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幸重公述人 御紹介いただきました全
日本労働総同盟の
幸重でございます。
御送付をいただきました
昭和六十年度
予算にかかわる資料を読ましていただきました。その中に「
昭和六十年度の
経済見通しと
経済運営の基本的態度」と題する一月二十五日に閣議決定されたものがありました。
五十九年度の
経済成長率は実質で五・三%
程度となることを見込み、六十年度の
経済運営の第一の柱として国内民間需要を
中心とした
景気の持続的
拡大と雇用の安定を挙げてありました。
日本経済が五年ぶりに五%成長を実現することとなったようであります。五%成長の主役を果たしたのは、対米輸出を
中心とする輸出の急増であることはこれまた事実であります。しかしながら、
国民生活に直結する個人消費やあるいは住宅は、例えば政府見通しでも大幅な下方修正となっております。いわば成長の内容の面で問題があるというふうに私どもは考えております。
私たち同盟は、一昨年以来、五%
程度の中成長が可能であり、そのために
経済政策を
拡大路線に転換をし、賃上げ幅の引き上げによって国内需要の
拡大を提案をしてまいりました。その提案は残念ながら実現をいたしませんでしたけれども、現実には、
アメリカの
景気の急
回復が五%成長ラインへの復帰を主導いたしたものと言えます。成長の内容に問題が残るにしましても、五%を上回る成長が実現をし、しかも物価が安定をしているという事実は極めて大きいと考えております。
日本経済の潜在成長率はまさに五%以上を維持していることが実証されたわけでありますし、ここ数年一部で言われ続けてまいりました
日本経済の潜在成長率は低下をしたとする論や、あるいは、欧米のスタグフレーションが長期化することを予想しまして低成長論を説き、
政策の根幹に置くべしとする、そういう主張はまさに根拠を失ったと考えられるからであります。政府による有効な需要
拡大の
政策やあるいは賃上げはインフレを加速するだけであるというような主張が続けられておりましたけれども、まさにその論拠を失ったものと判断をいたさざるを得ません。
その
意味で、
昭和六十年度
予算において、
経済運営の基本的柱ともいうべき
景気の持続的
拡大と雇用の安定という課題に従来と異なった積極的な
政策が展開されるべきであるというふうに考えておりますが、残念ながら例えば政府
支出の中の固定資本形成は二年連続マイナスでありますし、依然として縮小均衡型の
経済財政政策に固執をしていると指摘せざるを得ません。我が国が抱えた
国債発行残高は六十年度末で約百三十三兆円に上り、容易ならざる事態となってまいりました。このまま放置をすることは、
財政の弾力的対応を困難にし、民間
資金の締め出しやあるいは
財政インフレの招来など、我が国
経済に混乱を来すおそれなしとはいたしません。
我が国のこの
財政赤字は、私は二つの要因があると考えております。
一つは経常的な
支出の
増加による構造的な
赤字と、二つには
景気の停滞から来る税収の伸び悩みによる循環的な
赤字であります。構造的な
赤字は、政府が今日まで行
財政改革に極めて消極的であったことによる結果であると推定がされます。循環的な
赤字は、政府が実質的かつ大幅な所得
減税やあるいは投資
減税の実施あるいは公共投資の
拡大などの積極的な
経済政策を怠ってきたばかりか、
先ほど申し上げましたような低成長論ではありませんけれども、本来
財政の持つ
景気調整機能を発揮せしめなかったことによる税収の伸び悩みがその結果を招いたものと言わざるを得ません。
今日の
財政赤字をその原因から追及することなく、構造的な
赤字も循環的な
赤字も短絡的に混同し、構造的な
赤字解消のための行
財政改革の名のもとに、それとは性格が異なる循環的な
赤字に対してもいわば対症療法としては逆療法の緊縮
政策をもって臨み、その結果、自律的な
景気回復も
財政再建もともに果たすことができなかった
財政当局の責任は極めて重大であると言わざるを得ません。
〔
委員長退席、大西
委員長代理着席〕
縮小均衡型
経済や
財政政策の継続が国内的には財源不足を理由とする福祉の大幅後退やあるいは社会資本整備のおくれなどを不可避といたしましたし、迫り来る高齢化社会へ向けて
国民の強い期待にこたえることなく、対外的にも内需の停滞による貿易摩擦の激化と財源不足による
経済協力の抑制など、我が国を国際的に孤立化をさせるおそれがあります。
世界経済がようやく長期にわたるスタグフレーションを解決をいたしまして、
日本経済もインフレなき五%成長、中成長を達成しようとしている今こそ、低成長時代のイメージを一新をし、新しい時代の幕明けを迎えるべきであろうというふうに思います。このような時代の動きを敏感に反映した
予算の策定が望まれるところであります。
私ども同盟は、積極
経済政策の具体策の第一といたしまして、
一つには課税量低限の引き上げによる
所得税、
住民税の
減税、二つには別居手当、帰宅旅費の非課税化による単身赴任
減税、
三つには民間住宅ローン返済額に対する所得控除制度の創設による住宅
減税、四つには教育費控除制度の創設による教育
減税、五つにはパート、内職
減税、六つには老年者年金特別控除額の引き上げなどの年金
減税など、総額約一兆円
程度の所得
減税の実施を今日まで強く求めてまいりました。
同時に、私たちは、財源対策としては、第一義的には
経済の安定成長による自然増収や不公平
税制の是正、
歳出削減などによることとしてもらいたいし、中でも国税においては、申告納
税制度の強化拡充による所得捕捉率の是正やあるいは社会保険診療報酬に対する特例
措置の
廃止あるいは利子配当所得の総合課税化、有価証券譲渡所得の非課税
措置の
廃止、有価証券取引税率の引き上げ、各種準備金に対する租税特別
措置の
廃止、
減税効果による税の増収分等を見込むことによって財源になり得るというふうに考えております。そしてまた
地方税においても、利子配当所得の総合課税化、法人
住民税均等割の適正化あるいは
医療等事業税非課税の
廃止、社会保険診療報酬に対する特例
措置の
廃止などを提言をいたしております。
この際、一言申し上げておきたいことがございます。
私たち労働団体は、昨年十一月二十六日であったと思いますが、政府税調に対しまして、私たちの代表である税調
委員を通じ、非課税貯蓄限度管理の
あり方につきまして、低率分離課税には反対でありますが、非課税カードの導入に積極的に賛成であること、カード
発行に必要な
経費はあえてみずからの
負担としてもよろしいという態度を表明をいたしました。残念ながら、この提言は全く取り上げられることなく無視をされてしまいました。私たち同盟を初めとする全労働団体がみずから一定の
負担を前提として
税制のシステムに関する提言を行ったということはまさに画期的なことでありますし、今こそ政府はこのような真剣な労働者の声に耳を傾けるときではないかというふうに考えております。
これに関連をいたしまして、政府税調と自民税調とで異なった改革案となりました非課税貯蓄制度の問題につきまして、結果としては自民党税調の改革案が生かされた結果となりましたけれども、内容の問題は別にいたしまして、私どもは政府税調とは一体何なのかという疑問を持たざるを得ません。直間比率の問題を
中心として、今内外に新しい税体系の
あり方についての論議がほうはいと起こりつつあるとき、この政府税調の社会的な位置づけにつきまして政府はまずもって明らかにすることが先決であろうというふうに考えております。
私たちは、積極
経済政策の具体的な手法として、中小
企業投資
減税の
拡大やあるいは社会資本投資の
拡大など、政府として果たすべき役割を十分に果たすことを求めてまいりたいというふうに考えております。
〔大西
委員長代理退席、
委員長着席〕
中曽根首相が答申の実行を最大限に約束をしております臨調答申、「
増税なき
財政再建」を唱え、その定義として、全体としての租
税負担率の上昇をもたらすような
税制上の新たな
措置をとらないということになっております。最近における院内の論議やあるいは財界の一部における大型間接税導入を求めるかの発言は、
増税なきとする旗印は一体どこへ行ってしまったのか、そういう感じがいたします。この論議から受ける強い印象は、最初に
増税ありきということであります。まさに行
財政改革の大義は消えてしまったのでありましょうか。
私たち同盟は、我が国における行
財政改革のいわば下支えともいうべき活動を今日まで展開をいたしてまいりました。その私たちが今そういうことを直接感じているわけでありまして、この辺につきましては、どうかひとつ政府の責任においてこれから以降の行
財政の方向について明らかにいたしてもらいたいというふうに考えているわけであります。
そもそも直間比率とは、あるべき
税制の改革が行われた結果として出てくるものであって、その比率が
目標となってそのために
税制が変更されるという筋合いのものではないというふうに私どもは考えております。聞くところによりますと、現行
税制におきまして直接税、特に所得の捕捉に公平が期しがたく、次善の策として間接税の導入を行い、それを財源として
所得税減税を行おうとする論があるやに聞いております。何がゆえに最善の道たる所得の捕捉の徹底という行政の果たすべき役割を放棄しようとするのか、極めて疑問の尽きないところであります。
新たな
増税を行う以前にやるべき課題がいまだ多く残されているというふうに思います。
その第一は、行
財政改革のより一層の断行による
歳出の
削減でありますし、第二には、
経済運営、
財政政策の転換による大幅な税の自然増収の確保でありますし、第三には、現行
税制の制度面、執行面の不公平
税制の是正であります。これらを同時進行的に進める必要がありまして、いずれの項目も不十分なまま大型間接税の導入を図るということは私どもとしてはとても理解しがたいところであります。
一兆円規模の
減税要求、私どもは
昭和五十三年から五年間の実質可処分所得が三・七%、年率にいたしましてわずかに〇・七%の上昇しかない現在の
状況から何としても脱したい、そういう
国民の声を代表したものだというふうにこの一兆円規模の
減税要求は考えております。
どうか
予算委員会全体の総意といたしまして、
予算案の修正のために具体的な協議をその点からもお願いを申し上げておきたいというふうに思います。
二月十一日付の読売新聞によりまして、太陽と緑の週の制定につきまして、約七割の人々がその実現に期待を寄せていることが明らかとなりました。私たちは今日まで
国民のあらゆる階層の方々に呼びかけを行い、共感と理解を得てまいりました。この種のアンケートでもって約七割の方々が期待をするということは、まさしく
国民一人一人がひとしく期待をしていると言って過言ではありません。今国会におきまして法的
措置を確立されることによりまして、この期待にぜひともこたえていただきたいとお願いをいたしたいというふうに思います。
本年の一月二十四日、二十五日と私たち同盟本部の大会を開催いたしました。第二日の午後でありましたけれども、私たちは労働時間短縮に関する国際シンポジウムを開催いたしました。OECD・TUACのタピオラ書記長やあるいは
アメリカ、AFL・CIOあるいはイギリス、TUC、西ドイツ、DGB等のそれぞれの組合からパネラーが
出席をいたしまして異口同音に言われたことは、残業で
収入を確保するというような構図は欧米においては一世代前のものである、あるいは
日本からQCその他を含めて今日までいろいろ学んできたけれども、事時間短縮に関して、あるいは労働時間については学ぶものは何もないという厳しい指摘でありました。
国際収支におきましても、経常収支が三百五十億ドルを超える黒字となった我が国が、国際的に公正な労働基準のもとに貿易を展開しないと、今後ますますその責任を問われてくることになります。働くことのとうとさと働くことの喜びを知っている私たちでありますが、そのためにこそ太陽と緑の週の制定やあるいは時間短縮が、当面する極めて重要な課題であるというふうに考えております。六十年度中に年間総労働時間を二千時間以下とするような格段の行政指導をする等、迫力ある労働、雇用問題に関するところの取り組みをお願い申し上げたいというふうに思います。
高齢化社会へ向けて雇用の問題に関する積極的な取り組みが要請をされてまいりました。六十歳定年の法制化を
中心とする六十歳台前半層の雇用
機会を確保するための
方策など、総合的な高齢者雇用対策法ともいうべき
方策が今日求められていようかというふうに思います。今、雇用
審議会におきまして、六十歳定年の問題を
中心としてその法制化に向けての論議が続けられているようでありますが、早急に
結論を求め、法制化、一般化を図っていただきたいというふうに考えております。あるいはサービス
経済化に伴うところのさまざまな不安定雇用の労働者が今日急激に
増加をしつつあります。雇用の安定と労働者保護のために必要な法整備がますます重要となっております。
同時に、本年中に国連婦人差別撤廃条約を政府公約のとおり批准をすることは当然といたしましても、雇用
機会均等法案について実効ある男女雇用
機会均等法とすべきであります。その立場での労働基準法改正も当然行っていかなければなりません。
昭和六十年度の
予算案の中に占める社会保障
関係を見させていただきました。主任家庭奉仕員やあるいはボラントピアなど
幾つかの新規の施策が見られております。しかしながら、今年金問題は参議院に残っておりますし、年金、
医療というこの二つの面における、ある
意味では長期的な改革の道が進んでいようというふうに思いますが、社会福祉分野におけるところの抜本的な
見直しは先送りとなったまま、国と
地方の役割を明確にせず、単に国庫
高率補助率の一律
カットによって
地方に
負担をつけ回ししていることは極めて疑問が残るところであります。
最後に、国家公務員給与の問題につきまして、若干触れておきます。
国家公務員給与
改善費につきましては、五十三年度まで五%計上をされておりました。五十六年度以降今日まで一%しか計上をされておりません。給与
改善費は、人事院勧告が民間準拠であることからして、次年度の
経済見通しに立った雇用者所得の伸び率
程度の計上が必要であるというふうに考えております。
以上、私の
意見といたしたいというふうに考えております。どうかよろしくお願い申し上げます。(拍手)