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参考人(
山口孝君)
山口です。
今まで三人の
参考人から、私も大変貴重な
意見として伺っておりまして、最後になりましたので、私は大学の方で会計学と
経営分析論という講義を担当しておりまして、そういうようなものを研究しておりますから、ここでは
国鉄の会計制度及びそのいわば仕組みの中にこれまで盛られておりました金額、数字、これを分析をいたしまして、
赤字の原因がどういう制度のもとでつくられたか、それは金額の中でどういう形であらわれているか、これを明らかにしてみたいと思います。そのことはまた今後
国鉄を再建していく上で大事な問題だ、こういうような
考えで申し上げたい、そう思っているわけであります。
これはもう御
承知のとおりでありますけれども、
国鉄の
赤字は、一番直近の一九八三年度において一般会計だけで一兆六千六百四億円であります。これに、御
承知の特定債務整理特別勘定に棚上げした債務の利子三千四百五十七億円を合計すると二兆円を超すということであります。こういう
赤字が年々出ておりますから、
赤字の累積額でありますが、これは繰越欠損額という形で表示されておりますが、これが一般会計では十一兆八千七億円、それから、これまで
処理されました六兆四千四百七十一億円を含みますと、
赤字の累積額は十八兆円になる。こういう
赤字が出ました原因は、御
承知のとおり、多額の
設備投資を実施したわけでありますが、これがほとんど借入金で行われました。この結果、一般会計で十四兆六千六百十一億円、棚上げ分の五兆三千二百二十一億円を含めば二十兆円になるということでありまして、この二十兆円をどう
処理するか、大変な問題になっているわけであります。
私は、このいわば毎年の巨額な
赤字、累積欠損及び
長期債務、この原因は三つの面から見ることができると
考えております。その
一つは、言うまでもなく、
経済環境とそれから
政府の財政
政策、こういうようなものがあるわけでありますが、この問題についてはあえて私はここで触れないでおきたいと思います。むしろ私の
専門であります財務会計制度、これが
一つの原因になっているということ、及びそのいわば財務会計制度の枠内でどういう形で
赤字が発生したか、この面に触れていきたいと
考えております。
戦後の日本の財務会計制度を大きく変えたのは、言うまでもなく、
公共企業体へ日本の国有
鉄道が変わったわけでありますが、その際にいわゆる企業会計の制度を導入したということであります。ところが、御
承知のとおり、
国鉄は、
国鉄法では「公共の福祉を増進することを目的」とするというふうに言っているわけでありますが、この
公共企業体である
国鉄に対して、民間企業の営利
原則でありますところの——
国鉄の場合には公共企業の
原則でなければいけないのに、民間企業の営利
原則によるところの財務会計制度を導入したということであります。
公共企業体であるという場合には、当然そこでよるべき
原則がある。これは例えば
輸送需要の充足の
原則ですね、いわゆる
国民の要望する
輸送需要をどう充足するか、こういうことが非常に大事な
原則でありますし、あるいは観点を変えれば、公共福祉
実現の
原則、こう言われるべきものを追求する。もちろんその場合には能率的な運営によらなければいけませんが、これが
公共企業体である
国鉄の
原則でなければならなかったわけであります。ところが、先ほど申し上げましたように、一九四九年、
昭和二十四年から
公共企業体として
国鉄が独立いたしまして、受益者
負担制と独立
採算制、こういうアメリカの
公共企業体の
経営原則を基礎にして、特に企業会計の
原則を受け入れてしまったわけであります。
ところで、このいわば民間企業の企業会計の
原則、これはどういう
原理から成っているかというと、これはもう諸先生御
承知のとおりでありますが、これはいわゆる投下資本の回収計算であります。つまり、株主から時価発行増資とかいろいろな形で巨額の資本が集中しますから、これにつきまして資本を
維持し及びそれを回収する、これが企業会計の大
原則であります。と同時に、また株主に対してどれだけ配当ができるか、これは配当可能利益でありますが、この配当可能利益を算定する、こういう大目標に基づきましてこの企業会計
原則ができ上がっているわけでありますが、この企業会計
原則を
国鉄が採用してしまった。先ほど
伊東参考人がおっしゃったいわゆる退職給与引当金というような制度は受け入れることができませんでしたけれども、発生主義会計ということで、御
承知のとおり、いわゆる減価償却ということもやれということで、巨額の
設備投資に対する減価償却を年々
処理しなければいけない、こういうことにもなるわけであります。
先ほど申し上げましたように、企業会計の
原則は、いわゆる企業の努力、これを普通、
コストといいますが、それと、それから上がった収益を対応しまして、その差額としていわゆる利益を計算する、こういう仕組みになっていることは御
承知のとおりであります。そしてその純利益のうち社外流出分を、例えば配当とか役員報酬を除いたものを次期繰り越しとして留保していく、もちろん欠損が出た場合にはそれを次期以後に何とか回復する努力をする、こういう仕組みになっております。しかし、この計算は企業の社会的
責任というような観点はやや希薄であります。これは今申し上げた株主に対する配当可能利益の算定と、それから強いて言えば債権者の保護、こういうことからでき上がっているわけです。したがって、このような企業会計
原則で算出されました
赤字、黒字はすべてにおいて
公共性の指標とはなり得ないというふうに私は
考えております。
したがって、まだ開発されておりませんけれども、
公共企業体の会計は、公共的な努力というものと公共的な成果、これは例えば公共の福祉と言ってもいいと思いますが、これを測定する、いわゆる公共的な努力と公共的な成果、ベネフィットといってもいいと思いますが、これを測定する体系が望ましい、こう
考えておりまして、今のところこれに当たるのは、強いて言えば我が国の予決算制度、それから例えば西ドイツなりで行われておりますところの公共
経済的領域と企業的領域及び国家的領域、こういうふうに西ドイツの
国鉄では三つの種類の違った領域を分けまして、そしていわば
コストとその収益を測定をする。そして、今、企業的領域においては民間の私鉄と
競争をして利益が出るか出ないか、ここで成果を問う。しかし、いわば
地方交通線のような公共的領域については、そこでは公共的な便益がどれだけ達成できたかで評価をする。同時に、基礎的施設、いわゆるインフラストラクチャー部分については国の出資ということで、その結果についての利益は当然出ないわけでありますが、そういう三つの体系で区分会計制度をとっておるわけでありまして、そして、そのいわば公共的部門と国家的領域部門については一兆円を超す補助金を出す、こういうふうな仕組みで
国民の支持を得ている、こういうことであります。
ところが、我が
国鉄の場合にはそういう制度になっていないわけであります。例えばその
一つの例といたしまして、御
承知の欠損金とか利益についての繰り延べ制度がとられているわけであります。御
承知のとおり、
国鉄では、期間純損益が出ますと、この損益は利益積立金または繰り延べ欠損金として繰り越される、こういう形になっているわけでありまして、これは先ほど
参考人からも出ましたけれども、この欠損につきましては、西ドイツ、フランス、イギリスなどのヨーロッパの国有
鉄道ではこれを次年度で消す、こういうことになりますから、欠損は前年度分しか残らない、こういう制度であります。日本でも、地方公営企業では今でも、公共的な見地から、欠損が合理的なものであれば単年度もしくは次年度で消す、こういう制度をとっているところがかなりあるわけでありますけれども、
国鉄はこの欠損を繰り延べる、こういう制度を持ったわけであります。
もちろん、
国鉄は、しばらくではありましたけれども、御
承知の、「国有
鉄道に損失を生じた場合において特別の必要があると認めるときは、その損失の額を限度として交付金を交付することができる」、こういう規定を持っていたわけでありますけれども、この規定を改定しまして、企業における損益の
処理法、繰越損益、こういう
処理法を導入してしまったわけであります。その際にも、
国会の答弁の議事録を見ますと、いや
赤字が出たときにはそれはしかるべく
処理をする、こういうような
政府答弁もあったわけでありますが、結局それを
処理しない。まとめてその後二回ほど棚上げをするという手続が確かにございましたけれども、次年度に
処理をする、こういうような
処理方法はとらなかったわけであります。ここが大きな
問題点である、こういうふうに私は
考えているわけであります。
それからもう
一つ、これはもう御
承知のとおりでありますけれども、公共
負担が
国鉄はかなり大きいわけであります。しかし、それに対してヨーロッパの国有
鉄道に比べますと案外助成額が少ない、出資額はほとんどない、こういう点にもかなり問題があると
考えざるを得ないわけであります。御
承知のとおり、
国鉄は
公共企業体としてもうからない路線をかなり敷設し、
維持しております。また多くの運賃の割引制度を持っております。東海道新幹線のようなもうかる部分の利益をもうからない部分に回す内部補助もやっておりますが、これではとても十分ではありません、
限界があります。したがって、この公共的な部分については補償や助成、出資が合理的になされなければいけないわけであります。
これは
国鉄の労働組合その他が出したもので、私が検討しまして、一体どのくらいの公共
負担を
国鉄がしているかというのを見ますと、ほぼ二兆円を超している、こういうふうに言われております。この公共
負担額が二兆円でありますが、これに対して補助金は、先ほどの特別勘定を含めて七千十八億円であります。そういうことでありますから、これはもう極めて助成金が少ないわけでありまして、八三年度におきまして営業収入の二兆九千六百六億円の二三・七%であります。これに対して、御
承知のとおり、イギリスは四千百五十四億円、金額は少ないんですけれども、補助率は五〇・六%であります。それからドイツでは一兆二千七百六十六億円で七四・五%、フランスは一兆二百二十六億円で七五・二%になっているわけであります。だから、これからも、日本の
国鉄がいかに少ない国の補償や助成で公共的な
負担を負っているか、これが明らかであります。その辺の問題を慎重に
考えなければいけないだろう、こう
考えるわけであります。
それから、先ほど申し上げましたように、日本の
国鉄は巨大な
設備投資を
借金でやってきた、これはもう十分御
承知のとおりであります。したがって、このいわば
長期債務の累積及び
借金による
設備投資というのは、個別企業でも同じでありますが、二つの重要な要素を生むわけであります。それは、
設備投資をやりますと減価償却費が非常にふえるという問題があります。それからもう
一つは、巨額の支払い利子を生む。両方とも、減価償却費も支払い利息も固定費でありまして、これはいわば営業収入が減っても絶対に減らないという、そういう費用要素であります。これが
赤字のほとんどの原因になっている。このことは十分御
承知のとおりだと思います。
例えば数字で申し上げますと、
国鉄の
長期債務は先ほど申し上げたように二十兆円にも達しているわけです。そしてこの年々の利子は、八三年度だけ、単年度利子で九千七百八十五億円という巨額なものになっているわけであります。これは御
承知のとおり、一般会計における純損失一兆六千六百四億円の五八・九三%にもなるわけであります。それは、別に特定債務整理勘定の利子三千四百五十七億円を含めれば一兆三千二百四十二億円にもなる、こういうことであります。この
長期債務のほとんどは
設備投資の
借金とそれから利子で占められております。これも試算がありますが、御
承知のとおり、
長期債務二十兆円のうち十三兆五千億円は
設備投資のための借入金であり、同時に支払い利息が六兆七千億、これを合計しますと二十兆円ぐらいになる。ですから、
長期債務のほとんどは
設備投資とその利子から生み出されたものだと言わざるを得ない、こういうことであります。
こういうような膨大な
設備投資はなぜ行われたか。これは御
承知のとおり、日本のいわば高度成長
政策のもとでいわゆる設備をどんどんとふやした、新幹線を引く、列島改造計画に従うところの大きな規模の
設備投資が行われた等々であります。こんなようなことからこの
赤字の原因が生じたわけであります。同時に、先ほど申し上げました減価償却、これも八三年度には五千八百七十五億円という巨額のものになってしまったわけであります。
それから、先ほど
伊東参考人が
地方交通線を分離しろというふうにおっしゃっているわけであります。この
地方交通線の
赤字が問題になるわけでありますが、実際にはいわゆる幹線系区の方の
赤字の方が大きくて、年々その増加率が多いわけでありますから、幹線系区の
赤字を克服しなければ
国鉄全体の
赤字はどうにもならない、むしろ
地方交通線では
赤字を出すにも出せないところまで私は合理化が進んでいる、こう
考えるわけであります。しかし、私の
専門のいわゆる会計計算、こういう点からいいますと、どうも
地方交通線のあの
赤字の額というのは実態に合っているだろうか、こういう疑問が生ずるわけであります。これはなぜかといいますと、この
地方交通線の線区別損益計算というのは三つないし四つで、どうも
赤字がふえるような仕組みになっている、こう
考えるわけであります。
その
一つは、いわば運賃収入の算定におきましても、これも皆さん御
承知だと思いますが、現行の制度を採用する前は、全体の
地方交通線の収入の一〇%を発駅収入という形で発駅に帰属させる、それから六%をいわば着駅収入、こういうふうにしております。したがってその差額の八四%を距離に比例して分けるという方法をやっておりましたが、現行ではそれをもうすべて距離でやるということでありますから、培養線の
役割をしております
地方交通線で一生懸命駅員が団体旅行を募集しましても、その収入の多くは幹線系区に
流れてしまって
地方交通線の収入がふえない、こういう仕組みになっておりまして、このことが非常に困るわけであります。
それから例えば金利ですが、先ほどの膨大な金利の割り振り計算などにおきましても、
赤字が多いところは
借金が多いんだ、それは利子を
負担するのは当然だという形で、
借金が、
赤字が多いのに比例して利子
負担を大きくする、こういういわば配分方法をとっております。あるいは発電設備、送電設備のような共同の設備の費用の配分ですね、減価償却費の配分、このことにつきましても、正常の操業度に基づいてあらかじめ分ける、こうなりますと、
地方交通線は正常操業度までいかないということになりますから、過大な
負担になり、正常操業度以上の幹線系区では相対的に
負担が小さくなる、こんなようなことがあります。
それから、関東では木原線というのが
赤字であると言われております。そしてその隣に
民営鉄道で小湊線がある、これが黒字だ。なぜか、このことをある新聞社が調べられたわけでありますけれども、その際に、やはり人件費が多いということが問題になりまして、これをよく調べると、やはり人件費に対しても、先ほど少し出ました恩給とかあるいは退職金を含むところの、特定人件費を含むものが配分されていくということなものですから当然高くなる。したがって、
分割をして人件費が下がるということは、そのことはいわば特定人件費部分を既存の
国鉄におぶせてしまうということにならざるを得ない、こういう問題をどう
考えたらいいかということが残るわけであります。
時間が来ましたのであとは結論を申し上げておきますと、要するにこの財務会計制度を変えなければどうにもならないだろうと私は
考えております。そのためには、今申し上げましたことを含めて総括的に申し上げれば、第一に、
長期債務と繰越欠損についての
処理の制度を確立しないといけないということです。
それから二番目に、基礎施設の国による建設、
維持の
原則を立てる。基礎施設はもう本当に必要だから道路と同じように国がつくるということ。それから、そういう形でつくられたインフラストラクチャーについての減価償却についてはこれをやらないでいい、これの免除。それから、他の上物の部分についてもややこれは耐用年数が短過ぎる。
国鉄のような大世帯の場合には、使っている
機関車は、そこで使えなくなっても次々と地方へ持っていきまして、意外なところで古いのにお目にかかるわけです。ですから、耐用年数が長いわけでありますから、現行の税法の耐用年数を
基準とした減価償却制度を改定した方がいいだろう、こういうことであります。
それから第三番目に、公共
負担分についてのきちんとした補償や助成制度を確立することが非常に大事だ、こう
考えております。
それから最後に、予決算制度の再評価です。
国会で予算を立てて、そしてそれが正しいものとして行われている限りにおいてそれを認めていく。
赤字、黒字論よりも予決算制度を再評価するということ、及び西ドイツなどでやられているような区分会計制度を採用して、やはり公共的
負担部分というのはこれだけで、これはやむを得ない部分である、それから基礎施設については
政府が出資する、こういうような制度を採用する等々であります。
時間がございませんで、金額の中身についてはちょっと申し上げられませんで、これはまた御質問のときに答えたいと思います。
時間が超過して申しわけございませんでした。