の変化に的確に
対応しつつ、長期的に安定した制度運営が維持されなければなりません。とりわけ、我が国
社会が高齢化のピークを迎える二十一世紀においても、健全で安定した
年金制度の運営が図られるよう長期的展望に立った制度全般にわたる見直しと改革が迫られております。
今回提出いたしました改正案は、このような趣旨にかんがみ、
年金制度改革に関する各方面の御
意見をも踏まえ、慎重に
検討し取りまとめたものであります。その主眼は、本格的な
高齢化社会と
人生八十年時代の到来に備え、公的
年金制度の統合一元化を目指しつつ制度の長期的な安定と整合性ある発展を図るため、
国民共通の基礎
年金を導入するとともに、給付と
負担の均衡を長期的に確保するための
措置を計画的に講じることであります。今回の改正案においては、まずその第一
段階として、
国民年金、
厚生年金保険及び
船員保険について所要の改正を行うこととしております。
以下、改正案の内容につきまして、順次御
説明申し上げます。
第一点は、基礎
年金の導入と制度体系の再
編成であります。我が国の
年金制度は基本的には今後とも
社会保険方式を維持することとし、
国民年金制度をすべての
国民に基礎
年金を
支給する土台の
年金制度として位置づけ、
国民年金の適用を
厚生年金保険の被保険者及びその配偶者にも拡大することとしております。基礎
年金の給付は、老齢基礎
年金、障害基礎
年金及び遺族基礎
年金の三種類としております。
一方、
厚生年金保険制度は、原則として基礎
年金に上乗せする報酬比例の給付としての
年金を
支給する制度に改め、いわゆる二階建ての
年金体系にすることとしております。また、被用者独自に必要な給付として、三級障害についての障害
厚生年金及び子のない寡婦等に対する遺族
厚生年金を
支給するほか、当分の間、六十歳から六十四歳までの老齢
厚生年金を
支給することとしております。
このほか、
船員保険の職務外
年金については、
年金一元化の趣旨にかんがみ、制度的に同一の内容を有する
厚生年金保険に統合することとしております。
第二点は、将来に向けての給付水準の適正化であります。現行制度のままといたしますと、平均加入年数の伸びに応じて
年金の給付水準が上昇し続け、現役の勤労者の賃金とのバランスを失するとともに、将来の保険料
負担が過大となり、世代間の公平と制度の円滑な運営が損なわれることが確実に予測されます。そこで、今後発生する
年金給付については所要の見直しを行い、給付と
負担の均衡を図ることとしております。
すなわち、将来、各制度を通じて平均加入期間が四十年になることを見込み、その場合の
年金水準をおおむね現在程度の水準とすることといたしました。具体的には、基礎
年金の水準を、
昭和五十九年度価格で月額五万円、夫婦で十万円の定額とし、
厚生年金保険につきましては報酬比例
年金を加えて、ほぼ現在の
厚生年金保険の標準的
年金の水準を維持することとしております。そのため、
厚生年金保険の定額部分の単価及び報酬比例部分の乗率を二十年の経過期間を設けて
段階的に逓減することとしておりますが、施行日において既に六十歳に達している者及び既発生の給付については、原則として従来どおりといたしております。
第三点は、婦人の
年金権の確立であります。
厚生年金保険の被保険者である被用者の妻につきましても、すべて
国民年金を適用することといたしますので、改正後は、夫、妻それぞれに基礎
年金が
支給されることになります。これにより、従来からの
課題であった単身世帯と夫婦世帯の給付水準の均衡を図り、妻の
年金権の確立を図ることができることとなるわけであります。
第四点は、障害
年金等の改善に関する事項であります。
まず、これまで障害福祉
年金の対象であった二十歳前の障害につきましても障害基礎
年金を
支給し、額を大幅に引き上げるとともに、
厚生年金保険の障害
年金につきまして事後重症の五年間の制限期間を撤廃することとしております。
なお、遺族
年金につきましては、子のある妻、四十歳以上の高齢の妻に手厚い給付となるよう給付の重点化を図ることとしております。
第五点は、基礎
年金の財源等
費用の
負担についてであります。
基礎
年金の給付に要する
費用は、
国民年金の保険料、
厚生年金保険の拠出金及び
国庫負担で賄うこととしております。この場合、
厚生年金保険の適用対象である被用者世帯につきましては、被用者及びその妻に関して
厚生年金保険が拠出金としてまとめて
負担することにしており、基礎
年金の給付に要する
費用の総額を
厚生年金保険と
国民年金がいわば被保険者数の頭割りで公平に
負担することにしております。
国庫負担は基礎
年金に要する
費用に一元化し、
負担率は給付費の三分の一としております。
厚生年金保険では拠出金額の三分の一ということになります。なお、これとは別に、経過的に特別の
国庫負担が行われることとなっております。
保険料は、
国民年金の適用対象である自営業者等については、
昭和六十一年四月から
昭和五十九年度価格で月額六千八百円とし、その後も毎年度
段階的に引き上げることといたしております。
厚生年金保険の適用対象である被用者については、
昭和六十年十月から保険料率を千分の十八引き上げて千分の百二十四にすることといたしておりますが、女子については、男子との格差を解消するため、引き上げ幅を千分の二十とし、その後も毎年千分の二ずつ引き上げることとしております。
第六点は、その他の改正事項でありますが、
厚生年金保険の資格期間に関する四十歳以上の十五年加入の特例、坑内員等の被保険者の期間計算の特例及び脱退手当金は、将来に向かって廃止するほか、女子の
支給開始年齢につきましては、男子と同じ六十歳に引き上げることとしております。これらについては、それぞれ所要の経過
措置を講じることとしております。
また、
年金額の物価スライド制につきましては、実施期間を四月からとするほか、
厚生年金保険について、適用事業所の
段階的拡大及び標準報酬の上下限の改定を行うこととしております。
以上の
年金制度の基本的な改正の施行期日につきましては、業務処理面の準備な
ども考慮し、
昭和六十一年四月一日としております。
なお、
政府原案におきましては、
昭和五十九年度におきます
年金額等の改定について、所要の改正を行うこととしておりましたが、別途議員立法により同様の
措置を講ずることとされたことに伴い、
関係規定が削除されております。
また、夫婦がともに六十五歳に到達するまでの間における老齢
厚生年金の水準、三級障害にかかる障害
厚生年金の水準、子のない妻及び父母に対する遺族
厚生年金の要件等につきまして衆議院において所要の修正が行われております。
最後に、特別児童扶養手当等の
支給に関する法律の改正について申し上げます。
在宅の重度障害者に対する福祉の一層の増進を図る
観点から、二十歳以上であって精神または身体の著しく重度の障害により、日常
生活において常時特別の介護を必要とする
状態にある在宅の重度障害者に対し、月額二万円の特別障害者手当を
支給することとし、
昭和六十一年四月一日から実施することといたしております。
以上がこの
法律案の提案理由及びその概要であります。
何とぞ、慎重に御
審議の上、速やかに御可決あらんことをお願い申し上げます。