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1984-02-15 第101回国会 参議院 国民生活・経済に関する調査特別委員会技術革新に伴う産業・雇用構造検討小委員会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十九年二月十五日(水曜日)    午前十時三十一分開会     ――――――――――――― 昭和五十八年十二月二十六日国民生活経済に関 する調査特別委員長において本小委員を左のとお り指名した。                 上田  稔君                 杉元 恒雄君                 平井 卓志君                 真鍋 賢二君                 山内 一郎君                 稲村 稔夫君                 桑名 義治君                 吉川 春子君                 藤井 恒男君 同日国民生活経済に関する調査特別委員長は左 の者を小委員長に指名した。                 上田  稔君     ―――――――――――――    小委員長異動  十二月二十七日小委員長上田稔君は委員辞任  した。  一月二十五日国民生活経済に関する調査特別  委員長において梶木又三君を小委員長に選任し  た。     ―――――――――――――    小委員異動  一月二十五日     補欠選任        梶木 又三君  二月一日     辞任          稲村 稔夫君  二月四日     補欠選任        稲村 稔夫君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     小委員長        梶木 又三君     小委員                 杉元 恒雄君                 真鍋 賢二君                 山内 一郎君                 稲村 稔夫君                 吉川 春子君                 藤井 恒男君    事務局側        常任委員会専門        員        桐澤  猛君    参考人        科学評論家    村野 賢哉君        新技術開発事業        団理事長     久良知章悟君        東京大学教授   宮川  洋君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○技術革新に伴う産業雇用構造等に関する件  (先端技術一般について)     ―――――――――――――
  2. 梶木又三

    ○小委員長梶木又三君) ただいまから国民生活経済に関する調査特別委員会技術革新に伴う産業雇用構造検討小委員会を開会いたします。  技術革新に伴う産業雇用構造等に関する件を議題とし、先端技術一般について参考人から意見を聴取いたします。  本日は、お手元に配付の参考人名簿のとおり三名の方々に御出席いただいております。  まず、科学評論家村野賢哉君から意見を聴取いたします。  この際、村野参考人一言あいさつを申し上げます。  本日は御多用中のところ、本小委員会に御出席いただきましてありがとうございます。本日は先端技術一般につきまして忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  また、議事の進め方といたしましては、まず四十分程度意見をお述べいただき、その後二十分程度委員の質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと存じます。よろしくお願いいたします。  それでは、村野参考人にお願いいたします。
  3. 村野賢哉

    参考人村野賢哉君) おはようございます。村野でございます。  皆さんのお役に立たないかと思いますけれども、できるだけ努めさせていただきます。  お手元に私がきょうお話し申し上げる要約を、一ページ物をお配りしてございます、「二十一世紀にかける技術革新」。それから参考資料といたしまして、「二十一世紀にかける技術革新技術者像」という五、六ページのペーパーをお手元に差し上げてございますが、きょうはこの一枚目のレジュメに従いましてお話を申し上げて、あとは参考資料の方で、もし特に御関心ございましたらそちらをごらんいただきたい。それから、私の話の中でこの参考資料の方の図を一部使わしていただくことにしたいと思います。  私は、いろいろなことをやってまいりましたけれども、終始今日に至るまで技術とかかわりを持った仕事をしてまいりまして、現在は小さな研究会社をやっておりますけれども、と同時に、非常勤ではございますけれども、東海大学の文明研究所の教授として文明学、特に私自身で比較文明論という研究をしているわけでございます。比較文明論という意味は、最近のように技術が高度に進んでまいりますと、その技術組み合わせになる人間民族的文化特性の違いによって、その機械とあるいは技術人間との組み合わせが非常に大きく変化をしてきているということから、この比較文明論という立場で研究をしているわけでございます。  例えて申しますと、今日のロボットを見ましても、産業ロボットを見ましても、なぜ日本でこれほど産業ロボットが普及をしていくかということに対して、かつて産業革命当時に多くの失業者を出した経験を持っている欧米先進国におきましては、非常に奇異の感を持っている。つまりそういう背景の中で、例えばこのレジュメの〔4〕の一番最後のところに書いてございますけれども、〔4〕の④のところに書いてございますけれども、これはもう今からかれこれ三年ほど前になりましたけれども、西ドイツバートゴデスベルク、あのボンの隣にございますバートゴデスベルク一つ国際シンポジウムがございました。これはIWGというドイツ経済社会研究所が主催した会議でございまして、そこのテーマが、「テクノロジー二〇〇〇アン オポチュニティー オア ア トローマ」というテーマで、要するに二千年の技術つまり二十一世紀技術はアン・オポチュニティー――さらに期待が持てるのか、それともトローマ――トローマというのは、伺いますと外科手術の後の後遺症とかあるいは心理的な精神的な後遺症も言うそうでございますけれども、そういう意味からいうと、さらに期待が持てるのか、それともその二十世紀文明技術後遺症で苦しむのかという、非常にトラスチックな対比的なテーマで一日半の議論が展開されたわけでございます。  その中で、その下に四つ項目がございますけれども、四つのサブテーマがございまして、産業ロボット味方か敵か、通信技術自由解放か束縛か、自動車は二十一世紀においてもなお交通手段であり得るのかあるいは過去の遺物になるのか、エネルギーエンジンかブレーキかというような四つのサブテーマをつくりまして分科会が開かれたわけでございます。  この場合に、我が国産業ロボット世界一であるということから、特に日本に名指しで産業ロボットに関する分科会委員を出してくれという ことが日経連に依頼がありまして、私は実は予備――スタンバイだったのでございますが、正式には早稲田大学のシステム科学研究所長谷川幸男教授がオールギャランティーでこちらへ招かれてまいりました。私は長谷川さんが行かれない場合のスタンバイだったものですから、情報はいろいろもらっていたわけでございます。それで後いろいろいきさつを聞いてみたわけでございますが、要するにこういうテーマ議論が展開された。これには三百五十人ぐらいの参加者があって、ハーマン・カーンも出ていたようでございますが、要するにこういう対比的な議論技術をめぐる対比的な討論というのは実は我が国ではほとんど行われておりません。  私も実は万一行かなければならないかもしれないということで、私の友人を集めましてこの産業ロボットは敵か味方かということで少し話し合ってみました。しかし、冒頭から私の仲間は、ロボット味方に決まっているじゃないか、なぜ今さら敵と考えるのかというようなことで、むしろ私の方が驚きまして、我々日本人は最初から楽観的に物を見ると、常にオポチュニティーなんですね。オポチュニティー型であって、トローマということはほとんど考えない。現在よければいいんだというような民族特性を持っているのではないか。そういうところがやはりこの産業ロボットを非常に普及さしていく背景がある。そういうことに対して欧米先進国はかなり危惧の念を持っているというようなことから、少し長くなりましたけれども、私は最近の技術革新と、それとかかわり合いを持つ民族の文化的特性の違いというものが、よくマン・マシン・システムという言葉が出ますけれども、そういうもののかかわり合いに大きな変化が出てくるのではないかということを考えている次第でございます。  そういう意味科学技術というのは今日ほとんど欧米から導入したものでございますけれども、そういうものと、世界の中でも比較的文化特性が特異であると言われている日本人と非常に進んだ技術とが組み合わせになったときに、その組み合わせ人間機械の関係の振る舞いが、組み合わせ振る舞いがどういう影響を今後与えていくかということをやはり見ていかないといけないのではないかというようなことを考えている次第でございます。そんなことから、少し歴史を考えながら今日の技術革新を見ているわけでございます。  冒頭に書きましたことはごく概略的なことでございますので、余り深く入らないようにいたしますが、私はそういう立場から、現代文明というものはまさに科学技術文明であって、その科学技術文明主役は一体何かという形で、各世紀ごとにひとつ区分をして見ているわけでございます。そういたしますと、現代二十世紀はまさに電気技術というものが今日の文明主役をなしているというふうに見てよろしいと考えております。したがって、今日を電気文明時代というふうに私は勝手に名づけております。  しかしながら、子細にこれを見てみますと、第二次大戦を挟みまして前半は、電気エネルギーを、例えば光とか熱とか機械とか、そういうほかのエネルギーに変換することによりまして私どもが大きな便益を得てきた、そういう文明であったと思います。第二次大戦を挟みまして後半は、特に第二次大戦中の科学技術の進歩の一つの姿が通信技術というところにまいりましたことから、電子文明時代に入ったというふうに理解しております。つまり電子文明というのは、もう御存じのとおり、電気というものの本質でございまして、ほかのエネルギーに変換するということよりも、電気の働きというのは、電気がマイナスの電気を帯びた電子という非常に微細な微粒子がプラスの電気の方に引っ張られて移動するということによって電気が流れるわけでございまして、そのことによって電気が仕事をするわけでございますが、その電気の性質の本質でございます電子の流れを人間の手でかなり自由にコントロールできるようになった。その電子の流れを、あるいは電子振る舞いを制御できるようになった。その技術による大きな便益を私たちが得るようになりまして、その便益性はさらにますます今後も進歩していくだろうという状況に現在あるわけでございます。  そういう意味で、現代はエレクトロニクスつまりエレクトロン、電子という言葉から今日の技術が語られますように、今日は電子文明時代だというふうに私は言ってよろしいのではないかと思っております。しかし、この電子文明時代は将来に向かってどう変わるかということはまだ答えが出ておりません。  ところで、私がこの第一項目で、「科学技術文明世紀末に始まる。」というタイトルをつけましたのは、こうやって最近の二百年ないし三百年の技術歴史をたどってみますと、どうもそういう一つ時代主役になりました技術というものは、その前の世紀の終わりに実用化に着手をされているという姿が見えるわけでございます。私どもは世紀という認識は今まで余りなかったのでございますけれども、欧米人たち世紀というものに対する意識が、世紀末が近づくにつれていろいろなことが高まってくるような感じがするわけでございます。欧米諸国においては、世紀末にいろいろな変化が起こる、あるいは社会的な変動が起こりますし、あるいは技術の面でも非常に新しい動きが出てくるというようなことが、これは理屈はないんでしょうけれども、何かどうもそういう感じがするわけであります。  そういう意味で言いますと、この電気文明のもとを開いたのはトーマス・エジソンを中心としました十九世紀末のたくさんな発明家たちの手によっているということが言えると思います。特にその中で代表的なのが、ここに書きましたトーマス・エジソンが一八八二年の九月四日にニューヨークのマンハッタンのパール街におきまして、世界で初めて白熱電灯会社営業運転を開始をした。会社設立はその二年ほど前でございますけれども、苦心惨たんをいたしまして配線をして、それでちゃんと家庭に電気が送れるシステムをつくりまして、そして営業運転を開始した日でございます。  エジソンというと、よく電球発明家になっておりますけれども、彼は、電球というのは今日的な言葉で言いますと、彼の送配電システムの最後の端末機にすぎないのでございまして、その全システムを彼は発明して一千件からの特許を取っておりますけれども、発電機の改造から始まりまして、配線方式、これはそれまでは一つ発電機からたくさんの電球とかモーターというものをぶら下げるということはできないと考えられておりましたのを、エジソンは今日で言います並列配線ということを発明したわけであります。そのきっかけが、当時都市ガスによるガス灯の照明が家庭に普及しておりましたのを見まして、ガスの配管の方式が電線でできないかということに着想いたしまして、彼は初めて並列配線を発明したわけであります。今日使われておりますヒューズとか、それからスイッチ、分電盤、それからいま我々が使っております電球ねじ込みソケット、これはエジソンソケットと申しますけれども、これなどもエジソンの発明でございます。こういうもの一切合財をエジソンと彼のスタッフが発明したわけでございます。  それが営業開始したのが一八八二年の九月であったということで、つい一昨年がその百年記念だったのでございますが、余計なことになりますが、我が国ではそれに対して記念の事業は何も行われませんでした。アメリカでは行われましたけれども、行われませんでした。  さて、それでは十九世紀はどうかといいますと、これはもう明らかにスチームエンジン蒸気機関によってもたらされた便益といいますか、人間動力を手に入れた蒸気文明時代であったと考えてよろしいと私は思っております。これも十八世紀末、例えばジェームズワット蒸気機関が有名でございますが、これが特許を取りましたのは一七六九年でございますけれども、実際に役に立つエンジンに改良されまして、彼が会社を興し て製造工場をロンドンに設立したのが一七七五年でございまして、さらにこれにガバナーと申しまして、回転速度を一定にする調速機でございますね、これを取りつけたエンジンを発明したのが一七八八年でございます。これによりまして本格的にこの蒸気機関実用化したのでございまして、多少こじつけになるかもしれませんけれども、まさにこの蒸気文明というものの着手も十九世紀の前の世紀、十八世紀末にその実用化に着手されたというふうに見てよろしいかと思っております。  ところで、その前の十八世紀機械文明時代と私が名づけておりますのは、これは技術歴史の中ではこのときに、十八世紀に、つまり一七〇〇年代でございますが、このときに生産の手段が道具から機械へかわったというふうに位置づけられておりますので、そういう意味では「機械文明時代」というふうに私はここへ書きましたけれども、その一つの代表的な例といたしまして、ここに括弧の中へちょっと書きましたけれども、一七三三年にジェームズケイが飛び杼――杼というのは御存じのようにいまのスペースシャトルシャトルが杼でございますが、あの形が杼の形によく似ているということから、それから往復する、行ったり来たりするという意味からスペースシャトルシャトルという言葉が出てきたわけでございますが、地球と宇宙ステーションの間を行ったり来たりするという意味でございますが、私、織機については余り詳しくございませんけれども、この杼については、横糸を通すについてはそれまでは手動でやっておったのが、この飛び杼の織機によりましてかなり飛躍的に能率が上がって、まさに手工業から機械工業への大転換きっかけになったというふうにこの技術歴史の本に書いてございます。そのために多数の機織り工が失業した。そのあげく、一七五六年にその発明者であるケイの家にそういう怒った人たちが押しかけまして暴動が起こりまして、家が破壊されるというような非常にトラスチックな事件が起こっているようでございます。  ところがその後、ケイはさらにそれに屈せず、その次にございますハーグリーブスの発明しましたジェニーというニックネームのついている多軸紡織機の開発には、裏でケイが非常に大きく働いているわけでございます。さらに、そこへ今度は人力とか家畜の力をかりてそういう機械をそれでも動かしておったのですが、さらにアークライトが一七六八年に水力紡織機械を発明するということから、人間が今度は、人間や生き物の力を離れてほかの力を、動力を利用する。そこへ先ほど申しましたジェームズワット蒸気機関実用化するということで、まさに一七九〇年にこの紡織機械が、機織り機械蒸気動力にかわるという、つまり一つには機械というものの流れ、それと蒸気機関とが結びついて初めてこの十九世紀文明原動力がここでつくられていくというような形になっているわけであります。  こういう一つ技術の流れというものを見てみますと、さらについでに申しますと、十八世紀機械文明のもう一つ背景には、その前の十七世紀つまり一六〇〇年代の終わりに、イギリスが多いのでありますけれども、ボイルとかニュートンとかたくさんの物理学者が輩出いたしまして、力学というものが非常に発達をする時代がございます。十七世紀の終わりでございます。それが、そのころはかなり実学的になっておりまして、そういう力学者たちがしきりにいろいろな装置、機械をつくっております。そういうものがさっき申しました十八世紀に入ってからの最初のケイのそういう機織り機械へつながっていくというような形がございまして、私はそういうことで「文明世紀末に始まる。」というようなキャッチフレーズをつけているわけでございますが、このあたりが大変皆さん御関心のある、ちょうど産業革命の時期になるわけでございまして、まさにこのハーグリーブス紡織機械というものが、ジェニーニックネームのついているジェニー軸紡織機械というものが産業革命きっかけになったと言われているわけでございます。そしてさらにアークライト水力紡織機械というものが第一次産業革命の決定的な一つ原動力になった、そしてそこへ蒸気動力が結びついていった、そういう形でまずイギリス産業革命が起こった。しかし、その中で、それまで家内工業的に行っていた人たちが、労働者が失業していくわけでありますね。この労働者というのは実は技能労働者でございます。  物の本をよく読んで見ますと、なぜイギリスでまず産業革命が起こったか、そして大陸のフランス、ドイツがおくれたかという説明のくだりの中に、イギリス技術を大陸に移動することを非常に恐れたということもあるんですけれども、もう一つは、イギリスが、当時ヨーロッパの生産方式の基本でありましたギルドという組合の制度を長いこと、百年以上かかって崩してきておった、そういうことがあって、道具から機械転換をすることがイギリスで易しくなっていた。ここに暴動の歴史がございますけれども、いわゆる技能組合の抵抗というものがすでにイギリスではそれほど大きくなり得ない状態をつくり上げていたということのようでございます。  御存じのように、一番おくれましたドイツは百年近くおくれまして、もう十九世紀の半ばへ近づいて産業革命が起こって知りますけれども、そのときにドイツはどういう方式をとったかと申しますと、現在でも西ドイツ厳然としてギルドつまりマイスター制度を維持しております。つまり家内工業から機械工業へ、工場生産型の工業へ変わるプロセスの中で、やはりマイスター制度をきちんと温存しながら新しい形でドイツ生産方式を立て、産業革命に入っていったということでございます。  ドイツは現在も、大企業の中におきましても厳然として技能階級制度が維持されておる。マイスター、ゲゼレ、レーリング、つまり職長、まあ親方ですね、それから職人さん、日本で言うと工員さん、それに対するあとは見習い工または徒弟というこの三階級が厳然として現在も守られているわけでございます。そういうものが、家内工業的なギルドから発したものを、産業革命の中でもこれを巧みにうまく取り入れながら、今日は非常に技能的技術の進んだドイツ産業システムを築き上げてきた。  ところが今日になりまして、このことが、西ドイツ日本のように先端技術についていくことができなかった理由だというふうにある一部の人たちからは言われているわけでございます。つまりマイスターというのは、ある特定された技能世界においてその頂点に立つ人でございます。まあ大企業の中では最近はマイスターというのはポスト化しておりまして、空席がなければマイスター資格を取ってもなかなかマイスターになれないということもあります。また自分のやってきた技能の領域とは違っていても、どこかの職場にマイスターのポストがあいていると、再教育をしてそちらのマイスター配置転換をするというようなことはやっております。  しかしながら、全く新しい技術領域に対しましては、そういう技能教育ができておりませんものですから、そういう領域には簡単に順応していかれない、それから内部で配置転換ということがうまくいかないというようなことが、今日のような先端技術、特にエレクトロニクスのように日進月歩している技術世界には西ドイツはついていかれなかったということが言われております。  現に西ドイツでは、技能階級制度はそういう三階級でございますけれども、技術者についても三階級の階級制度がございまして、マイスターと横並びで、日本語で言いますと昔は技手とか技手とか言いましたけれども、テヒニカというのがございます。それからその上に英語で言うとエンジニア、まあ技師ですね。それから一番上に立ちますのがティプロマエンジニア日本語では技師としか訳しようございませんけれども。  要するに、御存じのように、西ドイツ日本と同じように敗戦国でございますけれども、教育制度厳然として守り抜いた国でございますので、今日でも教育制度は戦前と変わっていないわけで す。したがって、大学におきましても日本で言う旧制大学でございまして、いわゆる工学部を持っている大学というのは、正確な数は覚えておりませんけれども、たしか二十幾つだったというふうに私記憶しております。したがいまして、ティプロマエンジニアというのは、要するに戦前私どもが導入しました教育制度の中で工学士という資格でございます。英語で言うバチェラーでございますが、それが西ドイツではティプロマエンジニアというのが、今日においても堂々と名刺に刷られるというぐらい権威を持っておりまして、戦前は、まあ皆さん名刺を拝見すると工学士工学博士というような、山内先生なんかもそうだったんじゃないかと思うのですが、工学士とか理学士とかいうのが厳然として一つタイトルとして存在したわけでございます。  それが今なくなりましたけれども、西ドイツでは現在におきましてもまだその工学士に相当するティプロマエンジニアというのがきちんと名刺に刷られている。つまりティプロマエンジニア資格が取れるのは工学士資格を持った人だけでございまして、いわゆる技師と言われる、エンジニアと言われる人たちは、いわゆる昔で言う日本の工業専門学校でございます、高等工業ですね。現在日本語では工業専門大学というふうに訳しておりますけれども、そういう形です。それからテヒニカというのは工業高等学校ですね、日本で言います今日の工業高校に相当する。これは職業高校でございますが、そこを出た人たちがそういう形に・なるという仕組みでございます。  それで、少し脱線したような格好になりましたけれども、そういう流れの中で、座学を非常にふやそうという教育改革の案がたくさん出ております。  西ドイツでは御存じのように、各州が独立してそれぞれの文部大臣みたいな方がおられまして、それぞれ制度が違うんですけれども、私はバイエルン州などを見たんですけれども、熱心に座学を多くして、大学の工学部の教育でも非常に実学的で工場実習が多かったのですが、それを減らして座学をふやすという改革案が出ているんだそうです。ところが受け入れ側の企業が非常に反対しておりまして、そういう実学に弱いディプロマをもらっても困るというようなことから、なかなか改革が進まないという話でございました。そういうことを、ずっとこの二百年、三百年の歴史を見ておりませんと、これからの技術革新時代において日本がどういう国際的な立場に立つかということが理解できないことになるんだろうと思うわけであります。  私は、ことしは日米欧の技術摩擦が非常に高まる年であるというふうに見ております。貿易摩擦が転じまして技術摩擦の形をとるであろうということも見ているわけであります。つまり技術摩擦というのは、物の流通ではなくて技術の流通に関することでございます。  ところで、そういう流れを見てみますと、今日はまさに二十世紀末にもう立ち至っているわけでございますので、今日の技術革新の様子から次の二十一世紀文明主役を見通すことができるだろうかというのが私の今の一つの研究テーマになっているわけであります。ただ、まだそれはよくわからないわけでございますが、今日、しかし新たに、過去においてはなかった新しい技術実用化に着手しているものを幾つか拾い上げてみますと、おぼろげながらその姿が見えてくるような感じがするわけであります。  ここに、大きな括弧の二のところに「二十一世紀文明主役を探る」としまして、「ME文明」、「マン・マシン・インテグレート文明」、「宇宙文明」あるいは「末期文明」というようなことを書きましたけれども、このMEというのは、昔はメディカルエレクトロニクスだった、医療電子技術だったんですが、このごろはマイクロエレクトロニクスの略になりまして、英語の略語が次々に意味が違って使われるものですから大変わかりにくくなりましたけれども、ここで書きましたMEというのはマイクロコンピューターを含みましたマイクロエレクトロニクス技術でございます。このマイクロエレクトロニクス技術というのはこの十年ぐらいの間急速な進歩でございまして、このことによりまして、今日の技術革新の姿がすっかり変わったわけでございます。  私ども技術評論をやっている仲間では、第一次オイルショックが起きましたときに、もうすでに一九六〇年代のような高度の技術革新は起こらないということを申しました。当分起こらないだろうということを言ったわけであります。ところがこのごろいろいろなところへ講演に行きますと、あなたのその話はこのごろ違うんではないかと、こう言われるのですけれども、私はまた反論いたしまして、いや十年前に私たちが申し上げたことを思い出していただきたい。つまり、ある特定の技術が非常に画期的な新しい発明によって革新を起こすのではなくて、これからの技術革新というのは、在来ある技術組み合わせが変わることによって、一見大きな技術革新のように見えるというふうになるであろうというふうなことを申し上げたわけでありますが、まさに今はそういうことになったわけであります。つまり、いろいろな技術組み合わせが自由に変わることになった。特にその代表的なものがマイクロコンピューターでございまして、そのマイクロコンピューターの組み合わせによっていろいろなものが変化をいたしました。  ここに代表例としてメカトロニクスという言葉を挙げております。これは機械屋さんから言うとメカトロニクスなんでございます。電気屋から言うとエレクトロメカニクスと、こうひっくり返るわけでございますけれども、要するにその代表的なものがロボットでございます。ロボットの前が自動機械でございます。自動機械も、最初は電気動力として使うという程度であったものが、そのうちに、要するにオートメーションという言葉が入ってまいりまして、自動的に物を生産するときに、ただ一つの方向で材料を与えると、決められた品物が次々に生産されてくるだけではだめなんだと。これではまさにデュカの「魔法使いの弟子」でもって、どんどんどんどん水があふれてくるだけで、つくり過ぎたらどうなるかというので、今日、今から二十年ぐらい前、もう少し前にアメリカでサイバネティックスという言葉が起こりましたけれども、そのころから盛んに出てきた考え方というのは、もしつくった製品が、品物が不良であったら、この製品は不良だよという情報を生産の前のプロセスの方にフィードバックしてやって、そしてそのつくり方をコントロールする、あるいはつくり過ぎたよと言うと、そのつくり過ぎたという情報が前の方へフィードバックされて、そこで生産の数を落とす、そういうことがオートメーションの一つの定義になってきたわけでございます。  そういうことをやるために、やはりどうしてもある程度コンピューターのようなものが必要になってきておったわけでございますが、それが小型で非常に高級な、高性能なコンピューターが出るようになりましてから、かなり自由にそういうことができるようになりました。その代表的なものが、御存じと思いますけれどもNCマシンといわれる数値制御型の工作機械というのが出てまいりまして、これはテープに入っている一つの数字だけが送り込まれていきますと、それによって機械が働いて削ったり組み立てたり一組み立てまではいきませんが、削ることができるとか、そういう機械が出たわけでございます。これはもう造船所などでも、鉄板を削ったりなんかするのも全部そういうことをやり始めた。  日本はもともと工作機械というのは後発国でございまして、世界では余りよく売れなかったのでございますが、むしろ日本の企業はスイスとかドイツなどの工作機械を輸入をして使っておったわけでございます。ですから、日本の工作機メーカーは余り景気がよくございませんでした。そこにNCマシンが出てまいりまして、マイクロコンピューターという領域が我が国で割に特異な技術の領域になりましたものですから、それと組み合わ せることによりましてNCマシンとしては日本は非常に優秀な技術を持つようになりまして、輸出が可能になってまいりました。そこへもってきて、さらに頭脳的要素を入れましたのがロボットでございまして、これがNCマシンの先につながりまして、産業ロボット日本において非常に急速に発達をしてくるという背景になるわけでございます。したがって、日本機械技術の前にMEの技術というものが日本にありましたために、あるいはこの領域で非常な発達をしておりますために、そういうマイクロエレクトロニクス技術を利用した領域で新しい発展が起こってまいりました。  その代表的な例として一つここで挙げておりますのが、後の附属資料にも出ておりますけれども、日本電気の小林会長などがつとにおっしゃっておられますCアンドCという組み合わせでございまして、これが資料の一番最後のページにあるいはついているかもしれません。小さくてごらんになりにくいかもしれませんけれども、その上の方の図でございまして、これは一番下側に左から右へ真空管、トランジスタ、IC、LSI、VLSI、ジョセフソン素子などと書いてあると思いますけれども、これがまさに真空管からトランジスタ、ICというその半導体素子の発達の歴史が十年ごとに区切ってございます。  この結果、これによってどういうふうにコンピューターの技術通信技術変化したかというのが上の段に書いてあるわけであります。つまりコンピューターの誕生あるいは真空管の時代にはコンピューターが生まれ、電話が当時からあるわけでございますけれども、それがトランジスタとかIC、そういう半導体の発達によりまして、まずその下から三段目のコンピューターの世界では真空管時代のコンピューターは余り発達しなかったのが、トランジスタによりまして非常に発達をしてくる。トランジスタの最初の機械が第二世代のコンピューターと申しまして、しかし、当時としてはまだ計算だけという、それしかできない計算機、ですから電子計算機という言葉が生まれたのはこの時代でございます。  今日のコンピューターは電子計算機よりはるかに大きな能力を持っておりますので、もうすでにコンピューターという言葉日本語になっておりますけれども、単能マシンでございます。したがって、上から来ている矢印を見ますと人間がマシンに接近する度合いというのが非常に大きくございまして、計算させるための準備は全部人間がいたしました。それから計算以外のことは人間が全部やったわけでございます。ですから矢印が非常に長くなっております。  ところがICの時代になりますと、今度はそのコンピューターが多目的になってまいります。何がまずつけ加わったかと申しますと、データ処理というのが入ってまいりまして、細かい数字を処理をする、大きさの順番に並べるとか意味づけをするということですね。それができるようになってまいりまして、最初はコンピューターを使うには特別に教育を受けた人間しか使えなかった。つまりここに機械語と書いてございますけれども、そういう独特の約束語を使わなければ、符号を使わなければいけなかったのが、IC時代になりましてコンピューターの能力が上がってまいりますと、ここに高級言語と書いてございますようにかなり人間言葉に近い符号が使えるようになってまいりました。そしてそのために人間が少し後退いたしております。  それからその次の大規模集積回路、LSIの時代、一九七〇年代になりますと情報処理というものが入ってまいります。これは中央に大きなコンピューターを置きまして、オンラインで端末機が置かれる時代でございます。集中処理型システムとここに書いてございます。それから端末機がありまして、端末機を使っていわゆる対話型の処理ができるようになったということでございますね。それから言語もエンドユーザー言語と書いてございますけれども、要するに利用者に適した符号が使えるようになってきた。それからCAD・CAMと書いてあるのはキャド、キャムと読みまして、これはコンピューター・エイデド・デザインあるいはコンピューター・エイデド・マニファクチャーリング、つまりコンピューターの援助を受けて設計をしたりコンピューターの援助を受けて製造するということが非常に進んできたという意味でございます。そういうようなことで人間はまた後退をいたしました。  さらに今日の超LSIの時代、VLSIと書いてございます。超LSIの時代に入りますと、今度は大型のコンピューターというのはうんと小さくなりましたものですから、決して中央に置く必要がなくなりまして分散処理型システムになりました。つまり今日のパソコンがそうでございます。マイクロコンピューターとかパソコンという、かつては端末機のようなそれぞれの大きさで独立したコンピューターがそれぞれのところに置かれるようになりまして、別に大きなコンピューターから電線でつなぐ必要はほとんどなくなってきたわけでございます。それが分散処理型システム意味でございます。  そういうことになってまいりましたものですから、ますますコンピューターの能力が上がりまして、このMMインタフェースの高度化と書いてあるのは、マシンとマンの意味でございまして、人間機械の交わり方が非常に高度になってきた。ということは人間の方が機械をおいてはもう何もできない状態ができてきたということになります。それからコンピューターを操る符号もそのまま私たちの言葉を使えばいい、コンピューターも私たちの言葉で返事をしてくれる、もうすでにこういうものはかなり実用化されつつございます。そういう時代に入ってまいりました。  それから今日のようにファクシミリとかいうような画像処理、もともとコンピューターは形のあるものの処理は苦手であったのが、今日それが自由にできるようになりました。それからここに日本語ワードプロセッサーと書いてございますが、まさに形のある漢字を取り扱うことができるようになったというのは、この画像処理ができるようになった。英語で言いますとパターンという言葉を使いまして、そこにもありますパターン認識という言葉がよく使われますけれども、パターン認識が非常に進んできたということでございます。そういうことでオフィスオートメーションの時代に入ってまいりますし、これからはそういうプログラムをつくるソフトウエアが機械によって自動化されるような形になってまいります。  そして最後は、次の時代になりますけれども、次の時代は、たとえばジョセフソン素子などと書いてございますけれども、今日もうアメリカと日本、ヨーロッパも含めまして物すごく競っておりますのは、超LSIの次にくるさらに集積度の高い半導体でございます。現在の超LSIの五十倍とか百倍ぐらいの、同じ大きさの中にそれ以上の一けたも二けたも高い能力をそこへ集積しようという技術の開発が進んでおります。そうなりますと、やがて今日のようなパソコンのようなものも、さらにさいころぐらいの大きさになっちゃうだろうと言われているわけであります。そうなりますと、自由に機械の頭脳部分として組み込めますし、能力が非常に高くなります。そうなりますと、今度はそういう小型のコンピューター同士が、それぞれが独特の機能を持ったものがお互いにネットワークを組みまして、個々のコンピューターの能力を乗り越えてネットワークを組んだということによる膨大な能力を持つだろうと言われております。  ここに組織融合型システムと書いてあるのはまさにそうでございまして、ちょうど生物の体のように個々の細胞を全部有機的に結びつけることによって、全体像として新たな生物が生まれるように、そういう個々のコンピューターを有機的に組織化するということが起こってくるだろうというふうにここでは見ているわけでございます。  そうしまして、結局人間の五感に近づいた端末装置というものがあらわれてくるだろうというような一つの結論みたいなものがここに出ておりま して、まさに人間の役割はグリエーティビティー、創造性だけしか残らないだろうというのが、これが日本電気の小林宏治さんたちが今言っている姿でございまして、こうなりますと一番上にあるマン・ウィズ・CアンドCということで、このウィズ・CアンドCというのは、コンピューターとコミュニケーションシステム人間との関係が完全にインテグレートしてくる、融合した状態になるだろうということを言っているわけでございます。  つまりそうなりますと、最も我々が考えておかなければならないのは、人間がそれに対して備えができているのかどうかの問題なんです。つまり機械の方は、どんどん技術の方は進歩していくけれども、人間自身はそう大きく進歩しておりませんから、それと融合化される人間そのものがそういう時代に備えができているかどうかというのは非常に大きな課題になってくるわけであります。  私たちは産業革命以前の歴史がほとんどございませんし、産業革命はもうでき上がったものを明治維新によって導入してまいりましたから、従来のものから産業革命へ移行するプロセスを学んできていないわけでございます。その間に多くの人間機械との葛藤が演じられた歴史を私たちは学んでいないということが、今日の場面において私たちはみずから新たに開拓しなければならない一つの大きなポイントになっているんじゃないかというふうに考えます。  申し上げる許された時間がまいりましたので、私の話はこの辺でやめたいと思いますけれども、そういうことで私が末期文明、後始末文明になるかというふうな書き方をしているのもあるいはそういうことでございます。  先ほどの一番最初に申し上げました、ドイツでの討論のトローマでございますね。トローマは、二十世紀技術革命の後遺症というものに対する二十一世紀文明はその後始末をする時代になる可能性がかなりある面であるということが一つの姿としてあるんじゃないか。したがって、その後始末技術というものを我々は意識的にこれから準備して開発しなければいけないんではないか。そのためにアメリカなどで技術予測をする人たちが、現在技術を発展させていったらどんな技術になるかという予測をしても意味がないんだ。むしろ十年後、二十年後においては、かかる技術があるべきであるというノーマティブな目標を掲げるべきであって、そのノーマティブな目標にこたえる技術は何と何が必要なんだ、その技術と現在の技術とを結びつけるにはどうしたらいいのかということを政策的に考えなければいけない時代に来ておるのだというようなことを言っている、技術予測をしている連中がアメリカにおりますけれども、私は次第にそういう姿になりつつあるんではないか、そういうような感じがしてございます。  〔3〕のところは、既に御存じのように、次世代産業基盤技術の研究開発制度として、昭和四十六年度から先生方に予算化していただいている一つ我が国技術立国政策の一環のテーマでございます。これがここに書いてございますように、新材料、バイオテクノロジー、新機能素子、この三つの柱が立っております。それからその次、創造科学技術推進制度は科学技術庁、科学技術会議が推進をしている、特に基礎科学技術に関する研究のテーマでございまして、この方はもう既に至るところで述べられておりますし、先生方もそれを御審査なさったと思いますので、時間も参りましたので一応私の話をこれで終わらさしていただいて、何かございましたらお答えしたいと思います。どうも失礼いたしました。
  4. 梶木又三

    ○小委員長梶木又三君) 以上で村野参考人からの意見聴取は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。質疑のある方は小委員長の許可を得て順次御発言を願います。
  5. 吉川春子

    吉川春子君 大変興味深いお話を聞かせていただきましてありがとうございました。技術革新が物すごい勢いで進んでいるということと、それから日本産業革命を経ていないという問題があって、ヨーロッパ諸国よりはかなり深刻な打撃がありそうだということもよくわかりました。  それで、一つお伺いしたいのは、先生が出されておりますように、産業ロボットは敵か味方かという問題なんですけれども、もし敵だとすると、どういう点が敵になるのか、あるいは産業ロボット味方だとすればどういう点が味方なのか。特に失業問題、産業革命のときにも打ち壊わしなどが起こったわけですけれども、今どんどん技術革新があって、特にFAなどがどんどん導入されてかなり労働者の数が減っているわけですけれども、そういう面からロボットが敵なのか味方なのか、両方の面でちょっと教えていただきたいと思うんです。
  6. 村野賢哉

    参考人村野賢哉君) お答え申し上げますが、大変むずかしいテーマでございまして、これは特に日本人の中での産業ロボットを敵と考える議論というのはまだ非常に未熟でございます。  それは先ほど申し上げたような経験がないこともございますけれども、現在のロボットはまだどちらかと申しますと頭脳的な部分が少のうございまして、比較的手足の技能労働にかわるものが多いのでございますけれども、特にヨーロッパなどで気にしておりますのは、次の人間の頭脳の部分がかなり組み込まれた高度の知能ロボットというものに焦点を絞ってきておりまして、その知脳ロボット領域になりますと、まさに今から五十年ちょっと前にチェコの劇作家のカレル・チャペックが書きました「ロボット」という話源になっておりますけれども、「ロボット製造工場」という一つの戯曲がございますけれども、その中に書かれているように、最後にはロボット人間に対して反逆して人間を皆殺しにするというストーリーなんでございますけれども、結果的にはそういう方向に行きはしないかということを一つ恐れているところでございます。  日本の場合は、ロボットを非常に積極的に推進しているのは、要するに、過酷な労働をロボットによって置きかえることができる。現に塗装とか高熱作業とか、非常に深いところへ人間が入ると高圧の中にさらされるとか、そういう、人間が作業するには非常に過酷な労働になるところをロボット化するということによって、非常に人間の方がむしろ苦役から解放されるという積極的な意味で、日本ではこのロボットを非常に評価しているわけでございますが、ただ、今申しました知能化が進むことによって何が起こるかということについては、まだ十分に検討が進んでおりません。  ちなみに申し上げますと、先ほども御紹介しました早稲田の長谷川教授によりますと、彼はヨーロッパをずうっとロボット研究を視察して帰ってきて、彼が私に言いますのは、いや、日本ロボットの先進国だと思ったらとんでもないぞ。西ドイツへ行ってみると、日本よりははるかに進んだ研究を大量に研究投資をしてやっている。それは西ドイツがねらっているのは次の知能ロボットだ、今の手足ロボットではなくて知能ロボット研究ドイツは、一方ではロボットを批判しながら、一方では非常な研究を進めているぞということを言いまして、日本では早稲田と東京工大が割合に先進大学なんですけれども、その研究費がせいぜい企業からお金をいただいても一億になるかならないかですね。  それに対しまして西ドイツの各研究所、大学は数十億の金を使っているということを見てきまして、むしろロボット研究は、この先を見ると西ドイツの方が進むぞというようなことを言っておられる方もおられまして、そういう意味で、西ドイツなどが見ておるのは、知能ロボット時代を見て、現在の産業ロボット一つの俎上に上げているという感じがいたします。その点については、知能ロボット時代人間社会がどうなるかということについての研究はまだ未熟でございます。
  7. 真鍋賢二

    真鍋賢二君 先生のお話で、科学技術文明のお話を当初なさったわけでございますけれども、 あえて、先生が科学評論家であるということで、私もこの問題について科学と技術の分野を少し分けて考えてみる必要があるのじゃないだろうか。今、後半は技術だけの問題についてお触れになりましたけれども、ですからサイエンスとテクノロジーの分別が必要じゃないだろうかと思うわけですね。  それで、先生最後のお言葉の中に、人間は創造性しかこの世紀には残らないというようなお話であったわけでございますけれども、私はそれでいいのじゃないだろうか。技術世界であれば、終局はそういう形になっていかなきゃならぬ。サイエンスとテクノロジーの一つのサイクルだと、こう思うわけでございますね。ですから、今の技術時代は、やはり科学の世界から何十年か後に受け継いだその集積技術であろうと思うわけでございますから、その組み合わせが存分にできればそれで一つのテクノロジーの世界は成をおさめたんじゃないだろうか、こう思うわけでございます。  ですから、科学の世界の創造性を今後とも生かしていくというのが日本のこれから生きていく大きなテーマじゃないだろうかとも思うわけですね。ですから、そういう点についての私は先生の考えをもう一つ科学評論家としての立場からお聞きしたいわけでございます。
  8. 村野賢哉

    参考人村野賢哉君) お答えします。  これ一つは、日本よりかなりそういう面で先進国であるアメリカの歴史の中で今のようなことを拾ってみたらいいかと思うのですけれども、もう御承知と思いますけれども、一九六九年に、当時のアメリカの大統領のニクソンさんの諮問委員会一つの報告書を出したのがございます。これは六九年七月から七〇年の六月にかけてやった研究で、一九七〇年の七月にリポートが出ておりまして、これは日本語訳も出ております。  これは「ナショナルゴールリサーチスタッフ」というところのリポートでございまして、均衡成長を目指して、質を伴った量という、「トワードバランスドグロースクォンティティウィズクォリティー」というリポートでございますが、これは高度成長期の末期において、アメリカはなお成長を続けるべきか否やという諮問に対する一つの報告書でございますけれども、その中で非常に興味のあることが述べられておりまして、これの一つのコメントとしまして、科学や技術に対する価値観の変化についての一つのコメントなんですけれども、今日アメリカにおいては、科学とか技術というものに対して価値観の変化が起こっていて、それに対する本能的ななれとか、依頼感というものが、アメリカの技術の高度発達時代に、技術革新時代はいつの間にか非常にならされて、技術の発達によって非常に我々は便益を得てきた、非常に豊かになったというふうに考えていたのが、ここへ来て物質的な繁栄が頂点に達したことから、技術の恩恵を受けている人々の間でも技術不信感が高まっているということをここでは言っているわけです。  そしてこれは技術だけではなくて、科学全体にも及んでいる。「科学知識を持ったことが、思わぬ結果を生んだことや、誰も住んでいない宇宙を知ろうとして大きな投資をしたことなどは、余りにも多くのことを知った現代文明の弱点を示している」というような言い方をしまして、つまり知り過ぎたことによってかえって大きな荷物をしょっているということなんですね。この中で、非常におもしろいことをこの報告書のまとめのところで言っているのは、知り過ぎた人間は、知らないことに恐怖を感じるようになった。大したこともない情報に対しても、すぐに信頼してしまうようになっている」云々と書いてございまして、つまり未来の非常に高度に情報技術の発達した社会の中における未来の人間たちというのは、余りにも多くのことを知り過ぎたために、今度は、まだ何か知らないんじゃないかということに対して非常な恐怖感を抱くようになるんではないかということがここに述べられておるのですね。  これは、七〇年の報告でございますから、六九年末にやった報告でございますから、まさにもうすでに十五年から時間がたっているわけでございますが、しかし、そのときに二十一世紀を予想してこういうことを言ったわけですね。その状況が私など今、エレクトロニクス技術、情報技術の発達を見ておりますと、最近のようなINSというようなことを取り上げてみておりましても、むしろ先ほどの西ドイツ議論になりましたように、コミュニケーション・テクノロジーがリベレーション・オア・ドミネーションというようなテーマを掲げた、つまり人間にとって本当に自由解放になるのか束縛になるのかということを考えてみろということになったわけです。  現在の我が国の電話のシステムなどは、御存じのようにかけ手側に一〇〇%権利を与えております。つまり皆さん方にしても私どもにしても一日の予定を持っているのに、朝突然割り込んでかかってきた電話の一言によって一日の予定が狂わされるということはしばしばございます。つまり電話の受け手側に、情報の受け手側には全くその権利がない、送り手側に一方的に権利がある、あるいはパワーがあるというようなシステムになっておるわけでございます。  これほど電話が普及してまいりますと、そのことに対する非常に大きなクレームがついてまいりまして、御存じのように、今、電電公社では逆に受け手側に何とかして権利を与えるようなシステムに変えたいということを、つまりだれからかかってきたかがわかるようにするとか、だれにかけたかがわかるようにするとか、料金の内訳を出せというような要望もあったのですけれども、今は、一方的に受け手側はだれからかかってきたかもわからない電話を受けなきゃならないという仕組みを、あるいは間違い電話がかかってきたのも出なきゃならないという仕組みを何とかして直さなきゃいけない。つまり、受け手側にウエートを置いた技術開発をやりたいというのが一つの新しい目標になってきておりますが、そういうような技術というものを伴ってこないと、技術の進歩そのままが人間に非常に幸せをもたらすということにはなりにくい。それは日常茶飯の技術であって、そういうことになりかねないと思うわけです。  先生御指摘のように、科学と技術とは本質的に違うものでございますから、これを同断にすることはできませんけれども、今日の技術というものは、科学的な背景を持った技術でなければ今日の技術とは言えなくなっておりますものですから、科学技術と私は一つにまとめて申しましたのは、科学的技術、まあ科学技術庁ではよく科学・技術とかいろいろ議論がございますけれども、この場合は、私は科子を背景にした技術という立場で申し上げたわけでございます。真理の探求という意味では、先生おっしゃるように、本来科学というものは別に独立しているものでございます。  まあ余りお答えにならなかったかもしれませんけれども、その意味人間の頭脳のクリエーティブだけが残されていくということに対して、果たして人間がそれではどういうことをしなければいけないのか。  余計なことになりますけれども、現在ボーイング附というジェット機が飛び始めましたけれども、これによって、日本のパイロットが乗っておりまして非常に大きな問題が起こり始めております。これは全日空のキャプテンにも聞いておりますんですけれども、このボーイング767の操縦席というのはコンピューターによって装備されておりまして、従来のようないろいろな計器が姿を消しまして、ブラウン管の上にあらわれるようになりました。そういうことで、パイロットがオフィスオートメーションを扱うようなかっこうになってきているんです。非常に自動化が進んでおるわけです。ところが、このシステムを設計したのはアメリカ人でございまして、ところが、それを扱う日本人の場合は考え方が非常に違うという問題が一つ今情緒的に起こってきておりますね。  たとえばふぐあいが起こりますと、A、B、Cの段階でそこへ表示されてまいりまして、今すぐ 直さないと危険だぞというランク、それをAランクとしまして、Bは、今すぐ直さなくてもいいけれども、いずれは必ず直さなきゃいけないというランク、それからCは、正常ではないけれども特に問題にする必要はないというふうなランクで情報を出してくるわけです。ところが、日本人のパイロットはそのCランクの情報が出ても、すぐ直せと要求してくるというんですね。そういう、さっき冒頭申しました文化特性ということが問題になるというのはそういうことなんで、つまり日本人の設計したシステムならば、日本人として情緒的にもなじむんですけれども日本人と文化の違った人たちが設計したシステムには日本人はなかなかなじみ切れないという問題が起こってきております。  過去の日本航空の事故を見ましても、二人の操縦士あるいは一人の航空機関士と、二人ないし三人いながら――アメリカが組んでいるこの操縦席のシステムというのは人間同士がチェックし合うようになっているわけです。キャプテンと副操縦士はそれぞれ独立した機能を持っていて、役割を持っていて、お互いの仕事をチェックしているんですね。ところが、日本人の場合は二人ないし三人が一つになってしまっておりまして、チェック機能が果たされていない、そのために起こった事故が過去に幾つもございます。クアラルンプールの事故なんかそのために特別のセーフティーリコメンデーションがマレーシア政府からつけられたくらいでございまして、規則違反をやっているキャプテンに対して副操縦士が何のクレームもつけていない、修正すべくチャレンジをしていない、そこにこの飛行機の事故の原因があるということを、わざわざこの事故報告書の最後に述べているわけでございまして、こういうシステムと、システムを組んださっきの人間のまさに頭脳の部分と、それからそこを扱う人間のやはり頭脳の部分とがうまく機械を介在してなじんでおりませんと、思わぬ形が起こり始めている。そのくらい機械の能力が今大きくなりましたものですから、ちょっとした人間振る舞いが非常に大きく増幅をされるという姿が飛行機の操縦席にあらわれ始めておりまして、その点が今度日本航空もこれを使いますけれども、非常に大きな課題になりつつあるようでございます。  以上でございます。
  9. 稲村稔夫

    稲村稔夫君 大変示唆に富む御意見いろいろとお聞かせいただいておりまして感謝を申し上げておりますけれども、その中でちょっと二つほど御意見を伺いたいと存じます。  一つは、第五世代のコンピューターというのがいまいろいろと脚光を浴び始めてきておりますけれども、先ほど先生のお話の、知能ロボットのいわば中枢部分ということになるわけでありましょうけれども、こうした第五世代のコンピューターとその知覚のセンサーの発達、技術発達ということで、本当にそういう知能ロボット人間を超えることがあり得るんだろうか。その辺のところがいろいろと議論になっているわけでありますけれども、本を見れば見るほどわからないような感じもいたしますし、先生のひとつお考えをお聞かせいただきたいと存じます。  それからもう一点は、我が国経済社会構造がいわば二重構造というふうに言われてきているわけでありますけれども、特に中小零細企業というものが経済の基礎を支えているという状況の中で、こうした技術の進歩というものがこれらのところにどんな影響を及ぼしていくであろうか。特に先ほどのお話のあれでいけば、質的にも知識的にも随分違いますけれども、言ってみれば、ドイツの場合のマイステルみたいな役割を中小企業のおやじさんがしょっておるというのがまあ今の日本かもしれない、そんなふうにも思いますし、そして資本力が非常に小さいという、そういう中で技術革新の方がどんどんと進んでいく。そうすると、それが日本の現在の経済社会の構造に根本的な大きな変化をもたらすんじゃないだろうか、そんなことも思われるんですけれども、その辺はどういうふうに見たらよろしいでしょうか。  その二点、ひとつお考えをお聞かせいただきたいと存じます。
  10. 村野賢哉

    参考人村野賢哉君) まあ後半の方はちょっと私の荷に負えないかもしれませんけれども最初の第五世代コンピューターと俗に言われておりますものは、現在、御存じのように、次世代コンピューターの開発機構がございまして、そこが中心になって、まだブレーンストーミング的な、一体そういう将来の第五世代コンピューターと言われるようなものに何ができるだろうかということを盛んに議論している段階のようでございます。  だんだんいろいろ聞いてみますと、このグループの中に日本人だけではなくて外国人も入っておりまして、いろいろ聞いてみますと、特に欧米人たち日本人と、こういうコンピューターに対して何をさせるべきかとか、どんなことができるかという議論が非常に食い違うそうでございます。ですから、これも私はもっとたくさんの外国の人たちを入れて、日本の第五世代コンピューターの国家的な開発というのは非常に技術摩擦の一つのターゲットになりつつございますものですから、こういうものは日本人だけじゃなくて、そういうキャラクターの違った多くの民族人たちに入ってもらって、もっと研究すべきだと思うんですね。  そうしませんと、私たちは、先ほど来申し上げているように、宗教的な――先ほどは申し上げませんでしたけれども、さっきの産業ロボットの中でも宗教的な背景というものを私たち抜きにしてこの問題を考えておりますから、欧米の人とか、特にこれからのアジアとかそういうところの人たちと考えるときは、必ず宗教的な考え方というものが非常に入ってくるものですから、そういうものとうまくインテグレートできるかどうかというところまで詰めていきませんと、日本人の考え方だけで、割合日本人は何といいますかプラグマティズムでございますから、よく働いてくれればいいじゃないかというようなことでやっておりますと、いろいろなところで問題が出てくる。  今やっておりますのは、今まで人間の頭脳というのもどっちかと言うとコンピューターみたいだろうというふうに考えられていたんです。よくディジタル処理という言葉を使いますけれども一つ一つのトランジスタは人間の頭の細胞の一つに相当していて、その細胞というのは、人間の目の光でも皆パルスで出てきますから、電気のパルスで出てくるそのピクピクと出てくる電流を、ちょうどトランジスタのように通したり通さなかったり、通したり通さなかったりするスイッチみたいな役目を細胞はしているんだ。ですから、トランジスタのうんと小さいのが脳の中に集中的に、脳と同じ大きさの中に入るようになれば、人間と同じ頭脳ができるんじゃないかということを言われてきたわけです。  ところが、そういうコンピューターみたいにイエス・ノー、イエス・ノーの積み重ねでなくて、人間の頭脳はどうもアナログ型である、つまり要するに代表的な例は、今第五世代でやろうとしているのは――コンピューターというのは何か覚え込ましておかなければ、問題を出したときに答えを出してくれない。知らないよって、これはノーと答えちゃうわけですね。全部ステップを踏んでいくわけでございますから、これは三段論法的にこれはこうだ、だからこうだ、だからこうだというふうにちゃんと覚え込ましていて、そのとおり答えを出させるなら出てくるけれど、そうじゃなくて、横町から突然飛び込んで、コンピューターに覚え込ましていない問題を解けと言ったら全部ギブアップしてくる。ところが人間は、それをやらないと言うわけです。今まで知らないことも知らないと言わないというんです。ほかのいろいろな記憶を思い出して、できるだけその課題に近い答えを出す努力を人間の頭脳はする。それに近いことをコンピューターにやらせようとしているのが今の第五世代コンピューターなんです。  そのためには、よく非ノイマン型と申しますけれども、そういうステップを踏んでいくんじゃなくて、横から自分でバイパス回路がとれるような、 そういう回路構成を持ったようなコンピューターをつくりたいというようなことになってまいりますと、これは一つ技術者が非常に興味を持っている対象なんですね。技術者というのは、さっきの科学者と違って技術者というのは、夢というのはできるだけ人間に近づけたいということでございますから、人間の頭脳もつくりたいわけですね。そういう方向で技術者が行っているわけです。だけれど、それと具体的にできることとは別でございますものですから、将来の目標としては人間の頭脳と同じものをつくりたい、しかしそれまで一歩一歩近づいていくんだということで、今いろいろな議論を展開して、できることからやろうとしているわけです。  さっきのCアンドCの小林宏治さんのあれは、それが一応できたという前提にして、かなりできるだろうという前提にしてクリエーティブしか残らないんではないかと言われている。ところがわれわれ仲間の議論では、人間に創造性があるのかという議論もあるんです。全部学習じゃないのか。学習がなくて人間にそもそも創造性があるのかなという話がありまして、それがないんだということになると何もやることがなくなってしまうおそれがございますので、せめて創造性ぐらいは残しておいてくださいよと言っているのですけれども、どうも多くの発明家を見ましても、さっき申しましたエジソンでございましても大体改良なんですね。だれかのやつを全部ヒントを得ておりますので、どうも人間に完全な創造性というのはあるんだろうかというところまでまいりますと、そうするとコンピューターでも相当できるんじゃないかという人もございまして、そういうことを前提にしてみますと大変なことになる。  それから、もう時間もございませんので、さっきの中小企業の問題ですけれど、先ほどのマイスター制度を見ておりましても、ドイツ家内工業がだんだん廃れてまいりまして、今や大資本の大企業のもとのサービスステーション化しておりますね。御存じのように、ドイツマイスター資格を持たないと店の経営者になれないわけでございますから、皆マイスター資格を取るのですけども、結局はジーメンスならジーメンスの製品を取り扱う代理店になっておりまして、そこのサービスステーション化しているんですね。中小企業として残っているのはレストランとかクリーニング屋さんとか、そういうものは、なかなか大企業化しにくいものは残っておりますけれど、やっぱり非常に設備投資にお金がかかる領域になってきますと、次第に中小企業も大企業のある一部の役割を担うというような形に変わってくるんじゃないかというふうに思っておりますけれども、最近の農業を見ておりましても、ほとんど装置産業に農業が変わってきているものですから、個人事業では農業経営が困難になっていると同じような形が中小企業にもあらわれつつあるんじゃないかという感じが私にはしておりますのですけれども
  11. 梶木又三

    ○小委員長梶木又三君) 以上で村野参考人に対する質疑は終わりました。  村野参考人には、お忙しい中を本小委員会に御出席いただきましてありがとうございました。ただいまお述べいただきました御意見等につきましては、今後の調査参考にいたしたいと存じます。小委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。  午前の調査はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。    午前十一時四十分休憩      ―――――・―――――    午後一時二分開会
  12. 梶木又三

    ○小委員長梶木又三君) ただいまから国民生活経済に関する調査特別委員会技術革新に伴う産業雇用構造検討小委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、技術革新に伴う産業雇用構造等に関する件を議題とし、先端技術一般について参考人から意見を聴取いたします。  まず、新技術開発事業団理事長久良知章悟君から意見を聴取いたします。  この際、久良知参考人一言あいさつを申し上げます。  本日は御多用中のところ、本小委員会に御出席いただきましてありがとうございます。本日は、先端技術一般につきまして忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  また、議事の進め方といたしましては、まず四十分程度意見をお述べいただき、その後二十分程度委員の質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと存じます。よろしくお願いいたします。  それでは、久良知参考人にお願いいたします。
  13. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) 新技術開発事業団の理事長の久良知でございます。  きょうは先端技術一般につきましてお話を申し上げるわけでございます。  昔から十年一昔という言葉がございますが、私ども感じからいたしますと、この言葉は昔の言葉でございまして、先端技術世界について言いますと、まさしく日進月歩と申しますか、日々新たなりという感じが強いのでございます。先端技術の進歩のスピードというものは、非常に速いと常に感ずるのでございます。  御承知のように、日本の将来が科学技術の振興のいかんにかかっておるということは御異存のないところであろうかと思うのでございます。現在幸いに、日本工業製品が国際市場におきまして非常に強い競争力を持っておるのでございますが、余りにも強いがゆえに、いろいろ貿易摩擦その他の問題が起こっております。技術の大部分は導入技術に頼ってきたのでございますけれども、将来につきましては、自分で開発をした自主技術というものを中心にしていかなければ、非常に苦しい立場に立つのではないかと考えられるのでございます。  きょう先端技術ということでお題をいただいたわけでございますが、私といたしましては、技術開発を中心にいたしまして、先端技術がいかにあるべきかという点についてのお話を申し上げたいと思います。  話す内容につきましては、お手元に目次の形で差し上げてあるのでございますが、若干盛りだくさんになり過ぎた感じもいたすのでございまして、中には少し簡略化してお話をしなければならないのではあるまいかというふうに考えるのでございます。  まず最初は、最近の科学技術の動向でございます。その一つといたしましては、やはりさっき申し上げました急速な発展にあるわけでございまして、アメリカのアルビン・トフラーが、現在のハイテクノロジー、特に情報を中心とする先端技術の現状につきまして、これは第三の波であるということを申しております。  第一の波は、御承知のように農業革命であります。それから第二の波というのは、ジェームズワット蒸気機関発明から起こりましたいわゆる産業革命でございます。  農業革命は有史以前のことでございますけれども、恐らくこの革命というものは数千年という長い期間を要したろうと推定をされるのでありますし、それから第二の産業革命も、百年の単位をもって数える長期間を要したのでございますが、第三の波というのは、恐らく十年を単位にする期間ではあるまいかと言われるのでございまして、非常に急激な変化というものが予測されるのでございます。  第三の波の中心になります情報、特に電算機について考えてみますと、二十年ぐらい前には、電算機というものは、少し大型のものはこの部屋いっぱいになるぐらいの大きさであったのでございますが、昨年私IBMの研修に行き直したのでございますけれども、そのときに、二十年前にこの部屋いっぱいあった計算機と同等以上の能力のあるものが、机の上に乗る程度の大きさになっておりました。これは近いうちにスーツケースぐらいの大きさになり、あるいは弁当箱程度の大きさになるのではあるまいかということも十分予測をされ るのでございますこれが、第一の特徴であろうと思います。  それから第二の特徴といたしましては、量から質というのが一つの著しい点でございます。  戦後産業構造の変化というものを振り返りてみますと、二十年代は、いわゆる三日というふうに言われました生活材の産業がチャンピオンでございましたし、それから三十年代につきましては、素材産業と言われる鉄鋼でありますとかセメントというふうなものがチャンピオンでございました。それから四十年代は、自動車だとかテレビを中心にいたしましたいわゆる組み立て産業というものが中心でございました。  現在五十年代は、いわゆる先端技術産業と申しますか、LSIを中心といたしますエレクトロニクス産業が中心になっておるのでございますし、来るべき六十年代には、これはソフトあるいは情報というふうなものが中心になるというふうに言われておるのでございます。すなわちトンの時代からキログラムの時代になりまして、今やグラムの時代である。将来は重さのないものが一番中心になるであろうというふうに言われる。量から質へ重点が移っておるというのが第二の特徴でございまして、一般にいわゆる軽薄短小というふうな言葉が言われるのでございます。  それから、その次の特徴といたしましては、機能の高度化という点が挙げられると思います。身近なもので申しましても、最近の自動車あるいは洗濯機、カメラというふうなものは、その機械の中に小型の電算機を内蔵いたしまして、非常に機能が高度化されてきておるのでございます。そういう先端技術の中で、特に技術的に高度化されておりますものをハイテクノロジーというふうに呼びまして、それにはどういうふうなものがあるのかという点について申し上げたいと思います。  その第一は、電算機やVTRなどに代表されますエレクトロニクス、特にマイクロエレクトロニクス技術でございまして、LSIから超LS一へと、身近なものといたしましてはマイクロコンピューターでありますとか、パソコンでありますとか、それからオフィスオートメーションの機器に代表されるようなものでございます。それから最近は、レーザーと言われる光の技術を取り入れまして光通信あるいはレーザーディスク、オプトエレクトロニクスと言われる方向に発展をしておるのでございます。また、この機械と結びつきまして、産業ロボットに見るような、いわゆるメカトロニクスの分野においても非常に長足な進歩が見られるのでございます。  それから二番目は、新しい素材の開発でございまして、ファインセラミックス、それから新しい高分子材料あるいは複合材料というふうなものが非常に進歩をいたしました。また機能材料と申しまして、太陽電池でありますとか、それから身近なものでは電子ライターというのがございます。そういう従来の構造材料ということではなくて、いろいろなそういう機能性を重視して使うというふうな機能材料というものがあらわれておるのでございます。  それから、三番目といたしましては、生命工学、バイオテクノロジーでございます。これは生物の知覚でありますとか、代謝でありますとか、免疫、増殖、運動というふうな生命現象の原理を工学の中に取り入れまして、すぐれた効果を得ようとする分野でございます。遺伝子の操作でありますとか、それから微生物などの大量培養あるいは酵素、微生物の代謝反応の利用、それからバイオリアクターの技術というものが中心になっておるのでございます。こういう先端技術というものが既にかなり普及をいたしまして、国民生活並びに産業に対しまして少なからぬ影響を及ぼしておるのでございます。  国民生活へのインパクトといたしましては、御承知のようにテレビの影響というものがもう私ども家庭にかなり及んでおるのでございます。近く予想をされます情報の公衆化、例えばテレビ電話でありますとか、テレビ会議でありますとか、あるいは各種のデータサービスの総合化というふうなものを考えますと、非常に大きなインパクトが将来及ぶのではないかと思われるのでございます。ちょっと考えましても家庭の端末と、それから民間の各種の情報センターというものが結ばれますと、商店、デパートでの商品というものをテレビで見て買うことができるわけでございますし、それからそれに対する支払いも、これも電子的に決済をされるというふうな時代が間近に迫っておるのでございます。  それから防犯でありますとか、火事でありますとか、それからガス漏れというふうないわゆるセキュリティーの確保につきましても、これは外部のセンターと家庭の端末を結ぶことによりましてはぼ完全に維持することができるのではないかと考えられるのでございまして、こういう家庭でのオートメーションというものがトータルに行われますと、我々の生活というものがかなり大きく変わるということになるわけでございます。  それから次に、産業へのインパクトでございますが、既にこれもかなり大きなものが出ておるのでございまして、現在いわゆる電算機でありますとか、VTRでありますとか、テレビでありますとか、複写機でありますとか、それからオフィスオートメーションでありますとか、そういう先端技術を使う関連産業というものの成長率がかなり高いものにありますのに対しまして、鉄鋼でありますとか、石油でありますとか、化学、紙パルプといったような、従来から伝統のある基幹産業というものは成長率が低いというよりは、むしろ停滞をいたしておるのでございまして、その結果、今の産業分野おのおのの間から業種の転換というふうなことが盛んに行われております。  例えば電線会社が光ファイバーに進出をする、あるいはセメント会社がファインセラミックスを始めるというふうに、従来からの自社の技術の延長上で先端技術の分野へ入っていくという場合。それから、電卓会社などが、電卓の成長が鈍ってきますとこれがディジタル時計に変身をする、あるいはまた時計会社がマイコンでありますとか、オフィスオートメーションの機械に進出をするというような、産業として脱皮変身をするような業種の転換。あるいはまた自動車会社がセラミック会社と提携をいたしましてセラミックエンジン着手をする、あるいは合成繊維の会社がマイコン会社と結びをしてマイクロエレクトロニクス世界に進出をするというふうな、異業種への参入というような業種の転換がかなり多くなってまいっております。こうなりますと、従来から我々が常識的に持っております各産業分野というものが混沌といたしてまいりまして、いろいろな統計その他に使われております産業分類というふうなものを近い将来変更する必要があるのではないかというふうに考えられるのでございます。  次に、先端技術を円滑に進めるために国際協力が必要だということを申し上げたいと思います。  国際協力を進めることによって将来の技術開発を有効に進め得るということは明らかなことでございますが、この点につきまして、一昨年、五十七年の六月にフランスのベルサイユでございましたサミットの場で決定をされまして、先進国の間で先端技術についての技術協力をしようということに相なったのでございます。  日本は、太陽光発電あるいは光合成あるいは先端ロボットという三つのフィールドにつきまして技術協力のリード国の責任を引き受けたのでございまして、これについて着々として進められておるのでございます。実際面におきましては、やはり日本の地理的な、欧米から遠いという問題、それから参加国の間にある程度技術格差があるというふうな問題、それから分野に対します具体的な各国のニーズというものにやはり若干の相違があるというふうな、いろいろな問題があるようでございます。  次に、創造的科学技術育成の必要についてお話を申し上げたいと思います。  冒頭に申し上げましたように、ただいまの段階では日本工業製品というものが国際市場で非常に強い力を発揮しておるのでございますが、その 反動といたしまして、現状では外国から日本技術を導入するということがだんだんと難しくなってまいっております。  最近の問題といたしましても、外国の学会、先端技術の学会に日本からの出席を制限しようというふうな動きがございましたり、それからまた先端技術の関連分野の会社日本からの出資を制約しようというふうな動きがありましたり、それからまた直接的には日本に対する技術輸出をチェックしようというふうな動きが認められてきておるのでございます。そういう点を勘案いたしますと、こういう動きというものは将来厳しくなることはあっても緩むことはないのでございまして、どうしても今後につきましてはやはり自主技術を確立する必要がある。そのためには、技術の独創ということについてもう少し国としても力を入れる必要があるのではないかと考えられるのでございます。  しからば、日本におきます先端技術開発の現状というものはいかなることに相なっておるかということになるわけでございます。  日本の国内での科学技術にどのくらいの研究費が投ぜられておるのかということは、総理府が毎年統計をとりまして発表をいたしております。それによりますと、昭和五十七年に約六兆五千億の研究費が投ぜられたのでございます。これは五十六年に比べますと、名目で約九%、それから実質で五・四%の増加に相なっておるのでございまして、対GNPで二・四四%ということになるのでございます。  この中で非常に著しい特徴といたしましては、この六兆五千億の金の中で政府が負担をいたしましたのはその約四分の一でございまして、四分の三はこれは民間の自主的な研究でございます。これは欧米で見ますと、大体政府が五〇、民間が五〇ということになるのでございまして、その間に非常に大きな違いがあるということが一つの大きな問題点でございます。したがいまして、政府が負担をしておる科学研究費というのは、対GNPで見ますと約〇・六%ということに相なるわけでございまして、現在問題になっております一%というのに比べましてもかなり低いところにあるというのが一つの問題点であろうかと存ずるのでございます。  これは全体としての科学研究費でございますが、その中で先端技術開発にどのくらいの予算が投ぜられておるかということは、これは直にこれをあらわす統計はないのでございます。予算書その他から概算をいたしますと、約一兆六千億の国の予算の中の科学研究費、その中で大体基礎研究が五千億、その五千億の中の約千億が先端技術であろうかと考えられます。また、応用研究につきましては総額五千億の中で約二千五百億が先端技術に投ぜられておるというふうに推定をされます。それからまた、工業化に直接結びつきます開発研究につきましても、大体総額五千億の中で千五百億から二千億くらいが先端技術開発に向けられておるということでございまして、総計におきまして約五千五百億というくらいの金額に相なるのでございます。  次に、乏しいこの予算を有効に使いますためには、産業界、学界、それから政府機関等の緊密な協力というものが絶対にこれは必要になってくるのでございます。従来、産業界と大学との共同研究あるいは提携というふうな問題につきましては、若干大学の先生の間に産業界との癒着ということを警戒する動きがございまして、必ずしも円滑にいきがたかった面もあるのでございますが、昨年の九月に文部省の方で踏み切られまして、積極的に今後産学あるいは産官学の共同研究を進めていこうということにされたのでございまして、昨秋以来十三の国立大学で、二十六の会社との間で二十八のプロジェクトが発足をいたしまして、電子工学、生命工学あるいは新材料開発といった先端企業のプロジェクトが着々として進んでおるのでございまして、これの効果というものが将来見るべきものがあろうというふうに考えるのでございます。  それからその次に、基礎研究、特に創造的研究の強化の必要性について申し上げたいと思います。  るる申し上げましたように、日本は導入技術の育成には非常に強い、まあ特技とも言ってよいものを持っておると申してもよかろうかと思います。これはどういうところに淵源をするかということになるわけでございますが、私はやはり日本人というものが農耕民族的な国民性を持っておりますので、これから社会というものがほとんど完全な縦型の社会に編成をされておりますし、それが終身雇用制でありますとかあるいは単一の労働組合でありますとか企業に対する忠誠心というふうな形であらわれておるのでございますが、これが日本工業製品の品質を高める、信頼性を高める、あるいは低価格で大量生産を可能にするというふうないい結果をもたらしておりますと同時に、やはりこのこと自身が日本人の独創性というものにある程度制約を加えておるというふうに考えるのでございます。したがいまして、自然発生的にこのまま放置をいたしまして独創的な基礎研究というものが行われるようになるということは考えがたいのでございまして、やはり政府の手でこういう独創的な基礎研究が行えるような場というものをつくらなければいけない、将来の科学技術立国のためには絶対に必要であるというふうに考えるのでございます。そういう観点から、昭和五十六年に創造科学技術推進事業というものが新技術開発事業団に課せられたのであると考えるのでございます。  次に、それでは私ども事業団というものが、技術開発あるいは創造科学技術事業についてどういうふうな役割を課せられておるのかということをお話し申し上げたいと思います。  今から二十二年前、昭和三十六年に、やはり当時の有識者によりまして、すでに日本工業技術の中心が導入技術であるということが認識をされまして、この現状を打破するために、一つの方法といたしまして、大学でありますとか国立の研究所でありますとか、そういうところでなされました研究成果というものを産業界と結びつけまして、実際に産業界で生かされるようにしようということで事業団が創設をされ、委託開発制度というものが生まれたのでございまして、自来二十数年にわたりましてそれなりの成果を上げてきたのでございます。その状況につきましては、お手元に差し上げてございます要覧にございますので、この場では申し上げないのでございます。  もう一つの創造科学技術推進事業につきまして、やや詳しく、残された時間を費やさせていただきたいと思います。  お手元にこういう緑色の資料が差し上げてございますが、この事業は、例えて申しますと、最近のトランジスタでありますとか電子計算機というふうな、産業の状況を一変するに足るような革新的な技術というものの芽を日本で見つけて育てようという事業でございます。こういう事業が成功するかどうかということは、これは一にそれを担当する人にかかっておるというのが我々の共通した認識でございます。日本におきましても、多少身内のひいきになるかと思いますが、ノーベル賞クラスと申しますか、いつノーベル賞を受けられても一向不思議でないというふうな科学技術者がある程度おられるのでございまして、私ども、国のニーズとそういう優秀な科学技術者と一致するフィールドにつきまして、こういう創造科学技術のプロジェクトというものを設定をしていっておるのでございます。  そういう人にプロジェクトの責任者として引き受けていただきまして、簡単に申しますと、五年間というふうな期間を定めまして、その期間中に、予算としては約二十億の予算を用意をいたしまして、ある程度自由にその責任者としてお願いをした先生に腕を振るっていただく。現在、ここに、お手元に差し上げました資料には六人の先生のお名前とプロジェクトの名前が出ております。そのプロジェクトでどういうふうなものをねらっており、どういうふうなやり方をしておるのか、またどういう成果を上げておるかというふうなこ とがかいつまんで書いてございます。詳しくお話を申し上げますと時間がございませんので、どういうことを現在やっておるのかということだけを申し上げたいと思います。  最初の「林超微粒子プロジェクト」といいますのは、物質を小さくだんだんに分けていきますと原子になるわけでございますが、この原子が数百あるいは数千というくらいの数集まりました非常に小さな微粒子というのは、物質とも違いますし、原子とも違う非常に特殊な性質を持つのでございます。例えば、金とか白金というふうな金属は二千度くらいに熱しませんと溶けないのでございますが、超微粒子にいたしますと百度とか二百度というふうな非常な低温で溶けるのでございまして、例えばそういうふうな微粒子をつくりますと、それをのりにいたしまして、例えば金の板二枚を張りつける、のりのように金属の板の間にそれをつけましてアイロンを当てると完全にそれが接着をするというふうなこともできるのでございます。そのほか、超微粒子については非常にいろいろな有効な性質があるのでございまして、そういう超微粒子をつくる技術あるいはそれを利用する技術研究をいたしておるのでございます。  それから、二番目の「増本特殊構造物質プロジェクト」と申しますのは、普通我々最近アモルファスというふうに申しておりますが、ガラスみたいに固体であって、原子が非常に不規則に存在をしておるという物質でございます。普通の固体は結晶をして規則的に配列をしておるのでございますが、融解した金属を急速に冷却をするというふうな方法でアモルファスという特殊構造物質をつくることができるのでございまして、そういう物質は非常に電気的あるいは磁気的にまたすぐれた変わった性質を持っておりますので、そういう物質をつくる方法、あるいはその利用の方法というふうなものをこのプロジェクトで研究をいたしております。  それから、その次の「緒方ファインポリマープロジェクト」と申しますのは、プラスチックに代表されますような高分子の化合物をいろいろな性質を設計をいたしましてつくり上げていこうという技術でございます。  それから、「西澤完全結晶プロジェクト」と申しますのは、最近、電子計算機に使いますLSI、超LSIというふうなものがこれは産業の米と言われるように重要なものになってきておるのでございますが、これはそういう素子に、エネルギーを少なくしてしかも計算のスピードを速めようと。そのためには、素子をつくる基盤になります材料の結晶というものを完全にすればいいということがわかってまいっております。そういうことから、シリコンでありますとかそれからガリウム砒素というふうな物質の欠陥のない完全なものをつくろうということを中心にいたしまして、また、そういうものができた場合にどういう素子に組み上げるかというふうなことを中心にして研究をやっておるのでございます。  それから、その次の「水野バイオホロニクスプロジェクト」といいますのは、バイオホロニクスという難しい名前が出ておりますが、「バイオ」というのは生物という意味でございます。それから「ホロ」というのは全体という意味でございます。それから「ニクス」の「ニ」というのは、これは個々という意味でございます。我々生物というものは、細胞でありますとか組織でありますとか器官から構成をされておりまして、そのおのおのの細胞なり器官というふうなものはそれぞれ別個の特性と申しますか、性質を持っておるのでございますが、全体としては非常に微妙な調和をした機能を営むことができるのでございます。これは我々いろいろな工学的なシステムにない生体の不思議な、精妙など申しますか機能でございますが、この機能の淵源を研究をいたしまして、そのまま工学にそれを持ってくることができないかということでございまして、これがそういう工学への応用だけではなくて、生理的には自己回復療法というふうな新しい治療技術に結びつく可能性があるというふうに言われておるのでございます。  それから最後に、「早石生物情報伝達プロジェクト」と申しますのは、生体が外部の環境に適応しながら生命を維持しておるのでございますが、外部の環境を受けまして、神経を通じて脳まで伝達をするわけでございますが、その伝達するメカニズムに従来から知られていない、いろいろな精妙な物質というものが存在をし、機能をしておるというようなことがわかってまいりました。その一つの例といたしまして、ここにプロスタグランジンというふうなものが挙げてあるのでございますが、この物質が非常に今までにない機能をする。また、この物質が脳の中にも存在をするというふうなことがわかってまいりました。こういうメカニズムを研究いたしますと、記憶や感情や睡眠、それから生体リズムというふうな仕組みも解明できる可能性があるのでございまして、またいろいろな不眠症でありますとか精神病でありますとか、それから老人ぼけというふうなものもある程度克服することは可能だというふうに考えられるのでございます。  こういうふうな、ただいま六つのプロジェクトを同時並行に進めておりまして、五十九年度にも、ただいま御審議をお願いいたしております予算の中には、もう一つのプロジェクトを増加する内容になっておるのでございます。いずれも研究途上でございますが、最初に申し上げました四つのプロジェクトは、既に発足をいたしまして二年程度過ぎました。やはり技術革新の芽を育てるというのが目的でございますが、現在のところ、まだ芽まではいってはいないのでございますけれども、将来芽になり得るような種子、種というものは、おのおののプロジェクトについてかなりな数が出てまいっておりまして、これから非常にこれの発展が期待をされるのでございます。  要は、この種を芽に育て、芽を苗に育て、苗を若木に育てるというふうな、これから前途遼遠な事業が控えておるのでございまして、私どもといたしましては、ぜひ将来の科学技術の中心になるような技術をこういうプロジェクトから育て上げていきたいというふうに考え、努力をいたしておるのでございまして、こういう事業に対しての御理解、御後援をお願いを申し上げまして私のお話を終わらしていただきたいと思います。
  14. 梶木又三

    ○小委員長梶木又三君) 以上で久良知参考人からの意見聴取は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は小委員長の許可を得て順次御発言を願います。
  15. 山内一郎

    山内一郎君 最後に発表されました共同研究の体制ですけれども、これは産業界はどういう程度に入り込んでいるのか、全然入っていないのかという問題と、日本人がアメリカへ行ってすばらしい研究をやっておりますね。どうして日本でできないのか。日本とアメリカの共同研究の体制というのは、根本的にどこがどう違うのかという点を教えていただきたいと思います。
  16. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) 最初の御質問でございますが、この事業研究が中心になるわけでございますが、事業団が研究所というのを持っておるわけではございません。いわゆる今はやりの流動研究という制度を採用しております。したがいまして、中心はやはり産官学の三者による提携でございまして、たとえば総括責任者をお願いしております先生が、その先生の責任によりまして大学あるいは産業界あるいはまた場合によっては外国からも研究者を引っ張ってまいります。それから研究の場も、大学の部屋をお借りすることもありますし、それから民間の研究所の施設をお借りするということもあるわけでございまして、産業界の理解と参加のもとにこの事業は行われておるというふうに申し上げてよろしいかと思います。  それから二番目の御質問でございますが、私は日本の今の社会というものが独創、特に科学技術上の独創というものを余り評価しないという風潮があるというふうな考えを持っておるのでございます。先ほども農耕社会的な傾向が強いということを申し上げたのでございますけれども、そういう社会では体制順応型と申しますか、一匹オオカ ミというふうなものを毛嫌いをする、あるいは排斥をするような空気がどうしても出てくるのでございますが、独創的な仕事をする人というのはどちらかといいますと組織になじみがたい、そういう型の人を受け入れる素地が日本の社会と申しますか、ある場合には産業会社の中にも少ないというふうな感じがいたすのでございます。  その点アメリカ等に行っておられる方々は、独創に対してはそれなりの評価、待遇を受けておるということではあるまいかと思います。ですから、私どもは今度の創造科学技術推進事業を進めます意義も、そういう人を快く受け入れて、そういう人に独自の腕を発揮できるような場をつくってあげたいというのが一つの基本的な考えでございます。
  17. 山内一郎

    山内一郎君 最後の、場というのは、今事業団がその役をやっておるということになるわけですね。
  18. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) そういうふうに考えております。
  19. 山内一郎

    山内一郎君 ありがとうございました。
  20. 真鍋賢二

    真鍋賢二君 それに関連してでございますけれども、先ほどお話のあったように、ノーベル賞候補がいつ出てもいいような状態をつくり出さなきゃならないというお話であったわけでございますけれども日本のノーベル賞の受賞者を見てみましても、それから諸外国の対象者を見てみましても、大体若いときの頭脳というものがそういう独創性を生み出しておると思うのですね。ですから、やっぱり二十代とか三十代の前半というものは、そういう必要な年代じゃないだろうか。そういう人たちの独創性を生かす場というものを、この事業団で予算化のときに大いに私は取り入れていただいたらいいのじゃないだろうかという感じがするわけなんですね。  それから、農耕民族云々ということで、日本人というのは独自の仕事がしにくいという、またそういう創造性を生み出しがたいということだったならば、やはり共同研究とか開発とかいうような形で一つのプロジェクトを完成するような状態をつくり出していくということも、これは民族一つの特徴ですから、そういうものを私も大いに生かすようにしていった方がいいのじゃないだろうか、こんな感じもするのですけれども、どんなものでございましょうか。
  21. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) 全く同感でございまして、そういう方向を生かすために、プロジェクトリーダーという方にはそういう斯界の権威者という方々をお願いを申し上げるわけでございますが、その下にグループリーダーという人をお願いしてございます。この方は中間的な方でございますが、その下に研究者として集めておるのでございますが、これは全体今七、八十人ぐらいに達しておると思いますが、この中心はオーバードクターと申しますか、大学院を修了あるいは博士課程を修了して、一番研究に油の乗り切った人たちを集めて今研究をしてもらっておるのでございます。したがいまして、そういう人たち、各方面から集まる、例えば会社出身の方もおりますし、それから大学出身の方もおられるわけですし、それから国立の研究所出身の方もおられるわけです。そういう出身の違う方々を一つの場に集めて共同研究をしていただくということから、やはり研究の実を上げようというふうに考えておるのでございます。
  22. 藤井恒男

    藤井恒男君 この資料、「創造科学技術推進事業」、六つのプロジェクトについてお話があったんですが、このプロジェクトを組むいわゆる課題提供の選択、これも一番大事なことだと思うんだけれども、そういったものについて、民間産業あるいは大学等がどのように関与しているのか。その選定は、最終決定はどこが組んでいくことになっておるんでしょうか。
  23. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) これはやはり一番最初には、産業界あるいは国としてのニーズがあるわけでございます。私どもは、それはどういうふうなフィールドにそういうニーズがあるのかということは広くリサーチをいたしております。  それからその次には、先ほど申し上げましたように、中心になって取り仕切っていただく人がおるかどうかというところに問題があるわけでございまして、その両方が一致して初めてこの事業が成り立つということでございます。  それは、勝手に私どもで決めるわけではございませんで、事業団の中にやはり審議会の組織をつくりまして、各方面の知識なり、利害を代表する方にお集まりをいただきまして、私どもの調べましたことを提起をいたしまして、限られた予算の中で、どういうプロジェクトをどういう人にお願いをして始めるのがいいのかということの相談をいたしておるのでございます。  どういうフィールドをとり、どの人にお願いするかという最終決定、これはいろいろ御相談はいたしますけれども、やはり理事長に最終的には責任があるということでございます。
  24. 藤井恒男

    藤井恒男君 このようにしてプロジェクトが組まれておるわけだけれど、工技院に置いておる次世代産業の基盤研究というのが発足しておりますね。それから、科技庁のもとにも同じような国家プロジェクトができているわけだけれど、そこのプロジェクトとこことの関係といいますか、関連というものはやっぱりとっているんでしょうか。
  25. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) これは非常に大事な問題だと思っております。  先ほど申し上げましたように、私どもは、将来の革新技術の芽になるようなものを探し出そうというのがこのプロジェクトの目的でございます。先生今おっしゃいました工業技術院でやっております次世代、これはその芽と苗、むしろ苗に近いものから若木の手前までくらいを育てるのが次世代ではあるまいか。それから、科学技術庁でやっております振興調整資金というのがございますが、これもやはりそれに近い段階のものであろうかと思います。  それから、私どもの方でもう一つ最初にやっております技術開発の委託事業でございますが、これはまた、そのもう一つ先の工業化の一歩手前の事業である、そういうふうに理解をしておるのでございまして、私どもは、一番最後の段階のそういう芽と申しますか、可能性のあるフィールドを見つけて、はぐくんでいくということが私どもの目的だと思っております。
  26. 藤井恒男

    藤井恒男君 どうもありがとうございました。
  27. 吉川春子

    吉川春子君 二つお伺いしたいんですけれども一つはこのプロジェクトに関することですけれども、このプロジェクトの研究の成果がどこに帰属するものかという点と、それから成果が上がらないことも当然考えられますけれども、そういうふうに言うのはちょっと失礼なんですけれども、そういう場合に二十億のお金をつぎ込んで、政府資金などもつぎ込むんですけれども、そういう場合どうするのか。例えばまたお金を返すのか、そのままそれはそれとしてもう返さなくていいのか、そういうことをちょっと伺いたいと思います。  それからもう一つは、科学技術の進歩は日進月歩だと言われましたが、OAとかFAとかの導入によりまして、今の労働者の六%から八%、あるいは一〇%ぐらいの人々の力によって今の生産ぐらいは全部将来的には貯えちゃうんだ、そういうことを大胆におっしゃる方もおられるんですけれども、そういうことについて参考人におかれてはどういうふうにお考えなのか。
  28. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) 第一の問題の成果の帰属の問題でございますが、これは事業団とそれからその研究に従事いたしました研究者と共同で所有をするという仕組みになっております。原則といたしましてその比率は五〇、五〇でございます。  それから二番目の不成功の場合の問題でございますが、幸いなことに、ただいま二年間やりました四つのプロジェクトにつきましては、最初に申し上げましたように、一つのプロジェクトに対してかなり多くの今の種子がすでにできつつございまして、私はその種子が必ずしも全部芽になるとは思っておりません。中にはやはり途中で実らな いものもあろうかと思いますけれども、その一つのプロジェクトとして考えた場合には、今の種子のうちのある程度のものは必ず五年間の期間を経ましたときには芽になり得るであろうというふうに期待をしておるのでございます。  それから三番目の問題は、非常に難しい問題でございますし、私自身も必ずしも専門家でないのでございますけれども、私、科学技術庁の中の資源調査会という会の委員をいたしておりまして、いろいろなエネルギーの問題を扱っておるのでございますが、例えば太陽光で発電をする、これはエネルギーとしては非常に効率のいい、また自然エネルギーでいいわけでございますけれども、太陽光発電だけを考えますと非常に効率がいいわけでございますけれども、その太陽光発電装置をつくるためにどのくらいのエネルギーが要ったか、それでそのエネルギーを回収するためにその太陽光の発電所をどのくらい長期間動かさなければいけないかというふうなことを精細に計算してまいりますと、太陽光の発電がエネルギーのバランスから見た場合に現在の技術ではいろいろ問題があるというふうな結論になったことを覚えております。  ですから、先生がおっしゃいますように、あるいは六%の人でいいというそのことだけをとればそういうことであるかもしれませんけれども、そういう道具立てを整えるために、その背後でどのくらいの人が必要なのかということを計算いたしますと、長い目で見れば恐らく六%を除きました九四%の人と申しますか、そういう人たちをさらに必要にするような背景というものは必ず後ろにあるのではあるまいかと思うのでございます。
  29. 稲村稔夫

    稲村稔夫君 時間もありませんから一つだけ伺いたいんですけれども、それぞれのプロジェクトが成果を上げられることを期待を大いにしているわけですが、国内での研究結果が外国で評価をされて、そしてその後また再評価をされるというふうな形のものが結構あるわけです。先ほどの、なぜ外国へ行って研究するのかというようなところと共通のところがあるんですが、そうした、言ってみれば基礎研究の中の最先端、こういうものを掘り起こしていくといいましょうか、それを評価をしていくというような、そういう組織というんでしょうか、システムは現在あるんでしょうか。
  30. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) 私ども事業団の仕事の内容として申し上げましたように、大学でありますとか研究所でありますとか、そういうところで埋もれた研究成果というものを発掘して、そして産業界でもやはりそういう仕事を探しておられるわけですけれども、その両方を結びつけるというのが私ども仕事でございますので、日常の業務としてやはりそれをやっておるわけでございますが、今度の創造科学技術推進事業で得られました基礎研究の成果というものも、そういう目で間違いがないように、常にウの目タカの目で見ておると……
  31. 稲村稔夫

    稲村稔夫君 事業団の主な仕事一つとしてやられるということですか。
  32. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) はい、そういうことでございます。
  33. 藤井恒男

    藤井恒男君 関連でお伺いします。  先ほどお話しの中に、我が国研究開発費が六兆五千円と、まあまあベーシックなものから応用研究、いろいろあろうと思うんだけれど、私の聞き及んでおる範囲では、企業の秘密性、そして我が国大学の閉鎖性、こういったもろもろの問題のために、たとえば未踏破技術開発についてのベーシックな研究などが民間企業でかなり重複した形で、いわゆる重複研究というのが行われている。ひどい例では、一つの大手の企業で一時期にはっと調べてみたら、一つ企業の中でさえ、すでに研究を終えたものに着手していたり、あるいは重複しているという例すらあったということを聞いているんだけれど、残念ながら我が国の場合、NASAみたいなものがない、ナショナルプロジェクトがないということから、非常に分散したロスが多過ぎる。企業秘密というものを無視することはできないわけだけれど、いまお話の中に、事業団がそういったロスを排除する一つのよすがにもなるんだということだけれど、現在、たとえば我が国における各企業が手がけている研究テーマというようなもの、あるいはその進捗状況なんというようなものは、それどうやって把握するんですか。そういった機能が実際あるのかどうか。また、どうしたらそれを合理的に効率的にはぐくんでいくことができるのか。その辺ちょっと教えていただきたいと思います。
  34. 久良知章悟

    参考人久良知章悟君) 企業秘密として水面下にあるものは、これは正直に申し上げてなかなかわかりがたいと思います。私どもといたしましては、少なくとも大学あるいは国公立の研究所等で行われておるものにつきましては、表に出ない段階、予算の段階からやはり目を光らしておるつもりでございます。  ただ、最近の情報化の時代になりまして、特許公報あるいは日本科学技術情報センターでのいろいろなデータというものが、電算機で手軽に活用できるようになっておりますので、水面上に顔を出したものについては、これは組織的なリサーチを常にしておるのでございます。水面下の問題については、これはなかなか手が及びがたいというのが実情でございます。
  35. 梶木又三

    ○小委員長梶木又三君) 以上で久良知参考人に対する質疑は終わりました。  久良知参考人には、お忙しい中を本小委員会に御出席いただきまして、ありがとうございました。ただいまお述べいただきました御意見等につきましては、今後の調査参考にいたしたいと存じます。小委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。ありがとうございました。     ―――――――――――――
  36. 梶木又三

    ○小委員長梶木又三君) 次に、東京大学教授宮川洋君から意見を聴取いたします。  この際、宮川参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は御多用中のところ、本小委員会に御出席いただきましてありがとうございます。  本日は先端技術一般につきまして忌憚のない御意見を拝聴し、今後の調査参考にいたしたいと存じます。  また、議事の進め方といたしましては、まず四十分程度意見をお述べいただき、その後二十分程度委員の質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと存じます。よろしくお願いいたします。  それでは、宮川参考人にお願いいたします。
  37. 宮川洋

    参考人(宮川洋君) 東京大学の工学部の宮川でございます。  こういう先生方の席上で先端技術について御意見を申し上げることができるという機会、大変弘光栄に存じておりますけれども、ただ、私も浅学非才でございますので、十分あらゆる分野についてまとまって、あるいは先生方のお役に立つような御意見が申し上げられるかどうか大変心配しておりますけれども、その点をお含みの上お聞きいただければというふうに思っております。  私は、東京大学の工学部に電気工学科という学科がございますけれども、そこで電気通信工学という講座を担当しております。そういうようなことで、専門は電気通信工学、いわゆる通信と呼ばれておる分野でございますけれども、最近、こういうぐあいに技術の進歩が非常に激しゅうございまして、狭い意味の通信だけではなくて、もろもろのエレクトロニクス技術あるいは情報技術というものも通信と互いに絡み合ってまいりまして、一体となってきつつある。また、放送というような分野もございます。狭く通信を考えますと、電話のようなものが狭い意味の通信でございますけれども、放送の分野とも絡み合ってくる、またコンピューターとも絡み合ってくるというようなことで、そういうような分野を一言で「エレクトロニクス、情報通信技術」、こういうぐあいにまとめさせていただきますと、エレクトロニクス、情報通信技術、そういう分野についての最近の動向あるいはそれを取り巻くような環境というものを私がどういうぐあいに考えておるか、あるいは把握しておるか、そんなことをお話しできればしたいというぐあいに思っておるわけでございます。  そういう話になりますと、レジュメのようなものをつくってまいりましたけれども、このレジュメもちょっと私の手書きで大変お読みづらいと思いますけれどもお許しいただきたいと思いますけれども、「高度情報社会とその背景」ということで、これはいろいろなところで言われておりますので、また繰り返すまでもありませんけれども一つ産業が非常に成熟化してきた。この理由としては、戦後の壊滅的な状況からやはり国民経済というものも立ち直らせていかなければならないということ、言うなれば先進国をお手本にいたしまして、それに追いつこうではないか、そういう政策から出発してきておるわけでありますけれども、さらには、最近は後進国からも非常に技術的にも追い上げを受けておるという状況のそのはざまの中で、日本がこれからどうしていくかという状況になりつつあるという状況でございます。  産業の成熟化というのを一つ簡単な例で申し上げますと、鉄が一トン十万円程度である。これに対しまして、鉄が基幹産業であった時代、まあ今でも基幹産業でございますけれども、花形産業であった時代から、船舶、自動車、こういうものに移ってまいりますと、自動車ですと一トン当たり大体百万円ぐらいである。非常に大まかなラウンドした数字でございますけれども、こういうことが言えるんではないかと思います。  これに対しまして、テレビになりますと、一トン当たりですと一千万円ぐらい、テレビ受像機でございますけれども、そのくらいの価格がつけられておるんではないか。ICと、集積回路と呼ばれています、トランジスタを一つのシリコンのチップの上に集積化したものを非常にたくさん取りつけて、一遍につくってしまうという技術がございますけれども、これも先生方もう篤と御存じだと思いますけれども、さらに一けたぐらい高付加価値のものであるというようなことで、産業の成熟化に伴いまして、先進国へ追いつくとともに、また後進国からの追い上げと、それから国際的な産業の分業ということによりまして、やはり日本も高付加価値のものに産業構造を移していかなければならない、こういう状況が一つにあろうかと思います。  そういう意味で、高度情報化社会と言いますと、私ども、テクノロジー先行型である、使い方もまだわからないのに、どんどんテクノロジーだけ一方的に進んでしまうというお話がよくございますけれども、しかし、テクノロジーと社会だけの問題ではなくて、日本社会が世界の中でどういうぐあいに位置づけられて、どういう位置を占めておるかという、その中での一つの選択として、やはりハイテクノロジーといいますか、そういうものが要求されてきておるというぐあいに私は考えておるわけでございます。  それから、「高度情報社会とその背景」の二番目としましては、高齢化、それから高学歴化、女性の就業率の増加というようなことも挙げられようかというぐあいに思っております。  これは産業構造の変化にもよりますけれども、人口の高齢化に伴いまして、高齢者にもやはり仕事をしていただくような環境をつくっていかなければならない。それから高学歴化ということになりますと、現に高校出の職場というものが、中学出はもちろんですけれども、高校出の職場もだんだん少なくなってきておるという状況である。オフィスにおきましても、高校出の女子というよりも、さらに広い知識を持った人が求められておるという状況である。それから、女性の就業率も増加してきておる。仕事自身が全体としてやはり高度な構造にだんだん移していかなければならない。単純力作業といいますか、単純労働といいますか、そういうような労働力というものがだんだん不足してきておる。そして、産業の方もさらに高度なものを求めてきているというのがもう一つ背景だと思います。  それから三番目は、高度成長のひずみの是正ということが背景にあろうかと思いますけれども、まあ日本社会が成熟化してきたといいましても、やはり生活環境というものに非常にまだまだ先進国に及ばない点があるわけでありまして、特に住まいを取り囲みますところの住居環境といいますものを考えてみますと、まだまだ不足しているところがある、我々努力しなければならないところがある。それから、社会のインフラストラクチャーの整備、下水道の整備を含めまして、学校や図書館あるいは公園の整備というようなことを考えますと、非常に不足している点もあろうかと思います。それから、高度成長のひずみとして、やはり都市に人口が集中し過ぎているんではないか。これの分散化を図らなければならない。こういうようなことを考えてみますと、やはりこういうような問題解決の――この中で特に都市の集中から地方への分散というようなことを考えてみますと、新しい先端産業と、特にエレクトロニクスや情報通信技術に何か積極的な役割が期待できないだろうかということが考えられるわけでございます。  それから四番目でございますけれども、これは言うまでもなく、日本は何といいましても省資源・省エネルギーというものは、これは本質的な日本産業に対する要請だというぐあいに私了解しておるわけでございまして、これからやはり資源・エネルギー浪費型の産業から、省資源・省エネルギー型の産業転換していかなければならない。そのためにやはりエレクトロニクス、情報通信技術が非常に期待されておるというぐあいに考えておるわけでありまして、高度情報社会というものが新聞紙上非常に表面だけ往々にして取り上げられますけれども、それに期待されているところは非常に大きいものがあるというぐあいに、まあ私の専門分野でございますので我田引水のところもあろうかと思いますけれども、そういう認識を持っておるわけでございます。  二ページ目で、また実はこれタイプしていただこうと思っておったのでございますけれども、手書きのまま先生方にお配りいただいたという状況で、大変申しわけありませんけれども、二ページ目に「先端技術の現状」ということで、先ほど来お話がございましたけれども先端技術にもいろいろあろうかと思いますけれども、大まかに二つに分けまして、一つは当面直ちに期待される分野。実戦力としまして産業を支える、しかもかなりの雇用を支える分野というものと、それから十年ないし二十年後、今後に期待される分野と、こういうぐあいに二つに分けられようかと思います。  もちろん十年先、二十年先といいましてもすぐやって来るわけでございますから、今からこういう分野についても手を打っておかなければならないわけでございますけれども、直ちに期待される分野といいますと、やはり新聞紙上で華やかに取りざたされておりますように、エレクトロニクス、コンピューター、通信、こういう分野が既にかなりの実績を上げておりますし、それから技術革新も非常に激しい。これからも技術革新の非常に激しいスピードが期待されるわけでありまして、しかもかなりの分野に育っておる分野というぐあいに考えておるわけでございまして、これに最近は新技術、新材料といいますか、材料技術というものがつけ加わりつつあるというのが私の認識でございます。  こういうぐあいに直ちに期待される分野といいますと、比較的情報通信、エレクトロニクスの占める割合がどうしても多くなってしまう。将来を考えてみますと、バイオテクノロジーあるいは遺伝子工学、宇宙技術というものが将来大きな分野に育ってくれば、産業技術産業分野あるいは雇用にも大きな影響を及ぼしてくるのではないかということでございますけれども、とりあえずはまだまだ、まあ種をまいて苗木を育てている程度でありまして、現在のところは非常に人手をむしろ食っておる、手間がかかる作業をやっておる。むしろありていで、俗な言葉で言えば、稼いでくれるあるいは頼りがいのあるものはやはり今のところは情報通信あるいは材料の分野ではなかろうかと思っておるわけでございます。  この情報通信の分野に――材料の分野は私ちょっと専門外でございますので、情報通信の分野に限ってお話をさしていただきますと、非常に情報通信の分野も発展が厳しゅうございまして、一番最後の八ページのところに、どういうような分野が、産業技術が現在考えられておるかということをわかりやすく図にしたものがございます。  これは下の方に「技術の融合とメディアの融合」と書いてございますけれども、非常に技術が進歩してまいりまして、いろいろな産業電気通信の分野を支えておった技術が一体になりつつある。融合しつつある。どの技術でも同じような基本技術でつくられるようになってきたということでございます。  この大きな丸をかきましたのが、一番上の丸は電話技術というぐあいに考えていただければと思いますけれども、まあ公衆電気通信を中心にいたしまして電話のネットワークというのが日本全国に広がっておるわけでありまして、約五千万台の電話機がつながっておるということで、非常に大きなネットワークになっておるわけでございます。これにつきましては、マイクロ波であるとか有線の技術というものが使われて構築されておるわけでございますけれども、これにも非常に大きな技術革新が押し寄せつつありまして、通信衛星、CSと書いてありますけれども、コミュニケーションサテライトでございます。それから光ファイバーの技術が非常に大きな影響を及ぼしつつあるわけであります。  また電電公社の方におきましては、INS――電話のネットワークを通しましていろいろなサービスを提供する。例えば、お子様方がパソコンなどを御家庭でお使いになっておりますけれども、今のところは電話線とつながっておりませんけれども、そういうようなものも将来は電話のネットワークというものがディジタル化されますと、パソコンにはそういうコンセントがついておりまして、電話機にコンセントがついている。電話のかわりにパソコンをつなぎますと、友達のうちのパソコンといろいろゲームができる。あるいはそれが発展してまいりますと、スーパーだとか大手の商社につながりまして、デパートにつながりまして、ホームショッピングができる。パソコンを使ってホームショッピングができる。あるいはそういうようなパソコンを使いまして、やはり電話線を通しまして銀行につながりますとホームバンキングができるというような、いろいろなことが考えられるわけで、将来を考えれば在宅勤務というようなことも言われておりますけれども、そういうようなものも従来の単に電話と言われておりましたものからそういう方向に非常に大きく広がりつつあるということでございます。  それから、放送につきましても、先生方御存じのように、先月BS2という世界で初めての大電力の実用放送衛星というものがわが国で打ち上げられたわけでございまして、五月ごろに実際に放送が開始されるということでございますけれども、これは一つの衛星で日本全国を直ちにカバーしてしまうという非常に大きな力を持っておるわけでございまして、NHKが昭和二十八年にテレビ放送を開始しましたけれども、まだテレビをごらんいただけない御家庭が四十万世帯ぐらいございますけれども、三十年たってもまだテレビを見られない世帯がある。しかしながらこの放送衛星によりますと、一遍に全国に番組が分配できる。しかも、もし視聴者が、例えば今NHKの視聴者約三千万と呼ばれておりますけれども、三千万という数にいたしますと非常に安い値段で番組が配られる、非常に画期的な力を持っておるわけであります。しかしながら、当初はやはり視聴者の数も少ないでしょうからその負担をどうするかということがいろいろございましょうけれども、将来は非常に大きなものに育っていくと考えられるわけであります。  それから、高品位テレビというものもございます。これはつい一年ぐらい前までは、この先ほど打ち上げました放送衛星ではいわゆる周波数帯域、これは情報を運ぶ大きさでございますけれども、これが足りないんではないか、高品位テレビは少し送ることはできないんではないかと言われておったわけでありますけれども、最近の研究によりますと、いまの打ち上げておりますBSでも高品位テレビは十分できそうである。ですから、あるいはBS3といいますか、五年後の放送衛星では高品位テレビというものも可能になってくるんではないだろうか。高品位テレビは大体三十五ミリの映画フィルム以上の画質を持っておると言われております。非常に細かい画質を持っておる。ですから、御家庭に劇場と同じような、あるいは野球場の場面がそのまま送り届けられるという非常に大きな能力を持っておるわけでありまして、これは御家庭にそういうような新しい情報をお届けするだけではなくて、ミニ劇場あるいは小さな劇場をこういうような放送衛星でつないだらどうだろうかというような話も、私個人的な意見でありますけれども、いろいろなところからお伺いしておるわけであります。  それから、もう一つの分野はコンピューターでございまして、コンピューターはいま第一世代、第二世代、第三世代というコンピューターにまで育ってきておるわけでありまして、ICを使ったコンピューターが、今、集積回路を使いましたコンピューターが一般に使われておるわけでございます。そして、これは社会、企業におきましてもいろいろなところで役立っておる。あるいは、銀行におきましてもオンラインシステムというようなところで使われておりますけれども、これにつきましても、御家庭にもう既に、五、六年前にしますと一億円ぐらいの電子計算機であったものが、もう子供のおもちゃとして十万円ぐらいで手に入る状況になっておるわけでございます。  しかしながら、皆さん、先生方御存じのように、電卓というものも、かつては非常に高いものであったわけでありますけれども、もう御家庭に何台も電卓がおありだと思います。そういうような意味で、パソコンも今のままでいきますと、もうたちまち家庭の中にはんらんしてしまうという状況でございます。  このためにはだれでも使えるようなコンピューターにしなければいけない。特殊な教育を受けた人でなければ使えないようなコンピューターではコンピューターの普及というものも限度があるわけでございまして、私は第五世代のコンピューターということを通産省が非常に力を入れておやりになっておりますけれども、これは非常に使いやすい、ユーザーフレンドリーのコンピューターというような言葉が最近よく使われますけれども、ユーザーがお使いやすいコンピューターをつくる。そうでなければ需要にも限度がある。コンピューターがどんどんつくり出されるけれども、だれも使われない、たちまちオーバープロダクションになってしまうという状況が考えられるわけでありまして、何とかしてこれだけのコンピューターという非常に大きな力のあるものをどなたでも使っていただけるようにしていただける、これが第五世代の非常に大きな目標ではなかろうかというぐあいに思っております。  それから、スーパーコンピューターあるいはさらにスピードの速い超高遠計算機というようなものも、将来非常に大きな役割が考えられておるわけでありますけれども、これはアメリカなどでは軍事用に非常に関心を持たれておるわけであります。しかし、日本もこういう面につきましてもハードウェアの点では非常に力がついてきたという状況ではなかろうかと思います。それぞれの分野の現状を大まかにかいつまんで眺めてみるとそんなところではなかろうかというぐあいに思っておるわけでございます。  しかしながら、先ほど申し上げましたように技術が融合したということで、その間にいろいろなものが電話、放送、コンピューターと、三つ大きな分野がそれぞれ別個に存在しておったわけでありますけれども、よく考えてみますと、電話局の電話交換機というものは実はもう既にIC化されておりまして、中身をよく見ますとコンピューターと全く同じものでございます。  そうしますと、電話局でいろいろな情報処理サービスができないだろうかということになってくるわけでありまして、これがVANと呼ばれておるものでございます。これは付加価値通信網と呼ばれておりますけれども、もう既に、現に電電公社などでは、例えば地方の緊急医療情報システムというようなものをいろいろ都道府県から委託を受けまして電話局の中に各地につくっておりますけれども、これは例えば病院であるとか開業医の診療所でどういうような設備があるか、それからお医者さんが夜中でもいるかどうか、勤務していられるかどうか、あるいは空きベッドがあるかどうかというようなことをお医者さんの端末から電電公社にありますところの電話交換機といいますか、計算機の方に送り届けまして、そして計算機にすべて情報を送り届けておく。救急車が出動します場合には、どの病院にベッドがあいているか、あるいは診療科目があるか、外科であるか内科であるか眼科であるかというようなことを問い合わせまして、そこに送り届けるというようなことをやっておりますけれども、これはまさに情報処理をやっておるわけでありまして、こういうような仕事をVANというぐあいに呼んでおるわけであります。  それからまた、先生方新聞でよくお聞きになると思いますけれども、双方向CATVというものもいろいろなところが事業化しようとしておるわけであります。ですから、技術的に可能であったものが事業化されるという状況でございまして、これが事業化されますと、先ほど電話線にパソコンを通しましていろいろな情報を、銀行の預金口座から引き出すとか、あるいはショッピングをするとかというお話をしましたけれども、双方向CATVでもそういうことが可能になるということでございます。これはアメリカなどでは非常に広く普及しつつあるものでございます。  それから文字放送というものがございます。これは昨年の十月三日からNHKが朝の「おしん」の番組のせりふであるとか、あるいはニュースであるとか、天気予報であるとか、大体一種のこれは紙芝居と考えていただいてよろしいかと思いますけれども、テレビに適当な押しボタンを用意しまして、そこで十三なら十三を押しますとテレビ画面にニュースが出てくる。ニュースはたとえば五枚ぐらいの構成になっておりまして、それが三十秒置きぐらいに自然に切りかわってまいります。しかしながら、これは、今NHKが実際におやりになっておりますのはまだまだ試験的なものでございまして、将来はこれも非常に大がかりなものになってくる、それで非常に役立つものになってくるであろうと考えられております。  特に放送衛星の場合には非常にあきが、情報容量のあいているところがあります。テレビを送るだけではなくて、それ以外にあいている情報の道が、パスが非常にたくさんございまして、それを通しますと非常に多くの情報が送り届けられるのではないか。  他方、たとえば共同通信社であるとかロイター通信社であるとか、そういうところはもう既に電話線を通じて同じようなサービスをやっておるわけでございます。情報の分配というのをやっておるわけでございますけれども、御家庭にそういうような通信社から新聞社を通さないで直接ニュースが入ってくるということも考えられるわけでございます。  真ん中にキャプテンあるいはビデオテックスと書いてございますけれども、これは電話線とテレビをつないだもの、電話線にテレビをつなぎまして、テレビは今までアンテナにつないでおったわけでありますけれども、電話線につなぎまして、そして電話線からいろいろ情報を送ってもらうシステム、これをビデオテックス――国際的にはビデオテックスと呼んでおりますけれども、各国でそれぞれ愛称をつけておるわけであります。日本の場合にはキャプテンという名前で呼んでおるわけでありますけれども、フランスの場合にはたとえばテレテル、オランダなどでも非常に一生懸命研究しておりますけれどもビジテルと、いろいろな名前をつけておる。イギリスですとプレステルというような名前で呼んでおりますけれども、これも日本で十一月から実際に営業を開始する、今実験を行っておりますけれども、営業を開始するということを聞いておるわけでありまして、これはすぐ右手に書いてありますVANというものと非常に近い力を持っておる。  ですから、このキャプテンを使いましてもホームショッピングとかホームバンキングということも可能になってくるわけでありまして、ある意味で御家庭にいろいろな先端技術というものが、まさに電話線なりテレビ電波なりを通しましてじかに入ってくる時代になってきたというぐあいに考えられるわけでございます。そういうようなところが情報通信の現状ではないかというぐあいに思っております。  二ページ目の下の方に三という項目がございますけれども、「エレクトロニクス、情報通信技術の現状」と、こうしまして、「日本技術は本当に進んでいるか」ということでございます。  よく日本は非常にエレクトロニクス技術が進んでいるということを聞くわけでありますけれども、これは一般論としまして日米を比較しますと、ヨーロッパは多少おくれておるところがございますが、日本とアメリカがつばぜり合いをしておるというぐあいに一般論として言えるかもしれませんけれども、一般論の比較を言いますと、日本はやはり少品種大量生産、これにつきましては非常に力を持っておる。しかしながらアメリカはやはりいろいろな品種で、しかも小量のものを、しかも非常に高度なものをつくっておる。ですから、いわゆる集積回路、ICというようなものもございますけれども、これが、今のところが一般論でございますけれども、各論に入りますとどうか。  確かに日本はすぐれているものがありますけれども、そのすぐれているものの品質が非常に限られている。よく集中豪雨的と言いますけれども、たとえばテレビならテレビ、自動車なら自動車が非常に日本生産技術が高い、そして集中豪雨的にアメリカであるとかヨーロッパに輸出されるということが言われますけれども、まさにエレクトロニクス、情報通信も同じようなことが言えるわけでございまして、三ページに各論がざっと、これも非常に大まかで、さらに細かくお話しすると時間もかかりますけれども、半導体についてはどうだろうかと言いますと、日本は普及品、量産品につきましては非常に進んでおる。これは記憶素子というものがありますけれども、六十四キロビットのメモリーであるとか二百五十六キロビット――キロビットというのは千ビットのことで、蓄える情報の単位でございますけれども、ようやくアメリカで二百五十六キロビットのものができたという話が新聞紙上に出てきておりますけれども日本ではもう去年の初めごろから各社つくっておりますけれども余り大きくこれを宣伝いたしますと非常に日米摩擦の無用の刺激になるということで、ひそかにサンプル出荷ということをやっておりますけれども、そういうように非常にこの記憶素子というのは大量に使います。そういうものにつきましては日本生産技術というのはまことにすぐれたものであるということが言えるわけであります。  しかしながらアメリカではどうかといいますと、CPUあるいは論理素子と呼ばれておりますところの一つの計算機をつくろうとしますと、それ以外のもろもろのいろいろなものを使わなければいけませんけれども、そういうものについてはやはりアメリカの進んでいるところが多いわけであります。もちろんパソコンに使われているような集積回路、半導体部品は日本でも全部つくっておりますけれども、少し産業用の高度なものということになりますと、やはりアメリカから買ってこなければならない、アメリカに太刀打ちできないという状況でございます。  コンピューターについてはどうかということになりますと、コンピューターについては、やはりハードの技術日本では非常に進んでいる。しかしながらアメリカは、ソフトの技術あるいはコンピューターの運用・管理技術、利用技術、こういうものが非常に進んでおる、特に使い方について非常にすぐれておるということでございます。たとえばコンピューターネットワークというような考え方、コンピューターがいろいろなところにありますけれども、これをつないで、いろいろなお互いにデータベースのやりとりをしようというような考え方は、もうアメリカでは十数年前からあるわけでありまして、そしてそういうようなネットワークの構築についていろいろ努力されてきておるわけでありますけれども日本ではようやく最近こういうことについても本格的に関心が向けられ始めてきたということで、利用技術の面では非常に劣っているということが言えようかと思います。  あるいは、単に大型のコンピューターといいましても、プログラムを走らせるだけではなくて、それが故障した場合には診断プログラムというのを走らせるわけでございます。ですから、単に計算をさせるだけではなくて診断プログラムを走らせる。そういうような非常にきめの細かい診断プログラムをどうするかという話になりますと、やはりアメリカの会社の方が一歩先んじておる。どうしてもそういうようなものを、全部含めて日本に移植すると非常にやりやすいわけでありますけれども日本に全部含めて移植できない場合には、ハードの面あるいは非常に広く使われるソフトのものは日本でも開発されるようになりましたけれども、きめの細かい運用技術まで立ち至ったものはまだおくれておるということが言えるわけであります。  これは電気通信につきましてもまさにそうでありまして、電話であるとかそういう技術につきましても、ハード技術あるいは運用・管理技術というものは非常にすぐれておりますけれども、一般に利用技術というものについてはおくれているということが言えようかと思います。  たとえば電話線につなぎますところの御家庭の電話機、これは電話機以外にいろいろなものが実際はつなげるわけでありますけれども日本の場合には最近まで法的な規制も厳しいということがございまして、そういうようなことに対しての関心が少なかった。あるいは非常に特殊な産業に対しましては特殊な通信網というものが必要になってまいります。そういうようなものも、日本の場合は電話網、公衆の電話網でやったらどうだろうかということで、やはり関心が少なかったわけでございます。これは電話の普及というものも、アメリカに比べて普及の台数から見ますと十年から十五年ぐらいおくれております。電話というものはひところは非常に貴重なものであったという感じが今でも多少は残っておる。ようやくそういうものが一般に普及いたしまして、次の段階を考える時代にようやくなってきた、アメリカは十年ぐらい前に既にそういう状態にあったのだというぐあいに考えられるわけでございます。  光ファイバーのことも非常によく言われておりますけれども、光ファイバーは、技術につきましては日米同列、こういうぐあいに考えていただいてよろしかろう。もちろん日本の進んでいるところもありますし、アメリカの進んでいるところもある。  衛星技術はどうだろうか。これも非常に大きな分野でございますけれども、これはやはり軍事的な面も含めましてアメリカが絶対的優位である、こういうぐあいに考えられるわけでございます。  そういうことで、四ページ目に「エレクトロニクス、情報通信技術の課題」というものを幾つかまとめておいたわけでありますけれども、この中で「技術」といいますのは製造技術であるとかプロダクション技術、これを技術というぐあいにまとめたわけでございます。「利用」と申しますのは社会での受け入れ態勢、受け入れがスムーズにいくかどうか、広く使われるようになるかどうか、これを利用と、こう置いたわけでございます。  超LSI、これは技術のところに二重丸。先ほど言いましたように、超LSI、日本はかなりアメリカに対してある面では進んでいる。例えば技術、超LSIをつくる技術ということでは非常に進んでおる。しかし、どういうような超LSIをつくったらいいかということになりますと、コンピューターの中身になってきます。これになりますと、やはり利用技術に結びついできますので、つくるのはつくれるけれども、一体どういうものをつくったらいいんだろうか。お子様のお使いになっておりますところのパソコンというようなものも、例えば中身には八〇八〇というようなマイクロプロセッサー、小さなコンピューターがついておるわけでございますけれども、それは、設計はみんなアメリカでされたものでありまして、日本でそれと同じものをつくっておるわけでございます。そういうぐあいにいたしまして、超LSIも、つくる技術は進んでいるけれども、実際に利用するという立場からはかなりおくれているということでございます。  第五世代のコンピューターもまあまあいいところまで、かなりのところまで成果を上げるんではないだろうか。しかし、それを本当に利用し、使いこなすかということになりますと、多少やはり心配の点があるわけでありまして三角にしておるわけであります。課題としてはシステム化ということを挙げさせていただきましたけれども、これもいろいろ議論があろうかと思います。  ソフトウエアにつきましては、アメリカに比べまして技術もおくれておるし、利用の分野もおくれている。課題としてはソフトの流通であると。アメリカの場合には、それぞれがソフトをつくるのではなくて、いいソフトがあれば他人のソフトでもどんどん買ってきて使う。そのかわり自分のところでいいソフトができますと、コンピューターのプログラムでございますけれども、他人にもそれを有償で売るということが非常に一般的に行われておるわけでありまして、日本もだんだんその傾向が出てきておりますけれども、まだアメリカほどではないということが言えるわけでございます。  それから、光通信につきましては、技術はかなりのところまでいっておる。しかし利用につきましては、制度的な展開がこれから広がりますとさらに利用も進んでいくんではないかというぐあいに思っておるわけであります。  衛星につきましては、やはり技術ももちろんおくれておりますし、利用についてもおくれておるという状況でございます。  CATVにつきましては、アメリカはもう既にかなり進んでおります。しかしながら、その装置というものは日本から輸出されておる場合が多いわけでありまして、そういうぐあいに、製造技術は、いろいろな機器の製造は進んでおりますけれども、利用につきましてはアメリカよりおくれておるわけであります。  VANについても同じようなことが言えるわけでございます。  それからデータベース、これも非常に大きな分野でございまして、今まで述べませんでしたけれども、VANであるとかCATVであるとか放送であるとかコンピューターであるとか、あらゆるものに関係しできますけれども、これはいろいろな科学文献情報であるとか、あるいは気象情報であるとか資源情報であるとか、そういうような細かい情報を計算機の中に入れておきまして自由に使えるようにしておくものでございます。要するに、大きな電子図書館と考えていただければよろしいかと思います。そういうようなものが、日本の場合にはそれぞれの企業が情報を自分のところだけでお持ちになっておる、情報の流通がうまくいかないということもございまして、なかなかデータベースというものが日本の場合にはでき上がってこない。しかも、こういうものは日本だけで使うのではなくて世界にも使ってもらわなければいけない、一種の出版と同じでございます。あるいは通信社で、ロイター通信社というものが世界じゅうの通信網を握っておるというぐあいに言われておりますけれども世界的にそういう情報を買っていただかなければならないわけでありますけれども日本の場合には、いろいろな科学文献情報につきましてもオリジナルな情報が、やはり日本での研究成果が乏しいということもありますし、それから言語の障害があろうかと思いますが、こういうことで非常におくれておるということが心配されるわけでございます。  それから、実は雇用との関係が先生方の御関心であるということで私見を多少つけ加えさせていただいたわけでございます。  五ページ目に、「エレクトロニクス、情報通信技術と雇用」ということでまとめさせていただいたわけでございますけれども、雇用の量的なインパクトが一つあろうかと思います。これは、一つには直接的なインパクトあるいはエレクトロニクス産業、情報通信産業自身がどれだけの雇用吸収能力があるかということでございます。これは今後とも伸びていくということも考えられますので、これはかなり期待されるところであろうかと思いますけれども、間接的なインパクト、これは一般産業が情報通信が進歩することによりまして高度化いたします。例えばOA化される、自動化される、ロボット化されるということで、ある意味では、これはポジティブのインパクトも考えられますし、ネガティブのインパクトも考えられるわけでありまして、こういう二つの面があろうかというぐあいに考えられるわけでございます。  それから二番目は、雇用の質へのインパクトでございまして、一つは、産業が高度化するということで、結局中身はどうなってくるかといいますと、やはり知識・情報産業あるいはサービス・セールス産業というところにこれからは雇用を移していかなければならないんではないか、いわゆる製造業からこういうところに雇用が移っていくんではないだろうか。一次産業、二次産業といいましても、その中身を考えてみますと、かなり知識・情報産業あるいはサービス・セールス産業になってきているところもあるわけでありまして、例えば一次産業で、漁業などにつきましてもいろいろな電子技術が導入されておる、あるいは出荷情報――どの市場に出荷したらいいかというようなシステムもでき上がっておるということでございます。  それから二次産業につきましては、製造業の合理化、自動化というのは非常に激しいものがございます。そして、製造部門から研究開発部門に人が移りつつあるという状況であります。しかしながら、繊維産業というようなものもある意味ではソフト化しつつある。人も減りましたけれどもファッション化、あるいは建設産業の方もコンサルタント化してきておる。海外にいろいろ進出されておる例が多いわけでありますけれども、コンサルタント、設計、管理、施工ということをやっておるところが多いわけでございます。  それから、三次産業でございますけれども、これにつきましては、もともとサービス・セールスに近いわけでございまして、こういう面につきましても、鉄道につきましては、例えばCATVであるとか、あるいは線路わきに光ファイバーを引いて通信産業を始めるというようなこともいろいろ取りざたされておるわけであります。銀行・金融業務につきましては第三次オンライン化。今までは支店まで、本店-支店間はオンラインになっておった。しかし、家庭にまでこれがつながろうという状況になりつつあるわけであります。それから医療につきましても、在宅医療であるとかホームケアというようなことがいろいろ検討されつつあります。教育につきましても、教育放送が始まる、あるいはディスクであるとかパソコンを使いまして、いろいろ教育産業が新しい電子技術の利用に乗り出してきておるわけでございます。物流、南流につきましても、同じように非常に情報通信技術関心を持ってきつつあるということでございます。  こういうことをまとめてみますと、それから今後の課題でございますけれども、一番目は、エレクトロニクス、情報通信技術は、現在の我が国社会が抱える諸問題を解決する可能性を持っているので、積極的にこの技術の導入、利用を図るべきである。しかしながら、プラスの面とマイナスの面があろうかと思いますので、総量としてやはり雇用が創出されるように政策展開というものが必要ではなかろうかというぐあいに考えております。  それから、二番目でございますけれども、雇用の創出の観点から知識・情報、サービス・セールス産業の育成強化を図るべきである。知識・情報といいますと、もちろん研究開発ども含めまして広く解釈させていただいておるわけであります。それからサービス・セールスも、これも非常に人手のかかる分野でございます。そういう意味で、こういう分野で雇用を吸収していくように努力しなければならないんではないかと思うわけでございます。エレクトロニクス、情報通信技術は、これらの産業のインフラストラクチャーとして役立つ。また、産業構造の転換は社会経済に大きな影響を及ぼすので、適切な対策が必要であろうというぐあいに考えられるわけでございます。  それから三番目でございますけれども産業組織としては、大企業への集中化、巨大化を排除して外製化といいますか、大企業が何でもやってしまって人減らしをするということではなくて、それを排除して外製化、ありていに言えば外注ということでありますけれども、単に下請ということではなくて、そのネットワークの中で中小企業の育成を図るようにならないであろうかというぐあいに考えております。それから、中小企業の近代化、高度化を促進し、雇用を創出する必要があるんではなかろうかと思うわけでございます。  それから、四番目でありますけれども、基盤となる技術は国の責任におきまして積極的に研究開発する必要があろうかというぐあいに考えております。  それからさらに、五番目でありますけれども大学、専門学校での教育を社会の要請に応ずるように改革し、充実整備する必要がある。特に創造性育成に配慮すべきであろうかというぐあいに思っておるわけでございます。  それから六番目でありますけれども、生涯教育制度を確立する必要がある。非常に雇用の質が変わってまいります。そういう意味で、やはり企業もある意味で使い捨てということではなくて、そこに例えば、「一定規模以上の企業における従業員の定期研修」というようなことを書きましたけれども、中小企業につきましても、やはり中小企業の働いている方に生涯を通して勉強していただくような制度を確立する必要があろうかというぐあいに思うわけでございます。  それから七番目でございますけれども、国際化の推進。これからはやはり国際的な依存関係というものがますます高まってくるわけでありまして、特に発展途上国への技術移転、技術者育成というものにつきまして我が国は積極的な役割を果たす必要があろうかと、そういうようなことで、先端技術と言われているものも国際的な広がりの中で初めて実を結んでくるのではないかというぐあいに思っておるわけでございます。  ちょっと二、三分超過いたしましたけれども、多少独断もございますのでお聞き逃しいただきたいところもございますけれども、以上簡単にまとめさしていただいたわけでございます。よろしく。御参考になりましたかどうですか。
  38. 梶木又三

    ○小委員長梶木又三君) 以上で宮川参考人からの意見聴取は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は小委員長の許可を得て順次御発言を願います。
  39. 吉川春子

    吉川春子君 では、二つぐらいお伺いしたいと思うんですけれども一つは、高度情報化社会とその背景一つとして、高齢化、高学歴化、女性の就業率の増加ということが挙げられておりますけれども、いまこの情報化社会の中で、年齢の高い労働者と女性労働者が特に排除されていくということが各所であらわれていると思います。女性がやっている仕事というのは大体単純作業が多い わけでして、そういうものがこういう先端技術にどんどん取ってかわられているという側面と、それから、ある程度の年齢になりますと、途中からこういう高度の機械を入れてそれを操れと言われてもなかなかそれについていけない。健康上の問題もあるということで、若い人はすぐ順応するけれども、中年以上の労働者が職場をどんどんやめていっているところもあるというふうに聞いておりますけれども、高齢化や女性の就業率の増加ということで考えた場合には、現状ではそれが逆に出ているわけですけれども、将来的にそういうものを包容していくとすれば、そのために何が必要なのかという点について先生のお考えを伺いたいと思います。  それからもう一つは、十年後、二十年後に期待される分野で、宇宙技術、バイオテクノロジー、遺伝子工学が挙げられているわけですけれども期待されるという意味とはちょっと違うんですけれども、軍事技術の点でもかなりコンピューターその他の活用というのがどんどん取り入れられていっていると思うんですが、これはまあちょっとすごく素人の空想的な考えなんですけれども、例えば核戦争のボタンを誤って押した場合にもそれがすぐ防止できるような、そんな技術開発されるかなあなんて思っているんですけれども、そんな点いかがでしょうか。
  40. 宮川洋

    参考人(宮川洋君) それでは、一番目の問題からお答えさしていただきたいと思います。  非常に難しい問題かと思います。そしてまた、いろいろこれから研究をしなければならない非常に大きな課題ではないかというぐあいに思っております。高学歴者はよろしいかと思いますけれども、高齢者あるいは女性の就業率を向上させるように働くのかどうか、高度情報化社会でむしろそういう人の雇用が排除されるんではないかという御危惧かというぐあいに思うわけでございます。  確かに、単にそういうことの配慮なしにオフィスがOA化される。とりあえず今私がいろいろなところで聞いている範囲では、OA化しますと、やはりなかなか課長さんがそういうものをいろいろ操るということは難しい。そうしますと、それだけ機械もOA化されて非常に仕事の上で便利になるけれども、やはりそれを使っていただくような女性の方が必要であるという、まあ女性だけに限りませんでしょうけれども、そういう方が必要であるというお話をよく伺うわけでございます。しかしながら他方では、最近の、例えばワードプロセッサーのようなもの、あるいはOA機器というようなものは、課長さん、あるいは場合によっては部長さんでもだんだん使えるようになってきた。非常に熱意さえあれば使いこなすことができる。そして一つの文章を起案する場合に、ワープロを使って直接部長さんなり課長さんなりがつくってしまうということも可能に、なってきつつある。熱意の問題で、そういう状況にもなりつつあるということを考えてみますと、従来主として女性の方にやっていただいたような事務所での仕事というものが、だんだん少なくなってくるんではないかということも考えられるわけでありまして、これは確かにいま御質問があったように二つの面があろうかと思います。その辺のところをやはり今後どうしていくかということを考えていかなければならないんではないか。  一つは、私、大きな問題はやはり教育制度そのものにもあるというぐあいに考えておるわけでありまして、そういうようなOA機器、ワードプロセッサーあるいはその他の機器についても十分なじみを持たせるような教育というようなことを、例えば女性の方にも、専門として英文学であるとか国文学をおやりになる、これはもちろん大変結構なことだと思いますけれども、それ以外に、そういうものについても十分なじみがあるいろいろな教育をやっていただくということが一つあろうかと思いますけれども、もう一つは、やはり適当な再教育の機会を持っていただいて、特に高齢者の場合には再教育の機会を与えまして、十分新しい仕事になじんでいただくということが一つあろうかと思います。  そういう意味で、ある意味で、いろいろ伺いますのは、高齢者の方でも思い切ってそういうような新しい分野に飛び込んでみますと、それなりにやはり新しい分野として非常に働きがいを感じておられるという話を伺うわけでありまして、そういうような面での配慮というものが非常に大切ではなかろうかというぐあいに思っておるわけであります。  しかしながら、もう一つの面は、先ほど言いましたように第五世代のコンピューターでお話をしましたけれども、第五世代のコンピューターというものはいろいろ難しいことをやるように書いてありますけれども、結局は、非常に簡単に言いますとだれでも使いこなせるようなコンピューター、はっきり言いますと日本語でしゃべってやればいろいろな事務をやってくれるというようなコンピューターが一つの理想でありますけれども、なかなかそこまではいきませんけれども、比較的自然言語に近いような言葉でコンピューターを動かしたい。そういうようなコンピューターをどういうぐあいにしてつくっていくかということが一つの課題になっておるわけでありまして、これは直ちにでき上がるものではありませんけれども、実際に今普及しておりますところのパーソナルコンピューター、パソコンと言われておりますものも、ひところに比べれば毎年毎年非常に使いやすいものになってきておるということでございまして、こういうようなOA機器あるいはワードプロセッサーというようなものも非常に使いやすくなってきておるんだと。これに対する期待もかなり持てるんではなかろうかというぐあいに思っておるわけでございます。  それから私は、高齢者、女性の場合につきましては、ある意味での在宅勤務といいますか、あるいは分散勤務、在宅勤務まではいきませんけれども分散勤務というものもある程度考えられる。例えば東京都心にばかり事務所が集中しているのではなくて、郊外にも分散した事務所というものを置きまして、そこに勤務していただく物によりましては在宅勤務をしていただくということも考えられるわけでありまして、そういう意味で雇用が促進される面と、それから先ほどお話ありましたが、雇用に対してネガティブに働く面とそれからプラスに働く面と両方ある。ぜひプラスに働く面を大いに引き伸ばしていただくということが大切ではなかろうかというぐあいに思っておるわけでございます。これは先ほどお話ししましたように、日本産業というものが先進国とそれから後進国とのはざまに来ておるわけでありまして、それではエレクトロニクスや情報通信技術を利用しないで、そして我々の社会がこれから何に頼って日本経済社会を回転させていったらいいだろうかということを考えてみますと、余り頼りになるものがないということでございまして、エレクトロニクスや情報通信技術につきましてもネガティブの面もあることは確かである。しかし、なるべくネガティブの面が出ないように、ポジティブの面が出るようにこれを利用していくということが私は非常に大切なんではなかろうかというぐあいに思っておるわけであります。  それから二番目は、軍事技術に利用されるおそれはないか、あるいはちょっとパソコンのようなものでいろいろな機密が漏れる、アクセスして漏れるおそれがないか。これは「ウォーゲーム」という映画がございましたけれども、これは少年がパソコンゲームをやっているうちに、実は本人はパソコンのゲームをやっているつもりだったんだけれども、国防省にそのパソコンの通信回線がつながっておって実際に原爆が打ち上げられてしまったというような、まあ仮想の話でございますけれども、これにつきましてもいろいろ研究がなされておるわけでありまして、情報社会におきますところのセキュリティーというものが私は非常に重要である、情報社会になればなるほど重要ではなかろうかというぐあいな気がしております。  私も、大学関係を中心にしましてセキュリティー研究会というものを昨日の暮れあたりからやろ うではないかということで、先週浜松の方でちょっとホテルを借り切りましてセキュリティー研究会をやったわけでありますけれども、セキュリティーといいましてもいろいろな面があります。  一つは、計算センターを暴力で破壊すると、バンダリズムというぐあいに呼んでおりますけれども一つのテロもこれに入ろうかと思いますけれども、計算センターであるとかあるいは成田の空港が開港するときにやはり通信回線がやられたりしましたけれども、そういう暴力、それから最近の傾向は、やはり知能的に情報システムを破壊するといいますかあるいは悪用するといいますか、そういうものがだんだんふえてきておるということでございまして、暴力的な面につきましては何かの方法で対策がとれようかと思いますけれども、知能的に通信回線を通していろいろな情報にアクセスする、あるいは計算機にアクセスするという方につきましても、これは大分専門的な話になりますけれども、アクセス制御といいますか、適当な人のパスワードというものがないと実際にその計算機のデータベースにアクセスできない。あるいはフロー制御というような技術もございます。いろいろな情報に、適当なそのデータベースにアクセスできるような流れを、どういうところにまでならその情報を流していいかというようなことをひそかに入れておくわけであります。そうしますとそれ以外の人には流れていかない。あるいは暗号技術というものもございます。まあこういうような暗号技術というようなものも最近は非常に進歩してきておりまして、こういうものも取り入れていかなければならない。  しかしながら、やはりこういうような直接犯罪であるとか悪用につながるもの以外に、情報につきましてはプライバシーの問題であるとか、それからあるいはソフトウエアに関する著作権であるとか権利の問題とか、いろいろアセスメントも大切であるというぐあいに思っておるわけでございます。ちょっと御質問と御返事がそれたかもしれませんけれども、そんなぐあいに私は考えております。
  41. 真鍋賢二

    真鍋賢二君 日本は貿易立国で行かなきゃならないのは当然でございますけれども、その中でこの先端技術という技術輸出をしていかなきゃならないということはもう論をまちませんけれども、その間において技術摩擦が方々に起こってまいると思うわけでございますね。現にいまもお話がございましたけれども、この技術関係が軍事関係に使われるんじゃないだろうかといって、日本技術を輸出するところも制約をしてきつつありますけれども、そういうところにまた新しい摩擦問題が起こると思うわけでございます。  それから半導体の部分を見てみても新しい製品、例えば先ほどお話がありました二百五十六キロビットですか、の新しい製品が開発されてもそれが輸出できない状況にあると。それはなぜかといえば、新しいコンピューター製品の中に、それを利用するならば、たとえばアメリカなんかのIBM社にそれが輸入された場合に大きな問題を起こす、ここに大きな摩擦が出てくるということで、日本で新しい製品が生まれながら、驚異的な製品が生まれながらも輸出できないというような状態になっておる。ですからこの技術貿易摩擦というものを今後どういうふうに考えていったらいいんだろうか。もちろん軍事に利用できないとか、日本の場合は平和利用という前提があるわけですから、その辺のことも考えていかなきゃならないと思うわけでございますので、その辺の考えを、技術的な面から見てどのようにお考えになっておるか、その辺のこともお聞かせいただきたい。  それからもう一つは、先ほどからお話がある中でいろいろな利用面についてお話があったわけでございますけれども、例えば日本のように海洋国日本という場合に、海洋開発ということを考えていかなきゃならないと思うんです。鉱山資源の開発にしたって、海水中に含まれておるいろいろな資源にいたしましても、これがこういう技術によって私は開発されてくると思うわけでございまして、そういう面での現状並びに十年、二十年後の利用ということについてもう少し検討しておく必要があるんじゃないだろうか、こんな考えもいたすので、その辺のことをお聞かせいただいたらと思うんです。
  42. 宮川洋

    参考人(宮川洋君) 非常に両方とも重要な問題の御指摘かというぐあいに思っております。  特に技術摩擦といいますか、これは非常に大きな問題ではなかろうかというぐあいに思っておるわけでございます。軍事面の問題ももちろんあろうかと思いますけれども、それの前の段階として貿易摩擦としての技術輸出につきまして、あるいは製品輸出につきましていろいろな摩擦状況が特にアメリカあるいはヨーロッパとの間でできておるということは確かでございまして、こういうような事態をどういうぐあいにして解消していくかということが私は非常に大切な問題ではないかというぐあいに思っております。これは一つには、やはり日本の学界なり何なりの閉鎖性というものが非常に大きいんではないか。こういうような、例えばお互いに協力して何かをやるというようなチャンスがありますと、それを通して非常にコミュニケーションがよくなってくるということでございまして、一つの新しい製品を開発するにしましても、分担して開発していくという状況を一歩一歩つくっていく必要があろうかというぐあいに思っておるわけでございます。  ですから私が聞いている範囲では、例えばICの製造につきましても、ひところは向こうの設計したとおりのものをまねをしまして、こちらで許可なしでどんどんつくって輸出するということでありましたけれども、最近はやはりコンピューターのシステムデザインといいますか、コンピューターはこういうようなICを設計する、そういうような基本的な考え方は主として向こうで分担してやる、あるいはこちらもいろいろ意見を述べる。そういうぐあいにICを、一つの集積回路をつくるにしましても、基本的な設計、利用技術、ソフトの面ではアメリカが非常に進んでいる、そういうものは例えばアメリカの会社で分担してもらう、そしてむしろ日本は製造のノウハウは非常によく持っておる。ですから製造については、製造のノウハウについては逆にあちらにお教えしましょう、設計についてはまたいろいろ教えてくださいというようなことで、お互いに技術の交換といいますか、そういうようなことが始まりつつあるというぐあいに私聞いておるわけでございます。  ですから、そういうようなことで一歩一歩着実に、なかなか総論ではいかないという気がしておるわけでありまして何かビジネスに関係するものが多いわけでございますから総論ではいかない。やはり一歩一歩お互いにコーポレーションしていく。これはだんだんシステム開発が大型化してくるということになりますと、やはり一社ではやり切れない。特にこれはお金の面も一つは非常に負担がかかるということでございますけれども開発するのに人手がかかるということでございます。ですからソフトウェア、計算機のプログラミングから、ハードウエア、ICの開発まですべて一社でやれる状態にはなくなってきているということでございます。そういう意味でお互いに分担開発していくというような体制の中でコミュニケーションをよくしていって解消していくということがやはり基本的には一番大切なことではなかろうか。  それ以外に、もちろんいろいろな意味での、トップレベルでのいろいろなパイプを太くしていただく。あるいは私どもの分野で言いますと、学会の発表会というものもございますけれども、学会の大会であるとか――学術的な大会でございますけれども、そういうようなものにも日本はどんどん参加していくというようなことで、お互いのコミュニケーションを進めていくということが大切なんではなかろうかというぐあいに思っておるわけでございます。  それから、二番目の海洋開発の面でございますけれども、これは非常に私は将来を考えると重要 な面でありまして、エレクトロニクスにつきましても非常に大きな期待が持たれる分野ではなかろうかというぐあいに思います。  ちょっと細かい話でございましたので書きませんでしたけれども、例えば衛星技術の利用にリモートセンシングというのがございます。衛星から地球上のいろいろな光であるとかマイクロ波であるとか赤外線とか、いろいろなものが出ておるわけであります。そういうものを衛星を通しまして、これは軍事利用にもつながってきますので、その辺いろいろな問題がまたあろうかと思いますけれども、それを利用いたしまして地球上の資源の開発をするというようなことがいろいろ考えられておるわけでありますけれども日本はまだそこまで至っておらない。しかしこのリモートセンシングの分野は私は非常に広い分野である。  今御家庭には、例えば気象衛星の画面が送られておりますけれども、あれは単に雲の動きだけが送られておるという状況でございますけれども、もう少し、地球上の資源であるとか、温度分布であるとか、あるいは穀物の収穫がどうだろうかとか、いろいろな面に使われておるというぐあいに聞いておりますけれども、海洋開発の面などにも例えばそんなものが役立つのではないか。もちろんロボット技術であるとかあるいは海底カメラであるとか、いろいろな面で私はエレクトロニクスが役立ち得るのではないかというぐあいに思っておりますけれども、海洋開発というのは、かなり大きな物といいますか、物を海底に持っていかなければならない。それから、制御技術の面では非常にエレクトロニクスあるいは通信技術は役立つのではないかというぐあいに考えておるわけでございます。
  43. 藤井恒男

    藤井恒男君 率直に先生にお伺いするんですが、今、学界の閉鎖性ということをおっしゃったんですが、私ちょっと観点を変えてお尋ねしたいんです。  きょうお話いただいた中で、このエレクトロニクスについては四ページに示されておりますように、技術的な面についてはアメリカとの対比でかなり優位にあるというふうにうかがえるわけですが、広い意味のいわゆる科学技術の、いわゆる先端技術開発能力という点については、これまでの間はどちらかといえば我が国では導入技術、それを工業化するということに非常にたけて、俗に言われる未踏破技術開発ということが非常におくれている。なぜだろうという点について、アメリカと日本の対比においては大学が非常にアメリカに比して閉鎖性である。アメリカの場合にはいわゆる産学、産官学という共同研究、共同開発ということが伸び伸びと行われているんだけれど、日本大学にはそれに比して非常にあらゆる面において閉鎖的でもあるし、大学の機能という面からもなかなか難しい。極論するなら大学自体が余りにも教育の場に偏重しがちであるということをおっしゃる評論家もおるわけです。  先生、大学の側におられる方ですから、こういった点について率直に産学合体した形が必要だと、私はそう思うんですが、そういった点について、どこに問題があるのか、あるいはどういうふうにすればいいのか、お考えを教えていただきたいと思うんですけれども
  44. 宮川洋

    参考人(宮川洋君) 非常に耳の痛い御意見も含めまして御質問いただきましたけれど、確かに日本大学の場合には非常に閉鎖的である。アメリカの場合には、これは州立大学も含めまして、日本人の私どもの友人でもアメリカへ行きましてプロフェッサーをしておるという人が非常に多いわけでございます。アメリカの場合は、州立大学日本で言えば国立大学に相当する。もちろん州立大学と私立大学の区別なしに日本人あるいは中国人という方が非常に多いわけであります。実質的にアメリカで学会などを開きますと、特にコンピューター関係の学会を開きますと、実際に研究発表するのは日本人と中国人が非常に多い。アメリカ人はむしろ少ないと。実質的にはアメリカのコンピューターの非常に基礎的な、応用ではありませんで、非常に基礎的な研究は大体日本人あるいは中国人で向こうへ行った人が支えているんではないかというようなことを言う人すらいるわけでありまして、私はこれは非常に重要な御指摘だと思います。  これは、大学だけの閉鎖性だけではなくて、どうも日本社会全体も、一般企業を含めて非常に閉鎖的である。その一つのあらわれで、私は大学を弁護するつもりは毛頭ありませんけれども日本社会そのものが非常に閉鎖的にでき上がっているというぐあいに思っておるわけでありまして、やはり一歩一歩これは大学も改善していかなければならない。私どもいつもそういう意見を言っておるわけでありますけれども。  しかしながらどうも、特に東京大学のようなところですと、やはり一つの大きな国の機関である、一つの国の機関であるということで、なかなか御慶的な縛りもいろいろあるということで、昨年あたりから外風人の方――私どもの工学部ではありませんけれども生産技術研究所にドイツから講師の方をお招きして、そして正式の講師として、従来はそういうことは不可能だったわけでありまして、外国人お雇い教師というぐあいに言っておったわけでありますけれども、我々と同じ身分で、ただ講師という資格でございますけれども、そういうことで来ていただけることになった。もちろんこれは相手がしかるべき業績があり、また御年輩の方ならば助教授教授という形でお迎えすることができるようになってきておりますので、まあ徐々にではありますけれども、非常に大学にとっては新しい動きが今見えつつあるということが言えようかと思います。  それから、こういうところで申し上げるのもなんでございますけれども、私ども大学でも非常に、特に工学部では非常にたくさんの外国人留学生を受け入れておりますけれども、しかしながら受け入れられた留学生は、例えばアメリカにおきますところの留学生の受け入れ態勢に比べますと非常に惨めな状態にあるというぐあいに言っていいんではないかと思います。そういう意味で、日本の留学生の数というものもだんだんふえつつあるけれども、本当に日本大学の国際化が進んでいるのかどうか、私は非常に危惧に思っておるわけであります。  ただ、これ以上このままの状態で留学生の数をどんどんふやしていくということについて非常に心配を持っているわけでありまして、それなりのやはり対策なり、国際化ということを考えてみる場合に対策が必要なんではなかろうかというぐあいに思っております。  そういう意味で、大学の閉鎖性を留学生の問題とすりかえてしまうのは大変申しわけありませんけれども、いろいろな意味で非常に多くの問題を抱えておりまして、これがしかも日本の官庁制度ということもございまして、なかなか制度も一概には変えられない、予算もつかないというような状況に私どもありまして、非常にあせっておるということが言えようかと思います。これはむしろ先生方にいろいろお願いしたいというぐあいに思っております。
  45. 藤井恒男

    藤井恒男君 どうもありがとうございました。
  46. 梶木又三

    ○小委員長梶木又三君) 以上で宮川参考人に対する質疑は終わりました。  宮川参考人には、お忙しい中を本小委員会に御出席いただきましてありがとうございました。ただいまお述べいただきました御意見等につきましては、今後の調査参考にいたしたいと存じます。小委員会を代表して厚くお礼を申し上げます。  なお、本日参考人の方々から御提出いただきました参考資料のうち、発言内容把握のため必要とされるものについては、本日の会議録の末尾に掲載いたしたいと存じますので御了承願います。  本日の調査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後三時二十分散会      ―――――・―――――