○
政府委員(小林
功典君) 厚生省の総
務審議官でございます。
最近特に
高齢化問題というものが各方面から重要な社会的
課題として提起をされております。特にその中でも厚生行政あるいは
社会保障の分野に対する
高齢化問題の影響というのは非常に大きいものがございまして、これから先
社会保障を考えます場合には、どうしてもこの
高齢化問題をよくよく吟味して
対応していかないといけないと、こういう認識を我々は持っておるわけでございます。そこで、先生方もう十分御承知のことが多いと思いますけれ
ども、そういった意味で、最初に
高齢化の
状況といったものを
資料をもとにして簡単に触れてみたいと思います。
お
手元の
資料の一ページでございますが、まず
人口の
高齢化の背景と申しますか、
我が国の
人口高齢化がなぜ進んでいくのかというところからお話を始めたいと思います。
この最初の方に書いてありますように、「
人口高齢化の背景」と申しますのは、
一つは「
平均寿命の伸長」でございます。もう
一つは「出生率の低下」、これが両々相まって
人口の
高齢化をもたらしている。これがいわば結論でございます。
そこで、①のところの図を見ていただきますと、終戦直後の
昭和二十二年には、
我が国の
人口の
平均寿命は男が五十・〇六歳、女が五十三・九六歳と、これが年々延びてまいりまして、五十七年度を見ますと男が七十四・二二歳、女が七十九・六六歳と、ここまで延びてきているわけであります。これはいろいろ原因がありますけれ
ども、医学医術の進歩あるいは公衆衛生の充実あるいは食
生活面での改善、さらには医療保険
制度の
整備といったものもこれに影響していると思いますが、いろいろな要素で
平均寿命が延びてまいりまして、それで終戦直後にはいわば人生五十年でございましたのが今や人生八十年と、いわゆる人生八十年型社会になっておると、こういうことが言えると思います。
それから、
人口高齢化のもう
一つの要素でありますが、出生率の低下でありまして、左下の棒グラフを見ていただきますと、
昭和二十二年には出生率は二百六十七万九千人でありましたのが、五十七年には百五十一万五千人というところまで減ってきております。
それから、右の下の棒線グラフでございますが、これは合計特殊出生率と申しまして、一人の
女子が一生の間に産むと推計される
平均子供数でございます。これを見ますと、
昭和二十二年には四・五四人だったのがだんだん落ちてまいりまして、五十七年にはちょっと持ち直しておりますけれ
ども、それでも一・七七人というところまでこの合計特殊出生率が下がってきているということでありまして、これをあわせて考えますと、いわゆる少産少死型、少なく産んで少なく死ぬと、少産少死型の社会になっていると、これが
人口高齢化の背景でございます。
それから二ページへまいりまして、それでは
人口の
高齢化がどの
程度進んでいるかということでございます。
そこで、まず上の表でございますが、六十五歳以上の
人口、これは絶対数でありますが、
昭和四十年をごらんいただきますと六百二十四万人となっています。だんだんふえまして五十五年には千六十五万人、それから
昭和七十五年には千九百九十四万人というようになりまして、そこからさらにどんどんまた
増加していく、こういう傾向にございます。
そこで、老齢化あるいは
高齢化を示す指標と申しますか、メルクマールとして使われますのに、
一つはこの右から二番目の欄に挙げてあります六十五歳以上
人口の総
人口に対する割合といいますか比率、これがよく使われます。これで見ますと、ちょうど今現在五十五年に近いわけですが、五十五年にまいりますと九・一%であります。五十八年度はここにありませんけれ
ども、五十八年度には既に九・八%まで上がってきております。それが年々上がりまして、二十一世紀へ入る
昭和七十五年になりますと一五・六%になります。それからさらに一八・八と上がりまして、
昭和九十五年に大体ピークの二一・八%まで上がっていくということでございます。
それから、
高齢化を示すもう
一つの指標でありますが、一番右の欄でございます。二十歳から六十四歳までの
人口、これはいわば働き手であります。これを六十五歳以上の
人口、つまり老人の
人口ですが、これで割ったもの。この意味は、要するに働き手何人でお年寄り一人を抱えるか、こういう
数字であります。つまり数の少ない方が
高齢化が進んでいる、こういうことになるわけでありますが、ごらんいただきますと、
昭和四十年だと九・
一つまり九・一人で一人の御老人を抱えると。こういうのがだんだん落ちてまいりまして、二十一世紀へ入ります
昭和七十五年をごらんいただきますと三・九人、それから八十五年には三・〇と、つまり二十一世紀に入りますと若手の働き手が四人で一人のお年寄りを抱える、さらには三人で一人抱えなきゃならぬ、こういうことになっていくということを示しておるわけでございます。
しからば、西欧の諸国はどうだろうかというのが次の表でございます。下の方の表でございます。これをごらんいただきますと、右から二番目の六十五歳以上
人口の総
人口に対する比率、これをごらんいただきますと、アメリカはちょっと低いんですが、イギリス、西ドイツ、フランスあたりをごらんいただきますと、大体一四、五%でございます。スウェーデンはちょっと高くて一六・穴となっておりますが、大体一四、正あるいは一六というあたりであります。これに対しまして
日本は九・三%。これは
昭和五十六年現在の
数字でありますが、九・三。ヨーロッパに比べるとまだ
日本はそれが低いということであります。
同じように、その一番右の欄の二十歳から六十四歳
人口を六十五歳
人口で割った
数字、これもイギリス、西ドイツ、フランスは大体四人でございます。スウェーデンはちょっと低くて三・五人ということですが、
日本はまだ六・五という
数字になっております。つまり、言えることは、まだまだ
日本は、
高齢化、
高齢化と申しますけれ
ども、現段階では本格的な
高齢化社会にはまだ至っていないということが言えるわけであります。
ただ問題は、後で申しますように、これから先確実に、しかも非常に急速に
高齢化が進んでいく、そこが問題だということでございまして、理段階だけをとりますと、西欧に比べますと
日本は
高齢化がまだ低いということでございます。ちなみに上の表と比べ合わしていただきますとわかりますが、上の表で、
先ほど申しましたように、
昭和七十五年に一五・六になると申しました。これがちょうど西欧の現在の
数字と似ています、大体一五、六%ですから。ですから、まだもう十五年ないし二十年たってようやく西欧諸国の水準に達すると、こういうことであります。ただ、今申しましたように、これから先の
高齢化が非常に確実に進みますし、しかもそれが急ピッチで進むということがございますんで、今のうちからこれに
対応する物の
考え方とかあるいは
制度の仕組みを考えておかないと、将来大変な問題になると、こういうことが言えるわけでございます。
それから、三ページへまいりまして、
日本の
人口高齢化の
特徴をここに挙げておきました。今ちょっとお話に出ましたが、
特徴の一番大きなものは世界に類を見ないスピードで
高齢化が進むということでございます。
上の表をごらんいただきますと、六十五歳以上
人口比率が七%になってから一四%になったときまでのかかった年数を示した表でございます。〔注〕の1にありますように、国連によりますと、六十五歳以上
人口比率が七%以上の場合に
高齢化した社会というふうに分類されておるんですが、その七%になったときからその倍の一四%になったときまでのかかった所要年数、これを一番右の欄に掲げてございます。アメリカ、イギリス、西ドイツ、フランス、スウェーデン見ていただきますと、七十五年、四十五年、四十五年、百十五年、八十五年という期間がかかってます。ところがこれに対しまして、
日本は驚くべきことに、たった二十六年間で七%から一四%になると。非常に大変急速に
高齢化が進むということがこれでおわかりいただけると思います。これが
日本の
高齢化の
特徴でございます。
それから、どこまで
高齢化が進むかというのを示したのが下の表でございまして、先にアメリカ、イギリス、西ドイツ、フランス、スウェーデン、この下の方を見ていただきますと、それの実績(再掲)と書いた欄と、将来推計二〇〇〇年のところを比べていただきますと非常によくわかります。アメリカで言いますと一一・四から一一・三、イギリスは一四・九から一五・三、西ドイツは一五・五から一五・四と、非常に安定しております。つまり、
高齢化がもう相当進んじゃっております。ただ、二〇二五年になりますとややこれが上がりますけれ
ども、少なくとも二〇〇〇年までを比べますと非常に安定しております。
それに対しまして
日本を見ていただきますと・一九八一年には九・三%が二〇〇〇年には一五・六になると。これが
日本の
高齢化の
特徴であります。それがさらに二〇二五年になりますと二一・三%ということで、世界最高の高齢国になる。これが予想されているわけであります。
そういうことでありますから、よほど周到な準備をしてこれに適応する工夫をしておかないと、社会
経済にもひずみが当然出てまいりますし、それから公的ないろいろな
制度についてもそれをしておきませんと、その存立そのものが危くなるといった危惧もあるわけでありまして、ここら辺が私
どものこれからの
課題であるというふうに認識をしているわけでございます。
それから、四ページへまいりまして、こういう
高齢化を反映しまして
社会保障給付費が非常に
伸びているということでございます。
そこで、表をごらんいただきますと、
社会保障給付費を医療、年金、その他別に分類いたしまして、三十五年度から五十六年度までの年次推移を示しております。一番下の計の欄をごらんいただきますと、
昭和三十五年度の計は
社会保障給付費全体で六千五百五十三億、対国民所得比で四・九%でございました。これが五十六年度になりますと、実に給付費で二十七兆三千五百七十八億円、対国民所得比で一二・四七%に急増しているわけでございます。特にこの中でも年金の
伸びが非常に目立ちます。年金の欄の四十年を見ていただきますと三千五百八億円、これが五十六年には十一兆七千五百十九億円、これが非常に顕著に
伸びているわけでございます。
そこで、この表をごらんいただくにつきましてちょっと注目をしていただきたいのは、三十五年と四十年の間、大分
伸びておりますけれ
ども、ここには例の国民皆保険が
昭和三十六年に
達成されております。それがこの三十五年と四十年の間に入っております。したがいまして、医療で見ていただきますと、三十五年は国民所得比で二・二であったのが四十年には三・四というふうに
伸びている。それは皆保険の影響が非常に大きいわけであります。
もう
一つのポイントは、四十五年と五十年の間に、四十八年の保険年金
制度の大改正が入っております。医療保険で申しますと、健康保険の家族をそれまで五割であったのを七割給付に引き上げておりますし、それから高額療養費
制度というものを新たにつくりましたりしております。それから年金につきましては、年金水準を四十八年に大幅に引き上げておりますし、それから物価スライド制というのを初めてここで導入したということで、福祉
関係では非常な大改善を図ったのは四十八年でございますが、それがこの四十五年と五十年の間に挟まっているということでございまして、その影響で一番下の欄の対国民所得比で見ますと、四十五年が五・七九であったのが五十年には九・四八というふうに急増をしているわけでございます。
それから次のページへ行っていただきまして、五ページでございますが、「
社会保障給付費の
国際比較」を示しております。
上の左の表をごらんいただきますと、イギリス、西ドイツ、フランス、スウェーデン、ここら辺を見ていただきますと、大体
社会保障給付費の対国民所得比は二〇ないし四〇%でございます、アメリカはちょっと低いですが。それに対して
日本は一三・五ということで、欧米諸国に比べますとかなり低い水準にございます。
ところが、これには二つほど理由がございます。現段階では確かに
日本は西欧諸国に比べますと、
社会保障給付費の対国民所得比は低いわけでありますが、その理由がございまして、右の方の表にありますように、
先ほどちょっと触れました六十五歳以上
人口の比率が、
日本の場合には現段階ではまだ西欧諸国に比べて低いというのが
一つでございます。
もう
一つの理由は、年金の成熟度が欧米に比べて
日本の場合はまだ低い。この年金成熟度というのは、〔注〕にありますように、老齢年金受給者の加入者に対する割合であります。つまり、今、年金に入っておる加入者、若手の加入者が年金をもらう御老人を抱えるその率と考えていただけばいいですが、それが高いほど成熟化が高いわけでありますが、これをごらんいただきますと、西ドイツ、フランス、スウェーデンあたり見ますと大体三割でございます。これに対して
日本は一四・六でありますから半分ということであります。ですから、
人口の
高齢化の度合いと年金成熟度が低いということで、現在だけを考えますと、
社会保障給付費の対国民所得比は
日本の場合はまだまだ低いということが言えます。
そこで次に、「
社会保障給付費の
増加する
要因」でございます。なぜこんなに給付費がふえていくのかということでございます。年金と医療に分けて御
説明を申し上げます。
まず、年金でございますが、ここにありますように、
人口の
高齢化と
制度の成熟化による受給者の増、それから加入期間の
伸び、この二つの要素に伴いまして年金給付費が
増加すると、こういうことが言えます。
まず、
公的年金給付費はどういうふうに動いているかというのが下の表に示してございます。四十年度に給付費は千五百六億円でありましたのが、五十八年度では十一兆六千五百五十七億円に
伸びております。四十年を一〇〇としますと、五十八年は七七四〇でありますから、この十八年間で七十七倍にふえたと、こういうことになるわけであります。
その理由が次に述べてあります。
一つは、
先ほども申し上げましたが、受給者がふえるという要素がこの給付費の増に非常に大きく影響しております。一番上の表をごらんいただきますと、
昭和四十年に老齢年金の受給権者数が四十七万八千人でございました。これが五十七年には九百九十一万二千人にふえております。下に対前年度の
増加数を書いてあります。ここ数年ごらんいただきますと、大体七十万人前後がこの
人口の
高齢化と年金
制度の成熟化によって年々ふえていくという傾向にございます。
なお、これは老齢年金だけでございますので、このほかに遺族年金とか障害年金とかございますので、受給者全体としましては百万ぐらいになるわけでありますが、老齢年金だけをとっても約七十万人ぐらいずつ毎年ふえている。これが給付費を伸ばす
一つの
要因でございます。
それからもう
一つの
要因は、加入期間が
伸びるという点であります。②であります。
平均加入期間の年次推移をとったのは真ん中の表でありまして、四十四年から八十年まで書いてありますが、
昭和四十四年時代には大体
平均加入期間は二十四年で年金をもらうということであったわけですが、これは年々
伸びてまいりまして、直近の五十五年には三十年が
平均になっております。これがさらにどんどん
伸びまして、将来、
昭和八十年ぐらいになりますと四十年ぐらい加入するのが
平均になると、こういうことでございます。
年金は、御案内のように、加入期間が
伸びますと、それに応じて支給する年金額がふえます。つまり単価が上がってくるわけであります。ですから、加入期間がどんどん
伸びていくに従って支給単価がふえ、したがって給付費も
伸びると、こういう
関係になるわけですから、上の表の受給者の増と加入期間の
伸びが両々相まって給付費を伸ばしてくる
要因になるわけでございます。
以上が年金であります。
次が「医療保険」でございますが、
人口の
高齢化、医学医術の進歩等によって医療費は
増加する傾向にございます。
医療費がどれくらい
伸びているかというのは下の表でございますが、国民医療費総額で
昭和四十年が一兆一千二百二十四億でありましたのが、五十八年には十四兆五千百億と、このところ大体年々約一兆円ずつふえております。対国民所得比で見ますと、四十年が四・二二であったのが五十八年には六・五一というふうにふえております。こういう
増加を医療費は示すわけでありますが、その原因は次に書いてあります。
その前に、七ページの一番上の線グラフを見ていただきますと、一番上が国民医療費であります。賃金、国民所得、消費者物価というのが並んでいますが、この中で一番国民医療費の
伸びが著しいわけであります。最高の
伸びであります。
ここで注意しなきゃなりませんのは、この国民医療費が国民所得を超えて
伸びているという点でございます。つまり、医療費が
伸びましても国民所得並みであればその負担感というのはそれほどでもないということが言えると思うのでありますが、国民所得以上に医療費が
伸びますと、その負担をどうするか。国民医療費と国民所得との
伸び率のギャップですね、その差について、その負担をどうやって埋めるかという問題が大きな問題として浮かび上がってくるということでございます。
それから、その理由でございますが、まず一は、①にありますように
人口の
高齢化であります。真ん中の棒グラフの図を見ていただきますと、これは
年齢階級別に一人当たりの診療費を出したものであります。ゼロ歳から九歳ぐらいまで、まあ乳幼児から九歳ぐらいまでの子供さん、これはちょっとそれ以上の階層に比べて高いのですが、これを除きますと、十歳から七十歳以上までずっとこれ見ますと、きれいなカーブで上昇しております。これはつまり
年齢が上にいけばいくほど一人当たりの医療費がかかるということであります。したがって、
高齢化が進んで
年齢が上へ上へとシフトしてまいりますので、そうなると、必然的に一人当たりの診療費の単価が上がっていく。したがって、これが医療費総額の
伸びになっていくと、こういうことが言えると思います。
それから第二の理由は、「一件当たり診療費の年次推移」というのを下の表に書いてありますが、結局医学医術の進歩が非常に著しいということが言えます。まあ医薬品にいたしましても、医療機器にしましても、
技術革新は非常に目覚ましいものがありましてどんどん高度化してまいります。それがいわば
先ほど申しましたように、死亡率を低下させ、
平均寿命を延ばしたという大変な貢献をしているわけでありますが、それ自体は非常に結構なことなんですが、やっぱりそれにはコストがかかるということが言えると思います。この表でごらんいただきますと、四十年には一件当たり診療費が三千九十五円でありましたのが、五十七年には一万七千十七円ということになっています。四十年を一〇〇にいたしますと五十七年は五五〇、つまり十七年間で五・五倍に単価が上がっているということでございます。以上は給付費の
伸びとその原因でございます。
八ページはその裏腹でございますが、「
社会保障負担の
増加」のことを示しております。それでよく使われますのが、①にありますような「租税・
社会保障負担の対国民所得比」でございます。これを
国際比較してみますと、この一番右の合計の欄をごらんいただきますと、アメリカはちょっと低いんですが、イギリス、西ドイツ、フランス、これが大体五〇%を超しております。それからスウェーデンに至っては六七・八%という非常に高い率を示しております。これに対して
日本の場合には一九八四年ベースで三五・〇ということであります。ですから、まあ現段階だけで見ますと、西欧諸国に比べますと
日本はまだ負担率が低いということが言えると思います。ただこれが、将来放置しておきますと、どんどん急激にふえていくという要素はございますが、現段階だけを見ますとまだ低いということは言えます。
そこで、
日本の場合将来どの
程度の負担となるか、あるいはどの
程度の負担とすべきかという点、これなかなか難しい問題でございますが、
一つの参考としましてここに引用しておきましたのは、②にありますように、臨時行政
調査会の第三次答申にこのくだりがございます。「租税負担と
社会保障負担とを合わせた全体としての国民の負担率(対国民所得比)は、現状(三五%
程度)よりは上昇することとならざるを得ないが、徹底的な
制度改革の推進により現在のヨーロッパ諸国の水準(五〇%前後)よりはかなり低位にとどめることが必要である。」。それから同じように、五十八年八月に出ました「一九八〇年代
経済社会の
展望と指針」というところでは、やっぱり同趣旨のことが書いてあります。そこで、臨時行政
調査会ではこの点でかなり抽象的に「現在のヨーロッパ諸国の水準よりはかなり低位にとどめる」という表現をしておりまして、何%
程度という具体的な
数字は出しておりません。おりませんが、当時の
委員をされておりました瀬島龍三氏のお話を伺いますと、あくまでこれは論議の過程の話だということなんですが、論議の過程の中では四〇から四五ぐらいの
数字がいろいろ論議をされたということをおっしゃっていますので、
一つの参考になるのかなという気はいたします。ただ、いずれにしろ、まあ具体的に何%という
数字はなかなかそれを述べるのは難しかろうという気はいたします。
と申しますのは、国民負担率の将来予測をする場合にはやはりどうしても
経済動向というのを考えなきゃいかぬのですが、これがまあ非常に流動的で極めて不確実な要素が多いということ、それから
社会保障の分野だけについて見ましても、特に医療費の場合について考えますと、疾病構造がこれから先どういうふうに変わっていくんだろうかといった問題、それから薬にしろ医療機関にしろ、いわゆる医学医術の進歩というのがどの
程度進むかといった点が非常に把握しにくいというか、予測しにくいわけでございまして、そういった意味で、正確に将来どういうふうになるか、あるいはどうすべきかというのを具体的に示すのはなかなか困難だと思います。
ただ、私
ども今頭にありますのは、医療と年金に分けて申しますと、医療保険につきましては、現在衆議院で御審議いただいています健康保険法、医療保険の改革案、これを成立させていただきまして、さらにあわせていわゆる医療費の適正化といったものを強力に進めるということをいたしますれば、大体国民所得の
伸びぐらいにはとどまるだろう。
伸びていくことは
伸びていくんですが、
伸び方が国民所得の
伸びと大体パラレルの格好でとどまるんではないかというふうに思っています。
ただ、医療保険はそうなんですが、年金について見ますと、
先ほど来申しておりますように
高齢化が進みますし、それから
制度の成熟化も進んでまいりますから、年金の方は、これも今御提案申し上げております年金の改革案、これをお通しいただきましても、やはりそれでも給付費は
増加していかざるを得ない。したがって、それに伴って年金についての負担増はある
程度は避けられないと、こういう
考え方は持っております。
それから、次の九ページへ参ります。
そこで、以上申し上げましたような給付費の増、あるいは負担の増といったことを頭に入れた上で、今後の
社会保障をどっちの
方向へ持っていったらいいかということでございます。まあ再々申しますように、
人口の
高齢化問題というのが
社会保障の分野に非常に難しい
課題を投げかけているという認識を持っているわけでありますが、本格的な
高齢化社会を迎えます二十一世紀におきましても、国民の健康と暮らしをどうしても守っていかなければならぬわけでありまして、そういった意味で、これから
社会保障をどっちの
方向へ持っていくべきかというのは大変難しい問題ありますが、どうしても取り組まなければならない、避けて通れない問題でございます。
そこで、まず(1)の「年金」でございますが、そういう
高齢化が本格化した二十一世紀においてもやはり
制度が安定していかなければいけませんので、その
制度の長期的安定というのは前提条件でございます。そこで、縦割りの
制度体系を再編成するとか、あるいは給付と負担の均衡を図るといったことで今あの改革案をお願いしているわけであります。①の
制度体系の再編成、これについてはまあ詳しくは申しませんが、共通
部分に基礎年金というのを導入する改革案の審議を今お願いしているわけでございます。
それから、特に年金の場合に重要視しなければならないのは、②の給付と負担の均衡ということを考えなければいかぬということでございます。つまり均衡とは、公平あるいはバランスと言ってもよろしいかと思いますが、そういった物の
考え方をこの年金に入れていかないといけないということを考えているわけであります。
上の表は「加入期間の
伸びと給付水準」を示したものであります。ここで、ケースというところの下にありますように、
平均標準報酬は二十五万四千円の場合の受給年金の月額であります。これは夫婦であります。下は現役の
平均賃金、これはボーナスは除きますが、これに対する年金額の比率でございます。
それで、今は大体、この右から三番目にあります三十二年加入、これが現在の姿だと考えていただいてよろしいかと思います。これでいきますと、夫婦で受給する年金の額は
平均で十七万三千百円であります。これは現役の人にとってどういう感じかというのが下の率になるわけですが、現役の
平均賃金のこれは六八%になります。つまり、現在働いている現役の人の
平均賃金の六八%を受給者である老人夫婦がもらっていると、こういうことでございます。
これは現在なんですが、これがどんどん上がってまいります。それで、四十年加入、さっき六ページで御
説明しましたように、
昭和八十年には四十・三年にこの加入期間がないます。だから、これからざっと二十年後の姿というふうに考えていただけばいいんですが、そのときになりますと四十年加入が
平均になります。そうしますと、もらう年金受給額は月額で二十一万一千百円になります。これは現役と比べてみますと、現役の大体
平均賃金の八三%に当たります。つまり、保険料を拠出する現役世代、これはまあ家族は恐らく夫婦子供二人というのが標準的でしょう。それで税金も払わなければならない、保険料も負担しなければならない、それから子供の養育費もかかる、場合によっては住宅ローンの支払いもかかるといった現役世代、これが保険料を払うわけです。もらう方の老齢世代は夫婦二人。それから普通の場合には税金も保険料も負担がない。でありますので、老人の方が現役の八割以上の年金額をもらうのは果たしていいだろうか、公平かどうか、あるいはバランスがとれているかどうかといった、ここら辺が
一つ十分考えるべき問題であろうとは思います。余りこれが上がりますと、やっぱり出す方の側の納得が得られない。国民全体のコンセンサスがまとまらないとなるわけであります。
そこで私
どもは、これやっぱり八三%では高過ぎる。四十年加入ぐらいが標準になるような時代では当然こうなるんですが、これやはり現役とのバランス、均衡、公平といった面から見ると高過ぎるというふうに考えまして、〔注〕2にありますように、今回の改正案では、「現役の
平均賃金に対する比率を現在と同じような七割弱」、つまり六八、九%に維持することにして、
制度の設計をして、審議をお願いしているわけでございます。
それをまた保険料の面から見たのが下の表でございまして、例えば厚生年金でいきますと、現在一〇・六%、これは労使で折半しているわけでありますが、これが現行
制度のままでまいりますと、
昭和百年ごろには三八・八%、これは標準報酬の三八・八%になるわけですが、今の約四倍まで上がってしまう。これ改正案でやりますと二八・九%ぐらいでとめられる。さらに、〔注〕の2にありますように、「仮に、将来
支給開始年齢を六十五歳に」上げるということをやりますと、この二八・九はさらに落ちて二三・九と今の大体二倍強でおさまるということになります。もちろん今回は
支給開始年齢は触れておりませんけれ
ども、仮の試算をしますとこうなります。
国民年金につきましても同じような傾向でありまして、現在月額六千二百二十円でありますが、現行
制度のままいきますと一万九千五百円。それから、改正案ではそれを一万三千円ぐらいに抑えたい、こういうことでございます。ですから、世代間の公平という面、それから過度の、過重な負担を避けるという面から言うと、ある
程度の給付を抑えるということもどうしても考えざるを得ないんではないかというのが私
どもの
考え方でございます。
次に、「医療保険」でございます。十ページでございます。
医療費につきましても、やはり
先ほど申しましたような上昇をそのまま放置するわけにはまいりません。やはり医療費の
規模を適正な水準にするということが第一であります。それから、やはりこれは医療保険につきましても、給付と負担の公平を図るという見地がどうしても避けて通れない問題だと思っております。
そこで、上の図をごらんいただきますと、御案内のように医療費というのは結局は保険料と国庫負担、若干地方負担がある場合がありますが、国庫負担と患者負担、この三つで賄われるわけでございます。それがその区分に応じて過去から現在までどうなってきたかというのを示したのが下の表であります。
昭和三十五年のときは、右の方に保険料がありますが、被保険者が二五・七%持っておって、
事業主が二四・六、国庫が一五・七、地方が四・〇、患者負担が三〇%というのが、だんだん変わってきておりまして五十六年度の姿になっております。
ざっとごらんいただきますとおわかりのように、まず保険料のところ、これは被保険者、
事業主ともほとんど変わっておりません。三十五年から五十六年度まで変わっておりません。それから、地方負担も額は少ないですが、これもまあまあ変わっておりません。著しく変わったのが、国庫負担が大幅にふえて、患者負担が大幅に減ったということでございます。これはなぜかといいますと、結局従来の医療保険の歴史は、国庫負担をふやすということで患者負担を減らして給付改善を図ってきた、こういう歴史と言っていいかもしれません。
しかし、注意しなければいかぬのは、国庫負担でありますが、これは言いかえれば税金でございます。税金なんです。ですから、税金でありますから、従来はいわば高度
成長に支えられまして、毎年、税の自然増収が入ってまいりましたから、こういうことが可能であったわけでありますが、今や低
成長時代になりまして、税の増収というのはなかなか期待できないということになりました。ところが一方医療費というのは、先般来申しておりますように、本来年々
増加していくという
要因を内在しているわけでありまして、そこをどうするか、つまりふえていく給付に
対応する財源。これをどこに求めるかというのが今の時代の一番大きな問題になってきたと、こういうことでございます。
しかし、どこで持つかと申しましても、
先ほど言いましたように、保険料負担か国庫負担か患者負担しかないわけであります。国庫負担というのは税金であります。そうなると、仮にふえる分を税で賄うかというと、やっぱりこれはどうもそうもいくまい。増税なき財政再建ということでもありますし、増税はなかなか難しい。じゃ保険料を上げてそれを賄うかと。これも、保険料といいましても出す方にとってみますと税金みたいなものでありますから、なかなか保険料を上げるといっても納得はそう簡単には得られない。じゃ患者負担をふやすかと。これもなかなか御不満の方もいらっしゃるんですが、保険料か患者負担かということを考えますと、これもいろいろ見方はあるんですけれ
ども、例えばよく言われますのは、健康な方は、患者負担は少しぐらい多くてもいい、しかし保険料は余り上げてもらっちゃ困ると、こうおっしゃいます。ただ、病気がちの人は、保険料は少しぐらい高くてもいいが、いざ病気になったときの患者負担は少なくしてほしいと、こうなりますですね。そこの兼ね合いというのはなかなか難しいのでありまして、どっちで賄うか、これは大変難しい問題でございます。
ただ、そこら辺は、要は選択の問題だと思うわけであります。つまり、国民の皆さん方がどの組み合わせ――一定の枠は決まっているわけでありますから、どういう組み合わせが一番妥当かという選択をしてもらう以外にはないだろうと、こういうことであります。
そこで、今衆議院で審議をお願いしております健保の改正法案というのは、まず税金をふやすというのは、これは難しかろうから税ではやらない。それから保険料も同じようなことで、税と似たような
制度ですからこれも上げられない。したがって、無理のない
程度である
程度の患者負担を上げることによって将来の負担増というか、給付と負担の
関係を
整備をしたい、こういう
考え方で出しておるわけでございます。しかし、ここら辺は立場が違うに応じましていろいろな御意見が出てきますけれ
ども、要はこの組み合わせの話ですから、この中から一番妥当な線を見つけなきゃならないし、またそれは見つけられるものというふうに考えております。
それから最後のページへ参りまして、もう
一つ医療保険で忘れてなりませんのは、
制度間の格差でございます。上の表にありますように被用者保険、つまり健保とか共済組合でありますが、これは本人十割、それから家族は入院が八割、外来が七割、国保は全部本人、家族とも七割と、こういう仕組みになっております。これはばらばらなところがございますが、主としてこれは各
制度の沿革的な理由に基づくものであります。ただ、皆保険が実現しましてからもうすでに二十年以上経過しているわけでありまして、現段階でこの医療保険
制度全体を見渡した場合に、こういう格差があっていいかというのは
一つの問題だろうと思います。
そこで私
どもは、すぐというわけにはまいりませんが、将来はこれを大体ならして八割
程度に統一するのがいいんではないかということ、それからその第一段階として今回の改正法案では、第一段階は本人は九割という線を打ち出しているわけでございます。
それからもう
一つの問題は、その下の表にありますように、
高齢者の加入率がやはり違うわけです。上は給付率。
制度そのものが違うんですが、下は
制度の中身と申しますか、加入者の構成が違うということでございます。それで、六十歳から六十九歳それから七十歳以上と、
高齢者の率でございます。これをごらんをいただきますとわかりますように、組合健保が一番低いわけで、国保が一番高い、圧倒的に高いということであります。七十歳以上で申しましても組合健保は二・七九%しかおりませんが、国保は一〇・一七%。つまり加入者の構成がこうなっていますから、結局国保が一番体質が弱い、組合健保が一番強い、政管健保がその中間と、こういうことでございます。
これは従来、まああった話なんですが、実は従来はこれを国庫負担である
程度調整しておったわけです。国保は総医療費の四五%の国庫負担が出ております。これは給付費に直しますと六割ぐらいになるんですが、それに対して組合健保はなし、給付に対しては国庫補助なし、政管健保は一六・四%の国庫補助ということで、国庫補助を傾斜配分することによってこの体質の差を改善しておったということが言えます。さらに加えて、さきの老人保健
制度を成立させていただいたわけですが、これでは、老人医療費の七割を賄う保険者拠出金というものの半分を各保険者の加入者数で案分するという方法になりましたので、これで、要するに老人を多く抱える
制度は負担が減るし、老人を少なく抱える
制度は負担がふえるという意味で、負担の公平がその分できたわけであります。
これをさらに推し進めまして、今回の改正案では退職者医療
制度というのつくって、そこでさらにこの体質の差の改善を図る。つまり
制度間のアンバランスの是正を図るということを考えているわけでありますが、こういった
方向、つまり
制度間の格差の是正という
方向の改善が
一つ必要ではないかという
考え方を持っております。
いずれにしろ
高齢化は確実に、しかも非常に急ピッチで進んでまいります。それに引きかえ、
経済情勢というのは一時の高度
成長はとても期待できないという
状況にございますので、その中でどうやって将来の国民の健康と暮らしを守っていくかということが大変な問題になるわけであります。
そこで、私
どもは
制度をとにかく長期的に安定させなきゃいかぬというのが大前提でありますが、それとともにいろんな面での均衡あるいは公平といった
考え方を持って
制度を見直していかなきゃいかぬのじゃないか。その中には給付と負担の均衡もありましょうし、あるいは年金で申しましたような世代間、受益者と拠出者といった面での公平もありましょうし、あるいは今申しました
制度間の公平もありましょう。いずれにしろその一定の枠内で、あるいは限られた財源のもとでの組み合わせでありますから、そこにはまあ何とか国民の皆さん方の合意によって
一つの選択ができるんではないか、なされるんではないかというふうに思っておりますけれ
ども、
制度改革、いろいろ問題がございますけれ
ども、ひとつよろしくお願いをいたしたいと思います。