○池尻参考人 池尻でございます。
与えられたテーマの公述に先立ちまして、冒頭に、現在我が国
漁業が直面しております
現状と課題について若干の所見を述べさせていただきたいと思います。
御案内のとおり、昨今の日ソ、日米間の
漁業問題は、ここに参りまして極めて困難な問題をはらむようになってまいりました。二百海里
体制に入り足かけ八年になるわけでありますけれ
ども、これが二百海里の問題の本質といえばそれまでですけれ
ども、我が国遠洋
漁業はあすの運命がどうなるかわからないという新たな性格のリスクを背負いながら
漁業をせざるを得ないという厳しい
状態に直面しておるわけであります。
お手元の公述
内容のとおり、我が国
漁業にとりまして、石油ショックあるいは二百海里は確かに非常に歴史的な大事件でございました、それでは、このショックが到来までの
漁業の
状態はどうであったかと申しますと、
昭和四十年代、つまり
日本の
漁業が
拡大発展を遂げた時代、世界第一の
漁業国への足取りを開始した時代でございますが、その当時、全体として、
利用できる資源に対して漁獲努力量が既に過剰になっておりました。逆に申し上げますと、単位漁獲努力量当たりの漁獲量はどの
漁業でも確実に低下をし、航海日数が
長期化して釣獲率は落ちつつあったわけであります。
この時代には、御案内のとおり
漁業金融制度がよく
整備され、
資金も潤沢でございましたので、漁船の大型化あるいは装備の増強が競争で行われ、
漁業者は負債率の上昇でみずからの体質を弱くしつつあったわけであります。したがいまして、本来ならば今言われております
生産構造の再編成というテーマ、この時期に減船等を
中心とする構造の再編対策というものが私
どもの手によって打たれるべきであったわけでございますが、残念ながら当時は高度経済成長時代でございまして、魚価が極めて堅調であったことから、
漁業者にとって事態を切実なものとして受けとめないまま、いわゆる
漁業の性格がエネルギー資源の多消費型構造のまま、そこに石油ショック、二百海里という大きな重圧が加わって現在の
経営を非常に困難にしているという見方が正しいのではないかと思います。そして、この
経営危機の打開策としまして、要するに金融対策が主軸の役割を担い、
経営維持安定
資金あるいは
燃油対策
資金あるいは国際規制関連の
資金等の緊急
制度資金の
措置によりまして、何とか破綻を食いとめてきたのが今日までの
漁業の
実態であろうと思います。
このような
現状に対しまして、私
どもは、去る五十八年十一月、第一回の全国漁協大会を開きました。第一回と、まだ漁協大会というのは開いてなかったのかと疑問に
考える方がありましたけれ
ども、従来は臨時にたびたび漁協大会をやっておりましたが、今後私
どもも全中、農協系統に倣いまして、テーマを決めて決議をしてもそれが決議のしっ放しに終わるという過去の戒めの上に立ちまして、この決議を踏まえながら、三カ年でどれだけの実行を示すかということをひとつ決議して、同時に実行というものに尺度を合わせて今後の漁民
運動を進めようではないか、そういう意味で第一回としたわけであります。
そのときに、当然私
どももこの事態の打開のために、例えば共同意識の高揚とか資源、漁場の自主的な管理、あるいは漁民みずからによって
漁業の再建、再構築を図る、あるいは漁民の負託にこたえる
漁業協同組合組織の
整備、そういういわゆる自己努力というものを大前提にいたしまして、政府に対しましては、いろいろ問題はございますけれ
ども、例えば、そこに書いてございますように、
漁業に対する
基本政策をひとつ確立してほしい、あるいは
漁業経営の維持安定に資するような条件の
整備をしてほしい、そして第三番目には組織みずからの
整備と漁村
環境の
整備あるいは漁村福祉の
充実、こういうテーマを要望して今日に至っておるわけでございます。
そういうような前提に立ちまして、ただいま上程をされております
漁業近代化資金助成法並びに
農林漁業金融公庫法の
改正の問題に触れさせていただきたいと思います。
まず、
漁業近代化資金制度でございますが、
農業近代化資金におくれること八年で私
どもの
漁業近代化資金が
昭和四十四年に発足いたしまして、今日まで続いておるわけでございます。しかし、貸し出しの過去の実績を見てまいりますと、
昭和五十四年がピーク時でございまして、千五十六億円がピークでございましたが、次第次第にこれが後退いたしてまいりまして、五十八年には六百四十五億というところに低迷いたしております。この原因は、そこにも書いておきましたけれ
ども、
漁業経営の悪化による設備投資意欲の減退によるところが非常に大きいわけでございまして、一方、四十九年度の
基本的
制度の
改正以来既に十年の月日を経過し、この間、漁船の
長期間の使用あるいは漁船建造費等
事業費の大幅な高騰、それから漁船の大型化、新測度法が施行されまして見かけのトン数がアップしてまいったわけでございますが、そういうふうに
漁業及び
制度を取り巻く
情勢が大きく変化をしてまいりました。したがいまして、当然にこれらの
情勢に
対応した
制度の
改善を私
ども系統組織としてはお願いしてまいったわけでございます。
このたびの
融資対象漁船のトン数の限度の
引き上げ、あるいは
貸付限度の
引き上げ、さらには漁船の
償還期限の延長等を
内容とする
改正案は、私
どもの要望の線に沿ったものでありまして、ぜひともこれが確実に実施されますように諸先生方の御努力にすがりたいと
考えておる次第でございます。
なお、この件につきましては二つばかり要望があるわけでございまして、今申し上げました新測度法により代船建造がこれから進んでまいるわけでございますが、新法のもとでは現行で規制されておりますトン数よりすべての漁船が大きくなるわけでございます。しかもそれが
漁業種類ごとにいろいろ異なるわけでございますので、将来全部の船が新しい法体系のもとで代船建造が行われましたときには、ぜひともまたもう一遍このトン数の上限の問題というのを
見直していただきたいという希望を持っておるわけであります。
それからもう一つは、いわゆる明年度の予算に活力ある漁村の形成を図るためのいろいろの予算
措置がなされておりますが、その中に
地域漁業総合整備資金制度というものが予定されております。この問題につきましては、いわゆる
近代化資金を活用するわけでございますが、私
どもも、漁村の
活性化、我が国の周辺漁場の
整備、資源管理型
漁業の展開あるいは栽培
漁業の普遍的な展開、計画営為の
推進、そういったものの一つの大きな柱をなす金融
制度でございますので、ぜひとも将来これが十分芽生えますように諸先生方のお見守りをお願い申し上げる次第でございます。
それから
公庫資金でございますがこの
金利につきましては、三分五厘
資金がアップされておるわけでございまするけれ
ども、当局の非常な配慮によりまして、水産
関係では実際的には現行
金利がおおむね維持されておりまするので、この点につきましては厚く御礼を申し上げる次第でございます。
一般的に申し上げまして、確かに
農業、
林業が基盤
整備の
資金が非常に多いわけで、私
どもの
漁業、水産の
関係では、いわゆる漁船設備、そういった
企業性のある投資がありますために、農
林業関係の
金利と比べて
漁業の
金利が高くなっておるわけでございます。この点につきまして全国の
漁業者からたびたび不平が漏らされるわけでございますが、先ほ
ども申し上げましたように
漁業経営が非常に難渋をきわめており、また
日本の
漁業が再構築を迫られておる時期でもございまするので、将来ともこの
金利の負担の軽減に関しましては十分おこたえをしていただきたいと
考える次第でございます。
それから、関連をいたしまして大事な点を三点ばかり簡単に申し上げますが、一つは
漁業の再編成に関する展望、指針の必要性ということでございます。
先ほど申し上げましたように、
漁業の再構築のために、減船を
中心とするいわゆる漁獲努力の削減ということが
日本の
漁業にとって避けて通れない問題でございます。現在は遠洋カツオ・マグロあるいは一部のイカ釣り
漁業というものがそれを緒につかしただけでございまして、これから近海カツオ・マグロあるいは
日本海のマスはえ縄あるいは底びき、あるいは千葉県、静岡県その他のサバのたもすくい、そういったところまで
拡充されんとしておりますが、これはなかなか絵に描いたようにいかないわけでございまして、そこにも書いておきましたが、いわゆる共補償という方式でこの構造再編を遂げようとしましても、残る
漁業者に非常に負担力が少ないという
実態がございまするし、それから同一漁獲
対象でいろいろ
漁業の許可の種類が分かれておるという問題がございまして、そういう業種間の調整というのが一層困難でございます。例えば千葉のたもすくいのような例を申し上げますと、そのこと自体の合理化あるいは再建案を立ててみましても、問題となっておりますまき網との資源の分配の問題を放置してはなかなかいかないという問題等がございます。そういうふうにいろいろと問題を包蔵しておりまするので、この問題につきましては政府の方でも総合的にいろいろな対策を
考えて、再編が進みやすいようにひとつバックアップをしていただきたい、かように
考えております。
それから、後刻いろいろ
質問があると思いますが、いわゆる不振漁協の対策でございます。
漁協信用
事業整備強化対策と銘打っておりますけれ
ども、この中身は不振漁協対策でございます。この不振漁協対策で注目したいのは、終戦後、
昭和二十六年に再建
整備法、
昭和二十八年に連合会を含めての
整備促進法、三十五年に漁協
整備促進法、四十二年に合併助成法と、一連の再建対策の
法律を経過してきたわけでございますが、その当時なぜ再建しなければならなかったかという
内容は、御案内のとおり経済の大きな変動にあります。例えば、終戦後、魚の統制が解除になりまして雨後のタケノコのごとく魚を扱う人が非常にふえたわけでございますが、その後雲散霧消してしまって、魚の販売代金が押しなべて固定化債権として漁協系統に残された。そういう大きな経済変動によって生じたものの再建をどうするかということが私
ども系統組織のテーマでございました。
二十八年の整促法しかり、三十五年の漁協
整備促進法もしかりであったわけですが、今日の時代の一つの特色は、先ほど申し上げました二百海里あるいは石油ショック、そういうようなことの
漁業経営へのしわ寄せと申しますか、それを端的に漁協が背負って再建をしなければならないというところが大きな特色ではないかと思います。つまり、Aという、あるいはBという特定の
漁業者の再建のしわ寄せが漁協に来ておるものですから、
漁業協同組合の組合員が本当に一致した協力の意思を持たなければ、増資をしろ、あるいはその他の協力をしろと言いましても、そこはなかなかひっかかるところが出てまいります。したがって、今日の
漁業経営のしわを漁協が受けておるけれ
ども、これを解決しなければやがては我々の
経営も困るというような連帯の意識を深めて、自主努力と申しますかそういうところへ持っていって、国、都道府県あるいは系統団体等の援助によってこれを再建させなければならないのではないか、このところが一つ大きな特色でございますので、私
ども組織も十分努力をしたいと思いますけれ
ども、そういう観点に立ちました政府の適切な
指導を私
ども期待するわけでございます。
最後の問題といたしまして中小
漁業融資保証保険
制度の収支
改善の問題がありますが、これはそこに述べてあるとおりで、非常に代弁がふえてまいりまして、中央
漁業信用基金の保険収支が急速に悪化をしております。私
どももこの強化のためには協力をしなければならないと思いますが、本来この
制度というものは国が前面に出て支えなければならない本質を持っております
関係上、この問題につきましても、同
制度が有効に機能するように期待をいたしたいと思う次第でございます。
なおいろいろ申したいことがございますけれ
ども、時間が参りましたので、私の公述を終わらせていただきたいと思います。(拍手)