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説明員(
岡崎久彦君)
総合安全保障につきまして述べさせていただきます。
まず、
総合安全保障の概念でございますが、昭和五十五年十二月に設置されました
総合安全保障関係閣僚会議の目的は、その設置に係る
閣議決定の文言を引用いたしますと、「最近における
我が国をめぐる
国際政治経済情勢の推移にかんがみ、経済、
外交等の諸施策のうち、
安全保障の視点から
総合性及び
整合性を確保する上で、
関係行政機関において調整を要するものについて協議するため」とございます。
この
考え方を敷衍いたしますと、
総合安全保障と申しますのは、
国際的要因に起因して
我が国の
存立基盤に重大な影響を与える、あるいは与えるおそれのあるような多種多様の脅威に対しまして、外交、防衛、
経済等の諸施策を総合することによりまして、その発生を未然に防止するかあるいは現に発生した場合にこれに適切に対処することによりまして、
我が国の国家としての存立を維持し、また、
国民生活の安定を確保しようとする
考え方であると言えます。
このような
対外政策を総合的に企画、実施するに当たりまして、留意すべき点が二点あると存じております。
一つは、
国際関係は現在でもこれは国家と国家との関係でございます。これは総合的なものでなければならないということでございます。
日米関係という最も身近な例をとりましても、両国の関係には政治問題、経済問題、
防衛問題等種々の面がございますが、これらの個々の問題は本来独立の別の問題であるとも言えるのでございますけれども、これはまた米国の世論あるいはこれを反映するものとしての米国の
議会対策という観点から見ますと、これは総合的な
日米関係の中で考えねばならないものでございます。
つまり、国家というものは、それぞれの国家は歴史も伝統もあるいは
国民性というものもございまして、一個の人格のようなものでございまして、いわば一個の人間とのつき合いと同じことでございまして、手は手と仲よくする、あるいは足は是と仲よくする、そういうことでなく、一個の統一した人格として考えねばならない。こういう意味で総合的な
対外政策の
重要性があるわけでございます。
外交一元化ということがございますが、これは単に省庁間の権限の問題ということではございませんで、
対外政策というものはあくまでも総合的なものでなければならないという趣旨でございます。経済、防衛を含め、
我が国の
対外政策全般において
整合性が確保される必要がある。この意味で外交が
一体性を持って行われなければならないという
考え方でございます。この点で問題が生じました最も典型的な例は、戦前、
国家安全保障という問題につきまして、外交と軍事の間で乖離が生じたことであります。このことについては、もはや多言を要しないと存じます。
現在、
我が国の政治、経済、社会、文化のあらゆる
国際活動におきまして、
総合安全保障の観点から申しますと、すべての活動で日本の安全に関連していないものはないと言って過言でございません。したがって、
我が国のすべての
対外活動において国の安全と
国民生活の保護という目的に沿った
整合性を確保することが必要でございます。
対外政策を進めるに当たりましてもう一つの点は、
対外政策においては独立の主権を持つ相手があるということでございます。
相手側の都合を無視しまして、一方的に日本の主張を押し通すことは困難でございます。この点、公共の利益のためには
強制執行も可能であるという
国内政策とは根本的に違うところであります。したがって、
相手側の事情をよく見きわめるということがまず必要でございます。また、それぞれ
独立主権を有する諸国家間の関係からなる
国際情勢の動きというものは千変万化でございまして、
我が国の力をもって左右し得るところは非常に少ないものでございます。多くの場合は、既に存在する
国際情勢を与件として考えねばならないということでございます。
確かに、
我が国は
自由世界第二の
経済力を有するに至りまして、
政治面におきましてもその
発言力を高めてきてはおりますけれども、みずからの力をもって世界の動向に影響を与えるには限度がございます。したがいまして、
我が国が
対外政策を推進するに当たって必要なことは、
我が国がこうあってほしいと思う
国際環境を前提とするということよりも、むしろ
国際情勢の流れをあくまでも冷静、客観的に見きわめまして、その限られた範囲の中におきまして国益の保全と
国家理想の追求を図ることでございます。
このためには、常に良質な情報を広く収集いたしまして、かつこれについて的確な判断を下し得るような体制を整備し、強化しておくことが不可欠でございます。現在の厳しい
財政事情の中にありまして、
行政改革を担当する臨調が
外務省の
情報機能拡充については特に積極的でありましたのも、この理解に基づくものであると考えられます。
外務省といたしましても、各方面の期待にこたえまして
情報能力強化の努力を続けていく所存でございます。
我が国は国土も狭く、資源も乏しく、その存立と繁栄は諸外国との協調と安定した
国際環境を何よりも必要とするものでございます。また、
相互依存関係の深まった今日の
国際社会の中では、世界のいかなる地域における情勢も
世界的規模の危機をもたらすおそれがございます。この意味におきまして、世界のいかなる場所における情勢の変化も
我が国の
総合安全保障の観点から無関心たり得ないものでございます。また、
政治情勢に限らず、
国際経済情勢におきましても、世界的な
保護主義的機運の台頭や
開発途上国の
債務累積等の問題は、事態の
展開いかんによっては
我が国の
国民生活にも影響を及ぼしかねない大きな問題でございます。また、地域的にも
日本周辺のアジア・
太平洋の情勢だけに限らず、東西間の伝統的な正面である
NATO、
ワルソー条約地域、あるいは中近東、
アフリカ地域、あるいは中南米各地域における情勢、また
政治情勢に限らず経済、社会すべての
国際情勢について一刻たりとも注意を怠ることは許されません。
ただし、ここではそうした
国際情勢のすべてを論ずる時間的余裕はございませんので、とりあえず最近の
国際情勢のうち、
我が国の防衛に最も深い関係のあります東西の関係と極東の
軍事バランスについて御説明申し上げます。
まず、
東西関係でございますけれども、
東西関係につきましてはデタントの時代もございましたとか、あるいは
軍縮交渉が現在中断しているとか、あるいは今やソ連との対話を欲する機運が生じているとか、いろいろアップ・アンド・ダウンがございますけれども、そういう時々の変化の問題、すべての問題の底流をなす基本的事実がございます。その基本的事実と申しますのは、過去二十年間にわたって一貫して行われたソ連の
軍備力増強と、それが国際的な力の
バランスに及ぼす影響でございます。
ソ連は
キューバ事件、引き続きましてフルシチョフの退陣の後十八年間の
ブレジネフ時代を通じまして、核、
通常兵器の両面にわたって画期的な大
軍備拡張に乗り出しております。この
軍備拡張が現在の東西間の均衡を脅かすおそれのある兆候は、既に七〇年代の初めに明らかでございました。しかし、当時
アメリカは
ベトナム撤退の
厭戦気分の中にございまして、また当時、中
ソ関係が悪化いたしまして、ソ連の
通常兵力の
増強分の大部分が中
ソ国境に集中したということがございます。そのために西側は、ソ連の
軍事力の増強にもかかわらずその圧力を感じることが少なかったこともございます。その間、西側としてはむしろ米ソ間の
戦略兵器交渉を中心とする各種の
東西対話によって東西間の
相互理解、
緊張緩和が行われることを期待しておりました。
しかし、一九七〇年代半ばごろに中
ソ国境の手当てが一段落しましたソ連が、
NATO及び
極東両面の戦力の
近代化に乗り出しまして、またアンゴラ、モザンビーク、南イエメン、エチオピア、そして最後にアフガニスタンに進出するに至りまして、
西側諸国の中においてソ連の脅威の認識が高まりました。西側も
防衛力の増強に本腰を入れるようになりました。
現状を申しますと、西側の
防衛力増強の努力がようやく軌道に乗り始めまして、東西の均衡が破れるのを防ぐことにつきましてやや明るい見通しがつきつつはございますが、何と申しましても過去二十年間のソ連の
軍事投資の蓄積とその効果が余りに大きいために、また現在でも
軍備拡張がとまる兆候もございませんので、西側としましてはなお、おさおさ怠りなく
防衛力の整備を図りつつ、他面、東西間の対話を通じまして新しい均衡を模索すべく、ソ連に呼びかけている段階と申せます。
次は極東の
軍事情勢でございますが、このような
東西関係の状況の中で、日本にとって最も懸念すべきは
極東地域におけるソ連の
軍事力が増加しつつあることでございます。
極東ソ連軍の増強は、一九七〇年代半ばに中
ソ国境配備が一段落した後の
世界的規模における増強の一部であると申せます。しかし、他の地域における増強よりも比較的に極東における増強の度合いが大きいということも事実でございまして、ソ連の戦略的な
考え方の中において極東の優先度が高くなっていることは事実でございます。また、従来配備されていなかった新配備が
北方領土であるとか
カムラン湾、ダナンに行われるなど、新しい地域への進出も見られております。
極東の米ソの
軍事バランスの変化を比較するには、米国の
ベトナム撤退が終了した一九七〇年代半ばごろを基準とするのが適当でございます。それ以前の時点をとりますと、米国の減少が甚だしいものでございますから全体の趨勢を見るときに混乱を来します。したがいまして、
ベトナム撤兵が終了しました一九七五年、六年、そのころの米ソの
バランスと現在の
バランスの変化を比較するのが一番適当でございます。
極東米軍の兵力は、その後ほぼ量的には横ばいでございます。しかし、その配備が甚だしく広く薄くなっております。これに対しましてソ連の増強は著しいものがございます。要約して申しますと、ソ連の極東・
太平洋艦隊の戦力は多量の
近代艦艇を加えまして、
近代戦力におきまして抜本的に増強されたと言えます。一九七〇年当時百万トンのものが、現在百六十万トンと言われておりますけれども、増加した六十万トンはすべて
近代艦艇でございますので、実際的な戦力の増強は恐るべきものがあると申せます。
他方、この間
ペルシャ湾岸情勢が変化いたしまして、それまでは
ペルシャ湾岸を
アメリカは自力で守る意図はなかったのでございますけれども、シャーの王制が崩壊いたしまして、その後
ペルシャ湾の情勢が非常に不安定になってまいりました。また、その後ソ連が
カムラン湾、
ダナン等に進出いたしました。したがいまして、
太平洋と
インド洋両方をその
管轄下に持っております
アメリカの
太平洋艦隊に対する需要が、
太平洋、南シナ海、
インド洋、
ペルシャ湾すべてにわたりまして増大いたしました。したがいまして、一九七〇年代半ばごろは専ら西
太平洋を中心に展開されていました
アメリカ空母機動部隊は、
西インド洋に至る広範な地域に分散配置されております。したがいまして、
日本周辺に常時展開される
米海軍力は著しく減少しております。しかも、これは世界的な危機に際しましては、場合によってはさらに厳しい事態も想定されます。
空軍につきましては、数の増強はこれは新しい機種というものは非常に値段が高くなるものでございまして、数を増加するというよりもむしろいかに
近代化したかということが問題なんでございますけれども、ここ数年間ソ連の
極東空軍の
近代化というのは著しいものがございます。したがいまして、
太平洋岸地域におきます
航空優勢獲得能力あるいはその範囲、これは格段に増加しております。ソ連の
地上兵力につきましては、これは日本に対する
潜在的脅威を考える場合には、ソ連の
揚陸能力は依然として限定されたものでございます。しかし、その能力もこの数年間とみに増強されております。また、この
揚陸能力と申しますのは
制空能力と非常に深い関係がございまして、ソ連の
極東空軍の
近代化というものは
揚陸能力の増強に深い関係を有しております。これに対しまして米軍の
来援能力につきましては、ソ連の潜水艦が増加いたしまして、また
バックファイアが配備されました結果、有事における米軍の
来援能力には制約が課されるおそれが出てまいりました。
このように
我が国周辺を含む極東の
軍事バランスが大きく変化したことは、米国としても深く懸念しているところでございます。したがいまして、
新型空母カールビンソンを極東に展開する、あるいは三沢にF16を配備するなど
北西太平洋重視の意欲は十分うかがわれるものでございます。しかし、米国の
防衛力整備計画はやっと軌道に乗り始めたばかりでございまして、ソ連の
極東軍備増強の過去の蓄積及び現在の増強ぶりは著しいものがございまして、今後とも相当の期間
我が国周辺において厳しい軍事的環境が存在するということは覚悟すべきだろうと存じます。
次に、
総合安全保障の
考え方につきまして、さらに若干の整理を行っておくことが有用と考えられます。
総合安全保障の中には、脅威の形態から考えまして、まず外国による物理的攻撃、これは戦力による攻撃でございます。物理的攻撃から政治的、心理的威圧に至るまでの脅威に対する
安全保障がございます。これは政治保軍事的
安全保障でございまして、従来
安全保障という場合に中心的に考えられていたものでございます。これが現在でも一国の
安全保障につきましては基本的な課題でございます。このような政治・軍事的
安全保障に対しまして、資源、
エネルギー、食糧などの危機に対する
安全保障がございます。これがいわゆる経済的
安全保障と言われるものでございまして、
総合安全保障という
考え方が出てまいりました背景には、七〇年代に
エネルギー問題に端的に示されたような世界経済の厳しい状況のもとで、
エネルギー、資源、食糧などの対外依存度が極めて高いという日本の経済の基本的脆弱性について認識が深まったという事実がございます。つまり、この経済的
安全保障をも含めていることが
総合安全保障という
考え方の意味であると申せます。
次に、
安全保障確保のための努力の段階から申しますと、これは政治・軍事的
安全保障であると経済的
安全保障であるとを問わず、まず脅威の発生を抑止し、これを未然に防止するための努力が必要でございます。それとまた同時に、こうした努力にもかかわらず脅威が現実化して危機に直面した場合に、これに対処するための準備を行っていく努力も必要でございます。
以上のような整理に基づきますと、
総合安全保障確保のためには次のような努力が必要と考えられます。
まずは経済的脅威に対する
安全保障でございますが、経済的脅威の実体に即して考えますと、現在
我が国が直面する第一の問題は、世界経済の底流に存在する保護主義的傾向でございます。これを排除して自由貿易体制を維持強化し、世界貿易の健全な発展を確保することなくしては、
我が国の経済の繁栄もあり得ません。しかし、自由貿易体制の維持強化と申しましても、現在先進民主主義諸国が貿易収支の赤字、あるいは景気は回復しているとは申しましても失業問題に悩んでいる現状におきましては、言うべくして容易なことではございません。いずれにしましても、
我が国が今や構造的な貿易収支黒字国となりつつございまして、また日本経済が閉鎖的であるとか不公正であるとかというイメージが、それが正しいか否かにかかわらず、依然として世界的に拭い切れないものがあるという現状におきまして、日本といたしましては内需振興中心の経済運営を行うとともに、一層の市場開放、各種の規制の緩和等日本経済全般にわたる自由化の努力が必要でございます。それなくしては、国際自由経済の維持に日本が指導的役割を演ずることはできません。
さらに、中長期的に世界経済の安定成長を図り、かつ
我が国経済の発展を図っていくためには、経済の基盤である科学技術の進歩を促進することが極めて重要でございます。
債務累積問題などの
開発途上国の経済的困難の問題も重要でございます。これが一層深刻化して
開発途上国経済の破綻が生ずるようなことがあれば、
開発途上国と深い
相互依存関係にあります
我が国にとりまして、大きな影響を及ぼし得ることが懸念されます。のみならず、かかる事態は、他の先進民主主義諸国も含め
世界的規模において政治的に深刻な意味合いを有するものでございます。また、国際金融面など経済的にも大きな影響を及ぼし得るものでございます。
我が国としては、そうした事態を回避するために、経済協力、なかんずく政府開発援助の一層の拡充を図るとともに、貿易、金融面でも適切な対応を行い、もって
開発途上国の経済的困難の解決に寄与し、建設的な南北関係を構築していく努力が重要でございます。
また、現在需給が緩和しているとはいうものの、
エネルギーの安定供給の問題は、
我が国にとって常に潜在的な問題たり得ます。
エネルギーにとどまらず、食糧、希少資源を含めた鉱物資源などについても同様なことが申せます。これらの面での問題の発生を未然に防止するためには、従来どおりその供給先の多角化、資源・
エネルギーの節約、代替
エネルギーの開発等の努力が必要でございます。
以上は経済的措置の及び得る範囲でございますけれども、そのすべての根底には先進民主主義国の共通利益という視点がなければならないと存じます。すなわち、
東西関係という基本的な枠組みの中で、
西側諸国の経済の健全性を保ち、安全を確保する、そういう考えがあってこそ、世界経済の中枢をなしております西側先進民主主義国の間におきまして、日本が自由貿易維持のためにイニシアチブをとるということに説得力が強まると申せます。さらには、
我が国が経済的脅威に直面した場合を考えてみましても、IEAの石油緊急融通スキームの例を見るまでもなく、
我が国が協力を仰ぎ得る相手としましては先進民主主義が極めて重要でございます。こうした意味におきましても、対外経済政策において我が外交の基本政策との
整合性が確保されねばなりません。ここに
総合安全保障の意味があると存じます。
さらに、上述の努力にもかかわらず、
我が国の経済的
安全保障が脅かされる事態があり得ることを想定いたしますと、そうした事態に対する対策としまして、石油、食糧などの備蓄を十分に行っておくことの必要性は言うまでもございません。また、緊急時におきます食糧生産体制の準備、緊急時に不足物資の需給を適切に行い得る体制の整備なども重要でございます。食糧については、より根本的な問題といたしまして、食糧自給のあり方、農業の生産性の問題等も含めまして、
我が国農業のあるべき姿の検討が行われることも必要でございます。いずれにせよ、これらの場合に重要なことは、食糧生産一つとってみましても、動力源及び肥料の安定供給を確保し得て初めて食糧生産というものは十分に可能となるものでございまして、そういう種類の必要物資の備蓄の措置、
海上交通路確保のための防衛政策、さらにはその基本となります良好な
日米関係の確保、それから有事の際の経済流通への被害を最小限にするための民間防衛政策等、まさに
総合安全保障の
考え方に基づく総合的視点が必要でございます。
次に、政治・軍事的
安全保障の面では、
国際社会の平和と安定を維持する努力がまず重要でございます。
とりわけ、安定した
東西関係を構築することが最も基本的な課題でございます。このためには、まず
我が国を含め自由と民主主義という基本的価値観を共有します西側先進民主主義諸国が結束を維持しつつ、お互いに協力していくことが肝要でございます。そして、西側といたしましては、平和を確保するための十分な抑止力を維持するとともに、東側諸国との間で軍縮を含め対話と交渉を進めていくことが重要でございます。米ソ間の対話におきましては、その過程において相互の防衛態勢及びその背景となる戦略的
考え方について十分な意見交換と
相互理解が行われることが、紛争の未然防止のために極めて重要な意味を持つものと考えます。
我が国といたしましても、米ソ間の核
軍縮交渉を初め東西間の対話の促進を働きかけていくとともに、核軍縮を中心とする具体的軍縮措置の実現に向けて、国連、軍縮会議等の場を通じ積極的貢献を行っていく所存でございます。
また、開発途上地域におきます紛争と混乱の未然防止または早期平和的解決を図り、その安定的発展を促進することも
国際社会の平和と安定に不可欠であります。経済協力は開発途上地域の政治的安定にも資するものであり、
我が国といたしましては世界の平和と安定に貢献するとの観点から、政府開発援助の一層の拡充に努めるべきでございます。
また、国連の平和維持活動というものは、
開発途上国地域の紛争と混乱の未然防止に大きな役割を果たし得るものでございます。
我が国といたしましては、これに対し従来から実施しております財政面における協力に加えまして、可能な範囲内で要員の派遣、資材の供与等による協力を引き続き検討していくべきであると考えております。
さらに、イラン・イラク紛争におきまして
我が国がこれまで努力してきましたように、関係国間の政治対話を通じまして、紛争の早期平和的解決のための環境づくりに努めるということも、
我が国としてなし得る大きな貢献でございます。
また、当然のことながら、体制の異なる国も含め世界各国との友好関係を強化しまして、相互の信頼関係を育成することは、脅威の発生を防止するために極めて重要でございます。誤解や相互不信は小さなものでも危険であり、海外啓発活動、文化面等における各国との協力や交流、人的交流を拡充して
相互理解を深める努力をすることが重要でございます。
以上のような、いわば非軍事面におきます努力は極めて重要でございます。しかし、国民と領土の存立を確保するための究極的な手段が
軍事力である。これは冷厳な事実でございます。
軍事力は、脅威発生に対する抑止力としての機能と、脅威が発生した場合にこれに対処する機能とをあわせ持つものであります。
我が国の場合、防衛のあり方として唯一現実的な選択は日米安保体制の堅持とみずからの
防衛力の整備にございます。
日米安保体制につきましては、その円滑かつ効果的運用を確保し、その信頼性を高めることが重要でございます。このためには、
我が国が武力攻撃を受けた際に米国が来援しやすいような体制を整備する努力を継続していくとともに、
我が国を防衛することが米国の基本的国益に沿うゆえんであることを米国民に心から納得させ得るような良好な日米友好関係を維持することが極めて重要でございます。また、日米安保体制は、極東における平和と安全のための基本的枠組みを構成しているものでございます。したがって、日米安保体制を維持することは、この地域の平和と安定の維持に寄与するものでございまして、そのような意味におきましてもまた
我が国の安全に重要な役割を果たしているものでございます。
次は、
防衛力の整備でございますけれども、
我が国の
防衛力は、日米安保体制と相まって、
我が国に対する侵略を未然に防止し、万一侵略があった場合には、独力でまたは米国との共同によってこれに対処する役割を果たすものでございます。
我が国が憲法及び基本的防衛政策に従い、
防衛力の向上に努めることは、
我が国の安全がより一層確保されるだけでなく、日米安保体制の維持強化につながり、ひいては、結果として東西の
軍事バランス面において
西側諸国の
安全保障にも寄与するものであります。またアジア、ひいては世界の平和と安全にも貢献するものでございます。
なお、現在、日本の防衛体制につきましては、各方面の専門家の間で、現在の厳しい極東の
軍事情勢の中において十分であるかという問題のほかに、弾薬、燃料の備蓄の乏しさ、抗堪性のなさ、予備兵力の少なさ、統合機能の弱体、有事立法の不備等種々の問題点が指摘されておりますが、これらの点は今後とも検討に値すると存じます。
また、日本の防衛は、単に自衛隊の力によるのみでなく、背後に国民の支持があって初めて成立するものでございます。また国内の秩序、国民の安全について信頼感があって初めて自衛隊も安んじて任務に従事できるものでございます。スイスなどの民間防衛の基幹をなすものは、一が備蓄、二が防災、三が心理戦に対する抵抗力の強化でございます。人口欄密で高度に集中化している日本社会におきまして、万一戦略爆撃、あるいは
海上交通路阻害があったような場合に
国民生活を維持していくためには、備蓄の重要なことは既に述べたとおりでございまして、このための海外の諸制度が参考になると存じます。これは防災についても同様でございます。そして最後に、日本国民が現在享受している自由と民主主義がいかに貴重であるか、そしてまた現在享受している高い生活水準は、先進民主主義国の一員であるという状態のもとにおいてのみ可能であるということについて、国民の認識と理解を深める必要がございます。これによって外部からの脅迫あるいは甘言による離間工作等に乗せられないよう日ごろから教育、啓発を行うことが有益でございます。
最後に、繰り返して申し上げますと、一国の
安全保障は正しい外交的判断と的確な外交活動によってのみ守られると言って過言でございません。
戦後四十年近い平和と未曾有の繁栄を享受しましたのは、日米安保体制という外交的選択が正しかったからでございます。外交は防衛の代替とはなり得ません。しかし、正しい外交のもとでのみ
防衛力は国の安全を守れるものでございます。このことは、いわゆる経済的
安全保障のための種々の経済措置と外交との関係についても同様でございます。日米両国間の同盟関係を基軸といたします西側の一員としての外交的選択のもとに、防衛、経済を含むすべての
対外政策において
整合性のある
対外政策を行ってこそ、日本の安全も繁栄も自由も守り得るものでございます。