○関嘉彦君 民社党を代表して述べます以下の
意見陳述は、第百一
国会における本
委員会の報告、すなわち
昭和五十九年八月七日の
会議録に戦っておりますものを前提にしまして、いわばその各論に当たるものであります。したがって、前回に述べたものと重複する点は極力省略し、その折に述べ尽くさなかった点を
中心に述べます。
民社党の考える
総合安全保障の
基本的な
考え方及びその安全確保の手段として、適切な国内における
経済的、治安などの
措置をとることは
もちろんでありますが、対外的には
外交的手段による
紛争の解決と並んで
必要最小限の
防衛力が必要であること、そしてその
防衛力として
自衛隊及びその不足を補うものとしての
日米安保条約は、合憲であるのみならず、必要であることについては既に昨年述べたとおりであります。しかし、
自衛隊の
現状並びに
日米安保条約の
運用面については問題がないとはいえません。
まず、
自衛隊の
問題点を取り上げます。
問題点の第一は、政治による
防衛の統制
体制についてであります。
言うまでもなく、
防衛は
国家存立の
基本に関する問題であって、
防衛庁のみに任せておくことはできない。国内の治安、財政、
経済などの国内的な要因や
外交関係などとの関連で対処すべき問題であります。しかるに、現在の国防
会議はその運
用が形骸化して、事実上は
防衛庁で決めたところの業務
計画あるいは
予算案の追認機関になってしまっていて、
国家の安全をそのときどきの
情勢に
対応して審議、決定する機関とはなっていない。例えばSDIについての対処であるとか、
日米の
防衛協力の方針の決定であるとか、あるいは
軍縮ないし
軍備管理の
基本方針などを総合的に審議、決定する機関が必要であります。そのためには、現在ある国防
会議や
総合安全保障関係閣僚
会議を統合改組して、以上のごとき任務を遂行するために、総理大臣を議長とし、少数の
関係閣僚を議員とする
国家安全保障会議を設立すべきである。また、その事務局には、内外の
情勢を的確に把握し、
政策の判断の基礎及び
有事に対する的確な判断を下せる資料を
会議に提供し得るように充実したスタッフを備えるべきであるというふうに考えます。
防衛体制の第二の
問題点は、
自衛隊内部の
指揮系統の一元化であります。
戦前の陸海軍の内部不統一の愚かさを繰り返さないために統合幕僚
会議議長の権限を
強化することが必要であります。平時においても
教育訓練とか後方
計画の作成であるとか、
陸海空軍間の重複を避けて冗費を節約するため
統幕議長の調整権限の
強化が必要でありますが、特に
有事において統合
部隊の編成されたときは
もちろんでありますが、それ以外のときでも
統幕議長の権限が現在のままでいいかどうか再検討すべきであると思います。特に
有事に際し、
指揮命令は迅速であることを必変としますが、
統幕議長が直接に
防衛庁長官を補佐するように改める必要があります。
第二の
問題点は、危機に対処する
対応策の
整備の問題であります。
近代戦はしはしば奇襲をもって始まる。
防衛出動下令前の奇襲を受けた場合に、
自衛隊はいかなる行動をとるべきであるかについての規定の
整備を図ることが大切であります。それとともに、
防衛出動下令後の
自衛隊の行動についての
有事法制の
整備も至急に行うべきであります。例えば、
自衛隊法第百三条は
有事における物資の収用について決めておりますけれども、依然としてその政令はつくられていない。これについて
防衛庁はその
問題点の
研究に着手し、中間報告を発表していますけれども、政令の公布には至っていない。至急
整備すべきであると考えます。
第三の
問題点は、
装備の近代化とその効率化であります。
日本のように国土が狭くかつ人口稠密な国土においては、敵を国内に引き入れて撃破するということは極めて困難であります。したがって、専守
防衛を旨とする
自衛隊は、波打ち際で、可能な限り洋上で敵を撃破することを旨とし、にもかかわらず上陸してきた敵に対しては、既成事実をつくらせないように速やかに撃退する
体制をつくっておかなければなりません。そのためには、何よりも侵略行動を早期に察知するために偵察衛星やあるいは高性能レーダーの設置による情報収集
能力の
向上が第一に必要であります。また、電子機器を使っての防空
能力の
向上、海峡、
シーレーン防衛のための海上
防衛能力の
向上、上陸
部隊撃退のための機動力のある電子機器を
装備したところの
陸上部隊の
整備も急がるべきであります。
ただし、
防衛は一国の
経済力と無
関係に行うことはできない。
日本は
昭和五十一年来、基盤的
防衛力の充実の
考え方に立って
防衛費をGNPの一%に抑える方針をとってまいりました。この枠を堅持したことは、外国に与える誤解を回避し、あるいは
国民的合意の形成にとってそれなりの
役割を果たしてきたと思います。しかし、
アメリカの力が相対的に低下し、
ソ連の極東地域における著しい
軍備の増強を見る今日においては、いつまでもGNP一%枠内に
防衛費を抑えることは不可能であると思います。
もちろん、むだな経費は極力節約する必要があり、また自己増殖の危険性を持つ軍事費に対して一定の歯どめをかけることは必要でありますけれども、それは
政府及び
国会がそのときの
情勢に応じて抑制すべき問題であるというふうに考えます。
第四の
問題点は、
自衛隊員の人材の確保と教育の問題であります。
いかに優秀な武器があっても、それを使う人の質が悪ければ戦力にはならない。現在の
自衛隊の定員をこれ以上増加することは必ずしも容易ではないし、また必要でもないと思う。それよりも必要なことは、
自衛隊員の士気を高め、質の
向上を図ることです。
自衛隊の士気を高める最善の方法は、
国民が
防衛に対して理解を持ち、
自衛隊を支持して万一の場合ともに戦うという雰囲気をつくることが必要であります。その空気を変えるために
政府のなすべきことは
最後に述べますけれども、さしあたりここで強調しておきたいことは、隊員の処遇とその地位を
向上させ、隊員に社会的にも尊敬される仕事をしているという誇りを与えることであります。特に隊員の兵舎の劣悪さは既に
国会でも指摘されたところでありますけれども、一日も早くその改善を行うべきである。
さらに、質の
向上のためには訓練が欠かせない。現在でも
予算が足りないために十分の訓練が行われていない。公害問題など困難な問題があることは十分承知しておりますけれども、
政府はこれら問題の解決に早急に取り組み、訓練のための
予算を充実すべきであるというふうに考えます。
いま一つ重要なことは、
指揮官となる幹部の教養の問題であります。現在
防衛大学校においては、単に専門教育だけでなしに、社会科学の教育も限られた時間ながら行われていますけれども、何よりも幹部は専門知識を持つのみでなく、常識豊かな社会人になることが必要である。そのためには一般の大学の大学院やあるいは外国の大学に留学させて世間の一般の常識にも触れさせ、その教養を高めることが必要であります。
次に、
日米安保条約の
問題点について述べます。
日米安保条約は、その第二条に規定するように、単なる軍事的
協力のみの
条約ではない。しかしここでは、その
防衛面の
問題点のみを取り上げます。
現在の
世界が
基本的に
米国を
中心とした自由陣営と
ソ連を
中心とした共産陣営との対立であって、
日本は自由陣営の一員として以外
繁栄することは
もちろん、生き延びることも難しいことは既に述べたとおりであります。しかしそのことは、
アメリカの
外交国防
政策は無条件に支持するということではない。必要な場合、
日本は
米国に対して適切な忠告を行うべきであると思う。しかし、それはあくまで同盟を
強化する
立場からのものであることを忘れてはならないと思う。
米ソ両国の
軍備競争に対しても、
米国のみを非難する論調が時として見られるわけでありますが、しかし、
ソ連は封鎖社会であるのに対して
米国は開放社会であることを忘れるべきではないと思う。つまり
アメリカの対外
政策は、議会あるいはマスコミの批判の対象になるためにその実態が知られやすいですけれども、
ソ連では反対党や自由なマスコミがないために、ともすると秘密のベールに隠されがちであります。そのような
情勢を考えると、我々は
米国のみの
軍備拡大を非難することはできないと思う。
日米安保条約の
運用につきましてもそのことを忘れてはならない。確かに
日米条約が
日本に与えるマイナスの面も少なくないことは認めます。しかし、その
条約がない場合の
ソ連の脅威を考えると、可能な限りそのマイナス面を少なくする一方、
日本憲法の範囲内でその
条約の有効な機能を発揮できるように努めるべきであります。
その点で第一の
問題点は、
有事の際の
日米共同の作戦が行われるよう組織及び法制面の
整備を平時から用意しておくべきことである。すなわち、統合
司令部における
指揮命令系統の調整を行うとともに、
日本救援のために来援する
米軍が
日本国内で有効に活動できるように法制面の
整備を行っていくことが必要であります。
第二に、ヨーロッパのNATO諸国が行っているように、
日本においても救援のための
米軍が
日本で使う武器、
弾薬などの最小限度のものはあらかじめ事前に
備蓄しておくことが必要であり、そ
のことが
米軍の来援をより確実にするものと言えると思います。
以上のように、
日米安保条約を堅持し、
自衛隊の
整備をすることが
日本の安全を確保する上で必要でありますけれども、しかしそのことは、現在の自由陣営と共産陣営との間の一触即発の対立
状況をそのままにしておくということではない。
軍備の拡張、特に
核兵器による対立が
経済的にむだであるのみならず、そのこと自体が偶発
戦争を引き起こす危険性を持っております。したがって、両陣営の間の
軍備の縮小、特に
核兵器の廃絶を
世界、特に
米ソ両国に対して働きかけることが必要であります。しかし、自由陣営が一方的に
軍備、特に
核兵器を廃棄すれば
ソ連もそれを見習うであろうという
考え方は極めて危険であると思います。
軍縮は双方がバランスを保ちつつ漸進的に縮小を図り、しかも
検証を伴うものでなければなりません。両陣営間の不信の念が続く限り、
検証抜きの
軍縮は、秘密社会である
ソ連を利するのみであります。また、
ソ連との間で効果的な
軍縮交渉を成功させるためには、自由陣営の団結を図りつつ、
日本はそのすぐれた技術を利用して
検証手段を提供するなど、側面からこれを援助することが必要であると考えます。
最後に強調しておきたいことがあります。それは
国民の間における
防衛意識の
向上であります。
日本は先般の大戦で無謀な
戦争を行い、しかも敗戦した結果、
国民の間には
戦争を連想させるようなことはなるべく考えないようにするような気風が一部にあります。しかし、
世界の人々は必ずしもすべてが天使のような人たちばかりではありません。
戦争の原因となるような国際
紛争の種を
外交的手段で除去することは
もちろん必要でありますけれども、力の空白が侵略の原因になったという過去の歴史の経験にかんがみ、
防衛のために最小限度の
自衛力とその足らざるところを補う
米国との同盟の
維持が必要であります。
戦争を防ぐ最善の方法は、外国の侵略に対しては
最後まで抵抗するという
国民の気迫と、それを裏づける最小限度の
防衛力の保持であります。
自衛隊及び
日米安保条約も、それが万一のときに使われなくて済む最善の方法は、それがいつでも有効に機能し得るごとく
整備しておくことであります。そのことを
国民に周知徹底させるためには、
政府も率直に
日本を取り巻く国際的な軍事
情勢の実態を公表して、その対策の必要を
国民に訴えるとともに、
国会でも
安全保障の問題について各党の
考え方の差を討論を通じて
国民に明らかにし、この問題についての
国民の
関心を喚起すべきであり、
外交・総合安保
調査特別
委員会の任務もまさにその点にあると考えます。