○
参考人(
伊東すみ子君) 私は一弁護士でございまして、
国籍法のことを特別勉強したわけではございませんけれ
ども、
日本弁護士連合会の
委員会で
国籍法改正の
検討に参加してまいりましたということ、それから御承知かどうか存じませんけれ
ども、
現行国籍法の第二条が
憲法違反であるという訴訟が二件起こりまして、一件は今最高裁に係属中、一件は一審の段階で、つまり二家族ございまして延べ三件ですが、その第一次の訴訟は二つとも上告審に行っておりまして、第二次のは
一つ今東京地裁に係属中でございます。そういう訴訟の代理人をしてまいりました。その
関係で、特に
現行国籍法の
父系優先主義の矛盾というものを被告、国との論戦を通じまして非常に痛感しておったわけでございます。
日本弁護士連合会では昭和五十五年から五十六年にかけまして
沖縄弁護士会と共同して
沖縄の無
国籍児の問題の調査をいたしましたわけです。そこで無
国籍児の問題に関して
人権保障の観点からかつ
男女平等の観点から討議をしまして、まず最初に「
国籍法改正に関する
意見書」というのを発表いたしましたが、それが昭和五十七年三月でございました。その後
国籍法改正の方針が
決定されまして
改正事業が行われるようになったわけでございますので、
日本弁護士連合会としては
改正が必要だという声をいち早く上げたということを自負しております。
その
意見書、実は日弁連の
意見書は全部で四通ございまして、きょう急ぎお配りしたかと思いますが、その最初の
意見書はそのときの日弁連側の所信と申しますか、
国籍法のこういうことがおかしいではないかという最初の声として基本的な点を含めていると思いますので、
意見の内容をちょっと概略だけ指摘させていただきますと、
一、
現行国籍法は国際結婚によって生まれた子の
国籍取得について、
父系優先血統主義を採用しているがこれを改め、
父母両系平等主義を採用し、
外国人父と
日本人母から
出生した子が
日本国籍を取得できるように
改正すべきである。
二、右
改正にあたっては、性の
差別を禁止した
日本国憲法施行の日から
改正法施行の日まで、
外国人父と
日本人母との間に
出生した子について、
一定期間を限って
父母が共同して又は共同することができない事由があるときはその一方若くは子からの申請により子が
日本国籍を取得することができるよう経過措置をおくべきである。
三、重
国籍及びこれに伴う問題の解決は、終局的には国際協力によるほかはないので、わが国は国際的にこれが解決に努力すべきである。
当面の
対策としては、
国籍離脱自由の
原則を尊重し、これが適正な運用によるほかはない。
四、
現行国籍法は、
日本国民の夫と
日本国民の妻との間に
簡易帰化のための居住要件並びに
独立生計要件について
差別をもうけているが、これを
撤廃して平等にすべきである。
五、
帰化の取り消し
制度は採用すべきではない。
六、国は、「
婦人に対するあらゆる形態の
差別撤廃に関する
条約」を早期に批准すべきである。ということでございました。
理由は省略いたしますけれ
ども、その後
立法作業が進みまして中間試案が発表されましたときに、それに対しまして「「
国籍法改正に関する中間試案」についての
意見書」というものを発表いたしました。さらに第三番目に、その中間試案公表後にさらに
法制審議会の
国籍法部会で新しい論点が論じられたということを伺いまして、五十九年一月に「
国籍法改正に関する
意見書 中間試案公表後の
審議に現われた若干の事項について」という
意見を発表いたしました。しかし、今回の法案のもとになりました
国籍法の一部を
改正する
法律案要綱案というものを拝見しまして、また新しい論点がありますので、それにつきまして五十九年二月付で「
国籍法の一部を
改正する
法律案要綱案に対する
意見書」というものを出しまして、この中に従来の
意見を総まとめしてまとめましたわけでございます。
私
どもといたしましては、
改正案の準備が進みますに応じまして、先ほど読ませていただきました五十七年三月に上げました声、私
どもの
意見、それがどのように実現されていくだろうか、あるいはその過程で何か
問題点はないだろうかと、そういう態度でこの
改正の準備を見守ってきたわけでございます。多少具体的に、今お二人の
参考人は学術的に論じられましたけれ
ども、具体的な
意見というものを私
どもは取りまとめておりますので、この五十九年二月の
意見書に従いまして、私
どものこの法案についての
考え方を少し述べさせていただきたいと思います。
最初に、
出生による
国籍の取得でございますが、これは先ほど申しましたように、私
どもの所信の非常に中核をなす部分でございましたので、もちろん賛成をいたします。
その根拠としては、まず第一に国際結婚から生まれた
子供の
人権保障ということでございます。これは
現行法では
外国人父、
日本国民母から生まれました嫡出子は
日本国籍を取得することができない。それだけにとどまらず、父の国の
国籍法との
関係では無
国籍になることがあるわけでございます。現に私が担当いたしております事件では、つまり二家族あると申しましたが、いずれも父親がアメリカ人、母親が
日本人でございますが、そのうちの
一つは、父親の方がアメリカの
国籍法の
条件を満たしませんために自分の持っているアメリカ
国籍を
子供に伝えることができないわけでございまして、その結果
子供は無
国籍でございます。
沖縄の無
国籍児というのもほとんどアメリカ人父でございまして、そういう同じ事情の無
国籍児というのも相当いるというふうに伺っております。
父系優先主義といいますのは相手の国が
父系優先主義を同じようにとっております場合はうまくいきますけれ
ども、相手の国が
生地主義をとっております場合に、そうしますと国外で生まれた
子供というのはどうしても
国籍を伝えるのについて
条件が厳しくなりますので、その
関係で無
国籍を生ずることがあるわけでございまして、これはそういう
状況で生まれる
子供の罪ではございませんが、その
子供の
人権保障上非常に重大な問題を生ずるわけでございます。
世界人権宣言は「すべての人は
国籍を有する
権利を有する」という
規定がありますし、
国際人権規約B規約は「すべての児童は、
国籍を取得する
権利を有する」と二十四条三項で定めております。いわゆる
内外人平等主義が進みますと、内国人も
外国人も同じように
人権が、
保障されますけれ
ども、
現実はなかなかそういっておりませんので、やはりどこかの国に所属してその国の
国籍を持っておりませんと、無
国籍者でありますと
人権保障が危ぶまれるというのが
国際社会の現状でございますから、そういう
子供の
人権のために無
国籍状態をなくすということが大事でございます。そういう意味では今までは重
国籍防止が重視されてきたわけでございますけれ
ども、重
国籍の弊害と無
国籍の弊害とどちらが重大かというふうに
考えてみますと、私
どもは無
国籍の弊害の方が重大であると思うわけでございます。
また、
父系優先主義は言うまでもなく
男女平等、
両性平等の
原則に反しております。先ほど
池原先生からもお話がありますように、最近諸
外国でも次々に
父系優先主義から
父母両
系主義への
法改正が行われました。
我が国は
婦人差別撤廃条約に既に署名しておりますけれ
ども、その九条二項では「締約国は、
婦人に対し、子の
国籍に関して男子と同等の
権利を与える。」と
規定をしておりますので、この点からもどうしても
国籍法の
改正が必要だったわけでございます。
次に、準正による
国籍の取得でございますが、これは嫡出子そのものではございませんけれ
ども、認知と、それから
父母の結婚によって嫡出子の身分を取得するのが準正子でございますから、なるべく嫡出子と同じように扱うべきであると
考えます。今回準正による
国籍の取得が認められたことは、そういう意味で大変結構であると
考えます。
次に、
帰化の中で、
生計条件につきまして、生計を一にする
配偶者その他の親族の資産または技能により生計を営むことができる
外国人についても
帰化が許可されることになりまして、これは
帰化一般に適用になると思われますので、大変これは
外国人から見ますと
帰化しやすくなったわけでございまして、こういう親族で相互扶助の
関係にある
人たちが
帰化しようとするときには大変喜ばれると申しますか、適切な
規定であると思われます。
重
国籍防止条件の特例としまして、今までは従来の
国籍を離脱してこなければ
帰化は認められなかったわけでございますが、これを非常に厳格にやりますと、いろいろほかの
外国の
国籍法との
関係で矛盾を生じまして、
帰化したいと思う人にとっては気の毒な事態が多かったわけでございます。例えばアメリカでは未成年者については
国籍離脱を認めないので、そういう人はどうするかという問題がありますし、また中華民国などのように自
国籍の喪失、放棄を
政府の許可にかからせるところがございまして、
政府が何かの理由で許可してくれないと離脱できない、そういうことでございまして、従来も法務省の
帰化実務ではこの
規定は人道的
配慮の余地を残して緩やかに適用すべきだということが
考えられていた、そういう運用であったというふうに伺っておりますし、学説もそういうことをおっしゃっておりますので、こういう
改正は結構であると思います。
次に、
日本国民の
配偶者の
帰化条件でございますが、これは先ほどから指摘されておりますように
男女不平等な
規定の中の重要な点でありました。それが
両性同等に
規定されましたことは大変結構であると思います。
もう
一つ申しますと、居住要件が三年以上ということになっております。これは私
どもの中でも
意見が分かれまして、
現行法は妻についてはゼロでございまして、
日本国民の夫については三年以上となっております。これをどの線で統一するかということでございますが、二年で十分だという
意見も強かったのでございますけれ
ども、特にそれだけの具体的な裏づけというものが困難であるということであえて触れてないのでございますけれ
ども、これから後もございますけれ
ども、今回の
改正作業を拝見していての
一つの感想といたしましては、どうもこういう
改正をするにはいろいろな調査あるいは統計でも結構ですけれ
ども、事実というものが出てまいりませんとどういう
改正をしていいのか迷うのでございますけれ
ども、そういう点で不満を感じた点がございますけれ
ども、この問題につきましてももっと
日本にいる
外国人の
状況、仮装結婚ということを法務省は心配されるわけでございますが、どういう
実情にあるのか、もう少しそういう事実を披瀝していただきたいという感じを持っておりました。
一つ一つやっていきますと時間がなくなりますので、詳しいことはそれではお読みいただくことにいたしまして、大体賛成のところが多うございますが、どうしてもこれは問題だと思われますところを申し上げます。
まず特に重要だと思う点について申し上げますと、
国籍の再取得のところがございますけれ
ども、この中で
国籍の再取得の1ですが、「五により
日本の
国籍を失った者で二十歳未満のものは、
日本に
住所を有するときは、法務大臣に届け出ることによって、
日本の
国籍を取得することができるものとする。」というところがございますが、この「
日本に
住所を有するとき」というのは適切ではないというのが私
たちの
考えでございます。
つまりこれは国外で
出生して、両親が留保届けをしなかったので
日本国籍を取得していないわけですけれ
ども、
日本の
国籍法が
血統主義を
原則としております以上は
血統の上では
日本国とのつながりがある
人たちでございます。このような人が国外で育ちまして、そして成長して
日本の
国籍を欲しいと思いましたときの問題です。そのときに
日本に佳所を持たなければいけないということを要求するのが妥当であるかどうか。
理論的には実効的
国籍ということが
国籍法上の重要な
観念として国際的に認められておりますけれ
ども、こういう未成年者にとって実効的
国籍とは何であろうかと
考えますと、生まれ育った所、これはむしろ両親のそれでございます。普通は親と同居して、そこで教育を受けているわけですから、未成年者については実効的
国籍はつまり一緒に育ててもらっている親の
国籍と同じだということになりますが、それでいいかどうか。やはり一人前になって、これから自分の人生を切り開こうというときの
国籍の
選択というものが非常に重要ではないかと思いまして、そういう場合には
本人の
選択の
意思、どこの
国民になりたいという、それによって
実効性を持ってくるということができるのではないかと思います。
もう
一つ実際的な点から
考えますと、未成年者が
日本で
住所を設けようと思いますと非常に経済的負担が大きいですし、また入国の
関係から
考えますと、未成年者が
日本に入ってくる場合に、例えば観光ビザで入ってきました場合に、それによって
外国人登録をするということも
考えられましょうけれ
ども、そういう形で
住所と認めてもらえるのだろうかと思うのです。もしそれができないと、普通
考えるとそれは
住所じゃないと言いたいところでございますが、そうしますと、そういう
人たちはどういう形で
日本に入ってきたらいいのか、まず
国籍を再取得する前にどういう形で
日本に入ってくるのかということが問題になると思います。そういうことまで
考えて、そして未成年者が
日本の
国籍を再取得しやすいように、したいと思う人はしやすいようにということが、
住所を要求しますと非常に困難になるのではないかと思います。そういう点で「
日本に
住所を有するとき」ということは不適切であるというのが私
どもの
意見です。
また、
国籍の取得等の効力の
発生時期という点でございますが、どうも飛びまして恐縮ですけれ
ども、「
国籍の取得又は離脱は、その届出の時に効力を生ずるものとする。」ということで、この点は賛成でございます。取得とか離脱というのは
意思表示でございますので、届け出によって効力を生ずるというのは適切であると思いますが、ところが
帰化の許可については依然として官報告示によって効力を生ずることになっておりますが、これはちょっとおかしいのではないか。
帰化の許可というのは行政処分だとされておりますので、その処分の、何といいますか、告知があったときにその効力が
発生するのが一番適切ではないだろうか。つまり行為の性質から言ってそういうことになるのではないか。この点は法務省の方では処理上の御都合があるようでございますけれ
ども、それはちょっと筋から言って不適切ではないかと思います。