○高木健太郎君 私は、公明党・国民
会議を代表し、かつ国民
会議の
立場から、ただいま
趣旨説明のありました
日本育英会法案につきまして、
総理並びに
文部大臣に対して若干の
質問をいたします。
まず、今回の
改正において
貸与の一部に新しく
有利子制を
導入しながら、育英会法の
改善と言われるのはどのような理由によるものか、御
説明願いたい。なるほど
貸与学生数は増加され、一人当たりの
貸与金はふやされました。しかし、
特別貸与制はなくなり、一本になった
一般貸与制の総額は減額され、ふやされたものは
有利子制であります。これで
改善と言われるのでしょうか。
育英会の
貸与は、通称
育英奨学金と言われています。外国のスカラシップと同様、これには優秀なる
学生への褒賞の
意味が含まれ、元来給付をもって原則とするものであります。事実、欧米主要先進国においては、国の
財政の窮迫にもかかわらず、
返還を求めない
給費制を
採用し続けており、一部
貸与制を加味しているのはアメリカ、西ドイツのみでございます。
改善と言うならば、
貸与制の一部を改めて、かえって
給費制にすべきではなかったのですか。総額を増して一見
改善に見せつつ、一方では
有利子制を
導入するというのは、失礼ながら羊頭狗肉、朝三暮四の策と言われてもやむを得ないのではないでしょうか。いかがでございますか。
国家を親とすれば、
学生は子供に相当するものであり、親はその子を育てる義務があります。親が子供に
利子をつけて金を貸すというようにさえ感ぜられます。このような形でなされた行為に対して、子供が親に感謝、報恩の気持ちを抱き、国を愛するという感情がわくものでしょうか。なるほど
利率は安い。だが、安ければなおさらこれをさっぱりと切るべきではありませんか。国の
財政を預かる
政府としては、
制度の永続性を考慮してのやむを得ざる処置であると言われるのですか。しかし、国の将来を思えばこそ、たとえ現在いかに苦しくとも一律マイナスシーリングを排して、育英会の本来の使命達成に必要な
資金に充てるべきではありませんか。この際、
総理並びに
文部大臣の再考を強く求めてやまないものであります。
有利子制導入の理由としては、国の
財政窮迫のほかに、各
家庭の経済的好転を
考えておられるのではないでしょうか。確かに現在多くの
家庭においては、塾や予備校志向が一般であります。これらは一見
家庭の豊かさのあらわれと見えますが、現実は各
家庭ぎりぎりの収入の中から支払われている
教育費であり、そうしなければ将来人並みに生きていけない彼らの子弟に対する唯一の親の遺産としての必死の思いの
教育費であります。一人っ子
家庭の増加はこれを端的に物語っており、人口構成にまでひずみを与えています。この事実は
日本の将来にとってまことに憂慮すべきことであり、迂遠に見えて重大な問題かと思いますが、
総理はこれをどのようにお
考えでございますか。
次に、医学部基礎教官の不足について伺います。
医学部の臨床研修生には
国家公務員の身分が与えられ、医学部大学院生への
貸与額の二倍に近い無償の給与が支給されております。その結果、基礎医学を学ぶ者は少なくなり、後継者の獲得が極めて困難となり、辛うじて医学部以外の他学部の出身者によって補充されているというありさまであります。医学の本質を
考えて早急に何らかの対策を講ずべきであると
考えますが、
文部大臣の御所見を承りたい。
さらに問題なのは、理学部等の基礎科学の研究者についてであります。
貸与を受けて大学院を卒業しても、就職できない者が多く、全国で既に五千名のオーバードクターがいると言われています。彼らにとって
貸与金の返済はその肩に重くかかり、その上、そのころは父の定年退職、
自分自身の結婚期と重なり、やむを得ず本務の研究室を去り、不本意なアルバイトを強いられております。このことは
国家にとって大きい損失であります。「仏つくって魂入れず」にならぬために、彼らに対しては返済の時期の延期を図るというような処置を講ずるべきではないでしょうか。そうすることが育英会本来の
目的達成に沿うものであると
考えますが、
文部大臣はいかがお
考えですか。
最後に、
学生アルバイトについて私見を申し上げ、所感をお伺いしたい。
学生の生活費のうち、最近は
修学費は減少し、住居費、レジャー貧が増大する傾向にあることは識者の指摘するところであります。しかもアルバイトは逐次増加の傾向にあり、アルバイトに要する労働時間は勉学の時間を上回るとも言われます。
学生として本末転倒であり、
貸与金の
有利子化もその辺を勘案されてのことだとも聞いております。しかし、私は、アルバイトについて別の視点を指摘して再考を求めるものであります。
現在の
日本の
教育状況を見ますと、中学、高校においてほとんど進路が確定されていると言っても過言ではないと思います。
家庭の
経済状況が彼らの
成績に大きく影響することも否むことはできますまい。高校において
教育環境に恵まれなかった子弟は、偏差値は悪く、たとえ大学に入学しても
育英資金の受給の
機会を失う公算は大であります。彼らはいわば素質以外の理由による育英会落ちこぼれ組に入ることになりましょう。アルバイトに走らざるを得ない動機は実はここにありまして、アルバイト増大イコール怠慢、イコール大学レジャーセンター化との思考は余りにも短絡的であると思います。
また、実力よりも学歴が物を言う
日本の学歴
社会であってみれば、大学でのマス
教育、一方的
教育伝達の場におるよりも、実
社会における生き生きとした実地研修に加えて報酬が受けられ、旧制高校におけるがごとく
学生生活をエンジョイできるとしたら、アルバイトをとがめることができますか。利にさとくならざるを得ない現在の
社会においては、育英会の魅力はますます薄れ、彼らがアルバイトに走ることはむしろ賢明なやむを得ない選択と言えないでしょうか。しかも、彼らなりに
社会の一員として将来必要な任務を果たすことは明らかであります。
一方、これとは対蹠的に、卒後引き続き官途についた者に対しては
返還が免除されると聞いております。
臨調の意見をとらず、
調査研究会に従った勇気には敬思を表しますが、公務員のみが
国家に有為な
人材と受け取られかねないうらみを残します。
人間において、体を制御する頭脳は確かに有為です。しかし、腎臓も生命に不可欠な器官であり、肝臓がなくては生存ができないことは御存じのとおりでありまして、ともに肝腎な器官であります。
もしも、彼らがアルバイトをし、レジャーを楽しむがゆえに生活に余裕ありとし、
有利子制導入の根拠になったのであれば、それは彼らの
立場の無理解によるものであり、余りにも単純な弱者切り捨ての
論理であり、私は反対の
立場をとらざるを得ません。
以上述べました理由から、私は
有利子制導入に反対するものであり、むしろ
奨学金本来の原則である
給費制の
導入を図るべきだと主張するものであります。
総理並びに
文部大臣の御所感を伺って私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣中曽根康弘君
登壇、
拍手〕