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参考人(
五百蔵洋一君) 私は弁護士で大変難しい名前ですけれ
ども、五石蔵と申します。
私
どもは五十九年の六月二十日付で、「
風俗営業取締法
改正に対する意見」というのをまとめてございます。本日、用意いたしましたので、お読みいただければ大変ありがたいと考えております。
本法案については問題点が数多くあり、しかも多岐にわたっていると、このように考えております。しかし、きょうは時間の制約もあり、また、ほかの
参考人がお述べになる点もあると思いますので、次の諸点に絞りまして意見を述べさせていただきます。
それでは
最初に、各条文の問題点ということに関して陳述をいたします。
改正案三十七条の「報告及び立入り」について、まず述べたいと思います。
内閣の提出案につきましては
衆議院で修正されましたが、現在なお問題があるというように考えております。
警察時報社という会社がありますが、そこで出しております「条解実務権限集」、この三百九ページから三百十二ページにかけて現行風営法六条の「立入」について記載をしております。その中ではこのように書かれております。「
警察官が立ち入った後に何ができるかについては、本項は特に規定していないが、その目的からみて、立入りをした
警察官は、
本法及び
本法の施行条例の実施のために必要な限度で検査をし、又は
関係者に質問することができるものと解される。」、このように述べているのであります。
翻って、今回の
衆議院での修正後の三十七条一項を見ますと、報告ですとか
資料提出というものがつけられております。これはやはり
現行法を超えるものと言わざるを得ません。
警察時報社の
内容というのは、恐らく
警察の実質的には内部的な公式意見を述べているものだと思いますけれ
ども、どうもそういうものからも逸脱をしているように思います。
それで、修正案の一項で報告や
資料の提出については、「この法律の施行に必要な限度」という制限はついておりますけれ
ども、これは大変抽象的でして、何とも法律家としては答えようのない、これは抽象的過ぎるというふうに考えております。
衆議院の附帯決議の中で、これについて十項の一から四ですか、いろいろ述べております。しかしながら、これは乱用の危険があるということを心配してつけていただいたものだと思いますけれ
ども、仮に
現行法の六条を
改正するなら、この附帯決議についてはどうしても
本法の中に取り込む必要があると、このように考えられます。
それでは続いて、
改正案二十五条ほかの「指示」についても一言述べさせていただきます。
改正案は、
現行法四条の「必要な処分」ということを「指示」という形に改めたというように
説明をされています。しかしながら、指示というのは、処分という言葉と同義語とはちょっと思えません。法律上は、処分というのは、法律家としては大変明確な言葉だというふうに考えるのですけれ
ども、それに比べれば非常にあいまいになったという感じを受けております。そして、このあいまいな「指示」という概念で何らかのまさに指示ということが行われるわけですけれ
ども、果たしてそれに対して取り消し訴訟をできるのかということについては法学上かなり疑問があると思います。やはり、指示違反という形で
営業停止の聴聞会が行われる、せいぜいその聴聞会に至って初めて問題にできるものではないかというような疑念があるように考えております。やはりこの「指示」というものについても、もっと明確に具体的にすべきだというふうに考えられます。
それでは続きまして、
風俗環境浄化協会についても意見を述べたいと思います。
改正案を見る限り、この法律というものは、
風俗営業や風俗関連
営業のいわば企業種を
対象としていると、このように考えられます。しかしながら、非常に多種多様な業種でして、こういうものを
一つに包括するということはいかがかというように考えられます。また、
一つに包括するといいましても、各業界それぞれの利害
関係が大変錯綜して、どう考えても
一つにまとまるのは難しいのではないかというように考えられます。
ちなみに厚生省の管轄いたしておられます環境衛生同業組合一きょう
参考人の方もお見えだと思いますが、この法律を見る限り、各業種ごとに団体をつくるというようになっておりまして、やはり体裁は相当違っているように思います。やはりこういう協会をつくるとしても各業種ごとにつくるのが自然な姿ではないかというように考えられます。それを無理に
一つにまとめても大変難しい問題が起こってきます。やはりそれを
一つにまとめるためには、実は
警察が各業者に対して非常に強力な指示、指導監督というものをするという前提ではないかと考えられます。やはり
警察主導型の協会というふうにその性格はならざるを得ないというように考えられます。
この協会の行う事業として三十九条の二項にいろいろ述べられております一号から六号の事業、特に五号や六号の事業を手がけることによりまして、結局のところ浄化協会は
風俗営業の許可手続、これを代行する機関あるいは下請の機関という役割を果たすことになろうと思います。また、二十条の五項ですか、これでいわゆる
遊技機の認定、検定も浄化協会が行うことになると考えられます。
衆議院の
段階で
政府委員の方の御答弁を議事録によって拝見いたしましたけれ
ども、その中では、まだ決まっていないというように述べておられますが、常識的に考えて、この協会をそのように育てていくというのが
警察の意思であろうというように考えられます。そうなれば、浄化協会というものはますます公安
委員会や
警察の行う行政事務の代行機関、外郭団体という性格を強めるように思います。
それで、このような業務からは次のような問題点が生ずるというように考えております。
一つは、本来公安
委員会や
警察という大変公的で、また厳格な機関が行うべき仕事を民間に代行させるというのは好ましくないのではないかということ。二つ、その協会の性格から、率直に申しまして
警察官の天下り機関と言われるようなものになること。これはパチンコ屋さんの業界などにもどうも実例があるようでございます。それから
三つ目、浄化協会の仕事の主要なものということは、今述べましたように、要するに同業者組合的なもの、こういったものだというふうに一面判断されます。
そうしますと、どうも既存の防犯協会を活用するということは無理ではないかと考えられます。防犯協会の性格とこういったような業者団体的な性格というものが相入れるとは大変考えられません。こういうように環境浄化協会というものは矛盾した性格を持っておりまして、それを
衆議院の附帯決議のように防犯協会の活用という方向に生かすことは難しいのではないかというように考えております。
それから、
ゲーム機械の
規制についてでありますけれ
ども、今回初めて風営法に取り入られるわけですけれ
ども、どうもここまで拡大すべきかどうかは大変疑問なように思います。その
規制の仕方も、例えば二条一項八号に見るように政令に大変ゆだねられております。また、青
少年の非行対策を
理由にしながら、成人についても十三条で、これは他の業種も同様ですが、
営業時間を午前零時までという形での一律の制限がなされております。しかしながら、例えばトラックの運転手さんが深夜働くという例は今の業界ではざらにあります。そういう人がどこか深夜のレストランに寄って、ちょっと
ゲームをやって息抜きをするというようなことまでできないことになってしまっては、どうも片手落ちではないか。どうも夜働く方に対する配慮というものもやはり足りないような気もします。
結局のところ、
ゲーム規制は一部の悪い業者といいましょうか、そういうものを
規制するために今回設けられたものだというように考えられますけれ
ども、その結果、普通の
ゲーム機械の
営業に対してもやはり不要と思われるような制限を課しているというように考えざるを得ません。
それでは、このような各論の検討を踏まえて総論的な意見を幾つか述べさしていただきます。
まず第一に、政令ですとか
国家公安委員会規則等への委任が大変多過ぎるというように考えております。特に二条四項五号などは法律に入れるべきであるというように考えられます。また、
営業時間の
規制あるいは地域
規制、こういったものは条例にストレートにゆだねていくという方向でよいのではないかと考えられます。
それから、政令
事項あるいは
国家公安委員会規則の
事項というものも、現在までのところこのようなものを定めるという形での文書を私も拝見させていただいておりますけれ
ども、さらに具体的な条項が明らかになって初めてこれはいいとか、これはまずいとかいったようなことがもっと言えるのではないかと思います。今のままではやはりまだ抽象的に過ぎるというように考えられます。
あと、法案の提出の手順にも大きな問題があるように思います。
この法律は国民の権利に大きな影響を与えるというものですけれ
ども、新聞で見た限りでは、たしか三月五日ごろだと思うのですが、有識者懇談会というものを
警察庁がお開きになったというように聞いております。どうもそれも一回ではないかと思うのですけれ
ども、これはやはり利用者あるいは弁護士会といったようなところの意見も聞くべきではなかったかというふうに考えられます。例えば
少年非行の問題ですとか売春の問題については日弁連は大変長い間の研究を続けております。こういったようなところの意見が今回聞かれていないという点にも問題があります。結局こういう下位法令への大幅委任とか提出の手順の問題、これは留置施設法案と大変そっくりであるというように考えております。どうもそういう点に共通の問題があるというように私としては考えざるを得ません。
それから、時間もないようですので最後に、この法案というものは
規制対象業種あるいは
規制対象行為というものを大幅に拡大しております。しかしながら、やはり良識のある業者にとっては、立ち入り権の拡大であるとかあるいは指示、浄化協会を使ってのさまざまな
規制というものが大変しんどいものであるというように考えられます。ところが、いわゆる悪い業者といいましょうか、今回の
改正によって本当に摘発しようとする業者にとっては、例えばダミーを立てたり早期の転廃業を繰り返すといったような形で、結局逃れていくのではないかというように私としては考えざるを得ません。どうも本当に実効性のある
改正かどうかについては疑わしいというように私としては考えております。これらの不良業種や業者を締め出すためには、その武器というものは売春防止法であるとか児童福祉法、あるいは
賭博罪といったもののもっと積極的な活用によって生かされるものであって、
風俗営業法の強化では余り効果はないというように考えております。
少なくとも、この法案には副作用が多過ぎるといいましょうか、行政
警察権の拡大が多過ぎると、こういったような問題点を最後に
指摘をさせていただきたいと思います。
時間の
関係もあると思いますので、これで終わります。