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参考人(
北村正哉君)
青森県知事の
北村でございます。
参議院運輸委員会に
出席をいたしまして
国鉄問題に関して
意見を申し上げる機会を与えていただきましたことを、まずもって感謝申し上げたいと思います。
青森県は、
国鉄とのかかわりにおいて、現在幾多の解決を迫られている課題を持っております。県民の悲願となっております
東北新幹線盛岡以北の本格着工、国家的事業として建設が進められている青函トンネルの有効活用の問題、青函トンネルの完成に伴う青函連絡船の存廃問題あるいは奥羽本線の複線化等がその主なるものであります。その他、
地方交通線につきましては、本県内路線のうち、第一次特定
地方交通線として黒石線、大畑線が選定されたのでありますが、この二路線につきましては、黒石線は五十九年十一月一日から、大畑線は六十年七月一日からそれぞれ地方鉄道へ転換し、現在順調に運営されているところであります。
この間、私もまた特定
地方交通線対策協議会の構成員といたしまして協議に参画いたしたのでありますが、審議の過程を通じて最も強く感じましたことは、地域の人々の鉄道の存続に寄せる熱意がいかに大きいかということであります。と同時に、
国鉄が地域の産業経済の発展と地域社会の生活基盤の安定に大変に大きな役割を果たしてきているということであります。このことがまた、地元としてはバスヘの転換を求めずに地方鉄道としての路線の存続を選択したというゆえんでもあります。このことは、特に積雪地帯という特殊事情
が大きな背景をなしているということも
考えられます。
現在、国におかれましては、
国鉄再建監理委員会を
中心として、
国鉄の
分割民営を
基本に据えて、
経営形態のあり方について御検討が続けられ、最近の
報道によりますと、
全国を六ブロックに
分割することで
最終答申の骨格を固めたとされております。マイカー、トラック、航空機などの輸送構造の
変化、さらにはまた、
国鉄の抱えております膨大な
赤字を
考え、国民の足である鉄道を将来にわたって存続させるということを念頭、に置いた場合、
分割民営の方法も理解できなくはないのでありますが、
報道されております限りの
内容では、次の点について心配されるところであります。
すなわち、第一点は、
分割会社が営利本位の
経営手法をとることによって、大都市圏
旅客輸送、地方主要都市圏
旅客輸送及び既設
新幹線輸送が
中心となり、将来的に
地方交通線が
分割会社の
経営を圧迫することを
理由として切り捨てになるおそれがあるのではないか、こういう心配であります。
このことにつきましては、五十九年八月十日の
国鉄再建監理委員会の第二次提言におきまして、「バスヘの転換等が予定されている路線以外の約七千キロメートル弱の
地方交通線についても、第一次提言の
方向に沿って
国鉄からの
分離を積極的に推進すべきであり、このため、例えば
分離の実現可能性の高いと見られる路線をモデル線区として選定し、具体的に譲渡又は貸付条件の検討を行うとともに、地元地方公共団体、関係
交通事業者等と協議し実現を図るなどその推進の端緒を早急に開くべきである。」と提言されておるわけでありまして、さらに、六十年一月十日の
国鉄から提出されました「
経営改革のための
基本方策」におきましても、特定
地方交通線は
昭和六十一年度末までにすべて転換を図る。
昭和六十二年から六十四年度までに、その他の
地方交通線九十線区のうち、七十線区を
国鉄全額出資の株式
会社とし、
分離経営する、こう示されているのでありまして、不採算路線であることを
理由として切り捨てが今後絶対にないとは言い切れないことだと思われるのであります。
第二点として申し上げたいのは、
国鉄の
経営形態変更に伴う長期
債務等の
処理に関する主要な措置方法については、
臨調の
答申あるいは
監理委員会の提言において触れられているのでありますが、
分割会社が将来その
経営において
債務が発生した場合の取り扱いにつきまして、明快な
方針が示されていないのであります。
分割民営に際しては、将来にわたって
債務が発生しない方法を選択されることではありましょうが、仮に発生したとしても、その
債務は地方に転嫁することがあってはならないことであり、
債務処理に関する
責任を明確にされることをお願いしたいのであります。
第三点として、
本州が三
分割された場合、
全国交通ネットワークが
旅客へのサービスを低下させることなくスムーズに確保できるのであろうか、こういう点であります。一例として申し上げるのでありますが、青森県の場合は、青森と大阪の間に特急「日本海」なるものが運転されているのでありますが、この列車は、
分割された場合、
東日本、東海、
西日本と
三つの
会社の区域を通過することになるようであります。この列車は、御利用いただくとわかるのでありますが、
北海道、
東北地方と関西方面を直接につなぐ唯一の列車でありまして、修学旅行など大変多くの利用者がこれを利用している非常に歴史のある、親しみのある、まさに
国鉄としての機能を十分生かした列車であると私は見ているのであります。
新しい
会社が採算性を追求する余り合理化に急ぎ過ぎ、加えて新
会社同士の
経営方針のそご等から、切り捨てなどがゆめゆめないことを願うものであります。
以上、限られた資料や情報等から
分割民営に関しての私なりの
考えを申し述べさせていただいたのでありますが、ここでお願い申し上げたいことは、
国鉄の
分割民営はまさに世紀の大手術であります。これをもし断行するとするならば、その手術は完全無欠でなければならないと思うのであります。まずくいったということでもう一回手術をし直すというようなことは、そういう
事態はあってはならないと
考えるのであります。
さらに、三十六兆円という
債務の
処理は、国が
負担するにしろ新
会社が
負担するにしろ、結局は国民の
負担に帰結することは明白であります。
国鉄の
経営形態を変えるに当たっては、国民の理解を得るための配慮あるいは努力を怠ってはならない、こういうふうに
考えるわけであります。
次に一私
どもにとりまして最も大きい関心事であります整備
新幹線問題について
一言だけ申し上げさせていただきたいと思います。
御承知のところでありますが、整備
新幹線は、
昭和四十七年に計画、
昭和四十八年に整備計画が決定されまして以来、既にここに十数年を経過いたしました。その間、五十三年十月には、「整備五
新幹線の具体的実施方法について」の関係
閣僚会議了解がなされ、五十六年十一月には、
東北新幹線盛岡以北と北陸
新幹線の二線を優先着工路線とする旨決定されたところであります。また、
東北新幹線盛岡以北につきましては、五十七年十二月には環境アセスメント案が公表され、これに対し、知事としてその
内容をおおむね妥当とする
意見書を提出いたしておりますし、五十八年十月には着工準備作業所が開設されるなど、建設に向けての準備体制は既に十分整っていると認識しているのでありまして、この間の関係者の御努力に感謝したいと思います。
しかしながら、
昭和五十四年以降毎年度
国鉄利用債または財投をもってなされた建設費予算は、その間の臨時行政
調査会の
答申及び
国鉄再建監理委員会の緊急提言等があったとはいうものの、一度も執行されることなく今日に至っているのであります。予算措置の面からすれば既に着工されていなければならないはずのものであり、国権の最高機関であられる国会において議論され、その結果成立した予算が、数度にわたって執行されることなく葬り去られたことはまことに遺憾であります。
申し上げるまでもなく、
新幹線は、
昭和四十五年に制定された
全国新幹線鉄道整備法にあるように、国民経済の発展と国民生活領域の拡大に資することを目的とした、国土の総合的かつ普遍的開発の役割を担うものであります。そのような目的のもとに出発した整備
新幹線が、
昭和四十八年の整備計画以来その着工を十有余年にわたって凍結されてきたのであります。
国鉄の
経営収支悪化、国、地方を通じての財政窮乏等の事情があったことは十分認識できるのでありますが、十年以上とは余りにも長い期間であります。国土の均衡ある発展という目的からすれば、整備
新幹線建設は国策としてとうに着工されていなければならない当然の事業であろうと
考えるのであります。
もちろん、
新幹線建設には膨大な資金を要するものであり、しかもそれが
国鉄経営の障害になってはならないということについては十分理解できるところであります。その点、整備
新幹線建設について現在検討が進められている、
国鉄の
負担としない、いわゆる公共事業方式につきましては積極的に賛意を表するものであります。しかしながら、昨今の財政状況からすれば、そのこともまた容易でないことも理解できるわけであります。
全国新幹線網整備のためには、投資の重点化による着実な進捗を図ることが必要であろうかと
考えます。五十六年の優先着工路線の決定は、まさにそのような趣旨によるものであろうかと理解をいたしております。
特に
東北新幹線盛岡以北を急がなければならない
理由を申し上げてみたいのでありますが、技術の粋を集めて建設が進められた世紀の大事業である青函トンネルは、六十年三月本坑が貫通いたしました。私も入りました。六十二年には、日本が世界に誇り得る国民的財産として完成するのであります。その利用方法につきましては目下検討が進められているところでありますが、青函トンネルを
本州−
北海道間の高速
交通体系の主軸として、これに
新幹線を通すべきだとするのが圧倒的な国民の声であります。事実、
東北新幹線は青函トン
ネルと
一体になり、国土を縦貫する骨格路線として、国土の有効利用と均衡ある発展を図る上で欠くことのできない根幹施設、まさに日本列島のバックボーンであろうかと思うのであります。
青函トンネルの完成に合わせまして
東北新幹線を完成させていくことは、工事スケジュールからして既に遅きに失しているのでありますが、世界に類を見ない、そして、また世界が注目をしている海底トンネルを所期の目的のとおり
新幹線として利用するのが、国威発揚の面からも、また国策としても必要なことであり、そのためにはまず
東北新幹線盛岡以北の一日も早い完成が求められることになるのであります。また、
東北としての
一体感の醸成に
東北本線の果たしてきた役割は大変大きいわけでありまして、長い歴史を持っておることにかんがみれば、
東北新幹線は青森まで完成して初めて名実ともに
東北新幹線と言えることであります。
申し上げるまでもないのでありますが、
東北新幹線は既に
昭和四十六年に着工されました。第一期工事は盛岡−大宮間、第二期工事が大宮−上野間、第三期工事が盛岡−青森間、これが残されているわけであります。断じてこれは新規着工ではないと私
どもは
考えております。青森まで届いて初めて
東北新幹線は完成することになる、こういうふうに
考えているわけであります。上野−盛岡間といういわば未完成のままの状態は、
東北としての
一体感を疎外するものであり、これは他の整備四線とは異なる要素を持っており、民生安定のための国策として早急に完成していただきたい、これを求めるものであります。
さらに加えますと、北
東北、
北海道は、三全総で期待されている定住構想実現のために懸命の努力を続けているのでありますが、高速
交通体系の整備など、地方の力のみでは不可能であります。国土の開発のため地域の自助努力が要請されているのでありますが、地方の力のみで開発を進めることはいかにも無理というべきであります。もともと、日本の地域開発の歴史は、国の財政投融資の力によって達成されてきたということを思うべきではなかろうかと思うのであります。高速
交通体系を含む国の総合行政によって地方に人口やら産業の集積が図られれば、必ずやそこに風鉄
経営改善にも結びつくものが出てくる、こう
考えるのであります。現に、
新幹線着工具体化の情報が出ただけによって企業進出、引き合いが倍加しているという事実を御認識いただきたいと思います。私は、
昭和四十八年の整備計画決定以来、関係筋に対してこれらのことを
中心に緊急性を
説明申し上げ、
東北新幹線盛岡以北の早期着工を要請し続けて今日に至りました。
さて、昨年十二月二十八日、
昭和六十年度予算編成に当たりまして
政府と自由民主党間で取り交わされました覚書につきましては記憶にいまだ新しいところであります。改めて申し上げるまでもなく、
東北及び北陸
新幹線に係る骨子は一並行
在来線の廃止を決定するとともに、
政府及び党において、国及び地域
負担等、事業実施方式のあり方、
国鉄再建監理委員会の
答申との関連について調整し、六十年八月をめどに建設に着手するというものであります。現状は、
国鉄再建監理委員会の
答申が七月末になる見込みであり、着工は十月中旬ごろになる見通しにあると承っているのでありますが、国策を実現するために編成され、国会において議論が尽くされて成立した予算が執行されないという
事態をこの上ともさらに重ねていくということは許されないことではなかろうかと思うのであります。
国鉄再建監理委員会の
答申後、直ちに調整を図って、
結論を得て早期に着工されることを重ねてお願いしたいのであります。
以上が私の
国鉄に関する所見であり、また要望でもございました。本
委員会の先生方におかれましては、何とぞ私
ども地方サイドの
考え方に十分耳を傾けられ、国民に広く満足を与えるような
国鉄運営について、より一層の御検討を賜りますように特にお願いを申し上げまして、私の陳述を終わることにいたします。大変ありがとうございました。