○菅野久光君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま議題となりました
湖沼水質保全特別措置法案について、
内閣総理大臣並びに
関係大臣に対し、その
所見をお伺いいたします。
我が国は、亜寒帯から亜熱帯にまたがる大小さまざまな島々からなり、屈曲に富んだ海岸線、起伏に富んだ地形、そして
日本特有の四季の変化によって美しい景観を生み、恵まれた自然
環境の中で多種多様な動植物相を育ててきたことは申すまでもありません。
しかるに、この美しい自然
環境が破壊され、汚染されて公害列島と化し、まさに危機的
状況にあります。
特に湖沼は、その自然的条件からして閉鎖的であることに加え、工場廃液、残留農薬、生活雑排水、酸性雨など汚染された水が今現在も絶え間なく流入し、その汚染度を増しているのであります。また、全国湖沼の過半数は
環境基準すら
達成しておらず、さらに、百四十を超える湖沼が富栄養化問題を抱え、水産被害、飲料水の異臭、自然景観の破壊などに見舞われている
状況にあります。全国的に見れば比較的自然
環境が保たれている北海道においてさえも、阿寒湖、網走湖などでは依然
環境基準は
達成されておらず、アオコの発生が見られるのであります。
我が国湖沼の現況を一言で言うならば、国富みて山河死すと言っても過言ではありますまい。
かかる湖沼の危機的
状況を招いた最大の原因は、長年にわたる無計画な
経済成長政策と、利潤追求にのみ目がくらみ、予測された
環境汚染に対する対策を怠った歴代自民党政権の誤った施策の結果であると言わなければなりません。
環境破壊は、
人類の生存に重大な
影響を与えることは申すまでもありません。このような
事態に対処するためには、国を挙げて一大決意をもって臨まなければ、湖沼を含め
日本の自然
環境の悪化を防ぎ、美しい自然をよみがえらせることは不可能であります。
そこで
総理、第一に、現在
我が国における
環境汚染についての
総理の認識についてお伺いをいたします。
今や
我が国における
環境汚染は相当深刻な
状況にあり、生態系が破壊されつつあって憂慮すべき
事態であると思います。淡路島のモンキーセンターにおいて、えづけされた猿から生まれた奇形猿の問題を御存じだと思いますが、同じ食べ物を食べている人間に
影響がないとは言えないと思うのであります。
環境汚染の問題は、まさに民族の、
人類の生存にかかわる問題であると思いますが、
総理はどのように認識され、どのように
対応されようとしているか、お伺いいたします。
第二に、
環境保全に関する
総理の基本姿勢についてお尋ねしますが、あなたは花と緑で人の印とか、緑豊かな自然
環境とか、スローガンめいたことを言われますが、ここで
総理の自然観についてお述べいただきたい。
あなたは、道路の中央分離帯に植えられた花や、ビルの屋上の植え込みを自然の中に入れてお
考えでしょうか。庭園に植えられた松は自然でしょうか。自然とはそういうものではないと思うのであります。自然が豊かとは、そこに生存している生物の種類がいかに多いかということだと思います。生物を分解する腐敗菌、分解された生物を肥料や餌として成長する昆虫や植物、それを食物とする動物など、すべてを含めて自然があるのです。そういう生態系を無視して一部だけを切り取った花と緑では、むしろ自然破壊と同義語と言えると思うのですが、いかがでしょうか。
第三に、花と緑で人の和をとおっしゃいますが、人の和が
環境保全にどのようにかかわり合うのか、御
説明いただきたい。
人の和が大切なことは言うまでもありませんが、和ということで少数者を否定したり切り捨てた上での和であってはなりません。
経済開発に反対する、自然を愛し守ろうとする人々を排除するための和ではないのか、お聞きしておきます。
第四に、いわゆる
環境アセス法案の再提出についてであります。
総理は、四月十九日の衆議院本
会議において、各方面と調整中であると答弁されております。しかし、今国会召集以来六カ月を超えているというのにいまだに結論が出ていないとするならば、いかように弁解されようとも、怠慢そのものであるか、あるいは故意に結論を引き延ばしているかのいずれかでありましょう。ここで、今国会で法案を成立させる意思があるのかどうか、お伺いいたします。
次に、
環境庁長官にお尋ねいたします。
湖沼の
環境問題については、
昭和五十六年一月、中央公害対策審議会から
環境庁長官に、「湖沼
環境保全のための制度のあり方について」という答申が提出されたのは御存じのとおりであります。また、
昭和五十七年には参議院公害及び交通安全対策特別委員会において、湖沼
環境保全対策の
促進に関する決議が自民党を含む全党一致で行われ、その中において、「中公審の答申の趣旨に沿って湖沼
環境保全のための法制度を確立」すべきことの意思表明がなされ、
政府はこれに対して十分に
努力することを約束した経過があります。しかるに、今回提出された法案と中公審の答申を比較すると、各所に
対応の後退が見られるのであります。時間の
関係上、幾つかの点に絞って長官の
所見をお伺いいたしたいと思います。
第一に、本法案は、その名の示すように湖沼の水質保全に限定し、湖沼周辺の
環境保全についてはこれを削除した点であります。その理由として、
環境庁は、湖辺の
環境保全を図るためには、自然
環境保全法とか自然公園法など現行諸制度を活用すれば足りるとしているようでありますが、だとすれば、現在までにこれらの現行法を大いに活用し、湖辺の
環境は保全されているはずであります。しかし、
現実は違います。湖辺の
環境は日々悪化してきているからこそ、湖沼の
環境保全が問題になってきているのではありませんか。本法案のように水質保全に限った
対応は、現状認識を欠いたものであり、本質的な
対応策にはならないと
考えますが、長官の御見解をお伺いいたします。
第二に、中公審答申では新増設の工場等については許可制とするという答申に反して、本法案では届け出制になっていることは明らかに後退であると
考えますが、長官の見解をお伺いいたします。
聞くところによりますと、その理由として、湖沼の集水域においては工場、
事業場の汚濁負荷の割合が低いとか、中小規模の
事業者が多いとかの理由から届け出制にしたのだと
説明しているようでありますが、全く理由になっておりません。許可制より届け出制の方が湖沼の水質、
環境保全上、より効果的だという明確な根拠を示していただきたいと思います。
さらに、この法案では、既に活動している工場、
事業場については規制の対象にしていないが、現在の湖沼の汚れの一端は現在動いている工場、
事業場等が原因をなしていることは明白であります。それらを対象としないで、これから新増設するものだけを対象として湖沼のよみがえりを図ることが本当にできると
考えるのかどうか、お伺いいたします。
また、本法案では、全国で数百を超える湖沼の中から汚れの著しい湖沼に限定して、これを指定湖沼とし、規制の対象にしようとしておりますが、何カ所ぐらいと予定しておりますのか。指定外の湖沼についてはどのように
対応していくつもりであるのか。現に
環境基準に達していない湖沼で指定の対象とならないものについては、どのような方法で汚濁を食いとめる
考えでいるのか、お伺いいたします。申すまでもなく、湖沼は一度汚濁が進行すると、もとに戻すのは容易なことではありません。汚れが著しくなる前に手を打つことこそ緊要であると
考えるのであります。
第三に、湖沼の富栄養化対策として、その要因物質である窒素及び燐について
昭和五十七年十二月に
環境基準が設けられていますが、排水基準については現在中公審に諮問中で、一年半も放置されたままになっています。当初一年
程度で結論を出すと言われていたのが、なぜおくれているのか。また、その結論はいつごろ得られ、具体的に排水規制が実施されるのはいつになるのか、
見通しをお伺いいたします。
第四に、本法案に基づく各種の施策の実施に当たっては多額の費用が必要であり、全国湖沼
環境保全対策
推進協議会においても、「既に補助の対象となっている
事業について、
事業費の大幅確保、国庫補助率および補助単価の引上げならびに補助対象わくの拡大を行うこと」などを盛り込んだ決議がなされております。また、中公審の答申でも、「国は地方公共団体に対し、財政上できる限りの援助
措置を講ずべきであり、」としておりますが、本法案は、これらを一切無視して財政援助にかかわる規定は置かず、「助言その他の
措置」という条文しか起こさなかったのであります。このようなことで本法の
目的を
達成できると
考えておられるのか、
所見をお伺いいたします。
特に、地方公共団体に対する財政援助なしという点はまことに重大な問題であります。例えば、琵琶湖を抱える滋賀県が国に対してかねてより次の施策を切望してきたことは御承知のとおりであります。すなわち、湖沼の
環境保全対策に要する費用について、地方公共団体に対する補助制度を創設拡充するとともに、国、上・下流を含めた新たな費用負担制度を創設してほしいというのであります。また、湖沼の汚染ワースト一位の手賀沼、二位の印旛沼はいずれも千葉県でありますが、千葉大学が県に
協力し、この七月から二つの沼について総合的な調査研究を始めようとしております。この千葉大学のプロジェクトは、全学部を横断する約六十人の研究者が参加するという大がかりなものですが、これまた国の財政援助の裏づけがありません。
以上、滋賀県と千葉県を例にとりましたが、
政府としてどのように
対応する方針でありましょうか、また、その際この湖沼法はどんな役に立つのでしょうか、お伺いいたします。
では、
環境庁長官に対する最後の
質問として、科学的見地から答弁をいただきたい。
すなわち、現在湖沼の危機が叫ばれておりますが、この法案が成立し、規制が実施されることにより、その効果をどの
程度考えておられるのか。よもや、法の効果のことよりも、周囲の顔色をうかがってできた法案だから効果のほどは予測できませんなどとはおっしゃらないと思いますが、長官の明確な答弁をお願いいたします。
次に、建設大臣にお尋ねいたします。
第一に、湖沼は、申すまでもなく河川法の適用を受けることになっておりますが、いわゆる一般河川と異なり、湖沼は水の滞留時間が長く、一般の流水部分としての河川とはおのずとその性質が異なっております。にもかかわらず、さらさら流れる河川も、水をたたえて動かない湖沼も、同一法規で「流水の正常な機能の維持」という
目的から管理しようとしているところに無理があるのではないかと
考えます。すなわち、河川法のみでは、いわゆる湖沼の水質並びに
環境保全という
観点からは極めて不十分であり、むしろ湖沼を河川法の対象から外して湖沼管理に関する特別法をつくるなり、あるいは河川法の
目的規定等を改正して、湖沼の自然
環境を保全できるような
措置をとるべきではないかと
考えますが、建設大臣の御
所見をお伺いいたします。
第二に、湖沼が閉鎖性を有することから、長年にわたる土砂、廃棄物の流入によりヘドロの堆積が著しいと
考えられますが、全国湖沼のしゅんせつ計画はどのようになっているか、お伺いいたします。
次に、厚生大臣にお尋ねいたします。
アメリカ政府の専門機関がまとめたレポート、「西暦二〇〇〇年の地球」の「水資源予測と
環境」の中で、「水にかかわる病気が今世紀の残存期間中に大流行することは、ほぼ確実になってきている。」と述べられています。今世紀の残存期間といえば、残りはわずか十六年しかありません。私たちの日常生活に欠かせない水が、汚染されている河川や湖沼を水源地として飲み水など生活用水や食品工業などに使われていることを
考えたとき、慄然としつつ、残念ながらあり得べきことと思わざるを得ないのであります。水問題は直接健康問題であり、民族の将来にかかわる最も重要な問題であります。厚生省として今日の水問題をどのようにとらえ、どのように
考えておられるか、大臣の御
所見をお伺いいたします。
最後に、このように多岐にわたる水問題を、現在のような各省庁ごとの
対応では抜本的、根本的な
解決は到底でき得ないと思うのであります。今回提案されている法案も、
関係各省庁の調整が難航したと仄聞しております。そのことが、結果的に中公審の答申からははるかに後退した内容になってしまったものと思います。大事な水の問題です。
総理、水
関係の部門を統合した機構を一日も早くつくり、きれいな水、きれいな
環境をよみがえらせて
国民の不安を取り除くことが肝要と
考えますが、いかがでしょうか。
総理の御
所見をお伺いして
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣中曽根康弘君
登壇、
拍手〕