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斎藤参考人 御紹介いただきました
斎藤でございます。
農業金融三法の
改正法律案と関連
改正事項につきまして、気のつきましたことを、いささか抽象的になりますが申し上げて、御
参考に供したいと思います。もっとも、私は林業と漁業は全く不案内でございますので、
農業金融に関係した部分だけを申し上げることでお許しをいただきたいと思います。
今日、
農業に対する投資は、ひところの高度経済成長期とすっかり変わりまして、大変に沈滞していると言ってよい
状況にあることは周知のところでございます。このため、
金融の面では、かつて高度経済成長期において
農業金融の大きな特徴でありました積極的な追加生産
資金、いわゆる前向きの
資金というふうに最近よく言われますが、その積極的な追加生産
資金の
融資の伸びが、系統
金融、
制度金融ともに顕著に小さくなってまいりました。
融資機関が懸命に
努力をしておりまして、そのことは明らかに認められるところでございますが、それにもかかわらずそういう
状況であります。
御承知のように、系統
金融機関、
農協の貯貸率はかつての五〇%台から今日三〇%台に、貯金と
貸出金の割合がそういうことになっている次第でございます。そして、これにかわって新しく伸びてきておりますのが
負債整理関係の
資金、すなわち、いわゆる後ろ向きの
資金、これが伸びてきておりまして、特に畜産部門にこれが顕著であります。これもただいまるる御説明があったとおりだと思います。
こういう
状況でございますので、
農業に対する
金融がなかなか伸びていないという
状況でありますが、しかしながら、
農業の生産の再編成と
生産性の向上というのは、これは今日むしろ大いに必要である、そういうことが言えると思います。こういうわけで、
農業に対する政策的誘導の必要というのは今日ますます高まっているというふうに考えられます。ところが、他方で、補助金から
融資へとよく言われることですが、主として今日の
財政事情に基づく政策手段の転換の要請があり、こうして今日のような政策
融資、
制度金融の整理、拡充が行われることになった、およそこのような筋で今日の
改正を考えている次第でございます。
そこで、新しい
改正法案ないし構想について、多少問題を分けて述べてみたいと思います。
まず第一点ですが、今度の
改正で、
資金は従来に比べて
農業に流れやすくなるかどうかという点が問題だろうと思います。
実は説明
資料としていただきました
資料を拝見いたしますというと、この
改正点は、これだけで十分に
融資の
実態がどういうふうに変わるのかがわかるようなものもありますが、しかし、政令とか通達とかあるいは業務方法書とか、あるいは各都道府県それぞれの方針とかが今後どういう
内容を持ってくるか、どういう
内容のものになっていくかによって具体的に決まってくる面があるようで、全体として非常に明確な判断を下すわけにはまいりません。
しかし、それでも次のようなことは言えるのではなかろうかと思います。つまり、公庫
資金の三分五厘
資金を基本的に維持をしたということ、それから、無利子の改良
資金を拡充したということを含めて利子率で多少の
引き下げが行われた面があるということ、償還期間、据置期間の延長が行われたということ、
貸付限度額の引き上げがある部分でなされたということ等の点で、全体として条件が多少とも緩和されたこと、また、次のような新しい措置、つまり改良
資金の技術
導入資金が拡充されたこと、近代化
資金あるいは公庫
資金においてもいろいろと新しい措置あるいはメニューが用意されたこと、それから、さらに改良
資金の
資金管理の
全国調整がなされるような措置が講ぜられたこと等々の諸点で、基本的には今回の措置を評価することができると思います。
もっとも、先ほど新しい措置、新しいメニューというふうに申し上げましたが、その中で、例えば改良
資金で無利子の農地流動化措置が
資金的に用意をされたわけですが、これがさしあたり初年度で
全国五、六百町歩というふうに大変小面積であることの意味が、私は
大分いろいろお聞きしたのですが、どうもよくわからないという点がまだございまして、多分試みでこういうことをやるということだろうと思いますが、そういう試みならば次年度以降を待ちたいというふうに思います。
そういった点、あるいは公庫の四分五厘
資金をすべてなくしたということ、特に大事な総合
資金の据置期間についての四分五厘、これをなくしたということ等々、遺憾な点がございますが、今回の
改正措置は、以上の点に関する限り、つまり
融資条件をくつろげ、あるいは対象領域を多少とも広げたという点に関する限り、
農業に従来よりも
資金が流れやすくする効果を、具体的に言いますというと、
融資機関は融通しやすく、
農家は受けやすくなるという、そういう効果を持ち得ると言うことができると思うわけでございます。
しかし、第二番目として、一口に
農業といいましても、どのような場面に
資金を流すのかという点、これを同時に問題にしなければなりません。この点に関しましてはいろいろとございますが、新しくできました措置の中で、二点ほど特に注目をして申し上げておきたいと思います。
一つは、
総合施設資金の借入資格を多少緩めたという点でございます。一挙に自立
経営にならなくても、その後の育成によって自立
経営になれるような規模に、具体的には、自立
経営を十割といたしますとその七割
程度の達成ということのようでございますが、そういう中途段階の規模になることが見込まれる者にも
借り入れの道を開いたという点であります。
総合施設資金ないしはそれを中心とする総合
資金は、御承知のように最
優等生に対する点の
融資、面ではなくて点の
融資だというふうに言われ、自立
経営を育成することもさることながら、もともと自立
経営であるような
農家に対する貸し付けも結構多かったようであります。しかし、今日の
農業の実情を見ますと、中堅層も厳しい
状況の中でよくその
経営を維持しているという事実があります。したがって、最
優等生だけではなく、すそ野を広げて中堅層にも有利な
資金を得る道を開くということは、
日本農業の堅実で安定的な
発展のために意味のあることであるというふうに考えられます。
もっとも、現行の
制度におきましても、
昭和五十一年度以降段階的な
融資の道が講じられておりますが、しかしその実績は余りはかばかしくないようであります。これは恐らくその
資金の仕組み方が本格的でなかったためと思われますが、今回は法律まで
改正しようとすることであります。実績が大いに上がることが期待されますし、またそのように運用されるように望みたいと思います。
それからもう
一つは、近代化
資金が
地域農業総合整備資金をつくった点であります。これは従来の
融資制度、特に
昭和五十六年度発足の
地域農業再編
整備資金を
発展させようとするものであるようですが、これは、高い
生産性を持った
農業者あるいは
農業者集団というものは、
農村社会の中に安定した位置を占めながら出てこないことには定着をしないというふうに私は考えます。
〔
委員長退席、田名部
委員長代理着席〕
既設の
農村環境整備のための
資金がいろいろございますが、そういったもの、それからその他のさまざまの
施策とともに
農村社会の
活性化を促す措置の
一つとして評価をし、今後一層拡充されるよう望みたいと思います。
以上申し上げましたようなことで今回の
改正を評価したいと思うものですが、しかし、ここでどうしても問題が残ってまいります。
それは、改めて言うまでもない基本的なことでありますが、今日の
農業は、農産物の価格あるいは
生産資材の価格、地価、労働力の
状況等いずれの面から見ても、一般的には
金融にとって安全確実な貸し付けの対象である
状態から遠いところにあります。日本の
農業はもともとそうだということは言うまでもありませんが、特に今日そうであり、それから、長期の貸し出しに対応する長期の
展望ということになりますとますますそうであります。大変厳しい
状況にあるわけでございます。
今回の
改正のように、貸し出しの方の、
融資の方の条件をくつろげ対象領域を広げれば、先ほど申しましたように確かにそれなりの効果を持ち得ますが、その点で評価し得るわけですけれども、しかし、そのせっかくのことが十分に生きるような
農業の実体経済の側の条件を整えることがやはり必要だということであります。
多少抽象的なことになりますが、一般に
金融というものは経済実体の動きの早さを促進をする、あるいは多少これを引きとどめるということができるだけで、その動きの
方向を根本から変えたりあるいは新しくつくり出したりということができる、そういう力を持つものではないというふうに思います。したがいまして、
金融を政策手段とするということは、それをどのようによく仕組んだといたしましても、やはりそれなりの効果、つまり政策手段としての一定の限界内の効果しか持たないということが今日の
状況の中ではやはり問題として言われざるを得ない点だろうと思います。
今申し上げましたことは、基本的な、その点でかなり抽象的な点でございますが、そのほかに、今後に残された問題として気のついた問題を三点ほど、いずれもこれは事新しく申し上げるまでもない問題でございますが、ただいままでの
参考人お三方からもるる述べられたことでございますが、述べておきたいと思います。
第一点は、これは公庫
資金と近代化
資金とのいわゆる分野調整の問題であります。これは大変古くからの問題でございまして、時々分野調整を新しくやるというようなことが――これはいずれも政策的に人為的につくられた
資金制度でございますので、どうしても
実態との間にそご、ギャップが生じて、必ずある一定の時期にやらざるを得ないわけですけれども、公庫のカバーする個人向けの
資金が拡充されればされるほどこの問題が大きくなってまいります。これは今後具体的に詰めらるべき問題であるというふうに考えます。それが第一点でございます。
それから第二点としましては、これは逆に、公庫
資金と近代化
資金ないし系統
資金の協調の問題であります。これは総合
資金についてでありますが、総合
資金は御承知のように公庫の
総合施設資金と近代化
資金、それから系統
資金のセットの
融資ということがうたわれております。ところが、それにもかかわらず、実際にはほとんどの場合
総合施設資金の比重が極めて高く、このセットという趣旨が必ずしもうまく実現をしていないというふうに言われております。この点は単に
農協にとっての問題であるというにとどまらず、
融資を受けた
農家にとって困る問題でありますので、
融資決定の際に十分に公庫と系統機関と協議をしてやるべきであるというふうに考えます。
それから第三点としましては、これは冒頭にも触れましたし、先ほど来からも申されてきておることでございますが、過重
負債の処理の問題でございます。この問題は今日極めて重要な問題でありますが、特に畜産
農家に対しましてはいわゆる畜特
資金などの措置がとられ、系統もそれなりの措置を懸命に講じているように思います。今回の
改正の中でこれは取り上げられておりませんが、しかし、今後早急に本格的に取り上げるべき問題であるというふうに考えます。
しかし、その際、
負債農家は結局切り捨てた方がいいといったような
方向で当たるのではなく、生きる
農家を生かしていく
方向で、相当に長期間の
資金の手当てを考えながら
経営の指導をしていくことが必要ではないかと思います。単なる
負債整理、整理をしてそれでおしまいということではなくて、生かしていく、そういう
負債の面倒の
見方ということが必要ではなかろうかと思います。
そしてまた、この
負債問題というのは、単に当面大変厳しい問題になっております
負債の問題の処理というにとどまらず、これからますます
融資という方式を
農業政策の重要な手段にしていくといたしますれば、その政策
融資が過重な
負債に将来転化する可能性、これはもちろん必ずなるというふうには言い切れませんし、そうならないように
努力がなされると思いますが、そういう今日の政策
融資が、これが過重な
負債に転化する可能性も同時に
増大するというふうに考えられます。したがいまして、
融資政策のいわば裏側の政策として
負債対策というものをあらかじめ真剣に考えておく必要があるのではなかろうかというふうに考えられます。
以上、大変抽象的でございますが、申し上げます。(拍手)