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西村参考人 京都府の八幡市で市長を務めております
西村正男でございます。
本日は、
地方交付税法等の一部を
改正する
法律案につきまして、国会の場で
意見を申し上げる機会をちょうだいをいたしまして、まことに光栄に存じております。よろしくお願いを申し上げます。
改めて申し上げるまでもなく、
地方交付税制度といいますものは、
国庫支出金や
地方税の
あり方など
地方財政制度全体と密接に
関連をいたしておりまして、これと不可分の
関係を有するものであります。特に、
地方に対する
国庫補助負担率の一律的な
引き下げがなされようとしておりますこの六十
年度におきましては、基本的に大きな
課題が存すると承知をいたしております。この点につきましては、
地方団体の一員といたしまして、国の
行政責任がその裏づけとなる
財政の面において安易に
地方に転嫁されることのないよう、そして
地方への
負担の転嫁によって、
地方固有の
財源であります
交付税が
不足の上になお
不足を告げるということがないように心から願うものでありますが、そのことを前提といたしまして、ここで私は、
自治体におきまして直接
財政運営の衝に当たっている者といたしまして、
地方の現場から見た
地方交付税の現実の姿というものを率直に御披露を申し上げたい、そのように存じております。
一人の市長といたしまして、国税三税の三二%を基本としております
交付税が
一つの市の現場においてどんな断面を示しているのか、
財政の実態と
比較をしてどんな
状況にあるのか、それを具体的にお話をさせていただくことによりまして、
交付税の貧しさというものを私なりに証明をさせていただきたい。そしてそのことを通じまして、
交付税がいかに乏しく、いかに
不足をしているかということについて
先生方の温かい御理解を賜りたい、そのように存じておるわけであります。
言うまでもないことでございますが、それぞれの団体の規模と態容に応じた
行政水準というものを
財政の面で保障するのが
交付税でありまして、そのために、
一定の算式によりまして
基準財政需要額と収入額を計算し、需要額に満たない部分を補てんするという仕組みになっておるわけであります。この
交付税の算定のもとになります需要額は、それぞれの団体が標準的な
行政水準を維持し得るということを前提として計算がなされることになっておりまして、例えば義務教育施設、小学校や中学校の建設費につきましても、
事業費補正という形でその必要
経費が算入をされることになっております。
私の市では小中学生の増加が相次いでおりまして、今
年度でどうしても中学校を
一つ新設しなければならぬ、そういう
状況になっております。以下、丸い数字で申し上げますが、その規模は生徒数が七百人、十八クラスでありまして、必要といたしております用地の面積は二万三千平米、建物は、校舎と体育館で六千平米であります。この建設費の総額は、文部省の
基準どおり計算いたしまして、つまり超過
負担は一切なしという計算をいたしまして、二十四億二千万円かかるわけであります。これに対しまして国庫からは、校舎が十分の六、体育館が二分の一、用地が七分の二というそれぞれの
負担率、
補助率で合計九億二千万円が交付されてまいります。国庫以外の市の
負担が十五億円ということになるわけでありますが、このうち
地方債が十三億五千万円入りますので、残り一億五千万円がさしあたって今
年度で必要な市の
負担ということになるわけであります。
そこで、
交付税がこの義務教育施設の整備という
事業に対してどう機能するかということになるわけでありますが、今
年度、つまり
事業年度で必要な一億五千万円につきましては、今
年度の
交付税の
事業費補正という形で
措置をされてまいります。ここまではいいのでありますが、問題は、十三億五千万円の
地方債の来
年度以降二十五年間にわたる元利償還金に対する
財源措置でありまして、各
年度の
交付税に算入はなされるものの、その償還金の算入割合は、校舎と屋体分につきましては六五%、用地に係る分につきましては六〇%でありまして、残る三五%なり四〇%分なりについては
制度上
財源の裏づけがないということであります。
この二十五年間におきます償還金の総額は、元金十三億五千万円に利子が加わりますので合計二十九億六千万円になるわけでありますが、このうち、
交付税によって
財源が保障されるのは十八億円でありまして、残りの十一億六千万円につきましては
制度の外に放置をされているというのが、現在のこの面における
交付税の実態であります。
それに加えまして、給食室とかプールとか柔剣道場などにつきましては、全く
地方債の元利償還金の算入がないということでありまして、私の市の六十
年度におきますこの面の
状況を申し上げますと、人口の増加に伴いまして、この十五年間に小学校と中学校合計十校を建設をいたしてまいりましたが、その
地方債の償還に、今
年度一年間で六億円を必要といたしております。そのうち
交付税で
財源の保障がありますのはちょうど半分の三億円でありまして、残る三億円につきましては、
制度の上では返す金がないということであります。もちろん
交付税は、各
行政項目ごとに積み上げて計算はするけれども、その使途については特定をしない、一般
財源として自由に使えばよいということになっております。しかし、このようにどうしても要る
支出に
財源の裏づけがなければ、全体的に
行政の水準を落とさなければやっていけないのが道理でありまして、学校の新設を必要としない団体と
比較いたしますと、明らかにこれは衡平の原則にもとることになる、そのように思うわけであります。
もともと義務教育施設の整備は団体の任意の
施策ではございませんで、児童生徒の増加によりまして取捨選択の余地なしに
対応が必要な義務的なものであります。でありますからこそ、これに対する国の
負担が法律で義務づけられているのでありますが、このような性格を持つ
経費においてすらこのような実態にあるのが現在の
交付税であります。
自治省におかれましては、この実態を
改善すべく、校舎と屋体につきましては、
昭和四十四
年度以降すっと六〇%の算入率でありましたものを、五十九
年度では、
交付税の総額が減少する中で特に五%引き上げて六五%にされたところであります。また用地につきましても、
最初は三〇%から出発をいたしたのでありますが、四〇%、五〇%と順次算入の割合を高めまして、五十四
年度からは六〇%として昨
年度に至っております。義務教育施設という性格からしまして、小中学校の
運営経費のように、あるいはまた
生活保護費の例のように、一〇〇%を算入すべきである。しかし、そうしたくてもこのような算定しかなし得ないくらい今の
交付税は貧しいということであります。よくわかっていても、いかにせん、ないそでは振れないというのが今の自治省のお立場であろうと思うのであります。
今
年度は
交付税総額も三年ぶりにふえるということでありますので、校舎や屋体分につきましては昨
年度に引き続いてさらに
改善をしていただけるだろう、また用地分につきましても六年ぶりに引き上げていただけるのじゃないかと期待をいたしているわけでありますが、事は義務教育施設だけではございませんで、これも絶対的な
生活基盤施設と言えるごみ焼却場やし尿処理場につきましても、その元利償還金の算入率は二分の一でありまして、これを八幡市で見てみますと、六十
年度で約一億円が算入から外れることになっております。いわゆる同和対策、地域
改善対策
事業につきましても同じような事情にございまして、京都府下で最大の部落を有するところから、同和問題の解決という国家的
課題を解決するために地元の市といたしまして鋭意
努力をいたしておるのでありますが、六十
年度で必要といたします
関係地方債の償還金五億七千万円のうち、普通
交付税に算入される額はわずかにその二三%、一億四千万円でありまして、
交付税算入外に四億三千万円という多額の
支出を余儀なくされているのが実情であります。
以上申し上げました義務教育施設、清掃施設、地域
改善対策の三
事業の元利償還金の
交付税から外れる額は、今
年度で合計して実に八億三千万円に上るわけでありますが、ちなみに本市の六十
年度におきます標準
財政規模は七十七億円でありますから、これはその一割強に相当いたします大変な金であります。これはもう他の
経費の節減や
事業の抑制で賄い得る数字ではありませんし、また、いかに特別
交付税で御配慮をいただくといたしましても、その限度をはるかに超えた額であります。これまでは何とか工夫を重ねましてここまで切り抜けてまいったわけでありますけれども、もうそれもここにおいて限界に達したというのが私の市の実態であります。
以上、
一つの例といたしまして、最もよく承知をいたしております自分の市のことを申し上げたわけでありますが、私の知る範囲でありますけれども、
地方団体の
状況を見てみますと、近年
財政構造の面でもまた
公債費比率の面でも、団体間の
格差というのが大変際立ってきている、そういう感じがいたしております。
地方財政の全体が窮迫の度を強めている中で、より窮迫度の著しい団体がたくさん生じてきている、その反面、
比較的ゆったりとしている団体の存在しているのが目立ってきているような感じがいたしてならないのであります。
これは、もちろん団体自身の
財政運営の
あり方によるところも大きいものがあると思うわけでありますけれども、それとともに、各団体間における
財源の均衡化を図るべき役割を持っている
交付税というものが、ここ数年その総額が伸びず、逆に減少を見る
状況にありましたために、この間における
地方団体間の
財政状況の変動に的確に
対応する機能を十分に果たし得なかったという事情があるのではないか。原資が
不足をしているために、地域の特性や年次の進行による変化に即応して弾力的に対処する点に欠けるところがあったのではないかと思うのであります。
もちろん、六十
年度で余裕が生じるということではさらさらありません。しかし、厳しい中でありましても、この辺で、たとえ少しでも実態に応じた
財源を付与するという
交付税本来の
調整機能の回復を図るべきではないか。少なくともその団体の任意によってではなく、国の
責任との
関係において、また、住民に対する普遍的かつ不可避的な義務の立場において必要としている
経費については、これを積極的に保障するように
交付税の配分の方法を見直すべきではないかと思うのであります。
それとともに私が特に申し上げたいのは、当然算入をすべき義務的な
経費さえ十分に算入できないくらい現在の
交付税は総額が乏しいということであります。総額が
不足をしておるということであります。今
年度の
地方財政は、
国庫補助負担率の
引き下げによる影響を除きましてはその
収支は均衡したということでありますが、それは
先ほど申し上げたような実態の上における均衡でありまして、現実はなお著しく
不足しているということであります。私どもの立場からいたしましたら、最近一部でささやかれております
交付税率三二%の切り下げ論というものは全く論外の論でありまして、逆に引き上げを要望することまことに切実なものがございます。
ありのまま、思うままを申し上げまして、失礼の段はお許しをいただきたいと存じます。どうかよろしく御高配を賜りますよう心からお願いを申し上げまして、私の
意見とさせていただきます。ありがとうございました。(拍手)