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参考人(
阿部浩二君) ただいま御紹介いただきました
阿部でございます。
私は、著作権
審議会第一小
委員会の
委員の一人でございますし、その立場において
参考人としての意見を述べさせていただきたいと思います。また一個の学問をする人間として申し上げたいと思います。
初めに、こういう機会に意見を述べさせていただくことに対しまして心から御礼を申し上げます。
御承知のように著作権
審議会は第一小
委員会から第七小
委員会まで現在持っております。第二小
委員会から第六小
委員会までは現実には現在機能しておりませんが、過去において既にその仕事を一応完了しておりますけれども、第一小
委員会、第七小
委員会、とりわけ第一小
委員会は現在さらに活発に動いているところでございます。第一小
委員会はもともと著作権
制度全般にわたって
審議することと、それから外交
関係、条約
関係について
審議する
委員会でございます。
その第一小
委員会で、今回の
著作権法の一部を
改正することが必要ではなかろうかと、このような著作権
審議会からの諮問を受けました。それにつきまして、著作権
審議会は第一小
委員会を設けまして、
現行の
著作権法が
昭和四十六年の一月一日から施行されておりますが、既にもう十数年経過しておりますし、その十数年の経過というものは、過去における文化そのほかの伝達機関の発展というものに比べてみますと、十五世紀、十六世紀におけるような印刷物の発達というようなものに、それから五百年、千年というようなことにも、今まだ
たちませんけれども、それに匹敵するような、たった十年なり二十年の間においても著しい変化があるということから、とりわけその間における録音録画機器、それから複写複製機あるいはコンピューター等の新しい著作物
利用手段の著しい開発、普及に伴いまして、
現行法制定当時に予想もしなかった
状態が生じてまいりました。とりわけ最近では、先ほど両
参考人から
お話がありましたような、レコードを初めとする著作物の複製物のレンタル業というものも出でまいりましたし、あるいはテープの高速ダビング用の出現ということも出てまいりまして、
著作権法に対する見直しというものがどうしても必要になってきたということになりました。
そういう点を念頭に置きまして、著作権
審議会総会が昨年の一月に先ほど申しましたように第一小
委員会に諮問をしたわけでございます。その諮問をしたその第一が著作物の複製物の貸与の取り扱い、それから映画の頒布権の見直しというものが第一のテーマでございました。第二のテーマが貸しレコードに関する実演家、レコード製作者の権利の取り扱いでございます。第三が
現行著作権法第三十条の規定の明確化ということでございます。第四が著作隣接権条約への
加入の問題、この四点が問題点として提起されたわけでございます。
そのうちの著作隣接権につきましてはこれは条約
関係でございますし、ほかの三点とは性質が若干異なりますので、これは一応さておきまして、まず初めの三点について
審議したわけでございます。もちろん、その三点の中でそれぞれ皆重要ではございますけれども、その契機となりましたのは、両
参考人がただいま申されました貸しレコード問題に端を発していると言ってもよろしいのですが、そちらにウエートを置きながら話を進めてきたわけでございます。その結果といたしまして、我々が
委員会で一応の結論を見、
著作権法の
改正に向けまして、第一小
委員会の
審議結果というものを昨年の九月九日に公にする、その前に
審議会の総会に報告いたしております。もちろん、その
審議に当たりましては七月段階におきまして中間の報告をいたしております。中間の報告を、これを公にいたしまして、それにつきましての各界の意見を参考に、各界から、各方面から意見を承りました。その意見を承り、改めて九月九日に最終報告案をまとめまして、これを
審議会の総会に報告したわけでございます。前後で二十回くらいにわたり
審議会が持たれました。慎重に
審議した結果といたしまして出したその案に基づきまして文化庁の方で法案の作成に踏み切った。さらにまたいろいろと御意見を承りながら、各方面から意見を承りながら法案の作成に踏み切ったのだろうと思います。
その法案を背景にいたしますと、私
たちが考えておりました骨子とほとんど差異はないと申しますか、その
趣旨が非常によく生かされておりますので、
審議会としては、第一小
委員会の
委員の一人といたしましては、今回の法案が、このまま
国会においても制定されることを、これを強く期待しているわけでございます。
簡単に、我々の考えておりました第一小
委員会の
審議の結果につきまして申し上げますと、第一に貸与権というものを考えたわけでございます。貸与権と申しますと、著作物を貸与する権利でございますが、現在、貸与するにつきましては頒布権と申しまして、著作物の複製物を、これを公衆に譲渡し、または貸与する権利として頒布権というのが認められております。その頒布権は、現在は映画についてのみ認められておるのでございまして、ほかのものについては認めているわけではございません。そういうところから、例えば、ただいま具体的に問題になっております貸しレコードの問題につきましても頒布貸与ということについてどうだろうか、こういう問題が起こってきたわけでございます。
そういうところから各国におけるところの動きということを考えてみましても、この際におきましては、従前の頒布権というものとは一応異なって、別個に新しい権利として著作者に頒布権ではない貸与権を新たな権利として認めた方が適切ではなかろうか。著作物一般に頒布権というものを認めていくということになりますと、映画と同様な形において認めていきますと、社会的な影響も非常に大きい、これはちょっと困るというところから、もう少し勉強しなければなりませんし、頒布権それ自体につきましては現在国際機関の方でいろいろと
審議研究するという、こういう過程にございますので、さしあたり、我々としては、現在のいろいろな事情の変化に応じまして、著作物一般につきまして貸与権というものを著作者に認めていこうというふうに考えたわけでございます。
さらに、その著作者と別個に著作隣接権者がございます。著作隣接権者は、レコードに関しますと、そのレコード製作者、それからレコードに歌やそのほかを吹き込んでおります実演家、さらには放送機関もこの著作隣接権者に入ってくるわけでございます。この著作隣接権者のうち放送機関はさしあたり
関係ございませんので、レコード製作者と、それから実演家にもこのような貸与権ということは考えることはできないだろうかということを考えたわけでございます。
しかし、その実演家やそれからレコード製作者につきましては、
現行法制上におきましては二次的使用料、それが放送に
利用される場合において報酬請求権ということが考えられておりますので、さしあたり、まず報酬請求権というところでよろしいのではなかろうか、許諾権というような貸与権まで認めなくてもと、認めなければならないというような
考え方もありましたけれども、さしあたり中間報告のときには報酬請求権というところにとどめておいたわけでございます。
しかし、
実態につきましていろいろと承りました。それから、各方面からの御意見を、実情を何回かにわたりまして質問をいたし、そしてそのお答えをいただきました結果としまして、単に実演家あるいはレコード製作者に対しまして、許諾権であるところの貸与権というようなものを認めないで果たして実効があるのだろうかということにつきまして非常な疑問となってきたわけでございます。その当時は、ただいま
お話しありました牛久保
参考人が申されましたような商業組合というものももちろん設立はされてはおりませんし、その
時点におきましては四百ぐらいでしたか、そういうような、組合ではございませんけれども、単純な民法上の組合なのか何かわかりませんが、そういう団体が自主的につくられていたようでございます。しかし、そういう団体に拘束力もありませんし、あるいはまた商業組合がつくられたと仮定いたしたとしましても、そこに
組合員以外の者、組合に
加入することを強制するわけにもいきますまいし、そのようなことになってまいりますと、果たして実効があるのかないのかというような疑問が出てまいりました。そういうところから、この貸与権につきましても、隣接権者に対しましても、やはり貸与権が必要ではなかろうか。貸与権、簡単に申しますと貸与するに当たって許諾をする権利ということになりますが、それが必要ではなかろうかと
判断したわけでございます。
しかし、そういう権利を無
条件に認めて、どのような形においても恣意的に行使されては甚だ困るというところから、やはり、その権利の行使にもおのずからなる制限がなければなるまい。そういうところから許諾権についての行使に当たりましても、公正な権利の行使ということを強く要望するように考えることはできないだろうか、こういうふうに考えたわけでございます。
と同時に、もう
一つ、先ほど
お話がありました暫定
措置法がございましたので、その暫定
措置法におきましても許諾権ということを考えておられるわけでございます。既に成立している許諾権ということを考えていきますと、今度はその期間が問題になるのではなかろうか。許諾を与える期間というものはどういうふうにしたらいいのだろうか。考えてみますと、
審議会でもって簡単に何カ月とか何年とかというような期間を定めるということは必ずしも適切ではない。やはりこういうのは両当事者が真剣に考えて折り合わなければなるまいというところから、短期間というように定めただけにしておきまして、あとは当事者の自主的な自治的な解決に待つのが最も好ましいのではなかろうかというふうに考えて、隣接権者に対しましての許諾権ということを考えたわけでございます。ただ一定の、ただいま申し上げましたような枠内において認めているということでございますので、この法案は
審議会の
考え方、小
委員会の
考え方というものを極めて忠実に反映しているというふうに考えますし、また既に
国会において成立いたしました暫定
措置法の
趣旨にも合致するのではなかろうか、こういうふうに考える次第でございます。
さらに、そのほかに小
委員会といたしましては貸しレコードの問題だけではございませんで、先ほど申しましたように
著作権法の第三十条の問題につきましてもとらえてきたわけでございます。
著作権法の第三十条と申しますのは、これは著作物の私的使用のための複製については、これは著作権の制限を著作権者に対して著作権を働く場が制限されるというような規定でございます、「著作権の目的になっている著作物は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用することを目的とする場合には、その使用する者が複製することができる。」というようになっているわけでございます。これは著作権ばかりではございませんで、著作隣接権においても準用されているわけでございます。そういうところからこのうち私的使用というものは範囲が明確でないために、それが原因となりまして、
一つには貸しレコードの問題が起こったわけでございます。貸しレコードは、レコード業者としましては、お客さんにレコードを貸すだけである、複製するのはそのお客さん
たちが勝手にやるのであって我々は関知しないと、こういう
考え方が出てまいりまして、その貸しレコード業というものは
著作権法の三十条に適法な行為として認めることができるとされている行為に該当する、こういうような論法が出てまいったわけでございます。まあ、巧妙といいますか、巧妙な論理でございますし、さらには続きまして、これはレンタルではなくて、そのレコードを売却するわけであります。レコードを売却して、それは普通の値段ででも売却するわけなんですが、二日なり三日くらい後になりますとそれを買い戻すわけでございます。買い戻しが自由であるというような商法が生み出されてきたわけでございます。そうなりますと、その買い戻しの場合においては、二千八百円で初めに売却しましたならば、あと二百円くらいの損料を差し引いて二千六百円くらいで、二千八百円のレコードで売却し二千六百円くらいで買い戻すと、こういう商法がはやってまいりますと、これは二百円の貸しレコードと全く変わりはないということになってまいります。そういうようないろいろな形において、この三十条の脱法行為というように考えてもいいと思いますけれども、そういうような問題も起こってまいりましたので、この三十条を明確化する必要があるのではないかと。このことは家庭内におけるところの録音、録画の問題とも関連いたしますけれども、さしあたりは、この高速ダビングであるとか、あるいは貸しレコードに伴うところの録音ということになりますと、そちらにこの三十条が常に
関係してくる。これを明確化する必要があるのではないかということになりまして、その点につきましても、この
改正法案の方におきましては一応の手当てがなされております。
我々が考えておりますところの手当てと
改正法案の手当てというものとではほとんど変わりはないと。つまりその
改正法案では、例えば録音、録画を業者がそれを一個人からの注文に基づいてなしでいくというような場合に、著作物についての複製をする場合には、これはやはり著作権者の制限に服さざるを得ないと。これは当然なことでございますが、さらにはそれを注文するところの個人につきましても、やはりそれに対するところの著作権の制限に服すると考えざるを得まいと。そうでなければ、著作者の権利というものも実効がなくなってくるのではなかろうかと。ただし、そういう場合であっても、その
関係というものは権利者と使用者との間の民事的な
関係にとどめまして、ただ、
著作権法違反であるとかいうような刑事的な問題にまでは進める必要はあるまいと、こんなふうなことも我々も考えましたけれども、それもこの法案の中にはうまく生かされているようでございます。さらに一般の複写、複製機器が町に置かれ、それが業として行われておりますが、さしあたって、それに対するところの適用はしないというような
考え方もそのまま生かされておりますし、この
著作権法案というものは我々の第一小
委員会において
審議した結果をよく生かしているのではなかろうかというふうに考えております。私としましてはこの法案をそのままお認めいただければというような感じている次第でございます。
簡単でございますが、意見にかえさせていただきます。