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1984-03-27 第101回国会 参議院 法務委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十九年三月二十七日(火曜日)    午前十時開会     —————————————    委員異動  十二月二十七日     辞任         補欠選任      近藤 忠孝君     宮本 顕治君  十二月二十八日     辞任         補欠選任      小島 静馬君     徳永 正利君  一月十二日     辞任         補欠選任      梶木 又三君     岩動 道行君      中西 一郎君     名尾 良孝君  二月二十三日     辞任         補欠選任      海江田鶴造君     上田  稔君  二月二十四日     辞任         補欠選任      上田  稔君     海江田鶴造君  三月二十七日     辞任         補欠選任      園田 清充君     藤田  栄君      徳永 正利君     柳川 覺治君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         大川 清幸君     理 事                 竹内  潔君                 前田 勲男君                 山田  譲君                 飯田 忠雄君     委 員                 海江田鶴造君                 名尾 良孝君                 藤田  栄君                 柳川 覺治君                 寺田 熊雄君                 橋本  敦君                 柳澤 錬造君                 中山 千夏君    国務大臣        法 務 大 臣  住  栄作君    政府委員        法務政務次官   関口 恵造君        法務大臣官房長  根岸 重治君        法務大臣官房司        法法制調査部長  菊池 信男君        法務省民事局長  枇杷田泰助君        法務省刑事局長  筧  榮一君        法務省矯正局長  石山  陽君        法務省保護局長  吉田 淳一君        法務省訟務局長  藤井 俊彦君        法務省人権擁護        局長       鈴木  弘君        法務省入国管理        局長       田中 常雄君    最高裁判所長官代理者        最高裁判所事務        総長       勝見 嘉美君        最高裁判所事務        総局人事局長   大西 勝也君        最高裁判所事務        総局民事局長兼        最高裁判所事務        総局行政局長   上谷  清君        最高裁判所事務        総局刑事局長   小野 幹雄君    事務局側        常任委員会専門        員        奥村 俊光君    説明員        内閣官房インド        シナ難民対策連        絡調整会議事務        局長       飯島 光雄君        警察庁刑事局審        議官       於久 昭臣君        外務省アジア局        外務参事官    瀬崎 克己君        外務省国際連合        局審議官     遠藤 哲也君        大蔵省証券局企        業財務課長    中島 公明君        大蔵省銀行局銀        行課長      千野 忠男君        国税庁調査査察        部調査課長    木下 信親君        運輸省自動車局        業務部旅客課長  豊田  実君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○検察及び裁判運営等に関する調査  (法務行政基本方針に関する件) ○裁判所職員定員法の一部を改正する法律案(内  閣提出、衆議院送付)     —————————————
  2. 大川清幸

    委員長大川清幸君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  去る十二月二十七日、近藤忠孝君が委員辞任され、その補欠として宮本顕治君が選任されました。  また、去る十二月二十八日、小島静馬君が委員辞任され、その補欠として徳永正利君が選任されました。  また、去る一月十二日、中西一郎君及び梶木又三君が委員辞任され、その補欠として名尾良孝君及び岩動道行君が選任されました。  また、本日、園田清充君が委員辞任され、その補欠として藤田栄君が選任されました。     —————————————
  3. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 次に、理事補欠選任についてお諮りいたします。  理事辞任に伴い、現在欠員となっております理事補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事前田勲男君を指名いたします。     —————————————
  5. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 検察及び裁判運営等に関する調査を議題といたします。  法務行政基本方針について住法務大臣からその所信を聴取いたします。住法務大臣
  6. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 委員各位には、平素から法務行政の適切な運営につきまして、格別の御尽力をいただき、厚く御礼申し上げます。  私は、昨年末、図らずも法務大臣に就任いたしました。我が国の内外にわたり極めて厳しい問題が山積しているこの時期に当たり、その職責の特に重大であることを痛感いたしております。委員長初め委員各位格別の御理解と御協力を賜りまして、法務行政運用に遺憾なきを期したいと存じますので、どうかよろしくお願い申し上げます。  この機会法務行政に関する所信一端を申し述べたいと存じます。  改めて申し上げるまでもなく、法務行政使命は、法秩序維持国民権利保全にあると考えております。国民生活の安定を確保し、国家社会の平和と繁栄を図るためには、その基盤ともいうべき法秩序が揺るぎなく維持され、国民権利がよく保全されていることが肝要と存じます。私は常にこのことを念頭に置き、全力を傾注して国民期待する法務行政推進に務めてまいりたいと存じております。  以下、当面の重要施策について申し述べます。  まず第一に、法秩序維持についてであります。  最近における我が国犯罪情勢は、全般的には平穏に推移していると認められますものの、犯罪発生件数は近時漸増の傾向にあり、これを内容的に見ましても、保険金目当ての殺人、身の代金目的の誘拐、金融機関強盗等目的のために手段を選ばぬ凶悪事犯の多発や、コンピューターシステム等を利用した新たな形態の犯罪発生を見ているほか、涜職脱税等国民社会的不公正感を助長する犯罪も後を絶たず、覚せい剤事犯が引き続き一般国民の間に広く拡散浸透しつつある上、少年非行も依然増加の一途をたどっており、右翼諸団体過激派集団の動向にも予断を許さぬものがあるなど、今後の推移には警戒を要するところが少なくないと存じます。  私は、このような事態に的確に対処するため、検察態勢の一層の整備充実に意を用い、適正妥当な検察権の行使に遺憾なきを期し、良好な治安の確保と法秩序維持に努めてまいる所存であります。  なお、刑法改正につきましては、かねてから政府案作成のための作業を進めているところでありますが、刑法が国の重要な基本法の一つであることにかんがみ、国民各層意見をも十分考慮しつつ、真に現代社会の要請にかなう新しい刑法典をできる限り早期に実現すべく努力してまいりたいと考えております。  第二は、矯正及び更生保護行政についてであります。  犯罪者及び非行少年改善更生につきましては、刑務所、少年院等矯正施設における施設内処遇を一層充実強化するとともに、仮釈放の適正な運用を図り、また、保護観察等社会内処遇において、引き続き保護司との協働態勢を強化し、関係機関団体との連携をさらに緊密にして、広く国民理解協力を得つつ、現下の情勢に即した有効適切な更生保護活動を展開してまいりたいと考えております。  なお、監獄法全面改正を図るための刑事施設法案につきましては、第九十六回国会に提出し、以後継続審査の扱いとされておりましたところ、昨年十一月衆議院が解散されたことに伴い、廃案となったのでありますが、同法案は、刑事施設の適正な管理運営を図り、被収容者人権を尊重しつつ、収容の性質に応じた適切な処遇を行うことを目的として、被収容者権利義務に関する事項を明らかにし、その生活水準保障を図り、受刑者改善更生を期する制度整備するなど、被収容者処遇全般にわたって大幅な改善をしようとするものであります。  同法案につきましては、法案提出後、日本弁護士連合会等から、幾つかの点について批判がなされていることもあり、昨年二月以降、日本弁護士連合会との問で、鋭意意見の交換を重ねているところでありますが、法案内容について国民各層理解を得るよう配意しつつ、できる限り早い機会に再提出いたしたいと考えております。  第三は、民事及び人権擁護等行政についてであります。  一般民事行政事務は、登記事務を初めとして量的に逐年増大し、また、質的にも複雑多様化傾向にあります。これに対処するため、かねてから種々の方策を講じてきたところでありますが、今後とも人的物的両面における整備充実に努めるとともに、組織、機構の合理化事務処理能率化省力化等に意を注ぎ、適正迅速な事務処理体制確立を図り、国民権利保全行政サービス向上に努めてまいる所存であります。  また、国籍制度改善合理化を図るための国籍法改正及びそれに伴う戸籍法改正につきましては、それぞれ法制審議会及び民事行政審議会答申を得ており、これらの答申の趣旨に沿った国籍法及び戸籍法の一部を改正する法律案を本日中に国会に提出すべくその手続を進めているところであります。  次に人権擁護行政につきましては、国民基本的人権保障をより確かなものとするため、基本的人権が侵されることのないよう万全を期する一方、正しい人権思想をより徹底させるため、各種の一般的な啓発活動を行うほか、人権相談人権侵犯事件調査処理を通じて関係者啓発を図るとともに、被害者の救済にも努めてまいる所存であります。  中でも、いわゆる差別事象につきましては、関係各省庁と緊密な連絡をとりながらその根絶に寄与してまいる所存であります。  次に、訟務行政につきましては、国の利害に関係ある争訟事件は、近時の複雑多様化した社会情勢国民権利意識の高揚を反映して、社会的、法律的に新たな問題を内包する事件が増加しており、その結果いかんが国の政治行政経済等の各分野に重大な影響を及ぼすものが少なくありませんので、今後とも事務処理体制充実強化を図り、この種事件の適正、円滑な処理に万全を期するよう努めてまいりたいと存じます。  第四は、出入国管理行政についてであります。  我が国国際的地位向上国際交流の拡大に伴い、我が国に出入国する者の数は逐年増大し、また、日本に在留する外国人活動範囲やその内容も一層複雑多様化しており、出入国管理行政重要性はますます高まっております。  このような情勢を踏まえ、国際協調の一層の推進を図りつつ、我が国出入国管理行政に課せられた使命の遂行に努める所存であります。  最後に、法務省施設につきましては、昨年に引き続いて整備を促進し、事務処理適正化執務環境改善を図りたいと考えております。  以上、法務行政の当面の施策について所信一端を申し述べましたが、委員各位の御協力、御支援をいただきまして、重責を果たしたい所存でございますので、どうかよろしくお願い申し上げます。(拍手
  7. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 以上をもちまして所信聴取は終わりました。     —————————————
  8. 大川清幸

    委員長大川清幸君) この際、関口法務政務次官から発言を求められておりますので、これを許します。関口法務政務次官
  9. 関口恵造

    政府委員関口恵造君) このたび法務政務次官を拝命いたしました関口恵造でございます。  時局柄、大任ではございますが、住法務大臣のもとに、よき補佐役として時代に即応した法務行政推進のため、微力ではありますが、最善を尽くしてまいりたいと存じております。何とぞよろしく御指導、御鞭撻をお願い申し上げます。  簡単ではございますが、ごあいさつといたします。(拍手)     —————————————
  10. 大川清幸

    委員長大川清幸君) これより住法務大臣所信に対する質疑に入ります。質疑のある方は順次御発言を願います。
  11. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大臣は、ただいまお述べになりました所信表明の中で、涜職脱税等国民社会的不公正感を助長する犯罪が後を絶たないと論じておられます。この涜職はもちろん社会的な不公正感を助長するでありましょうけれども、それ以上に国民政治行政に対する信頼を失わしめるものであります。  この際、特に収賄の当事者が内閣総理大臣でありました田中角榮元首相の問題にも触れてみたいと思うのでありますが、これは先般の東京地裁判決にもありましたように、その社会に及ぼした悪影響ははかり知れないものがあるわけであります。その意味田中自身東京地裁冒頭手続で言っておりますように、その罪万死に値するはずであったわけであります。しかし、それにもかかわらず、依然として自由民主党に対する影響力を通じまして国政全般影響を与えております。大臣の所属していらっしゃる自民党でも、先般、田中影響力排除声明という大変興味のある声明を出さざるを得なかったような現実があるわけであります。この際、特に大臣政治倫理に関する御所信をまず全般的にお尋ねしたいわけですが、いかがでしょうか。
  12. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 日本の国、大変豊かで平和な生活を営んでおりますけれども、私は、そういう中にあって大事なことは、やはり公正感をどう維持していくかということが非常に大事である、これは所信の中でも申し上げたとおりでございますが、それと同時に、やっぱり経済は一流だけれども政治は二流とかなんとかという言葉もございますけれども、日本の国がこれからさらに発展していくためには、御指摘のように、政治に対する信頼、これは非常に私は大事だと、こう思っております。特に、政治立場で働く者にとってはどうしてその信頼を高めていくか、こういうことは常に考えていかなければならないし、日常政治活動をするに当たりましても常にそのことを念頭に置かなければならない、こう考えておるわけでございまして、そういう意味政治の衝に当たる者、国民の疑惑を招くようなことがあっては私は大変申しわけないことだと、こう思っておるわけでございます。そういう意味で昨年の衆議院選挙のときにも問われましたのは、何よりもまず私は政治倫理の問題であったと思うわけでございます。そういうような結果田中問題に対する自民党声明等もございますし、私は特に今度の国会においてそういう政治倫理の問題をどう扱っていくか、こういうことが問われている国会じゃなかろうかと考えておるわけでございます。そういう意味で、両院におきまして倫理協議会等が設置されて各党会派でそのことをどう考えていくか、こういうことが今議論されておりますけれども、非常にこれは当然なことといえば当然なことでございますが、時宜を得たことでございますし、そういう場において政治倫理確立という方向に今後進んでいっていただくことは大変結構なことだと思いますし、私ども国会議員としてもそういう立場でこれから考えていかなければならぬのじゃないかと、こう考えておるわけでございます。
  13. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 公務員犯罪を犯しました場合、第一審の判決以前でさえも原則として上司責任をとっておるようであります。例えば、最近の兵庫県警察本部管轄下の中で警察官が大罪を犯し、本部長が懲戒を受けたという事例がございました。国会議員の場合は上司というものはありません。それゆえ、選挙民が直接断罪するか、あるいは国会自身がそのけじめをつけるしかないわけであります。その意味で、国会が直接第一審判決という司法判断がなされた機会に何らかの責任をとらせるという措置を講じますのは極めて合理的と考えるんですが、これはどうでしょう、大臣
  14. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 一般職公務員につきましては、今御指摘のように、そういう制度的な歯どめというもの、これは明確にされておると思うのです。ところが、特別職、なかんずく議員につきましては、これは私はそういう歯どめがきっちり必ずしもなってないと思うのでございますけれども、これはやはり選挙で選ばれる、そして議員自覚、良識というものをこれは尊重している結果もそういうことになっていることの理由じゃなかろうかなと、こう考えておるわけでございます。ですから、何よりまず私は本人自覚なりあるいは本人考え方によって適切に対応していくというのが一番望ましいことじゃなかろうか。特に、今もおっしゃいましたように、選挙民が判断するということもございます。それから、特に国会議員の場合は憲法上の身分保障等もいろいろございますので、その取り扱いということになりますと、いろいろな観点からこれは議論していただかなければならぬのじゃないかな、そういう問題点も含んでおると考えておるわけでございまして、せっかく今倫理協においてそういうことを取り上げて検討されておるということでございますので、そういうところでの議論にまちたいと考えておるわけでございます。
  15. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは御承知のように、イギリス、アメリカ等ではもう大変政治倫理に対する国会対応は厳しいようですね。それで、何らかそういう事例がありますと、とても論難あるいは追及が厳しくて、もう自発的に職を辞さざるを得ない状態にその当該の国会議員が追い込まれるようですが、日本の場合は非常にその点が何か状況が変わっております。アメリカなどは御承知のように、幾多の不祥事が起きました後で倫理法ができまして、百ドルを超える贈り物でさえも届け出をしなきゃいかぬ、あるいは一万ドルを超える負債についても届け出をしなきゃいかぬというような、すぐ何らかの法的なけじめもつけるようですが、日本の場合はとかくじくじくじくじくと論議だけを重ねて一向にきちっとした対応をしないという点に特色があるようです。  そこで、大臣としてはどうなんでしよう。政治倫理委員会に任せるというのではなくして、国務大臣所信なり決意として、そういう最も公務員として忌むべき涜職罪のようなことで有罪判決を受けるというような国会議員は、国会内部の規律によるかあるいは公選法の規定によるか等は別としてやはり職を辞するとか、あるいはその次の選挙から立候補はできないようにするとか、そういう措置をとること自体に関しては国務大臣としてはどういうふうにお考えですか。
  16. 住栄作

    国務大臣住栄作君) いろいろの考え方があると思うのでございますが、普通の場合考えてみますと、国会議員としてどう身を処するかということは、私は自分で判断すれば一番これは結構なことじゃないかと思います。しかし、それはそれぞれの人の考え方でございますから強制すべきものではございません。さらばといって、それじゃどういう規制をするか、こういうことにつきましてはいろいろな方法があると思うのでございますが、先ほども申し上げましたように、そしてまた今も御指摘ございましたように、選挙法の面あるいは国会法の面、どのやり方が適当かということになりますと、私も国会議員として個人的には考え方はありますけれども、法務大臣としては、今国会内で各党会派でせっかく議論していただいておるわけでございますので、そういうところで適切な結論が出していただければこれは一番いいことじゃないかなと、こう考えておるわけでございます。
  17. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そう逃げられては困るんですね。大臣、一政治家としてもあるいは国務大臣としても政治倫理についてきちっとしたやはり所信をお持ちにならなきゃいかぬ。殊に、こういう涜職等について法秩序維持というものを大臣は何よりも高く所信の中に掲げていらっしゃるんだから、法秩序なんかどうでもいいと言っておられるのじゃないんだから、やはり責任上きちっとした所信を持っていらっしゃらないと困るわけですね。殊に、大臣衆議院で第一審裁判所判決は重いということを述べられたという報道もありますね。  それから、自由民主党党倫理憲章というものもあります。その倫理憲章の中にも「われわれは、物質的価値に対する倫理的価値優位性自覚し、かりそめにも国民の非難を受けることのなきよう政治腐敗根絶と、政治倫理向上に務めなければならない。」、あなたは自民党員としても政治腐敗根絶政治倫理向上に努めなければならないという義務を負っていらっしゃる。ましてや、法務大臣国務大臣としてはなおさらのことです。また、今のは倫理憲章の第六ですが、第七を見ますと「政治にたずさわる者の倫理基本として、左の諸点を重視する。 (1)名誉を重んずること (2)旺盛なる責任感 (3)清廉 (4)勇気実行力 (5)国民への奉仕の精神」というようなものをうたっているわけですね。ですから、あなたも勇気を持ってこういう問題について発言をしていただかなければ困るんですよ。逃げちゃいかぬ。いかがですか。
  18. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 私は、法を守る立場におきまして、特に涜職のような不公正感を助長し拡大していくようなこと、あるいは政治不信を起こすようなこと、これは断固、法の立場において守っていく、これは当然のことでございますが、政治立場でこれを考えてみた場合、繰り返すようになって恐縮でございますが、せっかく今議論していただいておるわけでございますから、そういうようなところでのきちっとした結論を心から期待しておるわけでございまして、法務大臣としてそれは特に意見を求められるならば、あるいは党内その他から求められるならば、その時期においてお答えしなければならない場合もあるかと思いますけれども、せっかくそういったところで今やっていただいておるわけでございますから、法務大臣としてとやかく申し上げるという段階ではないように私考えておるわけでございます。
  19. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 何らかのきちっとした対応をしなければいけないというという点は是認されますか。
  20. 住栄作

    国務大臣住栄作君) ずっとこれは昨年来、それ以前からでもそうでございますが、政治的には一番私は大きな問題だと思っておるんです。そうしてまた、国民がそれに対してどう結論を出すかということも注目もし、期待もしておると思うんです。私は国会議員の一人として、そういうところでひとつきちっとした結論を出して、そして政治に対する信頼を高め、国民期待にこたえていくということは国会の責務でもある、こういうように考えております。
  21. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 なお、法務大臣としてお忙しいとは思うのですが、大臣田中角榮氏などを含めた丸紅ルートロッキード事件判決がこの間できましたが、あれお読みになりましたか。
  22. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 判決文は手にしておりますけれども、大変膨大なものですから、まだ全文読んではおりません。
  23. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 お忙しいとは思いますが、あれはやっぱり法務大臣読みになったらいかがかと思うんですよ。私も、まあ精読したかと言われると精読に入るかどうかわかりませんが、一応あれを読みまして感心したわけです。最高裁事務総長以下のお歴々がいらっしゃるから何も御機嫌とるわけじゃないんですが、あれは確かに証拠の検討といいますか、大変微に入り細をうがって弁護人の主張というものを退けるためにいかにして説得力ある証拠説示をしようかという点で非常に苦心をして、本当によく検討をし、説得力のある判決を書いておられると私は思うんです。あれを読みますと、よほどエクセントリックな非常識な裁判官でない限りは、あれと異なる判決というものは出にくいんじゃないかと思います。  私は、第一審の判決があるまではやはり法務大臣の検事総長に対する指揮権の発動というものは法理的には考えられますから、あの審理の途中で秦野法務大臣に、公訴の取り消しというような指揮権の発動をすべきでないと思うかどうかという質問を予算委員会でしたわけです。秦野氏はそういう非常識なことはいたしませんということを言いましたから、これはそういうような事態というものは起こり得ないということを信じたわけですね。今はもう一審判決が出されましたので公訴の取り消しということは法理上できないわけですね。それが仮に控訴で無罪になった場合に上告するかという場合に、上告はしない方がいいだろうというような指揮権の発動も法理的には考えられる。しかし私は、控訴の判決が一審判決と異なった結論を出すということは、常識のある裁判官であれば到底ないだろう、あり得ないと考えておるんです。しかし法理論的にはなお一部指揮権の発動という余地が残りますね。そうでしょう。この際、大臣の指揮権に関する御所見を伺いたい。
  24. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 私は、せっかく一審判決がございまして、一審判決、これは六年の長きにわたりまして検察、被告、もう全力を尽くして立証、それから主張をして下された判決でございますから、それはそれなりに重みがある、こういうことは申し上げております。それじゃ、今度控訴審で一体どうなるか、まあまだ控訴審も始まっていないわけでございますし、これからどういうように展開していくか予断を許しません。そんな長いことかかってもらっても困ると思うんですけれども、まだ先のことでございますので、その時分私も法務大臣やっているかどうかもわかりませんし、そういう際に指揮権を発動するかどうかというようなことについてはまあまあ御勘弁願いたい、こう考えます。
  25. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、それは御勘弁願いたいということで逃げられてはやっぱり困るんですよ。大臣のような方は私は引き続いて法務大臣になっていただきたいと思っておるんですよ。それで、そういうような非常識なことがなされたんでは困るので、秦野氏のような、どちらかというと田中寄りの、そして検察陣や裁判所の態度に対して非常な不満を時々表明していらっしゃった方でも、そういうような非常識なことはしないということははっきりおっしゃったわけです。大臣がそんなところで御勘弁願いたいなんて逃げられては困ります。そういう非常識なことはするのかしないのかということばやっぱり我々はどうしてもお答えいただきたい。みんな知りたがっていますよ。いかがでしょう。
  26. 住栄作

    国務大臣住栄作君) まあまあまだ先のことでもございますし、非常識がどうかという——控訴趣意書等いろいろの段階もございますし、今から指揮権発動するとかしないとか、それを言うこと自体が私はややどうかなと、こういうように今考えておるわけでございます。
  27. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうしますと、いや、もう既に控訴趣意書の提出期間は決まったようですよ。控訴審はもう既に動き出しているわけです。だから私は、あなたが検察の長にいらっしゃる方として、また法秩序を守るという御所信を持っていらっしゃる方として、そういうような非常識なことはいたさない、考えられないという、当然私はそういう御答弁だろうと期待しておったんですよ。逃げちゃいけないでしょう、そういう大事なことで。またあなた、そういうような逃げられるようなお方じゃないと思いますよ。どうでしょう。
  28. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 重ねての御質問でございますけれども、非常識がどうかあれでございますので、ひとつ先生の御意見は十分胸の中におさめさしていただきたいと思います。
  29. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 どうも大臣に似合わない答弁で。  じゃ、あなたは検察の長として検察陣に対しては満幅の信頼をおいていらっしゃいますか。また、その意見を常に聞いて検察の長としての行政をなさいますか。これだけはお答え願いたい。
  30. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 私は日本検察を全面的に信頼いたしております。このロッキード問題につきましても、判決文全部読んでおるわけではございませんけれども、本当に検察はよくやってくれておる、こういうように心から信じておるわけでございます。
  31. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そして、事検察に関する限り、あなたの信頼する検察官の意見を尊重して行政をなさるということも認められますか。
  32. 住栄作

    国務大臣住栄作君) もちろんそうしたいと思っております。
  33. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それじゃ、きょうはこの程度にします。  今、大臣が非常に重要な点をおっしゃった。これは裁判所側も聞いていらっしゃったでしょうが、余りこういう事件が長引いてはいけないという点がありましたね。それで、私もやはり裁判所が本当に良心的に慎重に真実を追求するために審理していらっしゃる。その過程で弁護人の引き延ばし戦術などがあって、なかなか審理の促進が意にかなわないという面があると思いますけれども、また裁判所のそういう審理そのものに我々が介入することはできませんけれども、しかし審理の促進というこの問題については最高裁判所の指導があってやはりしかるべきものだろうと思いますよ。この点、事務総長いらっしゃるので、この問題について事務総長のやはりお考えを聞きたいと思います。
  34. 勝見嘉美

    最高裁判所長官代理者(勝見嘉美君) 裁判使命は、申し上げるまでもございませんが、適正にして迅速なことが最も大事だというふうに考えております。適正につきましては、また後刻御質問があるところでございますけれども、迅速という面につきましても一線の裁判官の方々は十分留意して裁判事務の処理に当たっていってもらっているというふうに考えております。今御指摘のとおり、おくれた裁判裁判がないに等しいという法諺があるとおりでございますので、できるだけ遅くならないように裁判をすべきだというふうに私どもは考えておりますし、事務総局のやるべき仕事といたしましてもその面を十分に考えているつもりでございます。
  35. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは大臣、これこそはちょっと御答弁がしにくいかもしれませんが、ロッキード判決をずっと私読みまして、御承知のようにあなた方の同僚の方々があの事件の一つの論争点でありました榎本敏夫のアリバイ、これを立証するために田中側は続々と証人を送り出した。その戦術に巻き込まれて、あなた方の同僚がかなりの数裁判所に証人として出廷しているわけです。そして証言をしております。ところが、裁判所は判決の中で、たとえば毛利松平代議士の証言、これをいろいろな角度から論証した結果信用することができないと判示しておるわけであります。山下元利代議士の証言もやはり同じような理由で信用することができない。後藤田正晴氏の証言に至っては、同人の供述にはさしたる意味もないといっておる。山崎竜男参議院議員の証言に至っては、根拠薄弱なものである、いかにも不自然であるといって排斥しておるわけであります。これはどういう意図でそういうあらゆる角度から、もちろんあらゆる角度からつっついた方は検察陣がつっついたのですが、検察陣の反対尋問に耐えられない、裁判所の補充尋問にも耐えられない、そして結局一顧の価値もないものとして排斥されるような証言を国会議員がわざわざそこへ出かけていって殊さらに証言するというのは、私ども国会議員としては同僚ですからみっともないじゃないか、これこそやはり政治家の信用を失墜させる一つの出来事ではないだろうかと考えるのですが、これは大臣どんなふうに思いますか。
  36. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 結局、被告、検察の攻撃、防御のやり方の問題でございますから、証人としてどういう方が出られるか、その重言の内容はどうであったか、ここまで法務大臣としてどうのこうのを申し上げる私は立場にないと思うんです。それは結局法廷で今おっしゃいましたように決着がつく問題でございますから、これはもう裁判のことでございますので、そういう証人の問題についてとやかく私から言うべき事柄じゃないと考えております。
  37. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それはそうかもしれないですね。これは余り大臣を追及するというわけにはいかぬかもしれません。ただ、同僚としてみっともないから、こういうことがないようにという考え方でお尋ねをしたわけです。  それから、今非常に新聞で福島交通の問題が話題になっております。各委員会でこの問題に関す各質問戦が華々しく展開されておるんですが、私はやはりこの問題は結局使途不明金の問題にメスを入れませんと何の意味もないという感じがするわけですよ。結局資本金がわずか数千万円の企業に何年間にわたって五十億もの使途不明金があるという、その中にはかなりな部分が政治家への献金、あるいはそれは献金か何かわかりませんが、何か政治家の手に渡ったということは事実のようであります。この政治家に渡った金については、それが政治資金規正法の枠を外す手に使われたかもしれません。あるいはわいろであったかもしれない。それは何ともわからない。あるいは個人の使途に使われたかもしれない。したがって、考えられるのは政治資金規正法の脱法行為ということも考えられますし、所得税法違反だということも考えられる。それから刑法に違反するものであったかもしれない。福島交通の小針という社長が、新聞で見る限りにおいては、政治家に渡す金に受領証なんかはとらないということを豪語しているわけです。やはり大臣政治倫理とか法秩序を守るとかいうようなことをおっしゃっても、こういうアブノーマルな現象に関心を持たずにいってしまったのではこれはいつまでたっても直りませんよ。  使途不明金の問題は、もうずっと五十年代に入って各委員会で論ぜられおります。年間三百億を超える使途不明金があるんだということを税務当局も答弁しておられるわけです。ところが、一向にこれに対しては適切な措置を講じないわけです。この点がアメリカあたりと日本対応が違うところですけれども、この諸悪の根源である使途不明金、これに何らかのやっぱりメスを入れるべきじゃないでしょうか。これは商法の改正のときも論ぜられたんです。これは大臣の守備範囲の中に入るのですが、業務報告書の中に贈与の総額を記載すべきであるということであったわけですが、これもやはり財界の反対でついえしてしまった。やはりそういうあらゆる方法でこの不明朗な企業の経理、そこから出るさまざまな違法なもの、そういうものにあなた方が関心を寄せて、これはやはりそういう不明朗な現象はなくしていくのだという態度をとっていただかない限り、第二、第三の福島交通の問題というのは起きざるを得ないわけです。それがやはり政治の腐敗につながるわけです。大臣としてどういうふうにお考えでしようか。
  38. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) 商法では、ただいま御指摘ございましたような点についての改正が幾度がなされておりまして、取締役の業務の執行の不正あるいは経理の不正というのを防止するための措置がいろいろな面でとられております。そして、その面で会社内部におきましてはある程度の規制が行われているのではなかろうかとは思われますけれども、今御指摘の使途不明金につきましては、これは大体税の関係で使われている言葉でございまして、外部から見てよくわからないというような意味で使われたものではなかろうかと思いますが、商法の分野と申しますのは、御在じのとおり会社内部の組織を中心に考えておりまして、株主の利益であるとか、あるいは債権者の利益を害さないようにという観点での規制を加える分野でございます。そういう面で使途不明金ということを考えてまいりますと、外部に関する関係は別といたしまして、内部でも経営者がどのように使ったかわからないという場合と、それからそれを監査役があるいは会計監査人が調査をしても調査に担当者が応じないということによってわからないというような形になってこようかと思いますが、それはそれなりに監査の報告書でそのことが明示されるようになっておるとか、あるいは株主総会における経営者側の説明義務であるとかということによって一応そのことがオープンになるというふうな形にはなっておるわけでございます。しかしながら、それ以上に外部に対する関係での使途不明金の関係を明確にしようということになりますと、商法の分野でそれを明確にするということにつきましては、商法の使命から申しまして限界があるというふうに考えておる次第でございますが、なお商法の株主に対する関係あるいは債権者に対する関係でもいろいろなことで不十分だというふうな面が出てまいりましたならば、それは将来の問題として検討は十分にさしていただくつもりでございます。
  39. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 民事局長の守備範囲でできる限りのことはやっていただく、これは結構なことですが、私が大臣にお尋ねしたのは、そういう商法の領域内だけのことをお尋ねしたんじゃないので、こういう使途が税務当局にさえもなかなか掌握できない、掌握できるのはわずかに一三%にすぎないとまで言われる、そういうような会社の経理があって、そのかなりの部分が政治家に渡っているという現実について大臣はどういうふうにお考えになり、どういうふうにこれに対して法務大臣として対応をなさるおつもりかということをお伺いしているわけです。殊に、それが政治家に渡った場合に政治資金規正法の規定を潜脱する行為になり、所得税法の規定を潜脱する行為になり、時には刑法に触れるような行為になるおそれがあるわけでしょう。それを法務大臣、法を守る立場にいらっしやる方としてどういうふうにこれを認識し、またどういうふうに対応をなさろうとなさるのかというお尋ねをしているわけです。
  40. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 今も民事局長からお答え申し上げましたように、商法の面では私はそれなりの内部の関係でその点ははっきりしていかなければならない、こういうことが一つと、それからいわゆる税法とか政治資金規正法、この関係でいわゆる使途不明金なるものの実態をこれはもう究明されなければならないというのは私は当然なことだと思うんです。そういう意味で、税務当局が税務当局の立場でその金がどういうものであるかと、こういうことをはっきりさしてもらう。これは私の所管外のことでございますが、これはもう当然きちっとしていただけるものだと思いますし、それからまた、それが刑法に触れるような問題になりますと、これは検察、警察としては当然それに対してメスを入れる、断固として措置をする、これはもう当然なことだと考えております。
  41. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 使途不明金というものをなくすためにどうしたらいいのだろうか、またなくす必要はないのかという突き詰めたお尋ねをしているんですが、その点いかがでしょう。
  42. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 使途不明金をなくす、まあ私もよく実態わかりませんけれども、会社の経理の内容として、それは役員会だとか監査役の権限として、これはそういうものは現在の商法でもはっきりしなければならない、こういうことになっておるわけですから、それを税法の面で、どういう意味で、それはそうなっておるけれども使途不明金なのかどうなのか、それは会社の内部の問題と、それと同時に税の立場でいろんな問題が起きてくる。ここらあたりはそれぞれのケース・バイ・ケースで私は真相の究明というものは関係機関が協力して究明すれば真相がはっきりし、それに対応する措置がとられる、また措置をとるようにしなければならない、こういうように考えておるわけです。
  43. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 会社の内部で、これは法務省の方の御努力で内部監査の充実という点は最近非常に法制的には整備されてきたように思いますが、ただ私ども、例えば銀行の常勤監査役あるいはかなりな会社の常勤監査役である友人等に聞いてみましても、もういずれもオールドボーイになってしまってはおりますが、実際上社長に抵抗して社長の非違を暴くということは不可能だ、それはけんかしてやめる決意でないと無理だということを言いますね。それから外部監査にタッチいたします公認会計士、これなどもやはり会社側から金をもらって監査をしておるわけで、その会社と大げんかしてやめてしまうという決意までして真実の追及に乗り出すということは非常に困難なようです。ですから、税務当局でさえも掌握できない使途不明金というものが起きるわけですから、そういう現実を踏まえずに、ただ観念論で、やあ監査はできております、これは内部の問題ですと言って片づけるわけにはいかぬのです。だからそういう現実を踏まえると、使途不明金というものを税務当局もこれは経費と見ない、課税しますと、こう言って逃げちゃうわけですね。だから、いいじゃありませんかと。それでは一向に改まらない。もう既にこの問題が国会で論議されてから五、六年になるでしょう。ぽこっとこういう現象が出てくるわけですね。ですから、アメリカのようにこういう何かアブノーマルな現象が起きたらすぐそれを根絶するための適切な手を打つというような、そういう態度が欲しいというのが私の考え方なんですが、それで大臣にそういうふうに御努力願えませんでしょうかということでお伺いしておるわけです。
  44. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 現実問題としては、今も申し上げましたように、ケース・バイ・ケースでケースによってもいろいろなことがあると思うんですね。ですから、税務の立場あるいは検察立場、そういうところから実態を究明していくと、そこに税法違反が出てきたり、それから政治献金まがいのものが出てきたり、そしてそれがどういう性質のものだということもはっきりしてくるわけでございまして、現在の仕組みの中で起きてきた現実問題、これはその使途不明金というのは主として税務の立場で使われておるわけでございますから、一つ一つそれは徹底的に究明していく態度、これが必要なんじゃないか。そういう立場でこの問題を処理していく、こういうことじゃないかと思いますけれども。
  45. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 どうもかみ合わないですな。税務署が追及してもその行き先がわからない、その渡ったところが何に使ったのだろうか、賄賂として受け取ったのか、あるいは個人の献金として受け取ったのか、政治献金として受け取ったのかわからないから、それに対してどうしようもないということなんですよ。だから、そこはやっぱり使途不明金のようなものは許さぬというところまで踏み込んでいかなきゃいかぬのじゃないでしょうかと言っているわけです。ケース・バイ・ケースといったって、その先がわからないんだから、わかればケース・バイ・ケースでわいろなら刑事局長が捕まえることはできるでしょう、検察が。個人的なものなら税務署が受け取ったやつに所得税をかけることができるでしょう。わからないんだから、だれに行ったか。そういうものはやめさせるべきじゃないかと言って伺っているのです。
  46. 住栄作

    国務大臣住栄作君) なかなか難しい問題だと思うんですけれども、どこへ行ったかわからないということだから使途不明金なんでしょうけれども、それは会社の帳簿書類その他ではそれなりのことで決着がついておるんだろうと思うんですね。それが見方を変えて税の立場で見たらどうなるか、そしてその行き先がわからない、そのわからないことについてその真相を究明する、犯罪のおそれがあればそういう立場でこれをはっきりさしていく。まあ新しい制度をこれからどう考えていくかということはこれは別問題でございましょうけれども、現在の仕組みを前提にして考えれば、私が一つ一つのケースについてそういう問題が起こればそれぞれの立場協力しながら、その行き先がどうだとか、その性質はどうだとか、こういうことを究明して使途不明の不明を明らかにすることに努める、こういうことじゃないかなと思うのですけれども。
  47. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 私の聞き方が悪いんでしょうか、どうなんでしょう。大臣、あなた、じゃ、使途不明金というのは行き先のわからないような会社の金銭の処分ですね。そういうものがあっていいと思いますか、悪いと思いますか。また、それをなくした方がいいと思いますか、今のままでいいと思いますか。これを伺っておきます。
  48. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 私は使途不明金という金の流れはあるのだろうと思うんですね。会社内部で言えば、例えばこの金が社長のところへ行ったとか、どういう支払いに充てられたとか、何かそれぞれ流れはわかるのだろうと思うのですね。流れはわかるけれども、どうも例えば税の立場から見れば、社長に行ったってその社長がどういうように使ったのかよくわからない。それじゃ、それをはっきりさせようということで、そういう金額のものをいわゆる使途不明の金としてとらえて、そして追及していく、そして追及していって不明金の流れをはっきりさせる、こういうことですから、それは徹底的に追及すれば全部わかるかどうか私自信ございませんけれども、解明できるんじゃないかなと考えておるものですから、どうも先生の御意見と食い違っておると、私はそういうように考えておるのですけれども。
  49. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 この問題で何十分も費やすわけにはいきませんので、大変不本意なんですが、これだけにしておきましょう。  それから、刑事局長にお尋ねするけれども、この福島交通に関していろいろのことが言われていますが、何らかの意味でこれは私は検察当局もこれを聞き流しにしないで、少しでも犯罪があると疑われるような場合には積極的に乗り出してこういう点を明らかにしていただきたいと思うのだけれども、今のところはどうなんでしょう。犯罪の、別段あなた方の乗り出すところまではいってないのでしょうか。またどういうおつもりでおられますか。
  50. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 御指摘のように、新聞報道等で私も承知しておりますけれども、まだ具体的な事実関係が必ずしも明らかになっておりませんし、今寺田先生御指摘のように、使途不明金あるいは政治家へ金が渡ったということで直ちに犯罪につながるというわけのものでもございません。そういうことで今具体的に検察当局において何をしているというようなことについてはちょっとお答えいたしかねるわけでございますが、ただ一般論といたしまして御承知のように検察犯罪の嫌疑があると思料するときは捜査することができるわけでございます。そういう意味におきまして検察におきましても新聞報道等は十分承知しておりますし、事態の推移を見守って犯罪の嫌疑がありと思料した場合には適宜適切な措置をとるということであろうかと思います。
  51. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 刑法改正につきまして、大臣所信では「できる限り早期に実現すべく努力」するとおっしゃっておられますが、これは八四年の三月二十五日の毎日新聞に「今国会提出を断念」したという報道がなされております。大臣のお気持ちとしては、できれば今国会に提出したいという気持ちでおっしゃっておるんでしょうか。「できる限り早期に実現すべく努力」する、これはどうなんでしょうか。
  52. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 寺田先生御承知のように、この刑法改正、随分長い歴史を持っておるわけですね。諮問してからもう二十年以上になっておりますし、それから答申をいただいてからもう十年近くになっておる。これは基本法典の一つですから、その取り扱いは私は慎重でなければならないと、こう思っておるのでございますけれども、答申を受けてから十年ということになりますと大変なことでございまして、私は、中身の問題は別といたしましても、やはり片仮名の法律でもございますし、刑法典、現行刑法が制定になってから世の中の情勢も大変変わっておりますし、しかもそういう必要がありとして諮問もし答申をいただいたわけでございますから、私はこれはいつまでもこれを放置しておくわけにはいかない、できるだけこの政府案を国会に提出して、そして国会の慎重な御審議をいただく、こういうことをも常に考えておるわけでございます。ただ、非常に客観情勢もそれは厳しいものがございますし、容易ではないと思うのでございますけれども、じんぜん日を過ごす、こういうことにもいかぬ問題じゃないかということで非常に苦労をしておるところでございます。
  53. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大臣が答弁しにくければ刑事局長にお尋ねしてもいいんですが、今国会にやはり提出するおつもりなんでしょうか、どうなんでしょう、端的に。
  54. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 今国会提出を含めましてできるだけ早い機会に実現を図りたいということでございます。
  55. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 一説によると、大臣は御自身のお考えをお持ちのようで、保安処分の規定は刑法の中から取り出して単行法として出したらどうかというお気持ちを持っていらっしゃるという、これは事実かどうかわからぬけれども、そういう報道がなされておりますが、またそういうようにしたらどうかという指示といいますか、お考えを事務当局の方にお示しになったということも報道されておるんですが、これは真相いかがですか。大臣にお伺いしたいと思いますが。
  56. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 保安処分を含めまして、答申がやはり一つの体系をなしておると私は考えておるわけでございます。したがって、その保安処分を含める体系、これはそう簡単に崩していいものかどうかということについても私は極めて慎重に考えているつもりでございます。ただ、宇都宮の事件に見られますように、精神衛生法の観点からもこれは大変問題があると思っておる。現在刑法で考えております保安処分というのはほんのその中の限られた部分なんですね。そういうようなこともございまして、私は精神衛生法につきましてもこれはもう少し見直す点があるんじゃなかろうかなと、これはよそ様のことでございますので、とやかく申し上げる筋のものではございませんけれども、そういうようには考えたこともあるんです。しかし、保安処分あるいは治療処分そのものはこれは刑法の体系の中でバランスをとって入っておるものですから、それを切り離してどうだこうだというのはこれは慎重に考えないといかぬ問題じゃないかと、こう思っております。
  57. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大臣の御答弁によりますと、切り離す点にはどちらかというと消極的だというふうにお伺いするわけですが、刑事局長もやはり依然として、そういう大臣の消極的なお立場もあり、保安処分ないし治療処分を刑法の体系から切り離して単行法として出すという意図はないと、そういうふうにお伺いしていいんでしょうな。
  58. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 検討といたしましてはあらゆる可能性を検討いたしておるわけでございますが、今大臣のお話にもございましたように、やはり保安処分といいますか、治療処分を刑法改正の一環として考えておりますので、その意味では今先生のおっしゃったとおりかと思います。
  59. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 次に、刑事施設法案につきましても大臣は「できる限り早い機会に再提出いたしたい」とおっしゃっておられますね。これはやはり今国会に提出したいという含みでおっしゃっておるんでしょうか。いかがでしょう。
  60. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 御承知のように、この刑事施設法案につきましてもいろいろの経緯がございます。昨年暮れの衆議院解散によって廃案になった。私ども、現行の監獄法、これは明治四十一年の法律でございますし、いかにも私自身、これは現状にそぐわない点がある、被収容者立場から考えてみましても問題がある。それですから、私は、廃案になりました刑事施設法案、若干の手直しが必要かどうか、これは別問題といたしまして、早く監獄法にかわってこういう法案が成立した方がいいと信じております。しかし、これもまたいろいろ問題がございまして、非常に苦労をしておるわけでございますが、今申し上げましたような考え方から、今国会を含めましてできるだけ早く提案をしたいと、こういうように考えております。
  61. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それはわかるんですが、大体今国会に提出するおつもりなんでしょうか。今国会は無理だと思っていらっしゃるんでしょうか。その点をお伺いしたいんですが。
  62. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 今、今国会にできれば提案したいなということでせっかく法務省を挙げて努力をしている最中でございます。
  63. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 先般、日弁連と私どもとがちょっと協議したんですが、そのときに、これはどういう受けとめ方で言ったのかは知らぬのですが、日弁連の方は、法務省の方が法務省と日弁連との協議はもうこれで終わったということをおっしゃったというように私どもに伝えたんですがへそれが何か正確なのか、ちょっとやっぱり確かめたいと思うんですが、もう大体日弁連との協議は終わったんですか、それともまだ残っておるんですか。その点はいかがでしょうか。
  64. 石山陽

    政府委員(石山陽君) ただいまの日弁連の協議につきまして、去る三月二十一日の意見交換会の席上、私どもから打ち切りの動議を提出いたしましたことは事実でございます。  その理由といたしましては、これまで昨年の二月以来、国会の御示唆もございまして十四回にわたりまして意見交換会を進めてまいったわけであります。中に非常に私どもにとりましても示唆に富む御提言がございましたけれども、まだ遺憾ながら一年かけまして先方から具体的な点についてこのように修正すれば乗れる、乗れないというはっきりした建設的な御提言がございません。しかも、前提といたしまして、留置施設法案とセットになっている限り提出そのものに反対という立場が現在まで変わっておらぬと、こういうお話でございます。それでございますると、いつまでたちましてもこの意見交換会について妥結点を見出すことが困難であろう、そういうことでは、私どもといたしまして、先ほど大臣がるる申し上げましたように、緊急の施設改善処遇改善を含みます法案提出につきましてのいろいろなエネルギーもさめてしまいます。そういうことのないようにという意味で、もう少し前進的かつ建設的なお話が得られない以上は意見交換会を続けるのは意味がないではないかということで、先方の態度をただしたというのがいきさつでございます。それに対しまして、日弁連からは、この話し合いについては決して実のないものとは思わぬ、建設的な対処も含めて実りある対話ができると思うので、ぜひ今後とも続けてほしいという意見の表明がございました。その点も踏まえまして、今後どのようにこの法案の提出時期等を判断すべきか、これを私どもは現在それぞれ持ち帰りまして検討いたすという約束で前回は別れてきた、これが意見交換会の内容でございます。
  65. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 日弁連の方は、遅くなったけれども試案検討委員会第一次試案という試案ができたので、これを法務省の方に出したいというようなことを言っていましたが、これはもうあなた方のお手元の方に届いておるのですか。
  66. 石山陽

    政府委員(石山陽君) まだ正式にちょうだいしておりません。  それで、その意見交換会の際に、申し落としましたが、そのような正式な対案ができておるならば、ぜひそれを早く提出してほしいと。実はその御提案も昨年の夏前には出せる、九月には出せる、十二月に出せるという形で現在まで延びております。そこで、私どもはぜひそういうものならお示しいただきたいとかねて申し上げておったところでございまして、この間打ち切りを宣言いたしました際にも、それが実はできておるのだ、近く提出できるのでぜひ正式な協議を続けてほしいと、これがお話でございました。
  67. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 この問題がこじれておるのは、大臣も御存じのように、留置施設法案という法案が一緒に出ていますから、これが代用監獄制度を恒久的に是認するものだという点でこれは誤判の温床になる、人権を守るという立場から賛同できないというのが反対論の骨子でしょう。  そこで、さっきと反対に、さっきは刑法の中から留置処分というようなものを出したらどうかという一つの議論があるわけですが、今度は留置施設法案なんというものを単独で出さずに刑事施設法案の中に包含さしたらどうなんだろうか、そしてその恒久的なものでないという点さえ明らかになるならば、これは案外早く通るのじゃないかという感じもしないではないんですが、この点は大臣としてどんなふうにお考えになりますか。
  68. 石山陽

    政府委員(石山陽君) 確かに一つの御提言だろうとは思います。しかし、実は私どもで刑事施設法案によりまして新しい被収容者処遇を図ってまいります上で、被勾留者あるいは被逮捕者といういわば未決状態に置かれておりまする収容者の問題が処遇上生じてまいります。その際に、警察も現在戦後の警察法によりまして犯罪の第一次捜査権を持っておりまして、みずから令状を請求し、逮捕をし、検察庁に送致するまでの期間捜査をすることができる旨の権限上の規定を持っております。そこで、警察みずから逮捕した者の被逮捕者の処遇、そういったことをひとつ考えてみますると、そのために現在法令的な整備がなされていないというのはやはり国の行政組織の上では非常に問題点になろうかというふうに考えるわけでございます。そこで、刑事施設法案によりまして、既決、未決を問わず私どもの一応の処遇に関します基本方針に定めますが、その大部分を準用する形でその受け皿としての留置施設法案をつくりたいと、こういう警察のお話もまことにごもっともだと思います。私ども、我が国のいわゆる刑事法制に関しまする基本的な体制整備の上でもこれはむしろ必要なことではないかというふうに考えておりますので、現在のところ留置施設法案を除いて、受け皿をなくしておいて、刑事施設法案だけ先にということはちょっとできかねるのではないか、これが今の私どもの考え方でございます。
  69. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これが果たして本音がどうかという点は私も疑問を持つのだけれども、警察がこういうふうに出てきて、あくまでも単独の立法を希望するということはやはり縄張り根性じゃないだろうか、余り合理的な根拠はないと私は考えているのですね。というのは、それならばなぜ今までそういう単独法がなくて公安委員会規則でやってきたのか、これはその点が説明できないでしょう。だから、今この改正に便乗して自己の権限を主張し出したのじゃないだろうかという疑いが消えない。昔から警察にはそういう意識が強かった。これは戦前からそういう意識は強烈だった。だから大臣、この点は、やはりこれは随分困難はあると思いますが、もう一遍検討して留置施設法案というものをこれは思い切って外して、その規定を刑事施設法案の中に入れてしまう、そうして代用監獄制度について何らかの合理的な見通しを示して、これの法案の前進を図るという手段に出られた方がいいと思いますよ、それは司法関係者全員がそういうことを希望しているんですから。それはもう警察に対し気兼ねすることから、そういう司法関係者全員の希望というものを抑えつけて、あくまでも原案に固執するというのは私は大政治家のとるべき態度ではないと、こういうふうに考えているのですが、大臣いかがでしょう。それだけお伺いします。
  70. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 御意見として貴重な御意見でございますので、承っておきたいと思います。
  71. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 死刑は、大臣どんなふうにお考えですか。これは残念な刑罰であるし、教育刑の理念に反するから廃止すべしという議論がありますね。サッチャー首相のような鉄腕をもってしてもその復活を阻まれた経緯があります。これは保守党の議員さえもサッチャーに背いて死刑の復活を認めなかった。欧米先進国の中には死刑についてこれをむしろ是認する者が少ないと言われておりますね。大臣は死刑についてどんなふうなお考えを持ちますか。まず、それをお伺いしたい。
  72. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 死刑の問題、これは個人としての人生観とか、そういうものと深くかかわっていろんな考え方があると思います。これはもう先生には釈迦に説法でございますけれども、それなりに刑の歴史の中においても死刑問題は常にいろんな立場から論ぜられておるわけでございます。それと同時に、私は刑に対する国民感情、これをどう考えていくか、そういうものを刑の立場から言うならば無視してはいかぬと私は思っております。そういうようなことから、いろいろ世論調査等の結果を見ますと、日本において死刑廃止ということについてはまだ国民感情として私は少数意見じゃないかなと、こういうようにも受けとめておるわけでございます。そういうことで、死刑制度そのものについて現在の制度を離れて論じると言ったらいろいろあるかと思うんですけれども、私の立場でこれまたどうのこうの生言うのは大変どうかと思うものですから、私は非常に一般的な答えになりますけれども、やっぱり国民感情の動向等をよく見きわめた上でこれは判断していかざるを得ないと、こういうように考えております。
  73. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大臣のお答えをそんたくいたしますと、やはりどうもやむを得ないというような結論になるんでしょうね。それじゃ、事務当局から死刑執行の許可を求められたら判をやっぱり押す、そういうおつもりですな。
  74. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 大変厳しいというか、お答えするには大変つらい質問でございますが、個人的にはそれは押したくないというのが本音でございますけれども、やはり判決というものの重みを考える、そしてそれは判決だけじゃなくて、これはほかの刑と違って法務大臣の命令を必要としておるということもございます。そういう立場になって考えますと、法務大臣というのはこれは大変な仕事だなと私は思っておるわけでございます。そういう意味で、もしそういう立場に置かれた場合にはそれこそ訴訟記録を真剣に読ましていただいて判断せざるを得ない、こういうように考えております。
  75. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大変興味のある御答弁なんですよ。訴訟記録を一生懸命読んで判断するというと、判を押す場合もあるし押さない場合もあるという結論にならざるを得ないので、ちょっと初めと違ってきますね。  その一つの具体的な例として平沢貞通氏の問題がありますね。獄中三十二年、よわい九十二歳を数えるというんですが、これは一体どうなるんでしょう。これは大臣としてはどういう御方針ですか。
  76. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 事務当局からお答えいたします。  平沢貞通につきましては、現在十七回目でございましたか再審請求が出されておりますし、四回目の恩赦上申がなされておりますので、現在その再審及び恩赦の方の経過を見守っておるという状況でございます。
  77. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 なかなか大臣としても非常に良心的な私御答弁だと思うんですよ。訴訟記録を読んで決断する、これは私はおもしろいお考えだ。平沢貞通の場合は、恩赦の申請もあり、それから再審の請求もあるというんですから、これはその間は執行してはいけませんね。これはもうやはり大事な問題ですから、本人のそうしたこと、あるいは慎重に考えてやらなければいけませんが、一般論としてやはり訴訟記録により自己の信念によって判を押すか押さないかを決める、こういうことになるわけですか。
  78. 住栄作

    国務大臣住栄作君) いずれにいたしましても大変本当に重要なことでございますので、慎重の上に慎重を期して判断をいたしたいと思います。
  79. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それで、刑事局長にお尋ねしますが、一体死刑というのは年に何件ぐらい執行されるんでしょうか。現に執行の準備をなさっていらっしゃる例もあるんでしょうが、大体平均して年間何件ぐらい執行されています。
  80. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 死刑に関しましては、戦後を考えてみましても非常にその時期によって数に多寡がございますので、大体何件ぐらいという平均値を出すのはちょっと難しいかと思います。試みに最近五年間の状況を申し上げますと、昭和五十四年から五十八年までの五年間、この間の死刑執行人員は五名でございます。そういう意味で最近の五年間の平均をとりますれば年一件ということでございます。それ以前はそれより数が多いかと思います。
  81. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今死刑囚で執行を受けずに待機しておる者は総計で何人ぐらいおりますか。
  82. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 死刑確定の未執行者でございますが、本日現在で二十六名でございます。
  83. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今これは局長の方からいただいた書面によりますと、確定後一年以内の者が一名、一年を超え二年以内の者が一名、二年を超え三年以内の者が三名、三年を超え五年以内の者が九名、五年の超え八年以内の者が六名、八年を超える者が六名、こういう表になっているようですが、これは間違いないですね。
  84. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) そのとおりでございます。
  85. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 最近、死刑囚の再審事件で無罪判決が二件続きました。恐らく仙台地方裁判所の松山事件も同じような結論になるのではないだろうかと考えているわけであります。この再審事件で殊に死刑囚が無罪になる、これはどう考えたらいいんでしょうか。一つには、罪のない者を何十年も死刑執行の恐怖にさらしながら拘禁していた、これは大変な司法の過ちであります。それからもう一つは、真犯人を逸して被害者の遺族に耐えがたい精神的な無念さを浅さしているということにもなります。第一に責任を負うべき者は私は捜査に当たった警察であろうと思いますけれども、警察の捜査の誤りを見抜けなかった検察官にも過ちがありますし、検察官は法律の素養も十分にお持ちであるし、人権じゅうりんなんということについては人一倍厳しい感覚を持ってそういうことのないように適正な捜査というものを行わなけりゃならぬ責任があります。第三には、やっぱり裁判所にもそうした誤判の責任があるわけであります。  最近、無罪になりました財田川事件、これが無罪の判決がなされましたのには、担当弁護士でありました矢野伊吉さん、この方の努力が根底にあったようでありますが、これは事務総長に、もうこれ読んでいらっしゃるかもしれませんが、矢野伊吉さんはこういうことを言っているんですよ。「最高裁が自ら本件谷口の違法拘禁をなし遂げ、谷口を苦悩のどん底におとしいれた元兇であり、法を違法に操った大犯人であることを知ることができる。谷口を違法に拘禁しているのは犯人を裁判し処罰すべきことを要求している最高裁自体であったのだ。最高裁が犯罪の元兇だったのだ。」、こう言って最高裁判所の過去における処置を論断しておられるわけですね。最高裁の裁判官も良心的に一生懸命やって過ちを犯したのであって、ここまで非難されてしかるべきかどうかという点はこれは議論の余地がありますけれども、しかし何にしても警察、検察裁判所、この三者の過ちが複合されでこういう再審事件ということになったんでしょう。これはやはり、きょうは法務大臣検察の最高の位置にあられる方として、また事務総長裁判所の行政事務を総括なさるお方として、これはいずれにせよ、この問題について国民に対して何らかの釈明的な御発言があってしかるべきだと思うんですが、その点いかがでしょうか。まず、大臣から。
  86. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 免田事件に引き続いて財田川事件につきましても、しかも死刑という判決、これが覆ったわけでございます。そういう意味で、これは私ども本当に深刻な事態として厳しく反省をしなければならない、こう考え、同時にこういうことがこれから二度とあってはならない、そういう意味検察立場で慎重に事件を取り扱っていく、そしてそういうことが二度と起こらないように自戒をする、このことが一番必要なことであると考えておるわけでございます。
  87. 勝見嘉美

    最高裁判所長官代理者(勝見嘉美君) 寺田委員指摘のとおり、いやしくも無事を罰することがあってはならないことは刑事裁判の鉄則でございます。事件を担当しております一線の裁判官はあくまでも裁判に誤りなきよう努力しているものと私どもは信じているところでございますけれども、御指摘の再審におきまして無罪の判決が二件相次いで出たということにつきましては非常に深刻に受けとめております。  具体的な事件につきましては、当該担当の裁判官の判断の是非とかにつきまして私ども意見を申し上げる立場にはございませんけれども、先ほど大臣からもお話がございましたように、このようなことは二度とあってはならないことでございますので、およそ刑事裁判を担当する者といたしましては全力を傾注して証拠を検討して、熟考を重ねて慎重に事実認定をしていただきたいというふうに考えているところでございます。このような深刻な事態を契機といたしまして、改めて各裁判官がその職責の重大さに思いをいたしていただきまして、繰り返しになりますけれども、今後このようなことが絶対に二度と起こらないように自戒、研さんに努めて、適正な事実認定を目指して努力して国民の負託にこたえていかなければならないというふうに考えております。寺田最高裁判所長官も就任以来、適正な裁判ということを常に申しております。事務総局といたしましても、誤りなき裁判、事実認定の適正を期するために種々の方策を講じてきておるつもりでございますけれども、今後とも十分この辺に意をとどめまして、二度と過ちのないように持っていきたいというふうに考えておる次第でございます。
  88. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 別段特に具体的に、例えば先ほど矯正局長がおっしゃったように、警察が捕まえてきた者を留置場に入れておくというのはある程度やむを得ないというような見方もありますね。しかし、少なくも検事に移管された後はやはり拘置監の方に移管した方がいいように思いますね。留置場におるとどうしてもやはり警察の圧力というものがあって、心理的にその警察における自白から脱し切れない、物理的にも。ですから、そういう配慮が必要だと思います。それから、ベテランの検事が当たるということもありますが、しかし仁保事件、私どもが無罪判決をかち取った仁保事件というのも、あれは次席検事がみずから捜査しておるわけですね。だから、ベテランの検事でも過ちを犯すのだから、ベテランの検事が担当しなければいかぬといっても必ずしも誤判を断ち切るわけにはいかないようであります。何らかの意味でこれはやはり具体的に方法を検察庁にも裁判所にも御検討いただきたいと思うんです。  これは私の希望を述べるだけで、再度ほかの質問に移りたいんですが、それはまだまだたくさんありますが、精神病院が患者にリンチを加えるということは時々今までにも報道があるわけですね。これは私どもの知っている限りでも過去に大分こういう事件がありましたね。粟岡病院事件、これは四十三年十二月に発生して、やはり患者が死んでおります。それから安田病院事件、これは四十四年七月に発生しておる。中村病院事件、これも四十六年八月。北全病院、四十八年二月。水口病院、四十八年十二月。こういう精神病院のような、患者が外部とのコミュニケーションを断ち切られたような場所で看守にある者がやるというのは、公務員が暴行、凌辱を加えるのと余り違いがないですね。それだけに非常にこれは悪質なんですよ。宇都宮病院事件というのを我々直接捜査したわけではないが、報道機関による報道をいろいろ総合してみてもこれは大変な事件なんですが、これは少し刑事事件としても慎重に扱っていただきたいと思うが、人権擁護局がこれは患者の人権を守るためによほど慎重に対応していただかないといかぬ。この点、刑事局長人権擁護局長対応をお伺いしたいんですが。
  89. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) ただいまの宇都宮の報徳会事件につきましては、ただいま第一次捜査機関でございます警察当局が捜査を開始したということでございますので、検察庁といたしましては警察と緊密な連絡をとって推移に応じて適宜適切に対処するものと考えております。一般的に閉鎖されました精神病院等の中における犯罪につきましては、今先生御指摘のとおり厳正に対処すべきものと考えております。
  90. 鈴木弘

    政府委員鈴木弘君) 人権擁護局からお答えいたします。  本件につきましては、人権擁護機関といたしましても、栃木県当局から事情聴取するなどこれまでも鋭意情報収集に努めてまいってきたところでございますが、今後とも情報収集に努め、適切に対応いたしまして、人権擁護上万遺憾なきを期したいと、このように考えております。
  91. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 最後に一問お伺いしたいことがある。これは刑事局長、この間、サラ金問題で東京都庶民金融業協会の総務課長の遠藤悦三氏が業務上横領で逮捕されましたね。それから、これは特捜部がやった。普通ならば当然刑事部がやるものを特捜部がやっておる。で、帳簿を段ボール箱四十八個分を押収したと。これがいまだに勾留されておる。普通ならば業務上横領事件でこんなに勾留が長引くということは考えられないでしょう、常識上。これをなぜいまだに勾留して犯罪を捜査しておるのか、だれしも皆疑問に思っておるんですが、あなた方は捜査中ということで余り多くをおっしゃらぬのだけれども、これはどういう罪名で犯罪に関して捜査をなさっていらっしゃるのか、それをお伺いしたいんですが。
  92. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) お尋ねの事件についてでございますが、最初に特捜部がなぜ扱ったかということでございますが、これは特捜部におきまして本件事件の端緒を得た、端緒を得ましたのでその特捜部が捜査を開始して行っておるということでございます。あと、段ボールの押収その他の内容に関しましては、まだ現在捜査継続中でございますので、その詳細は差し控えさしていただきたいと思います。現在この遠藤悦三という者、業務上横領の容疑で逮捕いたしまして、二月二十二日に起訴をいたし、その後同人に対する業務上横領については捜査を継続中でございます。なお、その他何を捜査しておるかということにつきましては、内容については詳細は差し控えさしていただきたいと思います。
  93. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは業務上横領について捜査を継続しているのか、他の犯罪について捜査を継続しているのか、その点はいいでしょう、言っても。
  94. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 何を捜査しているかということにつきましては、お答えを差し控えさせていただきたいと思います。
  95. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 大臣所信表明の中で、人権擁護思想の徹底、また人権侵害被害者の救済ということについて努めなければならないというお話がありましたが、私案は昨年八月の当委員会におきまして、最近のマスコミ、特にテレビあるいはマイクの取材が、特に重要な事件の被疑者あるいは大きな事故に遭った被害者の家族等についてひどいものがあるということで質問をいたしまして、そのとき法務省当局からそのことについては「全国的組織体である全国人権擁護委員連合会に何らかの提言ができるだろうかと検討方を依頼すること」を考えておる、このような御答弁がありましたが、私事態を見ているとちっともよくならないので、その点どういう措置をとられたか、お伺いをいたします。
  96. 鈴木弘

    政府委員鈴木弘君) お答えいたします。  御答弁申し上げましてから早速人権擁護委員の全国組織体である全国人権擁護委員連合会にお話しいたしましたところ、同会におきましては、この問題につきましては同会内でも以前から種々論議されてきたところであり、何らかの対応を検討してみるということでございましたが、同会では近く「マスコミとプライバシー」という表題のもとにシンポジウムを開催することを企画準備しているということでございます。その趣旨は、マスコミとプライバシー問題につきまして問題点を明確にするとともに、情報の送り手受け手及び情報の提供者の間の相互理解を深め、その中からより健全な方向への発展の道を考えるためマスコミ関係者や学識経験者の方々を中心にシンポジウムを開催し、一般の方々の参加をも得まして、自由な意見の交換ができる場を提供しようとするもののようでございます。この問題につきまして、国民の皆様方によくお考えいただきたいと思っております。また、マスコミ関係の方々にもよくお考えいただいて、自浄作用を機能させるための参考としていただければ幸いだと考えておる次第でございます。
  97. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 私は、事態がちっともよくなっておらぬ。特にことしの初め、三池の有明鉱で大惨事が起こりましたが、そのときの取材態度はまことにひどいものがございました。それをしかも朝日新聞の「天声人語」、これ大体反権力の傾向の強いところですが、ここですら「坑内の夫の安否を気づかう夫人にテレビのライトが浴びせられる。顔が大写しになる。取材者はマイクをつきつけてしつこく感想をきこうとする。夫人はしまいには、答えるのを拒んでうつむいてしまう」、これは「天声人語」ですよ、一月二十日の。それで後で「いきなりライトを浴びせ、マイクを強引につきつけることの荒っぼさについてである。夫の安否を気づかって祈り続ける妻や、息子の死をなげき悲しむ母親に対する時は、厳しい自戒と節度が必要ではないか」と、朝日がこう書いているんですよ。  それから、大臣が出かけられるそうですから、後で申し上げますが、まあ名前は伏せますが、三和銀行事件の女性被告が一月十七日に和歌山刑務所を出所した。出所しても出ることができない。だから刑務所側では日を変えた。今度は自宅にはもう前々から百名の報道陣が詰めかけて、帰れない。仕方なくどこか知人の家にかくまわれておる。自分の家へ帰りたくても帰れない。こういうような状態があるのについて、法務大臣どう思われますか。
  98. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 御指摘のように、言論、表現なりあるいは出版の自由、これはあるわけでございますが、マスコミの取材に当たりまして、今も御指摘のような行き過ぎと思われる、あるいは行き過ぎのケースというものがあるわけでございます。これは人権立場から考えまして大変重要な問題であると思っております。表現、出版の自由という権利と、それから人権、これはやっぱり調和よくバランスがとれていなければならぬわけでございまして、そういう意味で私はマスコミの皆さんもひとつ良識を発揮していただいて、自主的にしかるべき態度をとられるというのが一番いいのではないかと考えておるわけでございます。今も人権擁護局長から申し上げましたように、人権擁護の全国連合会とマスコミ界との意思疎通を図るということも非常に重要な手だての一つだと思います。いずれにいたしましても、マスコミ界、ひとつ自主的に節度を持って事に当たっていただく、こういうことをマスコミの良心にかけてやっていただけたらなと、こう思っておるわけでございます。そして、私どもといたしましてもそういうような方向に前進していくようにあらゆる努力を続けていかなければならないと考えておるわけでございます。
  99. 大川清幸

    委員長大川清幸君) ちょっと速記とめて。    〔速記中止〕
  100. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 速記起こして。
  101. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 これは週刊誌ですから必ずしも全部が事実とは思えないと思いますけれども、これは名前はできれば伏せた方がいいそうですけれども、週刊誌で、三和銀行事件の女の被告だった人が昨年の暮れに出所する予定だった、ところがマスコミに感づかれて見送りにした、そして結局一月十七日の朝になったが、これもマスコミに漏れていたらしいので大変なことだったと。それから「17日朝、母親のもとに預けられたという彼女の姿は、京都府向日市」「の自宅にはない。その翌日も約八十名の報道人がぴったり自宅をマーク」しておったと。それで、その人は京都の「知人宅にかくまわれている。その隠れ家から」「一歩も外に出ず、ときおり一人になった時は、ひっそりと過ごしている。仮釈放で刑務所から出所して自宅に帰れることを念願にしていた彼女だが、相つぐマスコミ攻勢にいまだ自宅に戻れず、「獄中生活」の状態が続いている。」と、まあ若干オーバーとは思いますけれども、こういうことについて出所させる刑務所側はどういう配慮をしたのか、それをちょっとお伺いしたい。
  102. 石山陽

    政府委員(石山陽君) 今、海江田委員せっかく人権配慮の点から名前をぼかしておっしゃられましたので、私は便宜上Iさんと申し上げておきます。恐らく先生御質問のは私の申し上げるIさんのケースと思いますが、本人につきましては本年の一月十七日に仮釈放になりました。これは事実でございます。ただ、今記事をお読み上げいただきましたけれども、週刊誌報道にありますように、前年の暮れに予定であったという点につきましては必ずしも真実ではないと思います。当日でございまするが、もとより私どもはそのような取材の動きがあることを察知いたしましたので、本人がいつ仮釈放で出所するかにつきましては発表をいたさないということで終始いたしました。ところが、やはりマスコミの皆さんは目から鼻に抜けられる方が大勢おられますので、当時、早朝から刑務所の正門の前に多数の人がお集まりになるという事態が生じましたので、私ども、出所時に無用の混乱が起きないようにという配慮から、本人は、適役用のバスと申しまして一般の受刑者のうち外部の工場等に外部通勤の形で出役する者がおりますが、その者たちの乗るバスに乗せまして外へ出しました。そのため出所時におきましてはマスコミさんたちの察知するところとならず、出所時の混乱は防止できだというのが実情でございます。
  103. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 当然、こういう事態になって、刑余者、まあ仮釈放ですが、刑を受けてこれから更正しようとする人に対しては私は当局側は温かい配慮でそれを守ってあげなければいかぬと、こう思うんですが、その場合にそういう現場で人権が大きく侵害されるおそれがある場合に、刑務所側は地元の人権擁護委員その他と連絡をとって人権が守られるように、またマスコミに対しても申し入れをして、余りそういう刑を終えた人が出てきたのをいかにも物笑いの対象にするようなことは避けるべきだと思うんですが、人権擁護上の立場から人権擁護局としてはどういう処置をとられたか、御説明願いたいと思います。
  104. 鈴木弘

    政府委員鈴木弘君) 私もIさんと呼ばしていただきますが、Iさんが仮釈放になった直後、多数のマスコミ関係者が取材のため連日保護観察所の周りに待機したり、昼夜を分かたず同人宅を取り囲んだりして、同人の保護観察所への出頭はおろか、自分の家への帰宅さえもできない状態になったということは人権上問題であるともとより考えておるところでございますが、このような過熱した取材攻勢につき保護局から、本人はもとより他の保護観察対象者に対する保護観察の実施上も支障を生じているとの相談がございましたので、当局といたしましてもマスコミ内部での自浄努力により問題を解決する方途がないかどうか、新聞協会内にありますマスコミ倫理懇談会に担当官が赴きましてプライベートな形で懇談をしたことがございます。私ども人権擁護機関といたしましては、個人のプライバシーの問題はまずもって本人の意向をも十分そんたくした上対応すべきものと考えておりますが、殊にこのようにして国会でもお取り上げなさったことでもございますので、本人の意思を確かめて、必要があれば今後適切な対応をしたいと、このように考えておるわけでございます。
  105. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 今プライバシーの問題とおっしゃったけれども、私はそれはちょっと合点がいかない。これはプライバシーの問題じゃないですよ。これはもう完全に国の立場で刑罰を科して、やっとよくなったから仮釈放しようということで更生するために出したわけですから、何もその人のプライバシーと関係ないです。その人が出る前から物見高に、これひどいのはひどいですよ。バーのママにしようかとか、映画の主演にさせようかとか、私はこれはのぞき趣味だと思いますよ。今さっき大臣は出版、表現の自由と言われたけれども、私は思想、信条、宗教、信仰、学問上の自由とは違うと思う。これはのぞき趣味ですよ。そして、しかもそれをねらっているのは金もうけですよ。そうでしょう。金もうけののぞき趣味に対して何がプライバシーですか。私は国として大きな欠陥があると思いますよ。私は人権擁護局長法務省はもう堂々とマスコミに対して、そういう取材した者に対して面と向かって言うべきだし、それから人権擁護委員会に対しても強い申し入れを私はすべきだと思うんですが、どうでしょう。
  106. 鈴木弘

    政府委員鈴木弘君) こういう報道の問題は、言論、出版の自由というようなことにかかわりがある重要な問題であるわけでございます。それで、私ども、先生がおっしゃいますように、なるほどそのこと自体を取り上げればやはり言論、出版等の自由を超えたものがあるという事例が見受けられますので、これは人権上何とかしなければならないと、このように考えておるわけでございます。しかし、この問題につきましては、例えば先ほど申しましたマスコミ倫理懇談会の方に私どもの方が御相談に上がりましたことが、ある新聞では法務省異例の自粛要請というような受け取り方をして、公権力の介入は不当だというような評論家のコメントが付されたりしておるわけでございまして、先ほど大臣も申されましたように、重要な問題でございますので、やはりマスコミの自浄努力に期待したいということをおっしゃいましたし、私もそのように思うわけでございまして、そういう真意というものがやはりこういう形で誤解されるということは甚だ不本意でございますので、やはりこの問題につきましては、先ほど申しましたように慎重に対応していきたいと、このように思っておるわけでございます。
  107. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 どうも不本意ではないと私は思うんです。ここのサンケイ新聞の三月十二日号に、取材の自粛申し入れがマスコミ倫理懇になされたというから、私は双手を挙げて賛成しておった。ただ、これがサンケイ新聞だけ書かれて、ほかの新聞に書かれてないからこれおかしいじゃないかと、こう思っておった。私は新聞に取り上げてもらいたいですよ。それで、今の評論家から文句を言ってきたというなら、それは評論家、この委員会にひとつ呼んで意見を聞こうじゃありませんか。私はのぞき趣味だと思いますよ。表現の自由は私は大いに尊重されなくちゃならぬと思う。しかし、その名前で金もうけや、それから人を物笑いにする、これは私は許されないと思う。私が言うのは、これからVAN、いわゆる付加価値通信網とか、いっぱい通信が発達するんですよ。茶の間でもいっぱい見られるようになる。ますます競争が激しくなって、そういうものをおもしろ半分に取り上げようとする。榎本三恵子、しかりでしょう。それから今度は筒見なんかとかいう、しかりでしよう。  私は、やっぱり少なくとも刑を受けて出てきた人は、絶対これは守ってあげなければいかぬと、このように思うんですよ。私は、全般に出版、報道、それから表現の自由は大事だ、しかし少なくとも刑を終えて出てきてこれから更生しようとする人に対しては、私は国を挙げて人権を大事にしてあげることが大事だと思うんです。それには恐れちゃいかぬ。それから、特に私さっき申し上げましたけれども、あの航空機事故あるいは炭鉱爆発の被害者、こういうときの取材にはよほど慎重にやってあげなければいかぬ。私はこの前のグリコの江崎社長事件のときも、あの取材は酷だと思いますよ。帰ってきたとき、四十何時間もとめ置かれて出てきたときに、出てこいと。まあいやいやながら出ていましたね。やっぱりその辺は私は国民の知る権利であるけれども、のぞき趣味的な知る権利はそんなにこたえる必要はないと、こうも思うんです。  それで、余りあなた方を責めてもしようがないが、六月九日のマスコミとプライバシーに関するシンポジウム、これでひとつぜひこの問題を取り上げて、プライバシーだけじゃない、刑を終えて出てきた人、そういう人たちに対する問題も含めてやってもらいたいし、それからマスコミ倫理懇談会に私は一回正式に法務省として申し入れていいんじゃないでしょうか。これを特に希望いたします。その点について、いかがでしょう。
  108. 鈴木弘

    政府委員鈴木弘君) 先生のおっしゃる御趣旨よくわかりますので、それを念頭に置いて適切に対応いたしたいと、このように思っております。
  109. 海江田鶴造

    海江田鶴造君 マスコミというのは怖くて、特に選挙をやる者は怖いのですよ。だからつい言わないけれども、これが昔陸軍、今マスコミで、やっぱりやられるんです。だから私はそれを、タブーに挑戦するのを今一生懸命考えておりますので、これはひとつ人権擁護局は天下の正道だから、びくびくしないでやってください。それだけ要望いたしまして、私の質問を終わります。
  110. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時三十分まで休憩いたします。    午後零時十五分休憩      —————・—————    午後一時三十三分開会
  111. 大川清幸

    委員長大川清幸君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  委員異動について御報告いたします。  本日、徳永正利君が委員辞任され、その補欠として柳川覺治君が選任されました。     —————————————
  112. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 休憩前に引き続き、検察及び裁判運営等に関する調査を議題とし、住法務大臣所信に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  113. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 本日、大臣所信表明を承りまして、いろいろたくさんの問題がございまして、まだ理解しがたい点もございますので、お尋ねを申し上げます。  この問題に入ります前に、午前中に同僚議員から御質問ございました件で、犯罪を犯した方が立候補される点についての問題がございました。大臣、個々にたくさんの犯罪を挙げておられまして、こういう一般犯罪たくさんあるわけですが、こういう犯罪を犯しまして裁判所が有罪の判決を下した場合に、その人が公職の選挙で出る、公務員になるということは、一般の国民の人にいろいろ聞いてみますと、これは好ましくないと、こうおっしゃる人が大部分なんでございますが、大臣の御見解はいかがでしょうか。
  114. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 基本的には私は本人の問題じゃないかなと、こういうようにも考えておるわけでございますけれども、現行制度のもとにおいては、立候補の自由あるいは被選挙権の要件等ございますけれども、それに該当しない方が立候補されるということについては制度上チェックするすべがないわけでございますから、いいか悪いかという問題になりますと、国民審判があるでしょうし、そういうようなことが現状かと考えるわけでございます。それを今後政治倫理等の問題に絡めてどうやっていくかということは、またこれは別の問題でございまして、現行のところ本人の問題であるというように考えております。
  115. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 犯罪を犯した人が立候補するということは、それは本人が立候補したいからするということでございましょうけれども、そのことが国民に与える影響というものは大きいからやはり問題になっていると思いますが、そこで、きょうはこの問題は余り詳しくやりません、後の日にやります。  ただ、ここで公職選挙法という法律が十一条で選挙権、被選挙権の制限の規定を置いております。この規定の選挙権、被選挙権につきまして判例の態度を見てみますと、一つだけずっと昔に大審院の判例がございますね。これでは全般的な意見を述べまして、後で補足的な意見が二人の裁判官から述べられております。それによりますと、選挙権の方はこれは憲法上の権利である、しかし被選挙権の方は権利ではない、これは権能である、つまり資格であると最高裁が見ておられるのですよ。それでよく考えてみますと、なるほどそうだと思うんです。憲法では被選挙権については法律で定めると書いてある、資格については。そうしますと、これは憲法上の権利ではないという最高裁の御意見が正しいのではないかと、こう思いますが、大臣の御所見はどうですか。
  116. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 私、昔の判例を浅学にして知らないので、どうもはっきりしたことが申し上げられませんが、被選挙権が憲法上の権利かどうかと言われると、やはり要件は選挙法で定めるかどうかは別問題といたしまして、私はやっぱり被選挙権も権利じゃなかろうかなと、しかし自信を持ってお答えすることはできないのでございますが、お許しいただきたいと思います。
  117. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 この問題は最高裁の御意見大臣の御意見の問題ですから、後の宿題に残します。  それで、きょうはその問題は余り触れませんが、選挙法の十一条の問題につきまして、ああいう公務員の資格に関する問題についてよく三審制の問題を例に引かれまして、裁判の確定したときにだけ制限を受けるのであって、そうでない場合は制限を受けないのだ、こういう御意見が多いようでございますが、そうなりますと一つ非常に不思議なことがございますのは、公職選挙法の二百五十二条というのがございまして、選挙犯罪につきましてははっきりと「裁判が確定」とあるんですよ。「裁判が確定した」ときに云々と、こう書いてあるんですが、ところが十一条の方ではそういう言葉が使ってない。そうしますと「禁錮以上の刑に処せられ」たという言葉の問題は解釈の問題になるのではないか。それを確定した場合だというふうに言うのは、それは解釈であって、法文の字義から来ている問題ではないと、私どもはそう理解をするんですが、大臣はいかがお考えでしょうか。
  118. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 直接刑事部の問題ではございませんが、御指摘の公選法の十一条、資格のところに書いでございますが、これは私どもとしては、やはり刑が確定した者というふうに解釈いたしております。
  119. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 この問題、余り詳しくやっておると時間がなくなるのでやめたいのですが、それでは一つだけお聞きしますと、刑に処すという言葉は、これは刑法にあるでしょう。裁判官がこれこれこういう罪を犯した場合に徴役何年の刑に処すと、こう判決を下される。その刑に処すと下されたその一つの言葉の中には刑の確定という言葉の意味が入っておりますか。
  120. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 言葉から考えます限り、直接には入っていないように思われます。
  121. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 言葉の字義に入っていないということは、やはり十一条の解釈でございますね。これは宿題に残しておきますよ、将来また聞きますからね。これはひとつ御検討願いたいんです。きょうは担当の大臣もおいでになりませんので、選挙法はこの程度にしておきます。  そこで大臣、いろいろ犯罪をお挙げになって、こういうことじゃ困るということで、「検察態勢の一層の整備充実に意を用い」ると、こうおっしゃっておるんですが、言葉はわからぬではないんですが、その内容は一体どういうものか、整備内容、充実の内容、お伺いいたしたいわけでございます。
  122. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 「検察態勢の一層の整備充実」という言葉でございますが、申し上げるまでもなく、最近の犯罪情勢は量的に増大しているのみならず、質的にも各種の犯罪が非常に複雑多様化、あるいは広域化の傾向を強めておるわけでございます。そういう現状に対処して、適正な検察権を行使いたしますためには、人的、物的両面において検察態勢整備充実が必要であろうと考えるわけでございます。その具体的内容でございますが、いろいろな点がございますが、大きく事項的に申し上げますと、まずは犯罪の多様化あるいは広域化に対応するために専門的な捜査官の養成でございますとか、あるいは検察の機動力の強化、あるいは検察事務の科学化、効率化、あるいは犯罪情報の収集、管理体制の充実、あるいは国民協力という面から検察活動に対する国民協力確保というようなことに意を用いたいというのが具体的内容でございます。
  123. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 ちょっと具体性がわからないように思いましたけれども、無理もないと思いますのでこれ以上は申しませんが、法務省それから法務大臣の方では国際政治のことはよく御研究でしょう。普通は国内政治をやっておりますけれども、国際政治法務省といえども御関係があるのではありませんか。お尋ねします。
  124. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 国際政治と広くなりますと、直接関係があるともないとも言えないわけでございますが、検察当局の観点から申し上げますと、最近の犯罪が非常に国際化いたしております。そういう意味で、犯罪の国際化ということで国際政治にも関係を持ってまいりまして、その意味でいろいろのことを配慮いたしておるわけでございます。
  125. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 国内政治と違いまして、国内政治は福利民福を図る方ですけれども、国際政治というのは外国との間で支配被支配の関係を築き上げるものでございますね。これはこういう仕事を担当しておる日本の政府機関というものは外務省ではないと思うんですよ。外務省は外交であって、外務省以外に国際政治を担当しておる官庁があると思いますが、これはお聞きしないとわからないんですが、例えば国際犯罪だと、こうおっしゃいました。国際犯罪という概念に入るかどうか知りませんが、国際政治を左右するような行為、これが日本に不利益を与えるような場合にこれは犯罪にならないかどうかという問題ですが、いかがでございましょうか。
  126. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) やはり犯罪と申しますと、特定の犯罪行為でありまして、それが私ども国際犯罪と申しておりますのは、その当該犯罪が国際間にまたがって行われる、あるいはそれが国際間に影響を及ぼすという意味で国際犯罪というふうに考えております。
  127. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 よく衛星を飛ばしてスパイをやるということが載っていますね。あれは機械を用いてのスパイなんですが、スパイの一番の上手なのは、政治の中枢に入って、そして政治の中枢におる人の考えておることを全部探り出す。これはもう非常に巧妙なやつで、これが今でも何らかの方法を講ずれば犯罪になるんですけれども、巧妙にやっているために犯罪にならない。こういう問題につきましてほっておいて例えば日本の国の外交交渉が不利になり、あるいはいろいろの貿易交渉が不利になるんですね。漁業交渉も不利になるといったような問題、こういうものを放置しておいていいとお考えでしょうか、それともこれはいけないとお考えでしょうか。
  128. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) かつていろいろな例が歴史的にあったようでございますが、いわゆる国際スパイ事件と申しますか、そのようなものが法令に触れる場合にこれは許さるべきでないというふうに考えております。
  129. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 許すべきでないというだけではちょっとわからないんですが、どういうようなふうにお考えでしょうか。これは放任主義でいくお考えか、それとも何か取り締まりの方針であるのか、いかがでございますか。
  130. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 国際スパイはいろいろな形の行為が考えられるわけでございますが、これは厳正かつ的確な刑罰権が行使さるべきことは当然でございます。検察当局といたしましてもこの種事件に対しましては、その形態に応じまして、例えば刑事特別法あるいは国家公務員法あるいは出入国管理法その他現行の各種法令を多角的に活用いたしまして、適正かつ厳正な捜査処理に努むべきものと考えております。
  131. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 これは、こういう私今質問しているのは単にスパイをどうせよという問題じゃないんですよ。これは今度国籍法改正なさるでしょう。国籍法改正なさるに当たって、二重国籍を認める場合に、いわゆる政治的な制限を加えるのかどうかということが中心にあるわけですね。政治的な制限を加えるということになりますと、憲法十四条の違反になりはしないか。それから、二重国籍を認めないということになりますと、どっちか一つの国籍を選ばせるわけですが、我が国の態度だけで一体できるのか。外国もあることですから、外国が属人主義をとっているときに我が方が父母両系主義をとってみてもどうにもしようがないことではないか。こういうようなところは実は政治の中枢に外国の手が入る一つの根源になると思われますので国家主権を侵す問題になると思いますが、それでお尋ねしているわけです。こういう問題をどうお考えでしようか。
  132. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) 近く御審議をいただく予定になっております国籍法の今度の改正案によりますと、父母両系主義をとることによりまして、現在よりも二重国籍が増加してまいるだろうと思われます。そうしますと、いろいろ国籍の抵触の関係で問題が出てまいりますので、なるべく二重国籍を解消して単一の国籍にしてもらうというような方策を考えておりますけれども、ただいまお話ございましたように、外国の国籍法との関連もございますので、完全に単一の国籍にしてしまうということは現実問題としては不可能であろうかと思います。そうしますと、いろいろな問題が残るかもしれませんけれども、その点につきましては、もし重国籍であることのために、合理的な何かの制限をするというのが各法の分野で検討されることもあろうかと思いますけれども、ただ、重国籍だからといってスパイが非常に多くふえるということの可能性もそんなにはないだろうと思いますし、各法域の方でそれぞれ御検討いただかなければならないだろうと思いますが、重国籍だからといって、また余り強い制限を加えることもどうかという面もございますので、その辺は慎重に考えなければならない点であろうかと思います。
  133. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 私はスパイが多くなるというふうには考えないんですよ。スパイが多くなるという問題よりも質の問題、つまり例えば例ですが、重国籍の人が総理大臣になった場合にどうなるのか。最高裁長官になった場合にどうなるのか。そういう人を総理大臣とか最高裁の長官にしないということが一体今の日本の憲法で、差別を廃止しておる憲法でできるのかということをお尋ねしているわけです。
  134. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) 二重国籍者も、もちろん日本の国籍を持っておる日本国民でございます。いわば日本の主権者の一人でもあります。そういう面から、原則的には日本人としていろいろな公職についたりすることも可能だという一般原則があろうかと思いますけれども、例えば職種その他によりまして、極めて合理的な理由があればそれを制限するということも物によっては可能ではないかと思いますけれども、それは各法の分野におきましてそれぞれ検討さるべきことでございますので、一概にどうだということを私の立場で申し上げることはできないと思います。
  135. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 それでは、この問題はお預けにしまして、次の問題に入りますが、大臣、いろいろおっしゃっておりますので、特に私不思議な問題になる点をちょっとお聞きしたいんですが、午前中も同僚議員から御質問がございました再審の問題ですね。再審で無罪になる例がたくさんあるわけですが、これは無罪にするということは、無事の民を罰しないことはいいことですよ。そのこととは別にしまして、国家財政に随分大きな影響を与えているのではないかと思われるのですが、この無罪になった人に対する刑事補償のお金を払いますね。それから、例えば今度のカネミのような事件を見ますと、国に責任ありということで、民事責任を負わされて金を払いますね。これはみんな税金から払うわけですが、大体こういう件数、今まで五年間にどのくらいの件数があったのか、またどのぐらいの金額を支払われたのか、御質問申し上げます。
  136. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) まず、刑事補償の支給の実績を申し上げますと、五十三年度が五千五百七十六万七千円でございます。五十四年が三千九百九十九万九千円、五十五年が六千八百九十五万七千円、五十六年が三千八百七十九万九千円、五十七年が九千七百八十万円ということでございます。五十八年はただいままだ完全な集計ができておりませんが、非常に増大いたしまして、約二億五千万ぐらいというふうになっております。  件数でございますが、補償の決定のありました人員、五十三年が五十三名でございます。五十四年が五十二名、五十五年が六十一名、五十六年が四十三名、五十七年が四十七名、こういうことでございまして、五十八年はただいまちょっとございません。
  137. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 ただいまの御報告で随分多額の金額が出されていることになりますが、これが今後増大していく見通しはどのぐらいだとお考えでしようか。
  138. 小野幹雄

    最高裁判所長官代理者(小野幹雄君) ただいまも申し上げましたように、三、四千万ぐらいから、ことしのように特別二億五千万というようなことでございますが、大体ただいままでのところは四千万ぐらいから五、六千万というのが平均しているところでございます。ことし二億五千万ということで、非常に異常に多額の支出があるわけでございますが、私どもで内容をたまたま見ておりますと、これはいろいろな長年継続しておりましたような事件が今年度で解決したのが多かったということでございまして、私どもといたしましてはこれは特別な現象ではないか、こういうふうに見ておるわけでございます。
  139. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 再審で無罪になりました事例、多く出ておりますが、このきょうの大臣所信表明によりますと「適正妥当な検察権の行使に遺憾なきを期し、」云々と、こうございます。こういう検察権の行使に遺憾なきを期する、「適正妥当な」ということなんですが、再審事件が起こるということは、結局適正妥当な検察権の行使が従来なされていなかった、だからこれからやり直す、こういうわけでしょうか、お尋ねします。
  140. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 一般的に申し上げまして、検察当局におきましては、いかなる事件につきましても無罪を招くあるいは誤判が万が一にもあってはならないということで、捜査の初期の段階から適正かつ綿密な的確な捜査を心がけているわけでございます。ところが、最近一、二の例で、数十年前の古い事件が主ではございますが、再審で無罪という結果を招いておるわけでございます。それを、いろいろ理由はございますが、いろいろ反省すべき点もあるわけでございます。初動捜査のあり方の問題とか、あるいは鑑定等がいろいろ食い違ってくるというようなこともございますので、捜査の科学化をさらに進めるというようなことも必要であろうかと思います。そういう点で最近の事例等にもかんがみまして、さらに初動捜査あるいは科学捜査の徹底というような面を中心として、捜査の的確な証拠を収集し、適正な事実認定をして適正な処理を行うという点について、さらに反省を重ねて一層の充実を期したい、こういう気持ちであろうかと思います。
  141. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 再審事件が起こりますのは、今おっしゃいましたように、適正な捜査を今後やらねばならぬように、過去においてはずさんであった、こういうことだと思いますが、私はこれからも問題だと思うんです。私は、犯罪捜査は、長年自分で指導し自分で実施してきた上におきまして感じますことは、例えば殺人事件といったような事件を、警察がほんのわずかの、逮捕して四十八時間で送致せい、また検察官は二十四時間でやってしまえ、こういう短い時間でやれと義務づけることが捜査をずさんなものにしていく原因ではないかと思いますが、いかがですか。
  142. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 確かに事件の捜査、いろいろな問題ございますので、長ければそれなりにまた綿密な捜査ができるという面もあろうかと思いますが、申し上げるまでもございませんが、片や被疑者等の関係者人権の問題がございますので、その両面を考えて現在の訴訟法ができ上がっておるというふうに理解しておりますので、やはり現在の訴訟法の手続の範囲内でさらに努力をして万全を期すべきであるというふうに考えております。
  143. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 私は、実は行きそびれて非常に残念に思っているんですが、北海道に月形刑務所というのがあるということを聞いておりまして、ここは非常に住み心地のいい設備がなされておるということを聞いております。ぜひ行きたいと思っていますが、また行く機会を失いましたが、こういう住み心地のいいところならそんなに大きな人権問題は起こらないんじゃないでしょうか。つまり留置場をもっと住みよくして、みんな喜んで入るようにすれば、どうでしょう。
  144. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 警察の留置場あるいは私どもの拘置所等いろいろそういう施設がございますが、できるだけ住みよいものにしていきたいと考えております。
  145. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 この問題は、実は法務省あるいは裁判所両方の方でぜひ御検討願いたいのは、人権侵害をしないで、しかも確実な捜査という研究をぜひやっていただきたい。私どものような貧弱な捜査能力しかない者は、時間に追われて十分な証拠固めができないんです。最近の犯罪は特に証拠収集ということを困難ならしめるような、完全犯罪をねらった方向で犯人の方もいろいろ御研究になっておりますので、こちらがその犯人の方の御研究に対応し切れない。そういうところがありますので、何かうまい方法を考えませんと、どうしても裁判官に誤判を与えるような捜査をやってしまうわけです。再審という問題が起こるのは裁判官の慎重な御態度が不足したと私は思っておりますが、検察官が雑な捜査をして起訴をしましても、裁判官のところでチェックすれば、これは抑えることができるはずなんですが、残念ながら裁判官も人の子でありまして、神様じゃないので、どうしても見落とす。そうすると、捜査官のところでもっとしっかりしたものを出さなければならぬのですが、それを出し得ないような客観的な情勢が最近は強いのではないかと思われるのです。こういうような問題について私はもっと真剣に取り組んで研究をしないと、いつまでたっても誤判は免れないし、再審の問題は起こる。そのために莫大な国費が浪費されるということになりかねないと思いますが、こういう点につきましてどうお考えでしょうか、お尋ねいたします。
  146. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) ただいまの点、飯田委員指摘のとおりだと思います。私どもといたしましても、捜査技術の向上並びに先ほど申し上げました捜査に科学化を進めるとか、いろいろな点で反省すべきところは反省し、あるいは改善すべきところは改善すべく努力いたしておるつもりでございますし、また各種の研修等を通じまして個々の捜査官についてもその知識の向上、捜査能力の向上にさらに努めるべきものと考えております。
  147. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 この問題もお預けにしまして先に進みますが、きょう大臣は、刑法改正については原案をつくったからしっかり審議してくれと、こういうふうな御意見なんですが、私は実は昔から刑法をやっておりましたけれども、最近考えを変えました。現在、刑法はどうしても日本の現在の憲法を基礎にすべきだという考えになってまいりました。憲法を基礎にしない刑法はやはり正しくない。現在の政府でお決めになりました改正案を拝見いたしますると、これは明治憲法時代の思想が強く残っておると思われるわけです。殊に総則の部分でそれが見られるような気がします。憲法の第十三条には、生命、自由並びに幸福追求の国民権利とはっきり書いております。これについては立法その他国政の上で最大の尊重をする、こう書いております。そうしますと、その憲法十三条に書いておる国民権利といいますのは、一般の国民権利だと私どもは理解しておりますが、いかがですか。
  148. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) そのとおりかと思います。
  149. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 それでは、現在の刑法で、一般国民のいわゆる生命、自由、幸福追求の権利が守られておるとお考えでしょうか。
  150. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 国民の生命、自由あるいは幸福追求というものを保護するために刑法がいろいろな犯罪の類型を定め、あるいは総則にもその適用についての条文を配して、広く国民の利益保護を図っているものと考えております。
  151. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 最近、新宿の方でバスに火をつけて燃してしまった事件がございましたね。これは人が死にましたが、ああいう事件、そのほかああいうものじゃなしに、道に爆弾を投げつけて通る人に危険を及ぼした事件、いろいろございますが、生命とかそれから幸福追求を遠慮会釈なく踏みにじる行為が横行しておるわけです。これに対して現実に政府はどういう防止策を講ぜられたのか、お伺いいたします。
  152. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 政府全体の保護の施策となりますと、私の所管を越えるものでございますが、刑法の範囲で申し上げますならば、そういう不幸なといいますか、不幸な方の出るような犯罪を防止するために、刑法において各種の刑罰を科し、これを一般的に威嚇して予防しようとしているものと考えております。
  153. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 現在の刑法はお読みになればわかりますが、明らかに意思を罰する主観主義刑法ですね。刑法の三十八条「罪ヲ犯ス意ナキ行為ハ之ヲ罰セス」、逆に言えば罪を犯す意思があれば罰するぞということでしょう。意思中心ですね。それから、「心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス」、心神喪失者の行為は罰しないというのは無罪でしょう。つまり犯罪というものは一体意思なのか、あるいは人が殺された、物がとられたという結果を見て犯罪を考えるのか、どちらでございますか、お尋ねいたします。
  154. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 現在の刑法はやはり責任主義をとっておりますので、今御指摘のように罪を犯す意と申しますか、故意あるいは過失のない行為は原則として罰しない、あるいは責任能力のない心神喪失者についてはこれを無罪とするという建前をとっております。
  155. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 その建前の刑法は、明らかに犯人に焦点を当ててつくった刑法でしょう。国民に焦点を当てておりませんね。つまり被害者となるべき国民全体の者に焦点を当ててない刑法でしょう。そうしますと、憲法十三条が要求しておる生命、自由、幸福追求に関する「国民権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を」すると書いていましょう。この条文に合わないじゃありませんか。どうですか。
  156. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 申すまでもございませんが、刑法におきましては各種の犯罪を法定いたしまして、一般的な社会防衛という精神もございます。この点はまさしく先生のおっしゃる国民の生命、身体あるいは幸福追求の権利と申しますか、国民の平穏な生活を保護し社会の秩序を維持しようという目的に出るものでございます。しかし片や個々の犯人といいますか、その行為者につきましては責任のあるものについてそれ応報の刑を科す、あるいは責任に対して刑を科すという建前から申し上げまして、先ほどのように心神喪失等の行為をした者については刑は科さないというのを原則としておるわけでございまして、この点につきまして心神喪失で無罪であるので、一般の社会人の生命身体等が無視されて被害を受けるということも、先生のおっしゃる点も、そのとおりの面もあろうかと思います。そういう点から、午前中から申し上げております例えば保安処分、治療処分というものも、その責任主義を現在の刑法の建前を貫きながら、そこにやはりそれだけでは律し切れない社会防衛と申しますか、国民の利益を守るという見地から、心神喪失で無罪になりました者につきましても、刑ではない保安処分といいますか、治療処分といいますか、そういう制度を考えておるわけでございまして、その点、ただいま先生の御指摘の点と相一致するかと存じます。
  157. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 ただいま責任主義という言葉をお使いになりましたが、責任ということは一体どういうことだとお考えですか。刑法上の責任というのは、ある悪い行為をしたから、おまえ、けしからぬといって責めることでしょう。責任の責は責めるという字ですね。任ずるというのは責められてそれにこたえることが任でしょう。監獄に入ってこたえておるわけです。国としては責める方なんです。おまえ、けしからぬといって責める。何を根拠にして責めるかということがこれが責任の一番中心の問題でございましょう。今まで皆さん方が責任責任とおっしゃっているのはこれは主観的な責任ですね。憲法十三条を生かす意味での責任ではないわけです。いかがお考えですか。
  158. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 今責任主義と申し上げましたが、やはり心神喪失者の例をとってみますと、本人が是非善悪を弁別する能力がない、あるいは是非善悪を弁別して、それに従って行動する能力がないという者に対してはこれを刑法上は非難することはできないということを申し上げたわけでございまして、そういうものにつきましては、しからば先生おっしゃる十三条から出ているかもしれませんが、一般の国民の利益を守るためにはどうすればいいかということになりますと、別の形で保安処分というようなことで、そういう責任はなくても刑にかわる処分によって社会を守ろうということが出てきて、両々相まって社会の秩序を維持し、国民の利益を守り、かたがた個々の行為者の人権保障するというふうに考えております。
  159. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 どうもお伺いしてまいりますと、責任という言葉を非常に狭く理解しておられるように私は思えてしようがないんです。責任というのは、あくまでもこれは非難なんです。非難というものは、あることを土台にして行う非難です。私どもの方の昔大学で習った刑法なんというのは、私は余り立派な刑法ではないと思っておるんです、講義そのものが。責任をまじめに教えてくれていない、責任そのものをいいかげんに教えている。責任というものは犯罪ごとに違うのです。同じ責任ということはあり得ない。人殺しの責任と泥棒の責任、子供が行った責任、親が行った責任、みな違うわけです。行為によって全部違うんです。つまりその行為を行った人を責める根拠になる理由が責任の根拠なんです。それをどう考えるかの問題でしょう。先ほど責任とは別に保安処分を考えると、こうおっしゃいましたが、これは大変重大な問題だと思います。保安処分というものは、これが合法的であるためには刑事処分でなければならぬ。保安処分という名の刑事処分なんですね、名前はどうでもいいけれども。それは当然責任があるから刑事処分をなし得る。保安処分というものはやはり責任追及の方法なんですよ。そうでなければおかしいわけです。と私は思いますが、いかがですか。
  160. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 責任という言葉も、いろいろな解釈もございましょうし、いろいろな使い方もあろうかと思います。先生のおっしゃいますように、個々のものではなくて、いわば社会責任というような考え方もあろうかと思いますし、個々の人間を非難する根拠という意味での責任という使い方もあろうかと思います。これは学者によっていろいろ説の分かれるところであろうかと思います。私が申し上げておりますのは、現行刑法はそういう建前になっておるんだということを申し上げたいわけでございます。
  161. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 私が申し上げますのは、現行刑法の建前がおかしいということを申し上げているんですよ。だから現行刑法の建前がおかしいから、総則の部分で現行刑法をまねてつくった改正案というのも実はおかしいんだ、だからもっと考え直して憲法を基礎にした改正案をつくり直す必要はありませんかとお尋ねしているわけです。どうですか。
  162. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) いろいろなお考えも参酌して、さらに刑法改正内容を検討を進めたいと思います。
  163. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 それから、刑法改正といったようなこういう国の基本問題は、基本法改正する問題ですから、こういう問題はこれは国会でも相当力を入れてやるべき問題だと思うんです。少なくともこういう基本法を、政府でおつくりいただいた案をそのまま丸のみにしてめくら判を押すような、そういう審査で通していいかということは私は問題だと思いますよ。やはり政府の方でおつくりになったのを、国会で要求されて、国会の中で刑法の予備審査をすることを要求されて行なわれ、政府と一緒になって、そうしてもっと固めてそれから正式の法案として出す。アメリカアメリカの連邦刑法をつくるに当たりましてそうやっていますが、こういう基本法を軽々しく私はいいかげんにやるべき問題ではないと思います。国会議員の中に能力がないということであれば国会議員に能力ある人を入れてもらいたいわけです。そのために比例代表があるんでしょう。自由民主党も比例代表でそういう人を入れたらいいと思いますが、こういう基本法を扱うのにいいかげんなことでは私は困ると思いますが、いかがですか。
  164. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 基本法につきまして国会の御審議がどういうふうにあるべきかという点は、国会の方でお決めになることかと思います。ただ、政府といいますか、私どもで成案を固める前に、国会の方で御審議をいただく、まあ予備審査と申しますかという点については、これは国会でお決めになることでございますが、いかがなものかという気も一面いたさないわけではございません。もちろん、その場合に国会で国政調査権の一環とされまして、今立案中の刑法改正案がまだ固まる前に国会の方でもその問題点をいろいろ研究調査をされるというふうなことでございましたら、私どもとしてはできる限りそれに御協力を申し上げたいと思っております。
  165. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 この問題はまた宿題として将来に残すことにしまして、次に移ります。  大臣、「施設内処遇を一層充実強化する」と、こうおっしゃってくださいましたが、これは結構なことと思いますが、それに続きまして「仮釈放の適正な運用を図り、」と、こうおっしゃいましたね。「仮釈放の適正な運用を図り、」ということは一体どういうことなんでしょうか。仮釈放を多くするということなんでしょうか、それとも少なくするということなんでしょうか、お尋ねいたします。
  166. 吉田淳一

    政府委員(吉田淳一君) 私の方からお答えさしていただきます。  この仮釈放の運用につきましては、現在満期釈放と比較しますと大体受刑者の釈放される者の約半分ぐらいが仮釈放として釈放されているというのが最近の実情でございます。この仮釈放はどの程度の運用が最も適正であるかということは、いろいろそのときの状況によって違いますので一概には申し上げることができませんけれども、例えば昭和四十年代では釈放者のうちの約六割が仮釈放であったわけであります。で、どうも最近の傾向を見てみますと、やや仮釈放について慎重にし過ぎるという嫌いなしとしないというふうに私ども考えておりまして、もう少し仮釈放を活用して、仮釈放するということはパロールの制度でございますので、保護観察に付するわけでございます。そして、その保護観察をできるだけ充実してやって、刑事政策的な効果を期待したいと、そういう気持ちでおります。
  167. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 仮釈放、保護観察の強化ということもそれはいいと思いますけれども、実際は保護観察、それからやり方自体が難しいですね。それでどうも私どもは、これは私の一種の意地の悪い邪推だと思いますが、「仮釈放の適正な運用」ということは、今刑事施設がもう狭くなっちゃって、お金がないのでなかなか建て増しもできぬ、だから早く社会へほうり出していこうと、こういうことではないかと邪推をいたすわけなんですが、いかがでございますか。
  168. 石山陽

    政府委員(石山陽君) 飯田委員、邪推とおっしゃいますけれども、大変厳しい御質問でございますが、現状を率直に申し上げますると、最近悪質な処遇困難な収容者が大分ふえてまいりまして、全国の矯正関係施設、成人も少年も含めまして収容率が一〇〇%近い、あるいは一〇〇%を超えておるというのが出ていることも事実でございます。そういう観点から申しますれば、端的に申しまして、予算もないし食いぶちがないのだから出せという、これは俗論ではございますけれども、非常に説得力のある御意見かと思います。ただ、私どもは正直申し上げてこの点に誤解がなきようお願い申し上げたいのは、私どもは現在悪質な例えば暴力団の組織関係者、何ぼ放しましてもすぐまた再入してまいります麻薬、覚せい剤等の常習者、こういった者をただ予算がないからということでパロールの制度に基づいてすぐ出そうということは毛頭考えておりません。先ほど保護局長から申し上げましたように、現在の行刑事情がかなり窮屈であり、非常に困難な職務を冒して日夜職員が大変過重な職務についておるということの半面かもしれませんが、多少その仮釈放の率が最近落ちておるということから、それをもう少し有効に活用して、いわゆる施設内処遇から社会内処遇に対する結びつきをもう少し円滑適正に行いたいと、これが本意でございますので、よろしく御理解を賜りたいと存じます。
  169. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 よくわかりました。  それで次に移りますが、民事事件につきまして大臣所信表明によりますと「一般民事行政事務は、登記事務をはじめとして量的に逐年増大し、」「質的にも複雑多様化傾向にあります。」と、こうありますが、この登記事務なんですが、ちょっと小さいことを聞いて申しわけないけれども、最近余り国民が金がないものだから一軒の家を二人で買うということが起こってきますね。二階と下と別々に買うわけです。これは所有権ですから、買えば所有権が二人の所有権になるはずなんですが、ところが、登記をするとなりますと登記所で受け付けない。これは所有権はもう別々の所有権じゃだめなんで共有にせいと、こういう御指導を得るわけなんですが、この問題はどうでしょうか。登記が一体所有権を決めるのか、所有権があって登記があるのか、こういう問題にも絡むと思いますが、いかがでございますか。
  170. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) 御承知のとおり、一物一権主義ということがございまして、一つの物については一つの権利という原則がございます。それがありませんと混乱をしてしまうわけでございますが、そういう意味で一軒の一つの建物につきましてはこれは一つの所有権しかないわけでございますから、その所有者が二人ということになりますと、それは共有関係ということで処理をしなければならないということになろうかと思います。ただ、その一軒の家を二つのものにするということになりますと、各別の所有権の対象になるわけでございまして、建物につきましては御承知のとおり、区分所有法というのがございまして、一定の条件のもとに一棟の建物でありましても二つに区分できるような客観的な事情がある場合にはいわば二つの建物と同じような形でそのものを所有権の対象にするという措置が講ぜられております。そういうような客観的なものの場合には、これは一つ一つの区分につきまして独立の所有権が認められるわけでございますが、そうでない形のものにつきましては、先ほど申しましたようなことで登記所の方では一つの建物である以上、その家を二つに分けた各別の所有権の登記はそれはできないということで、応じておらないのではないかと考えます。
  171. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 便宜上そういう登記の手続がなされておると思いますけれども、現実には所有権は別なんですね。つまり別々の所有権者がおるのに、それを実際の所有権を登記のために否定して一つにせい、共有にせいという、そういう御指示をなさることが、果たして現在の国民権利を区別して守るという、権利を認めるという法の建前からいって正しいかどうか。何かもう少しうまい方法はないかと思うんですが、例えば二階と下ですよ。二階と下と別々の人が買うんですね。それでも玄関が一つの場合は一戸の建物だとこうおっしゃる。なぜそんなふうに決めてしまわなきゃならぬのかと私ども不思議に思うんですが、もう少し緩めることはできませんか。
  172. 枇杷田泰助

    政府委員枇杷田泰助君) まず前提に、別々の所有権があるのにという言葉でございますけれども、実は別々に所有権があるということでございましたらば、それは別々の不動産として登記をし、それぞれの独立の所有権の登記ができるはずでございます。ただいまお話しのように一軒の家で、外観上同じ一戸の建物で、玄関が共通で、そこから中の階段を上がっていくと別の人がそこの二階部分を使っておるというようなことはあろうかと思いますが、しかしそれは所有権としておのおのがあるということはちょっと言えないのではないかと思います。もし仮にそういう場合に各別な所有権があるということになりますと、例えば二階の人が自分のものだと称するところを第三者に売った場合に、下の人との間でどこが権利の境なんだというふうなことが早速わからなくなりますし、階段について、あるいは階段下の押し入れとかというものについて、どちらに権利があるんだということが大変不明確になってしまうわけでございます。もともとそういうようなことは一つの物について二つの権利を何か押し込もうとするところに無理があるのではなかろうかと思います。  ただ、今おっしゃいましたような事柄は、普通は二世帯住宅とかというようなことで世上起こることだろうと思いますが、そういう点につきましては、最近は業者の方でも心得ておりまして、区分所有の対象になるような各別の出入り口を設けて、そしてその間に物理的な区分けがきちんとできるような設計でやって、各別の登記をするというふうなことでございますので、そんなに区分につきましても、外観上わかるというものについては非常識なことを登記所でも言っておらないと思いますので、多くの二世帯住宅などの場合には各別の所有権の対象としての登記ができているものと考えております。
  173. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 じゃ、この問題はまた宿題にしまして、もう時間がなくなってきましたので、次に移ります。  今度は破産法のことでちょっとお尋ねいたしますが、大臣のここには載ってないけれども、民事訟務行政に関連してお尋ねするわけでありますが、最近、新聞を見てみましたら、これ読売新聞、昭和五十九年三月二十四日の読売、これに「サラ金苦 急増の自己破産」と、こう書いてあるんですよ。自己破産のことが書いてありますが、これ、自己破産ということで今まで処理されてきておる事件について、私非常に不思議に思うんですが、破産法の三百六十六条ノ九の一号を見ますと、詐欺破産罪とか過怠破産罪の疑いがある場合、こういう場合は免責しないとなっているんですが、そうすると、サラ金で金を借りてきて、踏み倒してやるために自己破産を申請するということになりますと、事実関係調査すれば当然免責できないことだということがわかるのじゃありませんか。ところが、それがそうでなしに、現実には自己破産でどんどん過剰融資のツケが合法的に踏み倒されると、こう新聞に書いてありますが、これまさか新聞がうそを書いたわけじゃなかろうと思いますが、調査は最高裁民事局調べ、それからもう一つは浦和地裁民事部調べですから。いかがでしょうか、この問題は。
  174. 上谷清

    最高裁判所長官代理者(上谷清君) 今、委員指摘のとおり、破産法第三百六十六ノ九に免責不許可の事由が列挙してございます。裁判所が免責の申し立てのありました事件につきまして調査をして、ここの三百六十六条ノ九の各号列挙に該当すると認める場合は、もちろん免責の許可をしないのが通常の扱いでございます。この条文をごらんいただきましておわかりのとおり、三百六十六条ノ九の規定は免責の事由を書いているわけではなくて、免責不許可の決定の事由を書いておりますので、ここに当たる事由がなければ裁判所としては免責を許可するという決定をすることになるわけでございますが、当然、裁判所といたしましては、それぞれの免責申し立ての事件につき免責不許可の事由のありなしを慎重に検討いたしまして決定をしているわけでございまして、仰せのとおり免責を受けるという事例が非常に多くなってきてはおりますけれども、免責不許可事由があるにもかかわらず免責をする、そういうふうな扱いをしているわけでは決してございませんので、御了解いただきたいと存じます。
  175. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 これ、実は新聞記事が正しいかどうかまだわからぬから何ですが、免責に不許可事由がありますね。例えば過怠破産罪の疑いがある場合、免責不許可でしょう。ところが、サラ金の場合、それに当たるのじゃありませんか。
  176. 上谷清

    最高裁判所長官代理者(上谷清君) いわゆるサラ金から借金をいたしまして破産、いわゆる自己破産が多うございますが、自己破産の申し立てをするという債務者の場合でもいろいろな事情がございまして、中には確かに委員のおっしゃるとおり、借りまくってその結果倒産をするという債務者もおろうかと思いますけれども、そうではなくて、やはり生活費にどうしても必要であってつい手を出す、あるいはまた事業の資金として必要であるためにサラ金から金を借りる、そういう債務者、言ってみれば誠実に借金をしながらやむを得ず破産に至った気の毒な債務者も非常に多いわけでございまして、その事案によりけりでございまして、裁判所の方に申し立てが出てまいります事案で裁判所が免責の許可をしております事案は、当然いわゆる誠実な債務者、ここに言う不許可事由のない債務者ということで御理解いただきたいと思います。
  177. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 まだほんのわずか時間がありますからお尋ねいたしますが、こういうような事件が増大しておるという今お話でしたが、どのくらい事件があるでしょうか。債務者申し立て件数の増加状況、それから免責決定された件数。
  178. 上谷清

    最高裁判所長官代理者(上谷清君) 最近三、四年に限定して申し上げたいと思いますが、まず破産の申し立て事件の総数でございます。昭和五十五年には二千八百七十七件、昭和五十六年には三千二百二十一件、昭和五十七年には五千三十一件、昭和五十八年度、これは概数でございますが一万七千八百七十八件、ここ一、二年、急増いたしております。  そのうちの自己破産の申し立ての件数でございますが、昭和五十五年には二千五十四件、総破産申し立て件数中の七一・四%、昭和五十六年度では二千四百十二件、総破産申し立て事件中の七四・九%、昭和五十七年度で四千二百二十五件、総破産申し立て件数中の八四%という非常に高い数字になっております。昭和五十八年度につきましては破産申し立て件数中の自己破産のパーセントはまだ集計ができておりませんので、ここの手元に数字がございませんが、推測でございますが、大体恐らく八〇%から九〇%ぐらいが自己破産の申し立てではなかろうかと推測いたしております。  その自己破産の申し立ての中で、サラ金から金を借りたことを原因とする自己破産がどの程度あるかということでございますが、これもごく最近ある程度調査して判明しているということですので、概数でお許しいただきたいと思いますが、自己破産を申し立ててきます件数の大体五割ないし六割ぐらいがサラ金からの借金を理由とする自己破産の申し立てではなかろうかと見ております。昭和五十八年度はまだ内訳がよくわかりませんし、全体の事件数が非常に増加しており、ここ最近の増加件数の大部分がいわゆる自己破産、あるいはサラ金に絡む自己破産が多うございますので、昭和五十八年度は詳しい内訳はまだ出ておりませんが、これも推測で申し上げますと、恐らくサラ金関係の自己破産の率が高くなっているのではないか、そのように考えられます。  それから、免責の件数でございますが、これはちょっと当該年度に申し立てがあったうちでどの程度の免責があったというふうな詳しい統計はとっておりませんので、やや統計の数字がおわかりいただきにくいところがあるかと思いますが、免責の決定のありました事件数で申し上げますと、昭和五十五年度中に免責の決定のありました事件が百四十三件、そのうちサラ金関係の自己破産の事件が九十四件となっております。昭和五十六年で申しますと、免責決定のありました件数が五百五十五件、そのうちサラ金関係の自己破産によるもので免責のあったものが二百九十六件、それから昭和五十七年度で申し上げますと、免責決定の総数が九百十九件、そのうちサラ金の関係の自己破産を理由とする免責の決定が五百五十九件、そういう数字が出ております。昭和五十八年度につきましてはまだ詳細な数字が出ておりませんので確定的なことを申し上げることはできませんが、新受免責申し立ての総数が非常に増加いたしておりますので、それに伴いまして免責決定の数もふえているのではなかろうか、そういうふうに考えられます。  なお、ちなみに、今申し上げました免責決定の件数、年々非常に増加しておるわけでございますけれども、一方でいわゆる破産決定の破産宣告の数も年々非常に増加しておりますので、そういうふうな破産件数の増加と対応してみますと、破産宣告を受けた者のうちに占める免責決定を得た者の割合がそう多いわけではない、そういうふうな数字と理解していただければいいかと存じます。
  179. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 大変詳細な御報告で、ありがとうございました。  そこで、最後にお尋ねをいたしますが、破産法という法律は財産を持っていない無財産の者について破産を認める法律でしょうか。
  180. 上谷清

    最高裁判所長官代理者(上谷清君) 破産法の破産の原因は、概略で申しますと債務超過、債務を弁済するに足りる財産がないということでございますから、無財産とは限らないわけでございまして、財産がありましてもそれを超える債務があるということになりますと破産原因があるということになりますので、必ずしも無財産が破産の原因とは限らないわけでございますが、いわゆるサラ金の自己破産のようなケースでございますと、これはもうほとんど費用を償うこともできないというふうな、いわゆる財産のない人が申し立ててくる、これが実情でございます。
  181. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 サラ金の場合、財産がないことはもう調べれがわかりますね。それを、わかりますのに、どうして裁判所は破産宣告をなさり、免責をなさるんでしょうか。
  182. 上谷清

    最高裁判所長官代理者(上谷清君) 債務がございまして財産がないということがはっきりしております場合には、これは法律上に定められております破産原因があるわけでございますから、当然破産宣告をするということになろうかと思います。そういうふうな場合は、ほとんど無財産でございますので、管財人を選任して手続を進めることもできないというふうなケースが多いかと思いますので、通常は、いわゆる御承知のとおりの同時廃止というような形で手続を進める例が多いかと思いますが、そういうふうに破産廃止になりました後に免責の申し立てがあれば免責の手続をする、そういうことでございまして、財産がなくて破産になった、したがって免責はしないというふうな関係じゃございません。やはり免責の申し立てがあれば、免責の要件があるかどうかを別個に裁判所といたしましては調査いたしまして、それぞれに免責許可決定をするか、あるいは不許可の決定をするかを決定しているわけでございます。
  183. 飯田忠雄

    ○飯田忠雄君 実はこういう質問をなぜしておるかと言いますと、結局これは一つの犯罪を生んでいるのじゃないかと思うんです。金をサラ金業者から借りるだけ借りて、将来自己破産をすると見通して、自分で心を決めて、借りまくっておいて自己破産の申請をして逃げてしまう、こういうことが随分たくさん最近出てきましたね。こういう事象について、これをもう少しチェックすることが必要ではないでしょうか。強い者は懲らしめればいいといったようなものじゃないと思いますね。そういう点について、何か破産法上あるいはほかの法律で規制を加える方法はないのか、規制を加える必要はないかということをお尋ねいたしますが、いかがでしょうか。これはもう最後の質問にします。
  184. 上谷清

    最高裁判所長官代理者(上谷清君) 私どもといたしましては、いわゆる破産法の運用という面からだけお答え申し上げますが、先ほども申しましたとおり、裁判所におきましては、免責の申し立てがあった事件につきまして、一つ一つ不許可事由のありなしを慎重に調査いたしました上で免責許可あるいは不許可を決めておるわけでございまして、決して一律に免責を認めるというふうな扱いをしているわけではございません。まさに法律の規定に従って適正に運用していただいておるものと信じておりますし、その点はぜひとも御理解いただきたいと存じます。  それから、先ほども一言申し上げましたとおり、破産の宣告を受けた者のすべてが免責の申し立てをしてくるというわけでは決してございません。やはり先ほど申しましたとおり、破産法にも不許可事由の規定がございますし、そういうことは恐らく破産宣告を受けた人も裁判所からいろいろ説明を聞けばよくおわかりだと思います。したがいまして、いわゆる免責不許可事由があると自分で心当たりのある人は、恐らく免責の申し立てをしても認められないということで、申し立てを差し控えるということもあろうかと思います。裁判所で免責許可決定がふえているからといいまして、先ほど御指摘になりましたような、いわゆる詐欺まがいの破産者まで免責許可決定を得ている、そういうことになるわけではございませんので、その辺の実情はぜひとも御理解いただきたいと存じます。
  185. 橋本敦

    ○橋本敦君 住法務大臣所信をお伺いして、最初の一般調査案件の当委員会の審査に当たりまして幾つかの国政にかかわる問題について質問をしたい、こう思っておりますが、最初にまず、つい先日判決がありましたカネミ油症事件について大臣にお尋ねをしたいと思います。  大臣も既に御承知のとおり、この事件事件発生以来十数年の長きにわたる事件でありますし、受けた患者、関係者の皆さんの苦痛も大変でありますし、もう既に亡くなった方も十人以上を数えております。こういう状況の中で被害者の皆さんたちの痛切な願いは、一つは、早期にこの問題を解決してほしい、二つは、恒久的な治療対策を国の責任で全力を挙げて進めてほしい、三つ目に、広く言えば我が国の食品行政全体について、国民の安全と生命を守る立場で、この事件を契機に国が責任ある対処と行政を進めていただきたい、こういうことに尽きると思うのであります。そこで、判決があった直後に私どもは関係者の皆さんの強い意向を伝えて、総理にも、厚生大臣にも、また法務大臣にも、本件について国は控訴しないで、直ちにこの判決に服す処置をとるように強く切望いたしましたが、関係大臣と協議の上でという、そのときはそういうお話でございました。  この事件について言いますと、一つは、カネミの会社自体は控訴をしないで判決に服すという意思を既に表明をしている。国もまた被害者の今日の実態を慎重に御検討になって、判決が示したとおり、四十八億の損害賠償金とそれに伴う判決が示した利息を付して既に仮払いの処置をおとりになっている、こういうふうに国はそういう対処をとられている。そういう状況から考えますと、国には法律問題で国の責任がどうこうというなるほど検討課題はあるでしょうけれども、しかし今国にとって大事なことは、本当にこの皆さんの救済という立場、そしてまた人権保障するという、大臣もきょうおっしゃったそういう立場に立ち切って、国は今回控訴をやめるという方針をおとりいただくことが私は国として大きく言えば今国民責任を果たす道ではないか、こう強く思っておるのでありますが、まずこの点について、関係閣僚の会議でも重要な発言立場におられる法務大臣の御所見を伺いたいのであります。
  186. 住栄作

    国務大臣住栄作君) カネミ油症事件につきまして、私も被災者の皆さんから陳情も受けました。大変痛ましい事件でございまして、こういう事態に対して患者の皆さんを初め、心から本当に御同情と言ったら言葉は適切かどうかわかりませんが、そういう念でいっぱいでございます。  で、高裁の判決があったわけでございますが、私ども、今もおっしゃいましたように、判決に従いまして仮執行に応じた、さて、今後どうするかということにつきまして、現在いろいろ事務的にも協議をしていただいておりますし、いずれ農林大臣、厚生大臣等とも相談いたしまして、もうすぐでございますけれども、結論を出したい、こう思っておりますが、今のところ私一存でどうするこうするというところまでに至っておりません。
  187. 橋本敦

    ○橋本敦君 控訴の期限まであと三日ばかりに迫っております。原告となった被災者の皆さんは、皆さんの請求額から見れば裁判所の認容額は低いわけですが、それでもこの際皆さんはそれにも甘んじてでも早く解決したいという、そういう気持ちを持って対処されておられるわけですね。だから、したがって私は、国としてはむしろこの判決を契機に、判決が示した縦割り行政の弊害を克服すること、そしてまた何よりも国民の命を安全に守るという行政に立ち切ること、このことを何よりも大事にお守りになって、被害者をこれ以上苦しめない方向で対処をされるということに英断を持って踏み切っていただきたいし、法務大臣はこういった被災者の皆さんの声もよく御存じのとおりでありますから、そういうこともよく踏まえて、できる限りそういう方向に善処をするという立場で私は処理に当たっていただきたいということを心から期待をするわけであります。今の段階ではというお話がございましたが、しかし何といってもこの事件どうするかということについて、法務大臣発言は大きな影響力があると思いますし、法務大臣がどういう立場で物を言われるかも非常に重要でありますから、重ねて法務大臣に被災者の皆さんへの深い理解、そして国の今日とるべき行政として反省すべき点、おわかりと思いますが、そういうことを踏まえて対処をしていただけるかどうか、重ねてお伺いをしておきたいと思います。
  188. 住栄作

    国務大臣住栄作君) これは実は私もこの事件にぶつかりまして、それなりに私の立場で検討もいたしておるわけでございますけれども、農水行政あるいは厚生行政、それぞれの立場で大変むずかしい問題も含んでおるようでございますし、この判決自体も画期的な判決じゃないか、こういうことも言われておるわけでございます。したがって、この判決に対する対応の仕方ということは非常に今後にも大きな影響を及ぼすというようなこともございまして、それなりに、もう三日しかないのでございますけれども、農水省の立場、厚生省の立場、これは本当に真剣に議論をしていただいておりますし、法務省としても、法律的な立場からもいろいろこれは検討しなければならない点も少なくないわけでございまして、そういうことを今せっかく勉強というか検討中でございまして、繰り返すようになって恐縮でございますけれども、現在まだ申し上げる立場にないということでございます。
  189. 橋本敦

    ○橋本敦君 それじゃ、その問題は重ねて強く要望して、次の問題に移りたいと思います。  警察庁にお越しをいただいておるわけでございますが、大臣所信でもおっしゃったように、身の代金目的の誘拐犯等その他凶悪犯罪が多発しておるという状況で、国が国民の安全、社会不安をなくする上にもまさに重大な対処を迫られておると思います。そういう点から見ますと、先日起こりました江崎グリコ社長の身の代金目的誘拐事件は、重大な事件であると同時に、その要求額が十億円、それに加えて多額の金塊を要求するといった、こういう身の代金目的としてもずば抜けて巨額な問題を提起しておるということ、しかも犯罪の手口が、厳重に防犯体制をしかれた家庭の中に入って、かぎの所在を知り、それを利用して侵入をして、しかも長期にわたって探索していたと思われる小屋に監禁をしていたということ、その他、あるいは室長という今は使っていない役員名称を使って脅迫文を作成していたこと、十億円という巨額の金がどこからねらわれたかといえば、実は土地購入資金としてグリコ会社が用意していた土地購入資金を知っていて、そこからということで、不可能な金ではないとにらんだかもしれないという状況等、私たちが見ても犯人の探求についてはそれなりに早急にめどがつき得る特殊な事件ではないかと見られる節もあるんですが、現在捜査状況は、どういう点に絞って、どう進展しておりますか、お話しいただける範囲でお話をいただきたい、こう思います。
  190. 於久昭臣

    説明員(於久昭臣君) お尋ねの事件につきましては、現在兵庫県警、大阪府警、両府県警察におきまして合同の捜査本部を設けまして、現場検証、関係者からの事情聴取、あるいは現場周辺の聞き込みなど、所要の捜査を鋭意展開中でございます。いまだに犯人の逮捕には至っておりませんけれども、現在全力を挙げて捜査を展開しておる、こういうところでございます。
  191. 橋本敦

    ○橋本敦君 この犯行の目的については、やはり金銭目的かという問題、あるいは余りにも巨額なので、そしてまたその後犯人の対応から見ても、金銭目的よりむしろ怨恨かという説もあるやに新聞の一部は報道していますが、このあたり警察庁はどうごらんになっていますか。
  192. 於久昭臣

    説明員(於久昭臣君) 現在、捜査はいろいろな面にわたりまして幅広く基礎的な捜査を展開している段階でございまして、具体的な推移につきましてどうこう申し上げる段階にはございません。
  193. 橋本敦

    ○橋本敦君 この犯人が今私がお話ししたように社内の内情に詳しい人物の可能性があるという見方は、これはできるのではないでしょうか。
  194. 於久昭臣

    説明員(於久昭臣君) 捜査はいろいろな可能性を追求しながら逐次線を絞っていく格好でございまして、いろいろな可能性、いろいろな方面について鋭意捜査を展開しておる、こういうことでございます。
  195. 橋本敦

    ○橋本敦君 犯人は三人とも四人とも言われておるんですが、そこらあたりは今のところどういう状況ですか。
  196. 於久昭臣

    説明員(於久昭臣君) 今のところは、被害者勝久氏の話等々によって犯人の数については一応三人ではなかろうかと思っておりますけれども、これが捜査の今後の段階でどうなるか、これは全くわからないということでございます。
  197. 橋本敦

    ○橋本敦君 新聞によりますと、犯人は被害者を江崎と姓で呼ばないで勝久と呼び捨てにしておったという状況も明らかになっているという記事もあるわけですが、そうだとすると、かなりそういう呼び方をするにはそれなりの関係のある人物という推測も成り立つのですが、こういう点はつかんでおられますか。
  198. 於久昭臣

    説明員(於久昭臣君) 極めて具体的な御質問でございますけれども、何しろ現在捜査を展開している段階でございますので、一々の内容については差し控えさしていただきたいと思います。
  199. 橋本敦

    ○橋本敦君 捜査の進展についてということでほとんどお答えにならないわけですが、今の捜査の見込みとして、犯人逮捕に至るそういう状況は必ずつくり出せるというふうな見込みなのか、全くわからぬということでおっしゃっているのか、その辺は捜査の状況として警察庁の本当につかんでおられる状況はどうなんですか。国民から見れば一刻も早く解明してほしい、こう期待しているわけですね。
  200. 於久昭臣

    説明員(於久昭臣君) 現在全力を挙げて捜査を遂行中であるということでございます。
  201. 橋本敦

    ○橋本敦君 それは全くそのとおりでしょうけれども、全力を挙げて犯人の手がかりを幾らかでもつかんで、そしてということで、具体的にそういう段階に今はもう突っ込んでおるのか、全くわからぬという趣旨の答弁をなさっているのかどうかと、こういうことです。その程度のことは答えられるでしょう。
  202. 於久昭臣

    説明員(於久昭臣君) 大変厳しい御質問でございますけれども、現在鋭意捜査を行っておるということでお許しをいただきたいと思います。
  203. 橋本敦

    ○橋本敦君 捜査の密行性もあるけれども、国民にかわって国会で聞いておるんだから、もう少しあなた具体的に答えてもいいんじゃないかと私は思うんだが、それじゃ、これで終わります。全力を挙げて捜査を尽くしてください。時間がありません。  それではもう一つ、田中判決にかかわる問題について伺っておきたいと思うのでありますが、住法務大臣は、田中角榮元総理にかかわる一審有罪判決につきまして、一審判決だからといって軽視することはできない、それなりに重い意味を持っているということをおっしゃったことがございました。私もおっしゃる趣旨はそれなりに理解しておるつもりですが、重い意味を持っていると大臣がおっしやった趣旨はどういう意味でおっしゃったのかお教えいただきたいと思います。
  204. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 先ほどもお答え申し上げたのでございますけれども、この裁判と申しますか、六年間の長い時間をかけまして検察、被告、あらゆるものを駆使しまして主張なり立証をされる、そして裁判所ではそれだけの時日をかけて綿密な審理を尽くされた、やはりそういうことから考えましても、これは判決として大変重みのあるものだと、私はこう考えておるわけでございます。しかし、被告はこれを不服として控訴しておられる。そういう事件でございますから、具体的な事件についてこれ以上のことを申し上げるのはいかがかと思うのでございますけれども、ただつけ加えて申し上げますと、これは未確定だからと、控訴しておるじゃないかということから、これを軽視するというのも私はこれはいかぬと思いますし、しかし一審有罪だから、これはあたかも確定したようなことを言うのも現在控訴審で係属中でございますから、どちらもどうとも言えないわけでございます。しかし、一審判決があったということ、これは事実でもございますし、そういう意味で重みがある、こういうように申し上げておるわけでございます。
  205. 橋本敦

    ○橋本敦君 刑事局長にお伺いいたしますが、一審の最終の論告について、当時の検事総長は、後世の批判にたえ得る論告を検察官は全力を尽くしてやったというお話がございました。一審の判決が出て検察官の主張はほぼ全面的に認められたということで、検察庁としては控訴をしないということになっていった。そういう点から考えますと、直接この事件の公訴維持を担当されてきた検察庁としては、この一審判決は証拠によって検察官の主張にほぼ沿う認定をなされた。そういう意味でも重要な判決だと、こう思っていらっしゃるわけですが、さてこれから控訴審になっていく。控訴審になっていくと田中さんの方は弁護団を入れかえるなどして全力を挙げてやってこられる。予想される争点としては、いろいろ検察庁も御検討でしょうけれども、答弁書作成を含めて全力を挙げて一審判決維持のために努力をされるという立場に全力を尽くされるに違いない、こう思うんですが、そういう控訴審の対応を考えて全力を挙げて一審判決維持する、こういう建前で、今どういう準備をお進めいただいておりますか。
  206. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 橋本委員指摘のように、控訴審におきまして一審判決維持するために今鋭意努力を重ねておるわけでございますが、御承知のように控訴趣意書の提出期限が明年の二月末及び五月末日というふうに指定されております。それを受けてまた答弁書がその後書かれるわけでございます。現時点では第一審の判決並びに記録をさらに精査をいたしまして予想される問題点についての細かい検討を重ねているところかと思います。
  207. 橋本敦

    ○橋本敦君 すでに細かい検討を開始されておるということでありますが、端的に言って刑事局長は一審判決維持するということについて確信がおありですか。
  208. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) まだ控訴審係属中の裁判でございますので、これに対する予想と申しますかあるいは見込みと申しますか、そういう判断は差し控えたいと思います。
  209. 橋本敦

    ○橋本敦君 しかし刑事局長、一審のときには公訴を最終的に証拠によって維持する確信があるということは何度も刑事局長はおっしゃって、本委員会でもその姿勢を示されてきたんですよ。で、控訴審になったら今度は当事者のあなたの方がそういう態度では我々国民は不安に思いますよ。いかがですか。もう一遍答弁してください。細かい検討をしているのはいいけれども、自信ないんですか。
  210. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 控訴審におきまして、担当の検事数名でございますが、全力を挙げて今準備をいたしておるわけでございます。担当検事は一審判決維持すべく全力を尽くしておるわけでございますし、さらにこれから続けるわけでございますので、私としてもそれ相応の成果が上がるものと考えております。
  211. 橋本敦

    ○橋本敦君 それ相応の成果を上げるというあなたの言葉どおり成果を上げてもらわなくちゃならぬと思うんですね。  そこで法務大臣、一審でもたびたび問題になったんですが、この大事な事件は、これは内訓によって法務大臣に報告事項ではないかということから、例えばこれからつくる答弁書、その答弁書の検察官の作成の過程あるいはでき上がった場合に大臣に報告がなされる可能性がある。そういう場合に、大臣が全力を挙げて頑張るとおっしゃっている第一線検察官に全幅の信頼を置いてお任せいただくのか。大臣としてあれこれ御意見をおっしゃりたい場合おっしゃる。つまり事実上の指揮権発動に近いような状況があり得るのかどうか。私はそういうことがあってはならぬと思うのですが、新しい法務大臣として今後の公判対策について大臣としてどうその点はお考えになっておられるか聞きたいのであります。
  212. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 私は、今も刑事局長お答え申し上げましたように、一審段階で検察がよくやってくれたと思っておりますし、これからもそういう努力を続けてくれる、こういうように期待をいたしております。控訴趣意書というのですか、答弁書ですか、これが私のところに来るのか来ないのか、実は私今初めてお伺いしたわけでございますが、私は検察がそういうことで全力を挙げてやってくれると思っておりますので、特にそういうことも期待をいたしておりません。
  213. 橋本敦

    ○橋本敦君 そうすると、事実上にしろ法律上にしろ、本件について指揮権発動ととられるようなそういう行為は大臣としては避ける、こういうように今おっしゃっていただいたと聞いてよろしいですか。
  214. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 今お答え申し上げたとおりです。
  215. 橋本敦

    ○橋本敦君 刑事局長に伺いますが、この田中判決で認定されてしばしば問題になりました二階堂議員その他に関して、いわゆる三十ユニット問題ですね。これの流れがこの判決の中で認定されたわけですが、これは検察官の主張に沿う証拠による認定だと、こう理解しておりますが、間違いございませんか。
  216. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 二階堂議員に関しましていわゆる三十ユニットの金が届けられたという認定が昨年十二月の丸紅ルート判決でなされております。これは橋本委員、申し上げるまでもございませんが、被疑事実そのものではなくて、大久保被告に対します議院証言法違反の罪となるべき事実を認定する前提事実ということで証拠に基づいて認定されておるわけでございます。
  217. 橋本敦

    ○橋本敦君 そういう認定を伺いますと、あのロッキードの徹底解明ということを国会で大きく論議しておりましたあの時期に、検察庁の方は法務大臣を通じていわゆる灰色高官を委員会に明らかにされました。つまりそれは全日空からの金は行っておるけれども、職務権限が明確でないか時効になっているか、いずれかによって起訴されないという状況の場合、灰色高官という名で報告をされたわけであります。職務権限があり時効にもなっていないのは、橋本登美三郎氏などを起訴されたわけでありますから、そういう意味で言うと、その認定から見ましても、検察庁が法務大臣を通じて二階堂氏などをいわゆる灰色高官として委員会に報告されたことは間違いなかったということが裁判所の判決によって認定されたと、こう理解してよいのではないかと思いますが、そうですね。
  218. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 先ほど申し上げましたように、第一審の判決におきましては証拠に基づきまして先ほどのような事実が認定されております。
  219. 橋本敦

    ○橋本敦君 ですから、それは灰色高官を公表なさったその内容と一致しているということで間違いありませんねと、こう言っているわけです。
  220. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) その前提といたしまして、ロッキード特別委員会でございますか、あの場合に法務省といたしましては秘密会ということで報告をいたしまして、その後それが結果的に公表されたという点をまずお断りしておきたいと思います。その三十ユニットのそのときの報告内容でございますが、それと、この認定というのは、何といいますか、報告の際にはどういう経過でどういったというようなことはございませんので、結論においては一致しておるということかと思います。
  221. 橋本敦

    ○橋本敦君 結論において一致しているということを私は聞きたかったわけですが、そういたしますと、にもかかわらず二階堂氏が起訴されなくて灰色高官とされたのは当時の御説明の時効になっているということなのか、職務権限が明確でなかったということなのか。どういう点にあったのですか。
  222. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) その点正確な資料を今持ち合わせておりませんので、しばらく調べましてお答えいたしたいと思います。
  223. 橋本敦

    ○橋本敦君 そこで、法務大臣いかがでしょうか。私がお伺いしたいのは、まさにこの二階堂氏を自民党の副総裁にという、中曽根総理が中国の記者団との会談でおっしゃった方向で今強まっておるわけですが、これは一党の中の人事をどうするかじゃなくて、まさに政治腐敗を断ち切り、中曽根総理がおっしゃったいわゆる田中氏の政治影響力を排除するというそのこととの関係で、国民の広い政治倫理確立の要望という観点からいくならば、単に自民党内部の人事の問題とのみこれは言うことができない重大な問題をはらんでいる。現に多くの新聞その他でも、こういうことが行われるなら政治倫理確立などそれこそ絵にかいたモチにすぎないという厳しい主張も出ている。私もそう思うのであります。そこで、こういう二階堂氏を副総裁に起用するというそのことが、まさに今要望されている政治倫理確立に背くもの、あるいは中曽根総理みずからおっしゃった党総裁声明に反しこれを裏切るものと言わざるを得ないと思うのですが、まさに今この田中判決等お伺いしてまいりましたこういう重大な所管の立場におられる法務大臣として、総理に対してこういう人事をやるべきでないと御進言なさることを私は期待するのですが、いかがでしょうか。
  224. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 法務大臣として総理にというようなお話でございますけれども、総理も私もこれは内閣に入っておりまして、中曽根総理のもとでやっておるわけでございます。この副総裁の人事、私も新聞等で見ておるだけでございまして、しかも自民党の公党の人事でございますし、これは総裁に一任されている人事でもございますので、私の法務大臣としての立場でとやかく言うべき筋合いのものでないと考えております。
  225. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 先ほどのお尋ねの件でございますが、二階堂議員に対します関係では、内閣官房長官としての職務に関する対価とは認められないという理由でございます。
  226. 橋本敦

    ○橋本敦君 したがって、直接的職務権限の立証が困難だということで起訴されなかったということでありますが、いわゆるそういった裏金が行っておるという意味で灰色高官であった事実は明らかであるし、本人は青天白日とおっしゃっている事実も、これは証拠によってその言や信用しがたいことも明らかである。法務大臣法務大臣として、この総裁、副総裁問題は、発言の限りでないということでありますが、しかし、法務大臣は、まさにこの田中判決を契機として政治倫理確立にも重大な責任を持っておられる重要閣僚ですから、私はあえて指摘をしたわけであります。私どもとしては、こういう今私がお聞きして明らかになった二階堂氏を副総裁にするということは、これは一党の人事を超えて重大な国民に対する背信と侮辱だと、こう考えますから厳しく指摘をしておきたいと思います。  さて、大蔵省お越しいただいたようでありますから、私は今非常に大きな問題になっております福島交通関係についても若干の質問をしたいと思うのであります。  まず大蔵省にお伺いいたしますが、この福島交通に対して、もとは不動産銀行、今は日本債券信用銀行でありますが、ここからよ融資が、昭和四十九年あるいは五十年以降今日に至るまでどのように累増をしてきたか、これをつかんでおられると思うのですが、簡単に御指摘いただけますか。
  227. 千野忠男

    説明員(千野忠男君) 日本債券信用銀行の福島交通への貸付金の残高を福島交通の有価証券報告書に基づいて申し上げますと、五十六年九月期が残高四百六億円、五十七年九月期四百七十二億円、五十八年九月期が約五百二十五億円でございます。
  228. 橋本敦

    ○橋本敦君 そういう五百二十五億円になるまでに、既に昭和五十年代から三百八十四億円、五十一年四百五十二億円というように、今お答えになりませんでしたが、累増してきておるわけです。  そこで、私が聞きたいのはこういった融資につきまして大蔵省は各銀行に対しては特に不良貸し付けを厳しくチェックなさる検査と監督を厳しくなさってきたはずでありますから、この日本債券信用銀行の福島交通への融資については、これは検査の都度厳しく指摘されてきたのではないか、どうなのか、まずこの点を伺いたいのであります。  私のつかんでいるところによりますと、既に昭和五十、五十一年度にはいわゆるこれらの融資が第二分類の不良貸し付け、つまり担保はあるけれども回収の点で心配がある、そういう不良貸し付けだということで認定をされておるようにつかんでおりますが、事実ですか。
  229. 千野忠男

    説明員(千野忠男君) 銀行の個別の取引にかかわる問題でございますので、具体的に立ち入った答弁は差し控えさせていただきたいと思いますが、日本債券信用銀行が、かつて福島交通グループに対しまして、土地開発のための貸し出しを行いまして、今なお多額の融資残高があることはまさに御指摘のとおりであります。当局としましては、日本債券信用銀行に対しまして従来から問題点を厳しく指摘いたしまして、改善方を求めてきているところでございますが、銀行としましても事態を深刻に受けとめまして、債権の回収に努力をしているところでございます。  なお、この銀行の貸し出しの内容につきまして、検査の結果いかがであったかということでございますが、個別銀行に関する検査のいわば具体的な内容でございますので、この点は御容赦を願いたいと思います。
  230. 橋本敦

    ○橋本敦君 その点は御容赦ということでありますけれども、全然問題のない融資をしてきたということじゃない、やっぱり問題を指摘してきた、こういうことは、この程度は言えるでしょう。どうですか。端的に言ってください。
  231. 千野忠男

    説明員(千野忠男君) 融資の審査とかあるいはその債権管理の徹底などにつきまして、厳しい指摘を行ってきておるところでございます。
  232. 橋本敦

    ○橋本敦君 つまり問題がやっぱりいろいろあるにもかかわらず、ずっと融資をされてきたという状況があり得るわけなんですよ。  そこで、これだけの巨額な融資をやったわけですが、実はこの融資の金が八割近く、長期貸し付けとして子会社の福島交通不動産の方に金がいっておるという事実も大蔵省はつかんでおられるはずですが、どうですか。
  233. 千野忠男

    説明員(千野忠男君) 私どもは、マスコミその他での報道にも十分注意をしておりまして、いろいろな情報につきましては、これを十分注意深く活用をしておるというところでございますが、ただ日本債券信用銀行の貸出先が、これがさらにどういうような使い方をしておるかというあたりになりますと、これは私どもの立場で具体的なことを申し上げることはできないと思います。
  234. 橋本敦

    ○橋本敦君 いずれにしても現在のところ回収が著しく困難になって、焦げつき債権がかなりの額に出ておるという事実は、これは間違いありませんね。
  235. 千野忠男

    説明員(千野忠男君) 貸し出しの中に焦げつきがあるかというお話でございますが、検査結果にわたる問題につきましては、これは答弁は差し控えさしていただきたいと思うわけでございますが、一般的に申しまして、仮に貸出金がいわゆる分類されたからといいまして、直ちにそれが貸し倒れにつながるというものではございません。むしろ普通一般的に申しまして、分類されましたものの多くは債権確保上の諸条件が満たされていないために回収について通常の度合いを超える困難を伴うと認められるものでございまして、これらの貸出金はいわば要注意の警告が出された貸出金、かように申し上げるべきものかと思います。
  236. 橋本敦

    ○橋本敦君 そこで、刑事局長に伺いたいのですが、今お話しのように大蔵省は厳しい検査の中で要注意の警告をお出しになっている、そういう性質の貸し出しが行われている。ところが、それにもかかわらず引き続き今日まで日本債券信用銀行は巨額の融資を続けてきたし、そしてまたこの福島交通は子会社である福島交通不動産に現在時点で私の調査では四百八十四億、借りた金の約八割を融資して、これは事実上焦げつかしておる、こういう状況になっておる。こうなりますと、まさに日本債券信用銀行の側において大蔵省の警告にもかかわらずこういう貸し出しをしてきたことは、現時点で全部回収不能とはこれは言いませんけれども、著しい回収が困難な条件になりつつある状況があって融資した可能性もあるわけですから、その点では商法上の特別背任が成立するのではないか。  一方、福島交通の子会社について言うなら、借りた金を自分の子会社の福島交通不動産に多額に貸し付けて、そしてそこが累積赤字を生んで、それが返済できない、福島交通は、だから金が戻らないから日本債券信用にも返済できないということで、悪循環を起こしておる。これは小針氏がまさに自分の子会社を利するために大蔵省のそういった要注意警告がある事実を知りながら融資をして債権の焦げつきの可能性をさらに強くしたわけですから、小針氏についてもよく事実を調べるならば、商法上の特別背任罪が成立する可能性がないとは言えない、こう私は思うのですが、いかがですか。
  237. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 御指摘の福島交通をめぐります一連の動きにつきましては新聞等でいろいろ報道がなされておりますが、まだ具体的な事実関係は必ずしも明確になっておりませんので、この段階で特別背任その他の刑事責任の有無については明確なお答えはいたしかねるところでございます。
  238. 橋本敦

    ○橋本敦君 今断定的に言ってくれと私も言っておりませんよ。だから諸般の状況を調査すれば商法上の特別背任がいずれの側にしろ成立する可能性を含んでいる重大な事件だと、こう見て慎重に対処しなくちゃならぬのではありませんか。全然成立する余地がまるでないなら、まるでないということを私は言いますよ。しかしそういう重要な問題を含んでいる事件として慎重に対処する必要がある、これぐらいのお考えで見ていただかなくちゃ困るじゃないですか。いかがですか。
  239. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 申し上げるまでもございませんが、特別背任その他いろいろ要件があるわけでございまして、その具体的な点がどうも明確にはなっておらないかと思います。ただ橋本委員おっしゃいますように、可能性が全くないかと言われますと全くないわけではないということになろうかと思います。これに対しましては今後の事態の推移を見まして適切な措置を講ずべきものかと思います。
  240. 橋本敦

    ○橋本敦君 まさにそういう問題だから国会でも繰り返し議論されて今さらに追及がなされているんですね。  そこで、もう一つ伺いますが、いわゆる福島交通の使途不明金の問題であります。これはたびたび指摘されておりますように、わずか資本金の小さな会社でありますけれども、福島交通の使途不明金が五十億に上っているわけであります。しかもこれは調べてみますと、昭和五十二年からずっと続いておりまして、五十二年十二億、五十三年九億、五十四年十一億、五十五年六億、五十六年四億、五十七年四億、五十八年二億、こういうことで五十億に達するわけであります。  そこで、大蔵省に伺いますが、こういう使途不明金を毎期毎期自主的に申告しているということについて、これは問題があるということで徴税の検討からあるいはこれの使途についての追及で、脱税の疑惑から追及されてきておられなければならぬというプロセスがあるように見える。この点についてどう見てこられましたか。
  241. 木下信親

    説明員(木下信親君) 国税庁といたしましては使途不明金につきましてできるだけ徹底的な使途の解明に鋭意努めております。しかしながら、調査の任意性というか、限界もございます。実務的な限界もございまして、やはり納税者が最後まで頑張ればこれはどうしてもわからない、その場合には一応私どもの方のやり方としましては支出先、あるいは支出の費目の性格がわからないわけでございますから、それはその法人の損金性を否認いたしまして、全額法人税をいただく、こういうことでやむを得ないのかなと、それ以上のことは税務当局としてはしかねるということでございますが、鋭意努力していることは間違いございません。
  242. 橋本敦

    ○橋本敦君 そういう程度の対応なので巨額の使途不明金がずっと残っていく。しかもそれが利用されるんですね。  私、この事件で二つの疑問、重大な疑惑を指摘しておきたいんです。一つは、きのうも我が党の正森議員指摘をしましたが、なぜ福島交通がみずから子会社である福島交通不動産に融資をしたその金も含めて、これを直接的な融資に切りかえるために有価証券で虚偽の報告までして、銀行の同意がないにもかかわらず、あえてそのような処理を急いだか、これであります。この点で言うならば、証券取引法百九十七条の一の二で言うところの重要な事項について虚偽の記載を有価証券報告書で提出したということで、三年以下の懲役または三百万円以下の罰金に該当する事案だと、こう考えておりますが、まずこの点、大蔵省はどう見ておられますか。
  243. 中島公明

    説明員(中島公明君) ただいまの御質問にお答えいたします。  私どもといたしましては、本件につきましては現在監査を担当いたしました公認会計士から事情を聞いているところでありますが、会社側に対しましても速やかに事情聴取を行いまして、このような経理処理についての背景といいますか、あるいは経緯といいますか、そういった事実関係についての確認を行いたいと考えております。
  244. 橋本敦

    ○橋本敦君 そういう会社に対する調査確認ができたら、もし虚偽の事実、そのとおりであるならば、今私が指摘した証券取引法に基づいて、これは犯罪の嫌疑ありとして告発をして処断をされる、当然だと思いますが、間違いありませんね、事実が確認できたら。
  245. 中島公明

    説明員(中島公明君) 証取法の虚偽記載に該当するかどうかにつきましては、事実関係をつかんだ上でさらにまた法律的な判断を要する問題かと思いますので、私どもはまず第一段階といたしましては事実関係ということでございまして、その点についての御答弁をここでいたしますことは差し控えたいと思います。
  246. 橋本敦

    ○橋本敦君 いや、事実調査するのはやっぱり証券取引法百九十七条の一の二の違反の疑い、可能性があるから厳しく調査されるんでしょう。何もないのにされるわけないです。だから、問題となる法律は証券取引法百九十七条の一の二、これがあるという認識はお持ちでしょうが。そんなもの考えないで調査したってだめですよ。
  247. 中島公明

    説明員(中島公明君) 有価証券報告書につきましては証取法の十条に虚偽記載の場合についての訂正という規定がございます。つまり証券取引法に基づきまして、投資者に対して投資判断のための資料を提供するというのが証券取引法の目的でございまして、有価証券報告書に事実と違った記載があった場合にはこれを訂正するというのが証取法の十条の規定でございます。そういった点も含めまして、私どもとしてはこれから事実関係について確認をいたしたいということでございます。
  248. 橋本敦

    ○橋本敦君 百九十七条の一の二はどう見ているんですか。訂正したら告発勘弁してやるというつもりで今はおっしゃったんですか、そうですか。問題ですよ、それなら。
  249. 中島公明

    説明員(中島公明君) 私が申し上げておりますのは、事実関係についてまず確認いたしたいということでございます。
  250. 橋本敦

    ○橋本敦君 その認識として、あなたがおっしゃった十条で訂正するかどうか知りませんよ。しかし、現時点において百九十七条の一の二、これの違反という認識があるから厳しく追及される、これは間違いないでしょう。法律的根拠もなしに追及されることがありますか。
  251. 中島公明

    説明員(中島公明君) 私どもとしましては、繰り返しの答弁になりますが、事実関係についてまず確認いたしたいということでございます。
  252. 橋本敦

    ○橋本敦君 これはしかし問題ですよ。あなたね、福島交通に対して、訂正すれば勘弁してやらんばかりの答弁に私は聞こえたですよ。これは重大な責任問題ですよ。  刑事局長、伺いますが、お話をお聞きになったように、福島交通は有価証券報告書に、巨大な債務について銀行の同意がないのに、これを直接融資に、同意がないにもかかわらず、得たような形で切りかえるというような方向で虚偽の申告をしている事実が明らかになってきた、だから調査をされる。この問題は、証券取引法百九十七条の一の二に言う「重要な事項につき虚偽の記載」、こういうことに該当する可能性は十分あるじゃないですか、いかがですか。何のためにこの法律あるんですか。
  253. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 具体的事実関係のいかんによりましては虚偽記載に該当することがあり得ると思います。
  254. 橋本敦

    ○橋本敦君 当然ですよ。だから、しっかり確認調査をした上で、この法律があることも踏まえて処置の検討をされることを重ねて要求しておきます。  そこで、運輸省に伺いますが、この福島交通にはバス事業として国の補助は近年とれだけ出ておりますか。
  255. 豊田実

    説明員(豊田実君) お答えいたします。  バス事業の補助につきましては、制度として国が直接事業者に補助するという制度ではございませんで、まず第一次的に、県がその地域社会に必要なバス路線の維持ということで、県から事業者に補助金を交付する、その交付する補助金の二分の一以内を国が負担するという仕組みになっております。五十三年以降の数字を申し上げますと、国の負担分としては、五十三年度が二億一千万、五十四年度二億八千五百万、五十五年度一億八千二百万、五十六年度四億一千百万、五十七年度二億九千万という状況になっております。
  256. 橋本敦

    ○橋本敦君 そこで、こういう虚偽の有価証券報告書まで出して、子会社の福島交通不動産に日本債券信用銀行からの巨額の債務を直接融資に切りかえるというのは、私は公共事業としての交通運輸関係を福島交通は預かっているから、この会社がもうこれ以上巨額の債務の引き受けやあるいは焦げつきやそういう状態を起こすわけにいかぬ、そうなったらバス事業として当然運輸省の指導や認可という問題にもかかわってくるし、福島交通自体が今後の会社経営上困難になってくる。そこで、身軽になり肩がわりし、そしてまた福島交通不動産が将来どうなるかわからぬにせよ、直接融資に切りかえておけば福島交通自体は今後存続できるし、国からとやかくの批判を受けなくて済む、こういうねらいがあったかもしれないという疑惑を私は一つは持つのです。大蔵省はなぜ直接融資に切りかえようとしたか、どう見ておられますか。
  257. 中島公明

    説明員(中島公明君) 現在までのところ承知しておりません。
  258. 橋本敦

    ○橋本敦君 もう一つの不思議は、この福島交通不動産という会社は、これは小針氏が福島交通の社長になってわずか三カ月後につくられたもの、しかもこの福島交通不動産の本社はどこに置かれたかというと、これは有名な話でありますけれども、小針氏が社長をやり、国会議員が八人の取締役のうち五人まで占めていた、こういう異例な会社である株式会社美福、ここの中に本店が置かれている。全く小針氏自身の会社であります。そこで不思議なのは、使途不明金が福島交通の決算には出てこない、税務申告には出てこない。全部福島交通不動産という、小針氏が何とでもできる子会社、そこのところにずっとたまっていって五十億になるのであります。それじゃ、なぜここで速途不明金を五十億ため込むのか。これは、私はまさにこの福島交通株式会社は巨額の金を子会社に流すトンネルとして使われた。そして福島交通で使途不明金を使って政治家その他へ献金すれば、問題がまさに公共事業をやっている会社で一層厳しくなりますから、福島交通不動産を通じて政治家への隠れた献金その他を含めて使途不明金を巨額につくり出していって、ここが政界工作やあるいはさまざまな彼の活動のプールにして、ここでためていったというふうに私は見ざるを得ないと思うのであります。そこで、この使途不明金の徹底解明ということは、今私がお話ししたような意味での、この二つの会社を使っての小針氏の政商としての黒い部分を徹底的に解明する上でも極めて重大な問題になってくる。  そこで、使途不明金というのは、私は考えると、一つは政界工作に使われる。小針氏は領収書をもらわないでどんどん金出したとみずから言っております。もう一つは海外投資に使われるという可能性がある。もう一つは取引先のリベートに使われるという可能性がある。もう一つは自己の利益に使われるという可能性がある。そのどのルートを通っても、この行き先をつかんだならば、それなりの課税なり徴税なり行わなきゃならぬし、あるいは政界との工作でいうならば贈収賄に発展しかねない問題もあるかもしれないということを含んで、これはまさに重大な問題になってくる。この徹底解明は、単に税務行政だけでなく、政治腐敗を追及する上で今法務大臣としても重大な関心を持ってごらんいただかなきゃならぬ問題だと私は思うのですが、いかがでしょうか。
  259. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 御指摘の福島交通をめぐります関係につきましてはまだ事実関係が定かにはなっておりませんが、新聞等にいろいろ報道されており、検察庁におきましてもその報道は読んでおることかと思います。したがいまして、申し上げるまでもございませんが、検察官も犯罪の嫌疑がありと思料する場合には捜査することができるわけでございます。今後事態の推移に応じまして適宜適切に対処すべきものと考えております。
  260. 橋本敦

    ○橋本敦君 小針氏は贈賄事件で有罪になった経過があると思いますが、お調べいただくようにお願いしておきましたが、いかがですか。
  261. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 個人の前科の有無、内容につきましては当該特定の個人の名誉にかかわる事柄でございますので、その内容につきましては答弁は差し控えさしていただきたいと思います。
  262. 橋本敦

    ○橋本敦君 法務大臣に伺いたいと思うのでありますが、この小針氏は政界の多くの人とのつながりを公然としゃべっております。私はこの小針氏がまさに政商としていまお話ししたように美福という会社をつくって、そして八人の取締役のうち五人まで国会議員になってもらう。その後これが国会で問題になる直前に辞任をされていくわけでありますけれども、そういう関係があるし、そして彼自身は一説によりますと今に至るまで政界にいろいろなつながりを持っているということで、例えば「夜に蠢く政治家たち」という本から見れば、小針社長と料亭で会合した国会議員は、言われているところによりますと安倍外務大臣を初めたくさんの方々の名前が本に出ている。こういうことは私は本当に今政治家としては自粛をしなきゃならぬ問題だと思いますが、まさにこの使途不明金五十億、これはとても大変な金でありますから、これを徹底追及するということをどうやっていくか極めて重大であります。そのために私はさしあたり小針氏を当法務委員会としては証人として喚問する必要があると、こう思いますし、同時に私が見逃せないのは八三年三月号の「現代」という雑誌をたまたまひもといてみますと、あるルポライターが中曽根内閣誕生の裏にもこの小針氏の影があるように書いてある。これは直接総理がいらっしゃいませんからお伺いしませんけれども、こういうことになりますと、まさに現政権との関係でも疑惑はたださなきゃならぬ、こういうように思います。法務大臣としてこの小針氏と多くの政治家が料亭で会った本がいろいろ出ておりますけれども、こういうことは私は避けるべきだと、こう思うのですが、まず小針氏との関係政治家が今きちっと正さねばならぬ、こう思う点について法務大臣いかがお考えですか。
  263. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 実は私不敏にしてこの事件四日ほど前新聞に報ぜられましてから小針さんの名前も知りましたし、たしか「夜に蠢く政治家たち」というのは読んだと思うのですけれども、十分意識もございませんでした。ただいま刑事局長から答弁も申し上げましたように、検察としましても十分関心を持ってこれを見守っておると思いますので、そういう意味で適切に対処してくれると、こう思っております。
  264. 橋本敦

    ○橋本敦君 じゃ、私は国会としての解明という責任上、この小針氏を法務委員会で証人として喚問して、五十億の使途不明金、あるいは巨額融資の焦げつき、あるいは政界とのつながりを解明するために証人喚問を要求いたしますので理事会で御検討をお願いいたします。
  265. 大川清幸

    委員長大川清幸君) ただいま橋本委員のお申し出の証人喚問の件については理事会で検討さしていただきます。
  266. 橋本敦

    ○橋本敦君 それでは、以上で福島交通関係の質問終わりますので、関係省庁ありがとうございました。  最後に、二つだけ法務省関係でお伺いをいたします。  一つは、刑務所作業の問題で、甲府市の青柳ネックレスを入れて受刑者に刑務作業として宝石研磨をやっておられるようでございますが、この点について、私は地元の宝石研磨協同組合の皆さんのお話を伺いました。これは御一考いただきたいと、こう思った次第でございます。といいますのは、刑務作業はなるほど重要でございますけれども、やっぱり地場産業を大事にするという観点を当該地域の刑務所がなくしてはいかぬ。伺いますと、この宝石研磨の協同組合の皆さんは営々として今日まで苦労なさってきたのに、韓国からの製品の輸入による打撃、これに加えてこの刑務所作業で出てくる品物が通常の半額で市場に出てくるというようなことで非常に損害を受けていらっしゃる。私は刑務作業は大事だと思いますけれども、こういうことは避けねばならぬのではないか、こう思うのですがいかがでしょうか。
  267. 石山陽

    政府委員(石山陽君) 御指摘の件につきまして、ちょっと事情をまず全体として御説明させていただきます。  刑務所の作業の中には、いわゆる賃金をもらいまして、材料等業者が持ち込みでやる作業の形態、賃収と申しますものと、それともう一つ、刑務所独自の材料を使いまして製作収入をする製収と二つの分野がございます。甲府の刑務所は、おっしゃいますとおりに、常時十数社のいわゆる賃収仕事を請け負ってやらしていただくという形での作業が中心になって行われております。実は昨年の三月ごろから企業倒産のあおりを受けまして地元の業者で賃収の仕事を出していただいていた方が順次撤収なさいました。そのため、県や商工会議所等にお願いして、いろいろと代替の作業の発注先を探しておったわけでございます。そこへたまたま青柳商会がこの原石の切断研磨の仕事を持ち込んでいただいたわけでありまして、私どもとしては、これは渡りに船であるということで現在作業をさせていただいておるわけでございまして、ただいま御指摘のように、それが地元のほかの業者の関係でいろいろ問題を生じておるという点は私どもも前々から承知いたしております。私どもにとっては非常に大事なお客様ではございますけれども、そういう形で委員指摘のような民業圧迫にならないようにということで何とか地元の業者の方々同士でお話し合いで解決していただけないかということで積極的にその仲介の労をとるというような形を現場の施設に命じましてやらせておるというのが現状でございます。
  268. 橋本敦

    ○橋本敦君 御指摘のとおり、話し合いの場を期待されてなされました。ところが、残念ながら話し合いの結果、やっぱり業者同士ですから話がつかなかったわけです。そこで重ねて私はこのままではいかぬというふうに思いまして矯正局長にもきょうお越しを願ったんですが、私が心配しますのは、やっぱりこういう刑務行政というのはその地域の理解協力というものが必要だと思うのです。刑務所はどこだって来るのは嫌だということはありますよ。だけれども、それなりにやっぱり地域の協力がなくちゃならない。それは同時にまた地場産業という観点から言えば、地場産業を保護するという国の行政基本にもマッチしなきゃならぬ。こういう大所高所からも考えてもらわなければならぬ。したがって、私は、話し合いの場はつくっていただきましたが、それが残念ながらスムーズに行かずに決裂して話し合いの余地がないという状況なので、もとを正せば渡りに船がしれませんけれども、お役所の方が頼まれたことから起こっている問題ですから、地場産業を守らにゃなりません、業者の利益も調和させなきゃなりませんので、この点については一段とどう処理するか、工夫なり御検討なり所内で進めていただきたいということをお願いしたいのですが、いかがでしようか。
  269. 石山陽

    政府委員(石山陽君) 御趣旨はよくわかりました。私どもの立場として、地元の業者の方々と共存共栄を図り、施設の作業に理解をいただくということは基本方針でございますので、今後とも及ばずながら力を尽くしてまいる所存でございます。
  270. 橋本敦

    ○橋本敦君 じゃ、その点はひとつよろしくお願いしたいと思います。  じゃ、最後に刑事局長にお願いをして御答弁をいただきますが、問題は平田村村長選ということでございます。これは私は小さな村の問題だということで済まされない重大な日本の民主主義にかかわる大問題だと思っているものですから御質問するわけですが、昭和五十四年の四月に行われた平田村村長選挙で不在者投票が行われ、その二百九十一票のうち何と二百四十六票が書きかえ、改ざんをされておったということで選挙無効になったのであります。これは大変なことであります。不在者投票をやった、それをわざわざ開封をして、そして投票用紙ゴム消しで名前を消して改ざんをした。恐るべき事件であります。ですからこの点については、仙台高等裁判所は五十七年十月二十九日に判決をいたしまして、書きかえ、改ざんの事実をはっきり認定し、同時に立会人と代理投票との関係で不明朗な問題があることを指摘して選挙無効の判決をいたしました。次いで、五十八年四月一日に最高裁もこの判決を支持いたしまして、上告を棄却いたしまして、選挙のやり直しが行われたわけであります。そこで、選挙はやり直しが行われたのでありますが、こういう改ざんはこれはもう明らかに公文書偽造そのものでありますし、しかもそれが役所の選挙管理関係の職員によってやられたということでありますから、まさにこれは暗黒、暗やみ選挙、こういうことをほっておけば日本の民主主義は成り立ちません。いかに村の選挙であろうといえども許しがたいことであります。ところが、この問題で、書きかえ、改ざん、公文書偽造で告訴したら、検察庁は不起訴になさってしまった。検察審査会に出したら検察審査会は不起訴にすべきでない、不起訴不相当という、こういう意見を出された。検察官はいわば黒星になったわけであります。  そこで、仙台高裁で鑑定をなされましたものをちょっと参考のためにお見せしますが、赤外線写真で撮りますと、ゴム消しで消しても鉛筆の鉛が残りますから、もとの字が赤く見えるんです。黒い字が改ざんされた字なんですね。それほどはっきり公文書偽造が投票用紙でやられている。ですから、こういうことで公文書偽造で告訴をしたら早速厳重に捜査をして、これは厳しく処断をしないと民主主義成り立たぬと思うんですが、今言ったような経過で不起訴になったりそういう状況で、さらに重ねて告訴をして、慎重に捜査をするという約束でやられておるわけですが、もう断固としてこの捜査は遂げていただきたい。いかがでしょうか。強く求める次第です。
  271. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 今御指摘選挙関係事件でございますが、御指摘のように告発が四回出ておりまして、第四次告発が本年の二月二日に福島地検になされたところでございます。それと一次、二次、三次いずれも不起訴になっておりますが、一次につきましては、検察審査会ではこれは不起訴相当と議決されておりますが、第二次告発につきまして、本年一月三十日に不起訴不相当という議決がなされております。そこで、この第二次告発の不起訴不相当とされた事件につきましては、これは白河支部でございますが、福島本庁へ移送いたしまして、そこで立件して現在捜査を行っております。また、これに合わせまして、本年二月に告発がなされました第四次告発、いずれも事実は共通と思われるわけでございますが、この二つの事件につきまして二月以来現在まで告発人の取り調べ、さらに被告発人の取り調べ、関係者の供述等を、いろいろ食い違いもございますので、現在まで相当数の関係者を呼び出して取り調べを行っておりますし、今後も引き続き捜査を行いまして、できるだけ早い機会に事実に即した処理を行うことになろうかと思います。
  272. 橋本敦

    ○橋本敦君 法務大臣、お聞きのように、仙台高裁が今お話ししたように鑑定までして、そして偽造認定して、明らかにこれは偽造だということで選挙無効にして、最高裁もこの判決を支持した。公文書偽造で告訴したら、検察庁が証拠不十分だとかなんとかいうのであいまいにしている。これはもう本当におかしな筋ですね。したがって、断固として厳しく捜査をしていただきたいということを今お願いしたわけですが、大臣のお考えを承って質問を終わります。
  273. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 刑事局長も申し上げたように、せっかく福島地検の方でやっておるそうでございますので、ひとつその推移、きちっとやってくれると思いますし、見たいと思います。
  274. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 大臣も大分お疲れのようだと思うんだけれども、きょう私は難民の問題でもってこれからいろいろお聞きをしてまいりたいと思うんです。  今回の第百一国会でも総理が施政方針演説の中で、    私は、深い相互依存関係にある今日の国際社会においては、世界の平和と繁栄なくして日本の平和と繁栄はあり得ないことを痛感いたします。また、国際社会における我が国の地位向上に伴って各国の我が国に寄せる期待と要請がいかに大きいか、今さらながら深く考えさせられるものがあります。私が国際国家日本の建設を提唱するゆえんであります。 と、こう言っている。私も本会議場で聞いておって、大変いいこと言ってくださるなというふうに聞いておったんです。しかし、現実に政府が難民問題でもって取り組んでいるのを見ますと、この総理が言ったこういう考え方とはかなりかけ離れているわけです。  で、最初に法務大臣に御見解をお聞きしたいんですけれども、私に言わしていただくと、この難民というのは、言うならば自分の家も捨てて、自分の財産も捨てて、自分の国家まで捨てて、そうして命がけで脱出をしてきている。それで自由を求めて日本の国にやってきた。そういう人たちに対して日本の政府がやっていることはといえば、法律を盾にとって日本の法律でもってすべてを律しようとしているのが難民の扱いなんです。元来ノーマルな状態からは難民というものは起きないのであって、いかにアブノーマルな中からああいう難民が生まれるかということなんですから、そういうところへ日本の国だけが自分の国にある法律だけを適用して始末をしようとしたって、それは到底無理なことなんでして、したがいましてそういう点でもって今までやってきた政府のやり方ということについては大変不満がございますし、これからいろいろ具体的なことをお聞きをしていくわけだけれども、まずそういう意味で、新しい法務大臣として難民問題についてのお考えをお聞きをしてまいります。
  275. 住栄作

    国務大臣住栄作君) この難民問題、日本にとってもこれは直面している問題でございますし、世界にとっても大きな問題でございます。そういうようなことから難民条約、これは批准もし、それに伴いまして国内態勢として政府もできる限りこの難民問題の取り扱いについて努力をしておることは先生御承知のとおりだろうと思うんです。具体的に出入国の管理をする法務省といたしましても、そういったことを十分考えて対処していかなければならない。それがまた総理のおっしゃる国際国家日本としての当然の道でないかと、こういうように考えております。
  276. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 じゃ、大臣、あと少しいろいろ基礎的なことをお聞きしていきますから、しばらくお聞きになっていただいて、また御見解を承りたいと思うんです。  難民条約が発効したのはたしか昭和二十九年の四月、日本が批准したのが五十六年です。二十七年目なんですね。世界で何番目の批准国になったのかということがまず第一です。
  277. 遠藤哲也

    説明員(遠藤哲也君) 先にお答え申し上げますと、日本が批准締約国になりましたのは、条約につきましては八十九番目、それからなお、議定書につきましては八十八番目でございます。  ちょっと一言補足説明をさせていただきたいと思うのでございますけれども、まず、難民条約、これは先生おっしゃったとおり二十九年にできたわけでございますけれども、この対象というのはヨーロッパ、殊に第二次世界大戦後のヨーロッパの政治的あるいは経済的変動から生じた難民にどうやって対処していくかという条約でございまして、したがいまして、地域としてもヨーロッパ、それから期間としましても一九五一年以前というのが難民条約の対象であったわけでございます。しかしながら、その後アフリカ難民等々ほかの地域での難民の発生ということもありまして、昭和四十二年にこの条約の議定書ができたわけでございまして、日本につきまして申し上げますと、その最初の難民条約につきましてはヨーロッパということ、それから時期的な限定ということであって、確かに先生御指摘のように、日本が締約国になりましたのはそういうふうな順番でございますし、おくれたのは事実であるわけでございますが、条約につきましての事情はそういうふうな事情もあるということを申し上げたいと思います。
  278. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 その辺の事情もわかって私聞いているのですが、私が予算委員会でこの問題を取り上げたのが昭和五十四年三月の予算委員会で、大臣、初めて聞いたんです。  何で私はこの難民に関心を持つようになったかというと、その前の年の暮れにカナダからのある一つの手紙を受け取ったんです。その中に書いてあったことはどういうことが書いてあったかといえば、日本ほど恥ずべき国はない、ベトナム戦争であれだけ金もうけをしておきながら、あのベトナムから出てくる難民について少しもそれに救いの手を差し伸べてやらない、たった一家族三名引き受けているだけなんだという、そういう手紙の文章が書いてあった。それで、この五十四年三月の私が予算委員会で聞いたときも、ですからそのとおり、そのときのは、ボートピープルが千九百人来ておって、そこから千五百人はアメリカヘさらに送ってしまいました、日本に残っているのは四百七十七名が滞在しておって、永住を認めたのはその一家族三名ですということだったんです。  そこで、現在ただいまでその永住を認めている、受け入れている数というものはどのくらいになるんですか。
  279. 瀬崎克己

    説明員(瀬崎克己君) インドシナ難民関係で、現在、今日までに定住を認められている数は三千八名でございます。
  280. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 じゃ、今度は、アメリカが一番多いんだけれども、世界各国が難民を受け入れている数を、日本よりか少ないところはいいですから、日本よりか多いところを多い順番に国の名前と受け入れている数をずっと上げて示してください。大臣、よく聞いておいて。
  281. 瀬崎克己

    説明員(瀬崎克己君) 各国の受け入れております難民につきましては、国連の難民高等弁務官の統計資料があるわけでございます。その資料をちょっと御紹介さしていただきますと、これは昨年末まででございますが、米国が一位でございまして五十二万四千百三十七名、フランスが第二位でございまして九万三千二百十八、第三位カナダ八万九千七百七十七、第四位オーストラリア八万四千七十九、第五位西独二万二千三百八十七、第六位英国一万六千三百八十八、第七位香港九千六百十、第八位スイス七千七百八十五、第九位オランダ五千四百六十五、第十位ニュージーランド五千三百七十四、第十一位ベルギー四千百八十、第十二位ノルウェー四千八十四、第十三位デンマーク三千百四十一、第十四位イタリア三千十二、これは昨年の末でございますので三千八とちょっと違いますが、第十五位が中国の二千八百五十三、それから第十六位の日本が二千七百九十二でございます。
  282. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 大臣、お聞きのように、難民の問題が発生といいますか起きたのは、先ほどお話があったように、ヨーロッパに始まったことは事実です。しかし第二次大戦後、ベトナム、インドシナを中心にしてアジアでもって相当出ているということはおわかりだと思うんです。今お聞きのとおりで、難民条約の批准が八十九番目、難民の受け入れ数からいくならば十六番目でもって、今三千八名受け入れているんですというのが日本の実態なわけなんです。  次にお聞きしたいのは、難民条約が批准されてから難民として認定した数がどのくらいありますか。それから、認定しないで国外に追放しちゃったというのがどのくらいありますか。
  283. 田中常雄

    政府委員田中常雄君) お答えいたします。  本年二月末現在、条約難民と認定した者の総数は百三十二名でございます。また、条約難民と認定しなかった者の数は二百三十七名でございます。なお、難民と認定されなかった者のうち強制送還された者の数は二名でございます。
  284. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 じゃ、次に、難民の認定申請を出して認定がおりるまでの期間というものは平均どのぐらいかかっているんですか。
  285. 田中常雄

    政府委員田中常雄君) 難民認定に関しましては、それぞれの事案に応じまして非常に慎重な調査及び審査を行っておりますもので、処理に要する期間は必ずしも一定しておりません。これまで処理済みの事案のうち最短処理期間は約二カ月でございまして、最長処理期間は約一年十カ月でございます。なお、処理に時間を要した事例というのは、申請人の供述だけでは事実関係の把握がなかなか難しくて、国連機関、外務省その他を通じていろいろ調査をしたというケースでございます。
  286. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 認定するには、もちろん本人の供述だけでは難しい面も私あると思うんですよ。しかしながら、親が難民として他の国で認定されておっても、その子供に対して日本の政府は難民として認定しないという事実もあったと思うんです。そういうことについてどういう御判断でそういうことを下したんですか。
  287. 田中常雄

    政府委員田中常雄君) 難民の認定、不認定の仕事は、難民条約第一条A(2)に合致するか否かと、そういうことを調べ上げまして、その結果認定するわけでございます。したがいまして、外国において親御さんが認定されたケースで、子供さんが日本において認定されなかったケースというのは、具体的に私つまびらかにしておりませんけれども、しかしながら、日本は難民条約に沿って、難民条約の精神を踏まえながら条約難民の認定を行っている次第でございます。
  288. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 ひとつ、じゃ、これはラオス難民で、ルー・キムさん、ラオスに生まれて二十歳までラオスにおった。二十歳になったときにラオスがああいう政情になったから脱出をして台湾に渡って、台湾に一カ月おっただけでもって、いわゆるパスポートをつくってもらって日本に入ってきた。それで最初は一、二回の延長だけしてもらって、またやっぱり正規に台湾に帰って、台湾に三月ほどおってまた日本に戻ってくる。そういうことの繰り返しをして、それで最終的には五十二年七月三十一日に三度目の入国をして、もう今度は延長がなかなかきかぬから、言うなれば地下に潜ってしまった。難民条約を日本の国が批准したから、じゃ、認めてもらえるだろうといって出てきて、みずから出頭したらば、すぐそこで捕まえられて収容されてしまった。もちろん間もなく仮釈放にはなったわけですけれども、このルー・キムさんの場合なんかで言うならば、みずから出頭した五十六年のときでもって二十六歳、その二十六年間の中で台湾におったのは合計してもわずかに一年六カ月なんです。何でその人を、これは台湾パスポートを持っていますから台湾政府が保護すべきであり、責任を持つべきであり、日本政府は責任を負う必要はないんですといって認めなかったのか。それで、いろいろと昨年も時の大臣にも私も随分お話をして、大臣、よく聞いておっていただきたいんですが、それで、この両親はカナダに行って、カナダで難民の認定もちゃんと認められて、それで父親の方はもう結核でもって、病気で生活保護まで受けている。両親はカナダで難民の認定を受けているにもかかわらず日本ではそれをその子供に対して難民としない。それどころかラオスを脱出するときはみんなばらばらになって命がけで出ていくから、父親が病気だというのでもって、せめて生きているうちに会いたいと言っても法務省は出さない。私が何回交渉したか、カナダに行きっ放してもう二度と日本に帰ってこないというならばいつでも出しますというのがそのときの法務省の態度だった。最終的にやっと特別在留許可を認めてくださって、そうしてカナダまでお父さん、お母さんに会いに行って昨年末帰ってはきました。したがって、もう彼女は難民申請を認めてもらえないというのでもって、特別在留許可でもって現在日本にいるわけだけれども、どうしてそういうものを難民申請として認めないんですか。理由は何なのですか。
  289. 田中常雄

    政府委員田中常雄君) お答えいたします。  ある外国人が難民認定申請をしたかしないかということは、本人にどういう影響が及ぶかわからない面もございますので、原則としてその答弁は差し控える次第でございますけれども、インドシナの流民については既にもう公知の事実になっておりますのでお答えいたします。  委員指摘の廖娟さんの件でございますけれども、この人はただいま委員の御説明もございましたように、インドシナ出身の中国人でございまして、ラオス政変の直前にラオスを出国して台湾に帰国したわけでございます。そして台湾の庇護を受けたものでございまして、その後台湾にしばらく在留した後、観光ビザを持って日本国に行き、そして不法残留になったケースでございます。難民条約におきましては、迫害国から直接その国に行くということが難民認定、不認定の一つのキーになっております。そして、この人は台湾に行って戸籍を設定し、当然国籍は台湾に持ち、国籍国において既に保護は受けられておるわけでございます。難民条約上ではこういうのをファーストアサイラムと申しまして、いわゆる第一次的庇護というものが与えられたケースにつきましてはその国で庇護する、そして、その国でもう庇護を受けている場合においては、そこから再び流民ということになった場合においては、その流れてきた先の国においては難民条約の不認定にするということでございます。  実はこの考え方、昨年秋、国連難民高等弁務官の事務総長でバルトリンクさん御一行が来ましたもので、実は流民という問題について私から直接説明いたしまして、流民という人たちから難民認定申請が出ているけれども、法務省は今私が御説明いたしましたような理由をもって不認定にいたしましたということを説明いたしました。そうすると、バルトリンク御一行は、あの条約解釈はそのとおりである、だから法務省の解釈はそのとおりで間違いないということでございました。なお、それにつきまして、しかしながら私たち流民というのが現在まで数えますと全部で九十五名ございますが、九十五名のうち九十名については在留特別許可をいたしました、五名だけはどうしても仕方がありませんでしたという事情を説明したわけでございます。言いかえると、不認定にはするけれども、これらの人たちがもともとは昭和五十年前後インドシナ三国から逃れてきたという特殊な経緯を考慮いたしまして在留特別許可にしたと言ったら、そのときも、法務省のそのあれは非常に高く評価するというのがバルトリンクミッションの評価でございました。
  290. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 国連難民高等弁務官が、あなたは難民です、私は認めますと言っている方でも、日本法務省は認めないんですよ。そのことについて私が名前を挙げたならば、また法務省がその人についてどういうことをするかということを思えばこそ、名前は言いませんけれども、今あなたが言われたようなことも、それはその一つで、ですから冒頭私が言いましたように、アブノーマルの状態でもって出てきたあの人たちに日本の国なら日本の国の正常な法律を当てはめて扱うところに少し無理があるんじゃないですか。今のルー・キムさんの場合だって、それは日本の国へ来るについて正常な手続を経てとして、台湾にたった一カ月おっただけなんですよ。二十歳までラオスにおって、それで政情不安になって危ないといって親は親でもって、自分たちは自分たちであのメコン川を命がけで渡って逃げてきた。日本の国に入るについて台湾でもって適当なパスポートをつくってもらって、わずか一カ月おっただけでやってきた。それが何でこれは台湾政府がパスポートつくったんで台湾政府が保護しなければならないのだという、そういう判断がおりるんですか。そういう判断がおりるのだったら、さっきも言うカナダでもって九万だとか、アメリカの五十何万なんというのだって、何も真っすぐあすこまで行った者なんか一人もいないのですから、あのマレーシアの島からか、どこかからみんなそうやって渡って、そうして次々移って行った人たちであって、何でその人たちに、このルー・キムさんのお父さんやお母さんもそうですけれども、カナダ政府が難民という認定をして、しかも病気だといって生活保護までやって面倒見るようなことをする必要があるんですか。日本政府の考え方は、言うならばあなたは難民としては認定できません、最初のマレーシアのそこへ行きなさいということになってしまうじゃないですか。その辺の法務省の御判断というものをもう少しお考えを改めていただきたいと思うのですが、どうでしょう。
  291. 田中常雄

    政府委員田中常雄君) 実は難民に認定するかしないか、または在留を許可するかしないかというのは別の概念でございまして、条約難民には認定できないけれども在留は与えるというケースが、まさに委員指摘のこのケースでございます。米国やカナダにおきまして非常に大勢の難民を、通称難民を引き受けておりますけれども、これらの数は条約難民に認定されたわけではございませんで、要するに、いわゆる一般的に言う難民でございます。そして、その中から何人かの人が条約難民として認定されるかされないかということが決まるわけでございまして、ちなみに実は委員がおっしゃられた点は、法務省はその難民認定について厳し過ぎるのではないかという御意見で非常に痛み入るわけでございますけれども、実は申請数と難民認定数の比率というものを先進諸国で私ちょっとチェックしてみたわけでございます。実は日本国においては認定率というのは二二・五%でございます。一方、カナダは一六・九%、イタリアが一七・五%、西ドイツが一六・六%、ベルギーが一三・七%、英国が二一・三%、そしてアメリカ合衆国だけが三七・〇%になっております。言いかえると、条約難民の認定率だけを申し上げますと、わが国はアメリカに次いで世界で二位であって、決して条約難民の条約の適用の仕方が殊更厳しいということだけは言えないのではないかと考えている次第でございます。
  292. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 今度また法務大臣に、今までのお話をお聞きをしておって、そうしてどういう今言ったような御答弁を御指示なさるのかどうか聞いておかなくちゃならない。  それで、これは五十四年の春の予算委員会で私が難民問題を取り上げたときも、時の外務大臣、特にあのときは総理府の方にまだ難民対策室があって、だから総務長官の所管だったんですよ。そのときの三原総務長官が私に答弁してくれたことは、今までの難民対策のやり方は間違っていました、それで難民問題というのは人道上の問題として人間愛、人類愛でやらなければいけません、人類愛というのは国境を越えて、民族を越えてその国の法律を越えてやらなければならないものです、根本的に難民対策についてはこれから取り組みを改めてそしてやってまいりますという答弁をしてくれて、私も本当に総務長官そういうふうな御答弁をいただいて感謝をいたしますと言ってお礼を言ったくらいなんです。あの五十四年のときに政府が、所管大臣がそれだけの答弁をなさって、それからがそのとおりなっていないからきょうもこうやってやるわけだけれども、ですから、そういう形で大臣は何かにつけてそれなりの御判断を持ち、やっていただいているわけなんで、そういう点から、今のような御答弁を大臣としてお認めになりますか。それとも私が今申し上げたようなことについて理解をしますか。どちらですか。
  293. 住栄作

    国務大臣住栄作君) いろいろ難民条約の実情についても私今承っておるわけでございますが、実は私は三原総務長官のとき副長官をやっておりました。そして難民の問題いろいろ勉強もさしていただきました。非常に大事な問題だと。その後日本が国際的にもいろいろな言われ方をされました。そういうことで難民条約を批准もし、国内法制も整備したわけですね。これはもう御承知のとおりで、年金だとか、年金も最近やうやくまた進歩するようになって大変喜ばしいと思っておるのでございますが、そういうようなことございまして、日本の体制も私整備されてきたんだと思っております。ただ、具体的な取り扱いの問題について、私は温かい気持ちでこれに当たらなければならない。これはもう御指摘のとおりだと思うんです。と同時に、法を曲げてと申しますか、そこらあたり認定をどこまで温かい心で見れるか、行政の裁量の範囲がどの程度あるのか、実はこういう点について私まだ不勉強でございまして、はっきりしたお答えをできないのは大変残念でございますけれども、しかし難民という立場から物を考えてみますと、温かい気持ちというものは大前提だ、そういう気持ちで個々の認定に当たるということもこれ当然じゃないか、そういう意味でこの認定問題も私は扱っていかなければならないと思っておるわけです。ただ、具体的な扱いにつきましてはいろいろあるかと思いますので言えませんが、一般論として言えば、おっしゃるような立場処理しなければならないと考えておるわけでございます。
  294. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 時間が余りないんで、本当に大臣、ずっと歴代の法務大臣には直接お会いして一時間ぐらいいろいろお話をして、そこでいろいろ法務大臣が言ってくださったこと、それをまた公式な場で言うと、これいけませんから、それは言わないですけれども、本当に今大臣言われたように人間的ないわゆる心の温かさというものでもってそういう物差しで扱ってあげていただきたい。  それはもう細かいことでは、例えばこれは日本的に読めば曽傳泉、ツェン・チュアン・チェン、これもラオス難民ですが、まともな会社へちゃんと来て、東京のパンチ工業という会社で働いておった。これももう強制送還されちゃった。収容されて強制送還されるというので、大急ぎでもってこの会社が挙げてみんなでもって署名をつくり、嘆願書もつくって、そしてどうかこんなにまじめで優秀なのだから今までどおり働けるようにしてやってくださいと言って出しても、法務省はそんなものは聞く耳持たずでもって即刻送り帰してしまう。私はいろいろ扱ってきてつくづく思うのは、何か台湾パスポートというのを目のかたきにして、法務省というものは非常にそういう点については冷たい扱いをしておるということを感じるわけなんです。それから、もう一人のホオン・ナイ・ピン、これはベトナム難民ですけれども、これなんかも台湾パスポートで入って、それで結局これももう昨年強制送還された方ですけれども、人類愛というか人間愛というか、そういう気持ちでもってぜひ扱っていただきたいということをお願いをしておきます。  それでもう一つだけ、せっかくの機会ですからなにしておきたいことは、これは中曽根内閣になった最初の臨時国会のとき、だから一昨年になりますか、私が本会議で代表質問のときにもこの難民問題を言いました。そのときも中曽根総理はこの難民の問題というものを今まで宗教団体や赤十字に委託ばかりしておってよくない、もっとやっぱり政府が責任持ってやるべきだと言って、それで難民センターができるようになったわけだけれども、それでも今国が設置をしてやっているセンターというのはその二つか三つしかないわけです。全体から見るならばほんのごく一部なんです。この間も、栃木県の足尾銅山のある足尾町から、あの町議会が決議をしたと言って私のところに来まして、銅山のあったところはもう過疎になっちゃいますので、それで難民センターをここへつくるならば町として土地は提供します、土地を提供しますからセンターだけはそれは国でつくってください、それでそういう人たち、難民の皆さん収容して、日本語の教育やら何やらそういうことをいろいろやって、それで就職の方もこの周辺で全部私たちが責任を持ちますと言って、そういうことも言ってきているんですけれども、そういうふうな難民センターのことについてどうお考えになっているか。
  295. 飯島光雄

    説明員(飯島光雄君) 足尾町が定住難民を受け入れてお世話いただくというお話は新聞で間接的に伺っておるわけでございます。このように足尾町が町ぐるみで難民を受け入れていただきまして、就職までお世話していただく、こういうアイデア、こういう構想は全く敬服に値することでございまして、私ども非常に感激しているわけでございます。大変結構なことだと本当に思っているわけでございます。ただ、具体的にその内容はどういうことかと申しますと、それは必ずしも私ども直接伺っておりませんで、難民センターという具体的なセンターというようなものを足尾町という具体的な場所に誘致されるということなのかどうか、そういうこと、その具体的な内容についてはまだ残念ながら何にも伺っておりませんので、したがって行政当局としましては、この問題についてまだ具体的な検討は何もしていないという状態でございます。
  296. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 町の中のどこか外れの方じゃないんですよ。町の中心にその土地を提供しますというんです。といって、そこへあと建屋まで建てるほどのそんなとても財力はないから、建屋のセンターの方は国が建てるようにしていただきたい、そうしたら、あとは日本語の教育だとか、いろいろ面倒を見るとか、そういうことについては私たちが責任を持ちますし、就職も責任を持ちますというのですから、今も大変いいお考えだというお話があったんですけれども、そういう点で前向きに御検討いただけるかどうか。そういうことになれば、またいろいろと直接皆さん方の方に細かいお話しによこしてもよろしいですから、その辺はいかがですか。
  297. 飯島光雄

    説明員(飯島光雄君) ただいま国として国が運営いだして難民をお世話しているセンターは四つございます。まず、長崎県の大村の一時収容センターでございます。それから兵庫県の姫路と神奈川県の大和にそれぞれ定住促進センターというのがあります。それから先ほど委員指摘の中曽根総理の御尽力によりまして昨年開所いたしました東京都品川の国際救援センターというのがございます。この四つございまして、それぞれ今のところ現状はそれぞれ収容能力、数、その他詳しく申し上げてもよろしゅうございますが、収容能力の範囲内で十分に機能いたしておりまして、当面のところ難民の方々を政府サイドとしてお世話するには必要性は十分に満たしているわけでございます。したがって、当面新たに具体的なセンターを設置するということは考えておりません。
  298. 柳澤錬造

    ○柳澤錬造君 今、収容力が足りているのはそのとおり。だから、それはさっき言ったとおり三千八名ということでしょう。これはフランスなんかは、かつて自分たちが植民地にしておったところだから、ある程度責任を感じて、それはベトナムのあれを引き取らなければということは私はあると思うんです。しかし、カナダが八万九千何ぼだとか、あるいはオーストラリアが八万四千幾らの難民を引き取ってああいう形をやっていくということについて、あれらの国なんかだったら何もそんなもの、日本よりはるかに遠いのですから、そんなに引き取って面倒見なくちゃならないということはないわけなんです。ですから、大臣、時間もなんですから、もう最後に私が申し上げたいことは、昭和二十年代のような、私たち日本人が食うや食わずでいるときだったら、それは幾ら何したって、自分らが食うや食わずだから、そんな面倒見ておれないわと言ってそれは済むと思うんですよ。今日これだけの経済力を持って、世界のGNPの一〇%を占めるといって、そうして経済大国ということを国の総理も口にするような日本の国になったわけなんです。これだけの経済力を持って、それで経済大国だというときになって、そして今いろいろと世界のそういう状態で、しかも何もヨーロッパやなんかでなくて、この日本の周辺に出てくるそういう難民ぐらいもうちょっと温かく迎えたらどうでしょうかという。  それで、数年前も私も難民キャンプに行ってきましたが、政府からも行って、それで、あなたは日本のあれに来ますかということをやったときがあるんですよ。あのときも私は政府にも申し上げたんですけれども、わざわざタイの難民キャンプに行って、そして、あなた日本に来ますかなんということを面接をして、そして引き受けるかどうかなんということをやるなんかよりかも、現実にどれだけ今日本の中に来ているか、この人たちを救ってやってください。その方が先決です。そして、もう数年前になるけれども、いわゆるサイゴンが陥落する前に日本に留学生で来ておった人たちなんていうのは、みんなパスポートも何もないわけですよ。私国会でやって、それから間もなくその次のときには、あのパスポートもなくておった留学生も、そのまま全部ここで定住は認めますと言って政府が切りかえてくれたんです。そして五百名の枠にし、千名、二千名といって難民の受け入れもふやしてやってくれたのですから、その辺のところをもう少し今日の日本の置かれた状態ということを考えて、人間的な心の温かさでもって難民の人たちを迎えてやっていただきたい。そのためにもうちょっと今の政府のやっているそういうことについての軌道修正をしていただきたいということをお願いして、もし大臣からあれば一言お聞きして、終わりたいと思います。
  299. 住栄作

    国務大臣住栄作君) この難民の扱いの問題、いろいろの省にもわたっているかと思うんです。この足尾の件につきましても大変結構な話でございますし、これはどうも総理府の所管のようでございますので、総務長官ともこの件についてまた相談してみたいと思います。  難民の認定につきましても、私は先ほどは温かい心ということを申し上げたのでございますけれども、そういう立場から見ていかなければならないと思いますし、いわゆる流民の問題につきましては、これは最大限の配慮をいたしております。また、ボートピープルの問題なんかにつきましても、これは収容としては無条件に受け入れておるわけでございますし、そこらあたりの先の扱い等につきましても、これは先生のおっしゃるとおりでございまして、十分配意して当たりたいと思っております。
  300. 中山千夏

    ○中山千夏君 最後の質問者です。お疲れでしょうけれども、もう少しですからおつき合いください。私は、死刑制度、それから再審などの問題についてお伺いをしたいと思います。  一番最初に、大臣が死刑制度をどう考えておられるかということをお伺いしたいと思っていたのですが、最初に寺田さんがもう聞いてくださいましたし、それから二月三日に決算委員会でもそのような質問があって、お答えになって、それも読ませていただいていますので、これはそれでかえさせていただいて、そのとおりでよろしいですね。  それからその次に、実は大変聞くのが心苦しい質問を用意しておりまして、つまり執行命令についてのお考えとか心構えというのを伺いたいと思っていたんです。これも寺田さんが聞いてくださいましたので、私もちょっと聞きづらい問題を聞いていただいて逆によかったななんてほっとしているようなことなんですが、それについても先ほどのお答えのままで受け取らしていただいてよろしいでしょうか。それに添えて、執行命令を出すようにというようなお話をお受けになったときには、先ほど非常に慎重にやる、慎重に検討すると言ってくださったんですけれども、重ね重ねもそれを慎重に、また慈悲を持ってやっていただけるようにというお願いを申し添えたいと思いますが、いかがでしょうか。
  301. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 今の御指摘の三つの点につきましては、これは繰り返す必要もないと思うんでございますが、先ほど御答弁申し上げたとおり、私の考え方としてお答えさしていただけたら大変ありがたいと思っております。
  302. 中山千夏

    ○中山千夏君 それではもう一つ、このところ死刑判決だった方が再審無罪になるということが続いてきました。それから、長い間裁判をしていて、それが結局無罪であったというような事件も随分続いてます。そういうことについての御感想と、それからそういう事件をなくすためにどうしたらいいというふうに考えていらっしゃるか。それをちょっと大臣にお伺いしたいんですが。
  303. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 罪ない方を起訴をし、そして判決をいただいてそれを執行する、判決だけは司法の問題でございますけれども、起訴なり刑の執行をするということは法務省の問題でございます。いずれにいたしましても、そういうことがあってはならないことでございます。しかし、人間のすることでございますので、間違いも生じるかと思うんです。しかし、犯罪の捜査あるいは起訴、そういうことに当たって、そういうことがないようにこれは慎重の上にも慎重に取り扱っていかなければならない。これは検察立場においても、もう申し上げるまでもなく大事なことだと思っております。すべての私は検察の仕事に当たっている者は本当に全力を挙げてやってくれておるものと信じておりますが、ひとつ今後とも検察の皆さんがそういう立場事件を取り扱ってほしいと心から念願をいたしておるものでございます。
  304. 中山千夏

    ○中山千夏君 これは刑事局長にお伺いした方がいいかと思うんですけれども、死刑存置の理由ですね。今度の改正刑法草案の中でも、種類は減るけれども死刑は残すという方向で草案がつくられている。その存置の理由として、一つには凶悪犯罪が後を絶たない現状がある、それからもう一つには国民感情という、この二つを挙げておられて、この間の二月三日の決算委員会でもそういうお答えを刑事局長はしていらしたのを拝見しています。この一つ目の凶悪犯罪が後を絶たないというこの存置の理由、これは死刑には凶悪犯罪抑止の効果があるというふうに考えていらっしゃるということなんですか。
  305. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) おっしゃるとおりでございます。結局、死刑に凶悪犯罪を防止する威嚇力があるかどうかという点、これもいろいろ議論のあるところでございまして、参議院の決算委員会でも委員の方のいろいろ御意見も伺ったわけでございますが、威嚇力があるという証明もございませんし、ないという証明もないということが論議されたように記憶いたしております。私どもとしては、現在凶悪事件がやはり後を絶たない現状を見ますと、ここで死刑というものが威嚇力を持っているという、その果たしている役割というものはやはり存在しているというふうに考えておるわけでございます。
  306. 中山千夏

    ○中山千夏君 それが私案に不思議なんですね。というのは、今ある証明もないし、ないという証明もないというふうにおっしゃったんですけれども、大体世界的な通念としては威嚇力はないんだ、抑止力はないんだというふうに動いていると私は思っています。  それは全く論拠のないことじゃありませんでして、例えば一九八〇年に国連の事務総長、当時のワルトハイム事務総長が第六回国連会議の開催に当たっての声明というものの中で「死刑が法と秩序の維持の上で不可欠であり、非常に兇悪な犯罪に対する正当な処置であり、犯罪の増加を抑止するためにきわめて有効だとする考え方が広まっているように思えます。しかしこれは、死刑廃止国が身をもって示すように誤りです。」というふうにおっしゃっているわけです。それから、この会議のための国連の事務局が作成したワーキングペーパーというものの中にも「死刑の犯罪抑止効果を測定しようとより一層進んだ調査努力がなされてきたにもかかわらず、いかなる結論もその抑止効果を証明するには至っていない。」ということを言っているわけです。それからもう一つ、これは一九八〇年の第十二回ヨーロッパ法務大臣会議の死刑に関する決議というものの中にあらわれている部分なんですけれども、死刑をなくすということの根拠みたいなものを書いてあります。その中に「死刑を全面的に廃止した多くの加盟国において、刑事政策上、否定的結果をもたらしたことがないことに留意し、」というふうに明記してあるわけです。それからもう一つは、これはアムネスティー・インターナショナルという、御存じだと思いますが、人権擁護の世界的な組織があります。そこで、ストックホルム宣言というのを、一九七七年、少しさかのぼりますが、そのときにした。その中でも、審議事項五として「死刑制度に特別の威嚇力があるという証明はいまだかつてなされたことがない。」、その論拠として「似たような法律制度と文化形態を持つ国々を比較研究した結果、死刑制度を存置しようが、廃止しようが、犯罪発生率は何ら影響を受けていないことがわかっている。ちなみにアメリカでは、死刑を存置している州全部を合わせた場合の暴力犯罪発生率は、死刑のない州全部を合わせた場合の暴力犯罪発生率よりも高い」ということを言っているわけです。少なくとも威嚇力、凶悪犯罪の抑止力がない、あるいはないに等しい、死刑があってもなくても変わらないというような方面の研究はなされているわけですね。そのなされた結果として、こうやって国連などという場でも、その抑止力というものはないのだ、抑止力というものをとりたてて云々はできないという方向でこういう事務総長なんかが発言をなすっていると思うんです。  こういうことについては一体どういうふうに考えていらっしゃるのですか。全くこういうものは意見の一つである、全然そう大した権威はないのだというお考えなんでしょうか。
  307. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 今御指摘の国連におけるいろいろな論議あるいはその他の先生お示しのことについては、ある程度私どもも承知しているつもりでございます。また、そのほかに、詳細はちょっと記憶いたしておりませんが、アメリカ等で学者が実際に抑止力があるかないか実証的な研究ということで、いろいろな手法を用いて研究しておるということも聞いております。しかし、その結果としてもやはりどちら、あるというかないというか、その科学的な証明というものはなされていないというふうに考えております。結局、抑止力がないんだということも、犯罪を犯した者について、おまえ、死刑があった場合に、それでその犯罪をやめようと思わなかったかと犯罪を犯した人に聞いたという調査もございますけれども、しかし抑止力のために犯罪を思いとどまった人というのは、これ、ちょっと調査のしようがございません。そういう意味で、科学的にあるとかないとかということの証明は、これは実際には不可能じやないか。そうしますと、今おっしゃいましたように犯罪アメリカにおける州の暴力事犯がふえているとか減っているとかというものも、ほかの条件もございますし、凶悪事犯だけで特定の人間で調査するということでもございませんので、結局確たるものはないということになろうかと思います。  私どもといたしましては、やはり日本の現状を見ておりますときに、これは死刑を廃止するということは凶悪犯が後を絶たない現状から見て無理ではないかというふうな結論を持っておるわけでございます。
  308. 中山千夏

    ○中山千夏君 ということは、犯罪抑止効果があるということについても不確実だということですね。
  309. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 科学的なデータとか数字とかで証明されてはいないという意味でございます。
  310. 中山千夏

    ○中山千夏君 何か不可能だというふうにおっしゃったんですけれども、私は不可能とは言い切れないと思うんですよ。いろいろ膨大な調査をみんなしているわけですから。そして、少なくともさっき犯罪を犯した人に聞いたという例だけを挙げられましたけれども、いろいろなやり方で何とか抑止力があるかないかということについてもきちんと結論を出そうとしている科学者の方もいらっしゃるわけですね。そういう努力なり何なりをなすった、あるいはデータがあった上で言っていらっしやることではなくて、どっちにしても不確実である、だから抑止力があるというふうに受け取ったって構わないのだという程度の御主張ですか。
  311. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 科学的に証明されてはいないという意味で申し上げておりますので、抑止力があるというのは私どもの考えでございます。
  312. 中山千夏

    ○中山千夏君 それじゃ、論拠もなく、ただそういう気がしているんですね。
  313. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 論拠をと言われますが、歴史の上ではいろいろ考えられると思いますが、ただこれ証明、科学的に一たんやめてみて十年間たつ、あるいはその後また復活してみて十年間やってそれを比較する、それでもやはり時代の違いというものがございますから、具体的な条件を同一にするというような現実の証明は不可能かと思いますが、それにしてもそういう何か実験の不可能な問題でございます。したがいまして、私どもとしてはそういう科学的な根拠がなしと言われればそういうものはないということになるわけでございますけれども、過去のいろいろな犯罪の実態を見、あるいは現在までの犯罪なり刑罰なり司法なりの歴史を見た上で、やはり抑止力はあるんだというふうな確信を持っておるわけでございます。
  314. 中山千夏

    ○中山千夏君 かたい確信をお持ちだということだけがよくわかりました。結局、私は冷静に考えさしていただくと、少なくとも死刑をなくしてみてどうだったかとか、それは細かいことを言えば、そのときどきで状況は違うし、それから前の十年と今の十年とでは世の中が違うということはおっしゃるとおりだと思うんです。だけれども、例えば少なくとも同じアメリカの州の中で、なくしているところと存置しているところを比べたりという、抑止力がないと言っている人たちの方には、気がするというだけではない、少しは研究をした結果というもの、それから実際にさっきの私が挙げた文書の中にも書いてありましたけれども、自分たち死刑をなくした国が身をもって体験したように、それは犯罪の抑止ということと死刑とは関係がないんだというようなことを体験的に言っているそういうヨーロッパ会議などというものもあるわけですね。それに比べますと、そういうふうに確信している、ただただ確信しているというだけでもって犯罪の抑止効果を存置の理由としてお挙げになるのは不適当だというふうに私は思うんです。それで、むしろ犯罪の抑止効果は不確実だということ、科学的なデータも何もありませんと、ただ我々は確信しておるんですということならおっしゃっていいと思うんですよ。だけれども、そうじゃなくて、あたかも犯罪の抑止効果が非常に確として証明されたもののように、少なくとも法律をつくっていくときなんかに犯罪の抑止力というのを挙げる理由の一つとしては、犯罪の抑止力というのはとてもあいまいで不適当だと私自身は見ていて思います。  それと、もう一つ、抑止効果というのは挙げない方がいいと思うもう一つの理由は、これはもうよく御存じなことで言うまでもないかもしれませんけれども、国際人権規約というのを日本人も締結国になっていますね。その中の市民的及び政治権利に関する国際規約というものの第六条の中に、「死刑を廃止していない国においては、死刑は、犯罪が行われた時に効力を有しており、かつ、この規約の規定及び集団殺害犯罪の防止及び処罰に関する条約の規定に抵触しない法律により、最も重大な犯罪についてのみ科することができる。この刑罰は、権限のある裁判所が言い渡した確定判決によってのみ執行することができる。」と、こういうふうに書いてあるわけです。これは二項です。それからその次に、その六項にとても重要なことが書いてあって「この条のいかなる規定も、この規約の締結国により、死刑の廃止を遅らせ、または妨げるために援用されてはならない。」と書いてあるんですね。そして、この今話しました規約の第六条という部分をどう解釈するかということで、人権委員会が一九八二年にその解釈を採択した中に「この条項はまた、一般に死刑廃止が望ましいことを強く示唆する。」というふうに言っているわけなんです。だから、こうやって死刑やってもいいですよという話ではなくて、死刑は廃止が望ましい、望ましいけれども、いろいろ国の事情もあるだろうからという条項なんだろうと私は思います。  それからもう一つには、さっきのワルトハイム国連事務総長声明のワーキングペーパー、さっきもちょっとお話しましたが、その中にこれは縛るといいますか、義務づけるというような力はないとは思いますけれども、「人々に、死刑の犯罪抑止効果が不確実であることを啓蒙することは……政府、学界、マス・メディアその他の公共団体の重要な責務と思われる。」というふうにあるわけです。それからもう一つは、一九七七年十二月八日の死刑に関する国連総会決議というのがあります。この中にも「死刑廃止が望ましいという観点に立って、死刑の適用される犯罪の数を制限してゆくことにあることを、再確認する。」という一文があります。  つまりこれらは死刑廃止に向かっていった方がいいんだという世界的な流れをはっきりあらわしていることだと思うんですね。その中で国連の事務総長のお話にもありましたけれども、抑止力が不確実であるということを啓蒙するどころか、抑止力があるのだってみんなに言っていたら、じゃ、死刑がなくなったらもっともっと治安が乱れたら大変だというので、死刑がなくならない方がいいという意見がふえるのはこれ当然のことでして、それで、ふえたところで、いや、国民は死刑を望んでいるから存続させるのだと言っているのではちょっと本末転倒だと思うわけなんですよ。この国連人権規約の締結国としても死刑廃止に向けての啓蒙活動をこそするべきだと私は思うんですよ。それなのにその逆のことしかしていらっしゃらないように私には見えます。それどうお考えになりますか。
  315. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 死刑存置の理由として、やはり威嚇力がある、あるいは抑止力があって必要なんだということでございます。ただ、そういう絶対死刑は廃止してはいかぬとか、なくすべき世界的方向に反しておるというようなお話でございますが、世界的に死刑をなくす方向に国連等でいろいろな議論がなされているということは私ども承知いたしておるところでございます。  それから、今の御議論で威嚇力があるということ、抑止力があるということと、それから国民のコンセンサスといいますか、国民の意識というものを二つ離して論議されておるわけでございますが、必ずしも離せるものではなくて、国民の意識の中にはやはり死刑に威嚇力と抑止力があって必要なんだという意見が今は強いということを私ども言っておるわけでございます。これは国民の意識の中でそういう抑止力もないし必要はないのだというような合意ができる世の中が来れば、そのときにはまたそれに沿うような措置がとられるべきものだと、現在国民の大多数がどう思っておるかと言えば、やはり抑止力があるんだというふうに思っておるというふうに私どもは思っておるわけでございます。
  316. 中山千夏

    ○中山千夏君 国民の大多数というより、さっきのお話を伺っていると、まず刑事局長自身が強い確信を持っておられるわけでしょう。だから国民の代表でいらっしゃるのかもしれないけれども、私が今申し上げたのは、そういう確信は、抑止力があるのだというような、抑止力は不確定なものなのだから、それがあるのだというような確信をさらに国民に植えつけるようなことをするのは、我々国際社会の一員でもある日本としてはおかしいと言っているのですよ。我々が締結している条約の中でも、死刑はなくしていこうということを言っているわけですからね。人ごとじゃなくて、なくしていきましょうと、この国も一緒に言っているわけですよ。そう言っている国がなくしていく方向に国民を啓蒙するのではなくて、御自身も非常に固い信念をお持ちになって、抑止力があるのだという信念をお持ちになった上で、さらにそれを増幅するようなことしかなさらないというのはおかしい、そう申し上げているわけです。それまた後でよく考えてください。時間がないので、これやめます。  それから、ちょっとこれは教えていただきたいんですけれども、八十二年と八十三年の死刑確定者数と、それから執行数と現時点での死刑確定者数、これを教えてください。
  317. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 昭和五十七年と五十八年かと思いますが、死刑の裁判が確定した旨の報告がありましたのは、昭和五十七年に一名、それから昭和五十八年一名でございます。それから、執行の関係でございますが、昭和五十七年から五十八年末までの間における執行人員は二名でございます。それから、死刑確定で未執行者は、けさも申し上げたと思いますが、本日現在で二十六名でございます。
  318. 中山千夏

    ○中山千夏君 そのうち再審請求を出している数は。
  319. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 現時点で二十六名死刑確定者がございますが、そのうち再審請求を申し立てております者は十一名でございます。
  320. 中山千夏

    ○中山千夏君 再審が却下されて何度も出しますね。この間の免田さんなどのこともちょっと聞きましたら六回目ですかの再審請求だったというふうに聞いています。何度も出すうちのある一つの再審請求が却下された途端に執行されたというケースがあると聞いているんですが、これはどうですか。
  321. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 具体的にはちょっと定かでございませんが、再審申し立てが却下された直後というのはどの程度を言いますか、再審申し立てが却下されて、その次の再審請求を申し立てるまでの問に執行された事例はあると思います。
  322. 中山千夏

    ○中山千夏君 もしその次の再審出していたら再審が開始されたかもしれないと思うと、非常に微妙なものだなということを私感じるんですね。  それともう一つ、確定から執行までの期間ですが、これ先ほどの御答弁の中でちょっと出てきたと思うんですけれども、物すごくばらつきがありますね。こういうばらつきが出るという理由は、再審請求、恩赦請求、そのほかにも何かありますか。
  323. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 申すまでもございませんが、死刑執行、これは一命を断つわけでございますので、非常に重大な結果を招くわけで、死刑執行命令を発するに当たりましては慎重に慎重を重ねておるわけでございます。その一つとして、再審の請求とそれから恩赦の出願があった場合にその間の執行を見合わせておる、これが一番大きい理由でございます。それからさらに、これは何回も繰り返される事例もございますし、そもそも死刑執行命令に至るまでの間には、私どもの方で記録を精査いたしまして、何回も何回も読み、あるいはいろいろな立場の人が繰り返し読みまして、最終的に大臣のところへ御決裁を得るということになっておるわけでございます。そういう関係で時間もかかりますし、あるいは再審請求ということになりますと、記録が全部裁判所の方へ行ってしまいますので、その間は記録を読むことも事実上不可能になるというようなこともございます。  それと、不公平というお言葉でございますが、それぞれの事件、いろいろ同じ死刑と申しましてもそれぞれのニュアンスがあり、それぞれの理由があり千差万別と言ってもいいぐらいかと思います。それに応じて審査をし、慎重に検討するということで、ある者は長くなりある者は短かくなる。やむを得ないことではないかと思っております。
  324. 中山千夏

    ○中山千夏君 まだ不公平だというふうには言ってなくて、これから言おうかと思っていたんですけれども、先にお答えいただいちゃったんで、それは結構です。  執行における医師の参与の状況というのはどういうふうになっていますか。
  325. 石山陽

    政府委員(石山陽君) 医師は執行後に死亡の確認をするというかかわり合いを持って立ち会っております。
  326. 中山千夏

    ○中山千夏君 それは執行中も立ち会っているということですか。それから、執行前の健康診断などというのはあるというふうに聞いていますけれども、それはいかがですか。
  327. 石山陽

    政府委員(石山陽君) 執行に際してでございますから、事前、事後にわたる場合ももちろんございます。
  328. 中山千夏

    ○中山千夏君 執行に当たる職員の方がおられて、大変なお仕事だと思うんですけれども、こういう方たちにどのような特別待遇をとっておられるでしようか。
  329. 石山陽

    政府委員(石山陽君) 死刑執行作業と申しますのは、今中山委員仰せのように大変心理的にも不快かつ本人の心身にも重大な影響を与える作業だと思います。恐らく日本で一番つらい作業だと思います。このため、その特殊な勤務の状況に応じまして、人事院では昭和二十七年から死刑執行手当というのを給付することになっております。
  330. 中山千夏

    ○中山千夏君 時間がありませんので、その細かいことについては後でまた伺いますので教えてください。  大臣にちょっとお伺いしたいんですけれども、今のお話にもありましたように、執行する側にとっても、大臣もそのお一人なわけですけれども、とっても大変なことだと思うんです。私は、百歩譲って、今すぐになくすというわけにはいかないという御議論は聞く耳持たなくもないんです、私はすぐなくしたいですけれども。でも、こういう刑罰はなくす方向には持っていくべきだと思うんです。それについて、世界的にはなくすという方向の流れがあります。そのなくすという方向についての活動が民間ではあるのですね。民間でその活動が行われる場合に、いろいろな研究をしたり、それから実態を調べたりしてさらに考えを深めていかなきゃならない。それから、なるべく多くの方たちに、死刑はなくしてもいいという気持ちを持っていただくために、いろいろなことを法務省にお尋ねしたい、情報をいただきたいということがあるわけです。そのときに法務省に申し上げますと、最初の私の委員会での質問のときなどは年度ごとの執行数も教えていただけなかった。きょうはすごく優しいなと思って感動しているんですけれども、死刑に関して法務省に何か尋ねますと、何かまるで死刑を廃止しようと運動していることが悪いことみたいな感じがあるくらいにガードが固いのですね。それは事柄によるでしょうし、それから死刑ということそのものが、前の前田局長もおっしゃっていましたけれども、よく口ぐせのように事柄が事柄だけにという言い方でいつも答弁を断られちゃったんですけれども、それもよくわかっていますけれども、悪いことに利用するわけではない。ただ、データであるとか、個人の人権を侵害しない範囲で死刑の実態というものを教えてほしいというのは悪いことじゃないし、むしろ死刑をなくそうという世界の流れに即したものだと思うんですよ。こういうことには法務省もちょっとは協力するのが正しい姿勢だと思うんですが、大臣はどうお考えになられますか。
  331. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 私は、法務大臣になってこの死刑の問題考える場合に本当に深刻になるんですね。それで、先ほど来、抑止力になるかならぬかとかいろいろな御議論がございましたけれども、私は率直に申し上げまして、私が法務大臣立場として、いつまでおるか別問題ですけれども、とにかく死刑廃止だと叫ぶ勇気も実はございません。といって、あっていいのかなという疑問も率直に言ってなきにしもあらずでございます。一般の方々がこの死刑問題を取り上げられていろいろ議論していただくこと、もちろんこれはもう自由でございますし、それなりに意味があるというように考えます。その限りにおいて、今もおっしゃいましたけれども、人権その他の問題がございますし、私はそういうようなことを考えながら、許される範囲内で御協力を申し上げる。これも事務もそういう立場でやってくれるのじゃないかなと、まだ相談はいたしておりませんけれども、そういうように考えております。
  332. 中山千夏

    ○中山千夏君 とにかく何度も申し上げますけれども、日本は死刑をなくすことが望しいのだという考えを持った条約に入っているわけですから、そこのところをお考えになって、ぜひよく御相談いただきたいと思います。  次に、八三年の六月二日に検察長官会同というんですか、合同会議のようなものだそうですが、ここで前の法務大臣、それから検事総長が訓示をなさいました。その訓示の中では「捜査活動に対する適切な指導助言」という言葉が、これ新聞報道ですけれども出てくるんですが、その訓示に基づいて具体的にはどのような指導助言が行われたか、お伺いしたいんですが。
  333. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 昨年六月、たしか全国の検察長官会同と申しておりますが、検事長及び検事正が集まりまして検察の問題について協議をしたことがございます。その際における訓示であろうかと思います。その内容、ちょっと私も定かに記憶いたしておりませんが、捜査活動に関する助言、指示と申しますか、そのときどういういきさつでそういうことが出てまいったか存じませんが、一般に最近その後の再審で無罪になったこと、あるいはいろいろな事件が、常にといいますか、よくあるわけでございますが、捜査活動に関してはまず検察官としてみずから研さんをし、慎重に捜査をし、的確な証拠を集めて検討するようにということは常に言っておりますし、あわせまして第一次捜査機関である警察とも緊密に協力し、警察の捜査能力の向上等にも検察官としていろいろ個々の事件を通じ、あるいは一般的な指示を通じて心がけるようにということを言っておるものかと思います。
  334. 中山千夏

    ○中山千夏君 これは新聞に報道されていたので、今大体おっしゃった内容というのを知ったわけなんです。そのほかに、何かお役所というのはよく文書を出しますから、文書でこういうことは気をつけろとか、あるいはまたほかの何か会議のときに上の方がこういう訓示をなさったとかという記録があるかと思って事前にお伺いしたら、そういう記録は全然ないというお答えだったんですね。そういうものは本当にないんですか。
  335. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 今の会同の際に、訓示あるいは指示等で言いますし、そのほかいろんな、何といいますか、検事長等の会同じゃなくて、各係の検事の会同でございますとか、あるいは研修でございますとか、そういう機会に同じようなこと、あるいはもっと具体的にこういう事件についてはこういう捜査を、こういう点を中心に捜査すべきであるとかというようなことはいつも言われております。特にそれを文書にしたというようなものはございません。
  336. 中山千夏

    ○中山千夏君 部内の資料みたいなものとしてはあるけれども、公表はしないというふうにも伺ったんですけれども、そうなんでしょうか。
  337. 筧榮一

    政府委員(筧榮一君) 部内資料といたしましては、研修所というのがございますが、研修でいろいうな特殊な犯罪、覚せい剤なら覚せい剤、脱税なら脱税と、そういうものにつきましての捜査のあり方を問題点を協議し、それをまとめた資料というのはもちろんございます。ただ、これが表へ出ますと、どういう点を調べるというのが書いてございますので、そういう点はあくまで部内資料、概しまして捜査の技術的な検討なり指示といいますか研究結果というものは、どうしても部内限りということにならざるを得ないかと思います。
  338. 中山千夏

    ○中山千夏君 そうしますと、やはり国民の目に触れるといいますか、私たちが、これはさっきお話しした昨年六月の会議というのは、相次ぐ再審だとか、それから長期裁判の結果無罪になった、そういう事例を踏まえての「捜査の反省、適正化」ということで検事総長法務大臣が行われた訓示だというふうに大変大きく報道されていたわけなんです。そうすると、我々が知り得る国側の反省といいますか、そういうものはこれにとどまるということになりますね。ほかにどういう反省をしておられるかわからない。具体的にはどういう手を打っておられるかわからない。そうなりますと、この前の大臣のことですし、それから、ここにはいらっしゃらない方のことなんですけれども、この訓示は実に漠然としていまして、非常に何か適正など言われても何がどう適正なのかということがよくわからないし、捜査をするときにあるいは取り調べをするときに今度からどういうふうにするのかみたいなことがよくわからないんですよ。そうすると、本当に反省してこれから改善されるのかしらという感じがすごくするんです。それに比べて、昔の資料もちょっと探してみたんですけれども、昔の方が例えば一九二二年、大正十一年に鈴木喜三郎検事総長という方が、これは後に治安維持法を立法なさって余り評判がよくなくなったということなんですが、この方がやはり司法会議で訓示をしていらして、このときには犯罪の真相究明に公正中立の立場でかかわりなさいということをものすごくはっきり言っているし、それから、自白の強要は絶対してはいかぬのだということを明確におっしゃっているんですね。そういうものが後々の資料だけれどもちゃんと我々の目に触れるようなところに出てきているわけなんです。そうすると、時代としては人権という見地から見るとちょっと後退したのではないかなという感じもあるんで、もう少し部内のことでも余り捜査にかかわりないというような部分であれば、この程度の例えば自白強要はしないとか、そういうことぐらいはおっしゃってもいいのじゃないかというふうに私は感じました。  時間がないのでちょっと次の問題に移りますけれども、警察は警察の取り調べについて拷問しているんじゃないか、あるいは拷問のある可能性が非常に強いと言われていますけれども、それはどうですか。
  339. 於久昭臣

    説明員(於久昭臣君) お答えいたします。  捜査は法令に定められた手続を守り、人権を尊重しながら事案の真相を究明していく活動でございまして、取り調べの過程で自白を強要するといったようなことは絶対にあってはならないことでございます。我々警察といたしましては、このことにつきまして平素から指導、教養に努め、いろいろな法令を厳重に守り、被疑者の人権をも不当に侵害することのないよう努めているところでございますが、今後さらにその徹底を期してまいりたいと考えております。
  340. 中山千夏

    ○中山千夏君 ちゃんと話さないとトイレにやらないとか、それから手錠をかけたまま長時間取り調べをするとか、それからもう聞くにたえないようなわいせつな言辞を浴びせたり、それから被疑者が怒らずにはいられないようなひどいことを言ったり、それから弁護士や家族との連絡というのをわざとらしく阻害したりというようなことがいっぱい報告されていて、まとめられているものもあります。そういうものがあるということは、実はあるかないかじゃなくて、そういう報告が出てきている。それもおもしろ半分にやっている人たちじゃなくて、弁護士さんや何かきちんと一生懸命研究している人たちの間から出てきているということは大変問題じゃないかと思うんですよ。そういう疑いを晴らすなり、もしあるのだったらそういうことをやめるなりしないと、今起こっている再審とか無罪判決というのは何十年も前のことですけれども、皆さんがこの職から退かれたときに、次の職につかれた皆さんがまた苦労するということに私はなると思うんですね。  で、警察でのそういう取り調べに対する何というんですか、嫌疑を晴らすというか、本当に公正にやっているんだということを通すために、何かこのやり方でも例えばVTRやテープを使ったらどうかなんて言っている人もいますし、何かそういうことはお考えにならないのですか。ただ自分たちは正しいのだから言う方がおかしいのだという態度では、こういう事件が重なっているときに済まないという気がするんですが。
  341. 於久昭臣

    説明員(於久昭臣君) ただいまお答えいたしましたように、我々警察といたしましては、適正捜査に努めるということはかねてからの大きな課題でございまして、その実は随分上がってきておると思っております。さらに適正捜査の実を上げるべく今後とも努力をしたいと思っております。先生が今おっしゃいましたような具体的な方法云々ということにつきましては、自信が必ずしもあるわけではございません。調べの内容その他について逐一明らかにいたしますのは、被疑者の人権との兼ね合いもございましてなかなか難しい問題だと考えております。
  342. 中山千夏

    ○中山千夏君 きょうはこれで終わります。
  343. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 本日の質疑はこの程度にとどめます。     —————————————
  344. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 次に、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を議題といたします。  政府から趣旨説明を聴取いたします。住法務大臣
  345. 住栄作

    国務大臣住栄作君) 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明いたします。  この法律案は、下級裁判所における事件の適正迅速な処理を図るため、裁判所の職員の員数を増加しようとするものでありまして、その内容は、地方裁判所における特殊損害賠償事件等及び民事執行法に基づく執行事件並びに家庭裁判所における少年一般保護事件の適正迅速な処理を図るため、判事の員数を九人増加しようとするものであります。  これがこの法律案の趣旨であります。  何とぞ慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますよう、お願いいたします。
  346. 大川清幸

    委員長大川清幸君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。  本案に対する質疑は後日に譲ることにいたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時二十二分散会      —————・—————