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参考人(
宮城音弥君) それでは私が
たばこの問題について考えているところを申し上げることにいたします。
昨今、
喫煙と健康ということが重要視されておりますが、これは当然のことかと思います。しかし、健康とは何でしょうか。この場合に、身体的健康だけでなく、社会的健康及び精神的健康というものを忘れるべきでないということを私は主張しているのであります。社会的健康が害されますときに
社会病理現象が起こります。犯罪とかあるいは
麻薬中毒とか、そういうものが起こります。精神的健康が害されますときに
精神病理現象、
ノイローゼとか
精神障害などが起こってまいります。
たばこはこういうものに
関係を持っていると考えておりますので、まず社会的健康と
たばこのことについて申し上げたいと思います。
具体的に話を進めますために私
自身の経験を申し上げたいと思うのですが、若いころ私は
麻薬中毒患者を収容する
精神病院の副院長をしておりました。ところが、
患者には
喫煙者が非常に多い、大部分は
ヘビースモーカーであります。
麻薬中毒の
原因には、無論社会的なものがありますし、そのほかいろいろな
原因があると思いますけれども、
体質がかなり重要であるということをこのときに感じたのであります。
麻薬体質と
喫煙体質とでもいいますか、そういうものに
共通のところがあると私は考えます。
たばこの
体質的研究をいたしますのによく一
卵性の
双子を使います。
一つの卵が二つに分かれたもの、これは
片割れ同士が遺伝的に同じなものですからこれを使う。そして二
卵性の
双子と比較いたします。この二
卵性の
双子、一
卵性の
双子は
一緒に生活し、
一緒に育てられているんですけれども、一
卵性の
双子の場合は一方が
喫煙者の場合に他方も
喫煙者であるという率が非常に多い。にもかかわらず二
卵性の場合はそうではありません。ですから、この事実から
喫煙の土台にはある
程度体質がある。そして先ほども申しましたように、その
体質が
麻薬と
共通だとすると、この
たばこを使うということによって
麻薬蔓延の
防止に役立っているのではなかろうか。つまりネガティブな
意味で社会的健康に役立っているのではないか。今日、随分
麻薬が盛んに普及しておりますけれども、もし
たばこなんというものが全然なくなった場合にはどうなのかということを考えないわけにはいかないのであります。
昨今、世間で騒がれております
ロス疑惑事件というのがありまして、その
疑惑の主は、昨今の言葉によりますと、
ドイツたばこのゲルベ・ゾルテと
アメリカたばこの
クレイトンというのを
一緒にするとマリファナの代用になるなんということを言っております。
下世話な例を申しますと、
便所はない方がいいし、
公衆便所というのは町の美観を害します。しかし、それが立ち小便の
防止に役立つというように、
たばこはそういう何かの役に立っている、消極的に何かの役に立っていると私は考えているものですから、
たばこのあらゆる問題を総合的に研究しております
たばこ総合科学研究所、TASCというところにこの問題を
研究テーマとしてお勧めしたような次第であります。
たばこと社会的健康に関しましては、
たばこの持つ
人間関係の
潤活油という問題とか、いろいろあります。話し合いやコミュニケーションの手段に用いられるとか、いろいろありますが、これは
精神衛生の問題、精神的健康の問題に含めて申し上げることができるのではないでしょうか、そう考えます。
そうしますと、次は精神的健康と
たばこの問題です。
たばこというのは百害あって一利なし、こういうことをよく言われます。しかし精神的健康だけを抽象しまして考えますと、
たばこは有益で無害であります。例えば第一は
ストレスの問題、
ストレスを
解消するのに役立つ。セリエという人は
ストレスという学説を発表しましたが、この人がその点、
たばこに関する本の序文に、いかに
たばこが
ストレス解消に役立つかということを問題にいたしておりますし、その本の中には、
原爆投下のフィルムを見せて
たばこを吸わせた者と吸わせない者とを比較してその
ストレスの違いを示しております。
一体
ストレスというものはどんなものを起こすかといいますと、
ストレスは
ノイローゼを起こしましょう。あるいは、昨今問題になることの多い
心身症の
原因になります。
心身症の
原因になるとしますと、つまり胃潰瘍を起こしたり
円形脱毛症、
台湾はげと言われているものを起こしたり、あるいは高血圧を起こしたり、
耳鼻科の
病気やあるいは眼科の
病気なども起こすわけですから、身体的健康にも
関係してくるということが言えるのではないでしょうか。
精神的なものにどういう
影響を与えるかということは、これはもう
心理学その他でもっていろいろ実験をやっております。例えば
心的緊張力、
仕事を頑張り続けさせる力がどういうようにしてふえるかどうか。能率、例えば反応時間がどうなるのか。
精神的テンポがどのくらい速くなるか。
注意力がどうなるのか。
記憶力は、
記憶力のうちでも、今聞いたものをすぐに繰り返すような
短期記憶は、これは別に
たばこに
関係がありませんけれども、
長期記憶になりますと、長い間の
記憶、頭に名残を固めていく
作用から言いますと、
たばこは
プラスの
作用をするなどと言われております。これは精神的問題でありますが、こういう問題を我々は無視することができない。
ところで、こういう問題は特に
個人差が非常にあります。それで次に身体的健康と
たばこの問題に入りますけれども、身体的健康と
たばこの問題についてもやはり
個人差というものを重要視しないわけにいかないのであります。
ただ、確かに
たばこには体への悪
影響がありまして、
フランス学派はタパジズム、
タバコ症ということを言っておりますので、私もそれは紹介いたしました。これはニコチンだけではありません。特に慢性の
消化器の
病気、あるいは
咽頭炎、のどの
病気ですね、あるいは頻脈、脈が速くなる、あるいは
期外収縮とかいろんなものを起こす。さらには
がんとの
関係が問題にされております。
しかし、これらはすべて
個人差があります。そうしてどのくらい吸うか、
たばこをどの
程度にとるかという
適量の問題があります。ある人には
たばこは
ストレスの
解消という、先ほど申し上げたものを通じまして
プラスの
影響さえもあります。
日本に
泉重千代さんという世界一の
長寿者がおります。ギネスブックに載っておりますが、この人なんかは
たばこを吸っている。あるいは我々の周辺にも有沢広
巳先生みたいな
ヘビースモーカーがおりまして、
一緒に
講演旅行をしましても盛んに吸っておられたです。
精神分析のフロイトなんという人は、これはもう大変な
ヘビースモーカーでして、それが
原因で恐らく私は
がんになったと思いますが、
がんになって死んだのは八十二歳。そうして、一時的に禁煙されたことがありましたが、
たばこを吸うすばらしい習慣をやめたことで私の
知的関心が大幅に減退しだということを本の中に書いております。
そんなことで、
プラスの
影響もある。そうして、人によって
適量というものがあるということを考えなければならないと思うのであります。
特に一般的に今日問題になりますものに
肥満、太るということがあります。短命と
関係あるものとして太る、
肥満がありまして、長生きするためにはやせよということを言うんだそうであります、
アメリカでですね。そういうことが言われているんですが、確かにそういうことは否定できません。
私は長い
間評論をやっておりました
大宅壮一さんと
一緒の
仕事をしておりましたが、この
大宅壮
一さん、晩年には異常に太ってしまった。
たばこは吸いませんし、だんだんに太ってきた。そうして、とうとうそれが
原因で私は早く命を亡くしたのだろうと思っております。
アメリカの
痩身法、やせる
方法は、
たばこだけではありませんけれども、適当に
たばこを組み入れて、そうしてやせるという
やり方を勧めております。いろいろな
方法がある。
たばこをある
程度害にならないように使えということを勧めております。
大体
日本人は、これは体によいとなりますと余計飲みます。例の
キノホルムやなんかでも私はそうだと思っております。私
自身はかつて四十代、五十代のころ
大変下痢をしまして、
キノホルムの御厄介になっていたわけでして、これが今禁止されたということに大変憤慨しているような次第です。つまり、いいとなると余計飲む。これは
日本の
医療制度との
関係がありますけれども、非常に余計とる。こういうことではいけないので、
適量というものが常に問題になるのではないでしょうか。
さて、こうなりますと
喫煙をこれからどうすべきか。
喫煙の知恵ということが必要だと思います。
これからの
方向の第一は、例えば
たばこの
会社ができるそうですけれども、私は
たばこの種類を多くすることを勧め、希望しております。ユネスコの学会に
出席しろと言われまして、
出席いたしました。このとき有名な学者の一人が私と
一緒に生活したんですが、その彼が、健康の
理由のためにむやみに
たばこは吸えない、
かぎたばこを吸えと言われて、鼻でかぐ
たばこ、
ホテルで売ってませんでしたものですから、
ホテルから出で
たばこ屋へ行って買ってまいりました。それをよく覚えているんです。
日本でもシガレット以外のものも買えるように、健康を考えて
たばこを吸うことができるようにすべきではないかというのが私の
一つの
意見です。
それから第二は、
たばこに強い人に自由に吸わせると同時に、弱い人に間接
喫煙の害がないようにすることが大切であろうかと思います。
私は
国鉄の安全会議の
会長をしているわけですけれども、そこでもって申し上げたことがありますが、湘南電車なんかの場合にグリーン車が二両ついている。だけども、これを両方禁煙にしている。そんなことは必要ないんで、
一つは
喫煙車にしていいのではないか。同時に、あらゆる列車を
外国式に遠くへ行く列車でも一両ごとに禁煙車をつけるようにした方がよくはないかというふうに考えるのであります。
個人の
立場から言いましても、
たばこというものは遺伝に
関係がある、身体的条件に
関係がある。価値観を土台にしていることもありましょう。とにかくそういうわけで
適量ということが必要。
将来は学校などでもそういう
喫煙の教育をすべきではないか。
喫煙教育というものによって
喫煙の知恵、どんなふうに
たばこを吸うかという知恵が必要だと思います。これは学校だけでなくて、テレビなどでもこれは言えることだと思います。私のところにヨーロッパ人がこの前来ておりまして、テレビを見て、そうしたところが、もちろん我々は途中で説明をするんですけれども、何でもないドラマですが、相手に吸ってもいいですかとも聞かずに
たばこを吸い出したら、
日本人はそうなのかというようなことを言っておりましたが、そういう習慣形成の必要というものもあるのではないでしょうか。
要するに、
喫煙の知恵というべきものを社会全体がこれを身につけていくということが絶対に必要であろう。そして、その限り十分にこれを利用する、
たばこが
ストレス解消に
プラスになるならばこれを利用させるというような、これが大切であろうというのが私の考えでございます。
後でまた御質問がありましたらお答えすることにしまして、これでもって終わりにいたします。