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参考人(
力石定一君)
国際協力に関しまして戦後のいろいろな理論があったわけでございますけれ
ども、一九七〇年代の宇宙船地球号の時代に入って、根本的な検討がえが必要になってきているのではないかと思います。その新時代における
考え方のフレームワークみたいなものをちょっとお話ししてみたいと思います。
アメリカが非常なドルが強い時代に対外投資やあるいは対外
援助を拡大いたしまして、それが西ヨーロッパにおいてはある
程度、
日本に対しても成功したわけでありますけれ
ども、南の諸国に対する
経済援助はどうも
余りうまくいってない。
援助してかえって憎まれるというようなことが起こっているわけで、それを、
援助して憎まれるのじゃなくて、
援助を減らすことができるような
援助をしなきゃいかぬ、自助
努力ということが言われ出したわけでありますが、そういう
援助というものは、新しい環境問題が激化した時代においてはもう少し発展させて
考える必要があるのじゃないかというふうに思われます。
私は、
先進国と特に熱帯諸国との間の
関係を
考えてみますというと、エコロジー的には非常に重要な問題があるように思います。
先進国は例えば石油型の文明をリードしてまいったわけでありますけれ
ども、それが石油危機の壁にぶつかって軌道修正せざるを得なくなったわけですが、この問題が例えば不況を呼び起こすことによって南の諸国をますます債務奴隷化させておるというようなことになっていますけれ
ども、ここをもう一工夫いたしまして、例えば石油化学製品をたくさん
先進国は使っている、この結果としていろいろなところで環境問題を激発しているわけでありますから、この点を修正することを通じて何といいますか、熱帯諸国との間の新しい協力
関係をつくる道が出てくるのではないかと思っております。
例えば、合成物質の代表といたしまして
日本でも非常に問題になっております合成洗剤でございますが、この石油合成洗剤というのは、毒性も魚毒性というのはメーカー自身も認めているわけでありまして、手が荒れるとかそういう問題もありますけれ
ども、例えば浄化槽の方へどんどん汚水が入ってまいりますと、浄化槽の中のバクテリアが、魚毒性があるものですから元気がなくなるわけです。そうすると、処理場がどうしても非常に莫大に要るわけでありまして、処理能力は大体粉石けんを使った場合に比べて半減すると言われております。
三島市役所が、郊外の住宅団地の処理場がパンクしたので
調査したことがあるのですが、増設しなきゃいかぬ、一億円ぐらい金がかかってしまう。そんな金はとてもない。住民自治会の持っている浄化槽なんですが、それを拡大する金がとてもない。そこで静夫の工学部の先生がやってまいりまして、一年間ほど粉石けんにかえてみたらどうかと。ビーカー試験でやりますというと、粉石けんは光合成物質でありまして、植物油をもとにし、あるいは動物油をもとにしております。昔は、今でも大分そうですけれ
ども、南の諸国のヤシ油を原料といたしまして、この植物油を原料とした光合成物質を使っておるわけですが、これはバクテリアにとっては健康食なわけでありまして、これを食べると俄然元気が出てくるわけです。合成洗剤を使うのに比べて処理能力は大体二倍に上がるだろう、そういう推計をしておりまして、実験してみようというわけで市役所の指導でやったわけです。そうしますと、処理能力が二倍にはね上がったために処理場がパンクしていたのが増設する必要がなくなった、こういうことがあります。
そういう
状態を見ますと、粉石けんにかえるということは、現在
日本の公共投資の金食い虫と言われているのはこの下水道なんですが、下水道の終末処理場だけで下水道建設計画に基づいて年間五千億円ぐらいの投資を毎年やっていると思います。あれがもっと小さな、半分ぐらいの規模で済むといたしますと、そこで二千五百億浮いてくるわけであります。それが
財政再建に非常に大きく寄与するばかりでなくて、粉石けんにかえますと、これは南の諸国で生産したものを買うわけでありますから、技術的な
援助をやって石けん工場から我々は輸入する、付加価値を加えたものを買うわけであります。したがって、ヤシ油、パーム油その他の熱帯産の工業原料の景気を刺激することになるわけであります。国内の環境問題に対処することが、同時に南の諸国の所得水準を引き上げるのに寄与することができるということでございまして、石油危機以後における新しい
先進国と後進園との連帯
関係をここにあらわしているのではないか、こういうふうに思っております。
もともと、そういうヤシ油やパーム油は植民地時代に熱帯産の原料として
先進国が一生懸命技術指導をしてつくったものでありますが、それを戦後合成物質にかえることによって市場を失わせている。それをもう一度復活させることが可能になってくるわけです。
同じようなことは、合成繊維あるいは人絹その他人造繊維ですね、化学繊維、こういうものと天然繊維との
関係においても見られます。
先進国における合成繊維の過度の乱用がいろんな問題を起こしておるわけでありまして、例えばアクリル系繊維は難燃性、なかなか燃えにくいというので、建築構造物にはアクリル系をどんどん義務づけているわけです。ところが、これはすぐは火はっかないのですけれ
ども、一たん燃えますというと青酸ガスが出るわけです。したがって、火災のときに大変大きな事故を起こしているわけであります。アクリル系繊維というのはこれは主として羊もの代用品でありますが、こういうものをできるだけ天然物にかえてあげるということをいたしますと、これは綿羊その他を南の諸国で飼うことによって、それに付加価値を加えたものを輸出すれば大きな所得を得ることになるわけです。
こういうふうな全般的な転換を
考えていってみる。例えばゴムもそうでありますが、合成ゴム、タイヤの中で合成ゴムを使わなくて天然ゴムにした方がかえっていい
部分がかなりあります。安全その他の問題を
考えますというと、天然ゴムをもっと使用率を高めた方がよろしいという分野はかなりあります。そういう分野につきましては天然物を見直していくというふうにいたします。そうすると、これはマレーシアとか
インドネシアのゴムに対する新しい需要を呼び起こす。今は非常に特殊なところだけしか天然ゴムを使っておりませんが、もっとやりようによっては使用量をふやすことが可能なわけであります。
そういうことで、石油合成物質というのはどうしても環境にストレスを起こしやすい。先ほどの繊維の話で落としましたけれ
ども、肌着に合成繊維をまだ今でもファッション化しているところは使っておりますけれ
ども、アレルギーの原因だとよく首われるわけでありまして、これはなるべく吸湿性がある天然繊維である綿の方がよろしいわけであります。そういうふうなことを全般を
考えて軌道修正すれば、南の諸国に対する大きな寄与になるのではないか。こういう形の、
援助よりも
貿易をということがある。特恵関税によって関税率に特恵性を与えることによってサポートするということは言われていますけれ
ども、もう一つのそういう工夫があるのではないかと思います。
そういう
先進国における転換は、いろんな規制を使うこともできますし、それから税制を使うこともできます。例えば、合成洗剤というのは処理場に非常にストレスを与えて後の公共投資を呼び起こすのであるから、これは物品税を一〇〇%取る、粉石けんはゼロ税率にする。こうやりますというと、今粉石けんの方が高いのですけれ
ども、逆転いたしまして粉石けんの方が安くなる。そうすると消費者はそちらを買うようになるでありましょう。まあこれは落ち方が悪いとよく言われますけれ
ども、実はあれは静夫の教授の
調査によりますというと、合成洗剤の方が落ち方は本当はよくないんだけれ
ども、これは蛍光剤をまぜることができるものですから、白く光ってきれいになって落ちているように見えるんだ。ですから白く光らせているのであって、あかの落ち方は油脂溶解度で見なきゃいかぬ。それで見ると粉石けんの方がかえってよく落ちるということが言われています。
こんなことを
考えますと、全般的に、例えば天然繊維の場合でも、天然繊維はゼロ税率にするけれ
ども、合成繊維はこれはかなり高率の税金にする、物品税を取る、こういうふうな形で税制上の格差をつけてやりますと天然物にシフトいたしまして、これが南の諸国からの輸入を呼び起こし、これらの諸国の景気回復にも寄与するでありましょう。こういう工夫があり得るのではないかと思います。こういうふうなユニークなやり方は、サミットにおいて
日本が主張すれば、当然ほかの国と一味違った環境問題に対する熱意を
先進国の間に呼び起こし、一定の尊敬をかち得ることができるのではないか、こう思います。
さて、もう一つ例を挙げますと、石油危機以来問題になってまいりましたのは全般的な使い捨て
経済でありますが、これは生産物をつくるときに猛烈なエネルギーを使ってつくったものを、非常に耐用年数を短くどんどん使い捨ててごみになって出てきております。これがごみという環境問題を呼び起こしているわけでありますが、例えば電気製品ですが、これは相当の量に達して廃棄物となって出ている。もう捨て場がなくて困っているわけでありまして、地方自治体は大型ごみの処理に非常に困っているわけであります。ところが、この電気製品のごみにつきまして電気屋さんなんかとよく話してみるのですけれ
ども、大体半分ぐらいはちょっと直せば使えるのではないか。所得水準の高いところですと八割方はちょっと直せば使える、所得水準の低いところでも三割ぐらいは直せば使える。そういうごみがいっぱい出ているのですが、なかなか修理ができない。着手ボランティア的に老人なんかがやっていたりしますけれ
ども、普通の人件費をかけますと非常に修現代が高くなるものですから、いっそ買いかえた方が得じゃないかということになってどんどん使い捨てられていっているわけであります。電気屋さんは自動車に一台下取りして集めますと、それを千円ぐらいの工銭でもってどこかで処理してもらっています。処理人に処理してもらっているわけですが、ブルドーザーでぶっつぶして埋めているので大変もったいないわけでありまして、これは人件費が高いためにそうなっているわけでありますから、人件費の安いところにリサイクルすればいいわけであります。
それの一番向いておりますのは私は中国ではないかと思いますが、中国は人件費が大体
日本の三十分の一ぐらいであります。したがいまして、こういう電気製品の大型ごみは、中国から石炭を買っている空船が帰っておりますが、そういうものにどんどん乗せまして、そして
向こうへ持っていって
向こうの修理工場、
向こうがつくるといたしますと、そこに提供する。そこで人海戦術でこれを修理していくということをやりますと、これは中国にとっては、今船乗りが、中国人はよくごみの中からよさそうなやつを適当に見つけて持って帰っていますよ。
向こうで修理して使っているわけであります。
向こうは今、修理産業というのを非常に重視いたしまして、もう小手先でちょこちょことやればいいというので自転車の修理なんかも非常にはやっておりますけれ
ども、特に個人
業種を育て、雇用吸収力が非常に高いというので中国
経済でも非常に評価されておりますが、この修理産業と結びつけるというふうなことをやりまして、修理したやつを中
国民衆に売る。売った代金を集めまして見返り
資金特別会計という形で計上する。そうすると、これは
金利のつかない内国資本を中国は手に入れるわけでありますから、
日本の中国に対する円
借款とこれをまぜますというと、円
借款のいわゆる内資協力が拡大いたしますから、非常に助かるはずであります。
それで、これはどのぐらいあるんだろうかというので推計をしてみたのですが、総理府の統計によりますというと、毎年大体テレビが二百七十万台ぐらいごみとして出ております。それから電気洗濯機が二百五十万台、それから電気冷蔵庫がやはり二百何万台出ております。それから自転車が百万台ぐらい出ております。大変な大きさでありまして、それから古具だとか時計だとか、そういうものも皆廃棄物になって出ているわけであります。こういうのもちょっと修理すればできるやつがかなりあるわけでありまして、それを
向こうで修理する。例えば、電気製品は半分修理できるといたしまして、安い人件費で加工して売り出す。売った代金を計上する。今のレベルは大体毎年同じぐらいのレベルでずっと出ているわけです。高度成長期のやつがずっと今買いかえられていっているわけでありまして、これは高度成長以後の非常に先端的な技術をいろいろ使ったものではなくて、もとの割と素朴なものでありまして、中国にとってはかえって向いているような製品なんですが、そういうものを
向こうが、修理公社が売って代金を計上していくということになると、恐らく毎年一千億円ぐらいの見返り
資金が計上できるのではないかという感じがいたします。今、円
借款が年間七百五十億円ぐらいでありますから、これと比べましても相当の内資を調達することができる。
これは
日本がアメリカの過剰農産物を買ったときのことを
考えればわかるわけですが、あれは最初は
無償みたいな形でもらいまして、
政府はこれを民衆に売ります。売った代金が入ってきたのを見返り
資金特別会計に計上して、そして開銀その他の復興投資をやってきたわけであります。こういうふうにしてリサイクルしていくということが、あのときは耐久消費財は
余り問題にならなかったわけです、農産物を主としてやったわけですが、
日本は米は過剰ではありますけれ
ども非常に高くついておりますから、これはむしろ安い米を海外から買って
援助した方がかえっていいぐらいなんでありますから、むしろ私は耐久消費財が着目されていいのではないかと思います。
こうやって中国の労働力過剰、そして資本不足、そういうものに対する適正なサポートが可能になってきます。これは地方自治体がそれぞれの姉妹都市とお互いに協力すればいいわけであります。例えば横浜は上海の姉妹都市ですから、この両市の間で友好提携
関係があるわけですから、そこで発生する粗大ごみはそういう形でリサイクルいたしましょう、こういう形であります。
それで、この資本不足
経済のもとで、資本
援助がある
程度ある、そして労働力過剰を吸収する力があるということは、非常に中国
経済にとって重要でありまして、今中国は農村においてだんだんと自主的な農業経営の方向に転換し、工業においても価格メカニズムを利用するという、自主的な経営権を認めるという形でプライスメカニズムを利用する方向に進んでおりますけれ
ども、これが資本不足が激烈であるということになりますと、ともすればこういうふうな形態、ゆとりのある形態はとれなくなって、また厳しい統制
経済に返っていく可能性があるわけであります。これを逆行させないようにする一番大きなてこは、資本不足に対する
金利のつかない金の
援助であります。
金利のつく金というのはどうしても返さなきゃいけませんので、例えば中国ですと、
金利のつく金は消費財輸出によって香港やその他で稼いだ金で返すわけでありまして、国内になけなしの消費財を海外にハンガーエキスポートをやって、それで稼いだ金で返さなきゃいかぬ。こういうことで非常な
負担になるわけで、円
借款はいろいろ欲しがるけれ
ども、
金利のつく金というのはその点では大変危険な面もあるというので、内部でしょっちゅう引き締めをやって、
余り対外資本への依存度を高め、ポーランドみたいにならぬようにということで揺れ返しが起こっております。
そういうことを見ましても、我々ができる範囲でそういうふうに協力をしていくということは、中国の今の
経済の軌道、成長モデルを助けることになる。この成長モデルは、恐らく価格メカニズムの弾力的な運用、それから農業経営の自主性を認めるというこの方向は、イデオロギー的にも政治的にも自由化の方向をたどる可能性を持っているわけでありまして、中国の自由化への方向というものは、現在の世界
経済において非常に重要な役割を果たしております。
同じ共産主義国でも、自由化された共産主義国とそうでない国との間には絶えず問題が起こってまいりまして、例えばヨーロッパですと、ハンガリーが一番自由化しておりますが、このモデルはソ連に大きな
経済的、政治的な影響を与えております。こういうふうな圧力が加わる要素が東の諸国からも起こってくるということになると、非常に大きなプラスになるのではないかと思います。恐らく、東ヨーロッパにおける自由化というのは過度にやりますとソビエトが干渉する力を持っておりますけれ
ども、中国についてはこの点についての旧主権を持っておりますから、中国が自由化の方向に向かい出すと、これはかなりのところまで進む可能性があります。これが進みますと、北朝鮮及びベトナムに影響を与えるでありましょう。ベトナムに対してもそういうふうな
経済体質と自由化された体質でもって接するようになりますというと、カンボジア間脳についてもまた違ったアプローチが出てくるでありましょう。そしてまた、いわばお互いに自由化というのは共産主義国においては感染しやすいわけでありまして、感染の度が広がっていきますというと、クレムリンの方向にも大きな圧力になってまいります。その自由化された批判力がないために過度に軍拡に走るという傾向があるわけでありまして、それにブレーキをかける一番大きなポイントはその社会的な過程に影響を与えるということであります。ソ連のタカ派に対する影響力は、そういう
経済過程を通じて、社会過程を通じてじわっと働いてくるのが一番大きいのでありまして、やがてこれは東ヨーロッパの自由化と相まって、挟み打ちに遭いながらソビエトもその感染作用の中にさらされるようになる。タカ派の力が弱まってくれば第二のフルシチョフ市命が起こるかもしれません。そのことは、お互いさまであります。アメリカにおけるタカ派に対する逆作川を及ぼしまして、これも弱まってくるということになって、世界的な軍拡競争に対する冷水を浴びせることにもなるわけであります。
こういう意味で、中国に対するアプローチ、つまり社会過程を通じてタカ派のアキレス腱をカットしていくという意味で非常に重要な役割を持っているわけでありますが、中国もアメリカも、
日本に軍拡競争に参加することによってソビエトに対抗しろと、こういう誘いをかけているわけでありますが、それは非常に不毛な要素を持っておるわけでありまして、そういう方向よりももっと生産的な社会過程を通じてひとりでに雪解けを起こしていくというふうな
条件をつくる作用を我々が開いていく。そのためには、これを特に
日本の
国民が全体として
考えていくという意味で、ごみ問題という都市の重要な問題を
考えながら、そのことは環境問題に対処することが同時に世界の南北問題にもあるいは東西問題にも大きな寄与をするのだと、こういう気持ちで民衆がこれに取り組んでいくということが
外交問題を
国民に根づかせるゆえんではないかというふうに思っております。そういう意味で、アメリカのチャイナカードは巨大設備をどんどん売り込んだり、原子力
発電所やあるいは高度技術を売り込んだりということでありますが、我々はもっと地道な形で中国を動かしていく、こういう形のチャイナカードがあり得るのだということをぜひ
日本でも議論してしかるべきではないかと思います。
さて、もう一つ環境問題が発生して以後重要になってまいりましたのは、これは南の諸国に対する、ちょっと最後のところでも触れましたけれ
ども、資本
援助というものが技術の選択に大きな問題があるのではないか。
途上国の社会的、
経済的な
条件に必ずしもマッチしないような高度技術あるいは労働節約的な、資本集約的な技術を教えることによって、うまく稼働しないで借金だけ残って後困ってしまう。これに対してまた
資金援助せざるを得ないというようなことになるわけでありまして、そういう技術の選択の問題が出てまいりました。南の諸国は大
部分の国が労働力過剰で悩んでおります。それで資本不足でも悩んでおる。そういう資本不足で悩んでおるところに非常に高価な資本財を与えることによって、しかも省力的な、
先進国で発達してきた労働力不足、高賃金という
条件のもとで発達した技術の
技術援助をやりますというと、これは資本財のむだ遣いになり、そして失業を減らすことが不可能になるというようなことで大変問題なわけです。
したがって、
日本でも終戦直後ですと労働力過剰、むしろ資本不足で非常に困っていた
段階がありましたが、その
段階にはその
段階にふさわしい資本
援助というものがあるわけでありまして、むしろ労働力をたくさん使い、そして資本の価値はそんなに高くないけれ
ども、しかし今の付図から脱出するにはいいステップになるような技術を選択しなければいけない。その技術を最近では適正技術という言葉で言われておりますが、シューマッハーというイギリスの学者が提唱いたしまして、適正技術研究所をつくって、本当に南の諸国に役立つような、もっと安くて、そして労働集約的でいい技術を発見しようと。それをすっ飛ばして
先進国は発展してきているわけですが、そこのところにまだ残されたフロンティアがあるのではないかということに気づいたわけであります。これが後進国の
経済発展の
実績の中で出てきただけではなくて、これは同時に
先進国における公害問題との対処の中で出てきた
考え方でもあります。
先進国でいたずらにエネルギーをたくさん使い、そして労働節約的な技術をやってみたけれ
ども、かえってそういう技術は環境問題の壁にぶつかってストレスを起こすばかりだということに気がついて以来、いろんな工夫が行われ出しました。例えばエネルギーにつきましては、農村地域で畜産をやりまして、水田でえさ米をつくる。これを牛に食べさせると牛がふん尿をするわけでありますが、こういうふん尿をタンクにためますというとメタンガスがとれます。大体二十度ぐらい以上の温度にしておきますとメタンがぶくぶく出てくるわけですが、冬場は寒いですから、その発生したメタンで温めながらメタンをとるわけです。これはメタン発生装置と言いますが、こういうようなものによって自然エネルギーを、いろいろ土着のところから工夫することによって安くてしかも無限に、まあこれは太陽エネルギーでありますから、生物と植物を通じて取り上げた太陽エネルギーでありますが、そういうようなものをローカルエネルギーとしていろいろ工夫してきております。そういう工夫の中で南の諸国にむしろ適正に合ったものが、それに近いものが発見されつつあるということに注目すべきではないかと思います。
例えば水力発電でも、低落差の水力発商機械につきまして、フランスではかなり中小企業が
開発を進めました。こういうふうなものが本当に南の諸国にはかえって向いているのではないか。大型のアスワン・ハイダムみたいなやつをやりますというと、熱帯地域でありますから水分がどんどん蒸発いたしますし、それからそのダムを通じてかんがいをやりますと、かんがい地域に非常な新しい流行病が発生したり、ダムがなかったときには洪水を通じて肥沃な土壌が供給されたのが供給されなくなることによって、それには肥料を買わなきゃいかぬ。そうすると、またそれが金がかかってとても手が届かない。かえって農業のためにはならなかったというふうな、アスワン・ハイダムの実験はエジプトのエコロジカルなバランスから見るとかえって選択を間違ったのじゃないか、もっと小規模なやり方でやった方がいいのじゃないかということに気がつかれ出しまして、フランスではそういうものを
援助しようとした。ところが、それに対して、大型プラントの資本
援助計画を国が持っておるといたしますと、こういうダム計画があるんだから、そんなのが
余り出てくるとこの計画がだめになってしまうというふうなことで競合してくるわけですね。そういうときに、どちらが本当に南の諸国に役に立つものであるかということを
考える基準が要るわけです。それにはやはり南の諸国のエコロジカルなバランスと、それからそこに見合った適正技術というものは何であるかということを発見すること、これが
援助の一番重要なポイントではないかと思います。
例えばメタン発生装置は、インドはたくさん牛を飼っておりますが、その牛のふん尿を乾燥させておいて、そして燃焼させる。これは燃やしてしまう。例えばネパールなんかは燃やしてしまう。そうすると、これは肥料となって土壌に還元されないから、土壌がますますやせてくるわけですね。そういう燃料にしてしまわないで、これを発酵装置でもってメタンをとって燃料をとる。そうすると、メタンをとった方があとの肥料としてはよくなるわけでありまして、この肥料を土壌に還元すればエネルギーと肥料と両方が供給できるという意味では、メタン発酵装置というのはインドにとって非常に大きな適正技術であるわけです。我々はそういうふうなところに着目していく。
それから、このメタンをもとにして発電することもできます。メタン発電機というのがいろんな形でアメリカでも使われておりますが、在来電力と同じコストでメタンが使われております。五百台ぐらいメタン発電機はアメリカにありますけれ
ども、在来電気と
余りコストが変わらない。なぜかと言うと、メタンはクリーンエネルギーでありますから、農村やコミュニティーの真ん中でやるわけです。小型ではありますけれ
ども、真ん中でやって、その廃熱はそのまま使うわけです。したがってエネルギー効率九〇%。大型発電というのは、これはどうしても公害がありますから、過疎地へつくっておいて、熱は使う人がないから捨ててしまいまして、エネルギー効率三〇%で配電するわけです。しかも配線コストがすごくかかります。今の電力の半分は配線コストであります。したがって、こういう大型の発電機というのは
先進国にはある
程度合っておりますけれ
ども、南の諸国はそんな配線設備の費用なんかとても出せないわけでありまして、非常に高いものにつきます。それがメタン発電機ですと、それぞれコミュニティーでメタンをとって、牛を飼っていればそこからメタンをとる。人ぷんからもとる。それをもとにして発電をする。そうすると配線のコストは非常に少ないし、廃熱もいろいろ使うというようなことができます。そして廃棄物はそのまま土壌に還元できる。こういうリサイクル型の農業経営が可能なんですが、
日本でも有機船業をやっている人たちの間でそういうものについての工夫が、いろいろ新しい形のエコテクノロジーと言いますが、生態学的なテクノロジーに着目するものがふえてきております。
そういうものをうまく組み入れて、インドとか中国とかビルマとか、そういう国々にそういうものを提供していく。これはそれをつくる技術を提供するのも結構ですし、それから製品を売ってもよろしいでしょう。そういうものを売る場合には、南の諸国からそういう天然物をどんどん買って所得を与えなきゃいけません。つまり、天然光合成物質をもとにして加工したものを輸入するということは、太陽エネルギーをもとにした製品を買うわけです。一方、太陽エネルギーをとる設備を
日本は売るというふうな形で、全般的な石油離れの
経済をここに実現することが可能になってきます。
こういう意味で、巨大技術あるいは環境にストレスを起こす技術から見直しの過程が
先進国で起こっているということは、南の諸国に対する新しい適正技術により近いものを、もちろんこれはいろいろまたモディファイしなきゃいけませんけれ
ども、より近い技術というものがいろいろ出てくるのではないかと思います。したがってそういう点について、例えば中国なんかと専門家会議をやる場合には適切にこれを指摘する必要があるわけでありまして、巨大技術をやたらに、いろんなノーハウやそれから原料の質なんかでも全部違わなきゃならぬような、新日鉄のようなプラントをいきなりやるということとどうなんだろうか、電力設備も最も高度な技術のプラントをやることとどうなんだろうかというようなことについてもう少し詰めた議論をしていくことが必要ではないか。そのことによってより稼働率の高い、しかも安価な設備で今の貧困の水準から引き上げていくというふうな形の
努力が行われる、ここが
経済協力の一番のポイントではないか。
そういうものの教育を進めるためには、やはり教育水準、それから現地における組織、それから訓練というものが重要になってくるわけでありまして、先ほどの
参考人もおっしゃっていましたように、南の諸国からの留学生をたくさん取り入れることによってそういう問題についてのいろいろな研究協力をしていく必要があるんじゃないか。
日本には
アジア経済研究所というのはありますが、適正技術研究所というのは
日本にはまだありません。こういうふうなものをそれぞれの既存の研究
機関の、附属してもよろしいですから、南の諸国に適正な技術というのは何であるかと。技術の選択を間違えると
先進国でも環境問題という壁にぶつかるのですが、南の国では
経済問題でもすぐぶつかってしまうというふうなことを
考える時期が来た、これが石油危機以後における南北協力の新しい問題ではないかと思います。
そういう問題について、例えばメタン発電機なんというのを、一番メタン発電機のいいのを持っているのはフィアットでありますが、フィアットは自動車のエンジンの工場が、自動車がだんだん売れなくなってくるとそれを転用する必要があるというので、将来の戦略としてメタン発電機に対する準備をしております。
日本ではヤンマーディーゼルがメタン発電機についての技術研究をやっておりますが、そういうふうな適正技術を通産省の政策を通じてもどんどん奨励していくということをやっていくことによって非常にフルーツフルな南北協力が可能になってくるのではないか、こういうふうに
考えるわけです。つまり、
日本の国内の環境問題をゆっくり
考えるということが、同時に南の諸国の問題とも深い根っこのところで結びついている。そうすることによって
国民はより南北問題を前向きに積極的に取り組む
条件をつくるのではないかということでございます。
どうもありがとうございました。