○飯田忠雄君 本日は二つの問題を論題にいたしたいと思いますが、まず第一は、罰則を命令に委任することについての
憲法上の限界の問題でございます。それが第一の論題でございます。それから第二の論題は、先ほど同僚議員からも
お話がございましたロッキード疑獄事件における第一審判決の中にあらわれました法律上の疑問点の問題でございます。
この二つについて
お尋ねをするわけですが、その前に私の
立場を少し
お話をしておきませんと混乱いたしますので
お話をいたしますが、私は公明党・国民会議に属しておりますが、本日
質問をいたします
立場は国民会議の所属員としての
立場で
質問をするわけでございます。つまり学者グループの議員としての
質問だという点で御承知を願いたいのでございまして、このようなことを申し上げますのは、なぜこういうことを申し上げるかといいますと、「諸君!」という雑誌に
山本七平という方が論文を書いておられますが、その中で権力の源泉の問題を提起しておりまして、権力の源泉には個人的資質と財力と組織と三つのものがあるんだ、そしてその権力を行使する手段として威嚇と報償と条件づけがある、このように述べておられます。そして従来第三者からの
立場から見ますというと、権力といえば威嚇権力と報償権力とこの二つだったんだが、もう一つ条件づけ権力というものを新しく
考えなければならぬ、このように言うておるわけです。これは仮名がつけてありますが、コンディションド・パワーと、こう仮名がつけてあります。恐らくそういう英語の翻訳で条件づけ権力と言うたのだと思いますが、そういうことを述べております。この条件づけ権力というものの私は恐しさを痛切に感ずるわけでございます。
私ごとの例を挙げて申しわけないんですが、私は今から七年前に初めて
国会議員になりまして、
法務委員会に所属しまして
法務委員会の会議録を丹念に読ましていただきました。そしてその中で灰色高官という
言葉を使って、灰色高官に対するいろいろな御処置の問題が書かれておりました。学者として今まで
刑事訴訟法と刑法ばかり大学で講義をし、大学院で学生指導をしてきた目から見ますと余りにも異様な状態であったわけです。一体こんなことでいいのかと思いました。これは人権侵害も甚だしいではないかということを
考えまして、実は今から
考えますと大変大人げない話でございますが、人権保障の問題として二時間にわたって
質問を行いました。
当時の私の感覚からいきますと十時間にわたってやってもまだ足らないと思ったのですが、結局二時間やりましたところが、その明くる日の新聞、これは名前を出しても事実ですからいいと思いますが、朝日新聞の第二面に大きなスペースをとりまして名指しで非難の記事が載りました。そしてその非難の記事を受けていろいろの雑誌あるいは政党の機関紙で私に対する個人的攻撃、それからひいては公明党に対する攻撃がなされたわけでございます。そのために公明党はびっくりしまして、私にもう
質問するのはやめろ、これから
質問する場合は必ず国対の許可を受けてやれと、こういうおしかりをこうむったわけであります。それ以来、議員としての
国会における私の
発言は極めて制限されることになったのです。
憲法の五十一条をごらんになりますと、これはどなたでもおわかりになると思いますが、「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で
責任を問はれない。」と書いてありますが、ところが実際は院外で
責任を問われました。私が自宅へ帰りますと国鉄の労働組合の幹部の方がわんさと押しかけてきて、何事を君はやるのだというおしかりでございます。私は私の議事録を出して読みました。それを読みましたところが、そういうことならそう文句を言いに来るんではなかったと、こういうわけですね。しかし組織の上からとにかくあそこへ行ってゆすってこいという命令を受けたので来ましたもので、まあ御了承くださいと言うてお帰りになった。これが実情なんですよ。こういうような実情で一体議員の院外における無答責というものが存在し得るかということでございます。
今回、きょう実はなぜこのことを申しますかといいますと、今から私が行います
質問は政府の御意向に反する
質問であります。したがいまして、この条件づけパワーによって弾圧を受けるおそれが多分にある、こう
考えまして、あらかじめ予防線を張ってそういうことのないようにお願いをしておく次第であります。
まず、そういう問題をお願いをいたしまして問題点に入りますが、第一の問題の罰則を命令に委任する
憲法上の限界の問題でございます。
私は実は先般の湖沼法の立法のときの審議におきまして、この湖沼法の草案の中に
憲法に違反する部分があるということを感じまして、その部分の訂正を要求しました。しかしこれは通りませんでしたが、したがいまして修正案を提出しました。これも一蹴されてしまいました。この修正案が一蹴すべき
内容であるかどうかを皆さん方にちょっと御披露いたしたいのです。
湖沼水質保全特別措置法案に対する修正案
湖沼水質保全特別措置法案の一部を次のように修正する。
第三十条中「及び経過措置に関する罰則」を削り、同条に次の一項を加える。
二項を設けまして、これはこのように変えてくれという要求なんですが、
2 前項の規定に基づく命令には、その命令に違反した者を十万円以下の罰金又は科料に処する旨の規定及び法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者がその法人又は人の業務に関してその命令の違反
行為をしたときはその
行為者を罰するほかその法人又は人に対して各本条の罰金又は科料を科する旨の規定並びにその命令に違反した者を十万円以下の過料に処する旨の規定を設けることができる。こういう条文に直したらどうだということを提案したんです。
原文は括弧して括弧の中に「経過措置に関する罰則」と書いてあるだけなんです。それを命令に委任できると書いてある。こういう書き方ですと明らかに包括委任であります。
最高裁の過去における判例を見ますと、包括委任は許されないということに読み取れる議論がございます。これはもう皆さん御承知だと思いますが、条例に罰則をつけることは
憲法に違反するのではないかという訴えがございました。それに対して最高裁の御判断は、包括的な
一般的な抽象的な委任であればもちろんこれは
憲法三十一条に違反するおそれがある、しかし問題になっている条例、これは大阪府条例ですが、条例の罰則は、地方自治法の十四条に条例に規定し得る
内容を箇条書きに掲げておる、その次に条例に付し得る罰則の範囲を明確に決めておる、こういうわけでございます。
正確な
言葉で申しますと、この点は一致した意見は「ただ法律の授権が不特定な
一般的の白紙委任的なものであってならないことは、いうまでもない。」、こういう全員の意見を書きまして、それを補足された奥野
裁判官の補足意見がございます。補足意見というのは
内容をもっと細かく言うただけのものですが、それでいきますと、どう言うているかといいますと「条例を以って規定することができる事項は地方自治法によって限定されており、また同条は罰則の限度を二年以下の懲役若しくは禁錮、十万円以下の罰金、拘留、科料又は没収の刑に限定しておるのであるから、」
憲法違反ではないと、こう言うているんですよ。それならば私もわかるのです、最高裁のおっしゃることは。
もちろん最高裁の判例は、学者としての意見から言うならば極めて非常に緩やかな御態度での判断である、できるだけ行政の実態を救済しようという配慮からされたものであるということはそう思います。もっと厳格に言うならまだまだ厳格に言うべきものだと思いますが、まあそれでいいといたしましょう。
ところが、この湖沼法の審議の際にそのことを私申しました。
一般的な抽象的な方法で委任するならばそれは
憲法に違反する、
憲法に違反するような立法を立法府が行っていいかどうか、これは立法府の見識の問題である、行政官がおつくりになったからという問題ではない、政府提案だから政府の
責任だとは言い得ない、つくるのはこれからの
国会議員がつくるのですからその
責任であるということをくどく申しましたが、結局通らなかったわけであります。この問題は重大な問題だと思うんです。私は社会党は非常に偉いと思いましたのは、社会党がおつくりになった対案があったんですが、その対案も同じく私が
指摘した
憲法違反というものがあったんです。対案を引っ込められましたんですよ。わざわざ引っ込めて修正案をお出しになった。私は立派な態度だと思いますが、その後、社会党の修正案も否決されたのでやむを得ませんが、これは要らぬことですが、そういう状態です。
そこで、私は実はこの問題について明らかにしなければ基本的人権の保障上重大な問題であると
考えたわけでございます。いろいろ法律を、六法全書をわたりまして罰則の命令への委任についての規定の仕方はどういうものがあるかということを調べてみました。そうしますと四つに分類できるんです。
まず第一の方法は、例えば漁業法の六十五条、あるいは地方自治法の十四条に見られますように、命令に規定すべき
内容を箇条書きに書いて、この範囲内でなけれぱいけないよということを明らかにいたしまして、その上付し得る刑罰の範囲を明確に決めておるわけです。こういうのが第一の類型でございます。これでいけば
憲法違反になるおそれはまずないと私は思いますが、そういう類型がございます。
それから第二の類型は、大気汚染防止法の三十条の二、それから消費生活用製品安全法の九十四条の類型でございます。これはどういうのかといいますと、所要の経過措置を命令に委任するという条文ですが、その「所要の経過措置」という下に括弧をしまして、そして罰則の経過措置を含むと書いてあるんです。罰則の経過措置ですね。これはいいと思うんですよ。罰則は既に法律に掲げてありますから、それの経過措置ですから一向に差し支えないと思いますが、そういう形で決めたのが第二の類型であります。
それから第三の類型は、公害健康被害補償法附則十八条に決められておるものですが、これはどういうのかといいますと、こういうふうに書いてあるんですね。「この法律の施行前にした
行為及びこの法律の附則においてなお従前の例によることとされる場合におけるこの法律の施行後にした
行為に対する罰則の適用については、なお従前の例による。」こういうのです。つまり法律を出した、法律の施行後に行ったところの
行為に対する罰則を適用しなければならぬ場合は従前の例による、つまり経過措置ですから、急に重い刑罰を科したのじゃ悪いので、経過措置の場合にはもう前の例によって軽い方の例で罰してもいい、こういうようなことになるわけですが、こういう類型があるわけです。
それから第四の類型はどういうのかといいますと、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律というのがございまして、それの五十四条でございます。これは所要の経過措置を命令に委任するという規定の「所要の経過措置」という下に括弧をしまして、そして罰則の経過措置及び経過措置の罰則を含むと、こう書いてあるんです。経過措置の罰則を含むとこういうふうに書いてあります。これは海洋汚染防止法の規定の仕方ですが、この例でいきますと明らかに私は一括委任であると思うわけですね。そして、そういう恐らく
憲法違反のおそれのある決め方をしたのは海洋汚染防止法だと
考えるわけですが、その前例に倣って湖沼法はつくられたわけです。ほかにもっと
憲法に合致する方法が幾らでもあるのに、そういう前例があるのに殊さらにそれに目をつぶって、湖沼法では
憲法違反のおそれがあるような方式でつくられた、これもだれも
指摘してないのならともかく、私が口やかましく
指摘したのですよ。なお討論のときにも、賛成討論においてこういう問題を大分述べた後に湖沼法に賛成する賛成討論をしたんです。そういうようなことがございました。
そこで
お尋ねをするわけなんですが、こういう罰則の経過措置というのならいいけれ
ども、経過措置の罰則を命令に委任する、そういう書き方をした場合にこれはどういう
内容についてどういう刑罰を付するということが全然明示されておりません。私の方で提案しました修正案なら明示されておるわけです。これはちょっと誤解があるといけませんので申しますが、私もと言いましたが、実はこの修正案を書いてくださったのは参議院の
法制局であります。だから私が書いたのではありませんので、この点は明確にしておきます。
この参議院修正案の案は第五番目の類型に属するものです。明確に箇条書きに条項は書かないけれ
ども、ひっくるんで命令に違反する
行為はという
行為にして、そのかわり刑罰は明確にあらわす、こういう第五番目の類型もあるわけですが、これならば私は
憲法に違反しないと思うんです。参議院の
法制局の大変な御努力を私は感謝するわけですが、これが法文に入れられなかったという点を残念に思うわけであります。これは余分のことでございますが。
こういう
憲法三十一条に違反するようなおそれのある条文、こういう条文に出会われて
検察官は命令が決めた罰則を根拠にして起訴されるのかどうか、こういう問題があるんです。そのことを
お尋ねしようとするわけですが、その前に、実は運輸省の方に来ていただいておると思いますので
お尋ねをいたしますが、海洋汚染防止法の五十四条が成立しましたその間の事情についてまず
お尋ねをいたします。