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広瀬参考人 朝日新聞の論
説委員をしております
広瀬道貞でございます。
私は、この特例
法案に反対でありまして、六十年限りという
意見もございますが、できればこれは廃案にした方がいいと思います。以下、その理由を申し述べます。
私は、政治と
行政改革を担当しておりますが、
補助金一般については
削減していく性格のものだと思います。第一の理由は、やはり「増税なき
財政再建」を確実にするためには、歳出のかなりの部分を占める
補助金にメスを入れざるを得ない。いずれはこれを
削減していかざるを得ないというのが
一つの理由です。第二の理由は、やはり
補助金行政には必ずむだがつきまどうものだということ。あるいは
補助金行政というのは
地方自治の本旨に背く部分が非常に多いということ。さらにまた
補助金というのは
政府、省庁が一方的に給付する貨幣ということでありますから、かなりこれが政治的に使われるということ。非常に有力な政治家のいる選挙区には
補助金が比較的多く流れる。こういう
行政の不公平といいますか、政治の不公平を排除していくためには、やはりできるだけ
補助金を少なくして、
地方の
一般財源をふやすべきだと思うからであります。
以上、
補助金は
削減すべきであるという
立場なんですが、今回の
法案を見ますと、
削減すべき
補助金の対象をまず間違っている。二番目に、
削減の方法が悪い。
補助金削減に賛成する
立場にありながら、この
法案に反対せざるを得ないわけです。
非常に大ざっぱに言いまして、
補助金というのは
二つに分かれると思います。どこに
交付するか、民間
団体であるか
地方自治体であるか個人であるか、いろいろ対象によって分けることもできますけれ
ども、
自治体に
交付する
補助金も、大ざっぱに言って
二つに分けることができると思うのです。
第一の分野は、制度を維持するための
補助金というような言い方ができるのではないかと思うのです。例えば、憲法では初等教育を受ける権利がある。義務教育の制度を守っていくために、国と
地方で大体半分ずつの金を出し合っていこうよというのが今の義務教育の制度になっております。それからまた、
生活保護につきましては、だれだって最低限の文化的な生活をする権利がある。この
生活保護の制度を守るために、これも国と
地方で金を出し合っていこう。その場合、これは国によるところが大きいので、国が八割は出します、
地方が二割は出します。それからまた失対事業についても同じようなことで、失業者をほうっておけば非常に社会の混乱がふえていく。したがって、これは国の責任で救済していく。それで失対事業という制度が出てくるわけですが、この制度も国が中心になるべき仕事であるから国が八割は持つ、
地方が二割は持つ。こういう制度を守っていくための
補助金は、名前は
補助金でありますけれ
ども、いわば国と
地方がお金を出し合う分担金みたいなものだと見ていいと思うのです。つまり、これは一般の
補助金とは範疇がちょっと違うのじゃないかと思います。
二番目の
補助金というのは何かといえば、これは政策誘導的な
補助金という言い方をしていいのじゃないかと思うのです。これは別段
法律にはないのだけれ
ども、例えば地域で文化活動を大いに
推進していきたいと文部省が考える。そうしますと、府県なり市町村なりの文化関係の
予算をふやしたいと文部省が思うの似当然でありまして、そうすれば、文化センターをつくるとか、あるいは美術館をつくるとか、そういうことには国がお金を出しましょう、文部省がお金を出しましょうということになってくる。そして府県なり市町村の
財政を文化的な面に誘導していく、そういうものだろうと思います。下水道を普及させるのが国の基本的な政策だと建設省が考えれば、下水道の建設についてかなり高額の
補助金を出す。つまりこういう市町村、府県の政策を誘導していくために、言葉は悪いのですが、釣りえみたいにして
補助金を出していく。この
補助金はもらえるところもあるし、もらえないところもある。非常に政治絡みになってきているケースが非常に多いと思うわけです。
私は、
補助金を削るべきだというときには、こうした政策誘導的な
補助金を削っていけばいいのだ、それを行うのが
地方自治の本旨にもかなうと思うわけです。ところが、今回の特例法を見ますと、まず四十二件の
補助金というのはいずれも前者の制度的な
補助金になっている。この特例
法案のもう
一つの柱であります
公共事業の高率
補助金については、私はこれは必ずしも反対ではありませんで、仕方がないかなと思うのですが、その四十二件の制度的
補助金、これは全く理由も何もない。
最初申しましたように、いわば分担金であるべきものを
自分の分担をやめる。一方的にやめられたら相手方が困るのは当然でありまして、それをやるには相当の手続も要ると思うのですけれ
ども、そういうのも踏まれてない、そう思うわけです。
それでは一体制度的な
補助金を削ることが一切許されないかといえば、もちろんそれはそうじゃないと思うのです。どうしようもない、国の
財政がどんなに振っても財布から何も出てこないという
段階になったらば、それは頭を下げて
地方自治体の協力を仰がなければいかぬと思うのですけれ
ども、私が見る限り、そこまでは行ってないと思うのです。
ここにありますのは「
補助金総覧」という五十九年度の版で、これは五十九年度の
予算でもらえている
補助金約二千六百件あるわけですが、その
一つ一つについて、金額でも手続でも、どこに払うかというような細かい説明があるわけです。これは
大蔵省関係の出版なので、皆さんの手元にもあるかと思いますが、例えばこの一ページ目、総理府から始まるわけですが、一ページ目を開きますと「動物収容施設整備費
補助金」という、約六千万か何かのがあります。
最初に出てきます。これは
地方自治体が保健所に犬や猫の施設をつくるときに、国が半額補助しましょうという
補助金なわけです。私は、一体国が犬猫の世話までしなければいかぬのか、そんなのは市町村に任せていいじゃないかと思うわけです。こういう
補助金をまず削ったらどうか。
次のページを開きますと、「国民健康体力増強費
補助金」、これは一億以上のものですが、これが出てきます。これは何かというと、財団法人健康・体力づくり事業財団という財団がありまして、そこに委託費として払う。するとその財団が
全国の府県、市町村の体育担当者を集めて、合宿訓練か何かして指導者養成に金を使っていく。こういう金がない方がいいとは思いませんけれ
ども、体力の増強だとか健康増進に一体国が何ができるか、そういう仕事は本来は市町村の仕事じゃなかろうかと思うのですね。そういうのをまず削っていけばいいじゃないか。
六十年度の
予算案を見てみますと、
最初の犬猫の方はさすがに削られております。国民体力の方はそのまま残っている。どうしてだろうかといろいろ聞いてみますと、既に財団ができていて、その財団というのはいろいろな人も働いておる、そう簡単には切れないということのようです。しかし、
行政改革というのは、実はそういうあってもなくてもいいような機関を
整理していく、廃止していくというのが趣旨でありますから、本来はそういうものを削っていくべき性格のものだろうと思います。
それからさらに、さっき誘導的な
補助金の中で、例えば農水省にしてみれば大いに農業関係の
予算をふやしてもらいたいし、農業関係の職員をふやしてもらいたい。したがいまして、農業改良普及員というような市の職員に対しましては、その
人件費の一部を補助しましょう。それから
厚生省にしてみれば、保健所をふやしてもらいたい。保健所の職員をふやしてもらいたいために、そういう職員には
厚生省が
人件費の一部を
負担しましょうという、そういう職員の
人件費の補助があるわけですね。
今回の
法案が
政府部内でもめた際に、自治省側は府県、市町村を
代表して、削るならばそういう
人件費の
補助金をまず削ったらどうですか、そうなれば府県、市町村は、一体ここに保健所の職員が必要かどうか、農業改良普及員が必要かどうか、それを
自分たちの頭で考えることができる。
補助金を減らされた分、それを
地方が丸々
負担するのではなくて、一体こういう制度が必要かどうかを改めて見直すチャンスになる、だからそっちを減らしなさい、こういうことを言ったわけです。ところが、そういうのは温存されていて、一番削りやすいといいますか、人の懐に落ちつきやすいところの制度的
補助金を削ってしまった、そういう
法案になってしまった、非常にそこが残念に思うわけです。
一つの例だけ挙げてみますと、各省が競うようにして、箱物といいますが、集会所だとか会館の
補助金を持っている。かつては、戦後の非常に貧しい時期には、そういう施設というのはやはり国が援助しなければ市町村にはできなかったかと思うのです。ところが、戦後四十年たって、市町村もだんだん力がついてきた。そうすれば、本当に必要な集会施設、会館というのは
自分たちの力でつくっていけるわけです。あるいは、つくっていこうと思えば、
借金をしてつくればいいわけです。真っ先にこういう会館の
補助金を削ってしまえば、今回の金額程度のものは軽く出てくるわけで、私はそういう
措置をとるべきだと思います。そういう会館の
補助金というのは、今は
政府が高額の
補助金を出すものですから、取ったが勝ち、もらったが勝ちということで、必要でもない会館が各地にできていく。
島根県のある町の場合には、これは人口一万一千人ですけれ
ども、そこに農林省、
厚生省、通産省、文部省、各省の会館
補助金を取って七つの会館を建てる。人口約一万一千人ですから、千何百人あるいは二千人に
一つ以上の会館ができてしまう。こんなに会館づけの町ができれば、その町の
財政がおかしくなるのは当然でありまして、この町は赤字再建
団体に転落したわけですけれ
ども、そういう弊害を生む
補助金というのが一方にたくさんあるわけですから、今回はぜひそういうところを見て勇断を奮っていただきたい。何も野党がやるべき仕事ではなくて、自民党が率先してやれば政治の前進に寄与するわけで、ひとつこの
機会に与野党もう
一つの
補助金の根源を
見直していただきたい、こう思うわけです。
潜越でございますが、
意見を申し述べさせていただきました。(
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