○佐藤(祐)
委員 会長の慎重な御発言で、それはそれなりに理解もできます。私も、一般的な法律ではなくて、直接
報道にかかわる、表現の自由にかかわる、そういう
内容を含んでおりますので、あえてお伺いをしているということであります。
戦前の実態からいいますと、新聞よりもラジオに対する検閲が厳しかった。新聞で一たん
報道されたもの、活字になったものをラジオ
放送する場合には、事前に原稿の点検が要るというぐらいに、
放送というのは思想宣伝とか国民の戦意高揚といいますか、こういう国民総動員、思想的な動員の上で重視されたというような歴史を持っているわけであります。それだけに私はよく考える必要があるということを思います。
会長の今の御発言ではあったわけでありますが、法の
内容からいいますと、これまでNHKが非常に意欲的に取り組んでこられたいろいろな取材活動、
報道活動、特にNHK特集のようなもの、こういうものが非常に大きな制約を受けるということはいろいろ指摘をされておるわけであります。例えば
放送作家の小山内美江子さんという方がいらっしゃいますが、この方は、「昨年NHKが「核戦争後の地球」というすぐれた番組を
放送しましたがここの法案がもし仮に成立すれば、「こうした番組は作れなくなってしまいますね。物書きの一人として絶対評せません。」そういう発言もしておられるわけです。
例えば特に、
会長はよく御存じだろうと思いますが、自衛隊の装備とか配備その他、別表によりまして防衛は相当広範囲の抽象的な
規定があるわけですね。艦船、航空機、いろいろな
規定があるわけです。それで何が秘密かという特定がない。ですから、これは行政府の一方的な
判断で秘密扱いにすることができるというあたりが、大いに法律的にも議論になっているところでありますが、そういうことで、とりわけ自衛隊の取材なんというのは厳しい制限を受けるということは目に見えておるわけです。例えば去年十月に放映された「米ソ戦略のはざまで 緊急発進は年九百回」という番組がありました。また最近でいいますと、一月に「二十一世紀は警告する」というNHK特集で「兵器の反乱」というふうな、これも大変評判になったものだと思います。
もう一つ例を挙げますと、これは本にもなっているのですが、NHK特集で、一昨々年放映されて大変評判がよかった「シーレーン・海の防衛線」という特集です。これは五十七年の秋に三度にわたって放映されました。なかなか意欲的な取材で、私も大変感心して見た覚えがあります。この本の前書きで、スタッフの方がこの問題を取り上げた問題意識、それをこう書いておられます。
「私たち市民の知らないうちに既成事実だけが着々と進行するとしたら、それこそ、私たち市民にとっては危険なことである。知らないことや知ろうとしないことは、こと防衛問題に関する限り、私たちの安全や幸せにはけっしてつながらない。現実に知ることこそ論以前の問題であり、その現実を伝えることこそ私たちの役割である」、こういうことで、チームを組んで一定期間、四カ月ですか、取材活動を続けられたというものです。なかなか力作であったわけですが、こういうことが後書きでまた書かれておるのです。
「今回の取材でスタッフが最も苦労させられたのは、二つのカベの存在であった。防衛アレルギーと軍事機密。この二つのカベの前で、取材はしばしば、立ち往生させられた。「防衛」に関係している人たちは、当局の顔色をうかがい、取材を拒む。一方、非
関係者は、番組が防衛問題につながることを知ったとたん「それでは、いっさい協力できません」と言った態度になる。現実を伝えることが、如何に大切かを訴えても「防の字がつく限り消防でもいや」と言わんばかりの態度」だったというのです。「この二つのカベにはばまれて、ジャーナリズムが何も伝えないうちに現実だけが進行して来たのではないだろうか。こうして国民は、知ることもなく、知ろうとする関心も持てぬまま防衛問題が市民生活とは、かけ離れた遠くの出来事であり続けたのではないだろうか。」
反省を込めながら、この壁の問題と一層取材する必要性ということを最後に後書きで書いておられるわけです。
これは私は非常に大事な貴重な
意見だというふうに思います。当然国民が知る権利として知っていい事実、これを映像で伝えていったという点が大いに評価を受けた、まさにジャーナリスト精神を発揮したものだというふうに私は思うわけです。ところが、先ほど申しましたように、国家機密法によりますと、これも詳細、法案も解説書も持ってきておりますけれども、こういうものはまさに秘密の対象になる、そして取材活動が探知、収集ということになるわけですね。また
報道すれば、それは外国が知り得る状態にしたということで、外国への通報とみなされるというふうなことで、最高死刑、無期懲役という極刑になっているというふうな、全く大変な問題なんであります。
そういう点で、ここでもちろん、NHKを何か追及しているのでは毛頭ないのです。こういう悪法を許さない、憲法の平和と民主主義にしっかり立った国民の世論、大いに盛り上がってきております。
国会もまさに正義を発揮して、民主主義の根幹である国民の知る権利、言論、
報道の自由を守り抜かなければならない、そういうふうに私は深く決意をしているわけであります。そういう事態になればあるいは窮屈になるかもしれないということをおっしゃいましたが、それどころではない、まさに戦前に逆戻りする危険性があるのだということを私は言いたいわけであります。そしてNHKが、巨大な言論機関、巨大なマスコミとして、戦前のあの苦い経験、教訓を十分に生かして、二度と同じようなことにならないように、そういう立場にぜひしっかり立っていただきたいということを強く希望いたしまして、次の質問に移ります。
次の質問は、余り時間もありませんが、
放送衛星の難視解消の関係の問題です。
去年、私は二度この問題で質問いたしました。それで、こういう問題があると思うのです。きょう答弁がありましたけれども、若干整理しますと、こういうことになる面があるのです。
放送衛星が本格的に行われるようになれば、負担の公平などの問題からいって、特別の料金を取ることも必要なのではないかという考え方が一つあります。それから現在、
放送衛星は試験段階ということもありまして、二千世帯ですか、ほとんど解決されていない。衛星は上がったけれども、衛星から電波は送られてきているけれども、受信設備が普及していないので解決していないということがあります。受信設備をつければ
放送衛星を受けられるのだということですね。
もともとから言いたいわけですが、つまり今、
テレビが見たくても見られない難視地域の人たちがいるわけですね。この人たちはお金を出して――三十万円ぐらいですか、非課税措置の検討などもなさっておられるということです。またコンバーターその他が百万台レベルになれば十五万円ぐらいになるのじゃないかというお話も去年ございました。いずれにしても、そういうかなり多額のお金を出して受信設備をつけて、さらに衛星
放送特別
受信料を取られるということにこれはなっていくわけですね。大変不都合な事態が生まれる、そういうあたりはどう考えておられますか。