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参考人(
久村晋君)
久村でございます。発言の機会を与えていただきまして感謝いたします。
この
法律は、
肥料価格の安定を通じて
農業及び
化学肥料工業の健全な発展に資することを
目的に
昭和三十九年に制定されて以来、三度にわたって
延長されておりますが、この間、両
産業を取り巻く内外の環境は大きく変化しております。
農業について見ますと、
食糧自給率は低下傾向をたどっていますし、
化学肥料工業はかつての
輸出産業から
内需中心の
産業に縮小し、
化学工業に占める地位は著しく低下しております。しかし、このことは我が国にとって両
産業の重要性が低下したことを示すものではなく、今後の国民生活の安定
向上にとってますます重要になってきているとの
認識が必要になってきておると思います。
世界の
食糧需給は、中長期的に見ますと不安定の度合いを強め、穀物が大幅に不足する
事態が予測されています。特に発展途上国では多くの栄養不足人口を抱え、FAOの推定によりますと二〇〇〇年には六億人が
食糧不足に苦しむという深刻な
事態が予測されています。
現在、我が国の食用穀物自給率は七割
程度でありますが、飼料穀物を含めた穀物全体の自給率は三割強であり、先進国の中では最も低い率となっています。このため、我が国における
食糧の
安定供給と
安全保障の確保の見地から、
食糧自給力の維持強化が
求められていることは今さら言うまでもありません。このような
食糧自給力の維持強化、緑資源の維持培養、さらには高齢化社会を迎えて豊かな活力に満ちた農村社会の建設のためにも
農業の健全な発展が不可欠となっております。
一方、
化学肥料は
農業生産にとって欠くことのできない
基幹的資材であり、その供給の安定と
価格の安定が
食糧の安定的
生産のためには必要不可欠であります。同時に、アンモニア工業は
化学肥料工業の中核部門であるとともに、各種工業薬品、合成繊維、合成樹脂などの原料となる
化学工業の基礎的な製品であります。したがいまして、
化学肥料工業は国民生活の衣食住のすべての分野になくてはならない製品であり、その健全な発展は極めて重要であると存じます。
戦前及び戦後の
昭和二十年代におきましては
化学肥料工業は
化学工業の中核部門でありましたが、
昭和五十六年では総出荷額五千三百四十八億円で、
化学工業全体の十八兆七百二十三億円の三%を占めるような
状態になっております。この
理由は、
化学工業が
内部において石油化学製品、医薬品などが急成長したことに加えまして、
石油危機以降、原燃料
価格の高騰から我が国の
化学肥料工業の競争力が低下して、
輸出が激減した結果によるものと存じます。
したがいまして、我が国
化学肥料工業は、強い
国際競争力を背景に
輸出産業として発展してきました時代から、
内需中心の
国内産業に位置していると考えます。とはいいましても、
化学肥料は基本的には
価格弾力性が乏しい上、各国においても
国内自給を優先させる傾向があるために、国際的な
需給関係によって
国際価格が乱高下する製品でありまして、一般の化学製品とは異なる製品特性を持っております。このことは最近では第一次
石油危機前後の
国際価格に明確にあらわれています。このようなことを考慮しますと、
農業の健全な発展にとって不可欠な
基幹的資材であります
化学肥料の供給を輸入に依存することが望ましくないことは明らかであります。そのためには、
化学肥料工業が
国内産業として健全に存在することが不可欠でありまして、それを支える
化学肥料工業に働く
労働者が安定して生活できる所得を確保することが必要であります。
この
法律が
化学肥料の供給の安定及び
価格の安定を通じて
農業の健全な発展に貢献してきたことは明らかであります。しかし、立法時点に比較しますと、
農業は新しい国際的な環境下において望ましい発展を遂げるためには
構造改善が必要であるという厳しい
立場に立たされています。また、
化学肥料工業は、
石油危機に伴う資源、エネルギー
価格での格差の発生、さらには資源保有国の工業化の進展により、これまた厳しい
立場に追い込まれています。このため、我が国の
化学肥料工業は、
昭和五十四年から
特定不況
産業安定臨時
措置法の構造不況業種の指定を受けまして
構造改善を実施したのに続きまして、
昭和五十八年からは
特定産業構造改善臨時
措置法の指定を受けて設備の縮小と活性化に取り組んでいるのが現状であります。
具体的に見ますと、アンモニアでは
昭和五十四年一月に年産四百五十六万トンの能力がありましたが、第一次で百十九万トン、第二次で六十六万トンの設備を処理しまして、
昭和六十年には二百七十一万トンと五十四年能力の六〇%まで縮小することになっております。さらに、
尿素については三百九十九万トンが百四十九万トンと、実に六三%の設備が処理されることになっています。
こうした設備処理に際しましては、
生産の受委託により高効率設備に
生産を集約化する一方、原料多様化、省資源、省エネルギーの推進により、
コストを
国際価格並みに引き下げ、
国内農業に安定的に
肥料を供給する体制を確立するということが予定されております。したがいまして、こうした
構造改善が着実な成果を上げるためにもこの
法律の
延長が必要と考えている次第です。
とはいいましても、設備処理を
中心とする
構造改善の実施は、
化学肥料工業に働く
労働者の雇用の確保及び賃金その他の労働条件に多大な影響を与えています。加えまして、この
法律に基づく
価格取り決め下の賃金
決定の経過を見ますと、
化学肥料工業に働く
労働者の賃金と他
産業に働く
労働者の賃金との格差が拡大しているのが実情であります。
例えば、日経連の調査により
化学肥料工業に働く
労働者の平均年間所得と全調査対象平均年間所得を私
どもが試算し、比較してみますと、
昭和五十一年におきましては、全調査対象が約二百二十九万六千円であるのに対しまして、
化学肥料は約二百二十万三千円でありまして、その差は九万三千円でありましたが、
昭和五十八年には全調査対象が約三百五十五万七千円、
化学肥料は約二百九十四万八千円で、その差は六十万九千円と格差は格大しまして、
化学肥料工業労働者の労働条件の低下が目立っております。さらにこうした中で、一部の
工場におきましては、
化学肥料生産の基幹的な
生産部門に臨時雇用
労働者が採用されるケースな
ども問題となって出てきております。したがいまして、この
法律の
延長が認められました後の
運用に当たりましては、
化学肥料工業に働く
労働者、
化学肥料を購入される
農業がとも
ども成り立ち得るような適正な
価格が
決定されるよう、特に配慮されるよう
求めたいと存じます。
現在、
農業及び
化学肥料工業ともに、新しい国際環境下におきまして
構造改善を進めなければならない
立場にあると考えます。そして、
農業と
化学工業は、
化学肥料を初め農薬、各種の合成樹脂製品などを通じて極めて密接な
関係を持っております。また、将来を考えてみますと、
農業におきましてはバイオテクノロジーなどの革新的な先端技術の活用によりまして、
食糧生産の飛躍的な
向上を図ることが期待されておりますし、一方、
化学工業にとりましても、従来の
化学肥料、農薬、各種の合成樹脂製品などの
農業資材の供給に加えまして、バイオテクノロジーを初め各種の科学技術を総合的に有効活用することを通じて、
農業の新しい発展に寄与できる条件が漸次整いつつあると思います。その意味におきまして、
農業と
化学工業は新しい農工両全の時代を迎えようとしておると私は考えているものであります。したがいまして、今後我が国における新しい農工両全の成果は、
国内のみならず、当然のことですが、世界的な
食糧確保に寄与するものでありますし、ひいては人類社会の平和の維持、貧困と疾病の追放、緑の革命による地球的規模での環境の保全などに貢献することは言うまでもないと存じます。
適正な
肥料価格の
決定は、以上申し述べました新しい
農業と
化学工業の両全の基礎であることを再度申し述べまして、この点をお含みいただきまして本法案を御
審議の上、成立さしていただくよう
お願いいたしたいと思っておる次第でございます。
以上です。ありがとうございました。