○田中
参考人 私は経済評論家でありまして、特に
石炭問題の専門家というわけではございません。しばらく
石炭鉱業審議会の
委員をやっておりました
関係上、
石炭問題に触れることが多かったわけでございますが、きょうはもう少し広い観点から、
日本の
国内炭の
政策をこれからどうすべきかということにつきまして私の
考えておりますことを少しばかり述べさせていただきたいと思います。
先ほど来、
有吉、
野呂参考人の方からもお話がありましたように、ことしに入りまして大きな
炭鉱事故が続発しております。我々一般国民の
立場からしますと、貴重な人間を殺してまでどうして高い国内の
石炭を掘らねばならないのかという疑問が今かなり出ておると思うのですね。そうして、この疑問は非常に重要な疑問だろうと私は思うのです。もちろんこれは単なる素朴な一般の世論にすぎないのかもしれませんけれ
ども、これから第八次の
石炭対策を
考える場合に、実質的には大きな影響を与えるのじゃないかという感じがいたします。
しかし、経済専門家から見ますと、もっと重要な問題が国内の
石炭産業にあると思うのです。それは、商品としての国内
石炭が今や市場において競争力を急速に失いつつあるということであります。
御承知のように、
原料炭、
一般炭ともに内外の
炭価の格差がかなり開いております。
原料炭につきましては
トン当たり一万円、
一般炭につきましても八千円以上の値開きがあるということで、大口の
需要家の鉄鋼
業界とか電力
業界はできるならば国内の
石炭は使いたくないというのが本音だろうと思うのです。ただ、国の
政策もあり、これまでのいきさつもいろいろありまして、応分の
協力はするということで
炭価の値上げにこれまでも
協力してまいりまして、一定量の国内の
石炭を
確保してきたわけであります。しかし、私が鉄鋼
業界の首脳あるいは電力
業界の首脳といろいろ突っ込んで話をしてみますと、もうこれ以上
日本の
国内炭を掘る必要というものはないのじゃないか、そういう本音が聞こえできます。
商品として市場における競争力を失いますと、その
産業は成立しなくなります。買ってくれないわけですから、その
産業を
維持するということがなかなか難しくなるわけであります。そこに今
国内炭の直面しておる
最大の問題点があると私は思うのです。
政策としては、そういう現実を率直に踏まえてどうすべきかということになるわけであります。市場経済の原理からいいますと、特に最近、経済摩擦が激しくなりまして、市場開放の要求が各国から
日本に出ております。恐らくエネルギー、
石炭についてもこの要求は例外ではないだろうと思うのです。アメリカは
石炭を買えと言っておる。豪州もそういう要求を出しております。そういう中で国内
石炭を一定量どうしても保持していくためには一体どうしたらいいか、そもそも一定量保持する必要があるのかないのか、その一定量とは一体二千万トンなのかあるいは千五百万トンでいいのか、こういった大変難しい問題が第八次
石炭政策では根本的に問われるのではないかという感じが私はするわけであります。
日本の
石炭政策は、単なる経済問題だけではなくして、地域問題と深く絡んでおります。全国に十一の主な山がある。十の市町村にそれが散在しております。特に
北海道、
九州が多いわけでございますが、
石炭産業をどうするかということは、地域社会にとっては死活の問題だろうと思います。したがいまして、そういう地域社会の観点というものも今後の
石炭政策に当たっては配慮せざるを得ないと思います。
それからまた、商品と申しましても、エネルギーは多分に国の安全保障にかかわる重要な商品であります。仮に
国内炭が全くなくなった場合、一体
日本のエネルギーの安全保障は
確保できるのかということを問われた場合、いや大丈夫だと言い切る自信はだれにもないと私は思うのです。しかし、いろいろ聞いておりますと、やはりこれは経済性との兼ね合いになるのではないか。一万円も開いているこの現実を無視して、安全保障という観点だけで無理に
国内炭を
維持していくということは、果たして現実に通るかという疑問も出ておるわけであります。
したがいまして、この
国内炭の
政策は地域問題とかあるいは経済性の問題、エネルギーの安全保障、そういった各種の要因をかなり総合的に
考えて、バランスよく調和をとって
政策を決めねばならぬと思います。しかし、この安全保障の問題というのは人によって皆違います。これは一種の神学論争でありまして、なかなか一義的結論が出てこないのです。
ただ、私は、今の時点で仮に
国内炭の出炭量が現在よりも大幅に減って、より以上
海外炭に頼るというような事態が来た場合に、
炭価の交渉力、値上げをする場合に足元を見られて上げられるのではないかというような心配がありますが、そういう点につきましても、やはりもう少し真剣に
考えねばならぬだろうという感じがいたします。鉄鋼
業界あたりに聞きますと、いやそんなことない、現に我々は外国から
石炭を買っているときに、
日本の
国内炭がどんどん減っておるにもかかわらず別に高い
石炭を押しつけられているわけではないのだ、これは影響はしないのだというようなことを言っておりますけれ
ども、これがもっともっと減った場合には問題は別だろうという感じもいたします。
そういう
意味で、八次の
石炭対策というのは最後の選択をすべき段階に来たのではないかという感じがいたします。これまで七回、ずっと
石炭対策というものが施行されてまいりましたけれ
ども、率直に言いまして、これは撤退に次ぐ撤退であります。決して成功したとは言えません。なぜそうなったのかということを根本的に
検討する必要があるだろうと思います。無理があったのではないかという疑問も当然あります。そのほか、いろいろ国際的な情勢の変化といった外的な要因もあるだろうと思います。いずれにしても、この第八次の
政策におきましては、過去のいろいろな問題点を総洗いしまして反省をした上で、最後の
対策とも言えるこの八次
対策に臨むべきだろうと
考えております。
エネルギー問題としての
石炭問題、これは私は非常に重要な位置を占めていると思います。
日本の電力
業界の動きを見ておりますと、脱石油ということで、現在、
原子力発電に一番のウエートを置いております。また、
原子力発電というものが一番コストも安い。それからまた、言われているような
危険性もないということでありまして、現実に相当大きな発電量を占めるに至っているわけでございますが、この
原子力発電と並んで
石炭火力の
見直しということも大事だろうと思います。
電力の各社では、今、東京とか関西、中部といった大手のところが比較的
石炭火力の建設がおくれております。しかし、
北海道とかあるいは
九州とか中国とかといった地方の電力会社におきましては、重油火力から
石炭火力への切りかえというものが出ております。しかし、その切りかえというものが残念ながら
国内炭の使用につながらないで、専ら
海外炭の方にシフトしておるというのが現実であります。これは、
国内炭が
海外炭に比べて割高であるという観点から来ているわけでありまして、電力
経営者の
立場からすると、かなり
長期にわたって安定した
供給と価格が見込まれておる
海外炭の方が安全だという
考え方があると思うのです。これは
経営者の観点からするとごく当たり前のことだろうと思いますが、そのために、不幸にしまして
国内炭の
需要が伸びないということになっております。
鉄鋼と電力会社が
国内炭の
最大の
需要家でございますが、御承知のように鉄鋼
業界はこのところ粗鋼が一億トンを上下するという格好で、大変伸び率が低いわけであります。それから電力の方も、景気の動向を反映しまして伸びが年率二%から四%内外ということで、一時に比べますと大分低くなっております。しかもその中で、
原子力発電のウエートが高まるとかあるいはLNGを
確保するとかあるいは
海外炭というようなことで電源の多様化には努めておりますけれ
ども、
国内炭の専焼火力発電所というものがなかなかできない。期待できるとすれば、国策会社としての性格を持っている電源
開発会社にこれをどうやらせるかということだろうと思います。
電源
開発会社は
日本の
国内炭のユーザーとしては
最大のウエートを占めているわけで、御承知のように現在、竹原とか磯子とかあるいは高砂とかといったところにいわゆる揚げ地火力発電所がございます。そして、この発電所ができましてから既に二十年近く
たちます。これがいよいよリプレースの段階にこれから入るわけでありますが、このリプレースの段階に、今度は
海外炭の方に切りかえようじゃないかという声もないわけではない。そういうことが行われますと、回内炭の
需要というのはさらに減るということになります。しかし、国策会社としての電発ということで、
海外炭じゃなくて
国内炭の一定
確保ということも
考えまして、リプレースに当たっても従来どおり
国内炭を使用していこうという方針のようでありますが、いずれにしても、大きな
政策的な下支えに支えられてやっと存在しておるというのが今の
日本の
国内石炭産業の偽らざる姿だろうと思うのです。すべての
政策は、こういう厳しい現実を直視してそれからスタートするということだろうと思います。
一般炭の
需要は、先ほど
有吉会長が申されましたように、なお五〇%を占めておられるという話であります。それから
原料炭の方は圧倒的に多くを
海外炭に依存しまして、五%ぐらいになった。六千万トン、七千万トンの
原料炭を
海外から
輸入しまして、鉄鋼
業界は大体三百四、五十万トンの
原料炭を
国内炭に依存しておるわけでありますが、全体のウエートから見ますと五%ということでありまして、極めてウエートは低いわけであります。ウエートが低ければ、多少値段が高くてもそのくらいのものは十分抱いていける、消化できるのではないかという議論もありますけれ
ども、最近はなかなか経済情勢が厳しくなっておりますために、鉄鋼
業界あたりは、たとえ一万円の違いであっても
年間三百四十万トンということは三百四十億円違うんだ、こういうことを知った上で高い
国内炭を買うということはある
意味では背任行為にもなるんですよということを言いかねない雰囲気であります。だんだん経済情勢が厳しくなって、鉄鋼
業界としても高い国内の
石炭を使用する余裕とか余地とか、
協力したいけれ
ども我々も困っておるんだというような声が今強まりつつあるのが
現状であります。
そういうことで、いささか
需要業界の生の声にウエートが傾き過ぎた嫌いがあるかもしれませんけれ
ども、それがやはり
需要者の本音だろうと思います。したがいまして、私は、この厳しい情勢を踏まえながら、先ほど来申し上げましたように経済
政策としての
石炭政策、それから地域問題としての
石炭政策、それからさらに国のエネルギーの安全保障上
国内炭の占める
位置づけといったものを、やはりもう一回真剣に、徹底的に議論した上で八次
対策というものを進めてもらいたい、そう
考えておる次第であります。