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石井参考人 私は、
東京大学工学部におきまして
産業機械工学科というところに所属しております。
産業機械工学科といいますのは、わかりやすく申し上げますと、最近の
ロボットとかあるいはオートメーション、
工作機械、
自動車、さらに
生産技術あるいは
管理工学、
システム工学、
コンピューターの
応用というような、現在、
産業の中で非常に重要なしかも成長している
部門の関連の
研究、教育をしているところでございます。そういう
立場から本日の
基盤技術研究円滑化法案に関する
考え方を申し上げたいと思います。
まず、この
法案がこういう時期に出てまいりましたことは極めて
タイミングがよろしいというふうに存じます。
現在、
技術革新が非常に活発な時期であることは新聞とかの報道で御存じだと思いますが、今後二十一
世紀にかけましては、この
技術の
変化がさらに大幅な
飛躍をする時期ではないかと私は思います。したがいまして、予測といいましょうか、長期的に安定した、固定した
考え方でいくことは非常に難しいわけでございますが、少し以前、既に
技術革新がないというような
悲観論が強かった時期がございますが、それは現在全く逆になったと申し上げていいと思います。
特に
我が国がそういうことを今後本当にできるエネルギーといいましょうか
活力を持っておるかということでございますが、これはいろいろの面で十分その
活力を持っておる、これをいかにうまく引き出していくかということが非常に重要だと思います。この
意味で、この
法案はその国民の
活力を
基盤技術の面で引き出す非常に重要な
役割を果たすだろうと
考えられます。
現在までの
日本の
技術の主たる大きな枠組みといいましょうか
特色は、
後進国が急速に
近代化を行うという、追いつき型の
技術体系になっており、そういう追いつき型ではいわば
世界のチャンピオンだったというような
言い方もできるかと思います。ところが、今申し上げました今後の
技術革新におきましては、そういう追いつき型では不十分でございまして、かつて
先進国がやったように、もっとみずから創造的に、新しいものを
自分でつくり出していくというタイプに体質改善しなければならない時期だと思います。
我が国の
技術は今のところはまだまだ、オールラウンドといいましょうか、すべての面ですぐれているというわけではございませんが、
幾つかの面で非常に
特色がある。しかも
世界の
トップレベルというものがたくさん出てまいりました。全部を御紹介するわけにいきませんので二、三の
特色的な点だけの
性格を申し上げますと、例えば
民生技術といいましょうか、生活に密着したような
耐久消費財とか、あるいは
民間の
産業で使うような
生産財とか、こういうものを
大量生産し、それをきちんと故障なく動かし、
メンテナンスし、かつそれを流通するというようなことにかけましては恐らく
世界の
最高水準になったわけであります。ほかの国のような
政府主導の大プロジェクト、例えば
アメリカなんかが典型でございますが、そういうような点では
日本はむしろおくれておりますけれども、こういう
民間の
民生中心の
技術分野では、特に
生産技術がすぐれておりまして、現在では
世界で最も信頼されている国であろうと思います。
今後もその
特色は、先ほど申し上げました
技術の革新的な
時代に非常に重要な
役割を果たすだろうと思いますが、いろいろな
分野の間で、従来の
体系から外れた思わぬことが起こっているわけであります。二、三の例を言いますと、例えば皆さんの身の回りで申し上げますと、
電卓というものがありますが、
日本がつくり出しました小型の、ポータブルの
電卓というようなものは最近では
時計とほとんど同じになっておりまして、
時計が
電卓技術と融合しております。メカトロニクスと言われるように、
機械工学の
分野が
エレクトロニクスと融合した、
電卓か
時計がわからないような
複合物が出てまいりまして、これがたちまち
世界を席巻するというような、
技術分野のかつての古い分け方が現在急速に乱れております。これが
一つでございます。
それからもう
一つの大きな
変化というのは、
技術の中で
一般には
序列意識がございまして、例えば
メンテナンス、保守をする
技術というのは
一般に低く見られておりました。ところが現在、
日本が
世界で一番
ロボットをたくさん動かしておるなんという場合には、実はこの
メンテナンスを
抜きにしては
考えられません。十数年前に
我が国が初めて
ロボットを輸入したときには、
ロボットというのは一日にたかだか一時間も動けばいいくらいだったと言われております。もちろん
ロボット技術自身の向上もございますが、
日本は
現場における
メンテナンス力が非常にいいために、現在では
ロボットが何百台もほとんど故障しないで動く。仮に故障してもすぐに修理して復旧できるというような
メンテナンスのよさというのが非常に重要になりまして、これを
抜きにしては将来の高度な
技術自身の
稼働率というのが経済的に非常に下がってきて問題になるということでございますから、こういう
技術の
上下関係の
考え方も現在大いに変わってきております。これは、例えば
軍事技術の方が
民生技術よりもすぐれているというような従来の常識なんかも、部分的に現在
幾つかの
分野で逆になっているようなところもございます。
それから次に、
産業革命以来と言われている非常に大きな
生産のやり方の
変化が現在起こっております。
これは、例えば
ロボットと言われますけれども、さらに自動化された
工作機械、
NC工作機械とかあるいは多
機能を持ちました
マシニングセンターと言われているような
工作機械、つまり
エレクトロニクスが従来の
工作機械技術と
結合したものですが、そういうものを
我が国は
世界で最もたくさん
生産し、かつ
現場に動いております。この結果どういうことが起こったかといいますと、従来、多
品種少量
生産というのは
機械工業においてはできなかったわけでございますが、これが可能になったわけであります。
一例を言いますと、数万台をつくっております
自動車工場、
自動車工場というと昔は
下型フォードの例で、全く同じ下型を何万台もつくるのが
自動車の
組み立てラインだとお
考えかもしれませんが、最近では、五万台ぐらいつくりましても一万二千種類ぐらい違う
自動車を一カ月間につくっているので現状でございます。多
品種で、しかも
大量生産の場合もございますし、もちろん
中小企業等は多
品種で少量
生産が必要でございます。これが可能になりましたのは、今申し上げました
NC工作機械とか
マシニングセンターの導入でございますが、
日本の場合、これが他国に比べましてけた違いといいましょうか、非常に進んでおります。さらに
設計等におきましても、最近は図面を
製図板の上でかくということよりも、むしろブラウン管の上で、
コンピューター・
工ーデッド・デザインといいまして、CADでかくのが非常に普及いたしまして、
生産面における
技術的な重要な
設計から
ロボットに至るまで本質的な
変化が起こっております。さらに、将来予想されるもっと大きないくつかの
変化といいますのは、バイオテクノロジーというような二十一
世紀派のものは別にのけましても、
エレクトロニクスの中でも
人工知知能と言われているような
研究が現在なされております。これは専ら
純粋科学といいましょうか、非常に基礎的な
研究でございますが、これが恐らく予想よりも早く
応用の
分野に入ってくるんじゃないかということが最近予測されております。
そういたしますと、恐らく一九九〇年代の中ごろかあるいは後半が、その辺になりますと、現在の
情報化と言っておりますものよりは何けたも大きい
情報の
機能が出てまいりまして、
情報化社会というかけ声がございますけれども、今までの
情報化とはまたけた違いな
変化が出てくる。これに対しましても十分対応した、
産業構造はもちろんのこと、人材の供給それから各種の法制の問題その他一連のことが行われなければならないわけであります。そういう
意味でも、そこをにらみましてこの
基盤技術円滑化法案が準備されていくというのは、まことに時期的にも
タイミングがよろしい、結構なことだと存じます。
それから、
国際化の問題、先ほど
大島先生もお触れになりましたけれども、
我が国のそういう
変化が当然
国際的な反響を呼ぶことは十分考慮しなければならないわけであります。従来、
国際化といいますのは、むしろ
受け身で
考えておりましたけれども、これからは本格的に
技術国際戦略というもので
日本が
世界の中でどういう
役割を果たすべきかということを
考え、かつ実行していくという段階に入ったと思います。これはいわば従来のといいましょうか、
日本開国以来の
受け身から積極的な前向きな
方向への変換でございますから、天動説から地動説へ変わったぐらいの大きな
政策の
方向の
変化だというふうに
考えます。
こういうことも従来なかなかやりにくい仕組みが
社会の中にあったと思いますが、特に
技術開発でキャッチアップしよう、追いつき型の場合にはむしろ
我が国の中で、どちらかというと閉鎖的に排他的に
技術を育成してそれを
輸出競争力に向けようということが
基本的方向であったかと思いますが、今日では諸般の情勢、例えば
貿易摩擦等からいいまして、当然
世界のために
我が国が与えるたくさんのものをこれからどういうふうに
考えていくか、
技術につきましては、特に
先端技術等につきましては
世界各国から、
先進国だけでございませんで
発展途上国、周辺の新
興国等から非常に強い
技術移転の要望がございます。
あるいは
人づくりの面でも
留学生等が参りまして、そういうことを積極的にやりたい。ここで、この
法案の中に
国際化ということが積極的に出ております点はまことに結構だと思います。これは単にそれがある成果を生むばかりでなくて、そういう姿勢を
世界に知らせるということに非常に役立つだろうと思います。この点ではどちらかといいますと、今までは
日本は非常に自己中心的な天動説的に
技術というのを、
自分だけの利益の
輸出競争力に集中しておったという
非難を今までは受けておったように思います。
それから、
政府における
研究開発と
民間の
研究開発の
役割分担といいましょうか、
性格の差等につきまして申し上げたいと思います。
この
法案の御趣旨は、専ら
民間の自主的な動きというのを、
基盤技術に関する
試験研究の
促進ということを明示しておられまして、この点もかつての、例えば
昭和三十年代の初めごろの
日本の
産業技術の状況とは現在非常に違うと思います。当時は、御
承知のように、
民間というのは海外からの追いつき型の
時代でございますから、どんどん
技術を輸入いたしまして現業にすぐに役立つようなところに集中いたしておりました。
輸入技術依存が
民間の
企業の体質でございましたけれども、自前の
技術を国が分担してやらなければならないというのが当時のロジックだったと思います。
ところが、最近はようやく
民間にも実力が出てまいりまして、みずからもここで言う
基盤技術とか
基礎研究とかを始めるというゆとりといいましょうか、自覚といいましょうか、意欲が出てまいりました。これを後押しするという形で、この
法案が
機能することはまことに
時代の流れをうまくとらえているという点ではいいことだと思います。したがって、
民間の自主性とか、特にこの
センターを設けられたときに、その運営に関して自主性を尊重するという点は非常に結構だと存じます。
最後に、
民間の
基礎研究等をなぜ重視し始めたかということを一言申し上げますと、先ほどから申し上げておりますように、
我が国の
技術は相当自信が出てまいりましたが、一点だけ、非常にアキレス腱といいましょうか、危機感を持っておるところがございます。それは何かといいますと、非常に大きな抜本的な
変化が起こったときに、どうも追いつけない可能性があるのではないか。これはどういうことかといいますと、ちょっと古い例になりますが、例えば繊維
産業におきまして生糸とか天然繊維の
技術がございました。これがナイロンというような合成繊維の
技術にはっと切りかわるわけでございますけれども、こういう抜本的な、従来の生糸とか天然繊維の中での競争であれば
我が国は十分自信があるけれども、急にとんでもないナイロンというような原理的に違うものに切りかわったときにはこれは逆目に出まして、今までの努力とか投入したものが全然だめになってしまうわけでございますから、その点の危機感というのは相当各
企業においても強いというふうに見受けられます。
したがって、先ほど言いました
基礎研究とか基盤的な部分はぜひやっておかなければそういうスイッチングが、大きな
変化が起こったときに対応できないということでございますから、基盤をしっかりしていく。
開発その他につきましては、これは
民間の実力が十分出てまいりましたので、この
政府と
民間の
役割というのはそういうような
役割分担になるのが適当かと存じます。
以上でございます。