○遠藤参考人 ただいま
委員長より御指名を賜りました
日本園芸農業協同組合連合会、日園連の
専務理事をいたしております遠藤でございます。
農災法の今次
改正法案につきましての国会審議に当たりまして、本日参考人として意見を申し述べる機会を与えてくださいまして、大変ありがたく思っております。
冒頭、本題に入ります前に、私は諸
先生方に対して、全国八十万果樹生産者の共通した気持ちといたしまして、ぜひともお礼を申し上げたいことがございます。
昨年四月、牛肉と並んでオレンジをめぐります日米
農産物交渉が御案内のような結果で終結いたしました。四年後の再協議まで合意されたこともございまして、果樹産地で果物づくりに励んでおります生産者
たち、なかんずく大幅な減反を強いられておりますかんきつ
農業者の受けた衝撃は極めて大きく、動揺も非常に大きかったのでございます。
そうした事態に対処いたしまして、諸
先生方におかれましては、いち早く総額四十五億円の緊急対策特別基金の造成を決めていただきまして、また、ただいま参議院で御審議賜っております
農業改良賢金
制度の中に新たに組み入れられます無利子の果樹栽培合理化資金の創設、さらには、先日の衆議院本
会議におきまして可決成立させていただきました果振法の
実態に即しました
改正など、こうした一連の充実した
内容の事後対策を、しかも極めて短期間内に講じていただいたわけでございます。財政再建あるいは行革、
市場開放対策の推進と、農政運営をめぐります
環境がかつてないほど厳しさを加えてきておる今日の情勢に思いをいたせばいたすほど、生産者を励まし勇気づけていただきました果樹対策の
強化につきまして、諸
先生方の御配慮に本当に感謝せずにはおれないわけでございます。ありがとうございました。
ところで、本題の
農業共済制度の今次
改正案について、私は
果樹共済関係の事項に限定いたしまして生産者の
立場から意見を述べさせていただきます。
諸
先生方篤と御承知のように、
農業生産の選択的拡大がかつてうたわれました当時、成長作物のエースといたしまして事実生産量が倍増した果樹
農業ではございますが、昭和四十七、八年を境にいたしまして需給の基調がすっかりさま変わりいたしまして、自来今月まで、まことに苦渋に満ちた長い過剰時代を経験してまいりました。ピーク時の栽培面積のちょうど三分の一にも相当するミカンの大幅減反を初め、新植の抑制措置がとられております中晩かん、さらにリンゴ、ブドウ、オウトウと、果実総生産量の約八〇%を占める果実が、現在、減反ないし新植抑制の対象になっている現状であります。
胃袋満杯のこの飽食の時代の中で、一人当たりの果実消費量は依然減少傾向が続き、私
どもどうしてもこれに歯どめをかけることができないでおる今日でございます。果物に対する消費者のニーズが確実に少量多
品目型に変わりまして、しかも味や鮮度に対する選別が大変厳しくなっている昨今でございます。国産果実の生産量の二割にも相当します輸入果実も交えまして、品質と価格をめぐる文字どおり激しい競争の時代が続いているのであります。果樹栽培に取り組んでおります生産
農家がこうした競争時代に生き抜いていく道は、ともかく味のよい高品質の果実をつくり上げること、しかも
単位当たり収量を目いっぱい上げること、そして果樹特有の隔年結果をできるだけ防いで高い単収をコンスタントに
維持すること、
つまり高品質、多収、安定生産に徹すること以外に手がないのでございます。
しかし、そうは申しましても、
農業の宿命といたしまして、
気象条件の変化に伴う作柄の変動を
個人の技術をもって克服するには限度がございます。とりわけ、年間を通じて気候の変化が大きいこの
日本の国土で栽培する作物の中で、植えてから二十年あるいは三十年、それ以上に及びます寿命の長い永年性作物でありますゆえに、一年に一回勝負の稲や麦などのように、品種や栽培
方法を変えて台風や雨の多い時期を避けるような器用さは持ち合わせないのであります。野菜のようにもう一度種をまき直して短期間に収穫を上げるわけにもまいりません。
被害の発生頻度が、例えば水稲あたりに比べましてずっと高くなる宿命を背負っておりまして、しかも、一度
被害を受けますと、その後遺症が次年度生産以降にまで残り、回復までに時間がかかるというケースも決して珍しくないのでございます。永年性作物でございますゆえ、気象災害の影響を受ける頻度の高い果樹のこうした特性を
考えますとき、栽培
農家の経営の安定を図ります上におきまして
農業共済制度に期待される
役割は、本来、一年性作物にも増して大きいものがあると
考えます。この点を私は第一に強調しておきたいと思います。
しかし、それにもかかわらず、果樹
共済事業の
実態は、昭和四十八年の本格
実施以来、既に十二年を経過しております。しかも、この間、五十五年に半相殺
方式の導入や無事故
農家に対する
掛金割引制の導入を初め、果樹生産者が受け入れやすいような
制度の
仕組みに改めるべく大幅な
改正が行われましたものの、生産者の加入
状況が依然として低い水準にとどまっております。任意加入とは申しますものの、昭和五十八年の
実績で見ますと、引受面積率が収穫
共済で二六・三%、樹体
共済に至りましてはわずかに五・五%にすぎず、五十五年の
制度改正が果樹栽培
農家の加入意欲の喚起にどれほどつながったものか、その効果を必ずしも確認できかねるような思いがいたすわけでございます。まことに残念なことでございます。
こうして、五十五年に大幅な改善措置がとられましたにもかかわらず、この
制度が依然として果樹生産者から高い支持を得ていないこと、特に大方の見方といたしまして、果樹
農業に生活をかけます意欲のある専業的
農業者
たちの間で魅力のある
制度として受け取られていないことは事実だと思います。
果樹共済に関する今回の
制度改正に当たっては、このような現実についての厳しい認識を前提に置かなければならないと思います。そして、その
実態についての克明な分析、そしてきめ細かな原因の追求をしっかりなされることを
基本に据えなければならない、そういうふうに私は
考えます。
ここらあたりを十分に踏まえました上で用意されたものと思います今回の
制度改正の
内容について、意見を申し上げます。
改正の第一点は、従来、
組合ごとに一律に
定められておりました
共済掛金率を改めまして、
農家ごとの
被害状況を
グループ分けして
掛金率を
設定できるようにしたことであります。
料率を細分化することによって
被害の少ない
農家に対して
掛金率を低くする道を開こうとするものである、そういうふうに受け取っております。
もともと技術集約的な果樹作の場合、稲作あたりと違いまして
農家間の技術の平準化には限度がございます。特に価格の長期低迷に伴う採算難が恒常化いたしておりますミカンの場合、同じ産地でも、私が先ほど申し上げました高品質、多収、安定生産を忠実に実行して生き抜こうとする
農家と、片や、栽培管理の手抜きが目立つ
農家と、この二極分化の傾向が、最近とりわけ目立ってきておるわけでございまして、それが収量と品質の面にはっきり出てくるようになっております。こうした果樹経営の
実態に即した改善措置として歓迎いたすものでございます。
改正の第二点は、暴風雨またはひょう害のみを対象といたしました半相殺特定危険
方式について、省令
改正をもって新たに凍霜害を追加し、これらをセットで加入できる
方式を新設したこと。さらにそれとあわせまして補償水準を現在の七割から八割に引き上げることにしたことでございます。
栽培管理に熱心に取り組み、病虫害の発生が少ない優良
農家の保険需要にこたえます上におきまして、自然災害のみを対象とした、しかも料金の安いこの特定危険
方式の
拡充強化が一番得策だと
考えます。特に落葉果樹やナツミカンの栽培
農家にとって危険意識の高い凍霜害を
共済事故に加えていただいたこと、また、各果樹とも生産費が近年上昇傾向にありまして所得率が低下するなど、果樹経営の収益性の
実態に対応いたしました補償水準の引き上げなど、特定危険
方式についての今回の
拡充措置は、
掛金率へのはね返りを考慮に入れましてもまことに結構なことだと思います。
第三の改善措置として、果樹
共済事業の引受面積の七割近くを占めます半相殺減収総合
方式につきまして、
共済責任期間の始期を発芽期あるいは常緑果樹の場合は開花期からにするようにいたしまして、短縮できる道を開くことにしたことでございます。
現行制度では、
共済責任期間が花芽の形成期から収穫まで一年半から二年にも及ぶほど長いために、当年産の収穫が終わります前に次の年の収穫される分の
掛金を支払わなければならないということになりまして、
農家にいたずらに負担感を与え、そのことが加入推進の上で障害になっている面もあると承っております。発芽期以前の
被害が少ない落葉果樹の生産者から特に強く出されてきた要望であり、適切な措置と
考えます。
以上を総括して申し上げますと、
果樹共済制度のシステムについて
政府が用意されました今回の改善措置は、いずれも果樹生産者がかねて要望してまいりました事項でありまして、これにこたえていただいたものとして、全面的に賛成するものであります。
私は、今回の
制度改正の全体についてここで口を挟むことは差し控えさせていただきますが、少なくとも、
果樹共済に関する
改正は、果樹経営の
実態に即して生産者の保険需要にできるだけこたえようとした前向きの改善措置として受け取っております。したがいまして、ぜひとも早期に実現していただくよう、諸
先生方の御協力をお願い申し上げる次第でございます。
その上で私は、
改正後の
制度運営について改めて注文したいことがございます。
と申しますのは、
果樹共済の
制度を組み立てるシステムが、このようにきめ細かく改善いたしましても、それが産地の生産者、特に肥培管理に熱心で産地の中核となっている専業的
農家層に受け入れられ、その加入率を高め、ひいては保険収支の改善につなぎ得るものかどうか、率直に申しまして若干の疑問を持たざるを得ないのであります。
果樹産地で
共済制度への加入
状況が思わしくない原因はどこにあるのか、被保険者としての生産者の間から出てきております意見を若干
紹介いたしますと、まず
一つは、
掛金が年々上がり水準が高いという負担感がつきまとっておるようでございます。もう
一つは、
制度の
仕組みが難解でなかなか
理解されにくいということであります。それから三つ目は、以前に比べても
共済金の支払い額が少ないということ、そしてそれにつながることではございますが、
基準収穫量の査定が平年収量とはいいましても低過ぎるというような不満が特に精
農家の間で強いようでございます。
制度の
仕組みと
農家の損害感のずれがどうも大きく感じて仕方がないのでございます。もう
一つ、特に肥培管理に熱心な
農家たちの間で、病虫害の
被害まで面倒を見るこの
制度は惰農奨励ではないかと受け取る向きも強いということを指摘せざるを得ないわけでございます。
五十五年に次ぐ今回の
改正は、こうした
農家側の不満に対しまして保険設計上支障を生じない範囲で対応していただいた措置と
理解しています。
それにいたしましても、
果樹共済の加入
状況について少し立ち入ってみますと、例えば樹種別に比較しました場合、五十八年の
実績で、ナシや伊予カンないしネーブル等の指定かんきつの引受率は四〇%前後に達しているのに対しまして、ナツミカン、桃、ビワ等はいずれも一〇%台と低く、必ずしも
被害の発生頻度に比例していないということであります。また同じミカンでも、名前を挙げて恐縮でございますけれ
ども、例えば古い大産地として肩を並べる和歌山県と静岡県を比較しました場合、片や六割台に対しまして片や一割にも満たないという差があります。それぞれの県の
農業の中での果樹作のウエートの差あたりが大きく関係しているとは思いますが、開きが余りにも大き過ぎるようでございます。さらに、同じ県内でも市町村の間で、また同一の市町村内でも地区によりまして加入
状況にかなり差があるのも事実のようであります。
同じ
制度の
仕組みの中で加入
状況に以上のような差が出てきているのはなぜか。いろいろな原因がございましょうが、想定される
一つの大きな要因といたしまして、
共済事業の第一線を受け持つ
組合の事業に取り組む意欲なり
事務処理能力などの差が多分に影響しているのではないでしょうか。
組合段階における
果樹共済の引き受け及び損害評価に係る
事務処理が複雑煩瑣であることから、現場職員の事業推進意欲が低調にならざるを得ない面があるのではないかと推察いたしております。もしそれが事実でございますならば、
制度自体のシステムがせっかく改善されましても現場でうまく対応できず、したがって
農家の加入促進になかなかつながらない、
つまり、せっかくの
制度の
改正が現場で十分に生かされないことがあり得るのではないでしょうか。
今回の
改正による
料率の細分化にいたしましても、それを
実施するかどうかは
組合の判断に任されています。したがいまして、きめ細かく適正な料金改定がきちんとやれるものかどうか
心配しているものでございます。
制度運用面の
事務手続についての合理化あるいは
簡素化に中央におきましてもっと知恵を出していただくということと、あわせて、
組合が
果樹共済の業務を担当する専任職員を配置して、産地の
実態に応じたきめ細かな、しかも適正な
事務処理ができますよう、
合併等による体制整備をともかく急いでいただきたいとお願いするわけでございます。
こうした
組合の積極的な事業推進体制づくりに関連いたしまして、私は農協に所属する
立場からぜひとも申し上げなければならないことがございます。
それは、
農業共済組合の
果樹共済に関する事業運営に対して、地元の農協が役員を初めとして積極的に支援をする、協力を惜しんではならないということであります。果樹栽培
農家が
共済制度に加入することは、農協にとって
組合員の所得の安定につながることでございまして、ひいては農協自体の事業展開にも直接寄与するものだと
考えます。
組合の引き受け及び損害評価の
事務処理の上で、農協の販売事業あるいは営農
指導事業が所管する資料の提供が必要とされております。損害評価員としての協力あるいは推進協議会の設置やその活動への支援も当然であります。いずれにいたしましても、
果樹共済の事業推進に積極的に取り組んでいる
組合は、総じて農協との協調体制がうまくできていると見て間違いないようでございます。
最後に、
果樹共済制度の将来のあり方といたしまして、
制度自体の
基本にかかわります事項について希望意見をつけ加えさせていただきます。
申すまでもなく、果実は、米のように流通チャンネルが国によって統制され、作況のいかんにかかわらず生産者価格が
一定しているものとは違いまして、完全競争の商品であります。したがいまして、豊凶変動がストレートに価格の騰落を引き起こします。気象災害で収量が減りました場合、価格の高騰によって手取り収入額がかえってふえているのに
共済金が支払われるというような、矛盾した現象も起こり得るわけでございます。
考えてみますと、災害に対する
農家の損害感というのは、生産量の減少より収入額が減ったことによる経済的損失であると見て間違いありません。そうだといたしますならば、
農業共済事業が究極的には経営の安定を目指す
制度であります以上、収量の減少よりは価格変動を媒介とする収入額の減少を基礎に置きました損失補てんの
方法、すなわち収入
共済方式の方が
農家の損害感にマッチしたものだと言わざるを得ません。もちろん、こうした
考え方に対しまして、作物保険として、災害とは全然関係なく価格変動によって生じた豊作貧乏の面倒まで見なければならないのではないかという反論もあることは承知いたしております。
ここで理論的な問題の追求はやめるといたしまして、ともかく五十五年の
改正によりまして収入
方式を最大限に生かした手法として災害収入
共済方式が試験的に
実施に移されております。この試験事業の経験を十分に踏まえまして、将来に向かって作物保険に収入
方式を取り入れていただく方向で、その可能性について前向きに研究を急がれるよう強く要望する次第であります。
以上、参考人としての意見開陳を終わります。ありがとうございました。(拍手)