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渡辺参考人 国税労働組合全国
会議、略称国税
会議と申しますが、そこで議長をしております
渡辺でございます。
私たち国税
会議は、国税の賦課、徴収事務に従事しております職員で組織しております労働組合でございます。私たちは、税を執行する職員の立場と労働組合の社会的責任の一端を担うべき立場から、
税制に関する調査研究を重ねてまいり、
税制改正に関する提言を行い、
制度上の不公平是正を求めてまいりました。また、
国民の税に関する不公平感は、
制度上の不公平感と執行上の不公平感が混然一体となって存在しております。このことは否めない事実だと私どもも認識し、
税制の適正、公平な執行を行うに足りる環境整備を求める運動を展開してまいりました。
本日、私は国税の職場における責任組合でございます国税
会議二万九千名を代表いたしまして、以上のような
観点から、
税制の執行上の
問題点につきまして三点ほど、簡単ではございますが陳述させていただきたい、このように思う次第でございます。
まず第一点といたしまして、
所得の捕捉と実地調査の問題でございます。
我が国における
税制基盤である
申告納税制度が
昭和二十五年に発足し、自来私ども国税職員は一貫して、納税者の皆さんがみずからの手で適正な申告をしていただく、このことを希求し、その
実現のために難解な税法や通達を理解し、納税者の皆さんに対する指導、相談及び脱漏
所得の補正と適正な申告のための牽制効果としての調査、すなわち指導、相談、それと調査、これを執行上の両輪として位置づける中で
努力してまいった次第でございます。
申告納税制度は、ようやくにして
制度としてはそれなりに定着したものと認識しておりますが、納税者の
方々にとっては、まだまだ税は取られるものとの認識が根強く潜在しております。実地調査の結果を見る限りにおきましては、残念ながら
所得を過少に申告している納税者が大半を占めております。
具体的に申し上げますと、五十七事務年度における申告
所得税の調査実績を見ますと、十五万四千人について実地調査を行いました。その九五%に当たります十四万六千人が、五千二百九十三億円、これを一人当たりに換算いたしますと三百四十三万円の申告漏れとなっております。この脱漏
所得額は、
昭和五十八年のサラリーマンの平均給与収入三百二十九万円を上回っており、サラリーマンが個人納税者の八〇%強を占めていることを考えますと、税に関する不公平感が充満していることも否めない事実だと思っております。
また、
法人税につきましても、五十八事務年度におきましては、十九万八千社を調査しました結果、その八二%に当たる十六万三千社が一兆八百四十九億円、これを一社当たりに直しますと五百四十八万円の申告漏れとなっております。
このように、ほとんどの納税者に申告漏れがある
状況下にあって、実地調査は、直接的には不正あるいは不正確な申告を発見し、過少な申告の修正を求め、税の脱漏を補正するという意味におきまして、また間接的には納税者に対し適正な申告を促すための牽制効果となるという意味においても、執行面の公平を確保するための重要な手段ではないかと考えております。
翻って、実地調査を割合で見ますと、申告
所得税四・一%、
法人税一〇・九%でございます。このことは、個人の九六%、
法人の九〇%が調査を受けずに済むという現実にございます。私は、納税者が自主的に適正な申告をしていただくことを望むものでございますが、現実論といたしましては極めて困難であることから、もっと広範に実地調査を実施することが執行上の公平を担保するために不可欠であろうかと考える次第でございます。
しかしながら、最近十八年間で申告
所得税の納税者数が二・四倍、
法人数が二・三倍、源泉徴収義務者数が三倍と、急増しております。その間の職員数は、当
大蔵委員会の諸
先生方の御理解、御支援によりまして定員増の附帯決議をいただきました結果、公務員全体といたしまして減員
傾向にございますが、私ども国税職員は増員していただきましたことを感謝申し上げます。しかしながら、十八年間でわずか二%の増員しか認められておりません。その結果といたしまして、急増する納税者数、事務量の増加等に対処することができず、内部事務の
合理化、一件当たりの調査日数の削減という、職場として、また職員といたしましても血のにじむような
努力を重ねております。
このような、職員の旺盛な使命感、責任感によってのみ執行上の公平を図ろうとする措置も、しょせんは糊塗策にすぎず、指導、相談の充実はもとより、経済の発展、拡大に伴う
企業取引の大型化、多様化、広域化等を考慮いたしますと、税務調査は従前に増して複雑、困難になっております。限られた職員数では、実地調査率どころか調査件数の維持すら困難であろうかと思う次第でございます。私は、執行上の公平を確保し、執行面から生じるクロヨン、トーゴーサンと称される不満感を解消するために、国税職員の大幅な定員増加を切にお願いする次第でございます。
このことは、単に執行上の公平確保だけにとどまらず、現在、国税職員一人当たりの調査による年間増産税額が六千五百万円強であることから、また、その波及効果等も考え合わせますと、国家
財政に対する寄与率は高いものがあろうかと考える次第でございます。一方、国税職員を増員することは徴税強化につながると主張する人が多うございますが、私は、ひとしく
制度を
国民に適用するための措置であり、そのことが税の職場における真の行政サービスではなかろうかと理解しております。さらには定員増から生じる
税収増により、
制度としての
減税も可能になってくることも、あわせて御賢察をいただきたいと思う次第でございます。
次に、第二点といたしまして、執行面を無視した
税制のひとり歩きの問題でございます。
本来、
制度と執行というものは、同時に同じ土俵の上で
議論し、
検討されるものではなかろうかと私は考えます。しかし、現在の
状況を見ますと、担当官庁でございますが、
税制は主税局、定員査定は総務庁、予算は主計局、執行は国税庁と、それぞれの主管が分離されていることもございます。
税制改正時にその執行が円滑に行われるような配慮が従来十分行われていなかったのが現在の
状況を招いたんではなかろうかと考える次第でございます。
いかに
制度面で整備されていましても、その執行に問題があれば
国民の税に対する不満を招来いたし、結果として脱税や厭税を招きかねないこととなるのじゃないかと思う次第でございます。現在、税の
見直しにつきまして各方面で論議されておりますが、私といたしましては、
現行の
税制下における
税負担を公平にすることが先決ではなかろうかと思う次第でございます。その後において、執行面を十分に配慮した
税制見直しをすべきであると考えます。
最後に第三点といたしまして、
租税教育の問題がございます。
我が国では、憲法第三十条に「
国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ。」と規定されておりますが、
国民にとって税は租庸調の時代から取られるものとの意識が強く、この意識は、歴史的な沿革、
税金の使途その他もろもろの問題に起因していることが考えられますが、
租税教育の不
徹底も大きな要因だろうと考えます。特にイギリスの小学校では、数十年前から、税はきちんと納めることを繰り返し教育しておると聞いております。
我が国におきましても、
国民の一人一人が税の持つ意義、目的等を正しく理解するため、義務教育だけにとどまらず、すべての学校教育のカリキュラムに
租税教育の時間を加え、その充実を図っていただき、納税思想の高揚を図ることが民主主義への発展の道だと考える次第でございます。
以上で、私の陳述を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)