○
参考人(
高梨昌君)
高梨でございます。
私は、実は昨年、
国鉄労働組合の書記長の諮問
機関であります
国鉄研究会の座長としまして、
国鉄労働組合に「
国鉄経営再建に関する
提言」という文書を提出いたしました。この
国鉄研究会は国労の委託でございますけれ
ども、私
ども専門研究者は、
国鉄労働組合の運動方針にこだわらずに、専門家の立場から
国鉄経営再建のための
提言をまとめる、こういうような契約で設けられた研究会でございます。当初は、不幸なことに
国鉄労働組合の受け入れることにならずに、全面的に反対という文書が提出されましたけれ
ども、その後次第に私
どもの研究会の
提言が国労の
経営再建プランの中にも取り入れられつつあることは私として
努力のしがいがあったと思っているところでございます。もちろん、私
どもの研究会の
提言をどのように受けとめるかは
国鉄労働組合の主体的、自主的判断でお決めいただいて結構ですということが契約の中身でございましたから、そのそんたくは国労のあくまで自主的な判断にお任せした次第でございます。
そういうようなことをまず前もって申し上げまして、私
どもが
国鉄研究会をどういうような
考え方で
国鉄経営再建プランを
考えたかという基本的な視点をまず初めに申し上げたいと思います。
まず、第二臨調初め
国鉄再建監理委員会の方々もそうでありますし、
国鉄当局もそうでありますけれ
ども、いわゆる不採算
路線からの撤退その他の減量
経営をかなり強く推し進めつつありますけれ
ども、私はこれだけでは
国鉄経営再建は到底不可能ではないかと
考えます。むしろ
鉄道だからこそ生かせる
鉄道特性を十分に発揮できる積極的な
経営戦略を立てて、これの実現を図れる
経営形態、また
経営管理機構に改組する、これが肝要であるということが第一点でございます。
それから第二点は、
国鉄の行っています
輸送サービス、これは従来は
国鉄の
事業がそれぞれ独占的
事業として営まれてきましたけれ
ども、この
国鉄の
事業独占を
前提とした
経営再建策が役に立たないということであります。今日では航空とか道路とか海運とか、それぞれ
鉄道に対する
競争的
輸送手段が急速に発達してまいりましたので、こういうような
競争的
交通市場を
前提として
国鉄の
競争力を回復させる、こういうような
経営戦略を立てることが必要である。これが第二点でございます。
それから第三点は、
国鉄の行う
輸送サービス、これは日鉄法で定められます公共性と
企業性、こういう二重の目的がありますけれ
ども、この
国鉄の
輸送サービスというのは、経済学者であります私から見ますと、これは公共財とは到底言えないということであります。
国鉄の行う
輸送サービスは経済財である、こういうことを
経営の基本ベースに据えて
再建策を構想する必要がある。公共財といいますと、立法とか行政とか司法とか消防、警察、軍隊でございますが、これの
維持のためには一定の費用が必要でありますが、一定の費用を投下してもどれだけの経済的成果が上がったかは測定できない
事業分野が公共財でございます。それから経済財というのは、一定の費用の投下に対してどれだけの経済的成果が上がったかを少なくとも測定可能な
事業でございます。当然、経済的成果はそれがマイナスに出る場合もあります。プラスに出る場合もあります。それが損失を出すか収益を上げるかを少なくとも経済的に測定できる内部装置を持つ
事業である。これが第三点でございます。
第四点は、
鉄道事業というのは、これも経済学の用語を使って恐縮でございますけれ
ども、自然独占的産業だということでございます。自然独占的産業は、通俗的には公益
事業とされるものの多くがそうであります。例えば、電力、ガス、水道、電信電話、
鉄道、道路
輸送、航空機
輸送、いずれもこれは自然独占的産業であります。
例えばガス
事業に例をとりますと、ある
地域にガス会社があれば、このガス会社が先行形態にある場合に後発のガス会社がそこに進出することは困難でありますし、またそこの同じ
地域にガス会社が二社あれば大変な資源のむだな投資になります。結果的にその
地域でのガスの供給サービスを特定のガス会社に
地域独占を認める、そのかわりそこでの料金の決定、また
事業の新設もしくは廃止についてはそれぞれ行政官庁の許認可を必要とする、こういうような行政的規制を加える産業がこれであります。
労使関係法でも、
労働関係調整法でそれぞれストライキについてのクーリングタイムが置かれている。こういうような規制の加わる産業が自然独占的産業でありますが、
国鉄の
事業もこういうような自然独占的産業としての
性格を持っている。このことを基本に据えて
経営形態なり
経営管理機構を構想しなければならない。
以上四点でございます。
さて、それならば、今お三方の
参考人からも
意見が述べられ、また私
どもの、それぞれ
国鉄経営再建に関しますさまざまな専門家の方々、また
国民の世論、またそれぞれの
労使、各団体の方々がさまざまな
意見を申し述べているところでございますけれ
ども、少なくとも私の見たところ、
国鉄の
経営再建問題というのは、既に抽象的、理論的次元の論争の段階は終わった、こう私は判断をいたします。むしろ具体的にどういうように実行計画を作成し、これを実行に移すかという段階に入ったと思います。それならば、今までのさまざまな御
意見を整理してみて、これも私の判断でございますけれ
ども、大勢としてはほぼ合意ができつつある
課題が幾つかございます。
一つは、
現行の公社という
経営形態、これは
維持しがたいという点でございます。
維持しがたい後の、公社の
経営形態を変えた後、民間資本参加をどの
程度認めるかどうかについては若干の幅はございますけれ
ども、少なくとも公社形態は
維持しがたいという点ではほぼ大勢は
意見は一致しているのではないか、これが第一点でございます。
第二点は、先ほど申しました、
鉄道として持っている特殊な
性格というのでしょうか、
鉄道でこそ発揮できるメリット、これを十分に生かせる
経営に転換すること、これも大体
意見が一致していると思います。
鉄道特性といいますとさまざまな特性がございます。例えばエネルギー
効率は他の
輸送手段に比べて大変
効率がようございます。それからまた、騒音公害は別でありますけれ
ども、少なくとも排気ガス公害は電車の場合にはほとんどございませんので、低公害型の
輸送手段だということであります。また専用軌道を走りますから大変安全性が高い。また、日本の
国鉄に代表されますように、正確にダイヤどおりに運行されるという、こういう性質を持っております。それからまた、もう
一つ日本の
国鉄のすぐれた特徴点でありますけれ
ども、
鉄道網が全
国鉄道網として今現に完成されているということであります。この
鉄道網があるということは、日本の長い将来を見た場合に緊急時の
輸送手段として最適だということであります。
ヨーロッパの
鉄道というのはいわば軍事上の必要から
鉄道が残されておりますけれ
ども、日本の場合でも、日本がみずから戦争しないにしても、しないことが望ましいことでありますけれ
ども、仮に周辺海域で戦争が起きれば少なくとも原油の輸入は途絶されます。石油の備蓄も限界がありますから、国内での
国民の日常最低必要な生活物資を
輸送し、人を
輸送するためには、少なくとも水力と原子力発電を活用しまして緊急時の
輸送に当たらせる。そのためには電車が非常に有効に役に立つ。こういうような緊急時の
輸送手段として最適な
輸送手段だということであります。また、
鉄道というのはそれぞれ敷設されればその
地域に何がしかの利益をもたらします。普通開発利益でありますけれ
ども、この開発利益によって国土の均衡ある発展をこれで図ることができるということであります。
こういうような
鉄道特性をどういうように発揮させるかが最大のポイントで、こういうような
鉄道特性を発揮できるような
経営に脱却すること、これについてもほぼ
意見は私は一致しつつあると思います。
それから第三番目は、今申しましたことと関係しますけれ
ども、現在ある
鉄道を可能な限り残すこと、これについても大勢としては
意見は一致しつつあると思います。この中には当然
地方交通線も含まれますけれ
ども。
大体以上が、現在のさまざまな御
意見の中から大勢として合意のある論点でございます。
それに対しまして、全く合意が得られていない、また具体的な
再建プランが
考えられていない論点が幾つかございます。
私がきょう申し上げたいのは三点でございますけれ
ども、
一つは
国鉄の
企業分割問題でございます。これにつきましては、第二臨調が申しましたような
地域別に
企業分割するということ、また、
再建監理委員会は
地域別に
企業分割する方向で
具体案を
考える、こういうことであります。これに対しまして、全国一社
体制を保持すべきだ、その際にはある
程度分権管理が必要だと。ここでは
企業分割か分権管理かという点で大きく議論が分かれている論点であります。
それから第二番目の議論が分かれている論点というのが、膨大な長期的な累積
債務の
処理の問題でございます。これをいかに
処理するか。一部には、全部国庫
負担、つまり
国民の租税
負担で賄うべきだという説から、新会社の方に全部
負担をかぶせるべきだ、こういうようなかなり幅のある
意見がございます。この
処理方策が具体的に提示されておりません。
それから第三番目が、
国鉄の
経営再建過程で発生いたします
余剰人員対策でございます。この
余剰人員をどのように
雇用機会を提供するか、また、不幸にして離職者が出た場合にはどのような
政府が援助
措置を講ずるのかについては全く
意見が出されておらないのが
現状であります。
以上の点を踏まえまして、私なりの
意見を以上の三点について申し上げたいと思います。
まず、
国鉄の
企業分割問題でありますけれ
ども、しばしば民営
分割と一言で言われますが、
民営化するかどうかということと、
企業分割するかどうかということは理論上も全く別の問題でございます。私は、
国鉄経営を
地域別に
企業分割すること並びに
地域別支社制による分権管理を図ることについては反対でございます。これは
鉄道事業にとってそれほど適切な改革案ではないということを申し上げたい。
このことは、先ほど申しましたけれ
ども、
鉄道事業というのは自然独占的産業であるということであります。もともと、民間
企業でもそうでありますけれ
ども、いわゆる
規模の利益、スケールメリットというのは、
規模が大きくなるほどコストが逓減していく、こういうことでありますけれ
ども、ところが自然独占的産業の場合には、例えば電信電話でも電気でもガスでもそうでありますけれ
ども、そこでの
事業を
分割することが困難だということ、これを
事業の非
分割性と私
ども呼んでいますが、だから、
事業の非
分割性とスケールメリット、このバランスがとれればいいわけですけれ
ども、この両者のバランスが失敗する場合がしばしば起きます。これも経済学の言葉で恐縮ですが、普通これは市場の失敗と言っています。つまり、ここで費用が逓増し収益が悪化する。
国鉄の
現状がそうでありますけれ
ども、そういうような問題が自然独占的産業の場合には市場の失敗をもたらす事態がしばしば発生いたします。
ただ、その際、それならば
事業分割、これがどうできるかとなりますと、自然独占的産業であります公益
事業の中にも二つのタイプがあります。
一つは、ある
程度地域別に
企業分割が可能な
事業であります。それは電力とかガスとか水道
事業がそうであります。電力会社が九電力に
分割されるのは、これは技術的に可能であります。というのは、電力の供給と電力を受けるユーザーの場合が特定の
地域に居住しています。ガスに至れば大体都市
地域だけですから、水道もそうでありますけれ
ども、これはある
程度狭い
地域での
企業分割が可能であります。
ところが、同じ公益
事業であっても
地域別に
企業分割が不適切な
事業があります。これが電信電話、それから航空路ですね、飛行機、それから道路
輸送、それから
鉄道であります。それぞれ航空路にしましても道路にしましても電信電話でも全国ネットワークで結ばれております。
国鉄の特徴はまさに全国ネットワークで
鉄道がつながっているところに意味があります。それぞれ
競争的な交通手段というのが航空路なり道路
輸送でありますから、これと対等の
競争をするためには全国ネットワークを
国鉄も保持しなければ
競争力を到底回復できない、こういうことであります。
そういうような問題をまず
前提にしまして、それならば
国鉄の
経営管理ですね。
企業分割というのは
経営管理の
適正規模の問題で出されているわけですけれ
ども、この適正な
規模ということを
地域別に
分割することは私は不適切だと
考えるのですが、
現状で見る限り、
国鉄は一社
体制で大変な中央集権的管理であります。そのためにしばしば官僚制的な管理に基づく
弊害がさまざまなされてきております。そこで私
ども国鉄研究会といたしましては、こういうような
国鉄の
経営管理の
合理化についてこういう提案をいたしました。
一つは、
事業分野別の
事業部制を採用したらどうかということであります。この
事業分野別
事業部といいますのは、今
鉄道線路は少なくとも全国ネットワークでつながっているところに意味があるんです。例えば常磐線にしても中央線にいたしましても、線路を
地域別にずたずたに切っては意味がないんですね。だからそれぞれ
路線ごとに
事業部を置く。この
路線の
事業部の
範囲は、それぞれの今の幹線ですね、何々本線と呼ばれるところを
一つの
路線事業部に
考える。またそれと並行するところを複数
考えてもいいですけれ
ども、それぞれの
路線事業部が、業務としてはダイヤを編成する、それから
列車編成を
考える、そういうような商品サービス、これを
考える
事業部として
路線事業部を置く。これは相当数になると思いますけれ
ども。それによって、少なくともそこでお客さんなり貨物なり、この
路線事業部を
中心にして商品開発を
考えていく
事業部であります。
それからもう
一つは
地域事業部であります。
地域という概念は、都道府県もそうでありますし、
国鉄の地方
鉄道管理局もそうでありますけれ
ども、もともと人為的に線引きしない限り成立しない概念であります。実際には地方
鉄道管理局にそれぞれ運転とか保守とか、それから駅務とか、こういう方々がそれぞれの
地域に居住されております。その居住
地域範囲内でそれぞれ運転業務や駅務業務に従事しているわけですから、この
地域事業部はそれぞれの地方
鉄道管理局ごとに原則置くということになるかと思います。ここでは運転業務、今言った出改札、駅務等の客扱い業務、それから保線業務、これを
地域事業部が分担する。
地域事業部は
路線事業部に、例えばあるダイヤで
列車が走る場合には運転士、車掌をそこに提供する。こういうような
路線と
地域のそれぞれの相互分業でもって
経営を営んでいく、こういうことでございます。これを全国幹線について
路線と
地域に分けていくということを私
どもは提案いたしました。こういうような分権管理であります。
それ以外に、なじまない分野が
一つございます。それは
路線と
地域と総合した
部門を私は置いてもいいと思います。例えば新幹線
鉄道であります。新幹線
事業部というものを、これは新幹線が別の線路を日本は走っております。これはフランスとは違う点であります。新幹線
事業部としてそれぞれ独立の
事業部を置く。ただし、新幹線
事業部には、それに並行する在来幹線をその
事業部に繰り入れる。私は、並行在来幹線は線路をずたずたに切ってそれぞれ新幹線の駅ごとのアクセス
鉄道に組みかえるべきだと
考えておりますけれ
ども。それからもう
一つは、首都圏なり関西、これの国電の
事業部であります。それ以外の
事業部として
関連事業部。
大体以上のような
事業分野別
事業部制を置いて分権管理を図っていけば、先ほど言いました自然独占的産業による
事業の非
分割性、これの産業の特性にも私はこたえられる、こういうことでございます。
それから第二番目は、膨大な長期累積
債務の
処理でありますけれ
ども、これは私
どもの提案では、民営の公益
事業に限りなく近い特殊株式会社にすべきだということを提案いたしました。この民営に限りなく近い特殊株式会社というのは、結局民間資本参加を求めるわけですが、その際、旧社である
国鉄がそれぞれ
債務をしょい込むわけですが、その際、現物分は新社に現物出資し、ただし、その固定資本の価格換算額を資本として所有し、将来新会社の
経営業績に応じてその株式を民間に放出売却して累積
債務の弁済に充てる、こういうことでございます。それによればある
程度の
債務の
処理が可能であろう。ただし、特定年金や特定
退職金等の特定
人件費については、既に旧日鉄、日本製鉄で前例がありますように、これは国庫
負担で埋めざるを得ないのではないか、こう
考えるところであります。
それから第三番目の
余剰人員対策でありますけれ
ども、現実には定年退職、自発退職等の自然減耗策によるべきだと
考えますけれ
ども、いかにどう
考えても、
国鉄が発生する
余剰人員の吸収先として
関連事業活動の拡大、これは時間的にどうも間に合わないのではないか。当然人材の養成もそこでは十年ぐらいの時間がかかります。そのタイミングがどうしてもずれる。したがって、
余剰人員の発生はどうしても避けられないんじゃないかと
考えます。
それならそれらの方々の離職者
対策をどうするかということで、私は先ほどの長期累積
債務の
処理もあわせて提案したいことですけれ
ども、この際総合交通
対策特別会計というものをつくって、これは石炭特会、今石油代替エネルギー特別会計というのがございますけれ
ども、これに準じた総合交通
対策特別会計を設置して、その中に
国鉄勘定を設けて、特定
人件費の返済、それから長期累積
債務の弁済、それから離職者
対策、この費用に充当すべきじゃないかと
考えます。
その財源
措置としましては、道路建設のための道路特定財源がありますし、飛行場建設のための空港特定財源がございます。これはそれぞれ石油ガス税、それから自動車重量税等を財源にするわけですけれ
ども、この財源と、もう
一つは軽油引取税、この税率をもっと大幅にアップしてこれをこの財源に充てる。要するに、トラックのために大変な排ガス公害が起きています、それから交通事故も交通災害も発生しています、こういうような公害
対策、安全
対策、こういう面からも可能な限り
鉄道に貨物を戻す、また人を戻す、こういうようなことでそういうような財源
措置をこの際講じられないか、これによって以上のような
対策の費用に充てる、こういうことでございます。
なお、それ以外にも、それだけでもまだ離職者
対策はうまくいかないと思いますので、私はあえて、先ほどの
参考人からも御
意見がございましたように、
国鉄の職場は全国に散在しておりますから、石炭離職者のように集中的に産炭地に発生するのとは違いますので、できるだけ地方の自治体がこれらの
余剰人員を引き受けてもらえるような、こういう工夫をしていただけないか。石炭離職者では国が五千人ほど転職先で引き受けましたけれ
ども、これは地方自治体が
責任を持って地方公務員、また農協の
職員でも経済団体連合会でもいいですけれ
ども、そこでも引き受けていただけたらと、こう
考える次第でございます。
以上でございます。