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1984-07-25 第101回国会 参議院 社会労働委員会 第16号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十九年七月二十五日(水曜日)    午後一時開会     —————————————    委員の異動  七月二十四日     辞任         補欠選任      高桑 栄松君     峯山 昭範君  七月二十五日     辞任         補欠選任      峯山 昭範君     高桑 栄松君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         石本  茂君     理 事                 遠藤 政夫君                 佐々木 満君                 浜本 万三君                 中野 鉄造君     委 員                 大浜 方栄君                 金丸 三郎君                 関口 恵造君                 曽根田郁夫君                 田代由紀男君                 田中 正巳君                 村上 正邦君                 森下  泰君                 糸久八重子君                 本岡 昭次君                 和田 静夫君                 高桑 栄松君                 山中 郁子君                 柄谷 道一君                 下村  泰君    政府委員        厚生大臣官房長  幸田 正孝君        社会保険庁医療        保険部長     坂本 龍彦君    事務局側        常任委員会専門        員        今藤 省三君    参考人        全国保険医団体        連合会会長    桐島 正義君        医療法人防治会        理事長      五島 正規君        千葉大学法経学        部教授      地主 重美君        全日本労働総同  中根 康二君        盟生活福祉局長  山上 賢一君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○健康保険法等の一部を改正する法律案内閣提  出、衆議院送付)     —————————————
  2. 石本茂

    委員長石本茂君) ただいまから社会労働委員会を開会いたします。  健康保険法等の一部を改正する法律案を議題といたします。  本日は、お手元に配付しております名簿の参考人方々に御出席をいただいております。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多忙中のところ御出席をいただき、まことにありがとうございます。皆様から忌憚のない御意見を拝聴いたし、今後の本案審査参考にいたしたいと存じます。  これより参考人方々に順次御意見をお述べ願うわけでありますが、議事の進行上お一人二十分以内でお述べを願いたいと存じます。全部終わりましたら委員の質疑にお答え願いたいと存じますので、御了承願います。  なお、委員会終了予定は午後四時五十分でございます。よろしくお願いいたします。  それでは、これより各参考人に順次御意見をお述べいただきます。  まず、全国保険医団体連合会会長桐島正義参考人、お願いいたします。
  3. 桐島正義

    参考人桐島正義君) 全国保険医団体連合会会長をしております桐島でございます。私の意見を述べさせていただきます。  我が国の総医療費は、対GNP比で一九八一年五・一%であります。アメリカが七・四%、フランスが七・八%、西独が七・四%に比べてはるかに低率であります。一方平均寿命は、昨年男子が七十四・二〇歳、女子が七十九・七八歳に達し、乳幼児死亡率出生率当たり七・一となり、いずれも世界一のよい成績であります。すなわち、我が国医療は経済的には甚だエフィシェンシーの高い医療をやっていると評価できます。  こうなった原因はいろいろ考えられますが、その中で大きな因子として、昭和三十六年以来施行されてきました強制皆保険制度がございます。自来二十三年間、国民政府医療担当者がさまざまな問題を抱え、困難を乗り越えて築いてまいりました皆保険制度で、この制度我が国世界に誇り得る一つの文化的な財産であると私は思います。  ところが、この非常にすぐれた皆保険制度を一気に行政改革の名において大変無理な改正を強行しょうとしているなという感じが私はいたしております。長年健保財政は三K赤字一つとして名をはせてまいりましたが、健保財政だけは五十六年から黒字に転じております。そして、この三年間で累積赤字さえ解消してしまいました。また、五十八年度の総医療費伸びは六千五百億円と聞いております。対前年度比の伸び率で四・七%で国民所得伸び率六・一%を下回るに至っています。以上のことを考えますと、医療費の面というふうなことからだけですと今回のような大改革を無理急ぎする必要はないと私は思っております。  次に、健康保険本人一割負担について、いろいろ議論もございますが、それが患者生活に及ぼす影響を具体的に申し述べたいと思います。  サラリーマン平均賃金健康保険平均標準報酬から見ますと、大体二十万円となります。この人が病気になって一カ月入院いたします。それで、例えば胃の摘出手術を受けたとしますと、厚生省の資料で大体医療費は六十万円ということになります。したがって、その一割六万円が一部負担にならざるを得ません。一方傷病手当金世帯持ちで六割、独身者で四割ですから、それぞれの収入は十二万円あるいは八万円となり、その中から六万円を支出をするとすると残りが六万円あるいは二万円になる。これで生活しなければならぬと思うと、考えただけでも大変心細いと存じます。それで部屋代差額大体三千円ぐらいが十日間要るとする、付添婦が十日間ぐらい要る、もうどうにもならないのじゃないかというような気がいたします。  日本患者同盟アンケート調査を拝見いたしますと、この一割負担が実施されたら、治らなくても退院しなければ仕方がないという人が四二・七%いるということです。それから子供の進学をあきらめるというのが一五%もあります。これが実態だと思います。  それから次に、健保家族国保は二割あるいは三割の負担があるが、受診率は十割給付本人と変わらない。したがって、給付率のダウンは早期受診早期治療妨げにならないという厚生省の見解につきまして、一言コメントいたしたいと思います。  それは、健保家族及び国保にはゼロ歳から十四歳までの年齢階層が、健保家族では四二%、国保では大体二〇%あります。健保本人にはその年齢層がないわけです。医療費は高くはならないのですが子供受診の機会が非常に多くなります。それを単純にすべてをひっくるめての受診率が変わらないというこの比較は大変乱暴でして、統計における客体の内容を無視した、いわゆる統計学の一番初歩を見失っているように思います。例えば本人家族国保の四十歳から四十四歳台の受診率を比較しますと、本人一・〇〇に対しまして家族は〇・七二、国保で〇・六二という受診率が出ています。明らかに受給率が下がれば受診率も下がる、すなわち早期受診及び早期治療妨げになるということは明らかで、妨げにならないということは私はないと思います。  それから次に、退職者医療ですが、これはかねがね多くのサラリーマンから、あの国保へ入っていかなければならぬ惨めさから、大変望まれていた制度であると思いますが、ただ一つ私が感じますことは、これに国庫補助金がゼロで事務費さえゼロというのは、ほかの健康保険制度と比べまして余りにも不公平でないかと思います。  次に、国保への国庫補助率現行四五%から三八・五%に削減するという案でございますが、これはこの間岩手県の先生に聞いたのですが、そんな岩手県の山村では退職者なんかいないんだ、したがって、退職者によって国保負担が減る分は一つもない、しかし国庫補助金だけは一律に下げられてしまう。これじゃもうどうしても、今でも重い保険料に悩んでおる住民に、今以上の保険料の値上げを強いることにならないかと心配しております。  私の住んでおります神戸市でも、昨年の十二月一日保険証書の更新がございました。そのとき、全体で十七万世帯ほどあるんですが、その一六・五%に当たる二万八千世帯国保料の滞納がありまして、保険証を渡す、渡さないの区役所の窓口でのトラブルが多かったということを新聞が報道しておりました。国保への補助金の削減は、今後の国保の運営にやはり相当大きな影響が出るのではないかと思っております。  次に、私が一番申したいのは、医者としての立場で、健康保険法のこの改正に当たって、ぜひ皆さんに聞いていただきたいことがございます。  すなわち、高度医療を行う大学病院などを特定承認保険医療機関とし、そこで健保適用高度医療を行う場合、それを自由診療として、健保診療自由診療併用をその特定承認保険医療機関ではこれを公認するというもので、厚生省はこれはいいんだと、大きな福音だと、次のような理由で福音だと言っておられます。現在の規則では、健保適用外医療を行う場合は、たとえ保険適用ができる診療が含まれていたとしても給付の対象から外され、保険では面倒が見れないということになっている、今度はこういうふうにやるので、これは確かに福音だと、こう言われるわけです。  そこで、高度医療とはそれじゃ何かという質問に吉村局長お答えは、がんに対する温熱療法だとか人工水晶体などがあるとお答えになっております。確かにそのようであります。現に、定評のありますものはNMR—CTとかポジトロンCTとか腎石破砕器とか、そういう、いわゆる非常な重装備の医療が数え上げられておりますが、そんな一台数億円もする医療機器だけが高度医療ではないと私は思うんです。現に、京都大学の第三内科でやっております心筋梗塞のリハビリというものを取り上げてみますと、そんな大きな機械は使いません。しかし、医師の非常に細心な注意とたくさんの人手が要ることは確かです。そして、あの重症のCCU室に運び込まれた心筋梗塞患者の中で助かっていく人の六〇%が運動に耐える能力があるということがわかって、そういう人に運動療法をやらせれば非常に短期間に職場に復帰しておる。今までですと、一生ただお大事にといって飼い殺しみたいになっていた人が生き生きとやっていける。しかし、これは大変人手がかかるので、今のところ健保適用ではないんです。それで、そこの内科先生は、何とか保険適用してもらえないだろうかということで、映画をつくられて、その中で非常に悲痛な言葉を述べておられました。  また、最近のバイオテクノロジーの進歩は非常に驚くべき進歩でありまして、例えばインターフェロンというあの有名なお薬がございますが、これはもう既に薬事審議会にかかっております。そのほかにも新しいがん診断薬あるいはそれに続く抗がん剤というものが続々とこれから出るでしょう。これらを自由市場のいわゆる自由価格に任せておいて販売させれば、恐らく最初は奪い合いになるだろう。これは産業政策としてはいいんだと思います。しかし、その一つ一つに人の生命と健康との祈りに近いものがかかっておるということを考えますと、政府は努めてそういう先端技術健保適用早期に行う姿勢をどうしてもとっていただきたいと思います。このことは、昨年八月までの厚生行政を私は見ておりまして、その姿勢は、室料差額問題については抑制方向でずっと御努力なさっできたと思います。それからまた、新しい医術新薬等もなるべく健康保険に組み込む努力をしてこられたと思うんですが、去年の八月以来から何かニュアンスが変わってきた。今度の改正でも、歯の材料とか特別な材料は、それから差額ベッドのような特別なサービスは、これはサービスに応じて相当多く取ってもいいようなニュアンスの話がずっと出始めておるのは大変気がかりな点でございます。  このような医学及び医術の非常な進歩の早さから考えまして、もしも健保適用医療内容を三、四年間現状で固定したとしますと、自由診療の分野が急速に広がってまいります。そして十年もたてば、恐らく保険診療は時代おくれの診療ということになるのではないかと思います。渡部厚生大臣はそんな心配はないと言われておりました。これは先端技術健保適用までのつなぎだと言われているので、それを私は信じたいと思いますが、昨年八月、林前厚生大臣が発表いたしました、「今後の医療政策—視点方向」では、「高額所得者向け自由診療やこのための民間医療保険など、いわば医療におけるニューフロンティアの育成が急がれなければならない」と、「急がれなければならない」と、こういうふうに言っている一節があります。この点から見て、高度医療に関するこの条項についてはおろそかに考えてはならないと私は思っております。今度の健保法が成立しましたらこの条項は残ります。それで現行の皆保険制度がこういう点からだんだんと崩れていくのではないか。何としても私は、この条項を今度の法律案からは削除していただきたいということを、子孫のために願わずにはおれません。アメリカ的な医療、すなわち金持ちには十分な高度医療を、貧乏な人には医療疎外をというふうな、そういう状況を起こしてはならないと思います。こうなると、国家財政が関与する部分医療費は縮小するでしょう。しかし、国民負担する総医療費というものは、日本全体としてはアメリカのように増加していくことは間違いがありません。  また、この法案が成立した後の細部の取り決めは、中医協の審議を経て省令に任すと言っておられます。ところが、老人保健法の際も、老人病院の規定だとかあるいは老人医療担当規則等が、私の知らぬところで、突然省令によって出てきて実施されている。大変不安が増大いたします。今もそれを非常に恐れております。  次に、レセプトの重点審査を行う特別の審査委員会の設置や傾向的過剰診療を行う保険医療機関の再指定の拒否等条項は、その運用を一歩誤りますと、官僚の権力乱用の温床になるおそれがありまして、これにも賛成いたしかねます。  最後に、医療費抑制の決め手というのは、沢内村を例にとるまでもなく、疾病予防にあることは申し上げるまでもありません。厚生省が今後健診事業や健康教育に一段の努力をいたされることを願います。今最も緊急に医療行政にやっていただきたいと私が願うのは、積極的な健康指導健康教育であることを申し上げて、私の発言を終わります。  ありがとうございました。
  4. 石本茂

    委員長石本茂君) ありがとうございました。  次に、医療法人防治会四国勤労病院理事長五島正規参考人、お願いいたします。
  5. 五島正規

    参考人五島正規君) ただいま御紹介されました五島でございます。  今回、健康保険制度改定が提案されているわけでございますが、次の点から非常に問題点がある改正ではないかというふうに考えております。  第一に考えなければいけないことは、医療保障公的医療保険との関連でございます。  申すまでもないことでございますが、医療保障と申しますのは、健康権という普遍的な基本的人権に基づいて社会的に保障されるべきであって、その給付内容は、予防からリハビリテーションまで一貫した内容であることが必要でございます。それの給付あるいは負担という問題といたしまして公的保険があるというふうに考えるのが妥当ではないか。医療保険という、この保険という機能だけを取り上げまして、民間保険と同じように考え、それぞれの保険者努力によって給付なりあるいは負担が変わってもいいという考え方は、まさに医療保障という概念から切り離れていくものとして否定されなければいけないものではないかというふうに考えます。そうした保険負担によって医療保障、そして保険負担とさらには国庫によっての医療保障というふうに考えた場合、当然そこで給付されるべき医療の水準というものは、国民的なコンセンサスを得られた負担範囲内で賄うことのできるミニマム・リクワイアメントというものが必要であり、それが設定される必要があるのではないかというふうに考えます。そして、その範囲を超えて医療給付を求めるというふうな場合は、これは明らかに保険診療の枠外とすべきであり、保険診療との併用というものは基本的に否定されないといけないのではないか。  そういう意味において、今回特定承認医療という形で、少なくとも現在までは、医療費、特に入院医療費をとってみた場合、診断技術料、すなわち診断料検査料看護料、あるいはメディカルケアと申しますか、手術であるとか処置、投薬、理学療法治療食といったようなもの、あるいはホスピタルフィーといいますか、室料病衣、寝具、食事というふうな、大きく四つに分けられるかと思うわけですが、その中において差額ベッドという部分だけが問題であったことが、今回の法の改定の中で、すべてにわたって入ってくるというのは非常に問題が起こってくるというふうに考えます。少なくともこの差額ベッドを含め、もし仮に差額ベッドを持つ医療機関に対しては、そのホスピタルフィーというものについての保険給付は認めないというふうな、保険医療自費診療との併用というものを禁止するというふうなことが基本的に必要であり、そういうものに基づいた医療保障制度というものが整備されるべきでないかというふうに考えます。  第二点に、医療保険制度改定に当たってその保険制度が持つべき基本的な問題でございますが、少なくとも医師患者との信頼関係を強化する、そしてその関係国民保健の上に反映させることに有効な制度ということがまず第一に必要であると思います。さらに、患者医師選択の自由が保障されて、患者及び住民により、一部のいわゆる問題医療機関と呼ばれているそうした医療機関患者自身あるいは住民自身の手によって淘汰される制度であること。そしてもう一つは、そのためには、その患者さんあるいは住民にとって何がよいか、自分にとって何がいいか、どういうふうな医療機関がいいかというふうなことの選択がだれの目にも明らかのように、そういう選択の手がかりが示されている制度。そして、そういうふうなことを通じて、いわゆるむだな医療費を排して高い経済効率が得られる、そういうふうな制度であることが必要であるというふうに考えるわけです。  そうした諸点から考えますと、御承知のようにWHO憲章による健康権国際的確認、それに基づくいわゆる有名なアルマ・アタ宣言の提起したプライマリーケアという問題が、今日の医学医療問題の解決の基本的戦略として国際的にも認知されてきています。当然、我が国においてなされておりますこの医療保険制度の中においてこのプライマリーケアというものをどう位置づけるかというふうなものが今日何よりも必要であるということは言うまでもないと思うわけでございますが、今回の医療保険制度改定の中においてこのプライマリーケアというふうなものの位置づけが全く見られていない。このプライマリーケアというものの位置づけを抜きにして、現在の出来高払い制度の個々の保険点数の手直しの中で医療費抑制をやっていくとすれば、間違いなく底辺、低賃金労働者医療抑制につながり、そしてもしそれがつながらなければ医療費抑制に失敗するという、そういうふうなことは明らかである。そういう意味において、まさに医療費抑制というもの、そして国民の健康の維持、この二つの要素を兼ね備える戦略としては、このプライマリーケアというものをどう現在我が国医療制度の中において、また保険医療制度の中において位置づけるかということをおいてないということは申すまでもないというふうに考えます。  このプライマリーケアの現実的な担い手というものは、これは主治医というものの存在をおいてはございません。しかし、日本においては主治医という概念は極めて漠然として、制度上何ら明確に規定されているものではございません。そういう意味において、プライマリーケアというものを重点に置いた医療を考えるとすれば、まず、主治医というものをそれぞれの患者さん、国民が明確にしていける、そういう制度というものが必要である。私はそれを主治医登録制度というふうに名づけておりますが、主治医登録制度というものを医療保険制度上採用すべきであるというふうに考えております。  この主治医機能というのは、いわゆる保健活動、あるいは今日非常にふえてきております健康とも病人とも言えない、半病人と申しますか、そういうふうな患者さん方の疾病の管理あるいは教育、あるいは生活指導、あるいは生活労働リハビリテーションといったような、そういう極めて大事な仕事を行うと同時に、もう一つは、患者さんに代理して、その患者に必要な専門医を紹介する。あるいは専門医に対して主治医がいろいろとその患者医療上の問題について質問し、そしてその中における医療上のミス、あるいは患者医療従事者との間におけるコミュニケーションを図っていくというふうな機能主治医に持たすべきではないかというふうに考えます。こうした主治医登録制度というものを医療保険制度上明らかにしていく必要があるのではないかというふうなことを非常に強く感じているわけでございます。  しかし、この主治医登録制度というものを、主治医ということを明確にしていくということはどなたも否定なさらないと思うわけですが、そうすると、現在の出来高払い保険診療制度の中においてでは非常に困難がある。プライマリーケアの個個の行動をいわゆる出来高払い制でもって規定していくということには無理があるというふうなこともあって排除されているかと思うわけですが、世界各国を見てみても、保険診療支払いが、ある一つ支払い方法に限られる必要は全くない。我が国においては出来高払い支払い方式というのは歴史的な背景を持ち、それなりに医学的な一定の根拠を持って継続してきております。しかしながら、新たな事態においてその出来高払い制度にそぐわないからということでもって、この医療基本となるべきプライマリーケアというものが保険医療制度の中に取り込めないということでは極めて問題がある。そういう意味においては、主治医登録制度というものを思い切ったいわゆる人頭支払い制度というものを併用することによって積極的に取り込んでいくことが必要なのではないかというふうに考えます。  また、もちろんこの主治医登録というものについては、例えば難病登録を受けている者であるとか妊産婦あるいは精神疾患患者さん、そうした人たちについては必ずしも一人の医師だけでなく、あるいは主治医として専門医を含む複数の登録というものも認められてしかるべきかというふうに考えます。  また、一定額を超える高額医療やナーシングケア、あるいは生活指導生活訓練というものが医療の中心となる一部の老人医療、あるいはリハビリテーション医療といったような、そういう治療に関して、ないしはそういうケアに関しては、件数払い制度というものが導入されてもいいのではないか。そういう意味において、我が国における支払い制度出来高制度という歴史的な事実に余りにもとらわれて、今日必要な医療というものに対する対応に欠ける面が出てきているとすれば、思い切って、いろいろな制度というものが同時に存在する、そういう制度を志向すべきであるだろうというふうに考えます。  もとより、プライマリーケアという問題は、一人の患者さん、一人の住民にとって利益があるをいうだけでなくて、今日の国民医療の最も重要な根幹をなす部分である。また、先ほど申しましたようなナーシングサービスであるとか、あるいはリハビリテーション老人医療といったような部分については非常に経済的その他の問題もある。高額医療というような問題があるという点から考えて、そうした出来高以外の部分については全額給付というふうなことが同時的に採用されて、必ずしも給付についても一律の給付というふうな必要はないんじゃないかというふうに考えます。  そして、そういうふうな制度を考える場合、当然現在の医療というものの機能分化とシステム化というものが必要になってくるだろうというふうに考えます。とりわけ現在の高額医療機器の無政府的な導入というふうなものを考えた場合、効率的な受診と診断の精度の向上という一つ患者からの要求、医療の従事者側からの要求、そうした側面を兼ね備え、同時に患者にとってむだな医療を排しながらも非常に診断精度を上げていくというふうな機能を考えた場合、いわゆる検査・診断機能というものをオープン化した医療機関というものをつくっていく必要があるんじゃないか。それは主治医登録制度を実施するとすれば当然そうした機能というものが必要になってくるわけでございますが、公的医療機関を中心としたそうした高度医療機器を備えたそういう医療機関の診断機能あるいは検査機能というものをオープン化した、そういうふうな医療機関でもってそういう診断、検査が得られる。そしてそのデータがそれぞれの主治医のところに報告され、意見がつけられるというふうなシステムが必要なのではないかというふうに考えます。もとより、そうした機能をオープン化した医療機関において外来一般患者の受け付けというものは禁止されるべきであることは言うまでもありません。  また、もう一つは、公的医療機関を中心とした救急告示病院あるいは公的医療機関においては、二十四時間救急外来というものが必ず持たれるべきである。仮にその診断機能をオープン化した医療機関でも、救急外来というものの設置というものを義務づけて、二十四時間の救急体制というものを整備さしていく必要があるのではないか。そして主治医からの照会に対してそれらの医療機関が、患者さんが専門医のもとに治療を受けている場合、主治医からの病状の問い合わせに対して専門医の方からそれに回答していく、その回答について一定の経費的な支払いと、あわせて義務づけというものをはっきりとさせていくべきであるだろうというふうに考えます。  最後に、医療機器あるいは薬価の問題について若干述べさしていただきますが、今日薬価差益の問題が非常に問題にされています。しかし、地域における医療を担当している者の立場として、薬価の問題というものは単に差益の問題だけが問題なのではないのではないか。とりわけ日常的に非常に薬価が高い。あるいは医療機器等、非常にそういうふうなものの値段が高いというふうなことが医療経営の中において非常に大きな問題になっております。薬剤の価格、MEの価格というものは、原則的にもっと原価主義、あるいは開発技術からの利潤を含む総利潤の抑制といったようなこと、あるいは流通の合理化といったようなものを含めたそういう対策として取り組まれないと、単に薬価差益といったようなことだけを問題にしては現在の医療の、いわゆる医療費の高騰というものが抑制されるとは考えられないというふうに考えます。  以上をもって終わります。
  6. 石本茂

    委員長石本茂君) ありがとうございました。  次に、千葉大学法経学部教授地主重美参考人にお願いします。
  7. 地主重美

    参考人(地主重美君) 千葉大学の地主でございます。  健康保険法改正案につきまして一言所見を述べさしていただきます。  国民保険体制の確立から既に四分の一世紀を経過いたしまして、その間、健康保険制度が全国民に平等な、均等な受診の機会を保障し、国民の健康の維持増進に目覚ましい成果を上げてきたことは否定できないことだと思います。しかしながら、他方ではこの期間は社会的にも経済的にもいわば激動の時期でございまして、これが健康保険制度に対しても大きなインパクトを与えまして、その機能制度のあり方をめぐって深刻な問題が生まれてきていることもまた否定できません。制度もある時期にはオーバーホールが必要でございまして、改正案はまさにそういうオーバーホールの一環であろうと思います。  そこで私は、この改正案につきまして、次の四点に絞って考え方を述べさしていただきます。  第一は、国民医療費の増高と健保改正案の問題でございます。  なるほど最近国民医療費の増高のテンポはやや鈍化しております。これは厳しい財政経済状態でありますとかいわゆる適正化政策などの影響が反映しているものだと思いますが、こういう状況が長期にわたって持続すると考えるのは私は非常に危険な楽観論ではないかと思います。  ここで簡単な数字を挙げて申し上げたいと思いますが、現在日本の人口高齢化率、つまり六十五歳以上人口の割合でございますか、これは九・何%でございます。欧米先進国、欧米というよりも西ヨーロッパ先進国と言った方がよろしいですが、一四%台あるいは一五%ぐらい、大体一・五倍でございます。それから国民医療費国民所得に対する割合を見ますと、日本は今六%台でございますが、西欧諸国では九%前後のところにございます。これまた大体一・五倍でございます。さらに租税並びに社会保障の負担、これを国民所得に対する割合で見ますと、現在日本が三五%前後でございますが、西欧諸国は五〇%から五五%と、これまたやや一・五倍に近い数字でございます。  このようにして見ますと、人口の高齢化と医療費の規模、あるいはまた国民負担の規模との間にはかなり強い相関関係が見られるわけでありまして、現行制度が現在のままで推移するならば、西ヨーロッパのようなそういう段階にあるいは至るであろうという可能性を我々は否定できないわけでございます。国民負担率が例えば五〇%、六〇%になるということは、それ自身非常に問題でございます。過大な政府の介入ということがいろいろ問題を引き起こすということもありましょうし、あるいはまた、我々の経済の活性化にとっても必ずしも望ましいとは言えないわけでありまして、できることならばそういう大きな負担にならないような、そういう仕組みを考えなければならない。今次健保法改正も、一つの着眼はそこにあるわけだと思います。  そこで、各種の医療費の適正化対策がとられておりますけれども、それと並んで今度は、被用者健康保険本人給付率を十割から九割に下げる、つまり定率の一部負担を導入する、これによってある程度医療費の増高のテンポを抑制しよう、こういう含みがあろうかと思います。なるほど十割給付、これは負担が伴わないわけでありますから望ましいことには違いありませんけれども、しかしながら、十割給付にはいろんな意味での問題があることはこれまた皆様御承知のとおりでありまして、ややもすれば医療の乱用につながる、こういうことがまず第一。その結果は、医療費並びに医療資源が本当に必要な人々に、あるいは必要な分野に配分されない、医療資源及び医療費の有効な配分がなされない、こういう問題もあろうと思うわけであります。そういう意味で、今回の一割負担ということに私は賛成をしたいと思うわけでございます。  第二は、制度間における公平の問題でございます。  現在の日本健康保険制度、これは非常に分立しております。分立しておりますのは別に日本だけのことではございませんが、ただ問題になりますのは、分立しておりますために制度間で、あるいはまた同じ制度の中でも本人と被扶養者の間で給付率に大きな格差があるということがございます。制度というのは、その成立につきまして歴史的ないきさつがありましたり、あるいはまた職域の違いなどもありまして、確かに皆保険制度体制がスタートした時点ではそういう過去の沿革なんかを引き継ぎましてある程度の格差というのはやむを得ないということでスタートしたと思いますけれども、しかしながら、皆保険というのはもともと全国民に平等な受診の機会を保障するということであったはずでありまして、そういう皆保険の趣旨にこれは反するのではないかということが第一点であります。  さらに、現在就業構造というのは非常に大きく変わっておりまして、サラリーマンがいつもサラリーマンであるというわけではありませんで、あるいは自営業者になる、つまり、制度間を動いて歩く、こういう可能性が非常に強くなっておるわけでありますが、現在のような仕組みの中では、あるときには十割、あるときには七割というふうに、非常にその点でも不公平ではあるまいかという点がございます。さらに、我々のライフサイクルを考えてまいりますと、所得が減少して病気の頻度が高くなるような時期に、そういう高齢の時期に給付率の低い制度に移行せざるを得ない。こういうことは、現行制度がやはり社会的な公正から見ても問題だと、こういうふうに考えるわけでありまして、その点からいたしますと、被用者保険本人給付率をこのままでよいという議論には私賛成できないわけでありまして、ある程度の調整というのはどうしても必要だと考えるわけでございます。  しかしながら、今度の案ではとりあえず一割の自己負担、こういうことになりますが、依然として制度間の格差がありますので、この格差の調整に向けて政府は今後計画的に対応していくことを私希望したいと思うわけでございます。なるほど、この一部負担の導入によって十割給付の利益を受けてきた既得権がある程度侵害されることになるわけでありますけれども、しかしながら、現在国保給付率が七割であるとか、家族が七割ないし八割であるというような状態をそのまま放置して、不問に付して、一割自己負担はけしからぬという議論は、果たして妥当なものであろうか、この点を私は疑問に考えるわけであります。  それから、一割負担は、家計に対して非常に大きな負担になると、こういう議論もありますけれども、現に国民健康保険は七割でございます。被用者保険家族は七割ないし八割でございます。なるほどそれは国保の加入者にとって、あるいはまた被用者保険家族にとって負担であることはこれはもう当然でございますけれども、しかしながら、一割負担によってまさに致命的な打撃をこうむるというような議論にはにわかに賛成できないわけでありまして、そこら辺の相互の公平感といったものに我々は目を向けなければならないだろうと考えるものでございます。  さらに加えて申しますと、仮に高額療養費支給制度がないといたしますとなるほど一割負担というものがこれは大きな問題であることは事実でありますが、しかし私は、高額療養費支給側度というものを非常に高く評価しておるわけでありまして、そこで非常に過重な負担にならないような歯どめがかかっているという点を指摘したいわけでございます。  第三は、退職者医療制度についてでございます。  退職者医療制度というのは、退職するその家庭にとっても大きな負担になるばかりでなくて、特定の制度、つまりここでは国民健康保険でありますが、そこに財政上の重圧が集中するという点で、二重の問題を含んでおるわけであります。退職者医療制度はこの二重の問題を同時に解決しようと、こういう意図で提案されたものだと思いまして、その点は評価できるわけでありますし、それからこの制度の導入によりまして、現役世代が高齢世代に対してある意味での所得の再分配を行うという社会保障、医療保障における、あるいは医療保険における所得再分配機能も期待できると、こういうふうに考えます。  ただ、この退職者医療制度を導入するに当たりましては、考えなければならない幾つかの問題点があることも事実でありまして、その第一は、職域を離れた退職者医療制度、つまり退職者医療制度が市町村国保を実施主体として運営されるということは、医療の地域性から見て私は妥当な提案だと思いますけれども、しかしながら、これによって市町村国保給付率の異なる二つのグループを傘下におさめることになる。そのために退職者医療制度適用を受ける人々とそれから本来の国民健康保険の加入者との間にいろいろ公平感をめぐって摩擦を生み出す原因になりはしないか、こういうことを恐れるわけであります。したがいまして、これは現在の各制度の間に給付率の格差が存在するということに原因があるわけでありますから、その格差の是正に向けて早急に手を打ってほしいと希望するわけであります。  問題の第二点は、市町村国保に移行する退職者の割合、移行するという意味は、市町村国保が実施の主体になっている退職者医療制度に入ってくるそういう退職者でありますが、その退職者の割合というのは、市町村によって非常に違うという点があります。したがいまして、被用者保険からの拠出金を配分するという場合には、この点は十分に考慮しなければなりません。つまり、そういう配分についてはっきりした定式を打ち出していくということがありませんと、新しい不公平の原因になりかねないと思うわけであります。  それから、退職者医療にかかわる問題の第三点は、一人当たりの医療費というのは年齢構成の差を考慮に入れて標準化してみても、地域的に非常に違いがあります。そういう地域間の医療費の格差、一人当たりの医療費の格差というものが、この拠出金の配分にどういうふうに考慮されるのかという点がやはり大きな問題ではないかと思うわけであります。  最後に、高額療養費支給制度の改善をめぐって意見を申し上げたいと思います。  高額療養費支給制度と申しますのは、先ほど申し上げましたように、過重な医療費負担にならぬように、それに歯どめをかけるという趣旨でありますが、現在巷間議論されておりますのは、その負担の限度額を五万一千円にしようか五万四千円にしようかというところにやや集中している嫌いがあるわけでありますが、私はもっと大きな問題は、この制度というのは個人単位であって、個人の医療費を集計して一件当たり医療費はどれくらいになるかということで歯どめをかけるという制度になっておりますけれども、しかし、家族の中に複数の高額医療を受けるような人が出たというケース、これはあるいはケースとしては少ないのかもしれませんけれども、そういう場合の家族の経済的な負担というのは極めて深刻でありますので、もし可能であるならば、これも家族単位で集計をしてこの制度適用する、こういう方法はないものか、この点をひとつ御検討を願いたいと思うわけであります。  以上、改正案の主要な論点について申し上げましたけれども、最後に二点ばかり申し添えたいと思います。  一つは、医療費の規模の適正化をめぐりまして、医療費の規模の上昇のテンポをある程度抑制するということのためには単に医療保険だけをいじっても効果は余り上がらないわけでありまして、いわゆる予防でありますとか、あるいはまた保健活動を推進する、あるいは現在の我々のライフスタイルといいますか、生活様式そのものが健康にとって非常に大きな障害になっているというところもあるわけですから、健康教育をもう少しまんべんなく地域に浸透させる、こういうこと。いわば総合的な保健対策というものが必要で、その方に政府が今は懸命に努力していただきたい、これが第一点であります。  もう一つは、保険外の費用についてでございます。家族負担、家計に過大な負担にならぬようにいろんな配慮がなされておりますけれども、しかしながら、入院したときの差額ベッドでありますとか、付添看護という費用はこれはもうばかにならない。我々の周辺でも非常に大きな額に上っているということを見たり聞いたりしているわけでありますが、こういう制度改革の時期にこの保険外費用の増大についてはこれを抑制する方向で大いに政府としては指導を強めてほしい、こういうふうに考えるわけでございます。  以上でございます。ありがとうございました。
  8. 石本茂

    委員長石本茂君) ありがとうございました。  次に、全日本労働総同盟生活福祉局長中根康二参考人お願いします。
  9. 中根康二

    参考人(中根康二君) 中根でございます。労働組合の立場から一言意見を申し上げたいと思います。  我が国は、これから急速に高齢化が進みまして、三十年後には欧米先進国の現在の高齢化率を抜いて人口高齢化の最たる国になるということが言われております。人口が高齢化しまして高齢者が増大するということは、社会的扶養の負担の面でいろいろな影響が出てくることは明らかなのでありますが、社会保障制度の分野に与える影響も大きいと判断をいたしております。社会保障制度の柱とも言われている社会保険制度の場合、一定の財源の中で負担する者と受給者が特定され、しかもそれぞれの制度の持つ特有の問題と相まって、年金制度医療保険制度については早くからその対応が迫られていたところでもあります。  私ども同盟は、昭和四十七年に福祉ビジョンを作成いたしまして、五十七年にはその後の社会経済情勢の変化を踏まえて、一九八〇年代のビジョンとして、来るべき高齢化社会への対応策を含め、社会保険制度のあるべき姿について提言いたしておりますので、私はそれを基調として、今回の健康保険法改正案に対する意見を述べてみたいと思うわけであります。  まず、現行医療保険制度問題点でありますが、公正と効率の両面に問題があると考えております。  公正の観点からの問題点でありますが、最も目につきますのは、制度が分立していることから負担給付の両面でかなりな格差があるということでございます。  第一は、医療保険制度基本給付とも言うべき医療給付でありますが、本人の場合であっても、被用者保険の十割給付に対し国民健康保険の場合には七割給付と大きく相違しておりますし、家族の場合にも、健保組合や共済組合では付加給付があって平均で七割を上回っているようでありますが、政管健保国民健康保険では七割給付となっているのが現状であります。このように、基本的な部分で異なった給付率となっているのは我が国だけであり、早急に改める必要があることは早くから主張されていたところであります。  第二は、現金給付の面でありますが、被用者保険国民健康保険では、法定と任意の差があり、五人未満の事業所で働いている労働者の中には、傷病手当や出産給付など、所得保障的給付すら受けられない場合があるのが現状でございます。  第三は、負担問題でありますが、制度間の負担の差はかなり大きくなっているのではないかと思います。これには構造上の問題もあると考えております。一つは、制度を構成する被保険者の所得水準の高低ですとか所得の把握の仕方から起こっている問題があると思います。もう一つ問題は、各制度が対象としている高齢者の比率の問題であります。老人保健法が施行されまして、七十歳以上の高齢者の医療費については全制度でプールしてそれを負担することになったわけでありますが、少なくとも六十歳層の医療費については、依然としてそれぞれの制度で抱えることになりますので、各制度の財政に与える影響は無視できないものとなっているのではないかと思います。  次に、効率の問題について二、三申し上げてみたいと思うわけでありますが、医療保険制度における効率化については次のように考えております。  医療資源には限度があるわけでございますから、その有限な資源が効果的に使われるか否かを考えることが重要だと思います。もし医療保険制度の運用に当たって医療資源の効果的な配分を誤っているならば、それは医療費のむだを増大させるだけでなく、医療保険制度機能をも損なうことになるのではないかというふうに考えております。医療保険は、健康を損ねたとき、その不確実費用の保障を適切に行うところに本来の目的があるはずでありますから、医療についての必要性が強く、医療に要する費用が大きく、本人負担能力が弱いところに医療保険の効果は高められるべきであると思います。そうすることが資源配分を効果的に行うことになるのではないかと思います。  ところが、現実の医療保険制度における給付患者負担関係は、必ずしも適切に組み合わされているとは言えない状況ではないかと思います。現在の給付制度では、被用者本人の場合を見てみても、初診料、入院料の一部負担のほか、保険給付の対象とならない差額ベッドや付添看護料など多額の出費があり、入院が長期にわたれば本人負担能力をはるかに超えることも間々あるのが現実の姿でございます。この場合、保険の効果は著しく弱められたと言わざるを得ないのであります。この傾向は、家族国民健康保険の対象者の場合には一層顕著になっているのではないかと思います。さきの健康保険法改正で高額療養費制度が創設されてかなり緩和されたとはいえ、労働者、特に低所得者層にとってはまだまだ大きな問題であると言わざるを得ないのであります。  さらに、効率面では次のことを指摘せざるを得ないのであります。それは、診療報酬の支払い方式に起因する諸現象や、最近では検査の乱用ですとか施設、高額医療機器の重複投資などが問題となっているところでございますが、これらのことが原因となって、医療費にいわゆる自然増と呼ばれる部分が生じているのではないかという点でございます。このような視点から、公費負担の面を見た場合も、負担基準などに問題があると思うのですが、ここでは省略させていただきたいと思います。  ところで、現行医療保険制度に対する主な問題点は以上のとおりでありますが、現在審議されております健康保険法の一部改正案との関連で私の意見を述べてみたいと思うのであります。  まず初めに申し上げたいのは、現在審議されております健康保険法等改正案でありますが、政府は将来展望に立った抜本改正の出発点であるというようなことを言っておられるのでありますが、私どもから言わせていただくならば、五十九年度予算編成をするに当たって突然出されたものとしか言えないのであります。一部には、従来から議論されたことであり、内容をよく見れば理解できるはずであるという御意見があるのも承知をいたしておるのでありますが、専門家の間では通用したとしても、今の時点で一般の国民に理解してほしいと言われても無理だというのが現状ではないかと思います。  改正案の細かい点で二、三申し上げますと、第一は、医療保険制度の中で最も重視される給付率問題でありますが、政府案によりますと、本人給付率を十割から八割に引き下げ、将来八割の給付率で統一するのだということでありますが、一方的に押しつけるのではなく、負担の面も含め幾つかのケースをつくり、国民選択にゆだねる部分があってもいいのではないかと考えております。私たちは、年金制度負担なども含めた広い見地に立って検討し、意見を申し上げたいというふうに考えております。本人給付率を変更する場合は、家族給付と切り離して議論すべきでないとも考えております。  第二は、高額療養費制度問題でありますが、限度額は引き上げるのではなくて、本人に一割負担を求めるのであれば、引き下げてもよいのではないかと考えております。このほか、従来から言われておりました暦月、一レセプト単位を、三十日で家族単位に改めるべきではないかというふうにも考えております。また、難病などの場合は別途減免措置を講ずる必要があるのではないかとも考えております。  第三は、退職者医療制度問題でありますが、給付率を政管健保並みにすること、国庫補助をつけること、これをぜひ実施していただきたいというふうに考えております。現行医療保険制度内容を見てみた場合に、このような仕組みをつくる必要性は考えますし、私ども現役の者が多少の拠出はやむを得ないとは思うわけでありますが、給付率国庫補助の点についてはぜひとも考慮をしていただきたいと重ねて申し上げたいと思います。  最後に、医療保険財政に大きな影響を持つ幾つかの点について希望を申し上げて終わりたいと思うのであります。  第一は、予防の徹底であります。  同盟の加盟組合の中で、現実に老人保健法制定を前に奥さんの予防に力を入れて大きな効果を上げておられる実績を私どもは目の当たりにしております。老人保健法が施行されまして、地方自治体でその体制づくりに努力されていることは承知しておりますが、開くところによりますと地域差が大きいようでありますし、国としてもこれに全力を傾注していただきたい。あわせて、ナーシングホームなど中間施設と言われるものの充実についても全力を挙げていただきたいと思います。  第二は、診療所、病院などの役割を一層明確にするとともに、その適正配置についても積極的に対処していただきたい。  第三番目は、診療報酬の問題であります。近年、不正請求などは減少していることは承知しておりますが、今なおマスコミでも取り上げられておりますように、不正請求などが明るみに出ております。これらの問題処理に当たっては、厳しい態度で対処していただきたいと思います。ところが、一方で技術の重視などが言われているわけでありますが、私どもといたしましては、取り締まりだけを強化するのではなく、必要なものを認めるという考えに立っておりますので、診療報酬のあり方等については十分御検討をいただきたいというふうに考えております。同時に、付添看護料差額ベッドなどの解消に努めていただきたいと思います。また、今後の医療のことを考えた場合には、日進月歩の高額医療機器の導入ですとか施設の充実も切り離すことはできないと思うのでありますが、聞くところによりますと、現在日本に入っております高額医療機器は、先進国の設置台数と比べてはるかに大きいやに聞いております。そういうようなことから考えてみますと、これらの適正な配置についても行政指導が必要ではないかなというふうに素人ながらに考えるわけであります。  また、ある時期、患者の側にも正す必要のある点があるのではないかという批判を私ども受けたわけでありますが、政管健保が近年単年度収支で黒字を出すなどの改善状況を見た場合、私はその点につきましては随分改められたと思いますし、私ども自身心してそのようなことのないように努めてまいりたいと思います。  高齢化社会の中にあって、国民生活にとって重要な、医療ですとか年金制度が安定した制度として存続するよう私どもも努力いたしますので、今回のこの健康保険改正案が真に医療保険制度の抜本改正の第一歩となるよう、国民意見を十分取り入れて御審議いただきたいと思います。  以上をもちまして終わりたいと思います。
  10. 石本茂

    委員長石本茂君) どうもありがとうございました。  次に、高知医科大学医学部教授山上賢一参考人にお願いいたします。
  11. 山上賢一

    参考人(山上賢一君) ただいま御紹介をいただきました高知医大の山上でございます。  これから公述申し上げますことは私の考えでございまして、大学等とは関係はございませんので、この点、よろしく御了解をいただきたいと思います。  まず、御承知のように、日本国憲法におきまして、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む」ことを保障されているというふうに規定されておりますが、この憲法の趣旨を具体化しているのは、社会保障に関するいわゆる行政実定法であろうと思います。しかしながら、今日各種の社会保障関係の法律を見ますと、憲法が意図している方向で、生存権あるいはまた快適な生活を営む権利の実現を図っているかというと、必ずしもそうとは言えないと思われるのでございます。我が国の社会保障は、基本的人権の尊重という立場から考察する必要が私はあろうかと思います。また、現代のこの社会保障は、広く国民の全般の権利として推進されていかなければならないときにきていると思うのであります。  まず、そこで、医療制度問題を見てみますと、この医療という言葉は、御承知のように健康の保持あるいは増進、疾病治療予防、さらにはリハビリテーションなどのために医学を応用すること、すなわち医学の具体化ないしは実践であろうかと思います。そうして、医学医療へと具体化されるに当たりまして媒介とされるものが医療保険制度でございます。  御承知のように、世界的に最高水準にあると言われております我が国医療が、その水準のままあまねく我が国民に応用されているかといいますと、その理想が必ずしも実現していないのが今日の姿でございます。しかし、今日の医学の場面におきまして、時間的、いわゆる緊急性でございます。あるいはまた、空間的な問題、地域差でございます。あるいは経済的な諸制約、その他さまざまな要因がその実現を妨げております。さらに、目覚ましい現代医学進歩に伴って高度化されてきた現代医療は、高度の専門知識、技術を有する医師を初め、多数の医療関係者、高度の設備、医療施設、あるいは高額の費用などを要し、医学進歩し、医学が高度化するにつれて、ますます一般国民がその恩恵に浴するということが難しくなるという、まことに皮肉な結果となっているのでございます。医療保障ないしは医療の社会化とは常々よく言われておりますが、御承知のように、簡単に言えば、だれでも、いつでも、どのような医療でも受けられるということでなければならないと思うのでございます。  そこで、いかにして今日の医療の社会化を達成すべきかという課題でありますが、私は、我が国現行医療制度の現状と問題点を明らかにすることによって、その課題へのアプローチを試み、なおかつ将来への提言をも含めまして述べさしていただきたいと思うのでございます。  まず第一に、今回の健康保険法の一部改正問題点を指摘いたしますと、まず第一に、私は給付率の見直しであろうかと思うのでございます。高齢化社会を迎え、財政危機をめぐる社会保障制度への対応策として、公的年金と医療保険が最重点項目として注目されておることは皆様御承知のとおりでございます。今回の医療保険の改革の問題は、国民の世論や野党の意見を吸収しないまま政府の予算編成の中に組み込まれた、そして発表されたという感じを否めないのでございます。例えば社保審とか社制審の両答申が、各意見の併記により異例の注文と苦情を述べているにもかかわらず、原案の骨子はほとんど修正のないまま国会に提出されたということでございます。年金の場合は、御承知のように、グリーンペーパーというふうなもので各界の知識属の意見を集約をしてつくられたやに聞いております。  ともかく、今日医療費伸び率と申しますか、年々一兆円のペースで増大する医療費抑制は不可欠であるとしても、今回の改正というものは、国民保険制度の理念に基づく医療保障、あるいは医療制度の崩壊や解体につながる危険性をも包含しているのではないかと思うのでございます。国民が社会保障に寄せる期待や安心感を消失させる可能性をはらんではいないか。  ただし、退職者医療制度の創設は、それ自体、私はその点については評価をいたすものでございます。ただ問題は、御承知のように退職者医療制度の運営につきましても、原資を拠出するいわゆる政管、組合、共済に発言の場がなく、ただ資金を拠出するだけというのは問題であろうかと思います。さらにまた、国庫補助がなく、公的な制度としての他の類似の制度に比して不公平ではないかと思うのでございます。  また、国保という同一制度の中で、八割給付退職者としても、その割合が、七十歳以上の老人、そして七割給付の自営業、農民、漁業というふうな、給付の格差のあることも疑問がございます。あるいはまた、国保への国庫補助の削減も、歴史的な経緯を無視をしたものであろうかと思うのでございます。  次に、今回の改革点の最大の争点でございますが、被用者保険本人の十割給付という、いわゆる健康保険制度発足以来の原則を取り崩して、いわゆる八四年七月から九割給付という改正がなされておりますが、基本的には我々はこの点について非常に疑問を感ずるわけでございます。確かに政府の掲げておられますように、現行十割給付は乱診乱療を招いている、あるいはまた、被用者保険本人家族、あるいは国保との間に給付率の格差があるから、それを是正して一本化したい、あるいはまた、二割の自己負担は過大ではなく、別に高額療養費制度がある、あるいはまた、かかった医療費がすぐにわかるようになるというような点を挙げておられますけれども、健康に対する被保険者自身の自覚を高め、乱診乱療を防ぐ趣旨であれば、医療費内容にいわゆるむだや不正が含まれ、差額ベッド等の保険外の負担問題が未解決の現状では、本人給付率を十割から一挙に引き下げるという点につきましては、国民の納得は到底得られないのではないかと思うのでございます。  確かに、健保本人の一割負担の導入で削減できる国庫負担は、いわゆる受診抑制効果も含めて二百九十三億円程度というふうに言われておりますが、国側の真のねらいはこの一部負担の導入ではなくて、これによって浮く保険料の財源で退職者医療保険制度を創設することにあるのではないかと見られるのでございます。  次に、医療費適正化の問題でございます。医療費適正化と申しましても、医療機関に対する支払いの削減をねらっているものであって、それらの性格がどのような性格を持ち、医療機関国民医療にどのような影響を与えるかが注目をされるわけでございます。  まず第一に、診療報酬の合理化とかあるいは薬価基準の適正化とか、また指導監視体制の強化、またレセプト審査の充実強化などによる不正請求の排除とか、いろいろな点を内容とする、保険財政からの医療支出対策が述べられておりますが、これらの点につきまして、一、二の私見を述べさせていただきたいと思います。  まず第一に、薬価適正化でございますが、国際的に見ましても不当に高い日本保険薬価を適正化することが、保険財政の健全化のために不可欠であろうかと思います。ところが、現行の薬価改定の方法は、薬価基準と、製薬会社がいわゆる医療機関に実際に販売納入をしておりますところの価格、すなわち実勢価格との間に生ずる薬価の差を減少するという考え方に基づいているのではないか、この最も高い独占価格にメスを入れて、製造原価によって適正に下げるというものではなく、医療機関のいわゆる薬価差益としての収入の部分の減少をするというふうなことに問題点があるのではないか。この点、特に医療診療技術の評価の見直しをすべきではないかと思うのでございます。医療の技術の評価の見直しをするならば、そういう点もカバーされるのではないかと思うのでございます。ともかく先般、臨調の第一次答申で医療費の適正化の一つとして薬価改定が取り上げられ、一九八一年の六月に平均一八・六%の引き下げが実施されましたが、それにより打撃を受けたのは医療機関、特に外来診療で薬剤の割合の高い内科中心の開業医であって、決して製薬会社ではないのではないか、こういうふうなことさえ言われております。ともかく、このような状況で診療報酬と薬価の改定が進行しますと、本当の意味の技術評価がなされずに、実際は差額ベッド料や付添看護料保険外の負担の拡大にならざるを得ないことになるのではないか。医療機関を通じて医療のゆがみの拡大が私は心配されるのでございます。  二番目に、指導、審査、監査体制の強化とレセプトの関係でございますが、政府案によりますと、点検強化措置といたしまして、手作業からコンピューターを導入する計画を経て十五名から成る特別審査委員会を新設し、高額医療費の請求を重点的に審査する体制を整備するということも聞いておりますが、しかしこの政府の実施の観点は、適正な医療かどうかを点検するというよりも、当初から医療費の削減という明白な経済的動機が先行してはおらないか、これが必要な医療をも削減する方向へ、誤った導入をすることにはなりはしないかと危惧するものでございます。  次に、第三番目に医療見直し、いわゆる自己責任の問題医療のゆがみの問題でございます。  先般、厚生省では、医療標準の概念を導入すべきだというふうな厚生大臣の見解が、林前厚生大臣によって明らかにされたことがございますが、これを受けまして大蔵省も、医療保険国庫補助は一九九〇年ごろには全廃するとの意向を表明されたことがございます。このような考え方は、老人保健法の法文にもあり、老人の医療費の無料化が崩され、有料化に移行し、ともあれ老人の受診率が明らかに低下傾向を示したことは事実でございます。老人の医療機関の渡り歩きとか乱診乱療の是非はありますけれども、これが老人の長寿や健康に与える深刻な影響ということも徐々に明らかになるもので、楽観できるものではないわけでございます。特に、老人医療の分野のゆがみが今日も懸念されておるのでございます。この高額医療問題一つを取り上げてみましても、自己負担限度の現在審議されております五万一千円が五万四千円に引き上げらると、あるいはまた、課題であるところのこれまでのレセプトの方式改革、そういうふうなものを見ましても、特にこの老人医療の分野のみならず医療の自己責任というふうな問題は私は慎重に考えていくべきではないかと思うのでございます。  健康の自覚というふうな場合、各自が病院に行って得るのは健康の自覚ではなくて、病気に対する自覚ということになりはしないかと思うのでございます。本当の意味予防医学というものをここで選別をつけなければならないのではないかと思っております。  最後に、医療保険の将来への提言と申しますか、今回の国会審議の中で厚生省では、将来のビジョンを出されて、その目標として三つの柱を挙げておられるようでございますが、まず第一に、医療費の規模を適正水準にし、国民所得伸びと同程度にとどめる。二番目に、すべての国民について医療保険給付率は八割程度で統一を図る。三番目に、人生八十年型社会に適応する医療保険の構造を考え、負担の公平化を期すると、その目標を掲げております。この目標自体は私はまことに結構であろうかと思います。これらの将来展望と当面の目標に沿って今回の政府案が位置づけられると政府は考えているわけであります。しかしながら、その政府案は、国民医療を軽視した、いわゆる財政抑制策としか受けとれないのでございます。給付率を九割にする、その前提として、保険料をこれ以上引き上げないでというふうな考え方があるといたしましても、将来国民医療の八割給付は、保険料を引き上げないで実現することは恐らく私は至難のわざではないかと思うのでございます。  次に、具体的な提言でございますが、私は過去イギリス連邦ニュージーランド、あるいはイギリス、北欧と、あらゆる欧米先進国に留学をいたしました経験と申しますか、そういう中で得ましたことを私の個人的な考えでございますが、一言述べさしていただきたいと思うのでございます。  それはどういうものかと申しますと、いわゆる自由診療の中におきまして、イギリスで行われております人頭割の方式でございます。このイギリスの事情を申しますと、地域にホームドクターが配置されまして、住民はそれぞれ自分が信頼するホームドクターに登録をする。今日よく言われておりますプライマリーケアということになろうかと思いますが、医師はその登録者一人につき二ポンドずつ政府から支給をされるというふうな形になっております。こういう方式によれば、保険給付の総額が初めから計算できるわけでございますから、保険収支の計画が立てやすい利点があるわけでございます。したがいまして、登録関係において地域住民との信頼関係が非常に優先される。  しかも、具体的に申しますと、その登録医のホームドクターというのは、職場の近くかあるいは自分が住んでおる近くか、どちらかを選ぶことができます。そういたしまして、日本に古来からありましたいわゆる家庭医制度的なもの、近所のお医者さんと非常に親しくする、例えば生まれ落ちてから死ぬまでカルテがそこに残る、そういうふうな方式でございますれば、そのお医者さんがカルテを見て、そうしてそのカルテに従ってすぐ病気が重いかどうかというふうなこともわかりますし、そしてどうしても重症の場合には公立の病院に回すことができる、こういうふうなシステムでございます。したがいまして、医師の技術料の評価という点のバロメーターにもなります。そういうふうな、日本ではなくなりつつあるそういう地域住民との信頼関係がこの登録関係において優先することができる、非常にいいのではないか。  したがいまして私は、日本に従来あります出来高払いとこのイギリス型のホームドクターの制度をドッキングすることによって日本的なものができるのではないかというふうに常々考えておる次第でございます。ただ、問題点といたしましては、費用や手間のかかる患者を抱えた医師は不利な時間を費やすということにもなりかねない点があるようでございます。  次に、二番目に、医の倫理の確立の問題でございます。  私が長年社会医療審議会の会長をやらしていただきました京都におきましても、あるいはまた、今奉職をいたしております高知医科大学にいたしましても、私が関係いたしましたそれぞれのお医者様は非常にすばらしい方たちばかりでございます。医師は、知と徳と社会的な地位の重さということで人後に落ちない職業でございますので、そういう先生方は別に問題はないわけでございますが、最近の新聞紙上によりますと、御承知のように、いわゆる不正請求とか、あるいはまた脱税の問題とか、ごく一部のお医者さんではあろうかと思いますが、そういうふうな点が絶えず新聞紙上をにぎわしておるというのも事実でございます。そういう点を考えてみまするに、有名な貝原益軒の不朽の名作ではございませんが、「養生訓」に掲げておりますところの、「医とならば君主医となるべし。小人医となるべからず。君主医は人のためにす。」という、そういう観念を持った医師の倫理というものを確立をしていかなければならないのではないかと思うのでございます。  次に、三番目に、今日よく言われております医療費の増大の抑制策といたしましては、医療保障制度的体系と申しますか、現在日本は御承知のように医療保険の体系をとつております。あるいは欧米各国では医療サービスの体系をとっておる国が割と多いわけでございますが、それぞれ一長一短はあろうかと思いますが、特にこの際、制度的な歯どめを考えるべきであろうかと思います。そのためには制度的なメカニズムの確立をする必要があるのではないか。例えば、将来、非常に情報化社会が叫ばれております。オンラインで、地域の医療にかかったその血液検査なら血液検査をしたものがすぐ中央のセンターに直結できるというふうなことをすれば、いわゆる過剰診療の防止というふうなことも可能ではないかというふうな、これからの情報化社会にそういうふうな方向一つの方法ではないか、かように考えておる次第でございます。  また、先ほども申しましたように、今日のお医者さんあるいは大学の先生、とても皆すばらしい方ばかりでございますけれども、ただ問題は、これは全く私の個人的な考え方でございますが、従来から医薬分業というふうなことが叫ばれておりましたが、私は、医薬品の内容の表示をすべきではないかと、個人的な意見でございますが、そのように思っております。それはなぜかと申しますと、いわゆる生きるか死ぬるかというよりも、簡単な食品衛生法というもの自体一つをとってみても、その食品衛生法には内容が明示されております。したがいまして、人体に一番影響のある薬に今日その内容が明示されていない。そういう点につきまして、そういうものを明示することによっていわゆる国民の薬の乱用というものも防げるのではないか。これは私の全く私論的な意見でございますが、そういう点も考慮していただいたらいかがなものだろうか、かように考えております。  ともかく、今回の健康保険法の一部改正に当たりまして、我々国民生活を託しておるこの社会保障自体のあり方に対しまして、正しい洞察と、それを愛する心が息づいていなければならないことは当然でございます。と同時に、私は、本格的なこれからの高齢化社会に備えまして、医療費の規模を適正水準にする、あるいは給付負担の公平を図るというふうなことによって、医療保険制度の安定した基礎をつくることができるのではないかと思うのでございます。  以上で終わらせていただきます。どうもありがとうございました。
  12. 石本茂

    委員長石本茂君) どうもありがとうございました。  以上で参考人各位の御意見の陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  13. 糸久八重子

    糸久八重子君 給付率問題に関しまして、五島参考人と地主参考人にお伺いしたいと思います。  最初に、五島参考人にお伺いしたいのですが、給付率が下がると受診抑制されるというような私たちの政府への追及に対しまして、厚生省は、受診抑制にはならぬと申しておるわけでございます。そこで、勤労者病院に御勤務の先生は、比較的低所得者層の勤労者を多く診療していらっしゃると思いますけれども、臨床経験の立場から、この問題についてどうお考えになりますでしょうか。
  14. 五島正規

    参考人五島正規君) この九割給付問題受診抑制につながらない、その根拠として、国保あるいは健保家族の人の受診の数字が出されているわけですが、この点につきましては、たしか桐島参考人の方からも御意見がありましたように、明らかに小児その他、そういう母集団そのものの点検をしない数値でありまして、これは非常に問題がある。私たちの経験から申しましても、例えば今日差額ベッドという問題がございます。そういう差額ベッド料を払って受診ができる階層というのは意外と限られている。少なくとも高知においては極めて限られているというように考えていいと思います。我々の医療機関を利用される例えば給与が月々二十万円足らずの中で御家族生活しておられる、そういうふうな人たちが病を持った場合、例えば循環器の障害を持ったとして、一般的にはその障害を持ったまま就労しておられる方が多い。それが現在の十割給付の中で、一定医学的な管理のもとにおいて治療もしくは指導を受けながらどうにか働けているというふうな実態がございます。  もし、今回のような九割給付ということになっていった場合、どういうふうな階層の人たち受診抑制されてくるかといえば、まずそういう低辺労働者に受診抑制が出てくるということは間違いない。そういう意味においては、たとえ給付率が九割であろうと八割であろうと、それぞれそれにたえ得る経済階層に応じて、いわゆる逆累進の形においてあらわれてくることは間違いがない。そういう意味において、たとえ高額療養費が五万一千になろうとも、現状の労働者の中において、あるいはメディケアが、就労しながらでもどうにか医療のもとにおいて仕事ができ得ている、そういうふうな労働者のより初期の段階における受診抑制になってくることは間違いないというふうに考えています。
  15. 糸久八重子

    糸久八重子君 地主参考人は、十割給付医療の乱用につながり、その結果必要な人に、必要な分野に配分されないとおっしゃったわけですけれども、ただいまの五島参考人の御意見と対立するわけですが、その点につきましての御意見を伺いたいと思います。
  16. 地主重美

    参考人(地主重美君) これはやはり個々のケースについてどうこうと言う立場にありませんし、そういう知識も持ち合わせておりませんので、我我は各制度統計資料に頼る以外にないわけであります。  ただ、統計資料に頼る場合には、先ほどのお話のように、非常に慎重な注意が必要でして、例えば年齢構成が違うとかというようなことも同時に考慮していかなければならないわけですが、そういう年齢構成のことも考慮に入れても、例えば国民健康保険と組合健康保険では、同じような年齢階層におきましてそれほど受診率に大きな差がないという点がございます。  もちろん、給付率受診率に与える影響というのはこれは直接的ではありませんで、いろんな要因が絡んでおるわけでありますから、例えば所得水準の違いといったことも、同じ給付率であっても所得水準が違ってきますと受診率も変わってくるでありましょうし、そういう点の考慮はもちろん必要でありまして、ただそういうことを考慮に入れても、今回の一割の定率負担というのが受診率に大きな影響を与えるかということになりますと、どうも我々が手にできる資料からはそうは断定できない、こういうことを申し上げたいわけでございます。
  17. 糸久八重子

    糸久八重子君 五島参考人にお伺いいたします。  医療費の高騰抑制策から見ますと、検査診断機能をオープン化した医療機関を必要としていらっしゃいますけれども、国立病院がその役割を果たせるものではないかと思うのですけれども、今政府行政改革によりまして国立病院や療養所の整理統合化を進めようとしておりますけれども、地域での国立病院の果たす役割はどうあらねばならないとお考えでしょうか。
  18. 五島正規

    参考人五島正規君) まず、私が申しましたように、国公立病院が外来診療部門をいわゆる一般医師に対してオープン化して、独自に一般外来患者は扱わない。すなわち、病院と診療所の機能を当然分化しないといけないわけですが、それの先鞭をまずつけていくということが非常に必要であるだろうというふうに考えます。  その次に、国公立病院というのは、一般的に言いまして赤字経営の自治体病院あるいは国公立病院が非常に多うございますが、そういうふうな赤字経営というものが、税金で賄われても単に存在すればいいかどうかという問題の中には、その国公立病院の存在そのものが国民の健康の上においてどのように役立っているかということが明確である必要があると思うわけです。それが全く私的医療機関と競合の関係において存在するとすれば、これは多くの医療機関から極めてアンフェアな競争相手というふうにみなされるのもやむを得ないと考えるわけです。  そういう意味において、国公立病院がどのような機能を持つかという点におきまして、先ほど申しましたように、検査診断機能をオープン化したそういう医療機関として役立っていく。もう一つは、二十四時間救急外来というものを持つことによって住民医療に役立っていく。それから三番目の問題として、ここまで医師がふえ、非常に医療費が高騰していると言われているわけでございますが、例えば高知県等におきましては、高知市を除きますと依然として僻地無医地区と言われるところも多数ございます。そういう意味においては、公的医療機関を中心として存在しています例えば地域中核病院等に医療スタッフを十分に備え、そして、それらの中核病院から僻地診療に随時出していく。僻地中核病院を名実ともに中核として、その病院の機能を僻地医療に当たらしていくという、そういうふうな国民にとって必要な機能を果たすことによって出てきた赤字であれば、その赤字が税によって賄われていくということは当然であるだろうというふうに思うわけです。  そういう意味で、国公立病院を廃止するということではなくて、必要な機能を国公立病院に持たしていくという形の中で国民医療の質を向上させるということが必要ではないかということで申し上げました。
  19. 糸久八重子

    糸久八重子君 以下四問ほど、すべて五島参考人にお伺いしたいと思います。  所沢の富士見病院事件は、高額医療機器を駆使する余り乱診乱療と言われておりますけれども、医療経営の見地から見て、先生はこの点をどうお考えでしょうか。
  20. 五島正規

    参考人五島正規君) 所沢の富士見産婦人科病院の内容につきましては、私は、直接は見たわけではございません。その被害を受けられたという御婦人の方からいろいろと先日もお話をお伺いいたしました。  その中で、当初私が理解できなかったのは、被害を受けられた御婦人の方々は、高額医療機器でいろいろと検査されてそして不必要な手術を受けられた。それは現在の出来高払いの中で医師が——医師といいますか、あの場合は医師だけではなかったような問題があるように聞いておりますが、金もうけのために不必要な手術をしたというふうな表現をされて言われたわけです。その御婦人の場合は子宮の全摘手術を受けておられたわけですが、現在の医療保険制度の中において、子宮全摘手術をして病院の収益がふえるというふうには到底考えられないということで、私の方はそれはどういうことなのかということを詳しく聞いている中で、実は非常にびっくりしたわけでございますが、その御婦人のおっしゃるのに、実はあの病院では大体一日二万円の差額ベッド代を取っている。そして手術の前後には、リカバリールームということでもって一日三万円の差額ベッド代を取っていた。それで、退院するときには差額料として大体五十万円ぐらい支払わなければならなかったというふうにお話しになっています。  御承知のように、子宮の全摘手術をしてみたところで、三万円足らずの保険点数しかございません。ですから、その格差というのは非常に大きいわけでございまして、そういう意味においては富士見産婦人科病院の問題というのは、現在の医療制度の中で医者が金もうけをするために手術をやり過ぎたというところに問題があるのではなくて、むしろそういう差額ベッドと言われるものが野放しになっており、そして手術をすることによって非常に高額な差額ベッドの中に患者を閉じ込めているというふうなことが社会全体として公認され——公認といいますか、黙認されてきたところにそのケースの場合は一つ問題があるのではないかというふうに感じたわけでございます。  そういう意味で、私は富士見産婦人科の問題は詳しくは存じませんが、少なくとも私が聞いた範囲の中において現在の富士見病院の一番大きな問題は、実は差額といいますか、いわゆるホスピタルフィーと言われる部分自費診療保険併用されておる。それがそのまま黙認されてきている。そうしてそれが、我々が考えても病院収益の中において非常に大きな部分を占めておる。そういうふうなことが問題の一番大きな点ではないだろうかというふうに私は考えております。
  21. 糸久八重子

    糸久八重子君 医療内容の改善とか、それから医療の質を高めるために医師の自浄作用が必要と言われますけれども、これをチェックする方法はないものなのでしょうか。
  22. 五島正規

    参考人五島正規君) 医療内容というものを、例えば先ほど御質問のありました富士見の場合も問題でございますが、患者さんにとっていい医療という概念というのは具体的に何でもって判断するか、非常に難しい問題があると思います。それは他の医者にとっても、そういうことについて、例えばどの医療機関が非常にいい医療なのかという漠然とした質問に対しては答えられないというふうな面が正直言って非常にございます。  むしろ、その問題について大事なことは、先ほど私が提案しましたように、主治医という制度、これを医療保険上も明確にして、そして主治医がその患者の代理人として、専門医のところにおける診断内容あるいは治療内容というものについて連絡をとり合いながら、それぞれ適切なアドバイスを患者さんに対してなしていくことができる、そういうふうな制度をとることによって、それが自浄作用と言っていいのかどうかわかりませんが、少なくとも不必要な医療あるいは誤った医療、また、場合によっては誤診といったようなことを防ぐことができるのではないかというふうに考えています。
  23. 糸久八重子

    糸久八重子君 診療報酬の支払い方式についてお伺いしたいのですけれども、現行出来高払い方式は、医師の裁量一つ医療費を操作できる。そして、質よりも量を重視しがちになる欠点があるわけですけれども、現行制度のどの部分をどう変えていくのが理想的だと思われますか。
  24. 五島正規

    参考人五島正規君) 必要な診断あるいは必要な治療というものの決定が主治医のところにあるというのはこれは当然であって、それが悪用されてむだな医療があるという御説かというふうに伺ったわけでございますが、その一つ一つ内容について、果たしてむだであるかどうかということの判断は、極めて難しいといいますか、問題があるんじゃないかというふうに考えるわけです。  大事なことは、現在のように出来高払い制度という制度をとるにしても、非常に細かくいろいろな医師の行為を細分化して、そして出来高でやっているというところに問題があるんじゃないか。そういう意味においては、現在の医療の非常に大事な部分、これは予防という概念も含めてもいいと思うわけですが、いわゆる今日問題になっているプライマリーケアと言われている部分をやはり保険医療の中で決めていって、そしてそれにどういうふさわしい支払い制度をとるか。これはこの分野については、私はいわゆる人頭支払い方式しかないだろうというふうに考えているわけでございますが、そういうふうなものが必要なんではないだろうか。  また、検査料といっても、検査が多過ぎるのか、必要性があるのか。その人の病状によっては、その都度、例えば時間単位でだって観察しなければいけない検査もございます。また、そうでない検査もあるわけでございます。それは検査の種類にもよるでしょうが、それ以上にその患者さんの状態というものによって左右されてくるわけです。そういう意味では、どの検査は何回までが許されるとかいうふうな内容でやっていったとした場合、やはり医療の質が非常に制限されて低下してくる。場合によっては誤診ないしは誤療につながってくるということは避けられない。そういう意味では、医師の技術というものを非常に細かく細分化して、出来高払い制度の制度の上にのせて処理しようというところに無理があるんだろう。そのことが先生がおっしゃいますように、何か医師が質よりも量で稼いているんだ、そういうふうな医療機関がいいのかということにつながっているのかというふうにも考えられます。  また、単にどれだけの治療時間がかかったか。例えば治療時間が長くかかり、そして投薬量が多くかかった医療機関ほどもうかるという制度というものが問題であるとすれば、物によっては、場合によっては定額支払い方式というふうな方法を御採用になることだってあるんじゃないかというふうなことで申し上げたわけでございます。
  25. 糸久八重子

    糸久八重子君 最後に、山上参考人にお伺いしたいのですけれども、参考人は医の倫理の確立ということをおっしゃられました。医師の卵をお育てになっていらっしゃる先生は、どういう点でこの医の倫理の確立ということを御配慮なさっていらっしゃるのか。また、配慮せねばならぬとお考えなのか。お考えをお伺いさせていただきたいと思います。
  26. 山上賢一

    参考人(山上賢一君) 糸久先生からの御質問でございますが、私、大学の方では特別に医の倫理について具体的にどうとかこうとかということじゃございませんが、特に私の方の大学は、まだ新設間もない大学でございますので、この三月に初めて第一期生を出した、いわゆる各県に一つという例の大学でございまして、誕生間もないのでございますが、新設大学ということで教員初め事務局一体となりまして、また、非常に先生方が一致団結いたしまして、社会に対するいわゆる模範的な大学づくりを目指しておりまして、特に高知県当局を初め全県が一丸となって医療教育に取り組んでおるというふうなことで、幸いにこの三月の医師の国家試験の合格率は、新聞にも出ましたように一〇〇%の合格率で、第一の合格率だったわけで、我々も非常に危惧しておったわけでございますけれども、我々自身も非常に驚いておるというふうな成績を上げることができたわけでございますが、常々大学の授業とかクラブ活動とかあるいは教授会を通じまして、学長以下非常に、そういう県民の後ろ盾でできた大学であるというふうな使命感に燃えまして、それぞれの先生方が教育の現場を通じまして、いわゆる医師の社会的に期待される人間像と申しますか、生涯教育の理念に立脚して、そういうふうな展望のもとに日ごろ学生と一緒に勉強しておるということでございます。  以上でございます。
  27. 糸久八重子

    糸久八重子君 もう一つ加えて山上参考人にお伺いしたいんです。  今、合格率が一〇〇%ということをおっしゃられたわけですけれども、実は、医師にいたしましても学校の教師にいたしましても、今の試験制度ですと、これは点数制度によってやはり合格が決められている。そして、医師の国家試験の場合はどうであるかちょっとわからないんですが、面接試験などは恐らくされてはいないんですね。
  28. 山上賢一

    参考人(山上賢一君) いや、私の方はやっております。
  29. 糸久八重子

    糸久八重子君 そうですか。——国家試験でですよ。
  30. 山上賢一

    参考人(山上賢一君) 失礼しました。入学試験でやっております。
  31. 糸久八重子

    糸久八重子君 入学試験はやられますけれども、国家試験では面接試験がないということなんですが、やはり成績だけで云々するということでは、この医の倫理、人格性というものも考えていかれないのではないかと思うんですけれども、その辺の御意見をちょっと伺わせていただきたいんです。例えば今後国家試験ではどうあるべきなのかというようなこと等ですね、この医の倫理という問題に立脚して。
  32. 山上賢一

    参考人(山上賢一君) 回答になるかどうかわかりませんが、先ほども申しましたように、今日国を挙げて、あるいは社会的に医師に対する評価というものが非常に厳しくなっております。そういう点を踏まえまして、学生諸君も我々教職員も一丸となって、ただペーパーテストで合格するということだけではなくて、本当に地域社会に役立つ、具体的に申しますと、例えば今回の卒業生の中にも、東南アジアとかそういう方面、あるいはまた僻地の医療に従事するというふうな学生も中にはおります。そういうふうに、ただ点数だけでなくて本当に人格的な、まず医師になる前に一個の人間として十分社会に役立つ、そういう人格を養成するというふうな考え方でおるわけでございます。  特に、御承知のように、これはまた高桑先生が御存じかと思いますが、医学教育会議の設置というふうなことで、日本学術会議の第七部でございましたか、学会でもそういうふうな点がいろいろ考慮されて、いろんな施策があるいは提言がなされております。そういうふうなことに沿って、各医科大学も十分その期待にこたえるように努力をいたしておる次第でございます。  以上でございます。
  33. 糸久八重子

    糸久八重子君 以上で終わります。
  34. 佐々木満

    ○佐々木満君 私は、三点ほどお伺いをいたしたいと思いますが、まず中根参考人にお願いを申し上げます。  先ほどお話しがございましたが、厚生省では国民医療についての中長期ビジョンというものを出しておるわけでありまして、その中で、医療保険につきまして、現在それぞれの制度に分立をしておりまして不均衡になっておりますそれを、ひとつ六十年代の後半に向けて負担給付の公平化を図っていこうと、制度の統合一元化といいますか、そういうものを目指していくんだ、今回の健保法改正案というのはその最初のステップだ、こういう説明をしておるわけでございますが、先ほど参考人は、この厚生省の説明では一般人に理解せよと言っても無理だ、こういうお話があったように思います。  私どもは、やっぱり生活に関連する重大な法案でございますので、こういう法律をつくる場合には、関係者、医療関係者とかあるいは保険者とか当然でありますけれども、一般の国民に広く理解をしてもらう、一般の国民にわかっていただくということにして法律をつくっていかないといけない、こういうふうに思っているわけでございまして、私は厚生省の方から、この厚生省の考えは徐々に一般の国民の理解を得つつある、こういうふうに聞いておるわけでありますが、中根参考人は、どうも厚生省の説明は一般人には理解せよといっても無理だと。こういうことになりますと、同盟の有力な局長さんがそうおっしゃるんで大変私衝撃を受けているわけでございますけれども、どういう点が一体理解するのに無理なのか、この点を簡潔にひとつお願いをいたしたいと思います。  それから、地主参考人にお願いを申し上げたいのは、同じ今の長期ビジョンに関連いたしますけれども、厚生省では、最終的に医療保険制度における給付率というものを八割程度で統合したい、六十年代の後半でしょうか、八割程度で統一したい、こういうことを目指しておるわけでございますけれども、ずばりこういう八割程度の統合、統一ということについて、先生の御見解をお聞かせいただきたいと思います。  それから三番目、最後は桐島参考人にお願いをいたしますが、大変有益なお話を伺いましたが、一番最後におっしゃいました医療保険の前提と申しますか、周辺問題と申しますか、基本問題と申しますか、いずれにしましても、健康管理とか健康教育疾病予防あるいは医療供給体制の整備、こうしたことが大変重要だと私ども思いますし、厚生省でもそれなりに対策をやっているわけでございますし、私どもも勉強していかなきゃならぬと思っておりますが、こうした問題につきまして、何か御提言がございましたら、ひとつ具体的に、健康教育問題でも結構ですし、健康管理、予防対策、医療供給体制の整備、これらに関連をしまして御提言がございましたら具体的にお聞かせを願いたいと思います。  以上三点、お願いを申し上げます。
  35. 中根康二

    参考人(中根康二君) 私の記憶が間違っていなければあれなんですが、厚生省が考え方をまとめてお出しになったのは、国会へ改正案が提出されてからではないかなという記憶がございます。私が申し上げたいのは、そういうことであれば最初からお出しになって、六十年代の後半というようなあいまいなものではなくて、むしろきちっと年度を定めてこうしたいんだというものをもっと積極的に出していただきたかったということでございます。それが出る前に、いわゆる八割給付というとらえ方が非常に強く前へ出た関係上、その辺で非常に理解に時間を要するようになってしまったのではないかなというふうに考えているわけでございます。
  36. 地主重美

    参考人(地主重美君) ただいまの御質問でございますが、厚生省の案によりますと、私の持っておりますこのビジョンですけれども、これによりますと、六十一年度に八割給付、こういうことになっておるようであります。ただ、私やっぱりこの種の問題にはステップが必要だと思うわけでありまして、九割給付つまり一割自己負担ということが先ほど来問題になっておりますように、現実に受診率にどんな影響を与えるのか。あるいは国民の健康水準にどんな影響を与えるのか。あるいは家計の支払い能力から見て適正なのかどうか。ここら辺を十分に経験を踏まえた上で次のステップに移っていく、その準備が必要ではないか。案は案といたしましても、やはりそういう実際の経験を大いに尊重していただきまして、その上で、一体八割がいいのか、あるいは九割のままにした方がいいのか、そういうことを決定すべきではないか。  ただ、依然として残ります問題は、公平性の問題でありまして、その場合に、健保の方は八割にするけれども国保はそのままである、それでよろしいかとか、こういう問題も当然起こってくるわけでありますから、そういう点も総合的に考えた上で、一体どのくらいにしたらいいかという次の具体的なステップに入るべきではないかと考えるわけでございます。
  37. 桐島正義

    参考人桐島正義君) 予防にまさる医療はないんだということで、予防重視というのはこれは当然でございます。早期治療早期発見をやる。それより前にやはり一番基本的になるのは健康を増進するということ、推進するということです。しかし、これにどんな案があるかと言われても私の方は現在わかりませんけれども、厚生省に机上で考えてもらっちゃ困るということです。実際に下で何が起こっているのか見ていただきたい。  先ほどお昼をごちそうになりながら話しをしたんですけれども、今私の周辺では、もう小さな児童公園で、おじいさんおばあさんのゲートボールと子供の遊び場とが競合しているんですね。お互いが遠慮しながら、しかしやっぱりおじいさんおばあさんの方が力が強いのか、子供の遊び場がなくなっていくというほど、健康というものに対して非常に下の方で盛り上がっている。あれ非常にいいと思うんですけれども、健康教育のことも、やはり自治体でしょうと思いますけれども、国も指導していく。私たち、住民との健康と医療を語る会というのをつくりまして、各自治体、地域住民のいろんな自主的な団体で企画していただいて、こんな話をしてくださいと言われれば、私たち開業医で、奉仕で今行っております、一切経費はいただきませんということで。ただ、そういう計画を立てるのは住民の団体の方が先に立てていく。上からお仕着せでやっても、実際は金が要るぱっかりでうまくいかないですけれども、下からの盛り上がってくる力で、こういうことをやりますよと言えば喜んで来るんです。医者なんか呼ぶといったら金がかかると思って大概住民は僻易しておるんですけれども、費用が要りませんよと言えば来るんです。そういうことをやっている人々が今非常に医者の中でたくさん出ております。  健康教育一つにしましても、私は厚生省には偉い学者をたくさん顧問に抱えていらっしゃるんですから、例えばこういう年齢の老人に対してはどの程度とういう運動が具体的にはいいんだというふうなマニュアルの一つぐらいはつくってほしいと思うんです。本当にマニュアルというのは、私は統制というふうにお考えになっていただいては困るんで、それが絶対的なものでないにしても、保健婦がぱっと尋ねられたらぱっと答えられる程度のマニュアルというものを、糖尿病の人はこういうふうにやって、この程度の糖尿だったらこういうふうにしたらよろしいよというふうなこと、運動はどういうふうにしなさいということ、それから、ただ高血圧の薬だけ飲んでおったってしようがないんですから、運動療法で、どの程度運動したらいいか、血圧との関係とか、非常に簡単なマニュアルを厚生省は今つくってほしいと私は思います。  それで、本当のところ今まで健康保険治療が主体で、日本医療といったら治療ばっかりで、健康保険治療しか許さなかったんですね。予防は一切、手を出したら手を出しただけ損という格好でございました。これを今広げるのは財政的に大変難しいと思いますけれども、今私たちが考えますのはやはりコンプリヘンシブな医療、抱括医療、これをどういうふうに実践できるかということです。私ら開業医団体ですけれども、開業医がこれだけ地域の中に散らばっておって地域の人の相談相手になれない状態が今ある。これがなれるような状態に、開業医自体も努力しますけれども、政治の側からも、あるいは行政の側からもこれを援助するようなひとつプランを考えていただきたい、こういうふうに思っております。
  38. 佐々木満

    ○佐々木満君 ありがとうございました。
  39. 高桑栄松

    高桑栄松君 私は、つい最近まで大学医学部で予防医学、衛生学の講座を担当しておりました。きょうの各参考人方々のお話を伺って私は大変意を強くいたしましたのは、どなたも、健康づくりには予防健康教育が優先的に考えられるべきであると、こうおっしゃった。私はそれを今日までのいろんな委員会、本会議等でも主張してまいりました。そして、予防医学を推進すれば医療費もちゃんと抑制されていくではないかと、これを主張してまいりましたが、きょうは大変よかったと思います。もう皆さんと私は同じ気持ちで今おります。  それで、私大変よかったと思って、もうそれだけでもいいかと思うぐらいでございますけれども、具体的にどうしていくかということが一つございます。皆さんに共通した部分もあるし、別々の部分もあって、一生懸命メモはしたつもりですが、私が見逃したものたくさんあると思いますので、一人一人の方々に少しずつ伺いたいんです。  最初に、桐島参考人にお願いしたいんですが、一割ないし二割を本人負担をすることによって、政府の方では受診率は下がらないと言っております。随分私も争ったというか、まあ争うというほどまだ回数がございません。もう一度、さっきおっしゃった下がるということの数字を説明していただきたい。
  40. 桐島正義

    参考人桐島正義君) これ、総数で本人の場合の受診率とそれから家族国保と並べますと、本人が一・〇〇としますと、家族の場合は〇・九三です。それから国保では〇・九四と、これも少しは落ちているわけですね。まあこんなのは誤差の範囲だとおっしゃると思うんです。ところが、四十歳から四十四歳の段階を見ますと、本人一に対して〇・七二ですから二八%落ちているわけですね。国保が〇・六二で三八%落ちております。五十歳から五十四歳をとりますと、一・〇〇が本人で、家族が〇・八九、それから国保が〇・六七。少しずつ受診率は上がっておるわけですね。というのは、ここらは年齢とともにだんだん有病率がふえていくので当然だと思います。今ここに詳しいなにを抜き書きしてきたのがちょっとございませんが、そういう統計はきちっと手元にあって申し上げております。
  41. 高桑栄松

    高桑栄松君 大変ありがとうございました。もうちょっと早く伺っておくと論争にもっと都合がよかったんですけれども、私はそのデータはもう間違いないと思うんです。数字はどうか、若干のことはあるかもしれませんが、今のお話はもうまことにそのとおりで、本人が新しく負担をすることによって受診率が低下する。つまり、医療費抑制というのが一つのねらいですから、受診率が低下する。受診率が低下することは早期発見、早期治療妨げになる、私は予防医学の立場で非常に強くそこを憂えているわけでございますが、御意見いかがでしょうか。早期発見、早期治療妨げになるということです。
  42. 桐島正義

    参考人桐島正義君) これはもう一つ一つのケースでどうだと言われてもなんですが、総体としまして、当然受診率が落ちましたら早期治療は、これはもう私自身でも、早く診てもらったらよかったと思うものが、過去この七十二年間の歴史の中でたくさんございます。だから、お金のことでちょっと受診がおくれるということがあるのなら、それはもう当然だと思いますね。
  43. 高桑栄松

    高桑栄松君 もし、時間が残りましたら、また質問させていただきます。  では次に、五島参考人にお伺いをしたいと思います。  五島参考人は、プライマリーケアのことを重視されまして、私ももう本当にそう思っているんです。これももう全く意見が同じで、山上参考人も同じようなことを言っておられて、私も確かにそう思っておりますけれども、一つの心配は、登録制をしいた場合医療国営のようなことにつながっていかないかなという心配がちょっとあるんですが、いかがでしょうか。
  44. 五島正規

    参考人五島正規君) プライマリーケアというものを実施するとすれば、当然保健所、その他の行政との間に一定の調整関係が必要かもわかりませんが、基本的に医療という問題については、患者の皆さん方自身の努力と、それと医療スタッフとの共同作業によって実施されるべきであって、国営によって健康が獲得できるものではない。そういう意味において、山上参考人もおっしゃっていましたが、日本のそういう出来高払い制保険制度というのはそれなりに長い歴史を持っているわけで、それを今直ちに国営ないしは人頭割方式の医療の体系に変えろということでなくて、やはりプライマリーケアというものしか医療費抑制あるいは二十一世紀への国民の健康づくりというのはあり得ないという前提に立った場合、それを導入した場合その部分についての支払いの方法としては人頭払い方式しかないじゃないかということを申し上げたわけでございまして、決してそういう医療国営というふうなこと、あるいはそれにつながるような方法でということではございません。  そういう意味であえて主治医登録ということを申し上げたわけですが、むしろ主治医登録をするとすれば、やはり先生御承知のように、現在の医学教育の中でプライマリーケアというそういう概念がどこまで教育されているかという問題がございますし、ポストグラデュエートの教育問題もあると思います。そういうトータルな態勢が必要かと思いますが、あえて主治医登録というふうに主張したのは、そういう国営ではないという意味でそういうふうな表現を使わしていただきました。
  45. 高桑栄松

    高桑栄松君 よくわかりました。そういう考えなら、私もプライマリーケアというのがいかに重要か、本来これの養成をどうするか、資格をどうするのか、あるいは技術料をどう考えていくかということがあると思っておりますが、まあ時間もございますので、次に地主参考人にお伺いしたいと思います。  地主参考人も、健康教育を含めて総合的な保健対策が必要だと。私は、これはもう五人の参考人の方はもう本当に我が味方だと思って喜んで聞いておりました。ただ、地主参考人のさっきおっしゃった中で、一部負担医療費の増高のテンポ抑制のためにと言われたようにちょっと思ったんですけれども、医療費増高のテンポ抑制、つまり医療費抑制をさらに強めるということは、やっぱり一部負担をさせることによって受診抑制されるということと同じことをおっしゃっているのではないかと思いましたが、いかがでしょうか。
  46. 地主重美

    参考人(地主重美君) 私は、テンポを緩和するということで申し上げたんですけれども、しかし受診率が変わらなくてもあるいは一件当たりの医療費が変わるということもあり得るわけでございますね。受診率は全く変わらないけれども一件当たりの医療費が変わるとか、あるいは一件当たりの日数が変わるということも大いにあり得るわけでございます。  私は、十割給付というのはどういう点で問題かと申しますと、これは医療を受ける側とそれから医療を提供する側に場合によっては好ましくない影響を与えるということなんです。受ける側と申しますのは、医療というのは単に病気になったから医者に行くということではなくて、先ほど先生もおっしゃいましたように、もっと前段階でやることが非常に多いわけでありまして、そういうことが必要だということが第一と、それから十割給付になりますと、医療提供側の方は、これは悪意と私はあえて申し上げませんけれども、かなり自由に診療をする。自由な診療が悪いということを申し上げているわけじゃないんですが、もう少し医療資源について考慮を払ったような、そういう資源の使い方をするのじゃなくて、これは相手には全然負担がかからないんだからまあやっちゃえというような、そういう可能性がある。可能性があるだけじゃなくて、現に医療の乱用と言われている、いわゆる乱用と言われている中には、そういうものが決して少なくはないのではないかと考えるわけでございます。
  47. 高桑栄松

    高桑栄松君 時間があれば、ひとつ先生と真正面に取り組んで論争をしたいと思いますけれども、そうはいかないようですので、私の考えを述べさしていただきます。  私は、医師養成の責任者として三十年ぐらい教授をしてまいりました。私は医者を養成するときに、もうけるための医療を教えた覚えはありません。必要にして十分な医療をせよ、医学の成果を国民のすべてにひとしく反映させなければならない、これは所得の多い少ないとは関係がない、これが憲法第二十五条に保障された健康保障の条文だと私たちは思っております。相手が十割給付だからよけいな診療をするというような教育はしていないというふうに、私は教育者として申し上げたいと思います。まあ論争はしない方がいいと思いますが。  それではひとつ、揚げ足を取るような形になりますけれども、一割負担が致命的な打撃を与えるかとおっしゃいましたけれども、致命的というのは少しオーバーな表現ではないか。ただ、もしほかの方がおっしゃっているように、それが受診抑制したとすれば、早期発見、早期治療妨げになります。アメリカでは、一九八四年度のがん患者八十七万——予想ですよ、死亡者四十五万、うち早期発見、早期治療で十四万八千人、三分の一は死から免れると言っております。がんは、一部負担によってもし受診抑制されて手おくれであれば、先生のおっしゃる致命的なんですよね。いかがお考えでしょうか、がんを例に挙げて。
  48. 地主重美

    参考人(地主重美君) 医療問題というのはまさに、先生を前にしてこんなことを申し上げるのはなんですけれども、現在、いろいろな予防とかあるいは健康診断とかというような仕組みがございます。そういう仕組みを通して、ある人は医療機関に行かなくちゃいかぬと、こういうことになるわけでございますね。ですから、ここで私は一割が致命的かということは、それは突然に医者に行くというようなことになりますと、あるいはそういったことが皆無だとは私は申しませんけれども、そういう予防であるとか健康診断というものが十分に浸透するということになりますと、そういう問題はかなり解消するのではないか、こういうことを申し上げたいわけでございます。  しかも、私はもう一つ問題にしたいことは、では国保の場合はどうだろうかということをお伺いしたいわけでございます。あるいは被用者保険家族の場合はどうだろうか。これは放置してよろしいのかということを申し上げたいわけでございます。
  49. 高桑栄松

    高桑栄松君 どうもありがとうございました。  次に、中根参考人にお伺いいたしたいと思います。  余り重複してはいけないと思いますので、これを安定した制度とするために、この抜本改正には国民の合意が必要だとおっしゃったようだったと思うんですが、その手続は私も欠けているように思うんですね。それについての御意見を、できれば二分くらいでひとつ。
  50. 中根康二

    参考人(中根康二君) 私が申し上げたかったのは、やはり給付率本人家族、それから制度によって異なるというのを、もう早くから統一すべきだということが言われていたわけでありますから、本来であればもう少し負担ができる時点で行われてもよかったのではないかなという気がいたします。  しかし、ここまで来て、いろんな点で問題はあるとは思うんですけれども、先ほど佐々木先生の御質問にもお答えしましたように、六十年の後半というようなことではなくて、もっとうんと前へ出してきて、例えば十割で給付するのであればどのぐらいの保険料が必要だとか、九割でどうというような幾つかのケースをつくって、それの中のどれを選択するのだと。その場合、私が申し上げましたのは、高齢化社会にとってやっぱり年金も非常に大切でございますので、負担全体について考えなくてはいけない時代に来ておりますので、その中で十分検討をしたいというのが私が申し上げたかった一番大きな内容でございます。
  51. 高桑栄松

    高桑栄松君 それでは山上参考人にお伺いしたいと思います。  先ほど健康の自覚のお話がございまして、仮に病院に行って診断名がついた段階では、病気が教えられたということではないかとおっしゃったと思うんですが、それと予防のことを主張しておられまして、地主参考人が今おっしゃったことに対してとちょうど同じようなことをちょっと伺いたいと思うんですが、私は、健康管理が大事だという五人の参考人の御意見を何とか生かしたい。それには、本人は、国保を除いては全部健康管理を義務づけられているわけです。ただ、政管健保の中で、まあ名目はそうなっていてもどうかなというものがありますね。それはまあ一応そうだという認識で。しかし、国保家族はそうではないわけです。私は、予防給付というものを保険の中で見れないだろうか。その給付率は余りよくわかりませんが、今までどおりやれば家族三割ということなんでしょうが、負担がですね。そういって予防給付をした方がいいんじゃないかと思うんですが、山上参考人、いかがでしょうか。
  52. 山上賢一

    参考人(山上賢一君) 先ほど高桑先生がおっしゃった趣旨に私も実は賛同でございますが、特にこの予防医学問題につきましては、従来余り日本では議論されていなかった。どうしても今の健康保険制度というのは後ろ向きと申しますか、アフターケアだけについて重視をしておるというふうな点でございますが、先生も御指摘なさいましたように、今日、二十一世紀を迎える段階に来まして、アフターケアだけでなくて予防医学というものが非常に盛んになりまして、各職場に行きましても、職場の人たちがそれぞれいろんな健康管理室とかあるいは健康設備のセンターとか、そういうふうなものを各職場でも持っていらっしゃる。ところが、悲しいかなそういうところの人たち意見も、予防に関する給付というふうなものが実際に行われていないので非常に困っているんだというふうな話をよく聞かされるわけです。そういう点からいたしますと、私は、やはり予防給付、いわゆる保健給付の拡大ということをこの際大いに考えていただきたい。  その内容といたしましては、従来から言われておりますけれども、予防給付については少なくとも四十歳以上の国民健康保険の被保険者及び被用者保険家族を対象にいたしまして、少なくとも毎年最低一回ぐらいは健康診断を行ってほしい。そうすることによっていわゆる今日の本当の意味の健康管理、ひいては今回のこういう医療費抑制にも私は実際つながるんじゃないかというふうに考えております。したがいまして、確かに国保とか家族というふうなものを含めまして予防医学が非常に大事である、この際抜本的に見直していただきたいと、かように考えておる次第でございます。  以上でございます。
  53. 高桑栄松

    高桑栄松君 ありがとうございました。  時間が来ましたので終わります。
  54. 山中郁子

    ○山中郁子君 参考人の皆さん方には、貴重な御意見をちょうだいいたしましてありがとうございました。時間が許されれば、私は三人の方に御意見をお伺いしたいと思います。  まず初めに、桐島先生にお尋ねをしたいと思います。三点だけ、先に御質問申し上げます。  その第一は、先ほど参考人も御意見陳述の中で述べられましたが、私も、実は昨日のこの委員会の質疑におきまして、患者二割負担、まあ当分の間は一割ということではございますが、基本は二割負担の法改悪です。この医療保険制度創設以来の根本的な改定が勤労者、特に所得の低い層の方たちにより大きな生計上の打撃を与えることになるし、わかりやすく言ってしまえば、お金がなければお医者さんにもかかりにくくなると、こういうことになるわけで、そうしますと、結局受診抑制というふうに、もう既に多くの方たちから御質問や御意見も出ておりますけれども、単純に言って、最も大切な初期診療、つまり病気の早期発見や早期治療、こうしたものの機会も奪いかねないという、かなり国民の健康の根本の部分につながる本質を持っているというふうに考えておりますが、桐島参考人は、患者と日ごろ日常的にお仕事として接する開業医の方々の団体の責任者をしていらっしゃるという立場で、ぜひこの点についての御所見をお伺いしたいと思います。  二点目は、高度先端医療の特定療養費についてでありますけれども、このことも先ほど若干御意見がありましたけれども、私は、今申し上げました今回の医療費本人負担問題で、かかりにくくなるということで、お金がなければだめだという点になりますけれども、今度のこの問題も、高度な医療が結局一部を保険適用するだけで、残りは患者の自己負担自費診療というふうになりますから、この運用が結局高度医療は、これは本当に相当高い経済的な負担にたえられるという高額所得者でなければ享受されないということで、日本医療制度全体に大きな格差、差別、そういうものを持ち込むことにつながるのではないかということでありますけれども、この点についてももう一つ突っ込んだ御意見を承れれば幸いでございます。  それから三点目は、本改正案で歯科材料費、差額ベッドなどを公認するという結果になる。患者本人選択した場合となっておりますけれども、これまでは差額徴収はなるべく少なくするというのが世論でもあり、また一応行政の姿勢でもあったわけです。ところが、このように公認されていきますと、今のところは直接医療行為、医療内容にかかわる格差ではないにしても、特別のサービスが拡大されていく、そういうおそれは大いにあるというふうに思います。これは大変危惧するものでありますけれども、それは逆にそれだけにとどまらないで、医療内容にまで格差が生まれる要素ともなるであろうということは、委員会審議の中でも、衆議院での議論以来再三出されてきたところであります。  以上、三点申し上げましたけれども、桐島参考人の御所見をまずお伺いをしたいと思います。
  55. 桐島正義

    参考人桐島正義君) 医療における基本というのは、やっぱり早期発見、早期治療であるのはもう異論がないと思いますが、お尋ねの三点につきまして、難しい議論より私の経験を申し上げます。  私の周辺、関西では、私は兵庫ですが、大阪、京都ぐらいまで含めまして、開業医は皆夜間診療をやっているんです。こちらでは余りそういうことがないらしい。夕方五時か六時が来たらもうやめてしまう。関西では大概八時ごろまで今でもやっています。というのは、中小企業が非常に多くて、昼間に診療に来れないという人がたくさんおるんです。ですからそれをやらなきゃ開業医は立っていかないということもあるわけです。実際昼だけあけておって成り立つようなそんな状況じゃないですね。一般の住民の、特に政管健保人たち、それから国保の本当の零細な企業の人たちは、もう夜御飯の支度をしながら嫁さんが飛んでくるというふうなせつない状況があるわけです。だから、やはり私は早期受診、何とか金のことを考えぬでも来れる状態に、なるべく少しでもそうしていただきたいというのが現場の者の感情です。  それから、特定医療費問題、これも私小し申し上げたんですが、私自体の経験で、私は昭和二十一年に開業したのですが、二十二、三年ごろからストマイが出てまいりました。私の義理の兄が銀行の支店長をしておったんですが、結核になりました。それで、ストマイが効くということを聞いて、私にとにかく十本買えと言うんですが、その当時やみで一万円でした。ありました、実際に。その当時の一万円というのは大変で、私ももう必死になって十本買っていったんです。そして打ちましたら物すごくよく効いて、治った。治ったというか、熱がすうっと下がって喜んだんですね。そして、その十本が切れて、二週間もしたらまた熱がぐぐっとこう出だしたわけですね。それで、もう十本買ってくれって僕に言うんですが、その当時の銀行の支店長なんといったって、勤め人ですし、金は一文も持っていませんし、私は開業しておって初めの十本は買えましたが、あとまたすぐ十万円なんという金はどうにもならない。それで、どうにも買えませんと言ったんです。買えぬかと言って、私に涙を流しながら、結局物すごく熱が出まして死んでいったんです。私にはそういう経験がございます。本当に医療というものがお金で——死んでしまう人を見ているこの苦しさは、それはそういうことを経験した医者でなきゃわからないと思いますよ。  そういうことでやっぱり高度医療が、アメリカのように高度医療だけが突っ走って、金持ちはもう最高の医療をやっている。日本医療はもう全くだめだなんて言われた時代があるんですが、結構平均寿命伸びて、アメリカなんかはとても下の方におるわけですね。というのは、一般の人の医療がもう医療疎外の状況にあります。そういうことが起こらないことを願って今申し上げているわけです。  それから差額問題、このことで思い出しますのは、昭和五十年の歯科の差額問題で世間が沸いたことがあります。厚生省も大変お困りになって、これをどうするかということで非常に問題になって、すったもんだして、結局技術料で差額つけようかとかなんか言って、中医協でいろんな議論があって、武見先生の例やごっつい発言があったのを覚えております。そして、結局材料なら差額取ってもいいじゃないかということで、しかしあのときの厚生省の約束は、三年で差額は解消しようということを言っておられたんですが、一向解消せずに今日に及んでおります。あの当時歯科の先生が私のところに来まして、先生どうしよう、もう不安でたまらない。何が不安なんだ。いつ焼き討ちされるかわからぬ。あんた、そんな悪いことをしているのかと言ったら、いやちょっとと、ちょっと差額やったんやという話で、医者がそんな、焼き討ちされるかと思うような不安を抱かすような医療制度というのはこれはとんでもない話だと、私はそう思っております。  お答えになったかどうか知りませんが、私の経験で、この三つについてお答えいたします。
  56. 山中郁子

    ○山中郁子君 ありがとうございました。  それでは次に、地主参考人にお尋ねをいたします。  これは先ほどの御意見の中で、一割負担についてはいろんな理由をお挙げになりましたが、賛成であると、こういうことでございました。それで、しかしこの法律はもともと六十一年からは二割ということで、それが修正されて、時期の明定はなくなっておりますけれども、いずれにしても二割というのは法律の根幹としてあるわけですね、当面一割だけれどもと。その場合、その点についてどうお考えになるかということをちょっと第一にお尋ねをしたいわけです。先ほど佐々木委員からの御質問に対する御意見も承りましたけれども、その点でもう少しこの法案との関係で二割と一割との関係、一割についての賛成だという御意見は先ほど承ったわけなんですけれども、その点を一点お伺いをいたします。  それから、この問題と若干関係はあるんですけれども、私はやはり社会保障という問題基本的な理念というか、原理というか、というのは、公平化という問題についても低い方へ公平化するということではなくて、より水準の高い方に公平化する、これが鉄則だと思うんですよね。これはILOなんかでも今世界的に、世界の少なくない国で軍事費の増加に反比例する形で社会福祉の経費が削られているということは憂慮すべきことでもあるし、それに対する批判も出ているという事態のもとで、私は公平化ということはだれも異存のないことであると思うんですが、昨日もそうした点で私も厚生大臣にいろいろお伺いしたんですが、それはやはり十分な方に公平化していく、これならだれも異存のないところであって、やはり基本はそういうところに立つべきではないか。社会保障の原理からいって、論理からいって、そうあるべきではないかというふうに考えるんですが、地主参考人の御専門の立場ということもお伺いしましたので、その点についてお尋ねをしたい。  それから三点目は、一割の負担が、例えば国保の七割とか、あるいは被用者の家族の八割とか七割とか、そういうこととの関連で負担できないものではないしという、公平という面からいってもそれは必要であろうという御所見だったと承りました。ただ、私はやはり、例えば被用者保険の場合を考えてみますと、いろんな家族構成があると思いますけれども、国保との関係もありますけれども、被用者保険本人の場合を考えてみますと、家族はやはり八割とか七割、入院、外来その負担があるわけですね、実際にね。その上に今回の法改正によって世帯主である被用者本人が一割の負担を強いられる。先行きは二割ということがこの法律の骨子になっていて、これは政府はどうしても譲らぬと、こういう立場をとっているわけですけれども、したがってこれは公平という問題じゃなくて、やはり負担がそこで加重されるという問題はどういうふうにおとらえになるのかということをお尋ねをいたします。  それから、続けてもう一点だけ山上参考人に御意見をお伺いをしたいのでありますけれども、それは、先ほど御意見の開陳の中で、財政抑制政策というふうなとらえ方をされて若干論じておられたというふうに承りました。私は、これも委員会の中でも随分議論になっているんですが、結局国庫負担の削減、それからあるいは臨調答申に基づくゼロシーリング、マイナスシーリング、要するに財政抑制、そういうことから出発をしているこの法案の本質というものはどうしても基本的に大きな問題だというふうに考えているわけですけれども、この臨調答申との関連ですね、いわゆる財政抑制政策との関連で参考人の御意見を承れれば幸いでございます。
  57. 地主重美

    参考人(地主重美君) それでは、まず第一点でございますが、厚生省のビジョンの中では将来八割給付にするということですが、私先ほども申し上げましたように、これにはおのずからステップがあるということだと思うんです。つまり、一割の自己負担をやったことによってどういう影響があらわれてきているかということを綿密に検討しなければならない。その上で一割負担がいいのか、あるいは二割がいいのか、あるいは一・五割がいいのか、あるいは十割給付がいいのかということが当然出てくると思うんです。ですから、そういうステップを踏むことが必要であって、ですから今から二割を将来の政策の方向として約束するということについては必ずしも賛成ができないわけであります。そういう経験を踏まえた上で次のステップに移るべきだということでございます。これが第一点でございます。  それから、第二の公平の問題でございますが、なるほど全部十割にすればこれも公平ではあるわけであります。ただ、ここで問題になりますことは、御承知のように、社会保障という事柄は医療保障に限らないわけであって、年金あり失業ありということで、そういう費用全体を考えていきませんと、過大な負担のために社会保障の基盤が崩れてしまうということでは元も子もないわけであります。社会保障というのはいずれにしても保険料でやっていくか、あるいは国庫負担でやっていくか、あるいはある程度の自己負担でやっていくか、財布は一つなわけでありますから、その一つの財布からどういう形で出していくかということを十分に考えなければならない。そういうことをつらつら考えてみますと、例えば年金について見ますと、年金の負担というのはこれから大変多くなるということは、これはもう既に西ヨーロッパの経験からも明らかでございます。幸いにして日本では総体的に失業率が低いわけですけれども、そういう問題もやっぱり可能性としては考えなくちゃいかぬ、こういうことでありますし、同時にまた、政府はこれから高齢者の雇用についてもいろいろ手をつけていかなければなりませんでしょう。そういったところにも支出をしていくということも考えなければなりません。そういうことを考えてみますと、社会保障というのは最低保障というのを原則にしたわけですけれども、実は社会保障のあるものについては一体これが最低保障であろうかというふうに疑問を持たれる向きもあるわけであります。  例えば、私は年金についてその点では多少、まあ以前からそういう意見を述べておったんですが、年金保険が一体これ最低保障がということについて多少疑問を持っておったわけですが、そういうことを考えますと、あるいは費用がどのぐらいになるかということを十分考慮していきませんと、社会保障制度そのものが崩壊してしまいはしないかということを危惧するわけであります。ですから、一体十割給付にしたときにどのくらいの負担になるかということについて十分な検討が必要でございます。私は、これは私が自分で計算したわけではありませんし、また、全部十割給付にしたときにどういう状況が起こるかということをにわかにお答えできるだけのものを用意しておりませんですけれども、これはかなりの負担になるだろう。ですからこそ西ヨーロッパ諸国では、あれやこれやといろいろな形で医療費抑制を図っている。その抑制の中には、例えば供給を抑制するということも含めて非常に強力な手を打っているわけでありますが、そういうことを考えますと、やはりある程度の自己負担というのは仕方がないのではないか。  ただ、自己負担という場合に、これをどの程度にするかということを考える場合には、ほかの制度との公平ということをまず第一に考えるべきだ。国民保険になってから既にもう二十数年たっているわけですから、依然として給付率の格差というのはこれはもうあたかも当然であるかのごとく考えており、今のように被用者の本人を一割負担にすると、これはえらいことになったということで反論が出るわけですけれども、しかし、じゃ国保の方はどうするんだという、そこにどうして考えが及ばないのかということをむしろ私非常に不思議に思っているわけであります。先生がおっしゃったのは、全部十割にしてもよいということですが、やはり費用の規模ということを考えますと、その可能性について非常に私は疑わしいと思うわけであります。  それから第三の国保との比較のことですが、国保というのは御承知のように、かつては国保というのは自営業者だというふうに言われたわけですが、現在は三割以上が小規模の五人未満事業所のこれはサラリーマンであります。一番ひどい立場にあるわけですが、そういう立場の人に対しても三割の負担をさしているわけですね。それがよいというのじゃない、その状況を我々はまず考えなければならない。そういうところからまず手をつけるべきだということを申し上げたいわけでございます。  以上でございます。
  58. 山上賢一

    参考人(山上賢一君) 先ほど山中先生から御指摘がございましたのですが、私が先ほど申しましたのは、この医療費の増大の抑制策といたしまして、いわゆる臨調の第一次答申で医療費の適正化の一つとして薬価の改定が取り上げられたということを申し上げましたのですが、それによりまして確かに開業医の方たち、非常に打撃を受けたというふうなことは聞いておるんですが、要するに問題は、診療報酬と薬価の改定が進むという中で、どちらかといいますと、そういう中で私が危惧いたしますのは、差額ベッド料とか、あるいは付添看護料とか、そういう保険外の負担というものが拡大するのではないか。そういうことによって医療機関を通じたいわゆる本当の意味医療がなされるべきものが医療のゆがみが出てくるのではないか。  具体的に申しますと、医師の技術料の評価とかいうふうなことが余りなされなくて、そういう誤った方向に進む可能性がある。したがって、医療保険制度そのものは、御承知のように、効率面といわゆる分配面においてはプラスの効果が非常に増大をする機能を持っております。しかしながら、非効率というマイナスの効果も招く、そういう機能を兼ね備えておるわけでございますので、私はここで特に申し上げたいのは、制度的な歯どめを考えるべきで、やはり抜本的に制度のメカニズムを確立していかなくちゃならぬのじゃないかと、こういうふうに申し上げたわけでございます。  以上でございます。
  59. 柄谷道一

    柄谷道一君 最初に、地主参考人にお伺いいたします。  先生は、いろいろ論拠を挙げまして一割負担はやむを得ない、妥当であると、こういう御陳述をされたわけでございますが、これは相当意見のあるところでございますが、仮に先生の説に従うとしても、今我々の審議しております法案は、一割負担は激変緩和措置であり、時限的なものであり、本則は八割給付という建前に立っているわけでございます。  そこで私は、先生の説をとるとしても、先生も指摘されましたように、本格的な給付率は一体どうあるべきかという問題については、例えば一割負担を導入することによる受診率の変化、これが保険財政及び医療費に及ぼす影響、さらには、例えば前提諸条件の改善整備がどのように進んでいくか、これと医療費との関連、保険負担の軽減がどの程度の実を上げるかという問題審議会の、入院には厚く、外来にはある程度の負担をというこの答申との兼ね合い、さらには国保との統合に当たっては一体負担の均衡をどう考えるべきか、それと家庭経済への影響と、多くの問題を慎重審議をして、あるべき保険給付率というものは考えなければならない、それがまた常識であろうと、こう思うんですね。  そういう視点に立ちますと、先生の二人の委員の質問に対する御意見からしますと、そうした審議なくして二割負担をあらかじめ予約するという法律は問題があると、こういう先生の認識と受けとめてよろしゅうございますか。
  60. 地主重美

    参考人(地主重美君) 私、再三申し上げましたように、二割がよいかどうかというのは非常に重要な問題であります。これは被用者保険本人にとって重要な問題であるばかりでなくて、ほかの諸制度との均衡の問題を考えても重要な問題でございます。したがいまして、私はやはり、繰り返しになりますけれども、一割負担というものは一つのステップでありまして、その上でいろいろな諸条件というものを十分に慎重に検討した上で、さあ適正な給付率はどのくらいかという段階を踏むべきだと、こういうふうに考えておるわけでございます。
  61. 柄谷道一

    柄谷道一君 原案の思想とは異なるという御意見であることがわかりました。  次に、もう一つ地主先生に御質問いたしますのは、与党が三師会との話し合いで、定率負担を定額負担にすることができるという修正を衆議院で行っているわけです。これは、入院外診療のほぼ六〇%がこの定額の部類に入ると思うんですが、この措置に対する先生の率直な御意見をお伺いいたしたい。
  62. 地主重美

    参考人(地主重美君) 最初、政府の原案によりますと、たしか千五百円以下で百円という定額負担でございましたね。それが今度三段階になった。三段階になった趣旨がまるで私にはわからないわけであります。しかも、医療関係者の側からそういう意見が出たということでますますわからなくなるのは、窓口がえらく大変だろうと思うんです。この計算のために大変な時間もとられるというわけであります。したがいまして、どうも今の三段階方式には余り賛成できない。ただ、厚生省が最初に出されました千五百円以下の軽費医療の点については、恐らく百円というのは、軽費医療についてさらに定率負担ということになりますと、これは第一計算も大変だしということもあろうと思うんですね。ですから、定額ですけれども、実はかえって患者の側からすると負担が軽減するということにもなるわけでありまして、そういう点から申しますと、私はむしろ最初の案の方、厚生省の最初の案の方が合理性がある、三段階方式には余り賛成できないと、こういうふうに思っております。
  63. 柄谷道一

    柄谷道一君 次に、中根参考人に御質問いたします。  私は、同盟が今回の改正、特に定率負担導入の問題について、これは我が国医療制度の根幹にかかわる問題だ、よって広範かつ慎重な審議を行なう必要があるにかかわらず、極めて限られた期間内に審議会で審議し、財政対策にとらわれてこういう提案をすることに対して反対だと、こういう御意向を持っておることは十分承知いたしております。これは仮定の問題でございますが、地主説のように、仮に一割という定率負担を導入するとすれば、家計の負担をどう軽減し、疾病に対する不安をいかに除去するかという意味で、高額療養費制度についてはただ現行金額を据え置けばいいという問題ではなくて、これは根本的な検討と同時解決というものが図られなければならないと、こう考えておりますし、同盟の御主張もまたそうであろうと思うのでございます。  そこで中根参考人は、御意見の中で、世帯単位、三十日単位、長期・高額医療に対する減免措置、さらに、金額そのものをさらに減額してはどうかという三つの意見を述べられたわけでございますが、もう一点お伺いしたいのは、これ、家族は従来と同じであったにしても、被保険者本人になりますと、外来の場合は、従来の八百円から最高五万一千円まで負担がふえちゃうんですね。入院一カ月の場合は、一万五千八百円が五万一千円までふえちゃう。二カ月目以降はゼロから五万一千円に、これは無限大の増額になるわけですね。私は、実態上こうした制度を導入するとすれば、思い切った激変緩和の措置というものが伴わなければ、今多くの委員から指摘された受診率への影響その他の問題が発生してくるのではなかろうかと、こう思うのでございますが、この点に対する御意見をちょうだいいたしたいと思います。
  64. 中根康二

    参考人(中根康二君) 私は、意見の中で申し上げましたように、やはり激変緩和はしていただきたいということでございまして、金額を引き下げることも必要ではないかという表現だけにとどめておりますが、舌足らずでございまして、本人が高額療養費の対象になるということはまず入院が伴うわけでございますから、そうしますと、収入も保険から給付されるのは六〇%になるわけでございますから、五万一千円以下の段階をぜひつくっていただきたいというのが私の申し上げたかったことでございます。
  65. 柄谷道一

    柄谷道一君 もう一問中根参考人にお伺いいたします。  厚生省が「今後の医療政策の基本方向」、いわゆるビジョンを発表されました。非常に残念なことでございますけれども、本案を審議する社会保険審議会には、このビジョンは並行して出されていなかったわけですね。しかも、その内容を見ますと、「給付負担の見直し」という項目だけは時限が入っております。あとの項目は論文だけでございます。しかも、昭和四十六年に制度審と社会保険審議会が答申を出しております。きょう多くの参考人が述べられました健康管理体制の体系化、特に包括医療の実現、さらに医療供給体制、これは保健医といいますか、家庭医といいますか、主治医というか、表現は別にして、そういう問題を含めた体系整備の問題、さらには公費負担医療保険医療の役割分担の明確化、さらに診療報酬の適正化や医薬制度の改革問題、さらに医療費支払い制度と審査の是正の問題、さらには被用者保険における経営管理単位の見直しの問題、きょう参考人の言われた大部分意見はもう十三年前に審議会が答申しているんですね。この学者、医療担当者保険者、被保険者全会一致の答申が、この十三年間ほとんど見るべき改善もなくして今日に至っております。  参考人の貴重な御意見を承ったのでございますけれども、私は、この長期構想とこれを実現するための年次計画、これを審議会が十分検討して、行政当局がそれに伴って前提諸条件を改革するという担保がない限り、論文はあくまでも論文に終わってしまうのではないかという危惧を持つものでございますが、参考人はいかがでございましょうか。
  66. 中根康二

    参考人(中根康二君) 先ほど佐々木先生の御質問にもお答えしましたように、厚生省の将来展望が審議会の段階には出されなかったのは事実でございまして、実は私は社会保険審議会の委員もいたしておりますが、既にその段階で出されるべきではないかということを強く主張したわけでありますが、残念なことに示されなかったというのが実情でございます。  柄谷先生おっしゃいますように、予防を含め、いろんな問題については既に従来から着手すべきだということを長年言われてきておる問題でございますので、社会保険審議会が開かれるたびごとに必ずその問題が最終的に意見等でついているわけでありますから、私どもといたしましては、これを契機にできるだけ早くそのスケジュールを明らかにして着実に前進していただきたいというふうに思う次第でございます。
  67. 柄谷道一

    柄谷道一君 山上参考人にお伺いいたします。  さきの委員も別な視点から触れられたわけですが、特定承認保険医療機関問題でございます。これは運用を誤りますと自由診療の拡大、保険診療の後退というゆゆしき問題を招きかねませんし、かつ、医療機関をランクづけるわけですね。果たしてそのランクづけというのが公正かつ適正に行われるかどうか。さらに、指定された病院、診療機関以外でこれから高度医療、先端医療を目指そうという医療機関努力に水をさす結果になるなど、この制度の導入につきましては、よほど慎重な検討というものが必要ではないかとこう思うのでございますが、山上先生は高知県における医科大学でございますので、こういう医療機関に指定される可能性は高いと思うんですが、全般を展望されまして、この制度に対する御所見をお伺いいたします。
  68. 山上賢一

    参考人(山上賢一君) 柄谷先生おっしゃっておられますように、実は私先ほど申しましたのは、無論このホームドクター制度とかいうふうなものにつきましては、自由診療の中で従来我々が子供のときにございました近所のかかりつけのお医者さんと申しますか、そういうふうな、ランク付というよりも、非常に老練な、例えば代々お医者さんをやっていらっしゃるとかいうふうな、地域社会で非常に信頼されておる先生方がおられるわけでございますので、そういう先端技術をつかさどっておる大学とか大学病院というのが必ずしも優位だとかいうふうなことではなくて、私が申しましたのは、地域社会と密接したそういうホームドクター制度と申しますか、それが日本出来高払い制度とドッキングして、いわゆるプライマリーケアをもう少し進めてホームドクター制度というふうなものにすれば、お医者さんの生活の安定もできるし、そしてまた、地域の住民とのかかわり合いもより一層信頼度があるし、その医師の技術と申しますか、どうしても手に負えない場合は、そういう総合的な機能を持つ大学病院に紹介をしてお願いすると、そういうシステムであれば、別にどちらが優位とかどうとかいうことじゃなくて、一体となってこれからの総合医療というふうな形で考えていけばいいのではないかと、こういうふうな視点から申し上げておるわけでございまして、私の住んでおります高知医科大学も、県の医師会とかそういうものが非常にバックアップいたしまして、そういう非常に地域と密接したそういうあり方を踏まえて医療を現にやっておりますので、そういう点は、私の今のささやかな経験では、そう危惧することもないのではないか、かように思っております。
  69. 柄谷道一

    柄谷道一君 最後に、五島参考人にお伺いいたします。  私は、高桑委員が指摘いたしましたように、医学教育に携わっておられる先生方が、医の倫理確立に対して非常に御努力を願っておるということも十分承知をいたしておりますし、多くの医師の方が国民の健康と生命を守るために献身的に御努力を願っておる事実も知っております。ただ、すべてがそうかといいますと、新聞に数多くの不祥事件が報道されましたり、過剰診療、不正請求、脱税問題、これが指摘される。私は、そのことが、本来医療医師患者信頼関係の上に成り立つべきものを、著しくゆがめておることもまた事実であろうと思うんです。もちろんこれは、自浄能力の強化ということが必要でございますが、並行して、不正防止の対策がやはり欠かせない、こう思うのでございますが、先生の御所見をお伺いいたしまして質問を終わります。
  70. 五島正規

    参考人五島正規君) おっしゃるとおり、医療という問題は、医師患者、あるいは医師住民との信頼関係の上において十分な成果が得られるものであろうというふうに考えています。その中において、御指摘のような一部のそういう問題医療機関というものが現に存在していることもまた事実であります。問題は、そういうふうな状況に対してどうチェックするかということについては、医療問題以外にいろんな機構においてチェックされるべきものもあると思いますが、もう一つ大事なことは、患者ないしは地域の住民自身によってそういうふうな医療機関をいかに見抜いていくかどうか。そして、そういう医療機関患者自身選択によって淘汰されていくというふうな機構がまた一つはどうしても必要であるだろうというふうに考えられます。例えば現在、患者さんにとって、よくよい医療と言われているわけですが、よい医療と言った場合、何をもってよい医療と言っているのか、いま一つ不明確なものが非常にあります。例えば安く上がる医療がいいのかどうか。先ほど来のお話の中にもありますが、例えば労働者の方がたまたま感冒症状を持ってこられた。診査したところ、どうも肝臓もはれているようだ、あるいは非常に貧血もありそうだといった場合、その患者の要求は、感冒で熱があり今働けない、何とか救急にその処置をとってほしいという希望であるだろうけれども、しかし、そこに明らかにその他の非常に重篤な疾病が疑われる場合、それについて検査し診断し、そして指導していくのは医師として当然です。しかし、そういうふうなことが受け入れられる患者さんと、そういうことを受け入れたくない、やはり日常の生活の中において、とりあえず熱だけ下げてくれればいい。まして今回のように十割給付が九割給付になってくれば、そういうコストのかかる医療は要らない、そういうふうな医療というものをされることは迷惑だという、そういう患者さんもやはり現実に出てまいります。その場合、一体どういう医者がいい医者なのか。非常に患者さんによって選択内容が変わってくる。そういう意味では、どういうふうな医療機関を選ぶかという問題制度的に明らかにするためにも主治医制度というふうな、いわゆる患者自身の代理人として、また、患者が日常的に健康問題について相談できる、そういう医師制度的に明らかにし、そういうふうなプライマリーな活動に対しては十割給付というところで保障する中で、その他のもろもろの先ほど来御討議なされている、また御意見の出されている問題が処理されないと、自浄作用といっても、その自浄作用というものの内容が非常に明確でないような気がします。  今先生がおっしゃいましたように、単に脱税の問題であるとか、それから明らかに不必要な、あるいは患者にとって被害を及ぼすような治療を行ったというふうな問題、そういうふうな問題は、私は何も医療の中の自浄作用と言わなくても、日本は法治国家でございますし、いろいろな手段でもってそれは明らかにしていけばいい。大事なことは、住民患者さんの健康を確保するというふうなことをどう制度的に保障するかという問題が大事なのではないだろうかというふうに考えます。
  71. 下村泰

    ○下村泰君 先ほどからのお話を伺っておりまして、人間というものはいかに健康というものを維持することが大変であるか。また、病を得た場合にはどうせねばならないかということがつくづく感ぜられました。大変ありがたい御意見がたくさん出てきまして、私にとりましては、私は何の因果か大変丈夫過ぎまして病気というものに無縁な人間でございますので、余りこういったことに関して関心がなかったのですけれども、きょらはつくづく感じさせられましたことを感謝いたします。  桐島参考人と申し上げるよりは桐島先生と申し上げますが、先ほど桐島先生のお兄さんのお話が出てまいりましたが、実は私も同じような経験がございます。何となくお話を伺っていて感じたんですけれども、現代の医療制度はえらい進んでいるように感覚的には受けとめられるんですけれども、先ほどの桐島先生のお話といい、現在までの諸先生方のお話といい、何となく江戸時代をそのまま持ってきたような感じで、例えばペニシリンというのが当時の朝鮮人参であったような気がいたします。  私は端的な、非常に単純なことを伺いますけれども、例えば新聞の活字の上に、いろいろ新薬であるとかあるいは病気を治すための新しい機器が誕生したりいたします。私どもはそれを新聞の活字の上で知ります。それが実際に使われるのには一体どのくらい——つまり私の申し上げているのは、それが発表されて保険に組み込まれるまでには大体どのくらいの年月が一体がかっているんでしょうか。桐島先生御自身開業していらっしゃるんで、そういうのはおわかりだろうと思うんですが、いかがでございましょうか。例えばペニシリンを例にとるとか、あるいはそれ以後の新薬が発表されてそれが保険に組み込まれるようになるにはどのぐらいかかるんでしょうか。
  72. 桐島正義

    参考人桐島正義君) 薬事法にかかわることは私は余り詳しく存じません。しかし、私自身の経験で、私、膀胱がんを六年半前に思いまして、インターフェロンを使いまして非常に——局所に使いましたが、腎臓も取り膀胱も半分取って、再発してきてもうだめと思っておりましたところが、インターフェロンを使ってみないかという岸田教授からのあれで、局所に使いましたら、三回目の入院のときに再発していた潰瘍がばたっと治って、それから急にこんなに元気になってまいりました。これはもう驚くべきもので、これはレポートになって出ておるんです。私は、インターフェロンについてはよく知っております。その当時のインターフェロンといったらもう人の血から、日赤の血液センターで採血した後の白血球から一生懸命つくってもらって、それをありがたく使ったんです。私に使うについてはもう仲間五十人ほどが血液を提供する約束をしておいて行ったんですけれども、そんなことせぬでもいいということでしたが、非常に仲間に救われたんです。  このごろはそれがバイオテクノロジーで、どんどん進歩してまいりまして、今アルファ、ベータ、ガンマの形が出て、岸田先生にこの前の土曜日に会いましたら、薬事審議会にもうかかっておる、しかし、これ、どう使ったらいいんだろうということで、こんなもの健康保険適用されずに発売になったら大変なことにならぬかしらというふうな御心配もなすっていたんです。普及していくのはいいんだけれども、開発してきた学者だから普及してほしいけれども、これもう大変なことにならぬか、どうすればいいんだろうと。発見されて二十年ほどになるものですけれども、これは一時がんの特効薬と言われたんですけれども、そんなこともございませんけれども、特効薬ではないんですけれども相当効くと思います。  ドイツでは今、健康保険がん患者の帯状疱疹にだけ使えというようなことなんですが、それよりも予防に使ってもらったらあんないい薬はないんです。ソ連の人は皆、鼻薬にちょっちょっと入れて、それで流感を防いでおる。ソ連は売っておるんです、もう六年前ぐらいから。大変効くんです。だから、そういう効き方をどういうふうにしたらいいのか。  先生へのお答えになるかどうかわかりませんけれども、やっぱり薬事審議会にかかるというのは相当なデータがそろったからそうなっておるんだとは思いますけれども、さて保険に使われるのか使えないのか、僕は使ってほしいけれども、使い方は相当難しいなと。そう一概に言えないことがたくさんあると思います。  お答えになりませんけれども、実際の経験を申し上げました。
  73. 下村泰

    ○下村泰君 ありがとうございました。大変参考になりました。  山上先生の方は、直接大学病院の方に携わっていらっしゃるんだとお見受けしますけれども、今のと同じ質問なんですけれども、どうなんでしょうか。
  74. 山上賢一

    参考人(山上賢一君) 実は、私もそちらの方に実際の面で立ち会っておりませんので、ちょっと詳しいことはわかりませんのですが。
  75. 下村泰

    ○下村泰君 そうしますと、今の桐島先生お答えくださった内容から考えましても、これから先そういった新しいお薬あるいは新しい機器が出てきましても、これはやはり先ほどの柄谷先生のおっしゃった最先端技術を有している大学、特定の場所でしか使ってもらえない、あるいは機器を使うことができないということになりますると、いずれにしても貧しき者は永久にそういった恩恵にあずかることができないというような感じになるんですけれども、例えばたくさんの組合を抱えていらっしゃる中根参考人はどういうふうにお感じでございましょう。
  76. 中根康二

    参考人(中根康二君) 私も余り医学のことは専門ではありませんので、感じだけで申し上げるならば、やはりできるだけ早くそういった先端技術保険適用していただいて、治るものであれば治りたいという私どもの意欲は変わりませんので、手続等いろいろあると思うんですが、実際に先生おっしゃいますように、新聞だとかその他のもので紹介されてから仲間が使うというまでにはかなりな時間的なずれがありますので、その時間は極力縮めていただきたいなという希望を持っております。
  77. 下村泰

    ○下村泰君 ありがとうございました。
  78. 石本茂

    委員長石本茂君) 以上で、本日御出席をいただきました参考人に対する質疑は終わりました。  参考人方々に一言お礼を申し上げます。  本日は、長時間にわたりまして貴重な御意見をお述べいただきましてまことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  以上をもちまして、本日の審議を終わります。  これにて散会いたします。    午後四時二十七分散会      —————・—————