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1984-04-25 第101回国会 参議院 外交・総合安全保障に関する調査特別委員会 第4号 公式Web版

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  1. 外交・総合安全保障に関する調査 (会議録情報)

    昭和五十九年四月二十五日(水曜日)    午前十時一分開会     ―――――――――――――    委員の異動  四月九日     辞任         補欠選任      柳澤 錬造君     山田  勇君  四月十三日     辞任         補欠選任      山田  勇君     柳澤 錬造君     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     委員長         植木 光教君     理 事                 大坪健一郎君                 土屋 義彦君                 堀江 正夫君                 佐藤 三吾君                 黒柳  明君                 上田耕一郎君                 関  嘉彦君     委 員                 安孫子藤吉君                 大木  浩君                 大鷹 淑子君                 倉田 寛之君                 源田  実君                 佐藤栄佐久君                 曽根田郁夫君                 鳩山威一郎君                 降矢 敬義君                 梶原 敬義君                 久保田真苗君                 野田  哲君                 和田 静夫君                 中西 珠子君                 和田 教美君                 立木  洋君                 秦   豊君    政府委員        防衛庁参事官   古川  清君        防衛庁参事官   西廣 整輝君        防衛庁参事官   友藤 一隆君        防衛庁長官官房        長        佐々 淳行君        防衛庁防衛局長  矢崎 新二君        防衛庁人事教育        局長       上野 隆史君        防衛庁経理局長  宍倉 宗夫君        防衛庁装備局長  木下 博生君        防衛施設庁次長  小谷  久君        防衛施設庁総務         部長       梅岡  弘君        外務省国際連合        局長       山田 中正君    事務局側        常任委員会専門        員        山本 義彰君    説明員        外務大臣官房調        査企画部長    岡崎 久彦君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○外交総合安全保障に関する調査  (派遣委員報告)  (平和の確保に関する件)  (国際協力に関する件)  (資源エネルギー、食料問題に関する件)     ―――――――――――――
  2. 委員長(植木光教君)(植木光教)

    委員長植木光教君) ただいまから外交総合安全保障に関する調査特別委員会を開会いたします。  外交総合安全保障に関する調査を議題といたします。  まず、先般当委員会が行いました外交総合安全保障に関する実情調査のための委員派遣につきまして、便宜私から御報告申し上げます。  去る二月十四日から十六日までの三日間、私、堀江理事佐藤理事宮澤委員和田委員内藤委員秦委員は、鹿児島県及び沖縄県において外交総合安全保障に関する実情調査してまいりました。  第一日は、鹿児島喜入町の日本石油喜入基地を訪れ、福岡通産局及び同基地より石油備蓄状況につき説明を聴取し、基地内を視察いたしました。  現在、政府においては、民間備蓄九十日、国家備蓄三千万キロリットルを目標として石油備蓄を進めており、当基地における備蓄もその一環としてなされているものであります。  同基地は、現在十五万キロリットルタンク二十四、十万キロリットルタンク三十、計五十四基を有し、貯油能力六百六十万キロリットルに上る世界最大石油基地などのことであり、基地の操作にはコンピューターが全面的に活用されており、このほか、各種近代的設備を備え、公害問題は発生していないとのことであります。  貯油量は、船の出入りにより変動いたしますが、三百万キロリットルから四百万キロリットルの間であり、また、現在同基地タンク四基を借り上げ、六十万キロリットルの国家備蓄が行われております。  第二日は、まず自衛隊那覇基地を訪れ、陸・海・空自衛隊及び那覇防衛施設局自衛隊沖縄地方連絡部よりそれぞれ説明を聴取した後、基地を視察いたしました。  陸上自衛隊第一混成団は、西部方面総監隷下にあり、沖縄県の防衛警備等主要任務とし、人員約千八百名、うち沖縄出身者は約二百七十名であります。  装備としては、他の混成団と異なり戦車、特科火砲を持たず、ホーク及び各種ヘリコプターを保有しております。  教育訓練については、訓練の基礎は県内において確立することとし、さらに九州の各演習場において年五回の練成を図っております。  なお、緊急患者空輸及び不発弾処理については常時待機の態勢がとられており、実績は、年間平均患者空輸約百八十人、不発弾処理五十ないし六十トンとなっております。  海上自衛隊第五航空群航空集団隷下にあって、沖縄周辺海域防衛及び海上交通保護等主要任務とし、人員約六百名、うち沖縄出身者は約四十名であります。  当航空群はP2J対潜哨戒機等により周辺海域での外国艦船の監視を実施しておりますが、このほか、航空機によって遭難船舶捜索救助活動を行っており、その実績は、海上保安庁第十一管区の救難能力向上等に伴い近年減少しているとのことであります。  航空自衛隊南西航空混成団航空総隊の隷下にあり、南西防衛区域における防空、領空侵犯に対する措置等主要任務とし、人員約三千名、うち沖縄出身者約六十名であります。  装備としてはF則戦闘機等を有し、スクランブルを実施しております。スクランブル実績は四十八年一月以来八百七十二回となっておりますが、大韓航空機事件以来ソ連機の飛来が減っている等のため、最近は減少しているとのことであります。また、災害救助については、つり上げを伴う船舶急患及び海難救助を行っておりますが、四十七年五月以降の実績は二百二十七件となっております。  那覇防衛施設局沖縄県を管轄区域としており、定員四百九十五名であって、予算施設庁関係予算の約三分の一が本局関係のものであります。  現在、県内における駐留軍施設区域は四十七施設土地面積約二億五千三百六十五万八千平方メートルで、在日米軍施設の約四四%、沖縄県全土の約一一%、沖縄本島では約二〇%を占めており、また自衛隊施設は三十二施設土地面積約五百九十二万九千平方メートルとなっております。  施設区域整理統合は、日米安全保障協議委員会における協議に基づき進められており、既に那覇海軍航空施設等移設を完了し、現在牧港住宅地区等移設を行っております。  自衛隊沖縄地方連絡部沖縄県における自衛官等の募集、自衛官の再就職援護等主要任務としております。現在、年間約二百名の陸・海・空士の入隊を見ており、また当部関係年間退職者約六十名中四十名の就職希望者全員就職を達成しているとのことであります。  以上それぞれの説明を聴取した後、基地内を一巡し、私の発進合図によるスクランブル初動訓練及びナイキの発射に至るまでの訓練等を視察いたしました。  次いで午後には米軍嘉手納基地を訪れ、第三百十三航空師団司令部より基地概況につき説明を聴取した後、基地内を一巡し、航空機騒音消音設備(サイレンサー)等を視察いたしました。  さらに、沖縄国際センター建設地を訪れ、説明を聴取し、現地を視察いたしました。  昭和五十六年一月、当時の鈴木総理ASEAN諸国を訪れた際、ASEAN各国一つずつ人づくりセンターを設置するとともに沖縄にも人づくりのためのセンターを設置するいわゆる人づくりプロジェクト構想を明らかにされましたが、当センターはこの構想に基づき設置されるものであります。  既に、我が国から人づくりセンターのためASEAN各国に一億ドル程度の技術協力無償資金協力を行うことが合意されており、我が国の援助により各国人づくりセンター建設等も始まっております。このような動きに合わせて我が国ASEAN各国研修員に対する技術協力を行うため当センター沖縄県に設置することとし、現在、六十年四月オープンを目指して工事を行っております。  建設地那覇市の北、浦添市の小高い丘の上にあり、敷地面積は三万三千平方メートル、総面積六万二千平方メートルの残全部分国際交流ゾーンとして県側が使用する予定であります。建物工事は昨年十月に開始されており、建物の完成は六十年一月の見込みであります。  本センターでは、農業、保健、医療等技術研修コンピューター日本語の研修等を行うこととしておりますが、コンピューター研修等に力を入れる方針であるとのことであります。  第三日は琉球大学農学部を訪れ、ハイブリッドライス研究開発に長年携わってこられた新城長有教授より説明を聴取し、施設を視察いたしました。  今日、世界食糧事情はまことに不安定な状況にあります。世界人口は、西暦二〇〇〇年には、開発途上国中心とする人口増により、現在の約一・五倍の六十億人に達するとも言われており、また、異常気象世界各地に相次いで起こっております。このため、国連食糧農業機関(FAO)の推定によれば、世界栄養不足人口西暦一九七五年に四億三千五百万人、二〇〇〇年には六億人にも上ると言われております。  このような事態にかんがみ、農作物の多収穫を生むための研究開発我が国内外において真剣に行われており、ハイブリッドライスもその一つであります。  ハイブリッドライスとは、遠縁の品種等交配して得られる雑種第一代は収量性など両親よりすぐれた能力を発現することが多いこと、これを雑種強勢と申しますが、この原理を稲に応用したものであります。既にトウモロコシ、野菜等には広く利用されておりますが、自殖性植物である稲の場合、その実用化にはなお研究開発を要するとのことであります。  教授説明によれば、従来の米の二倍近くの収穫が可能であり、同教授の指導により既に実用化段階に入っている中国では人力によって交配を行っておりますが、労働コストの高い我が国では機械による交配や薬品による受粉などを開発する必要があるとのことであります。  説明後、教授の御案内により研究施設を視察いたしました。  以上、先般の委員派遣における実情調査の概要につき簡単に御報告申し上げましたが、なお別途詳細な報告書を提出いたしておりますので、これを本日の会議録の末尾に掲載することといたします。
  3. 委員長(植木光教君)(植木光教)

    委員長植木光教君) 次に、平和の確保国際協力資源エネルギー、食料問題について、外務省及び防衛庁から説明を聴取いたします。  まず、岡崎外務大臣官房調査企画部長
  4. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 総合安全保障につきまして述べさせていただきます。  まず、総合安全保障の概念でございますが、昭和五十五年十二月に設置されました総合安全保障関係閣僚会議の目的は、その設置に係る閣議決定の文言を引用いたしますと、「最近における我が国をめぐる国際政治経済情勢の推移にかんがみ、経済外交等の諸施策のうち、安全保障の視点から総合性及び整合性を確保する上で、関係行政機関において調整を要するものについて協議するため」とございます。  この考え方を敷衍いたしますと、総合安全保障と申しますのは、国際的要因に起因して我が国存立基盤に重大な影響を与える、あるいは与えるおそれのあるような多種多様の脅威に対しまして、外交防衛経済等の諸施策を総合することによりまして、その発生を未然に防止するかあるいは現に発生した場合にこれに適切に対処することによりまして、我が国国家としての存立を維持し、また、国民生活の安定を確保しようとする考え方であると言えます。  このような対外政策を総合的に企画、実施するに当たりまして、留意すべき点が二点あると存じております。  一つは、国際関係は現在でもこれは国家国家との関係でございます。これは総合的なものでなければならないということでございます。日米関係という最も身近な例をとりましても、両国の関係には政治問題、経済問題、防衛問題等種々の面がございますが、これらの個々の問題は本来独立の別の問題であるとも言えるのでございますけれども、これはまた米国の世論あるいはこれを反映するものとしての米国議会対策という観点から見ますと、これは総合的な日米関係の中で考えねばならないものでございます。  つまり、国家というものは、それぞれの国家は歴史も伝統もあるいは国民性というものもございまして、一個の人格のようなものでございまして、いわば一個の人間とのつき合いと同じことでございまして、手は手と仲よくする、あるいは足は是と仲よくする、そういうことでなく、一個の統一した人格として考えねばならない。こういう意味で総合的な対外政策重要性があるわけでございます。  外交一元化ということがございますが、これは単に省庁間の権限の問題ということではございませんで、対外政策というものはあくまでも総合的なものでなければならないという趣旨でございます。経済防衛を含め、我が国対外政策全般において整合性が確保される必要がある。この意味外交一体性を持って行われなければならないという考え方でございます。この点で問題が生じました最も典型的な例は、戦前、国家安全保障という問題につきまして、外交軍事の間で乖離が生じたことであります。このことについては、もはや多言を要しないと存じます。  現在、我が国政治経済社会、文化のあらゆる国際活動におきまして、総合安全保障観点から申しますと、すべての活動で日本の安全に関連していないものはないと言って過言でございません。したがって、我が国のすべての対外活動において国の安全と国民生活の保護という目的に沿った整合性を確保することが必要でございます。  対外政策を進めるに当たりましてもう一つの点は、対外政策においては独立の主権を持つ相手があるということでございます。相手側の都合を無視しまして、一方的に日本の主張を押し通すことは困難でございます。この点、公共の利益のためには強制執行も可能であるという国内政策とは根本的に違うところであります。したがって、相手側の事情をよく見きわめるということがまず必要でございます。また、それぞれ独立主権を有する諸国家間の関係からなる国際情勢の動きというものは千変万化でございまして、我が国の力をもって左右し得るところは非常に少ないものでございます。多くの場合は、既に存在する国際情勢を与件として考えねばならないということでございます。  確かに、我が国自由世界第二の経済力を有するに至りまして、政治面におきましてもその発言力を高めてきてはおりますけれども、みずからの力をもって世界の動向に影響を与えるには限度がございます。したがいまして、我が国対外政策を推進するに当たって必要なことは、我が国がこうあってほしいと思う国際環境を前提とするということよりも、むしろ国際情勢の流れをあくまでも冷静、客観的に見きわめまして、その限られた範囲の中におきまして国益の保全と国家理想の追求を図ることでございます。  このためには、常に良質な情報を広く収集いたしまして、かつこれについて的確な判断を下し得るような体制を整備し、強化しておくことが不可欠でございます。現在の厳しい財政事情の中にありまして、行政改革を担当する臨調が外務省情報機能拡充については特に積極的でありましたのも、この理解に基づくものであると考えられます。外務省といたしましても、各方面の期待にこたえまして情報能力強化の努力を続けていく所存でございます。  我が国は国土も狭く、資源も乏しく、その存立と繁栄は諸外国との協調と安定した国際環境を何よりも必要とするものでございます。また、相互依存関係の深まった今日の国際社会の中では、世界のいかなる地域における情勢世界的規模の危機をもたらすおそれがございます。この意味におきまして、世界のいかなる場所における情勢変化我が国総合安全保障観点から無関心たり得ないものでございます。また、政治情勢に限らず、国際経済情勢におきましても、世界的な保護主義的機運の台頭や開発途上国債務累積等の問題は、事態展開いかんによっては我が国国民生活にも影響を及ぼしかねない大きな問題でございます。また、地域的にも日本周辺のアジア・太平洋情勢だけに限らず、東西間の伝統的な正面であるNATOワルソー条約地域、あるいは中近東、アフリカ地域、あるいは中南米各地域における情勢、また政治情勢に限らず経済社会すべての国際情勢について一刻たりとも注意を怠ることは許されません。  ただし、ここではそうした国際情勢のすべてを論ずる時間的余裕はございませんので、とりあえず最近の国際情勢のうち、我が国防衛に最も深い関係のあります東西関係極東軍事バランスについて御説明申し上げます。  まず、東西関係でございますけれども、東西関係につきましてはデタントの時代もございましたとか、あるいは軍縮交渉が現在中断しているとか、あるいは今やソ連との対話を欲する機運が生じているとか、いろいろアップ・アンド・ダウンがございますけれども、そういう時々の変化の問題、すべての問題の底流をなす基本的事実がございます。その基本的事実と申しますのは、過去二十年間にわたって一貫して行われたソ連軍備力増強と、それが国際的な力のバランスに及ぼす影響でございます。  ソ連キューバ事件、引き続きましてフルシチョフの退陣の後十八年間のブレジネフ時代を通じまして、核、通常兵器の両面にわたって画期的な大軍備拡張に乗り出しております。この軍備拡張が現在の東西間の均衡を脅かすおそれのある兆候は、既に七〇年代の初めに明らかでございました。しかし、当時アメリカベトナム撤退厭戦気分の中にございまして、また当時、中ソ関係が悪化いたしまして、ソ連通常兵力増強分の大部分が中ソ国境に集中したということがございます。そのために西側は、ソ連軍事力増強にもかかわらずその圧力を感じることが少なかったこともございます。その間、西側としてはむしろ米ソ間の戦略兵器交渉中心とする各種東西対話によって東西間の相互理解緊張緩和が行われることを期待しておりました。  しかし、一九七〇年代半ばごろに中ソ国境の手当てが一段落しましたソ連が、NATO及び極東両面戦力近代化に乗り出しまして、またアンゴラ、モザンビーク、南イエメン、エチオピア、そして最後にアフガニスタンに進出するに至りまして、西側諸国の中においてソ連脅威の認識が高まりました。西側防衛力増強に本腰を入れるようになりました。  現状を申しますと、西側防衛力増強の努力がようやく軌道に乗り始めまして、東西均衡が破れるのを防ぐことにつきましてやや明るい見通しがつきつつはございますが、何と申しましても過去二十年間のソ連軍事投資の蓄積とその効果が余りに大きいために、また現在でも軍備拡張がとまる兆候もございませんので、西側としましてはなお、おさおさ怠りなく防衛力の整備を図りつつ、他面、東西間の対話を通じまして新しい均衡を模索すべく、ソ連に呼びかけている段階と申せます。  次は極東軍事情勢でございますが、このような東西関係状況の中で、日本にとって最も懸念すべきは極東地域におけるソ連軍事力が増加しつつあることでございます。  極東ソ連軍増強は、一九七〇年代半ばに中ソ国境配備が一段落した後の世界的規模における増強の一部であると申せます。しかし、他の地域における増強よりも比較的に極東における増強の度合いが大きいということも事実でございまして、ソ連の戦略的な考え方の中において極東優先度が高くなっていることは事実でございます。また、従来配備されていなかった新配備が北方領土であるとかカムラン湾ダナンに行われるなど、新しい地域への進出も見られております。  極東米ソ軍事バランス変化を比較するには、米国ベトナム撤退が終了した一九七〇年代半ばごろを基準とするのが適当でございます。それ以前の時点をとりますと、米国の減少が甚だしいものでございますから全体の趨勢を見るときに混乱を来します。したがいまして、ベトナム撤兵が終了しました一九七五年、六年、そのころの米ソバランスと現在のバランス変化を比較するのが一番適当でございます。極東米軍の兵力は、その後ほぼ量的には横ばいでございます。しかし、その配備が甚だしく広く薄くなっております。これに対しましてソ連増強は著しいものがございます。要約して申しますと、ソ連極東太平洋艦隊戦力は多量の近代艦艇を加えまして、近代戦力におきまして抜本的に増強されたと言えます。一九七〇年当時百万トンのものが、現在百六十万トンと言われておりますけれども、増加した六十万トンはすべて近代艦艇でございますので、実際的な戦力増強は恐るべきものがあると申せます。  他方、この間ペルシャ湾岸情勢変化いたしまして、それまではペルシャ湾岸アメリカは自力で守る意図はなかったのでございますけれども、シャーの王制が崩壊いたしまして、その後ペルシャ湾情勢が非常に不安定になってまいりました。また、その後ソ連カムラン湾ダナン等に進出いたしました。したがいまして、太平洋インド洋両方をその管轄下に持っておりますアメリカ太平洋艦隊に対する需要が、太平洋、南シナ海、インド洋ペルシャ湾すべてにわたりまして増大いたしました。したがいまして、一九七〇年代半ばごろは専ら西太平洋中心に展開されていましたアメリカ空母機動部隊は、西インド洋に至る広範な地域に分散配置されております。したがいまして、日本周辺に常時展開される米海軍力は著しく減少しております。しかも、これは世界的な危機に際しましては、場合によってはさらに厳しい事態も想定されます。  空軍につきましては、数の増強はこれは新しい機種というものは非常に値段が高くなるものでございまして、数を増加するというよりもむしろいかに近代化したかということが問題なんでございますけれども、ここ数年間ソ連極東空軍近代化というのは著しいものがございます。したがいまして、太平洋岸地域におきます航空優勢獲得能力あるいはその範囲、これは格段に増加しております。ソ連地上兵力につきましては、これは日本に対する潜在的脅威を考える場合には、ソ連揚陸能力は依然として限定されたものでございます。しかし、その能力もこの数年間とみに増強されております。また、この揚陸能力と申しますのは制空能力と非常に深い関係がございまして、ソ連極東空軍近代化というものは揚陸能力増強に深い関係を有しております。これに対しまして米軍来援能力につきましては、ソ連潜水艦が増加いたしまして、またバックファイアが配備されました結果、有事における米軍来援能力には制約が課されるおそれが出てまいりました。  このように我が国周辺を含む極東軍事バランスが大きく変化したことは、米国としても深く懸念しているところでございます。したがいまして、新型空母カールビンソン極東に展開する、あるいは三沢にF16を配備するなど北西太平洋重視の意欲は十分うかがわれるものでございます。しかし、米国防衛力整備計画はやっと軌道に乗り始めたばかりでございまして、ソ連極東軍備増強の過去の蓄積及び現在の増強ぶりは著しいものがございまして、今後とも相当の期間我が国周辺において厳しい軍事的環境が存在するということは覚悟すべきだろうと存じます。  次に、総合安全保障考え方につきまして、さらに若干の整理を行っておくことが有用と考えられます。  総合安全保障の中には、脅威の形態から考えまして、まず外国による物理的攻撃、これは戦力による攻撃でございます。物理的攻撃から政治的、心理的威圧に至るまでの脅威に対する安全保障がございます。これは政治軍事安全保障でございまして、従来安全保障という場合に中心的に考えられていたものでございます。これが現在でも一国の安全保障につきましては基本的な課題でございます。このような政治軍事安全保障に対しまして、資源エネルギー、食糧などの危機に対する安全保障がございます。これがいわゆる経済安全保障と言われるものでございまして、総合安全保障という考え方が出てまいりました背景には、七〇年代にエネルギー問題に端的に示されたような世界経済の厳しい状況のもとで、エネルギー資源、食糧などの対外依存度が極めて高いという日本経済の基本的脆弱性について認識が深まったという事実がございます。つまり、この経済安全保障をも含めていることが総合安全保障という考え方意味であると申せます。  次に、安全保障確保のための努力の段階から申しますと、これは政治軍事安全保障であると経済安全保障であるとを問わず、まず脅威の発生を抑止し、これを未然に防止するための努力が必要でございます。それとまた同時に、こうした努力にもかかわらず脅威が現実化して危機に直面した場合に、これに対処するための準備を行っていく努力も必要でございます。  以上のような整理に基づきますと、総合安全保障確保のためには次のような努力が必要と考えられます。  まずは経済脅威に対する安全保障でございますが、経済脅威の実体に即して考えますと、現在我が国が直面する第一の問題は、世界経済の底流に存在する保護主義的傾向でございます。これを排除して自由貿易体制を維持強化し、世界貿易の健全な発展を確保することなくしては、我が国経済の繁栄もあり得ません。しかし、自由貿易体制の維持強化と申しましても、現在先進民主主義諸国が貿易収支の赤字、あるいは景気は回復しているとは申しましても失業問題に悩んでいる現状におきましては、言うべくして容易なことではございません。いずれにしましても、我が国が今や構造的な貿易収支黒字国となりつつございまして、また日本経済が閉鎖的であるとか不公正であるとかというイメージが、それが正しいか否かにかかわらず、依然として世界的に拭い切れないものがあるという現状におきまして、日本といたしましては内需振興中心経済運営を行うとともに、一層の市場開放、各種の規制の緩和等日本経済全般にわたる自由化の努力が必要でございます。それなくしては、国際自由経済の維持に日本が指導的役割を演ずることはできません。  さらに、中長期的に世界経済の安定成長を図り、かつ我が国経済の発展を図っていくためには、経済の基盤である科学技術の進歩を促進することが極めて重要でございます。  債務累積問題などの開発途上国経済的困難の問題も重要でございます。これが一層深刻化して開発途上国経済の破綻が生ずるようなことがあれば、開発途上国と深い相互依存関係にあります我が国にとりまして、大きな影響を及ぼし得ることが懸念されます。のみならず、かかる事態は、他の先進民主主義諸国も含め世界的規模において政治的に深刻な意味合いを有するものでございます。また、国際金融面など経済的にも大きな影響を及ぼし得るものでございます。我が国としては、そうした事態を回避するために、経済協力、なかんずく政府開発援助の一層の拡充を図るとともに、貿易、金融面でも適切な対応を行い、もって開発途上国経済的困難の解決に寄与し、建設的な南北関係を構築していく努力が重要でございます。  また、現在需給が緩和しているとはいうものの、エネルギーの安定供給の問題は、我が国にとって常に潜在的な問題たり得ます。エネルギーにとどまらず、食糧、希少資源を含めた鉱物資源などについても同様なことが申せます。これらの面での問題の発生を未然に防止するためには、従来どおりその供給先の多角化、資源エネルギーの節約、代替エネルギーの開発等の努力が必要でございます。  以上は経済的措置の及び得る範囲でございますけれども、そのすべての根底には先進民主主義国の共通利益という視点がなければならないと存じます。すなわち、東西関係という基本的な枠組みの中で、西側諸国経済の健全性を保ち、安全を確保する、そういう考えがあってこそ、世界経済の中枢をなしております西側先進民主主義国の間におきまして、日本が自由貿易維持のためにイニシアチブをとるということに説得力が強まると申せます。さらには、我が国経済脅威に直面した場合を考えてみましても、IEAの石油緊急融通スキームの例を見るまでもなく、我が国が協力を仰ぎ得る相手としましては先進民主主義が極めて重要でございます。こうした意味におきましても、対外経済政策において我が外交の基本政策との整合性が確保されねばなりません。ここに総合安全保障意味があると存じます。  さらに、上述の努力にもかかわらず、我が国経済安全保障が脅かされる事態があり得ることを想定いたしますと、そうした事態に対する対策としまして、石油、食糧などの備蓄を十分に行っておくことの必要性は言うまでもございません。また、緊急時におきます食糧生産体制の準備、緊急時に不足物資の需給を適切に行い得る体制の整備なども重要でございます。食糧については、より根本的な問題といたしまして、食糧自給のあり方、農業の生産性の問題等も含めまして、我が国農業のあるべき姿の検討が行われることも必要でございます。いずれにせよ、これらの場合に重要なことは、食糧生産一つとってみましても、動力源及び肥料の安定供給を確保し得て初めて食糧生産というものは十分に可能となるものでございまして、そういう種類の必要物資の備蓄の措置、海上交通路確保のための防衛政策、さらにはその基本となります良好な日米関係の確保、それから有事の際の経済流通への被害を最小限にするための民間防衛政策等、まさに総合安全保障考え方に基づく総合的視点が必要でございます。  次に、政治軍事安全保障の面では、国際社会の平和と安定を維持する努力がまず重要でございます。  とりわけ、安定した東西関係を構築することが最も基本的な課題でございます。このためには、まず我が国を含め自由と民主主義という基本的価値観を共有します西側先進民主主義諸国が結束を維持しつつ、お互いに協力していくことが肝要でございます。そして、西側といたしましては、平和を確保するための十分な抑止力を維持するとともに、東側諸国との間で軍縮を含め対話と交渉を進めていくことが重要でございます。米ソ間の対話におきましては、その過程において相互の防衛態勢及びその背景となる戦略的考え方について十分な意見交換と相互理解が行われることが、紛争の未然防止のために極めて重要な意味を持つものと考えます。  我が国といたしましても、米ソ間の核軍縮交渉を初め東西間の対話の促進を働きかけていくとともに、核軍縮を中心とする具体的軍縮措置の実現に向けて、国連、軍縮会議等の場を通じ積極的貢献を行っていく所存でございます。  また、開発途上地域におきます紛争と混乱の未然防止または早期平和的解決を図り、その安定的発展を促進することも国際社会の平和と安定に不可欠であります。経済協力は開発途上地域政治的安定にも資するものであり、我が国といたしましては世界の平和と安定に貢献するとの観点から、政府開発援助の一層の拡充に努めるべきでございます。  また、国連の平和維持活動というものは、開発途上国地域の紛争と混乱の未然防止に大きな役割を果たし得るものでございます。我が国といたしましては、これに対し従来から実施しております財政面における協力に加えまして、可能な範囲内で要員の派遣、資材の供与等による協力を引き続き検討していくべきであると考えております。  さらに、イラン・イラク紛争におきまして我が国がこれまで努力してきましたように、関係国間の政治対話を通じまして、紛争の早期平和的解決のための環境づくりに努めるということも、我が国としてなし得る大きな貢献でございます。  また、当然のことながら、体制の異なる国も含め世界各国との友好関係を強化しまして、相互の信頼関係を育成することは、脅威の発生を防止するために極めて重要でございます。誤解や相互不信は小さなものでも危険であり、海外啓発活動、文化面等における各国との協力や交流、人的交流を拡充して相互理解を深める努力をすることが重要でございます。  以上のような、いわば非軍事面におきます努力は極めて重要でございます。しかし、国民と領土の存立を確保するための究極的な手段が軍事力である。これは冷厳な事実でございます。軍事力は、脅威発生に対する抑止力としての機能と、脅威が発生した場合にこれに対処する機能とをあわせ持つものであります。我が国の場合、防衛のあり方として唯一現実的な選択は日米安保体制の堅持とみずからの防衛力の整備にございます。  日米安保体制につきましては、その円滑かつ効果的運用を確保し、その信頼性を高めることが重要でございます。このためには、我が国が武力攻撃を受けた際に米国が来援しやすいような体制を整備する努力を継続していくとともに、我が国防衛することが米国の基本的国益に沿うゆえんであることを米国民に心から納得させ得るような良好な日米友好関係を維持することが極めて重要でございます。また、日米安保体制は、極東における平和と安全のための基本的枠組みを構成しているものでございます。したがって、日米安保体制を維持することは、この地域の平和と安定の維持に寄与するものでございまして、そのような意味におきましてもまた我が国の安全に重要な役割を果たしているものでございます。  次は、防衛力の整備でございますけれども、我が国防衛力は、日米安保体制と相まって、我が国に対する侵略を未然に防止し、万一侵略があった場合には、独力でまたは米国との共同によってこれに対処する役割を果たすものでございます。我が国が憲法及び基本的防衛政策に従い、防衛力の向上に努めることは、我が国の安全がより一層確保されるだけでなく、日米安保体制の維持強化につながり、ひいては、結果として東西軍事バランス面において西側諸国安全保障にも寄与するものであります。またアジア、ひいては世界の平和と安全にも貢献するものでございます。  なお、現在、日本防衛体制につきましては、各方面の専門家の間で、現在の厳しい極東軍事情勢の中において十分であるかという問題のほかに、弾薬、燃料の備蓄の乏しさ、抗堪性のなさ、予備兵力の少なさ、統合機能の弱体、有事立法の不備等種々の問題点が指摘されておりますが、これらの点は今後とも検討に値すると存じます。  また、日本防衛は、単に自衛隊の力によるのみでなく、背後に国民の支持があって初めて成立するものでございます。また国内の秩序、国民の安全について信頼感があって初めて自衛隊も安んじて任務に従事できるものでございます。スイスなどの民間防衛の基幹をなすものは、一が備蓄、二が防災、三が心理戦に対する抵抗力の強化でございます。人口欄密で高度に集中化している日本社会におきまして、万一戦略爆撃、あるいは海上交通路阻害があったような場合に国民生活を維持していくためには、備蓄の重要なことは既に述べたとおりでございまして、このための海外の諸制度が参考になると存じます。これは防災についても同様でございます。そして最後に、日本国民が現在享受している自由と民主主義がいかに貴重であるか、そしてまた現在享受している高い生活水準は、先進民主主義国の一員であるという状態のもとにおいてのみ可能であるということについて、国民の認識と理解を深める必要がございます。これによって外部からの脅迫あるいは甘言による離間工作等に乗せられないよう日ごろから教育、啓発を行うことが有益でございます。  最後に、繰り返して申し上げますと、一国の安全保障は正しい外交的判断と的確な外交活動によってのみ守られると言って過言でございません。  戦後四十年近い平和と未曾有の繁栄を享受しましたのは、日米安保体制という外交的選択が正しかったからでございます。外交防衛の代替とはなり得ません。しかし、正しい外交のもとでのみ防衛力は国の安全を守れるものでございます。このことは、いわゆる経済安全保障のための種々の経済措置と外交との関係についても同様でございます。日米両国間の同盟関係を基軸といたします西側の一員としての外交的選択のもとに、防衛経済を含むすべての対外政策において整合性のある対外政策を行ってこそ、日本の安全も繁栄も自由も守り得るものでございます。
  5. 委員長(植木光教君)(植木光教)

    委員長植木光教君) ありがとうございました。  次に、矢崎防衛庁防衛局長
  6. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) それでは、国際軍事情勢の現況及び我が国防衛政策について御報告申し上げます。  最近の国際軍事情勢を見ますと、ソ連による一貫した軍事力増強と、これを背景といたしました周辺諸国あるいは第三世界への勢力の拡張、さらには混迷を深める中東情勢、緊張を続けるインドシナ半島及び朝鮮半島情勢など、依然厳しくかつ流動的なものがございます。ソ連は第二次大戦後、米国に拮抗できるだけの国力の充実強化に努めてまいりましたが、特にキューバ危機において後退を強いられました苦い経験を契機といたしまして、大幅な軍事力増強を開始したわけでございます。ソ連によりますこのような軍事力増強は、いわゆるデタントが最高潮に達し、またベトナム戦争の影響等によりまして米国が国防努力に困難を感じておりました一九七〇年代におきましても、中断されることなく一貫して続けられているところでございまして、その蓄積効果は近年とみに顕著となってきております。  戦略核戦力について見ますと、ソ連はこれまでICBM及びSLBMを重視いたしまして、その増強に努めてきております。一九六〇年代後半がら一九七〇年代前半にかけまして、これらの発射基数において米国を凌駕するに至ったわけでございます。このような戦略核戦力の量的な優位に加えまして、近年に至ってソ連は、ICBMの命中精度の大幅な向上、多目標弾頭化及びSLBMの射程の延伸、多目標弾頭化等、質的な側面におきましても目覚ましい改善を進めているのでございます。この結果、理論的に言いますと、ソ連の最新型のICBMでございますSS18あるいはSS19の一部によります先制攻撃によって、米国の大部分の現有ICBMサイロが破壊されてしまう状況というのが生じていると言われているわけでございます。さらにソ連は、四種類の新型ICBM及びすぐれた低高度高速侵攻能力を持ちます新型の超音速爆撃機ブラックジャックの開発を進めるなど、引き続き戦略核戦力増強を意欲的に継続しているのでございます。  また、非戦略核戦力につきましても、ソ連は大幅な増強を進めております。非戦略核戦力、とりわけ中距離核戦力は、ソ連本土から直接米本土には届きませんので、基本的にはNATO諸国や我が国などのソ連周辺諸国向けの戦力でございます。ソ連はこのような戦力を大量に配備することによりまして、その射程内に置かれたこれら諸国内に米国の核抑止力の信頼性に対する不安を醸成し、米国とこれら諸国との分断、離間を図っているとも見られているわけでございます。ソ連の保有いたします中距離核システムの中で代表的なものは、SS20及び新型爆撃機バックファイアでございます。ソ連は現在、全土に既に三百七十八基のSS20と約二百三十機のバックファイア配備いたしまして、引き続き増強しつつあると見られております。  また、通常戦力については、量的増強とともに特に質的な改善が顕著でございます。ソ連の地上戦力は、近代的な戦車、装甲歩兵戦闘車、自走砲、武装ヘリコプター、地対空ミサイル等によりまして、火力や機動力、それから戦場防空能力といったようなものを著しく向上させております。航空戦力は、ミグ23、ミグ27、SU24、バックファイアなど航続能力、機動性、低高度高速侵攻能力、搭載能力等にすぐれました近代的な戦闘機や戦闘爆撃機、さらには爆撃機の増強によりまして、航空優勢獲得能力や対地、対艦攻撃能力などを著しく向上させております。さらに海上戦力につきましては、キーロフ級、クラシナ級各ミサイル塔載水上艦艇及びオスカー級ミサイル塔載原子力潜水艦、アルファ級攻撃型原子力潜水艦などの各種新鋭艦艇を建造しているわけでございますが、そのほかに固定翼機の離発着が可能な、ソ連では初めての本格的な空母も建造中でございまして、一九九〇年代初めには配備されることが見込まれております。  このように、ソ連はグローバルな規模で軍事力増強しておりますが、極東方面におきましても、軍事力増強どこれに伴う行動の活発化には非常に顕著なものがございまして、我が国に対する潜在的脅威を増大させております。  極東方面におきますソ連軍事力増強は、核及び通常戦力の全般にわたっております。その中でも特に中距離核戦力増強には目覚ましいものがございます。SS20の配備の数は現在百三十五基に達しておりまして、引き続き増強が進められております。それからまた新型爆撃機バックファイア増強されておりまして、極東における配備数は約八十機に達しております。さらに、我が国固有の領土であります北方領土には、昨年八月から九月にかけて合計二十数機のミグ23戦闘機が飛来をいたしたわけであります。我が国北方領土に対します一貫した主張を無視するかのように、ソ連がかかる新鋭機を我が北方領土配備したことはまことに遺憾であると申さざるを得ません。また、ソ連のキエフ級空母三番艦でありますノボロシスクが数隻の随伴艦とともに極東に回航されてきました。  以上に申し上げたようなソ連軍の動向というものは、ソ連極東重視の姿勢を示すものでございまして、政府としては重大な関心を持ってこれを見守っているわけでございます。  東西間の軍事バランスと申しますものは、ソ連の一貫した軍事力増強の結果、このまま放置すれば東側優位に傾く趨勢にあると見ております。このような認識に基づきまして、米国は抑止力の信頼性を維持強化するために、核及び通常戦力の全面的な近代化を推進しているところであります。  レーガン政権は、戦略核抑止力の信頼性向上を目指して包括的な近代化計画に着手いたしております。新型ICBM、MXミサイルの開発・配備計画でございますとか、オハイオ級SSBNの建造あるいはB1B爆撃機の生産、米本土配備のB52へALCMを搭載するといったようなことを進めているわけでございます。  また、非戦略核戦力の分野で申しますと、ソ連のSS20の脅威に対抗いたしまして、西側の抑止態勢の間隙を埋めるということめために、いわゆるNATOの二重決定に基づきまして、昨年末からパーシングHミサイルとGLCMの欧州配備を開始いたしているところでございます。  通常戦力の分野におきましては、ソ連がグローバルな規模の通常戦力増強によりまして複数の正面で同時に作戦を行い得るに至ったという、そういうことに対応いたしまして、即応態勢、継戦能力及び機動力の改善と装備近代化を進めることによりまして、幾つかの重要な正面で長期にわたって同時に対処し得る態勢を確保するように努めているところであります。さらに米国といたしましては、このような抑止力の維持強化のための措置の一環として、極東における軍事バランスの改善と日米安保体制の抑止力の維持向上を図るために、来年から青森県三沢へのF16戦闘機の配備を開始することとしております。  米国は、以上に申し上げましたような国防努力を背景といたしまして、ソ連との間に実効的かつ検証可能な軍備管理、軍縮条約を締結すべく努力を続けております。昨年末、ソ連米国との間の戦略兵器削減交渉やINF交渉を一方的に中断ないし無期休会入りさせたところでございますけれども、新たに成立したチェルネンコ政権が早期に交渉再開に応ずることが強く望まれるところであります。  レーガン政権は発足以来、抑止力の維持強化に向けて並み並みならぬ決意を示して国防力の強化に努力をしております。同時に米国は、米国のみの努力では十分でないという観点から、我が国及び西欧等の同盟諸国に対しまして、それぞれの地域において一層の防衛努力を強く期待しているところであります。  申すまでもないことでございますが、平和と安全を確保するためには、防衛等の問題を含めた総合的な安全保障の視点からの整合性のある施策の推進が必要であります。昭和三十三年に政府が決定いたしました「国防の基本方針」の第一及び第二に国際協調等の外交努力及び民生安定等の内政諸施策の推進が挙げられておりますし、それからまた昭和五十五年十二月に内閣に総合安全保障関係閣僚会議が設置されまして、随時協議が実施されております。こういったようなこともこのような視点に立つものでございます。  しかし、この中にありまして、防衛力は依然として最も重要な要素の一つであることに変わりはないと考えております。国の安全が非軍事的手段によって確保されることは望ましいことではありますけれども、今日の国際社会におきましては、いかに適切な非軍事的手段を尽くしたとしても、絶対に侵略が起こらないとは断言ができないわけでございまして、現実に侵略が生起した場合には、これを直接に排除することができるのは軍事力であります。核時代の今日、通常兵器による防衛力を保有することの意義につきましてしばしば議論が聞かれるわけであります。しかし、核兵器は一たび使用されると人類を破滅に導きかねない兵器でありまして、いずれの核保有国もその使用を強く抑制されております。こういった中にありまして、通常兵器によります戦争は依然後を絶たないわけであります。かかる現状に照らしまして、各国は、核兵器の保有国であると否とを問わず、通常戦力による紛争等を抑止し、また必要な場合、これに対処するために通常戦力整備に努めているものであります。  我が国につきましても、自衛のため必要な範囲内で適切な規模の防衛力を保有することは、日米安保体制と相まちまして、我が国に対する侵略を未然に防止し、また万一侵略が行われた場合には、これを排除するという意義を持っているものと考えております。もとより、我が国の安全を一層確固たるものとするには、国際社会をより平和で安定したものとしていくことが肝要でございまして、国連等の場を通じての国際的な軍縮、軍備管理の促進を図る必要があります。我が国は、今日の世界の平和が国家間の力の均衡によって保たれている現実を踏まえまして、力の均衡を損なうことによって混乱を生じることのないよう十分配慮しながら、今後ともその均衡の水準をできるだけ下げるよう努力すべきものと考えております。  我が国は、戦後の米ソ中心とする東西の集団安全保障体制間の対峙という基本的な国際軍事構造の枠組みのもとで目覚ましい経済発展を遂げたわけでありまして、GNPは今や世界の一割を占めるに至っております。こういったことに伴ないまして、我が国の動向が世界の諸情勢に相当の影響を及ぼす存在となってきておるのでございまして、国際社会におきまして、その地位にふさわしい役割を果たしていくことが求められているのであります。我が国が、自由と民主主義という価値観を共にする諸国との間の政治経済面における協力関係の一層の緊密化に努めながら一みずから質の高い防衛力整備を図るということは、日米安保体制の信頼性の維持強化につながるわけでありまして、我が国の安全がより一層確実なものとされるだけではなく、結果的に東西軍事バランス面において西側諸国安全保障の維持にも寄与し、アジア、ひいては世界の平和と安全に貢献するものと考えております。  もとより、我が国は平和憲法のもと専守防衛に徹し、近隣諸国に脅威を与えることなく、かつ非核三原則を堅持しつつ、自衛のため必要最小限度の防衛力整備することといたしております。また、我が国の憲法下におきましては、これまでたびたび申し上げておりますとおり、自衛権の行使は真に自衛のため必要最小限度の範囲内に限られておりまして、集団的自衛権の行使や海外派兵は許されないものとされております。  我が国防衛政策は、以上に申し上げました厳格な枠組みを前提とするものであります。こういった枠組みのもとで、我が国は自衛隊発足以来、第一次から第四次にわたります防衛力整備計画によりまして逐次防衛力整備を図ってきたわけでございまして、現在は昭和五十一年度に策定されました防衛計画の大綱に従って防衛力整備を進めております。  この大綱は、我が国が平時において保有すべきいわば最低限の防衛力を定めたものでありまして、その考え方は、防衛上必要な各種の機能を備え、後方支援体制を含めてその組織及び配備において均衡のとれた態勢を保有することを主眼とし、これをもって平時に十分な警戒態勢をとり得るとともに、限定的かつ小規模な侵略事態に有効に対処することができ、さらに情勢に重要な変化が生じ、新たな防衛力の体制が必要とされるに至ったときには、円滑にこれに移行し得るよう配意されたものとする必要があるという考え方であります。  また、防衛力整備に当たっては、諸外国の技術水準の動向に対応し得るよう質的な充実向上に配意することとされております。このために具体的な陸海空自衛隊の体制といたしましては、陸上自衛隊については国土防衛のため十三個師団等十八万人の体制を、それから海上自衛隊につきましては、周辺海域防衛及び海上交通の安全確保のために対潜水上艦艇約六十隻、対潜哨戒機等の作戦用航空機約二百二十機等の体制を、それからまた航空自衛隊につきましては、航空侵攻対処等のために要撃戦闘機等の作戦用航空機約四百三十機、地対空誘導弾部隊六個群等の体制をそれぞれ維持することにしているわけであります。  しかしながら、大綱策定後七年以上を経過しているにもかかわりませず、現在の防衛力といいますと、五十九年度予算で調達する装備を取得いたしましてもなお海上自衛隊の対潜水上艦艇は約四隻、作戦用航空機は約七十機、航空自衛隊の作戦用航空機は約八十機それぞれ不足をしているという問題がございますし、そのほか装備の老朽化、即応態勢の不備、抗堪性、継戦能力の不足など種々の問題点を抱えているわけでございまして、いまだ大綱の水準とは相当の隔たりがあるのが実情でございます。したがいまして、政府といたしましては最近の厳しい国際情勢にもかんがみまして、大綱に定める防衛力を可及的速やかに達成する必要があると考えている次第でございます。  なお、大綱につきましては、策定された当時とは情勢変化しており、現状にそぐわなくなっているからこれを見直すべきであるとの議論もございますが、さきに述べたとおり、現在の防衛力はまだ大綱の水準に達しておらず、政府としてはこれへの到達に努力しているところでございまして、現在大綱を改正することは考えておりません。  五六中業はこのような方針のもとに防衛庁が策定したものでございまして、防衛庁の中期にわたる防衛力整備の進め方に関します考え方の大筋を示すものでございます。そういう性格のものとして一昨年七月の国防会議で了承されているところでございます。  その主な内容を申し上げますと、防衛計画の大綱に定める防衛力の水準を達成することを基本といたしまして、第一に四面環海の我が国の国土、地勢等に適した防空能力、対潜能力、水際防御能力の充実近代化、第二に電子戦能力、継戦能力、即応態勢及び抗堪性の向上を特に重視いたしまして、それから第三に指揮通信、後方支援及び教育訓練態勢の充実近代化にも配意して作成したものであります。なおその際、厳しい財政事情や要員確保施設取得の困難さ等を考慮いたしまして、効率的かつ節度ある整備に留意して極九財政負担の軽減を図ることにいたしておるわけであります。  五六中業完成時の防衛力は、防衛計画の大綱の水準に比較いたしまして一部に未達成部分は残りますものの、これを概成するというような形になるわけでございまして、現状に比較して相当改善されるものでございます。防衛庁といたしましては、今後とも五六中業の着実な達成のためにできる限りの努力を払ってまいりたいと考えております。  次に、五十九年度予算におきましても、こういった考えのもとで質の高い防衛力を着実に整備するために各種の配慮をしたところでございます。  まず第一に、五六中業の第二年度といたしましてその目標の着実な達成を図ることを旨といたしまして、引き続き正面装備の更新、近代化を進めるとともに、継戦能力、抗堪性、即応態勢の向上など防衛力を効果的に発揮するための施策にも留意いたしております。それから第二に、正面及び後方のバランスに極力配意しながら練度の維持向上など現態勢の維持に努めているところであります。第三に、基地周辺対策及び提供施設整備などに必要な経費の確保にも努力をしているところでございます。  五十九年度予算は以上の三点を基本方針として作成したものでありますが、その際、現下の厳しい財政事情にかんがみ、従来にも増して経費の節減合理化を図り、財源の重点的配分に最大限の努力を払ったところでございまして、内容は必要最小限度の経費を計上したぎりぎりのものとなっておるわけでございます。  五十九年度防衛予算とも関連いたしまして、防衛費のGNP比一%の問題について申し上げます。  防衛力整備に要する経費につきましては、三次防や四次防におきましては計画の実施に必要な経費の総額の見込みが具体的な金額をもって明示されていたわけであります。一方、防衛計画の大綱では経費は示されていないのでございまして、防衛力整備の具体的実施に際しては、そのときどきにおける経済財政事情等を勘案し、国の他の諸施策との調和を図りつつ行うものとするとの基本方針を規定しているのみであります。こうした事情にかんがみまして、政府としての総合的見地から当面の防衛力整備については年々の防衛関係経費のめどを示すことも必要であるという考えのもとに、別途の閣議決定を行ったわけでございます。  それが昭和五十一年十一月五日の閣議決定でございまして、その内容は、「防衛力整備の実施に当たっては、当面、各年度の防衛関係経費の総額が当該年度の国民総生産の百分の一に相当する額を超えないことをめどとしてこれを行うものとする。」というものでございます。五十九年度防衛予算は、対前年度六・五五%増の二兆九千三百四十六億円となったわけでございますが、これは当初政府見通しのGNPに対しまして〇・九九%となっているわけであります。なお、この問題につきましては、本年の衆参両院の予算委員会におきまして中曽根総理大臣が、昭和五十一年の三木内閣の防衛費に関する閣議決定についてはこれを守ってまいりますという旨を述べられたところでございます。  次に、日米関係でありますが、我が国は緊密な日米関係の維持を外交の基軸といたしておりまして、また、みずからの防衛力整備するとともに、日米安保体制を堅持することによりまして我が国独立と平和を維持することといたしております。条約が真に実効力を保持していくためには、当事国間のあらゆるレベルにおける協力関係、信頼関係を増進していくための間断なき努力が不可欠でございます。このために、両国はみずからできる限りの防衛努力を行いましてその真摯な姿勢を示すとともに、あらゆる機会をとらえて率直かつ緊密な意見の交換を行い、相互理解を促進することによりまして両国の連帯の強化に努めているところであります。  日米の協議の場などを通じまして、米側は、我が国が現在極めて厳しい財政状況下にありながら防衛費を着実に増加させる努力を払っている点につきましては、それなりに評価をいたしております。しかし、他方において、五十六年五月の鈴木・レーガン共同声明におきまして我が国がなお一層の防衛努力を約束いたしました経緯を踏まえまして、それからまた日本経済成長が目覚ましかったという印象もございまして、もう少し努力してもよいのではないかとの期待を持っていることも否定できないわけであります。日米安保体制のもとで我が国防衛する立場にある米国が、我が国防衛努力につきまして期待を表明するのは自然なことと考えますが、我が国といたしましては、こういった米国の期待を念頭に置きながらも、あくまで自主的判断に基づいて自衛のため一層の防衛努力を行っていく所存でございます。  それからまた、日米間では、「日米防衛協力のための指針」、いわゆるガイドラインに基づきます共同作戦計画の研究、日米共同訓練、それからまた装備技術の交流とか、在日米軍の駐留経費の負担など防衛分野におきます各般の協力が着実に進められているところであります。  「日米防衛協力のための指針」に基づく共同作戦計画の研究につきましては、五十六年夏に一つの設想に基づく研究が一応概成を見たところでございますが、現在これをさらに補完する研究を続けております。それからまた、ほかに新たな設想に基づく研究を開始すべく準備もしているわけであります。それからさらに、昨年三月に開始いたしましたシーレーン防衛に関する共同研究についても、現在作業が進められております。その他の日米調整機関、共通の作戦準備、情報交換要領等の研究については逐次研究を進めているところではございますけれども、まだ余り進展を見ていない状況でございます。  防衛庁としては、今後ともこれらの研究の円滑な進展を図るべく努力するとともに、日米共同訓練についても、自衛隊の練度の維持向上、日米安保体制の円滑な運用を図る観点から引き続き積極的に実施してまいりたいと考えております。なお、在日米軍の駐留経費の負担につきましては、日米安保体制の円滑かつ効果的な運営に資するために、地位協定の範囲内においてできる限りの努力を行ってまいることといたしております。また、対米武器技術供与につきましては、昨年一月の政府の決定を受けまして、同年十一月八日に日米間の取り決めが締結されたところであります。  以上をもちまして、最近の国際軍事情勢及び我が国防衛政策についての御報告とさせていただきます。
  7. 委員長(植木光教君)(植木光教)

    委員長植木光教君) ありがとうございました。  次に、山田外務省国際連合局長
  8. 政府委員(山田中正君)(山田中正)

    政府委員山田中正君) 本年初頭からの動きを見ますと、一月十七日から三月十六日まで第一会期が行われました欧州軍縮会議及びその機会に行われました米ソ外相会談、また故アンドロポフ書記長葬儀の際のプッシュ米副大統領とチェルネンコ・ソ連新書記長との間の会談、さらには三月十六日からのウィーンにおける中欧相互均衡兵力削減交渉の再開など、東西間の対話動きを見ることはできますものの、昨年末に中断あるいは無期休会に陥りました中距離核戦力交渉及び戦略兵器削減交渉という二つの極めて重要な米ソ間核軍縮交渉が依然再開へ向けての何らの手がかりも得られないままとなっておりまして、基本的には現下の国際情勢には引き続き厳しいものがございます。かかる情勢のもとで、軍縮、なかんずく核軍縮の促進を求める世界各国の声は従来にないほど高まっていると申せると思います。  本日は、我が国の軍縮政策、東西間軍備管理・軍縮交渉の現状と見通し及び軍縮会議、これは従来の軍縮委員会が本年から名称を変更したものでございますが、その実態は以前と全く変わらないものでございますが、これらの現状等につきまして述べさせていただきたいと存じます。  まず、我が国の軍縮政策についてでございますが、我が国が軍備管理・軍縮の促進に取り組むに当たっての基本的な考え方を取りまとめますれば、次のとおりでございます。  第一は、軍備管理・軍縮は安全保障の重要な柱、言いかえれば安全保障そのものとの認識でございます。すなわち、我が国がみずからの安全を確保していくためには、一方において日米安保体制の円滑かつ効果的な運用を通ずる抑止力の維持及び必要最小限度の防衛力整備を図るとともに、他方において平和で安定した国際環境をつくるための積極的外交の展開の一環として軍備管理・軍縮の促進に向けて努力することが必要であるとの認識でございます。我が国はもとより世界各国とも、軍備管理・軍縮は自国の安全保障と密接に結びついたものであるとの立場から、極めて冷徹な判断及び考慮を払いつつ、その促進に努力しているものと考えております。  次に、唯一の被爆国であり、専守防衛に徹し、非核三原則を堅持しているという我が国としての独自の立場がございます。また、このような歴史的な体験に基づく国民感情からも、我が国としては核軍縮を中心とする軍縮を外交の柱として重視してまいっております。  第三に、これは第一の点と関連いたしますが、軍縮の促進に当たっては、現下の国際社会の平和と安全が世界的な規模における国家間の力の均衡に依存している点を認識する要がございます。かかる認識を踏まえて、力の均衡を維持しつつ、同時に可能な限りより低い軍備の水準で平和と安全が確保されるよう核軍縮を中心とする軍縮を促進することが、唯一かつ最も現実的な道であると考えております。  さらに、実際に軍備管理・軍縮を進めるためには、効果的な検証を伴った具体的措置を一つ一つ積み重ねることが重要であります。いかに理想的な宣言や提案が行われようとも、それが実際に兵器の保有や生産の削減を十分な検証により担保する具体的な措置を伴わないものであるならば、各国を納得させ、その合意を得ることができないのみならず、むしろ逆に、世界の平和と安定を危うくする可能性すらあると言えます。安全保障という国家の基本的課題に重大な関連を有する軍備管理・軍縮の分野においては、効果的検証を伴った具体的措置という考え方が持に重要でございます。  次に、我が国といたしまして軍備管理・軍縮問題の中で、具体的に何を重視しているかと申せば、まず核軍縮の分野では米ソ間の中距離核戦力、INF交渉及び戦略兵器削減交渉、STARTを挙げることができます。詳細は後刻述べさせていただきますが、INF交渉は我が国を含むアジアの安全保障にも重大な関係を持つという意味で、またSTARTは米ソ間の戦略核兵器の大幅な削減を通じ長期的に安定した東西間の核バランスを図るという意味で、両者ともに極めて重要な交渉でございます。  さらに我が国は、核軍縮の実現へ向けての重要な措置として、核実験の全面禁止を重視しております用地下核実験を含む核実験を全面的に禁止することが、核兵器のいわゆる水平的及び垂直的な拡散を防止する上で最も有効な措置であることは広く認識されております。なお、この関連で我が国は従来から、あらゆる国のいかなる核実験にも反対するとの立場を内外に明らかにするとともに、機会をとらえては各国の行う核実験に対し遺憾の意を表明してまいりましたが、先般二月二十四日にも、実験を続行しておりますソ、米、中、仏、英の五核兵器国に対しかかる遺憾の意の申し入れをしたところでございます。  以上の二点に加えまして、我が国は核不拡散体制の維持強化を重視いたしております。核不拡散条約は現在百二十カ国もの国が加盟している重要な条約でございますが、残念なことにいまだ中国及び仏の二つの核兵器国の加盟が実現せず、また核開発の潜在的能力を持つ幾つかの国も加盟いたしておりません。中国及び仏を含む未加盟国が早期にこの条約に加盟し、核不拡散体制の強化が図られることが重要であると考えております。なお、核不拡散条約の第三回再検討会議が来年夏に予定されておりますが、本年の四月二日から六日、ジュネーブで開かれました第一回準備会合において、我が国の今井軍縮代表部大使が議長を務めた経緯がございます。  核軍縮同様、非核分野での軍縮が重要なことは言うまでもございません。特に我が国といたしましては、核兵器に次ぐ大量殺りく兵器である化学兵器の包括的な禁止条約の早期締結を重視いたしておりまして、このために軍縮会議等において積極的な努力を行ってまいっておりますが、先般、国連の調査の結果イランにおける化学兵器の使用が確認されたことは、図らずもかかる条約の早期締結の必要性を改めて認識させることとなりました。去る四月十八日、米国はブッシュ副大統領が軍縮会議に出席いたしまして、化学兵器禁止に関する包括的条約案を提出いたしましたが、我が国はただいま述べましたような立場から、今回の米国のイニシアチブを歓迎いたしますとともに、化学兵器禁止の実現に向けて引き続き努力する所存でございます。  また、冒頭の我が国の基本的考え方のところでも申し述べましたが、軍備管理・軍縮の各分野に共通する問題といたしまして、我が国は検証を重視いたしております。公平かつ相互的な適切な検証措置を伴わない限り、真に効果的な軍備管理・軍縮取り決めは不可能でございます。さらに、適切な検証措置は当事者間の信頼の醸成を図るという点でも重要でございまして、当事者間の信頼関係が深まることによって一層の軍縮措置の実現が期待し得るという面にも注目すべきと考えております、  次に、東西間の軍備管理・軍縮交渉の現状と若干の見通しを述べさせていただきます。  昨年一年間を振り返ってみますと、中距離核戦力、INF交渉における米ソの立場の相違に象徴されます東西間の意見の対立が、国連あるいはジュネーブの軍縮会議という多数国間の軍縮問題審議の場にも影を落とし、全体として軍備管理・軍縮交渉にこれといった進展が見られなかった年と言わざるを得ません。  焦点のINF交渉は、昨年十一月二十三日ソ連により中断されましたが、その後、十二月には米ソ間の戦略兵器削減交渉がやはりソ連が次回ラウンドの設定を拒否したまま無期限休会に陥り、さらには、中部ヨーロッパにおける通常戦力均衡達成を目標とした中欧相互均衡兵力削減交渉につきましても東側が次回交渉の開始日の設定を拒否するというぐあいに、昨年末から本年初めにかけて主要な東西間の軍備管理・軍縮交渉は全く動かない状況に陥ったのでございます。  このような厳しい国際関係の中で、本年一月十七日からストックホルムにおいて、欧米三十五カ国の参加のもとに欧州軍縮会議が開催され、第一段階の作業といたしまして、軍縮そのものではございませんが、国家間の不信、緊張、戦争原因の減少あるいは排除などを目標とした「信頼醸成措置」についての討議が開始されたことは、東西対話機運を維持することに寄与するものとして注目されるべきと存じます。また、この欧州軍縮会議への出席の機会をとらえまして、一月十八日に行われました米ソ外相会談において、中欧相互均衡兵力削減交渉の再開につき前向きな話し合いが行われ、これを受けて三月十六日から同交渉が再開されましたことは、欧州軍縮会議一つの成果と言うことができます。  その後、二月に入ってアンドロポフ書記長の死とチェルネンコ新書記長のもとでのソ連新体制の発足という新しい事態が生じましたが、何といっても当面の最大の課題の一つである米ソ軍縮交渉、すなわちINF交渉及びSTARTの動向が注目されるところでございます。  まず、INF交渉についてみますと、交渉開始以来ちょうど九二年にならんとする昨年十一月二十三日、米国のINFミサイルの欧州配備開始及びこれにより戦略状況変化したとの理由で、ソ連がこれを一方的に中断したまま今日に至っております。交渉が行われております間も、ソ連がSS20という新型、高性能、移動性の中距離ミサイルの配備増強を継続し、今やソ連全土の発射基数は三百七十八基、うちアジア部に百三十五基が配備されるに至っており、さらに新たな基地建設が進行中でございます。これが我が国はもとより、各国安全保障に大きな影響を及ぼしていることは御承知のとおりでございます。  交渉に臨みまして、米国及びNATO諸国は原則的立場は堅持しつつも、個々の対応においては現実的かつ柔軟な態度を示してきたということができると思います。INF交渉は、一九七七年ごろから開始されたソ連のSS20の配備によって、東西間の中距離核戦力均衡西側に不利になったとの認識のもとに、一方において核の近代化を進めるが、他方においてソ連との間で核軍縮交渉を行うとの、一九七九年十二月のいわゆるNATOの二重決定を背景といたしております。そこで、米国が最初に行いました提案がゼロオプションまたはゼロ・ゼロ・オプションと言われておりますが、これは、ソ連は全土からSS20などすべての中距離ミサイルを撤廃すること、これに対し米国も、NATO諸国へのパーシングⅡ及び地上発射巡航ミサイルという新型INFミサイルの配備計画を撤回するというものでございました。この提案は、米国のINF欧州配備を阻むことを最大の目標とするソ連の拒否に遭ったわけでございます。  その後、米国は、昨年三月に至りまして、究極目標としてのゼロオプションを維持しつつも米ソの保有するINFミサイルの数をグローバルベースの弾頭数で均等とするような形で削減するとの暫定案を提示いたしまして、さらに九月には、この暫定案を進めまして、米国が欧州に配備するINFミサイルの数は、弾頭ベースでソ連が全土に保有するINFミサイルの数よりも少なくても構わない、ただし、弾頭ベースで合意された枠までの追加配備の権利を留保する、さらには従来からソ連が主張してまいりました核搭載可能の中距離爆撃機についてもINF交渉に含め検討の用意があるとの新提案を行いました。そして、米国のINFミサイルの欧州配備を開始する時期が迫まりました十一月には、さらに米ソの均等保有レベルとして四百二十弾頭というグローバル枠を提示いたしました。  他方、ソ連は、交渉開始以来一貫いたしまして、東西の中距離核戦力均衡しているとの立場から、米国のINFミサイルの欧州配備は認めず、現状を凍結する、さらに合意達成後五年間で双方三百基とし、その内訳としてミサイルについては英仏の保有する核と同数とするとの提案を行いました。さらにその後、昨年十月二十七日には、ソ連の保有するINFミサイルを発射基数ではなく弾頭数で英仏の核と同数とするとの提案も行いました。  このようなソ連の提案は、要するにソ連のSS20の配備により獲得いたしました中距離核戦力の優位を維持せんとする立場から、米国のINFミサイル欧州配備は一切認めないというものでございました。米ソの具体的な主要対立点といたしましては、まず戦力バランスについての認識、二番目に英仏核戦力の算入問題、三番目に交渉対象地域の三点を挙げることができます。特に交渉対象地域につきましては、ソ連は欧州のみを対象とし、アジアは無関係との立場をとるのみならず、欧州で削減されたミサイルをアジアに移転する権利があるとさえ主張しました。かかるソ連の主張に対し、我が国がアジアの安全保障も念頭に置いたグローバルな観点からの解決を求めまして、これが西側全体としての理解を得ることとなったことは昨年のウィリアムズバーグ・サミットにおける宣言等に見られるとおりでございます。その後ソ連は、昨年十月に至り、合意発効時点でSS20のソ連東部への配備を停止する旨発言した経緯がございます。  今後の見通しにつきましては、ソ連が、NATOが米INFミサイル配備開始前の状況に戻す用意を示すことを依然交渉再開の条件としている点を初めといたしまして、米国大統領選挙の見通し、チェルネンコ・ソ連新体制の国内体制固め等々、種々の流動的な要因がございますので、断定的なことは申せませんが、一般的には、当面直ちに動きがあるとは考えがたい状況でございます。  我が国といたしましては、従来同様、今後ともINF交渉がアジアを犠牲にすることなく、アジアの安全保障をも念頭に置いたグローバルな観点から進められるべしとの立場を関係諸国に訴えていくことが重要であると考えております。また、ソ連が速やかに交渉の席に戻り、交渉の実質的進展が図られるよう関係諸国に働きかけていく所存でございます。  INF交渉より約半年おくれて開始されました戦略兵器削減交渉、STARTでございますが、これは戦略核兵器の大幅な削減を通じまして、米ソ間の長期的に安定した核バランスを図ることを目的とした極めて重要な交渉でございます。しかしながら、INF交渉における米ソの立場の相違がこの交渉にも影響を及ぼし、昨年十二月八日、ソ連は米INFミサイルの欧州配備開始による全般的戦略情勢変化により、START交渉の討議の対象たるすべての問題を再検討する必要が生じたとして、次のラウンドの再開期日の設定を拒否したまま無期休会となっております。  この交渉におきまして、米国は、米ソ間で戦略的に見て最大の不安定要因となっている弾道ミサイル、特に地上発射大陸間弾道ミサイル、ICBMを大幅に削減することにより、相互の抑止力を高めるとの基本的立場に立っておりまして、まず弾道ミサイル発射基数、これは現在ICBM及びSLBM海上発射の合計で、現在米が約千六百基、ソ連が二千四百基と推定されますが、これを米ソともに八百五十基とするというものでございます。もっともこの点につきましては、その後、この数につきましては緩和してもよい旨米国は提案いたしております。第二番目に弾道ミサイルの弾頭数、これは現在双方各七千から八千発あると言われておりますが、これにつきまして双方五千発以下とする。第三番目に破壊力の目安となる投射重量についても規制するなどの提案を行いました。また、その後、昨年の十月には、一方において核の近代化を図りつつも、全体として核弾頭数を削減していくとの立場から、新たに配備する弾頭数と廃棄すべき既存の弾頭数との間に一定の比率を定め、この比率に従って削減する、近代化を行わない場合も年率で最低約五%の弾頭数を削減する、以上二つのうち、より大きな削減を実施するとのビルドダウン方式を提案いたしております。  これに対しまして、ソ連は、まず戦略兵器、弾道ミサイルのみならず重爆撃機も含めておりますが、この数及び近代化を凍結して、その後一九九〇年までにその数を千八百基に削減するとの立場でございます。言いかえますれば、INF交渉と同様に、ソ連はここでも一九七〇年代にソ連が行いましたICBMの近代化の成果を既成事実として維持しつつ交渉を行っていくとの考え方をとっているものと思われます。  INF交渉との関連もあり、STARTについても当面直ちに動く可能性は少ないのではないかと見られます。しかしながら、戦略核についての二足の米ソ間相互規制はソ連の基本的利益に合致するものと思われます。いずれ何らかの形で再開されるのではないかと期待いたします。また、我が国といたしましても、ソ連が速やかに交渉の再開に応じ、その実質的進展が図られることを希望いたします。  以上述べましたとおり、INF交渉及びSTARTは種々の複雑かつ流動的な要因が絡んでおりますが、したがって明確な見通しを立てるのは難しい現状でございます。しかしながら、米ソ両国が地球上の大部分の核兵器を保有していることにかんがみ、これら二つの交渉の行方が今後の国際情勢に及ぼす影響ははかり知れないものがございます。かかる観点から、我が国といたしましては、今後とも関係諸国への働きかけ等、その進展が図られるよう可能な範囲努力していくことが重要と考えております。  米ソ間の核軍縮交渉と同様に、我が国は軍備管理・軍縮の分野における国連及びジュネーブの軍縮会議という多数国間の軍縮交渉、審議の場の果たしている役割は大きなものがあると考えております。特にジュネーブの軍縮会議は、具体的軍縮条約の作成を目的とした五核兵器国を含む唯一の多数国間軍縮交渉機関でございます。我が国も一九六九年に加盟して以来、その審議に積極的に参加してまいりました。軍縮会議は去る二月七日に始まりました今年度の会期より、これまでの軍縮委員会から軍縮会議に名称を改めましたが、我が国としては、これを契機に、四十カ国の加盟国が具体的な軍縮措置についての交渉に一層積極的に取り組み、具体的な成果を上げることを期待いたしております。  軍縮会議におきましては、従来から、核実験全面禁止、化学兵器禁止、放射性兵器の禁止、包括的軍縮計画、非核兵器国の安全保障、核戦争の防止、宇宙軍備競争防止などの議題について議論が行われてまいっております。軍縮会議におきましては、一般的に申しまして、検証や遵守といった側面を重視し、十分な審議を尽くした上で、真に実効ある具体的軍縮措置の実現を目指そうとする西側諸国と、むしろ何よりもまず取り決めの枠組みをつくることが先であるとする東側諸国との間の立場の相違に加えまして、非同盟諸国の思惑もございまして、過去数年間、条約といった形では必ずしも具体的成果を上げなかったと言わざるを得ません。しかしながら、この間におきましても、核実験全面禁止、化学兵器禁止、原子力施設攻撃禁止など幾つかの分野において有意義な審議が行われたことも事実でございます。また、我が国といたしましても、核実験禁止や原子力施設攻撃禁止あるいは検証問題に関する作業文書の提出、さらには地震専門家、化学兵器専門家の派遣などを通じまして軍縮会議の審議に積極的に貢献してまいったところでございます。  我が国といたしましては、軍縮会議がこれまでの審議の結果を踏まえて、引き続き現実的な努力を積み重ね、各分野における問題点を一つ一つ解決していくことにより、必ずや具体的成果が得られるものと確信しておりまして、今後とも積極的な努力を行っていく所存でございます。  最後に、国連における軍縮問題の審議について簡単に触れさせていただきます。  国連総会は、毎年九月から十二月にかけて開催されまして、そこでは第一委員会中心として軍縮問題の審議が行われております。かかる審議の結果といたしまして、各国の意見を表明する形で毎年多数の軍縮関連決議が採択されております。ちなみに、昨年の第三十八回国連総会におきましては、軍縮関連決議が六十二本採択されております。我が国は、核実験全面禁止、米ソ間核軍縮交渉、化学兵器禁止など八本の決議を共同提案いたしました。この共同提案いたしましたものを含め、三十四本の決議に賛成いたしております。  私どもといたしましては、冒頭に述べさせていただきましたように、軍備管理・軍縮に取り組むに当たっての基本的立場を踏まえつつ、今後とも従来以上に積極的に軍縮、なかんずく核軍縮の促進に努力してまいる所在でございます。  ありがとうございました。
  9. 委員長(植木光教君)(植木光教)

    委員長植木光教君) ありがとうございました。  以上で説明の聴取は終わりました。ただいまの説明に対する質疑は午後行うことにいたします。  午後一時再開することとし、休憩いたします。    午前十一時四十二分休憩      ―――――・―――――    午後一時七分開会
  10. 委員長(植木光教君)(植木光教)

    委員長植木光教君) ただいまから外交総合安全保障に関する調査特別委員会を再開いたします。  午前中に引き続き、外交総合安全保障に関する調査を議題といたします。  午前中、平和の確保国際協力資源エネルギー、食料問題等について外務省及び防衛庁から説明を聴取いたしておりますので、これより質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  11. 大坪健一郎君(大坪健一郎)

    大坪健一郎君 午前中に外務省岡崎さん、それから防衛庁の矢崎さん、そして外務省山田局長と御説明いただきました。余り時間がございませんから、二、三要約して教えていただきたいと思うんです。  岡崎さんにお伺いするのがいいのだろうと思いますけれども、あなたが御説明になりました総合安全保障というものの考え方は、外交あるいは防衛あるいは経済などの国際的な要因に起因する多種多様な脅威に対して、外交防衛経済等の諸施策の実施によって脅威を未然に防止したり、脅威への対処を図ることであるというふうに御定義になりましたけれども、脅威の未然防止あるいは脅威への対処というふうに考えますと、今の国際情勢の中で、我が国の安全あるいは我が国国民生活の安定に脅威になっておると思われる幾つかの問題点があろうかと思いますが、あなた方今それをどういう点が特に差し迫った緊急の問題点とお考えでございましょうか。それとも、もっと抽象的に一般的に国際的な情勢の中の脅威を具体的な外交防衛経済等の諸措置で取り除いていくことだというふうに御議論になっておるのでしょうか。
  12. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 先生御質問のとおり、これは総合安全保障関係閣僚会議の設置の閣議決定にございますとおり、「国際政治経済情勢の推移にかんがみ」、そしてそれによって生ずる諸問題というふうに書いてございます。何が具体的な脅威かということでございますけれども、政治安全保障上の脅威という言葉、これは国際情勢の見通しというのは的確に見通すことは不可能でございまして、いついかなる事態が起こるかわからない、いつ世界の一隅においていかなる事態が起こるかわからない、それがまたどういう関連で日本安全保障に及ぶかわからない、そういう認識のもとに常時から抑止力を維持し、あるいは抑止力が破綻した場合はそれを守る準備をしておくということでございまして、特定のということは今申し上げる必要もございませんし、またそういう性質のものではないと存じますが、具体的に今、日本国民生活に何が一番直接危険かと申しますと、総合安全保障と申します枠の中では、まず具体的には国際的な保護主義の台頭、それから第三世界におきます債務累積問題、これが世界経済を破綻させるおそれがあるという状況、そのあたりが最も具体的な問題かと存じております。
  13. 大坪健一郎君(大坪健一郎)

    大坪健一郎君 総合安全保障という観点は、やはり防衛関係の力を整備するという抑止力の関係の問題と、政治経済我が国の政策をしっかり行って、今言われたように各国が孤立していくようなそういう経済的、政治情勢をつくらないようにすることであろうかと思いますけれども、貿易摩擦の問題とか、累積債務の問題を議論し出しますと、これはまた果てがございません。残念ながら次の機会にそれは譲ります。  私は、例えばきょうの新聞に出ておりましたけれども、ソ連がアフガニスタンに大攻勢を今かけ始めたというふうに新聞に書いてございます。これはアフガニスタンの情勢だけの問題なのか、ソ連が今国際情勢をにらんでアクションを起こした最初の非常に厳しいアクションのようですけれども、これの持つ意味をどう考えておられるのか。あるいは先ほどのあなたの御説明の中では、ソビエトがINF交渉を、今交渉をやめております、またSTARTの再開も拒否しておりますけれども、きょうのこれも「朝日」の記事によりますと、これはプラウダの編集長の話ですから、ソ連政治中心の意見だろうと思いますけれども、こういうINFとかSTARTの交渉は一切やらない、それはヨーロッパから、これも端緒的に配備したものですけれども、アメリカが既に配備したミサイルを撤去しない振り、ヨーロッパにおけるINFの交渉あるいは国際間のSTARTの交渉は再開しないとソ連は厳しく言っておるようでございますけれども、あなたは先ほど、この交渉はいずれ起こるだろう、ソ連の実質的な利益に合致するはずだというふうにおっしゃったわけであります。  実際、ヨーロッパには核配備反対の世論が大分大きく動いております。日本にもそういう空気がございます。しかし、今のアフガンの攻勢に象徴されるようなソ連の全面対応の姿勢、これはレーガン政権の国際戦略に対応しておるのかもしれませんけれども、これを側面的に私どもが国際平和の観点から見る場合には、やっぱり軍縮交渉、特に核ミサイルの削減交渉については世界世論として何とか早くテーブルに着けという空気をつくらなきゃいかぬのじゃないかと思うんですけれども、そういうことは総合安全保障観点から見てどういうふうにおとらえになっておられるのか、また、そういうことに対して日本のようにらち外にある国が具体的にどういう提言なりプロモートができるのか、そういう点をちょっとお聞かせいただきたいと思います。
  14. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) ソ連がアフガニスタン周辺にかなりの爆撃機を集めておりまして、それからまた現在新規攻勢を始めている、これは事実のようでございます。これの意図は、もとより推測のほかはないのでございますけれども、アメリカがやっております、これは公表されている分析でございますけれども、分析の一つでは、何と申しましても過去数年間ソ連が何を一番得たかと申しますと、アフガニスタンにおける基地と、それからカムラン湾南岸における基地、これだけはソ連の現在の持っているポジションよりもはるか南に基地を伸ばしてきた、これを固めるのがソ連の当面の安全保障上の目的であろうということを言っております。これもあるいは一理ある議論かもしれないかと存じております。  これをやった背景といたしまして、これはまたそういう一つの観測でございますけれども、軍縮交渉が一時中断しておりまして、それからアメリカの大統領選挙も本年の秋にある、それまではなかなか事態は動かないだろう、ソ連としましても一度交渉の席を脱退した以上、新しい進展がない限りなかなかメンツを保って返れない、そういうことで外交的にはある意味の手詰まり状態になっておりまして、外交面で余り動いてない。そういう時期におきまして、アフガニスタンとかそういうところで積極的に出ても、それが及ぼす悪影響というものが、今度は悪影響を及ぼすような外交的な交渉が行われてないということがソ連がアフガニスタンに対して積極的に出やすくなっている一つの理由であろう、そういう観測は行われております。その意味では、確かに米ソ間に常に対話が継続し、常に相互の利益となるような交渉が継続していることが世界平和の維持のために役に立つ、それは仰せのとおりでございます。  軍縮交渉の見通しにつきましては、必要に応じましては国連局長の方から申し上げます。
  15. 大坪健一郎君(大坪健一郎)

    大坪健一郎君 今の点に関係いたしまして、つまり私どもが総合安全保障で一番考えなくちゃいけないのは、もちろん自国の防衛のために自衛力をしっかり持つということと同時に、国際的に変なけんかの風潮が広がらないようにする、あるいは米ソの非常にかたい姿勢に対して何とかこれを和らげるという外交努力が最も重要な問題点だろうと思うわけでございます。そういう意味で言えば、我々の陣営の中に亀裂の入るような保護貿易主義とか、あるいは我々の陣営が世界でイニシアチブを失うような、開発途上国への貸付金の焦げつきとか、そこの経済不能が起こっちゃいかぬわけですけれども、しかしもう少し積極的に考えて、国際的な論議の場として私どもが今持っております国連のいろいろなマシーナリーがあるわけですけれども、そういったところで実際上幾つかの、米ソを近づけ、米ソの核軍縮交渉を余儀なくさせるような圧力というものをもう少し強めていかなくちゃいけないのではないかという感じがいたしますけれども、一体国連あるいは軍縮会議には、そういった何といいますか、アメリカソ連が二国の利害だけで国際政治の中に非常に厳しい対抗、対立を持ち込んでいる状況を何とかする、そういう有効な会合なり働きかけなりというものが国連ないし軍縮会議で今後なしていけるのか、日本はその中で主導力がとれるのか、こういう点をちょっとお伺いします。
  16. 政府委員(山田中正君)(山田中正)

    政府委員山田中正君) 今先生おっしゃいましたように、米ソの核軍縮交渉、これがとんざしておるという状況において、何とかより平和的な環境をつくるという意味で国連の果たす役割は非常に大きいだろうと思っております。ただ、けさも述べさせていただきましたように、国連総会もその一つの場所でございますが、国連総会はむしろそういう世界の世論を表明するという場所でございまして、具体的な軍縮交渉を進める場は、やはりジュネーブにございます四十カ国の軍縮会議であろうかと思います。  この軍縮会議の場では米ソ直接の核戦力交渉、これを取り上げることは、その二国間交渉がとんざしておる状況でございますので、なかなか進展が望めないわけでございますが、具体的な措置として先ほども申し述べさせていただきましたような、核軍縮の分野では核実験の全面禁止でございますとか非核兵器国の安全保障でございますとか、また非核分野では化学兵器の禁止、そういう具体的な分野での軍縮措置を一歩一歩進めることが環境の改善に役立つと思います。先生御指摘ございましたように、我が国としてもこの分野でできる限りの努力を払うべき必要があると考えております。
  17. 大坪健一郎君(大坪健一郎)

    大坪健一郎君 ところが、国際会議で幾らマルチの、大勢の国のいろんな意見が出ても、アメリカソ連がお互いに相手を信用しなくて、ヨーロッパのINF交渉の状況なんかを見てましても、どっちかがこっちの言うとおり先に手を引いて、こっちの考える均衡状態にしなければ会議に応じない、お互いにそういうことを言い合っておるということでは、どうも我々核兵器を持たず、この二超大国のパワーゲームにはらはらしておるものにとっては甚だ心もとない腹の立つ話であります。  そこで、もう少し手足を縛ったり手足が動きにくくするような私どもの働きというものがないだろうか。例えば、ことしの一月に行われたと聞いておりますヨーロッパの軍縮会議というのがあって、そこで米ソ両国を含めて歴史的な事情も考慮して国家の信頼関係がずっとつくられていくようなそういう信頼醸成措置、英語ではCBMと略しておるそうですけれども、こういったことを取り上げてきたということなんですが、その辺のことを少しお教えいただきたい。それからまた、これが国際的な、全般的な動きにつながっていくものかどうか、その評価もちょっとお聞かせいただきたい。
  18. 政府委員(山田中正君)(山田中正)

    政府委員山田中正君) 今先生御指摘ございました信頼醸成措置、これは経過的に申しますと、ヨーロッパでは、先生御承知のとおりワルシャワ軍とNATO軍が正面対峙いたしておるわけでございますが、一九七〇年代の初頭になりまして東西両方の国家間での相互承認関係が成立いたしました。その相互承認関係を基礎といたしまして、いわゆる欧州安保協力会議というのが一九七二年に開始されまして、七三年からけさほど申し上げました中欧兵力の相互均衡削減交渉が始まるわけでございますが、この交渉が十年間ほど続いておりますけれども、余り確たる成果がないわけでございますが、この具体的な兵力削減交渉を伴わない分野で何か措置ができないかということで、一九七五年のヘルシンキの会議におきましてこの信頼醸成措置というのがうたわれたわけでございます。  その中で一番重要なものは、総計二万五千人を超える軍事演習を行う場合には少なくとも二十一日以前に相手方に通報を行う、例えば演習の区域が国境から二百五十キロ下がったところとかいろいろ細かい取り決めはございますが、一般的に申すとそういうことでございます。そのほかに他の軍事演習の事前通告でございますとか、オブザーバーの交換、それから主な軍隊移動の事前通告、または軍人の相互交換による訪問、こういうことを通じまして、兵力削減交渉が進まない状況においても誤解に基づく紛争が生じないような措置を決めたものがこの信頼醸成措置でございます。ただ、この信頼醸成措置は法的な拘束力を持つものでございませんのと、それからそれが現実に実施されているかどうかの査察を含んでおらないわけでございます。  したがいまして、NATO側といたしましては、これをもう少し法的拘束力を持った措置とすること、もっと具体的にいろいろな措置を定めること、それから査察もできるというふうなことにしたいということで、先ほど先生お話ございました本年一月に再開されました欧州軍縮会議でそういう提案をいたしております。一方、東側はこの信頼醸成措置につきましては、ヘルシンキでの合意程度でいいのではないか、むしろその信頼醸成措置では核兵器の不使用でございますとか、そういう宣言的なことをすればいいということで対応をしておるのが現状でございます。  これがどういう意味を持つかということでございますが、やはり軍縮交渉がとんざしておる中におきましてこういう東西間の対話の場が継続しておるということ、それから偶発と申しますか誤解と申しますか、そういうものでの紛争が発生するのをとめる手だてとしての意味、これは非常に大きいものであると考えております。
  19. 大坪健一郎君(大坪健一郎)

    大坪健一郎君 ヨーロッパでは利害関係国が非常に力があるからお互いにそういう話し合いが進みやすいのですけれども、中東の情勢を見ますと、ヨーロッパよりはるかに情勢が悪いのにかかわらず、そういった措置がお互いにとられない。安倍外務大臣が大変御苦労になってイラン・イラク戦争の間を取り持とうとしておられるようでございますけれども、イラン・イラクのこの戦争は大変複雑ないろいろ様相があるし、軍事的な対決で局面が動くというふうにもなかなか考えられない状況もあるんですが、これを一体どのように日本は把握しておられるのか。  なぜかと申しますと、総合安全保障観点から見ても、一見日本関係ないような地域の問題が全体に波及するというのはさっき岡崎さんの説でありますが、この中東情勢米ソの非常に利害の絡んだ問題点で、アフガンが北にありますし、アラビアの諸国がペルシャ湾に面しておりますし、このイラン・イラク問題を契機にして問題が複雑化してくることを何とか防がなければいけないという安倍外務大臣の観点は、私は非常に正鵠を射ていると思う。ただ、今のようなやり方ではとても効果が上がらないような気もするのですけれども、総合安全保障観点からこれをどう外務省としておとらえになっておるか。
  20. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) ヨーロッパで一応今討議されております信頼醸成措置のようなものは、これは非常に長い経緯のあることでございまして、それで西側としましても、西ドイツも最初は東ヨーロッパ諸国は承認しない、特に東ドイツは承認しない、そういう立場を長い間堅持していたのでございますけれども、シュミット政権の十三年の統合政策で徐々に方針を変更いたしまして、それでCSCEの会議で、全欧安保会議で一応現行の国境線を尊重する、もちろんドイツとしては統一の意思はあるわけじゃございませんけれども、現行の国境線を尊重するというところまで全ヨーロッパ諸国の合意ができまして、その合意の上に立って徐々に今度は信頼醸成措置、そういうものが進んでいく、そういう長い歴史的過程がございました。一ところが、中東情勢はまだまだとてもそういうところまでいっておりませんで、ましてや現在の国境線尊重というのはとてもできない情勢でございまして、まだまだそういう条件が熟しておりませんので、まず国家間の話し合い、相互理解、最も古典的な国家間の外交的な平和維持方法、それから始めていくという段階であると存じます。イラン・イラクの間の対話、これ自身も直接対話はないのでございまして、それぞれの実情を正確に把握するように日本がお互いと個々別々に話している、そういう状況でございます。外交的な解決としては、最もまだ初歩的な段階でございます。
  21. 大坪健一郎君(大坪健一郎)

    大坪健一郎君 もう一つ問題点がありますのは朝鮮半島ですけれども、朝鮮半島にはまあいろいろな方の働きかけがあったり、既に北朝鮮の側から問題提起があって、これに対して日本の有力な政治家が中国の首脳と話をされたりしておるようでございますが、北朝鮮の金日成氏が最近またソ連に行くというような動きもあるようですし、韓国がオリンピックをやるまでに何か心配事が起こるんじゃないかという議論もある。これもやっぱり一つ脅威だろうと思うのですが、この朝鮮問題へのアプローチはどう総合安全保障観点から考えているのか、また考えていないのか、言えないのか、その辺をひとつ。
  22. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 朝鮮半島と申しますのは我が国に最も近接した地域でございますし、特にまた防衛観点から申しまして、朝鮮半島南部、これはむしろ日本防衛の体制から申しまして、ほとんど日本の持っております唯一の緩衝地帯でございます。朝鮮半島南部というものが敵対的勢力の手に落ちないということが日本安全保障にとって非常に重要なことと考えております。したがいまして、朝鮮半島の平和というものは我が国の安全にとって非常に重要なことでございまして、我が国としてもそれが維持されることを期待しておるものでございます。  ただ、朝鮮半島を長い将来どうするかという問題は、これはあくまでも両当事者間の意向を尊重するというのが我が国の守る基本方針でございまして、それに関連して、朝鮮半島情勢に深く関連しているアメリカ、中国等が両当事者間による解決を助ける、日本もあるいはその間果たせる役割を果たすというのが日本の基本的方針でございます。
  23. 大坪健一郎君(大坪健一郎)

    大坪健一郎君 もう時間がありませんから最後にしますけれども、実は最近、外国の連中に会ったりあるいはそういう情報をとりますと、中曽根総理の評判が大変いいのですね。まあ中曽根さん、私ども国内政策観点から見ると若干問題のあることもあるんですけれども、しかし非常に積極的に日本の国民の信頼をつないでおることと、諸外国日本人に対する信頼を中曽根さんの言動において非常に高くしたと。韓国なども、韓国の方々は大変日本に対して反感をお持ちだったのが多かったようでございますが、中曽根さんが総理におなりになってから非常に親日感が強くなったそうであります。一国の総理がこれだけの短い期間にこれだけの国民の統合力を示し、外国で評価されるということは非常に貴重なことだと、こういう議論を聞くのですが、私の言いたいことは、中曽根さんを褒めることではなくて、先ほどから岡崎さんのお話では、総合安全保障政策というのは日本に対するいろいろな形の脅威を未然に防止したり、脅威へどうやって対処するかということが重要だという観点が非常に強いのですけれども、国際平和というようなものは、その脅威の芽をあらかじめ摘む、あるいは危険の芽をあらかじめ摘むということももちろん必要でしょうけれども、その摘み方の背後に、平和をつくっていくという平和創造の動き、孝之方がなくちゃいけないのだろうと思うんですね。  そうすると、総合安全保障の基軸というか中心には、平和をつくっていくのだという、そういうアプローチの仕方がなくちゃいけない。一国の総理が外国に出て行っていろんなことをやるとき、例えば目の前に迫っておりますサミットで中曽根さんが何を諸外国に訴えるべきか、何をなすべきかということについては、やはり世界の平和を日本が一翼となってつくっていくということについて、我々は世界に今あるいろいろな問題をこう考え、こういうふうに理解し、こういうふうにしていきたい、どうです、一緒にやりませんか、向こう側のソ連邦も、またそれと同じような考えを持っておられる国々も、この問題についてはどうです、ひとつやらんですかというようなことで、今までいろいろお話を承って教えていただいた国際的な措置、国際的なマシーナリーを主導的に動かすという考え方がないと、日本外交はいつもしり追い外交になっちゃうのじゃないかという気がするのですけれども、どうでしょう、その辺。
  24. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 世界の永久平和というのは、これはもう人類何千年にわたりまして追求してきた目標でございます。そのためにいろいろな試みもなされておりまして、現在の国際連合もそういう趣旨でつくったものでございます。しかし、これはもう人類の永久の理想でございまして、理想は理想として掲げながらも、現実はやはり抑止力、軍事力バランスによって平和が維持されている。これはもう冷厳な事実でございます。  したがいまして、昨年のウィリアムズバーグ・サミットの政治声明におきましても、サミット参加国七カ国が集まりまして、我々の自由と正義を守るためには、いかなる攻撃をも抑止し、いかなる脅威にも対抗し、さらに平和を確保するための十分な軍事力を維持する、これが第一。それから第二に、真剣な軍備管理交渉を通じて軍備のより低い水準を達成したいと考える、これが第二。これがNATOでもコンセンサスを得ておりますいわゆる二重決議でございまして、片方に抑止力を維持し片方に軍縮を推進する、これが現在我々にとって実現可能と申しますか、努力目標として可能な唯一の政策目標であると考えております。
  25. 大坪健一郎君(大坪健一郎)

    大坪健一郎君 どうもありがとうございました。
  26. 堀江正夫君(堀江正夫)

    堀江正夫君 私は、防衛政策の問題につきまして幾つかお尋ねいたしたいと思いますが、初めは、今だんだんと大きく問題になっています防衛力の歯どめの問題でございます。  防衛力は、一般に認められておりますように、侵攻を抑止し、これを排除して国の安全と独立確保するための最後の力である。したがって、防衛力の規模は本来は相対的なものであって、国の安全と存立確保するために日米安保体制下でどれだけの自衛力が必要かといった性質のものだと思います。したがって、初めから予算の枠を決めてしまう、特に変動するGNPを基礎として何%という歯どめをかけて、その範囲でやれというのはどう考えてみても合理的とは言えないのじゃないか。もっとも、これが今申しました日本の安全と存立が図れるだけの十分な裏づけとなっておるというのであれば別でございます。元来、防衛九についてのシビリアンコントロールというのは、憲法の精神に基づいて、かつ日米安保体制下で自衛のためにどれだけの自衛力が必要であるかということを基礎にして、それに財政状況その他の国内の諸要素を勘案して目的達成に必要な自衛力の規模を国防会議を経て政府が決定する、そしてこれを国会が議決する、そういうことじゃないかと思うわけですが、きょうは外務省岡崎さん、防衛庁の矢崎さんという立場ではなくて、外交専門家、防衛専門家としての岡崎さん、矢崎さんに御意見を承りたいと思います。
  27. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 防衛力整備に当たりまして、常に諸外国軍事動向等を十分把握しながら考えていくべきではないかという御趣旨が基本にあろうかと思います。その点は私どももそういうことではないかというふうには考えておるわけでございます。  ただ、日本の場合、防衛力整備を進めていくに当たりましてやはり一番重要なことは、国民の理解と協力を得つつ、コンセンサスを得ながら進めていかなければいけないということが非常に大きな問題になっていると思います。そういう意味におきまして、これまで政府が数次にわたる防衛計画をつくり、さらには五十一年に大綱をつくりまして防衛力整備をやってきたわけでございますけれども、それを進めるに当たりまして、やはり防衛力というものが一体どの程度のものを目標にしているかということについて国民の基本的な理解を得ながらやっていくということが、政治的な意味での大きなポイントであったように思います。そういった観点から見ますと、防衛計画の大綱ができる前の三次防なり四次防なりの時代と申しますのは、その三次防なり四次防なりの計画の中に、その期間中の五カ年間防衛費の総額というものを一応示して、これによって大体の資源配分のめどというものが国民にも一応御理解できるような姿でやってきたという経緯があったわけでございます。  それに対しまして、御承知のように防衛計画の大綱になりますと、これはいわゆる基盤的防衛力と申しまして、平時における必要最小限の防衛力の規模というものを別表で示すという形に変わってきておりまして、ある一定の期間を想定しておりません。したがって、ある一定期間中の防衛費がどのくらいであるかということが示されていないというような性格の変化が出てきたわけでございます。そこで、これだけでは必ずしも総合的な判断からいって防衛力整備を進めるに当たって国民の御理解を得るという観点から言うとどうであろうかというふうな判断もございまして、大綱とは別途に、先生御指摘の五十一年の三木内閣におきますGNPに対する防衛費の割合というものを一%ということで示した閣議決定を行った経緯があるわけでございまして、そういう意味におきまして、高度の意味政治的な見地から一つの政策判断としてこれが行われたというふうに私は理解をしているわけでございまして、それはそれなりの意味があったものというふうに考えているわけでございます。  現在のところ、これは今国会におきましても中曽根総理大臣からお答え申し上げておりますように、三木内閣の閣議決定の方針はこれを守ってまいるというのが政府としての方針でございますので、私どもといたしましても、そういった考え方に立ってできるだけの努力を払っていきたいというふうに現在考えているところでございます。
  28. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) お説のとおり防衛力の必要というものは相対的なものであるということ、これはもう疑いを入れないところでございまして、これは大綱にも、「いかなる態様の侵略にも対応し得る防衛体制を構成し、これによって侵略を未然に防止することを基本とする」、そう言っている以上、これは「いかなる態様」と言っているわけでございますから、防衛の必要が相対的であるということはもうそのとおりでございます。  歯どめという言葉でございますけれども、歯どめということが何を意味するか、これははっきりした定義あるいは解釈というものは出ていないわけでございまして、現在あるとすれば、昭和五十一年に決めましたお金の額といたしましてはGNPの一%、それからまた自衛隊の規模としましては防衛計画の大綱と、その二つが枠ということになっております。これは先生おっしゃるとおり、いかなる脅威にも対抗するという軍事的合理性だけから言えば論理的な矛盾が生じるという御指摘もあるいはあり得るかもしれないのでございますけれども、結局、今防衛局長が申しましたとおり、政策というものはこれは政治的決定でございまして、当時基盤的防衛力構想をつくりましたあの説明を見ましても、日本の高度成長というものがとまってしまったとか、あるいは若年労働力が減ってきたとか、あるいはこれ以上防衛施設用地を広げようと思っても用地の取得が困難であるとか、さらにはどこまでふえるのかという見通しを示せという要請がある、これは明らかに国内的政治的要請でございます、そういうものもある。そういうものを考えれば何か考えなければなるまい、そういう思想が入っておりまして、これは要するに国内的な事情から来る必要と、それからまた防衛上の軍事的合理性から来る必要、その妥協の結果の政治的な産物だろうと思います。  いずれにしましても、まだ防衛計画大綱の水準まで達しておらない状況でございますし、また一%にも達しておらない状況でございますので、政府といたしましては、防衛庁中心といたしまして防衛力増強のためにできる限りの努力をしているというのが現状でございます、
  29. 堀江正夫君(堀江正夫)

    堀江正夫君 この問題について政府の従来の経緯とか見解を聞く気は毛頭なかったわけですが、今おっしゃったようなことしか言えないのでしょう。したがって次へ移ります。  以下は防衛局長である矢崎さんにお伺いをいたします。  その第一番目は、今後の防衛力整備においてシーレーン防衛と直接本土防衛力、このウエートをどのように考えるべきかという問題であります。と申しますのは、どうもアメリカ側の声は海空防衛力、シーレーン防衛力ということが大きく響いておるわけでありまして、軍事的な問題にとかく疎い国民の皆さんは、それで日本の本土防衛も全うできるんだといったような単純な誤解をしておられる方もないではありません。また、日本は四面環海である、したがって海空、特にシーレーン防衛、これをやっておけば日本は陸上なんというのは、本土侵攻なんというのはあり得ないのじゃないかと、こういう単純な考え方を持っておられる方もあるわけです。  ところが、言うまでもございませんが、西側の自由主義陣営の中でソ連と直接接しているのは日本だけです。確かに海を隔てておりますけれども、その海というのは十数キロから数十キロにすぎない。本当に我々はソ連の力と対面しているわけです。こういうことを考え、さらにソ連の侵攻能力整備状況を見ますと、どうもその辺片方だけやればいいというわけにはいかないじゃないか、私はそう思うわけです。その点につきましていかがでございますか。
  30. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 確かに我が国の地政学的な条件といいますのが四面環海であるということは、多くの国とは違った特殊性を持っていると私も思っております。しかしながら、しからばその海が、これが完全な防壁であるかといいますと、それは必ずしもそうは言えないわけでございまして、古来海を渡って侵攻をした例というものは幾らもあるわけでございますし、それからまた、最近におきます軍事技術の発展等を考えますと、海の障壁の力というものが昔に比べて、それがそう強くなくなっているというふうな見方も他方ではあるわけでございまして、四面環海であるからといって陸上兵力による侵攻というものがあり得ないというふうに断定することはできないのではないかというふうに私も思います。  我が国に対する武力攻撃の態様が、しからばどういうものがあるかということになりますと、これは武力紛争というものがいろんな態様がありますので一概には申し得ませんが、一つには陸海空戦力をもってする我が国に対する着上陸侵攻、二番目には海空の戦力をもってする我が領域に対する攻撃、三番目には海空の戦力をもってする我が国海上交通に対する妨害、そういったような大きく分けて三つのパターンがあり得るわけでありますし、これが複合して起きることもあり得るわけでございます。しかしながら、これが具体的にじゃどういう形で起こるかというのは、これはやはり一概には申せない、千差万別の態様があろうかと思います。  したがいまして、我が国防衛力整備に当たりましても、いかなる態様の武力攻撃にも対抗し得るというようなことを基本として整備していく必要があると思いますので、そういう意味におきまして、私は陸海空の防衛力についてバランスのとれた整備を図っていくということが一番重要な着眼点ではないかというふうに考えておる次第でございます。
  31. 堀江正夫君(堀江正夫)

    堀江正夫君 次は、シーレーン防衛の問題につきましてお尋ねをいたしますが、過去の国会におきますところの政府見解をずっと調べてみますと同様でございます。また、最近の四月十日に出されました「海上防衛力整備の前提となる海上作戦の地理的範囲について」という政府統一見解についても同じように示されておりますが、一貫してこのシーレーン防衛の問題につきましては、周辺海域数百海里の防衛能力と、それからおおむね千海里程度の海上交通の安全確保能力、これが目標になっている。このことは計画大綱の基礎になりました基盤的防衛力構想の中でも同じだったと、こう思うんですが、それは間違いございませんか。
  32. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 我が国が従来防衛力整備を進めてくるに当たりまして、周辺数百海里、航路帯を設ける場合にはおおむね千海里程度の海域におきまして海上交通の安全を確保し得ることを目標としてきたということは御指摘のとおりでございまして、これは、先ほども申し上げました三次防、四次防のとき以来同様の考え方をとってきておりますし、防衛計画の大綱も同じでございますが、今御指摘の基盤的防衛力構想と申しますのは、まさにこの防衛計画の大綱を作成するに当たっていろいろと議論をした基本的な物の考え方でございますけれども、その中でも同じような考え方をとってきたわけでございます。
  33. 堀江正夫君(堀江正夫)

    堀江正夫君 そうしますと、当時大綱を決めますときの機微な経緯について私も承知しておるわけですが、あのときには、防衛庁はこれらの海域防衛目的を達成するためには五個護衛隊群が必要だということを最後まで主張されましたですね。ところが、決定は四個護衛隊群になった。そこには一個護衛隊群の開きがあるわけです。これは私は相当重大な問題じゃないかと思うわけです。この点どのように考えたらいいのかなと、こういう疑問もわいてくるわけですが、どのようにそれを受けとめておられるのか、お聞きしたいと思います。
  34. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 基盤的防衛力構想で考えていた内容がどうであったかということをまず最初に申し上げますと、これは当時の白書にも書いてございますが、基盤的防衛力構想としては、やはり四個護衛隊群というもので考えていたわけでございます。しからば、今御指摘の五個護衛隊群という考え方はいかなる位置づけにあるかという点でございますけれども、そもそも防衛計画の大綱を策定いたします過程におきましてはいろんな案を検討をした経緯がございます。その中で、五個護衛隊群という案もあったことも、これまた事実でございます。  そのときの考え方といたしましては、その五個護衛隊群あれば、常時二つの護衛隊群が最も高練度の状態で即応態勢にあるということ、常時確保できるということを想定していたわけでございます。これに対して四個護衛隊群の場合はじゃどうなのかといいますと、常時は一個護衛隊群が高度の練度の状態で即応態勢にございますし、ある相当の期間は二個護衛隊群が同様の状態にあり得るということで、常時二個護衛隊群ではございませんけれども、ある程度の期間は二個護衛隊群の高練度の状態というものが確保できるというふうな形になるというふうに見ていたわけでございます。そういうことで、大綱の作成過程におきましていろいろな検討をした結論といたしまして、全体としては四個護衛隊群という案を採用したわけでございます。  しからば、そのことが一体防衛力の面でいかなる意味を持つかということでございますけれども、これは、この四個護衛隊群、約六十隻の水上艦艇というものによりまして、四個護衛隊群を中心とする六十隻の水上艦艇によりまして我が国海上交通の安全確保のための能力は相当に向上するというふうに私どもは見積もっているわけでございまして、現在のところは、これをもって平時における必要最小限の防衛力として整備をしたいというふうに考えているものでございます。
  35. 堀江正夫君(堀江正夫)

    堀江正夫君 言われることはわかるわけですが、またこの問題を深くこれ以上突っ込んでお聞きしようとも思いませんけれども、やはりその辺、これは今後のシーレーン防衛能力の強化の中で、アメリカが千海里シーレーン防衛云々と言うからという意味じゃなくて、本来考えておった線、それに達してない。達しておらないという点も踏まえながら考えていく必要があるんじゃないかなと私には思われてなりません。  もう一つ、このシーレーン防衛の問題につきまして、けさのある新聞でも、ワインバーガー国防長官がサンフランシスコの演説の中で、日本防衛努力、これを強調したということが出ております。この問題につきましては、日本の一貫した基本的な考え方アメリカの受けとめておる考え方との間にはどうもギャップがある、私にはそう思われてなりません。もしそうだとすると、そのギャップを埋めるための努力というものは現実的にどのようになされておるのかなと、こう思うわけですが、いかがでございますか。
  36. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) いわゆるシーレーン防衛の問題につきまして、我が国が従来から周辺数百海里、あるいは航路帯を設ける場合はおおむね千海里程度の海域におきまして海上交通の安全を確保していくだけの防衛力整備したいという考え方でいることにつきましては、これはいろんな機会に私どもはアメリカ側にも十分説明をいたしておりまして、アメリカ側もこのことは十分理解をしておるわけでございます。そういった理解の上に立ちまして、アメリカとしては千海里以遠あるいは攻勢的作戦というものは米側が中心になってやっていこうということも言っておるわけでございまして、私どもが承知している限りにおきましては、こういった日本のシーレーン防衛についての考え方というものについては、日米間に基本的な認識のそごはないというふうに理解をしております。ただ、アメリカの国内にいろんな意見がございまして、そういう意見がいろんな形で表明される機会が多いということは、これは御指摘のとおりでございます。しかしながら、私どもとしては、我が国の従来からとっている政策について基本的にアメリカ当局者との間の認識の違いがあるとは思っておりませんし、今後とも、いずれにいたしましても自主的な判断に立って防衛力整備を進めていこうというふうに考えておるわけでございます。
  37. 堀江正夫君(堀江正夫)

    堀江正夫君 次は、北海道の北部侵攻の問題につきましてお伺いをしたいと思いますが、去年のジェーン海軍年鑑によりますと、北海道北部侵攻の可能性というものを指摘しておるわけでございます。これに関連しまして、けさの午前の御説明の中でも、大綱の目標とするところは小規模限定侵攻に対処する防衛力整備である、こういうことでございました。どうも大綱で考えておったときの小規模侵攻の能力というものと、現在極東ソ連が保有しておるところの侵攻能力というものには大変大きな差が出ておるように私には思われるわけです。その辺はいかがでございますか。
  38. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 今御指摘の問題は特定の国名を挙げての御質問でございまして、若干私どもとしては難しい御質問でございます。我が国としてはいずれにしても仮想敵国を持たないということでやっておりますので、特定の国名を挙げての仮定の問題についてはちょっとお答えを差し控えさせていただきたいと思っております。  ただ、基本的な一般論として申し上げますと、私ども防衛計画の大綱で、限定小規模侵略に対しては原則として独力で対処し得るだけの防衛力を持ちたいというふうに申し上げておるわけでございますが、その限定的かつ小規模のものというのはどのようなものかと申しますと、事前に侵略の意図が察知されないように大がかりな準備をしないで侵攻してくるようなものであって、かつ短期間のうちに既成事実をつくってしまうことをねらっておるというふうな考え方をとっておるわけでございます。言うなれば安保条約、安保体制の間隙をねらって出てくるようなケースが基本になろうかと思います。したがって、そういう意味ではかなり規模の限られたものではないだろうかということでございまして、そういったものに対しては原則として独力で対処し得るものを目標とするということで、現在の防衛計画の大綱の別表で定めておりますような陸海空の防衛力というものを想定したわけでございます。
  39. 堀江正夫君(堀江正夫)

    堀江正夫君 基本的な大綱の考え方、今おっしゃったとおりだと思います。ところが現実的には、例えば従来の極東の海軍歩兵にしても一個旅団が一個師団になった。この一個師団というのは、自衛隊の甲師団の戦力に比較してみても三個師団以上に相当するものだ。さらに、あの当時考えてもおらなかったような千島に対する一個師団の配備も行われた。さらにその上に空中攻撃旅団の配置の問題とか、けさの新聞でもイワンロゴフにかわってアレキサンダー・ニコラエフがさらにやってきた。こういう状況を考えました場合に、さらにその上にげさ岡崎部長からも御説明ありましたように、アメリカは従来のような東北アジアに対するところのコミットメント、これがもっと広範囲に考えざるを得ないような事態になっておる。こういうことを考えました場合に、私はこの道北侵攻という問題についてもっともっと真剣に今後取り組んでいく必要があるだろう、こう思われてならないわけです。重ねて今の私の考え方に対してお考えを承りたいと思います。
  40. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 防衛力整備を考えていく場合に、やはり周辺諸国の軍事動向というものを念頭に置いていかなければいけないということは、これは当然のことでございまして、私どももそういった意味での注意は従来から払っているつもりでございます。それからまた、アメリカの役割というものが基本的にはグローバルな安全保障ということを中心にして動いているという関係もございまして、アメリカは同盟諸国に対してはみずからの防衛力を強化することを強く期待しておるということも事実でございます。そういったものを念頭に置きながら、日本はあくまでも自主的な判断に基づきまして必要最小限度の防衛力整備していくということが基本でございます。  その際に、北海道の問題を御指摘になりましたが、北海道の場合は地理的に外国に近いとか、あるいは本土とは海峡によって切り離されておりますとか、いろんな特殊な条件がございますので、そういったもろもろの条件を考慮して北海道の地域についての防衛力というものを特に重要な問題として取り上げなければならないだろうということは御指摘のとおりでございまして、従来からもそういった考え方に沿って陸上自衛隊あるいは航空自衛隊等の防衛力整備を図ってきたということでございます。今後ともそういう考え方で進めていきたいと思っております。
  41. 堀江正夫君(堀江正夫)

    堀江正夫君 あと一分ございますから、もう一問だけで終わります。  五十九年度の予算でも、正面と同時に後方を重視するということで非常に苦心をされたことはよく承知しておるわけでございます。苦心された結果が、辛うじて教育訓練関係につきまして前年並みを確保することができた、一般的に言いましてね、こういうことだったと思います。しかし、考えてみますと、それで教育訓練はいいのかということになりますと、日本の自衛隊の置かれた環境を考えますと訓練環境が極めて悪い。その上に、例えば訓練のために必要な弾にしてもあるいは燃料にしても、各国から比べれば非常に少ないのじゃないか。だから、本当に教育訓練を重視するということは、もっとそういう面をより一層努力して改善しなきゃならぬじゃないかと私には思われてならないわけです。これは陸海空を通じての問題でありますが、これについて今後どのように考えていかれるのか承って、私の質問を終わります。
  42. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) ただいま御指摘の点は、確かにそういった問題があるという認識を私どもも持っております。したがって、包括的な表現で申し上げますと、正面だけを整備すれば事足りるということではなくて、後方関係施策についてもバランスをとってこれを重視していくという姿勢でないと、本当の意味での防衛力というものは築いていけないというふうに私どもも考えております。したがいまして、今後の防衛力整備を進めていくに当たりましては、正面と後方のバランスを特に配意して施策を進めていかなきゃならない、練度の点でもいろいろな点でも工夫を加えて強化を図っていきたい、こう考えております。
  43. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 まず、岡崎さんに伺いますが、あなたの基本的な考え方予算委員会でも申しましたけれども、バリティによる戦争の抑止にあると思われます。そこで、この均衡抑止論については、私はまず第一に均衡が抑止につながるということが果たして言えるのかということ、第二には、仮に均衡抑止という考え方が成り立つにしても、均衡という概念がなかなか難しいわけですね。均衡というのは軍事力だけではない、経済力や戦う士気をつくり出す政治的統合力、いわゆる地政学的な位置等々、さまざまなファクターを総合的に勘案した上で均衡概念が成り立つ。何をもって均衡となし得るかはその意味でも非常に難しいわけですが、ミリタリーバランスという点に限定して考えてみましても、そう簡単ではないように思われるわけです。  そこで、非常に幼稚なまず第一問なんですが、戦争論の古典中の古典であるクラウゼヴィッツの「戦争論」というのを読み返してみた。そうすると、「均衡という概念が、軍事的行動に停止状態の生じる理由を説明し得ないこと、また彼我双方の間の均衡状態はけっきょくその一方がいっそう有利な時機を待ち受けるという結果を招くにすぎない」と彼はしているわけですね。このクラウゼヴィッツ・テーゼにまずコメントを求めたいですね。
  44. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 私、クラウゼヴィッツの原典を、現実にドイツ語がよくわからないのでございますけれども、恐らくグライヒ、何でございますか、同等という趣旨だと思います。と申しますのは、最近でもゲンシャーが均衡という言葉を使う場合は、それと同じ言葉を使っております。恐らくクラウゼヴィッツが言っておりますのは同等という概念であろうと思います。  兵力が同等であるという限りにおきましては、クラウゼヴィッツの言っていることはそのとおり正しいことだと思うわけでございまして、実は日本語で同等は現在パリティーでございますけれども、パリティーという言葉とバランスという言葉と、それからイクイリビリアムという言葉と、みんなこれは全部均衡というふうに訳するものですから非常に概念の混乱が生じておりまして、前に先生おっしゃるとおり、我々の使っております均衡というのは軍事力だけではない、政治社会経済あるいは道徳でございますね、それからあるいは一つの国の社会体制、つまりその国がいかに強くても戦争をする意思もないし、何もしない社会体制である、そういう国なら幾ら強くてもいいわけでございますから、それも全部含めてどういうものが均衡がという説明は難しいのでございますけれども、結果として生まれた状態から申しまして、安定した平和が保たれている状態、それが均衡ではないかというふうに考えております。恐らくクラウゼヴィッツの言っておりますのは同等という趣旨だろうと思います。
  45. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 私このクラウゼヴィッツ・テーゼは、軍事力均衡と戦争の未然防止あるいは戦争の発生とは相関性が弱いということであると一面解釈をする。すると、私はそれを類推して、核時代にあってもこのテーゼというのは基本的に通用すると考えるわけですね。軍事力均衡していなくとも戦争は発生しますし、均衡していても発生する。というのは、戦争が発生する要因というのは軍事力均衡と別のところにあるから。均衡は一時的な歯どめになり得ても戦争防止の基本的要因とはならない。そこで、この均衡が抑止機能を持つとしても、それは全く一時的に過ぎないのではないかというように考えているのですが、この辺はどうでしょう。
  46. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 先生御指摘のとおり、すべての要素が重なって均衡ができているわけでございまして、こういうような社会科学的な問題でございますから極端な例を申しますと、軍事力が圧倒的に強い場合ですね、例えば紀元二、三世紀におけるローマであるとか、それから戦争直後におけるアメリカであるとか、この場合は軍事力だけをもってしてもこれは戦争というのは起こり得ないわけです。それを持っている国が戦争する意思がない限りは起こり得ないわけです。しかし、そういう時代自体は例外でございまして、それ以外の場合はいろいろな力が複合して起こるわけでございますが、特に軍事力が同等に近くなってくるような場合におきましては、軍事力以外の目的で起こる戦争、つまり各国の内政事情であるとか、それから社会の不安定であるとか、そういうことから発生する。あるいは民族主義の発想であるとか、そういうものが戦争の主たる理由になっているようでございます。
  47. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 今も述べられました均衡抑止論、ある国の軍事力が他の敵対国の軍事力に比べて数段劣っている、それで劣性の国家は優位に立つ国家に対して戦争を起こさないという命題を持っていると思われますがね。ところが、実際の近代、現代史においてそういうような状態があっても戦争は発生しているわけですね。私は、太平洋戦争がそのいい例だと実は考えているんです。井上成美海軍大将のような合理主義者でなくても、日本の戦闘力の格差は歴然としていることはわかっていたわけですね。したがって山本五十六さんなどというのは短期決戦戦術をとったのだろうと思うんです。軍事力経済力の格差を短期決戦戦術でカバーしようとあのとき考えた。それはともかくとして、劣位の国家が優位の国家に戦争をしかけるということは、これはあり得るわけでしょう。この点はそれでいいわけですね。
  48. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) それはもう仰せのとおりでございます。一つの国というものは、これだけはどうしても譲れないという国益と申しますか、あるいは国内事情から申しまして、こうなりゃもうしょうがないというような事態があり得るわけでございます。今おっしゃった例から申しましても、太平洋戦争前のハル・ノートというものがございまして、これは解釈の仕方でございますけれども、あれを満州も含めて全部大陸から撤退する、そういうふうに読めるわけです。その場合に、日本政治情勢社会情勢として、いかなる指導者でもそれを実行できるということは今から考えればちょっと不可能だったのじゃないかと思います。と申しますことは、つまり、やはり完全に軍事力だけでなしに、国内の政治あるいは歴史、伝統、そういうものから考えまして、その社会構成、政治構成からいって、ここから先はどうしても引けないというものが生ずる可能性がある、それは先生仰せのとおりでございます。
  49. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 私は一貫して均衡と戦争防止との相関関係が弱い、そういうふうに考えているわけですが、それは、先ほどもある意味では見事に答弁されているのですが、均衡概念のあいまいさに起因すると考えるんです。さっき具体例でイラ・イラ戦争の話があったんですが、このイラン・イラク戦争のミリタリーバランスは一体どうなのかということをあれしてみると、これはミリタリーバランスによっての話ですが、陸空軍においてはイラクの方が数段まさっているわけでしょう。そして、海軍力というのはこれはイランの方が上ですね。で、この戦争では海軍の出番というのは今のところ余りないような気がいたしますね。ところが、実際の戦争のプロセスを考えてみますと、まさにイライラでありまして、優劣っけがたい経過をたどっている。つまり、これは単純なミリタリーバランスでは実際の戦力比較というのはできない、そういうことを意味しているのじゃないかと思うんですがね。これは外務省防衛庁、両方からちょっと見解を承りたい。
  50. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) それは仰せのとおりでございまして、まず戦力以外の士気、これが非常に重要な役割を果たしておりまして、イランの方が士気がどうも高いようでございます。それから地理的条件、これはイラクの方が幾ら攻めても、イランの内部まではとても入れないというような地理的制約もございます。それから経済的要因でございますね、経済的要因は、これはむしろイランの海軍力がかなり影響してくるわけでございますけれども、イランの方は石油を自由に輸出できるわけでございますから、石油収入によって戦争の物資を購入することができる。イラクの方は石油の輸出が非常に不自由でございまして、収入の道が途絶えている。それで戦争が難しくなっているということがございます。  他方、今度はさらに政治的、宗教的要因がございまして、シーア派というものの拡大に対してイラク及び湾岸諸国、これは非常な危機感を持っておりまして、これはまた一致してイラクを支持している。イラクを支持していると申しますより、イラクが負けては困るという態度をとっておりまして、これはまた資金面におきましても、また武器の供与においても役に立つということでございまして、開戦当初は両方のミリタリーバランスの結果以外の、むしろその結果はもう極めて限られている部分でございまして、それ以外で申し上げました政治経済社会、心理、宗教その他の要素が非常に大きくかかわっておりまして、それで今のような状況が現出しております。
  51. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 防衛庁といたしましてイラン・イラクの状況をそれほど詳細に承知しているわけではございませんが、ただいま外務省岡崎部長が申されたようなことに防衛庁として特につけ加えるような意見はございません。
  52. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 私は、現在行われている軍事力比較というのは、非常に蛇足的なことを申し上げた感じがするんですが、極端に言ってしまえば観念の遊戯だという気がしているんですよ。ただ単に兵器、兵力の数合わせからは戦力比較というのはできない。仮に戦力比較を行うというのであったならば、第一に経済力でしょう。それから第二には国際関係があるし、それから第三には予想され得る戦争の形態とでもいいますかね、そして最後に兵器、兵力比較という方法的順序が設定されるべきではなかろうかと、そういうふうに考えているんですが、これはどうでしょうね。少なくとも兵器、兵力比較を独立して取り出して戦力比較を行うべきでないというふうに考えることは一致できましょうか。
  53. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) それは我々としても別に異議はございません。ただ、シナリオが恐らくまず先であろうと思います。シナリオを非常に限定すれば、これは兵器、兵力だけで比較ということは十分あり得るわけでございまして、短期戦であるとか、それから長期戦であっても緒戦であるとか、その場合は現有のハードである兵力量、それが非常に意味があるということも申せますし、少し長くなるとか、あるいは戦争のシナリオというのは千変万化でございますから、少しでも最も単純化された型を複雑に展開いたしますと、もう先生おっしゃるとおりでございます。
  54. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 これは防衛局長いかがですかね。
  55. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) ただいま岡崎部長が言われたようなことではないかと思います。単純なシナリオを特定してくれば、兵器、兵力の比較というのがかなり大きな判断のウエートを占めるということでございましょうし、そうでなくて、いろいろなシナリオを考えながら判断する場合には、そういった兵器、兵力の要素だけではなくて、その他いろいろな要素を総合的に判断していくという視点はやはり一番重要なポイントではないかと思います。
  56. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 以上、大体大前提的なところでかなりの部分で一致するわけですが、そこで、核抑止力の問題に入りたいのですけれども、まず米ソの核戦力の比較についてですが、防衛白書は単なる兵器比較においても失礼ながら方法的に私は間違った比較をしているように思われてなりません。白書は主として運搬手段の比較で米ソ戦力比較をしているわけですね。これは方法的には私は大きな問題を持っていると思っているんです。少なくとも弾頭数比較を行うべきでしょう。さらにSIPRIなどで用いられる破壊指数ですね、弾頭の爆発力の三分の二乗に比例して、命中の誤差、つまり半数の必中界の二乗に反比例するというのですか、数式ですね、それを用いた比較を私は行わなければならぬのじゃないかと思っているのですけれども、防衛庁、この辺はどうなんですかね。今度の防衛白書ではそうしたいわば質的比較を行ってしかるべきだと思っているんですが、行う用意があるだろうか、あるいは今後検討されて、行った結果を出されるだろうか、いかがでしょう。
  57. 政府委員(古川清君)(古川清)

    政府委員(古川清君) 核戦力の強さの比較ということを行います場合には、運搬手段だけでは確かに比較ができないのはお説のとおりでございます。防衛白書の、恐らく先生は資料の二百七十八ページをおっしゃっておられるのじゃないかという感じがいたしますが、これはソ連、英国、フランス、中国まで入れまして、ICBMからSLBM、戦略爆に至るまでの戦力の比較を行っておりますけれども、これは数の上での比較だけでございまして、いわば戦力の破壊力といいますか、核戦力の比較ということではないわけでございます。したがいまして、核戦力全体の強さということを比較検討する際には、弾頭の威力であるとかその他もろもろの要素というものを包含して考えなければいかぬというのは、確かに先生のおっしゃるとおりだろうと私どもも考えております。
  58. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 それで今度の防衛白書の中には、私が述べたような形での比較をやられるといいますか、そういう結果、質的比較についても書いていかれるというか、出していかれるか、そういうお考えと受けとめておいてよろしいですか。
  59. 政府委員(古川清君)(古川清)

    政府委員(古川清君) 実は別の箇所におきまして、命中精度であるとか、それからMIRVを持っているとが持っていないとか、五ページ以下の場所におきましては若干そういった点の検討を行っておるつもりでございまして、今後もこの点はより正確な分析等を続けていきたい、そういうふうに考えております。
  60. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 岡崎さんにちょっと戻って伺いますが、私の見ているところ、予算委員会で中曽根総理がお答えになったのをずっと記憶をたどってみますと、どうも核抑止の考え方については、アメリカの核の傘に入っていれば安全なのだ、そういう何といいますか、単純素朴な抑止力理論であるという印象が非常に強いわけですが、まあ防衛力問題といいますか、防衛問題ではかなり肩を張ったところが総理にはおありになりますからそういう部分だけが印象に残るのかもしれませんが、あなたはこの著書の中で、「核戦争の可能性がゼロだなどと断言する自信はとうていありません。」と述べられている。私は全くこの点は同感なわけです。アメリカの核戦略をさかのぼってみましても、七四年の国防白書で、抑止力が作用しなかった場合に言及していますね。そして七五年に、シュレジンジャー長官は先行使用の可能性すら認めた。さらにニューヨーク・タイムズやUPIのスクープですが、あのスクープによれば、アメリカの八四-八八会計年度の国防指針は、戦域核兵器を最初に使用する限定核戦争の可能性というのを述べているわけですね。こういうようなアメリカ核戦略の傾向から考えてみますと、全面核戦争の可能性がゼロだと断言する自信も生まれなければ、ましてこの限定核戦争となりますとかなりの可能性を持つと考えるのですが、これはどうですか。
  61. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) お答え申し上げます。  実はお答えする前に一言だけ短く申し上げたいのでございますけれども、先ほど先生の御質問、大変理論的なのでついそのままお答え申し上げたのでございますけれども、ハードウェアは軍事力そのものだけではないのは確かでございますけれども、やはりハードウェア、持っております武器同士のバランスというものが軍事バランスの基本でございまして、それにつけ加えて種々いろいろな要素が入るということが一つと、それから戦争の場合はいわゆるワーストケースシナリオ、最悪の場合というものを想定しなければいけない場合がございまして、最悪の場合というのは短期戦でございまして、その場合経済力等を動員する暇もないうちに戦争が終わってしまう、そういうのが最悪のシナリオでございまして、その場合を考えますとやはりハードウエアの重要性というものは軽視できない。その点だけ留保した上で、先ほど先生のおっしゃったとおりでございます。  それで、核戦争の可能性でございますけれども、これはもうどんな場合でも絶対ということはございませんで、物の考え方の趨勢をただ申し上げるにすぎないのでございますけれども、これは時々刻々と核戦略というのは変わっておりまして、特に最近の二、三年間の極めて顕著な戦略論の変化と申しますのは、これはNATOの毎年のコミュニケの背後に読み取れるのでございますけれども、何とかして核戦争はしたくない、通常兵力でもってソ連通常兵力から守りたい、そういう思想が二、三年前から非常に強く出てきております。ソ連通常兵力の攻撃があった場合になるべく早く核を使うということは少なくともやめたい、それはもうほとんどコンセンサスになっているようです。ですから、絶対ということはございませんけれども、核戦争の可能性というのはむしろ減っているのではないかという感じがいたします。実は今度出ました例の「ソ連軍事力」というのはソ連の戦略論に言及しているところがございまして、ソ連の戦略論というのは。これは一般的にアメリカの戦略論の後追いになるわけでございます。アメリカの戦略論が出ますと大体それに似た戦略論が二、三年して出てくるというふうになっておりまして、それもちゃんと歴史的に説明してございまして、最近は非核大戦争の可能性があるというふうに考えているようだ、そう述べております。
  62. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 防衛庁に伺いますが、核抑止力理論の系譜をたどってみますと、かなり早い時期から、限定といいますか局地核戦争論の流れが確認されると思うのです。例えばH・A・キッシンジャーの「核兵器と外交政策」、一九五七年に刊行されていますね。キッシンジャーらの限定抑止ないし段階的抑止、どういうふうに違うかは別としまして、今やこの核抑止力理論の主流を占めるようになっているというふうに私は思うのですが、これはいいですか。
  63. 政府委員(古川清君)(古川清)

    政府委員(古川清君) 確かに、この核抑止理論というものの歴史を眺めてみますると、ソ連がまだ核を持っていなかった、核戦力が強くなかった時代においては、大量報復といいますか、それだけで通っていたわけでございますが、先生おっしゃいますとおり、五七年ぐらいから、例えばキッシンジャーとかあるいはオズグッドとか、いろいろな戦略論者がおりますけれども、核を段階的といいますか、グローバルな世界的な規模の核戦争には持ち込みたくないという、そういう一つの希望といいますか、基本概念というのが基礎になっておる。そういう点から、段階的にいこう、できるだけ敷居を高くしてグローバルな核の対決までは持ち込ませないようにしようという、そういう基礎の上での理論構成というものが出てきたのではないか。それが主流かどうかということになりますとまた別の考えもあり得るかもしれませんけれども、現在におきましても例えば柔軟対応であるとか、向こうの出方に応じてそろそろと上げていこう、一気に大きなグローバルなところまではいかないようにしようという、この理論が今でもそういう点では主流と言ってもよろしかろうと私ども考えております。
  64. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 昨年来、ヨーロッパ及び日本を含む極東地域、地帯といいますか、に配備されつつある中距離核ミサイルあるいは巡航ミサイル、これは七四年のシュレジンジャー国防報告でいうところの、十分な精度と爆発力の組み合わせにより所期の目標のみを破壊し、広範囲な付随的損害を回避するため有効目標だけを攻撃する、その兵器ですね、その兵器にほかならないと私は思いますが、これはどうですか。
  65. 政府委員(古川清君)(古川清)

    政府委員(古川清君) これは恐らく先生、カウンターフォースのことをおっしゃっておられると思いますけれども、このカウンターフォーカスかカウンターシティーかという問題、つまり都市を先にやるか、軍事目標を優先するかという問題は、核戦略の当初からある言ってみれば永遠の問題でございます。ある段階においては、このカウンターシティー、つまり人口の多いところをまずねらってやれば相手の国力というものが疲弊するから、それで戦争は片づけられるという理論が主流を占めたこともございますし、それでは大変なことになるので軍事目標だけに限定した方がいいという理論も成り立ってきたわけでありますが、特に現在においては命中精度というものが非常によくなってきた。したがいまして、昔であれば命中精度が非常に悪かったがために都市をねらうしか方法がなかったという時代もあったわけですけれども、現状では米ソともに核ミサイルの命中精度というものは大変によくなってきておりますので、カウンターフォース的な考え方が非常に強くなってきている、そういうことは説明できるのではないかという感じがいたします。
  66. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 角度をちょっと変えますけれども、朝鮮戦争の際にマッカーサーは原爆の使用を考えたことはありますね。
  67. 政府委員(古川清君)(古川清)

    政府委員(古川清君) 確たることは私存じませんけれども、いろんな物の本には、そういう進言を行ってトルーマンがこれを拒絶したというふうなことを読んだ記憶がございます。
  68. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 要するにアメリカの核戦略論には、限定抑止、すなわち限定核戦争に踏み切って、それによって全面核戦争への進展を抑止する、そういう考え方が綿々として流れているわけでしょう。ハーマン・カーンが四十四段階に分かれるエスカレーション・ラダーを考案したわけですね、それもやっぱりそういうような限定核戦争への踏み込みなんだろうと私は考えるんですがね。  これは岡崎さんに伺いたいのですが、限定抑止ないし、それは段階的抑止でもいいと思うのですが、という考え方は米核戦略においては枢要な地位を占めつつあると私は考えていますが、そういうふうに考えられるだろうか。ということは、「アメリカの戦略論の意味とその背景について、しっかりした批評眼をもつことが、今後の日本の戦略的思考の中でも重要となってくるのです」とあるわけでしょう。そういう岡崎さんの「戦略的思考とは何か」、その「しっかりした批評眼」から見るとどうなるんでしょうか。
  69. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 限定抑止理論がアメリカの核戦略の主流であるというのは必ずしも正確な表現でないと存じます。正確な表現で申し上げますと、例の大量報復戦略が終わりましてから、ケネディ・マクナマラ時代、六〇年代、七〇年代を通じまして、いわゆる柔軟反応戦略というものがございました。柔軟反応戦略というのは、要するにだんだんとエスカレーションしていくという、いろんな形でエスカレーションできる、これは先生おっしゃるとおりあるところでとめれば限定核戦争になるわけでございますけれども、必ずしもそういうことではございませんで、理論的には一番最後の段階までいくという可能性を置いて一番初めから侵略を抑止する、そういう趣旨のある柔軟反応戦略です。実はこれ自身が今欧米では非常な問題になっておりまして、これはどうも見直さなければいけないのじゃないかという議論は少なくとも評論の間では多数を占めておるようでございますけれども、実際はそれを変えるだけの実力がまだ米国あるいはNATOにないものでございますから、柔軟反応戦略が現在なおかつアメリカの何といいますか、主流である、あるいは政府の持っている基本方針である、そういう御判断はそれで間違いないと思います。  ただ、その結果それが限定核戦争が主流であるということではございませんで、むしろ限定核戦争ということを申しますと、これは特にヨーロッパにおいて非常な反発がございます。ヨーロッパだけを戦場にして核戦争になるということでございまして、いやそういうことはないんだ、限定的に核戦争と申しましても柔軟反応戦略でございますから、やがてエスカレートして最後には米ソの核戦争にまでなってしまう、なってしまうがゆえに限定核戦争そのものも抑止されているというのが現在の主流の考え方でございます。
  70. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 同じ問題を違った角度からちょっと考えて質問しますが、私は核兵器の精密化、小型化、そういうものによってアメリカの限定核戦争戦略は現実性をかなり高めてきているんだなと思っているのですが、かつてのような何メガトンというようなそういう大きなミサイル、しかも命中精度が悪くてどこへ飛んでいくかわからないようなミサイルの時代と比べてみて、MIRVにしてもあるいはMaRVにしても、あるいは巡航ミサイルの時代、一般論として核戦争に踏み切りやすい戦術的背景を持っているのではないかと考えるものですから、一般論としては防衛庁どうでしょうね。外務省でもどちらでもいいのですが。
  71. 政府委員(古川清君)(古川清)

    政府委員(古川清君) 確かに命中精度が非常によくなって、物によっては誤差が数十メートルなどということも言われておるミサイルも出てきておるわけでございますけれども、この抑止の理論から申し上げますと、やはりあらゆる局面における抑止の穴埋めをしておく、穴があかないようにしておく、お互いに。それが結局は核戦争というものを防止する。その理論上からすれば、お互いに同じぐらいの精度の弾頭が一つであろうが複数であろうが、同じ物を持っているということはやはり抑止的な作用を私はするのだろうと考えております。
  72. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 私は、このアメリカの核抑止戦略というのは限定核戦争、そういうシナリオを織り込んだものだろうと考えるのですが、中曽根総理が想定するように私が冒頭申し上げた牧歌的な抑止力理論ではないと考えられるのですよ。日本政府としてはこういう点どうでしょうね。限定抑止ないし段階的抑止の考え方はとらない、日本政府としては。それはいいですかな。
  73. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 日本政府としてはと申しますよりも、日本軍事的環境というものがヨーロッパの軍事環境と基本的に違うところがございまして、ヨーロッパの場合は、これはもう戦後三十年一貫したことでございますけれども、ソ連通常兵力が侵攻してきた場合、西側通常兵力をもっては防ぎ切れない。ある段階で核で抑止せざるを得ないということになるわけでございます。その結果、西側が核を使えばソ連も核を使うということでエスカレーションの理論が発展しまして、そこで精緻な柔軟反応戦略というものができたわけでございます。ところが、日本周辺におきましては、私はかつて日本に対する通常兵力侵攻を核をもって守るという戦略があったという話は聞いておりませんのです。日本に対する核の傘というものはソ連の核兵器に対する核の傘であるという話までは聞いたことございますけれども、通常兵力の侵攻に対してアメリカの戦術核あるいはそういうものをもって日本を守る、そういう戦略は聞いたことございませんし、また現に存在しないのだろうと思います。そういたしますと、ヨーロッパのようにエスカレーションの段階の一部分としての限定的核使用ということの理論を発展させるような軍事的環境が存在しないわけでございます。戦争というのはありとあらゆる事態がございますし、それからまたこれからどういうふうに戦術が発展するか存じませんけれども、現在までのところ日本防衛に関しまして限定核戦争というシナリオは聞いたこともございませんし、またそれを裏づける現実的な環境もないように考えております。
  74. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 私はそこまで言ってなぜこういう論議をしてきたかと言いますと、アメリカ戦力への日本の従属があったとすると、我が国は取り返しのつかない惨事を引き起こしかねないと危惧しているからです。すなわち、日本政府としては、アメリカ政府が何を考えているのか、あるいは今お考えはわかりましたが、有事の際に何をしようとするのかはっきりつかんでいなければ大変危険であるということを危惧したから論議をしてきたわけですがね。アメリカがこの限定核戦争に踏み切らないという保証は、今言われただけではどうもそのとおり納得ができないのです。  例えば、核弾頭トマホークを積んだニュージャージーが仮に日本に寄港する。それに対してグロムイコ・ソ連外務大臣が言ったように、ソ連の核兵器の標的にそれはなる。カウンターフォース戦略からすれば、ニュージャージー、日本周辺を供回している米原潜、空母などすべてがソ連の核ミサイルの標的になる、こういうふうに認識としてはとられているわけですね。この辺はこれはお二人どちらか。
  75. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) これは申すまでもございませんけれども、日本は非核三原則を持っておりまして、それで日本の領土、領海に核兵器があるということは、核の持ち込みということは存在しないわけでございますから、日本の領土、領海がそういう意味において核の攻撃対象になるということは考えられないわけでございます。ただ、そういう問題は別にいたしまして、アメリカの核戦力に対してソ連が核攻撃をするということは、これは既に核が敷居を越えたという事態でございます。アメリカの核兵力が例えばヨーロッパのどこにあるから、あるがゆえに必ずそこにソ連が核を撃ってくる、そういう性質のものではございません。むしろ核戦力があるということによって核攻撃を抑止しているというのが核戦略の基本でございます。したがって、西独がパーシングⅡを受諾しましたのは、これはむしろ核戦略の危険を避けるため、核戦略の可能性を減少させるために配備したものでございまして、あくまでも抑止が目的でございます。
  76. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 まあ大体そういう答弁だろうと思っていたんですが、しかし私は、非核三原則があるからソ連のカウンターフォース戦略の対象にならないという理屈は通らないと思っているんですよ。これは通らない。相手がないということを確認するような説得手段をとらなかったならば、それはそうなるはずがないのじゃないでしょうか。  グロムイコは沖縄には核がある、こう言っているわけです。それから私たちもそういう疑惑を抱いているわけです。ミッドウェーにせよカールビンソンにせよ、核兵器を積んでいると見るのが私は常識なんだと思っているんですよ。そういうような米戦略部隊が核を持っていないとするならば、逆にこの核抑止論は破綻することになりませんか。戦略部隊が核を持っているから核抑止力が成り立つという理屈なんでしょう。したがって、日本に寄港する米戦略部隊は核兵器を持っていると考えるのが、私は正常な思考から出てくる結論だろうと思っているんですよ。そこのところが、あるのかないのかということと非核三原則との絡み、じゃ逆に、説得手段を明確にしてください、立証してください、そういうふうになるんですが、どうでしょう。
  77. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 政府の見解は累次御説明しているとおりでございますけれども、これはここで繰り返して申し上げませんけれども、私、最近も米国に行っておりまして、その関係の戦略の議論をしてまいりましたけれども、日本の場合は、先ほども申し上げましたけれども、エスカレーションの一つの過程としての核というものはヨーロッパに比べてほとんど心配するに足りない。あるとすれば、これは核が敷居を越した後の、あるいは全面核戦争の敷居を越させないための核抑止力であるということでございます。  そうなりますと、極東にSS20の基地が幾つあるか、三十でございますか、四十でございますか、そのくらいあると存じておりますけれども、これがアメリカの持っております戦略核弾頭九千発でございますか、九千発の中のある部分がそれに対して抑止力として働いてないということはないのでございまして、結局アメリカの核の傘のもとにある。もともとアメリカの水上艦艇にクルーズミサイルなどを積むということ自体、これは核を抑止するためのものでありまして、核の攻撃の目的になるということよりも、むしろ抑止が目的でございますけれども、そういう問題と別にしましても、日本の場合はソ連の全面的な核使用に対してアメリカの核の傘の下に頼るということでもって、むしろ日本として最も重要なことは、通常戦力増強いたしまして、それでヨーロッパのように核を使わなければ守れないというような劣位の通常戦力バランス日本周辺につくらない、これが核を抑止する最高の手段だと存じております。
  78. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 防衛庁関係者というのは、どうですか、日本寄港の米艦船について核兵器の有無を全くつかんでいないのでしょうか。それとも、知ってはいるが公表ができないということなんでしょうかね。これは予算委員会じゃないので、少し正直に答えてくれませんか。
  79. 政府委員(古川清君)(古川清)

    政府委員(古川清君) 私どもは、日本に寄港するアメリカの船はそもそも核を持っていないと信じておるわけでございます。  それから、先ほどの御質問に若干追加をさせていただきたいのでございますけれども、トマホークというものが大変性能のいい、大変な一つの兵器的にはヒットであるために喧伝されておりますけれども、実はトマホークに類似した巡航ミサイルというのはソ連も開発しており、また開発を進めつつあるのもあるわけでございまして、例えばSSN12あるいはSSN19というものは、ちょうどそのトマホークの射程からいいましても四百キロぐらいの対艦のレンジを持つミサイルを持っておりますし、それからSSN21というものが、新しいソ連軍事力にも若干絵など出ておりますけれども、トマホークに恐らく匹敵するであろう命中精度及び核弾頭を持ち、いずれも核弾頭を持ち得るわけですけれども、こういうものを開発しておるわけで、その点トマホークというのは新しいのじゃなくてソ連も似たようなものは持っているということも、対外的には向こうが発表いたしませんので、そういう点もやはり考慮すべきではないかということを考えております。
  80. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 かなり今重要な御答弁をなさって、それを裏から考えてみるという意味のことを、よく時間をかけて裏から今の御発言を考えてみます。  岡崎さん、この著書を私は質問通告をしましたから何遍か読んだのです。昨年の内閣委員会以来ずっと保留になってきまして、予算委員会でも十分できなくて、きょう初めて少しは突っ込んだ話になっているんですが、立場は違いますが、共感するところが非常に多いことだけは正直に申し上げておいて、例えば最近話題になっております三海峡封鎖についてですが、あなたはこうおっしゃっていますね。「日本本土の基地、港湾、さらには三海峡の戦略的価値を利用することが不可欠だというのがアメリカの戦略で、それをそうさせまいというのがソ連の戦略でしょう。」これは二百二ページです。さらに「巷間のフィクションには、日本だけに対する軍事的脅迫のシナリオがありますが、」「安保条約があるかぎり、日本だけに対する攻撃はまずありそうもありません。」二百五ページでこう言われていますね。つまりあなたの安保条約を前提としたシナリオによれば、ヨーロッパあるいは中東といった第一戦線での米ソ衝突が想定をされる。その第二戦線として極東及び日本での戦闘が想定されているわけですね。ソ連日本だけに軍事的脅迫を行うというシナリオはフィクションと、これは明快に退けられておられるわけですね。これは私も賛成です。  そこで問題の三海峡封鎖ですが、あなたの論理からすれば、当然、極東における第二戦線としてソ連艦隊の太平洋インド洋進出を阻止するために行われる米日共同作戦として位置づけられるというふうに私は類推をしていくが、そこのところが問題なんでしょうと思われますが、私見で結構ですが、いかがでしょうか。
  81. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 私がここに書きましたのは、いわゆる戦争巻き込まれ論に対しまして、日本は安保条約があるとか日本がどういう政策をとるとか、そういうことに関係なしにこれはどうしても戦争に巻き込まれる戦略的地位にある、そういうことを説明したわけでございます。これを書いたときはかなり注意して心配しながら書いたのでございますが、その後ジェーン年鑑が非常にはっきり書いておりまして、これもちゃんと戦時にはと書いております。これはつまり読み方としては、ほかでもう既に戦争が始まっているときに、要するに戦争になったときにソ連が最もやりそうなことがはっきり書いてある。それは北海道の北の方を占領することであろうということであります。これは日本アメリカがどうするということと関係がない。関係がないと申しますか、これは理論的な問題でございます。  ここで例に挙げましたのは、二次大戦のときに、ドイツがデンマークを通る。それは当時はジークフリート線とマジノ線が対立しておりまして、みんな膠着戦を予想した。そのときに、英仏軍が上陸するのはデンマークに上陸してドイツに入るのが一番早い。その場合、デンマークは英仏軍を排除する力は全く持っておりませんので、それで別にイギリスもフランスも当時上陸計画を持っていたわけでもないわけです。もっとも、自由民主主義国というのは自己批判が盛んでございますから、当時イギリスの戦略理論雑誌にデンマークを通るのが早いということが盛んに書かれたものですから、あれを書いたおかげでドイツがとれたというふうに書いてある。そうでございますから、つまり日米共同作戦で海峡を封鎖するとか守るとか、そういうことを我々が一切考えていなくても、理論的に、そうすれば我々が困るのではないかと思えばとるという可能性が出てくる、そういうことを私は説明したわけでございます。
  82. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 防衛費及び中業について、ちょっと時間がなくなりましたが、残された時間、少し予算委員会の継続的な部分もあるんですが、この場でいろいろ結論を出そうと思っているわけじゃありませんが、まず一つは、防衛庁、正面経費と後方経費の区別が予算の各目明細を見てわかりませんね。あるいは予算参考書類をずっと見てみてもわかりません。今年度に新規に調達する武器、車両、弾薬、通信機器、施設等々の正面、後方別の内訳を明らかにすることはできるか。今ここでということでなくても、明らかにすることはできますか、これは。
  83. 政府委員(宍倉宗夫君)(宍倉宗夫)

    政府委員(宍倉宗夫君) 正面経費と後方経費ということで一応御説明申し上げておりますが、今和田委員おっしゃいますように、目でございますとか、それから目細でございますとか、そういったことで正面経費と後方経費を分けておりませんものですから、おっしゃいますように予算書だけからいたしますと、何が正面経費で何が後方経費かわからないという面は確かにあるわけでございます。何をそれでは正面経費と申しているかと申しますと、物件費のうち艦船、航空機、それから地対空誘導弾、弾薬、それから武器、車両のうちのいわゆる甲類と乙類と、こういっておりますものを正面と申しているわけでございます。  そこで、今おっしゃいました正面経費と後方経費で、それぞれそれでは幾ら買うことになっているのかということでございますが、これにつきましては、参議院の予算委員会には「予算要求の大要」という別の資料を提出してございまして、これに今申し上げました甲類、乙類、艦船、航空機、それから地対空誘導弾、弾薬、それぞれにつきましてその購入金額につきまして明らかにいたしておりますので、お手元に行っていると思いますが、その資料をあけていただきますとそれぞれの経費が出ておる、こういうことでございます。
  84. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 私この質問、実は来年度の予算書ないしは予算関係資料でそこのところは明らかにされていくということに理解を、ことしのようなあの方式の限度は超えないわけですか、あの程度ですか。
  85. 政府委員(宍倉宗夫君)(宍倉宗夫)

    政府委員(宍倉宗夫君) ことしの予算の大要では、今私申し上げましたように、正面経費が幾ら予算で買うことになるのか、幾らになるのかということは明らかでございますし、それから明年度につきましても、明年度に、まあ予算が決まりました後になると思いますですが、そのときにはそうした資料をつくりますので、六十年度でございますれば六十年度に幾ら購入するかということは、その資料で明らかになるかと思います。あるいは私思い過ごしかもしれませんが、委員おっしゃっておられますのは、何かもう少しわかる、さらにあれよりも以上に何かわかるような資料というものがあればそれをつけ加える気はないのかと、こういう意味かなとも思いますが、予算を御審議いただきます参考でございますからして、かねてから今五十九年度までにやってまいりましたことで大体のことはおわかりいただけると思いますし、それからその他なお欲しいというようなことがございますれば、そのときにまた私どもに御用命いただければ、作業できるものにつきましては作業はいたしたいと思います。
  86. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 国庫債務負担行為の限度額超過の問題ですがね、これは為替レート変動によるものと説明されているわけですね。ですけれども、E2C購入のみによって生じたものなのか、そうでないのか、これは何によって生じたものでしょうね。購入兵器の名前というのを挙げることができますか。それが一つ。  時間がなくなりましたから少し続けますが、E2C関係の支払いについては、もしできるのならいつ幾ら支払ったのか、ここでできなければ後で結構でございますがね。それからE2Cの米軍の購入価格がわかっているのかどうか。まずそこまでのところ、どうですか。
  87. 政府委員(宍倉宗夫君)(宍倉宗夫)

    政府委員(宍倉宗夫君) 三つお尋ねありましたうち、最初の部分についてはお答えが今できると思いますが、後の二つにつきましては今手持ちに資料ございませんものですから、後刻調べて御報告申し上げたいと存じます。  最初のお話でございますが、国庫債務負担行為の限度額を超過するということがあるのかということでございますが、これは委員がおっしゃっておられますのは実質的な超過という意味でおっしゃっているんだと思いますが、形式的な意味といいますか、まさに予算といいますか、法律の定める意味におきましては国庫債務負担行為を超過するということはあり得ないわけでございますし、現にないわけでございます。ただ実質的な意味と申しますと、為替レートの変動というものがございますので、予算をお認めいただきましたときに比較いたしまして、実際に契約いたしますときまでの間におきまして為替レートが変動いたしまして円安に著しくなったというような場合におきましては、その予定につきまして国会で御承認をいただきました物的な範囲のものが購入できなくなるということがあり得るわけでございます。  しかしながら、例えばE2CならE2Cを例にとってみますと、それ一機予定をいたしておりました分が、円安に著しくなった場合にはその一機分がうんと高くなりますものですから買えなくなる。そこで、それじゃ買わないのかと言うと、そこ のところはいろいろ工夫をいたしまして、本体部分は買う、それで付加的な別な機械装置といいますか、そういったものにつきましてはこれは購入を一時、そこでは買えないわけでございますから、これはやめる。後刻その付加的な部分については追加してまた国会の御審議をいただいて、それで購入をいたすということは間々あることかと思います。それは専ら実体的な面につきましては国会の御審議をいただいており、また形式的な意味におきましては国庫債務負担行為の限度内でございます。ただ、実質的には二つの行為といいますか、当初でございますと一回の国会での御承認の物的な範囲のものが二回の国会の御承認をいただくことになる、こういう意味合いにおきましては先生おっしゃるようなこともあるかと思います。
  88. 和田静夫君(和田静夫)

    和田静夫君 私ももう時間ないからあれですが、財政法十五条一項、二項の関係の脱法的な方法がどうも動いているのではないかということを危惧しましたから、今の答弁をもう少し後でちょっと詰めさせてください。  五九中業ですが、まず第一に、その基本的性格は五六中業で当初見込まれた装備水準を目標とするということなのか、そうでないとすると、五六中業で見積もられなかっなどのような兵器を取得しようとされるのか、あるいはどのような編成なのか、大ざっぱな見通しでよいのですが、明らかにできるのならここでしてください。  それから栗原長官が、予算委員会が終わってから地方に出られた話で、必ずしも予算委員会で答弁されなかったことで、後方にも力を入れるのだということをおっしゃってかなり報道されていますが、これは五六中業では正面に力を入れる余り、後方がおろそかになってしまった、少なくとも後方に行き届かなかった、そういう反省に基づいて長官発言というのは行われたのでしょうか。  それからもう一つは、在日米軍一人当たりの日本の出費と自衛隊員一人当たりの糧食費、後方施設経費を比較した数字というのは、これもここで出なければ後でいいですが、出せるのか出せないのかだけをちょっと返事はいただくとして。  最後に、朝鮮問題で一つだけですが、南北対話が急転回しそうな気配にあるわけですね。これは答えられますかな、関係者いらっしゃいますね。日本政府としてはあくまでも、先ほども与党の質問にございましたが、四者会談に固執するという姿勢を私はとるべきじゃないと考えているんですがね。三者会談と四者会談の間に中間形態があってもいいんだろうというふうに考えていますけれども、そういう点はどうだろう。仮に南北会談が行われるとすると、当然在韓米地上軍の撤退が話し合われることになるというふうに考えていますが、そういうふうに理解してよろしいでしょうかね。
  89. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 五九中業が五六中業との関係でどうであるかという第一点でございますが、五九中業はまだ長官指示も発出する段階になっておりませんので、具体的な作業に着手をしておりませんから、具体的にどういった内容ということをここで申し上げる材料はまだございませんが、御承知のように、五六中業は防衛計画の大綱の達成を基本としてつくろうということでやっていたものでございまして、大綱水準をおおむね達成するということではございますが、そこには一部未達成部分も残っているわけでございます。したがって、その未達成部分をさらにどうするかという問題があることは事実でございます。しかし、いずれにいたしましても、五九中業そのものはこれからだんだん煮詰めていく段階でございますので、ちょっと具体的に申し上げ得る材料はないわけでございます。  それから第二点の、五九中業では後方を重視するということを長官が最近の地方での会見で申された点についてのお尋ねでございますが、この点は既に予算委員会でも何回か栗原防衛庁長官から申し上げているところでございまして、五九中業の中身についてはまだ特に決まっていないけれども、基本的な気持ちとしてはやはり正面と後方のバランスをとっていくということは大事じゃないかなということ、あるいは諸外国軍事技術水準の動向をよく見てやらなければいけないということ、それから第三には、事業の選択に当たっては優先順位をよく選択していかなければいかぬというようなことを考えていきたいということを、何回かお答えを申し上げた経緯がございます。その中の一つでございまして、じゃ、なぜ後方の点を取り上げておられるかという点につきましては、これは五十九年度予算の経験からも、やはり正面と後方のバランスの問題は非常に重要な問題であるということが我々の認識でございまして、今後の防衛力整備のあり方としては、これは当然そういうことを十分配慮しながらやっていく必要があるという一般的な考え方に立っておるわけでございますので、そのことを長官が申されたわけでございます。  それから、第三点の在日米軍一人当たりの経費、ちょっとその点は別の政府委員に答えさせます。
  90. 政府委員(梅岡弘君)(梅岡弘)

    政府委員(梅岡弘君) お答えいたします。  防衛施設庁が在日米軍の関連で支出している経費は確かにございます。今先生のおっしゃった意味がちょっと理解できなかったのですが、在日米軍の数がございます。それを単純に割って出したものでよろしければお出しすることは可能だと思いますが、よろしゅうございますか。
  91. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 朝鮮半島の南北会談の問題でございますけれども、これは政府の政策ポジションの問題でございますので、主管局はアジア局でございますが、私の承知しております限りは、これは当事者の意向を尊重するということでございます。ですから、当事者の意向である限り、必ずしも四者会談に固執するものではないというふうに私は了解しております。  それから北側の提案は、これは従来明らかに言っておりますけれども、駐韓米軍の撤退、これを議題としたいという意向だと理解しております。
  92. 和田教美君(和田教美)

    和田教美君 安全保障の問題を考える場合に必ず問題になるのは、何を何から何によって守るかという問題だと思うのです。それで岡崎さんがレジュメをつくられたのに適用しますと、これは要するに国の安全、国民生活の安定をさまざまな多種多様な脅威から外交防衛経済等の諸施策によって守る、こういうことになると思うのですが、総合安全保障的な考え方からいけば、そういう考え方は私も大体妥当だと思います。  ただ、先ほど岡崎さんの名著が盛んに出ているわけですけれども、私も何回か読ましていただいて大変興味のあるところが多いのですけれども、「デモクラシーで戦えるか」という章がございますね。その中に自由と民主主義という問題で、自由民主主義体制というものを守る、何をというつまり目標の中に入れているような箇所がございます。例えば「自分の国のことは自分で決める自由、これは独立と呼んでも主権と呼んでもよいのでしょうが、これを守るということでしょう。日本でたまたま国民の圧倒的多数の支持を得ている体制は自由民主主義体制ですが、これを守るということは、つまり国民の自由な意思を守るということです。」と、こういう表現がございます。自由民主主義体制を守ると。私もデモクラシーというものが独裁体制に比べるとはるかに守るに値する価値があるというふうに思う一人でございます。しかし、それが果たして一般的に安全保障の最高の守るべき価値であるか、目標であるかどうかということについては、私は異論があるわけです。  私は基本的にまず守るべき価値は、国民の生命財産といいますか、国民の命と暮らし、これを守るということが基本ではないか。国土を守る、あるいは国を守る、あるいはまた国民を守るというふうな表現をする場合も多いのですけれども、国家を守るということと国民の命と暮らしを守るということは、この特に核戦争の時代においては必ずしも一体でない、矛盾するケースが起こり得るというふうに思う。例えば、あるアメリカ防衛インテリなどが最近言っている、先ほども出ておりました限定核戦争論というふうなもので見まして、数千万の国民が犠牲になるということを想定した上で安全保障政策を考えるというふうな、そういう考え方というのは、私はなるほど国家の生存という見地からいけば一つの政策ではあるかもしれないけれども、しかし国民の安全という、国民という立場から見ればそれは果たして国民のための安全保障政策であるかどうかというと、言えない、私はノーだというふうに思うわけですね。  そこでお尋ねしたいのは、この安全保障の問題にイデオロギーの問題だとか体制の問題だとかいうものを余りに強調するということは、それはそれ自体がひとり歩きをする危険性があるというふうに私は思うのです。基本的には国民の生活、暮らしと命を守るということを基本に考えていくということでいくべきではないかというふうに思うのですが、その点まず岡崎さんの御見解をお聞きしたいと思います。
  93. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) まさに御疑問のとおりでございまして、私もイデオロギーの問題をどう扱うか、非常に苦慮いたしまして、お読みいただけると思うのでございますけれども、論旨も行ったり来たりしておりまして、まあ常識的なところはこのあたりではないかというあたりが結論になっているわけでございます。  それで、何を守るかということでございますけれども、これは国防の基本方針にも「民生を安定し」ということがはっきり書いてございます。それで、これがイデオロギーとの関連で申しますと、私の判断ではやはりどうしても、日本社会主義陣営に組み込まれる、それで自由世界との経済的な連携が断たれるか非常に制限されたものになる、そうした場合、民生の安定あるいは現在の繁栄というものはあり得ないだろう、そういう想定を持っております、これは御理解いただけると思うのでございます。  今おっしゃった核戦争の場合に何千万も死ぬとかいう場合どうかというお話でございますけれども、これは私ちょっと考えられないのでございます。つまり全面核戦争に近い状態で、日本が何千万死ぬか、それとも共産主義になってしまうか、どっちかの選択しかないということは考えられないのでございまして、全面核戦争という場合は、これはアメリカの核の抑止力が効いているわけでございます。これは世界全面核戦争になるわけでございます。世界全面核戦争になる可能性、これはあっては大変困るのでございますけれども、万が一あった場合にでも、あった場合にそれが共産主義になるかどうかの二者択一になるというシナリオは私ちょっと考えつきませんので、その間の関連は必ずしも考えなくてもよいのではないかというふうに考えております。
  94. 和田教美君(和田教美)

    和田教美君 今核抑止の問題が出ましたけれども、確かにアメリカと同盟を結んでいる国は戦後とにかく戦争の惨禍に遭ってないわけですね。ですから、私も抑止というものが全く効いていないというふうには考えないわけです。核の抑止はある程度効いていると思うんです。しかし核抑止、特に中曽根総理が最近盛んに強調される抑止と均衡という考え方ですね、これはこれ自体に一つの非常に大きな落とし穴があるということも同時ににらんでいかなければいけないというふうに思うんですね。抑止力論万能では私はいけないのじゃないかと思う。  岡崎さんに説教するのはおかしいですけれども、現実にとにかく抑止論に立って米ソが軍拡競争をやってきた結果が、四万発とか五万発と言われる核弾頭になってしまった。それから抑止という考え方は、要するに相手が攻撃してくればこっちもやっつけるぞということによる恐怖によって戦争を抑止するという考え方なんですけれども、相手もそういうふうに考えるという点が一つございますね。それからバランスというのは、一体何がバランスであるかということが、先ほどから議論もございましたけれども、非常に判定が難しいということで、結局より自分に有利なバランスということになると、まあ幻のバランス水準といいますか、そういう方向に向かってどんどんエスカレートしていくという、そういう要素を持っているわけですね。ですから、両にらみで考えていかなきゃいかぬ。どうも先ほどからのお話を聞いていると、お三人とも非常に抑止論を強調されるのですが、それに反発するわけではないですけれども、そういう感じを持ったのでちょっとお尋ねしたいのです。
  95. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) それはお説のとおりでございまして、ウィリアムズバーグ・サミットの政治声明におきましても、第一項が抑止、第二項以下はすべて軍縮でございます。これは抑止と軍縮との、ヨーロッパでも申します二重路線、これ以外に現在先進民主主義国としましてとり得る現実的な選択はないと考えております。    〔委員長退席、理事大坪健一郎君着席〕
  96. 和田教美君(和田教美)

    和田教美君 それからもう一つ岡崎さんにお聞きしたいのですが、先ほどのお話を聞いておりまして、この「総合安全保障確保のための諸努力」という表、非常に興味を持って見たのですけれども、政治的、軍事脅威という問題と経済脅威という問題を取り上げているんですが、最近は例えば大規模災害とか大地震とか、そういう自然災害に対する脅威という問題、そういう問題も同時に取り上げた総合安全保障政策という考え方が出てきているわけですね。例えば猪木さんが主宰されたこの前の研究グループですね、あれにもそういうことが試論的に出ております。私は日常性ということから考えると、そういう問題が起こる日常性の方がより大きいと思うし、経済安全保障という問題も、これは先ほど岡崎さんの答弁にあるように現実に日常性として起こっている問題で、そういう意味では、自然災害とか大規模災害とかというような問題も含めた総合安全保障という考え方をとった方がいいのではないかと思うんですが、いかがですか。
  97. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 確かに初め大平大臣が総合安全保障ということをおっしゃったときに、自然災害に対する危機管理というものが入っておりました。これが猪木先生の平和研究所でございますか、それを中心とする報告の中にも入っております。ただその後、鈴木内閣のときに正式な閣議決定によってできました総合安全保障関係閣僚会議というものがございまして、その目的が「最近における我が国をめぐる国際政治経済情勢の推移にかんがみ」「総合性及び整合性確保する上で」協議するということになっておりまして、それでとりあえず総合安全保障関係閣僚会議目的は国際的な問題に限られているようでございます。    〔理事大坪健一郎君退席、委員長着席〕 ただ、これは国際でございますけれども、これがもっと広くと申しますか、防衛の問題で有事立法であるとか民防であるとか、そういう問題に拡大しますと、これはおのずからと申しますよりも、そのまま地震対策等自然災害に対する国内の民生の安定のためにも有用な施策になり得ると、そう考えております。
  98. 和田教美君(和田教美)

    和田教美君 まだまだお聞きしたいことがあるわけですけれども、時間がだんだんなくなってきましたので、矢崎さんにお尋ねしたいと思いますけれども、実はシーレーン防衛の問題、まずお聞きしますけれども、この間公明党の峯山君に対して統一見解をシーレーン防衛について出されましたですね。その中をずっと読んでいきまして、また何か政府の本当の考え方がちょっとわからなくなってきたわけです。それを私申し上げますと、まず第一に、中曽根総理が五十七年の十二月十日の参議院本会議の答弁で「いわゆるシーレーンの問題につきましては、わが国の周辺海域数百海里、航路帯を設ける場合にはおおむね千海里程度まで自衛の範囲内において海上交通保護を行い得ることを目標に防衛力整備するという考え方であります。」と答えておるわけですね。鈴木総理も五十七年の九月の参議院決算委員会で同じような趣旨の答弁をしております。  ところが「日本防衛」、防衛白書、ここにございますけれども、この防衛白書の五十八年度版ですね、「シーレーン防衛」ということが囲みで書いてございますけれども、それによりますと、同じような表現なんだけれどもちょっと違う。「わが国は従来から、わが国に対する武力攻撃が発生した場合において、わが国周辺数百海里、航路帯を設ける場合にはおおむね千海里程度の海域において」という言葉が入ってございますね。「海域において海上交通保護を行い得ることを目標に、逐年海上防衛力整備を進めてきている。」と、こう書いてございますね。先ほどの矢崎さんの答弁でも、やはり海域という言葉を使っております。  そうすると、中曽根総理がかつて答弁したのだと、要するに周辺数百海里というのは一つの海域としてあって、それから航路帯を設ける場合はその上にある幅を持った航路帯というものが突き出たような形で出ている、それが大体千海里ぐらいだというふうに理解できるわけなんですけれども、今の海域という言葉を使われますと必ずしもそうでもないようにも思うし、峯山君に対する答えによりますと、海域という言葉を使っているけれども、それは「全域にわたって防衛するという考え方をとっているものではない。」と、これもわざわざ御丁寧に注釈をしてくれているんです。  ところが、その後の一番最後のところに、「日米防衛協力のための指針」、五十三年十一月の国防会議、閣議において了承、この指針によると、「「周辺海域」の範囲を、日米が共同して作戦を行う海域という観点から、航路帯を設ける場合のおおむね千海里程度の海域をも含むより広い概念で使用しているが、これは運用上の観点に立ったものである。」と、こう書いてあります。  これは私の理解によれば、今シーレーン問題についての日米の研究が始まっておりますね、そこでは要するにそういう私の考えたような数百海里の上に二本の指が出ているというような考え方ではなくて、千海里を一まとめとした海域として作戦運用のいろんな研究をやっている、こういうことじゃないかと思うんですね。一体どれが本当なのか、その辺がわからないということです。
  99. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) まず第一点の、五十八年度白書におきまして「わが国周辺数百海里、航路帯を設ける場合にはおおむね千海里程度の海域」というふうに表現をしており、それから先般の四月十日に御説明申し上げました見解の中でも同じような表現をとっている。その海域という言葉がついたことによって、コンパスで千海里と、その範限内をべたに守るようなふうな印象が出はしないか、こういう御疑問だと思いますけれども、それはそうではございませんで、先生が御指摘になりましたように、周辺数百海里、それから航路帯を設ける場合には一千海里というふうになっていることは変わりがないわけでございます。  では、なぜ海域という言葉があるかということでございますが、これは例えば航路帯を設ける場合の設け方についての御質疑も何回かございまして、そのときにも御説明はしておるわけでございますが、それはある一定の目的を持って、一定の期間、ある一定の海域において自由な通航を確保するというために航路帯を設けるのだというふうに御説明を申し上げているわけでございまして、航路帯を設けるという場合は、その設けるところについては多少の海域はやはり安全にするということが当然に出てくるわけでございますから、ここで言っております表現はそのように御理解をいただいて結構だと思います。したがって、ここの統一見解の最初の方でなお書きでつけ加えてございますように、「上記のおおむね千海里程度の海域については、その全域にわたって防衛するという考え方をとっているものではない。」ということで明確にしたつもりでございます。  それから第二点の、ガイドラインにおきます用語の問題でございますが、これは言葉の使い方の多少技術的な問題でございまして、私どもは、海上防衛力整備をやっていく場合の物の考え方としては、周辺数百海里、それから航路帯を設ける場合にはおおむね千海里程度の海域、こういうふうに申し上げているわけでございますけれども、ガイドラインの場合は、そういう防衛力整備考え方とは全然別の観点でガイドラインそのものをつくった経緯がございます。つまり、有事におきまして日米が共同で作戦を実施する場合のことを中心にいたしまして、どういうオペレーションをやるかという運用の観点で全体を書いた経緯がございます。したがいまして、どういったような海域で考えていくかということを説明する場合に、できる限り簡明な言葉で一言で表現をしようというふうに思いまして、周辺海域において共同作戦をやっていくというふうな表現をガイドラインには書いてございます。  しからば、その場合にその中身は一体何かという点も、ガイドラインをつくった当時からしばしば国会でも御質疑がございました。それにつきましては、ガイドラインで言っております。辺海域というのは、中身としては、従来から申し上げているように、海上防衛力整備構想として周辺数百海里、航路帯を設ける場合はおおむね一千海里程度の海域を目標にするという考え方をとっておりまして、その両者を含めた概念としてガイドラインではたまたま周辺海域という言葉を使っているというだけでございまして、海上防衛力整備考え方そのものはこれによって何ら変わっておりませんということを何回か御説明を申し上げた経緯もございます。  したがって、これは単なる言葉の使い方だけの話でございまして、海上防衛力整備考え方そのものはガイドラインのでさます前とできた後とで全く変わっていないということでございます。この点は何回も繰り返し御説明をしておるところでございます。
  100. 和田教美君(和田教美)

    和田教美君 本当にそうであればわかりますけれども、先ほども堀江委員から御指摘ございましたように、このシーレーン問題についての日米の研究が今始まっているわけですけれども、どうも私は日米の間にシーレーンという問題についての理解の仕方、解釈の仕方というものに食い違いがある、断層があるというふうに思われてならないのです。その点では堀江さんと全く同意見なんですね。  それはなぜかと私申しますと、伊藤防衛庁長官時代に、日本は千海里以内の作戦を主体的に行う、アメリカは千海里以遠及び千海里以内の攻勢的作戦に責任を持つ、また千海里以内では日本の作戦を支援するというふうなことについて大体合意がアメリカとの間でできたということが公表されておりますね。そこで、当時、海域分担があるいはまた機能分担かということが非常に問題になったわけでございますけれども、そういうところから見ましても、どうも千海里というのが少なくともアメリカとの話し合いの中では一つの境界線ということになっているというふうに受け取られるわけなんですよ。そして、今の統一見解の一番最後に書いてあることが、アメリカとの話し合いの中ではそういう形で話は進んでいるというふうに受け取らざるを得ないと私は思うんですね。  なぜそういうふうに言うかといいますと、結局アメリカがこのシーレーン防衛という問題について、脅威がどの程度あるかとか、あるいはまたそれに対して日本の自衛力の対処能力がどの程度必要かということについて、アメリカ側の要求と日本側の今あなたが盛んにいろいろ答弁されたことと相当食い違っていますね。アメリカの要求についてはなかなか公表されませんけれども、少なくともハワイの事務レベル協議で出されたという数字はいろいろ新聞に出ているわけだけれども、そういうものとは相当食い違っているというふうなこと、なぜ食い違っているかというと、シーレーン防衛についての基本的な認識というものがアメリカとの間に食い違っているから、したがって数字も食い違ってくるんだというふうに私は理解するわけなんですけれども、その点はどうですか。
  101. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) ただいま私が申し上げました日本側の政策、考え方、これにつきましては機会あるごとにアメリカ関係者にも十分説明しておりまして、その点はアメリカも十分理解をしているところでございます。したがって、アメリカとしてはこういった日本考え方を十分理解した上で、日本のシーレーン防衛作戦の実施に当たっては日米で共同して対処することがあり得るし、それから特に千海里以遠、それから攻勢的な作戦という面については米軍が主体になってやっていくというようなことも言っておるわけでございまして、その辺に日米間で基本的な認識にそごはないというふうに私どもは理解をいたしております。  それから、アメリカ日本防衛力整備の数量的な目標について何か具体的な要求をしているのかと御指摘になったわけでございますが、この点は、アメリカから日本に対してそういうことを正式に要求しているということはございません。アメリカとしては、日本が自主的な防衛努力としてシーレーン防衛能力を高めてくれることをできるだけ早くやってほしいということはもちろん我々にも言っておるわけでございますが、具体的な数字をもっての要求というものはございません。  ただいまお触れになりました第十二回SSCでの問題と申しますのは、これはハワイ協議そのものが事務レベルのフリートーキングの場であるという性格であることが前提でございまして、その対話の過程で一部数字を交えた意見が出たということは事実でございますけれども、それは何も要求とか何とかいうものではなくて、単なる参考的な話題として出てきたということでございます。したがって、これを要求というふうに言うことは、これは適当でないわけでございますし、また、そういった話題になったことについては、会議の性格上米側との約束もありまして、これは公表しないということになっているわけでございます。この点は、御承知のように、しばしば国会でも十分御説明を申し上げている次第でございます。
  102. 和田教美君(和田教美)

    和田教美君 今五九中業のことについて話が出まして、防衛庁長官が今度は正面と後方のバランスをとるということを強調されておるという話がございましたけれども、確かに五十九年度予算を見ますと、正面ぴかぴか、後方ぼろぼろという傾向がますます強くなっておることは皆さんもお認めになるとおりだろうと思うのですが、私はその問題と同時に、同じ正面装備であっても、つまり例えば護衛艦とか潜水艦とかという主要装備ですね、そういうものは進捗率が比較的いいけれども、例えば高速ミサイル艇だとか、あるいはまた短SAMだとか、こういういわゆる領域保全という、我々公明党の立場は領域保全を非常に重視しているわけなんですが、そういう観点から非常に有用だと思われるような兵器類の調達は非常におくれている。  例えば護衛艦、潜水艦は大体トータルで見まして五十九年度予算で三五・七%ぐらいの達成率ですね。進んでいるのは五〇%ぐらいいっていますね。ところが、ミサイル艇は五十九年度はゼロです。したがって進捗率はゼロですね。それから短距離地対空誘導弾、これも進捗率は一四・八%ぐらいで非常に低いわけですね。ですから正面重視、後方ぼろぼろだけでなくて、正面の中のまた主要装備重視、それ以外のものを軽視しているというふうな非常にゆがみが出ているのではないかというふうに思うんですけれども、その点は五九中業で少し考え直すという考え方がおありですか。
  103. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 五九中業の中身をどうするかという点は、まだ具体的に決めておりませんので申し上げられるような状況ではございませんが、御指摘のありました一つは、正面と後方のバランスという問題については、防衛庁長官がしばしば御説明申し上げておりますように、これは一つの大きなポイントとして五九中業の中で考えていく必要があるだろうとは思っております。  それから、二番目に御指摘ございました正面装備の中での優先度のつけ方という問題がございますが、これは五九中業そのものをこれからつくるわけでございますので、特定の項目について具体的に申し上げられる段階ではございません。ただ、五六中業での進み方について若干話がございましたので、その点について申し上げますと、確かに全体としての進捗率が正面装備費について契約ベースで二年間で約二七%というような状況でございますので、全体として見ればかなりきつい状況であることは事実でございまして、今後一層の努力が必要な事態であると思っております。  そういうことであるだけに、どれから進めていくかということは非常に難しい選択の問題ではあったわけでございますが、例えば護衛艦にしても、これは一隻だけで大きなお金をとってしまうというようなこともございまして、そういうことから最小限やりたいということをやっていきますと、ある程度、若干の進捗率の差が出るということはやむを得ないことではあったと思っております。ただ、御指摘の、例えば短SAMなんかについては、抗堪性向上の観点からこれはぜひ今後重視してやっていきたいというふうに思っておるわけでございます。高速ミサイル艇も五六中業のテーマに取り上げておるわけでございますが、これはなお別途、何といいますか、技術面で検討を要する面がある程度残されているようなこともございます。例えば日本海の荒海の中でどの程度の運用が可能かとか、維持していくための後方支援のためにはどのぐらいの経費が要るかとか、固有のちょっと難しい問題もいろいろあるわけでございますから、こういう点は慎重に詰めなければいけないと思っております。  いろいろな問題があるわけでございますが、五九中業につきましては、いずれにいたしましても、事業の優先度等を十分検討いたしましてやっていきたい、こう考えております。
  104. 中西珠子君(中西珠子)

    ○中西珠子君 岡崎部長が、先ほど資源小国としての日本にとっては、国際経済協力、殊に政府開発援助は総合的な安全保障、特に経済脅威に対する安全保障という見地から非常に必要だとおっしゃった。それに対しては反対するわけじゃございません、賛成でございますが、しかし、やはり経済大国としての日本は、世界平和の確保のためにも、また人道的な見地からいっても、ODA、政府開発援助をふやしていかなければならない立場にあると思うわけでございます。  ところが、一九八二年の日本のODAは、対GNP比で言いますと〇・二九%、そしてDAC加盟国十七カ国の中で十三位という低い地位にあるわけですね。そしてまた、国民一人当たりの額にすると第十五位という余り誇るべき状態ではないわけです。恥ずかしい状態であるわけでございますね。そして、国連が第三次国際開発戦略というものをつくりましたとき、これは一九八〇年の第三十五回国連総会でございますが、この開発戦略の中で、「政府開発援助(ODA)の対GNP比〇・七%援助目標を達成していない先進国は、右目標を一九八五年までに、またいかなる場合も八〇年代後半までに達成するものとし、」またこのGNP比一%の援助目標というものも「できる限り早く達成するものとする」ということを言っているわけでございます。これに対しまして日本は国連の場で留保したということを聞いているのでございますが、国連局長、なぜ日本は留保したのでございましょうか、理由を御説明いただきたいと思うのでございます。
  105. 政府委員(山田中正君)(山田中正)

    政府委員山田中正君) 経済援助等を先進国といたしましてできる限りの努力をしなければならないことは、まさに先生おっしゃいましたとおりでございます。それからさらに、我が国といたしましては、先ほど先生御説明ございましたようにまだ低い水準でございますが、できるだけ努力を重ねていくという姿勢で臨んでおりまして、厳しい予算の中におきましても、ODAについては最大限の増額を認めていただいているわけでございますが、国連の場で、今先生御指摘の第三次国連開発十年、現在がちょうどそろそろその半ばになるわけでございますが、その戦略の中での目標につきまして、留保と申しますか、むしろ義務的な形でそれを達成するような形では受けられない、ただ自発的にはそれをやっていく、こういうことでございまして、そういう趣旨での立場の表明をしたということでございます。
  106. 中西珠子君(中西珠子)

    ○中西珠子君 日本が自発的に決めたというODAをふやす五カ年倍増計画というのがございますね。いわゆる新中期目標でございます。これは八一年、八二年の二年間実績を見ますと、約六十二億ドルでございまして、八五年までに目標を達成するのは大変難しいように思えるのでございます。殊に財政事情が厳しい折から、外務省としてはできる限りの御努力をなさっていると思うのですけれども、六十年度予算で二〇%以上の伸びを確保しなければこの新中期目標の達成は非常に難しいということを考えるわけでございますが、これは達成可能でございますか。
  107. 政府委員(山田中正君)(山田中正)

    政府委員山田中正君) 確かに、ただいま先生御指摘のように、非常に厳しい状況でございます。ただ、私どもといたしましては、この倍増の中期目標、いまだに希望を捨てておるわけではございません、できるだけの努力はしたいと思っております。ただ大変厳しい状況であることはもうそのとおりでございます。
  108. 中西珠子君(中西珠子)

    ○中西珠子君 ただいま国連局長おっしゃいましたように、できるだけの御努力をお願いしたいと思います。  これは一応新中期目標というのは量的な倍増計画でございますが、質的な面における向上というふうなことはお考えになっておりますか。例えば贈与比率をもっと上げるとか、日本の贈与比率少ないですね、四割未満ですね。そして借款のグラントエレメントを上げるとか、また技術協力の割合も非常に少ないけれども、これを上げていくとか、LLDC、後発開発途上国に対する援助をふやしていくとか、こういった面でのODAの質的な改善ということは長期目標として考えていらっしゃいますか。
  109. 政府委員(山田中正君)(山田中正)

    政府委員山田中正君) 先生今の御質問の点、直接の担当は経済協力局長でございます。したがいまして、一般的なお答になって申しわけないのでございますが、御指摘ございましたような無償をふやすこと、グラントエレメントをふやすこと、それから特に援助を必要としておるLLDC等にきめ細かい援助をやっていくということ、これは当然努力いたします。
  110. 中西珠子君(中西珠子)

    ○中西珠子君 どうぞ、できる限りの努力をお願いしたいと思います。  それから、岡崎部長が「国際経済システムの維持・強化」という項目のところだったと思うのですけれども、日本経済が非常に不公正なイメージを受けている、それを払拭しなければならないというようなお話がございました。そしてそのためには内需振興をやる、また市場開放の努力が必要というふうなお話があって、科学技術の進歩も必要というふうなこともおっしゃいましたけれども、日本がいろいろ貿易摩擦を起こしたり、日本経済が公正でないというふうなことを言われるというところには、やはり日本が公正な国際競争をやっていない、例えば男性の労働者ですけれども、危険有害業務を除けば、三六協定さえ結べば長時間労働を幾らやってもいい、無制限なんだ、また時間外の労働や深夜業に対する割り増し賃金も低いのだ、また年次有給休暇があってもなかなかそれをこなし切れていない、また一挙にとれるのではなくて、細切れにとっているというふうなことが国際的にも批判されているわけでございますね、例えばILOの報告にも出ております。こういった面での御認識は、日本経済の不公正のイメージという中に入っているのでございますか。岡崎さんでも国連局長でもどちらでも。
  111. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 経済問題は経済局長が主管でございますけれども、私もアメリカに勤務をいたしました経験がございまして、日本が不公正であるというイメージの中に日本社会制度そのものに対する批判というものがございます。これはある面ではむしろ批判する方が無理を言っている面がございまして、日本人が働き過ぎるとか、勤勉であるとか、それから短い時間に能率がよ過ぎるとか、それからなかなか休みをとらないとか批判されても、これは社会制度そのものでございますので、これを改善するという約束もなかなかできにくいということでございます。最近はむしろそういう問題も余りございませんで、やはり中心となっておりますのは貿易及び金融の自由化の問題でございます。
  112. 中西珠子君(中西珠子)

    ○中西珠子君 労働時間短縮の必要があるなどということにつきましては、労働省ではある程度の認識を持っておられるようですけれども、外務省の方も労働省あたりとよく協力なすって、そういった不公正な国際競争を日本がやっているという批判は取り除くように御努力願いたいと思います。これは日本のやはり長期に見た安全保障だと思うのですよ。総合的な安全保障一つだと思いますから、どうぞよろしくお願いいたします。私はもう時間が来ましたので残念ながらこれで質問を終えますけれども、その点はどうぞ労働省と御協力あそばしまして、また通産省とも御協力になって、よろしくお願いしたいと思います。
  113. 上田耕一郎君(上田耕一郎)

    上田耕一郎君 私は、この外交総合安全保障調査特別委員会の仕事は非常に重要だと思っています。自民党から共産党まで、イデオロギー、政策のいろいろ違いはありますけれども、日本安全保障、軍縮という点で共通の点をみんなで探求して、一致した報告書が、政府とは多少違うかもしれぬけれども、国会として一致した報告書をつくり上げるということができれば非常に大きな意義を持つのじゃないかと思うんです。  私ここにパルメ委員会報告書を持ってきているのですが、SSDⅡ、第二回国連軍縮特別総会に提案されて、この序文でパルメ氏はなかなかおもしろいことを書いている。「この困難な国際環境下で、ワルシャワ条約機構とNATO諸国の高名な委員が、中立政策をとる国の委員と合意に至ったのである」。このパルメ委員会には、カーター政権のバンス元国務長官も参加しているし、ソ連のアルバトフ・アメリカ・カナダ研究所長も参加していますし、それがとにかくこれだけの一致した報告書が出たというのは、「平和共存を地でいったことになる。」「これはとりわけ、ヒロシマを訪問して得た感動的で衝撃的な経験に負うところが多いと思う。」と述べているんですね。彼らパルメ委員会の人々が広島を見て、平和記念資料館へ行って、被爆者と会って話をして、その衝撃で、アメリカソ連、中立国を含む人々がこれだけの「共通の安全保障」という報告書をつくれたということをパルメさんが述べられているので、その唯一の被爆国の日本なんですから、そこの国会でこのパルメ委員会に負けないような一致点を探求することは必ずできるのじゃないか、そう私考えているんです。  その点で、お三人の方々の午前中の説明を私注意深く聞いたつもりなんですが、どうも率直に申し上げて、極めてイデオロギー的で、特定の見解を述べられたとしか私は思えないのですね。矢崎局長は先ほど、日本は仮想敵国を持っていない、そうおっしゃいましたね。ところが、防衛庁の「日本防衛」を見ますと、これはやっぱり相当なものですよ。四ページ、第二節で「ソ連軍事力増強と勢力拡張」でしょう。ソ連は大体「勢力拡張」でいくんですよ。アメリカの対応のところでは十三ページ、「本質的に防衛的なものである。」と、そういうわけですよね。二十二ページ、「NATO諸国は、WPO」、ワルシャワ条約機構軍の「侵略を未然に防止するため」と書いてあるんですな。どうなんですか、局長、あなた方はソ連あるいはワルシャワ条約機構が侵略軍で、勢力拡張で、アメリカ防衛勢力で平和を守ろうとしていると、極めて単純に割り切ってこれは書かれているのだけれども、それが先ほどの仮想敵国を持たぬという立場とどう統一されるのですか。
  114. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 仮想敵国を持たないということは、これは日本政府の基本的な考え方でございます。  それから、白書に記載されておりますことは、客観的な諸外国軍事情勢の動向につきましてこれを紹介をしているというふうに私は考えております。
  115. 上田耕一郎君(上田耕一郎)

    上田耕一郎君 客観的にはWPOは侵略軍だ、それから日本政府は仮想敵国を持たないと、極めて矛盾した答弁をされるんですね。こういう立場だと、なかなかこれは一致点を求めようとしてもパルメ委員会のようにいかないと思う。岡崎さんも先ほど、日本社会主義体制に組み込まれるならば、これは民生安定できないと。私どもは今の社会主義体制に組み込むこと毛頭考えておりません、中立ですから。しかし、将来日本社会主義になれば民生の安定は今よりもはるかにいいであろうと考えているので、こういう問題を議論していったら猛烈に対立してしまうのですね。そういうことを平然と言うということがいかに一面的かということを示していると思うんだが、僕はきょうは余り対立点を拡大する議論じゃなくて、なるべく一致点を探求する質問を、短い時間ですけれども、したいと思うんです。  安全保障の一番問題は日本の平和が破壊されることですが、どういう際に破壊されるのかという根本問題から出発しなきゃならぬ。  ここに持ってきているのは、これは「防衛アンテナ」という雑誌で、これにアメリカの下院外交委員会アジア・太平洋委員会、これは一九七二年ですね、あそこで防衛論議があった。ここでウェスト国防次官補とギン前在日米軍司令官が三月に発言されていて、非常に注目するのは、こういうことを二人とも共通して言っている。「日本だけが孤立した形で攻撃されるということはありそうにない。」つまり世界的な戦争のときに日本が攻撃されるということですね、ウエスト国防次官補。ギン前在日米軍司令官も「日本だけが攻撃され、単独で対応しなくてはならないような事態はあり得ず、日本へのソ連の限定攻撃は、米ソ世界的対決の中だけであり得る。」と、こう言われている。それから岡崎さんのパンフレットがありますね、日本外交協会での対談のパンフレット。これで岡崎さんは全く同じことを言われている。「大体言えることは日本だけに対する攻撃というのはありません。他で戦争があってから来るんです。」それから十三ページでも、「結局ヨーロッパや中近東地域で戦争が起こって、それから来るわけです。」と言われている。それから十四ページでも、「全部世界戦争との関連ですね。特に日本に及んでくるのは。」と。  岡崎さんはアメリカへ行ってよく戦略問題を討議されているとおっしゃるけれども、アメリカ下院の外交軍事委員会でのこのウェスト国防次官補やギン前司令官の言い方と、あなたのこの対談の言い方は全く一致しているわけですね。日本だけがソ連から攻撃される、ソ連などと言っておきましょうか、単独でということはないので、やっぱり国際的な戦争、中東、ヨーロッパその他の波及、世界戦争の中でのみ日本の平和が破壊されるんだと、こういう点は一致できますかな、防衛局長岡崎さん、いかがですか。
  116. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) それは私は戦略とか国際情勢一般から考えまして、どうもそのようには思っております。ただ、必ず私前提としておりますのは、日米安保条約が堅持されている限り、これが絶対的な前提でございます。それからまたもう一つは、国際政治で絶対にということは言ってならないのでございまして、この本ではそういう可能性はまずないというふうに書いてございます。ただその講演では、講演の速記でございますから、あるいはそういう留保が抜けておるかもしれません。
  117. 政府委員(矢崎新二君)(矢崎新二)

    政府委員(矢崎新二君) 日本がいかなる事態で攻撃を受けることがあり得るかということは、これもしばしば申し上げておりますように、事態は千差万別であろうと思います。他地域での紛争が波及をしてきて日本が攻撃されるというケースももちろんあるわけでございますけれども、そのほかに、日本が単独で攻撃される可能性というものもこれは全く否定することができないわけでございまして、我が国防衛を考える場合には、あらゆる事態を想定して考えていくということが政府当局としてはどうしても必要になってくるというふうに考えております。
  118. 上田耕一郎君(上田耕一郎)

    上田耕一郎君 前に福田首相は、日本に対する奇襲攻撃は万々々が一ということを言われましたから、非常にその可能性は少なくて、他からの波及、国際情勢全体からの波及というのが大きいのだと思うんですね。この点は多少異論があってもほぼ一致できることではないかと思うのです。  そうしますと、きょうのお三人の方の発言、私率直に申し上げて、大きな欠点というか、私たち賛成できない点が例えば大きな問題でも三つか四つあるわけです。  第一は、そういう危機脅威の原因をソ連軍備拡張というところだけに求めている。これはおかしいと思うのですね。私はやはり軍備拡張の悪循環、これが最大の問題で、アメリカ並びにソ連双方に責任があると思うのですね。  二番目は、核戦争の問題について過小評価がある。説明にも余り出てきませんでした。岡崎さんは核戦争の危険というのは極めて少ないと非常に楽観的な見解を述べられました。この点は核軍縮についての熱意の不足として当然あらわれてきているというふうに思うのです。  それから三つ目は、なぜ軍備大拡張、その競争悪循環が起きているかというと、根本には軍事同盟の対抗があるからなんで、先ほど岡崎さんは、日米安保体制がある限りというふうに条件づけられて世界戦争の中で日本に戦争が及ぶと言われたけれども、これはまことにそのとおりなんです。安保があるから巻き込まれるんです。我々のように安保をなくせば、日本が中立になれば世界戦争に巻き込まれない、むしろ世界戦争を防ぐ大きな役割を果たし得るわけで、この軍事同盟問題についての考え方軍事同盟の悪循環をもう既定の事実としてあくまで安保体制強化ということで、これが軍備拡張の悪循環をもたらしていくわけなんで、これはこの見解がないことが三番目に非常に大きな弱点だと思う。  四番目に、したがって唯一の被爆国である日本世界の平和のために、また日本安全保障のためにどういう役割を果たし得るかという点で極めて弱い。むしろ西側の一員としてアメリカの言うとおりにやっていく。軍縮と言いながら実際には軍拡へ進んでいくという、そういう危険な立場が少なくとも政府の三人の方の御発言からは出てくるわけです。国連局長のお話でも、レジュメにもありますが、冒頭から日米安保体制がぱっと出てくるというのは、これで一体軍縮を考えているのかということを私は指摘せざるを得ない。  きょうは時間が余りございませんので、この四つの問題ずっとやれません。この委員会でまた真剣に今後討議していきたいと思うのですけれども、私は、まずこの第一の軍備拡張の悪循環の問題、それとソ連軍事力増強、そこら辺の評価についてお伺いしたいのです。  ここに私SSDI、第一回軍縮特別総会の最終文書を持っています。これは日本政府も賛成した文書です。この文書には、今の脅威について、冒頭「特に核兵器の蓄積は、」ということで、核兵器の蓄積を平和への危機のトップに挙げてある。その次に「継続する軍備競争は、」ということで、それが「人類の生存にとって増大する脅威となろう。」ということをも言っている。それから宣言のところでは、「永続する国際の平和と安全は、軍事同盟による兵器の蓄積の上に築き得るものではなく、また、不安定な抑止力の均衡又は戦略的優越の教義によって支えられるものでもない。」、日本政府が賛成した国連の軍縮特別総会の最終文書自体がこういう結論になっているわけですね。  あなた方は、ソ連軍事力増強が平和の脅威だということを午前中るるとして言われました。これはあなた方の立場でしょう。しかし同時に、米ソ双方に責任のある軍拡競争、その悪循環ですね、これについてはどういう評価を平和の脅威としてお考えになっていらっしゃるか、この点どなたからでも結構ですが、お答えいただきたい。
  119. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 米ソの間の軍拡競争が、過去の経緯はいろいろあると思いますけれども、非常な多数の量の核兵器を生産するに至った。これはもう事実でございます。ただ、戦争の原因ということを考えますと、従来戦争の原因というのは、一つの国が非常に明確な侵略的意思を持って始めたわけなんですが、これは第二次大戦のようなケースです。であるか、あるいは軍事力が比較的バランスしている時代において、ある一点における偶発事件から始まりまして、それでお互いの立場上あるいは政治的な判断から引くに引けなくなる。それがだんだんエスカレーションして戦争になる。むしろこのケースが非常に多いわけでございます。軍備拡張そのものがそのまま戦争になってしまった、そういう実際のケースというのはむしろ少ないわけでございます。  ただ、国連総会の決議とかそういうものは、先ほども申し上げましたけれども、これは人類の理想でございます。人類の遠い理想は、人類が一体となって戦争の危機を除く、世界の恒久平和を求める。これは人類の理想でございます。パルメ委員会の思想の共通の安全保障である。それはつまり、米ソそれぞれ、西側、東側それぞれの安全保障の重視じゃなしに、人類全部が戦争を避けなければいけない。ですから、戦争そのものに関連して共通の安全保障というのがその発想法になっているわけであります。これは理想主義と申しますか、遠い人類の理想を考える場合、必ずそういうことになるわけであります。ところが、遠い人類の理想も、これはいまだかつて達成されたこともないし、いつ達成される可能性があるのかもわからない。そういう事態におきまして、国民の安全とそれから民生の安定というものを維持する、そのためにはどうしても平和が必要である。その平和のために最も今基本となっているのが抑止力であるというのが我々の判断でございます。
  120. 上田耕一郎君(上田耕一郎)

    上田耕一郎君 ちょっとそこら辺の判断も、僕は歴史上も問題があると思っています。国連憲章をつくったときは、単に遠い人類の理想を求めて集団安全保障機構として構想されたのじゃなくて、これは第二次大戦の結果から、やっぱり軍事同盟の対抗というのは第一次大戦、第二次大戦、結局世界戦争に導くから軍事同盟をなくそう、そして集団安全保障機構をつくろうというので、遠い理想ではなくて現実の世界構想として国連憲章がつくられて、国連がつくられたのですから。その後の戦後三十数年の現実はあたかも国連憲章の理想が遠い将来のように見えていますけれども、そうじゃない。あくまで遠い理想なんだというふうに戦略問題の専門家といわれるあなたが結論を下すのは、私は全く同意できない。  ある程度軍備拡張の悪循環の危険な要因はお認めになっているようなんですが、岡崎さんは午前中の説明で、一九七〇年代から特にソ連軍事力増強が始まってバランスに大問題が起きたというふうに言われました。ひとつ一致点として詰めておきたいのは、じゃ一九七〇年までの期間についてどうだったのかということ。ここに「日米関係を間いつめる」といって、外務省の北村北米局長、村田経済局長、それから岡崎さん、三人の方の対談があって、これはなかなかおもしろいですよ、読んだのですけれども。あなたはこの中で百十一ページでこう言っている。つまり七〇年代までの評価です。今はもうパリティになっている。「それまではアメリカソ連より五年早く原爆を作り、水爆で先行し、最近では一九六八、六九年ごろICBMミサイルでソ連が追いついてくると、MIRV(個別誘導複数目標弾頭)を配備するというようにソ連を引き離してきたのですが、とうとう追いつかれてしまった。」と。大体六〇年代まではアメリカがいつも五年ぐらい早く、よくアメリカがペースメーカーでソ連はフォロアーだということもありますけれども、引き離してきた。つまり七〇年まで、六〇年代まではアメリカがこういう状況ソ連は追いかけていったと、これは一致できますか。
  121. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) それは御指摘のとおりでございまして、最近アメリカのレーガン大統領の演説なんかで繰り返して言っておりますけれども、アメリカはかつて圧倒的に優勢だった、アメリカが優勢でたとえ原子爆弾を独占しているときでもソ連を攻撃しなかった、その間は完全に平和だったということを言っています。それで、本当にそのバランスが際とくなってまいりましたのは大体七六年が中心でございます。ソ連のSS17、18、19、それからSS20、これはいずれも七六年ごろに第一基が配備されておりまして、その後急速に増強しております。そこで出てまいりましたミサイルが、ミニットマン3の到達した技術的段階とほぼ同じような段階に達しているというのが状況でございます。
  122. 上田耕一郎君(上田耕一郎)

    上田耕一郎君 六〇年代まではアメリカがベースメーカーで、ソ連はフォロアーだった。この点で軍備競争の悪循環の起動力がアメリカだった、ソ連は六〇年代ぐらいまでは余儀なく防衛努力をやっていたというふうに私どもも評価している。評価は違っても、現実については認識については一致している点があると思うんですね。  七〇年代からは、これは実はソ連軍事力増強計画に対して、私ども日本共産党も極めて批判的なんです。と申しますのは、ソ連共産党は、七一年の二十四回党大会では、軍事同盟の解消、核兵器の全面禁止を大会できっちり掲げていた。ところが、七六年の第二十五回大会でこれを取り下げた。だから、現実の軍事同盟を認めていこうと。それから核兵器禁止も取り下げたという状況が生まれた。八一年の二十六回党大会では、軍事力バランスが平和を保障している、アメリカを追い抜かないけれども、必ず追いつくという態度を大会で表明するんですね。私どもは、この軍事力バランス論というこういうやり方は、今の軍備増強の悪循環に対してアメリカに次いでソ連が責任を持つという極めて重大な状況だというので、ソ連共産党のその路線を批判していますし、論争もしております。そういう点は確かにあるんです。  それで、七五年のベトナムの完全敗北、ヘルシンキ会議、その後カーター政権のもとでアメリカ軍事力を縮小した時期に、ソ連軍事力増強をどんどんやっていく。差が縮まったということは明白だと思うんですよ。しかし、その先の問題がある。岡崎さんは先ほどのパンフでも、今や追いつかれたと言われたし、午前中の説明でもバランスはどうもソ連に有利で、しかし最近西側が大いにやっているので少し明るい展望が出てきたような話をされたのだが、現状の認識が、そこにちょっと問題が私はあると思うんです。明らかにアメリカからかなり離されていたソ連は、七〇年代の後半から追いついている。差は縮まったと思うんですね。現状はソ連軍事力バランス、ミリタリーバランスで優位だとは私は到底思えない。ソ連側の本もいろいろあります。ここにソ連国防省の論文もあるし、軍縮交渉の本もありますけれども、ソ連側の文献で言うのじゃなくて、私はもうちょっと客観的なものを少し出したいんです。  ここにSIPRI、ストックホルム国際平和研究所の一番新しい「世界軍事力」の翻訳があります。ここで例えば核弾頭についてはこう言っている。「一九六〇年代末まで米国ソ連に対して約四対一の優位」であった。今日は「米国の数的優位も二対一弱に減少した」と。四対一が二対一に、核弾頭の数で、発射基数じゃないですよ、ICBMその他の。四対一が二対一に差は縮まったけれども、やはりアメリカが核弾頭は大体二倍なんだ、こういうことをSIPRIも書いている。  それから「世界」の八二年の二月号に筑波大の進藤教授の「〝ソ連脅威〟論を分析する」という論文があります。あれはあの当時の数字だから、その後若干変わっていますけれども、例えば海軍力については、時間もないので余りやれませんけれども、例えば航空母艦、これはソ連のミンスク、キエフ、今度新しく一隻できたけれども、当時で言えばソ連潜水艦に対する空母がたった二隻だ、アメリカは原子力空母を含めて三十一隻だというので、もう全然問題にならぬと書いてある。空母搭載の海軍の航空機アメリカは千六百二十機、ソ連は百二十五機で十分の一だ。上陸用の強襲艦がありますね、ソ連はイワン・ロゴフ一隻だ、アメリカは八千トン以上七十一隻ある。海兵隊はアメリカは十九万二千人、ソ連は海兵隊一万四千五百人だという状況だと言うのです。これは進藤教授の分析ですけれども、岡崎さんも、先ほどのパンフレットでやはりそういう点を認めるんですね。「日本の周辺の軍事バランスは、ヨーロッパに比べてはるかに有利」だ、ヨーロッパがバランスだとすると、日本周辺ははるかに有利だと言うんですよ。それで、日本の場合は相手揚陸能力はわずか二、三個師団、西ドイツは百個師団のあれがある。百個師団と三個師団、全然違う。しかも海がある。「しかも基本的に海空軍というのは今でもアメリカソ連に優位を許していないですからね。」と、こう言われている。  ですから私はこういう点で、軍事力バランスソ連があたかも今近づいて追い越しつつあるかのようによく言いますけれども、五〇年代の戦略爆撃機のギャップ論がアメリカで大いに議論になった。ソ連側は、二倍から三倍ソ連の爆撃機の数を誇大に言われたと書いてある。それから、六〇年代の初めにミサイルギャップ論争がありました。ソ連は、ソ連のミサイルについて二十倍から三十倍の誇大な数字がアメリカで言われたといわれているんですね。ミサイルギャップ論争としても有名なんだが、今日のソ連軍事力増強であたかも危険で、だから西側が、日本も含めてレーガンが先頭なんですが、物すごい軍備力増強をやっているというのも、当時のミサイルギャップ論争と同じように、かなりフィクションじゃないかという根本的な疑念が私はあるんですが、岡崎さんも海空軍アメリカが優位と言われているので、この点の認識をお伺いしたい。
  123. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) いろいろな数字をお挙げいただきまして、それに反対するような数字は幾らでもございます。それからまた、お挙げいただいた数字も若干古い数字でございます。  一つだけ申し上げますと、例の核弾頭が大体二倍弱になってきたという話でございますけれども、これは三、四年前の話でございます。先ほど申しましたMIRV化で、追いつかれましたのは一九七六年でございますか、その後急速に配備いたしまして、大体毎年千ずつ追いついてきております。ですからそれができたころの恐らく九千と五千という数字だろうと思いますけれども、現在は恐らく九千と八千ぐらいになっているだろう。SS18が配備されるに従って、その差はもっと縮まっていくというふうに考えられます。  ただ、また陸軍の兵力とか航空兵力とか、そういうものの数字だけ申し上げますと、先生が御指摘になった数字と反対の数字を持ち出すのは容易でございますけれども、時間もございませんので、結局何が重要かということを申しますと、かつてアメリカが圧倒的優位だったわけでございます。現在はほぼパリティということ、パリティというのは、私の覚えました軍事用語では一対一・五の間がパリティだそうでございます。一の場合でも、作戦がうまくて兵隊が強ければ一・五に対して勝てるということであります。別に、アメリカが今でも勝っていると言う人もアメリカが一・五以上に強いとも言っておりませんし、ソ連に追い抜かれたと言っている人もソ連が一・五以上になったとも言っていない。結局パリティになってしまった。戦争をやってみなければどちらが勝つかわからないような非常に危なっかしい状態になってしまったということが問題なのでございます。  先ほどの均衡理論でございますけれども、均衡というのは非常に難しい問題でございますが、結果として安定して平和が保たれているという状態が均衡であるというように申し上げたのでございますけれども、むしろこれは均衡というよりも、かつて存在したバランスが崩れてきた。これを一体どこに新しい均衡を求めるのか、どこに安定した平和が永続されるような状態ができるのか、それを妨げているという状態が生じている。つまり一九七六年までは非常に長い平和が続きまして、しかもだれもこんなに安全について心配しなかったようなのが事実でございます。それが最近になってこれだけみんなが戦略論を議論しなければならない、これはやはり不安定になったかもであります。これは戦略の均衡が崩れたわけでございまして、これを取り戻すにはどうしたらいいか、どういうところに新しい均衡を見出すかということが現在の課題であるというように考えております。
  124. 上田耕一郎君(上田耕一郎)

    上田耕一郎君 二対一弱というのは三、四年前の古い数字だと言われましたけれども、これはSIPRIの去年出たものです。ここに表が出ている。八二年の数字まで出ている。八つの、エビエーション・スタディーズ・アトランティックとか国防次官補のニュースリリースとかいろいろなものがずっと出ております。その数字で言っているのだから、あなたの言われた三、四年前の数字というよりも、SIPRIの方がこれだけの表を挙げてありますからね、後でひとつ研究してください。  そろそろ時間が参りましたけれども、私きょう一端しか述べられなかったけれども、どうも防衛庁の「日本防衛」というのは、極めて単純にイデオロギー的にそういう今の世界の危険について、全く一方的にソ連が侵略勢力でアメリカ防衛勢力だ、平和勢力だと単純に決めつけて、僕は極東軍事情勢のところを読んでみても本当に驚いたのだが、予算委員会でもちょっと言ったのですけれども、「わが国周辺の軍事情勢」第一節ソ連ソ連はもう本当にずらっと写真から何からカラーで載せて十一ページ書いてありますよ。アメリカの対応努力はわずかに二ページです。五倍書いて、これでソ連が危ないのだソ連が危ないのだ、だから日本アメリカと一緒に守らなければならぬのだという結論に持っていこうとしているのだけれども、こういう姿勢をやはり直さないと、本当に逆に日本の安全を危険にするという事態が進行しているんだと思うんですね。  きょうはもう私申し上げることはできません。私どもは安保をなくして非核・非同盟の中立に進んでいくことが安全保障の一番の基本だと確信していますけれども、しかし、ここの委員会で安保をなくすか安保強化か、これで報告書をつくろうと言いましても、これは不一致点になりますからね。そういう不一致点を挙げた上で、唯一の被爆国で、冒頭申し上げましたように、パルメ委員会が広島に来て、本当にバンス元国務長官、ソ連のアルバトフ氏、それからパルメ氏等々、みんながこれだけのものを共通の安全保障として核問題についても通常兵器の軍縮についても出せるわけだ。そういう地位にやはり日本はあるわけなので、唯一の被爆国としての、また平和憲法を持つ日本としてのそういう努力安全保障、軍縮問題でぜひしなければならないということを強調して、質問を終わりたいと思います。
  125. 関嘉彦君(関嘉彦)

    ○関嘉彦君 今上田委員からできるだけ一致した報告書をこの委員会で出すようにしたいという御意見でしたけれども、一致した意見ができればそれにこしたことはないのですが、こういった問題について簡単に意見が一致する問題ではないように思いますし、また、むしろ今まで対立のあった問題ですから、どういう点で意見の対立があるのか、その対立はどういう根拠から起こってきているのか、そのことをこの委員会としてははっきりレポートに書いて、その最終判断は国民にゆだねる、これが私はこの委員会の任務ではないかというふうに考えております。  社会現象というのは、ここで言うまでもないことですけれども、自然現象と違いまして、社会現象についての知識あるいは認識というのは、単なる事実というのは知識の素材にすぎないのであって、例えばソ連の軍艦が何隻あるということは事実ですけれども、それはどういう役割を持っているのか、どういう意図を持っているのか、やはり社会現象というのは人間の行動でございますから、どういう意図、どういう理由でやっているかということを知るのでないと、本当の知識を得たことにはならないと私は考えております。そういう事実を解釈する場合には一定の眼鏡が必要でありまして、その眼鏡はどういう眼鏡を使うかによりまして同じ事実の解釈についても異なった解釈が生まれてくる。  国際政治について言いますと、西側の陣営の立場の眼鏡を使って見るか、あるいは中立の立場の眼鏡を使って見るか、あるいは東側の陣営の眼鏡で見るかによって、同じ事実についてもその解釈は違ってくるだろうと思います。私は西側の陣営、自由陣営の立場に立って国際政治を見ておりますので、その立場からお三人の述べられたことに関しまして私の意見及び質問を申し上げたいというふうに思っております。この委員会はできるだけ長期の問題を論じた方がいいと思いますので、国際政治考え方、そういったふうな問題について質問したいと思います。  よく日本では、自衛隊があるから戦争が起こるんだ、あるいは安保条約があるから戦争に巻き込まれるんだというふうなことを言う人がありますけれども、私はそれは原因と兆候とを取り間違えているんじゃないかというふうに思います。国際紛争の種になるような問題があるので紛争がエスカレートしていくと戦争になるし、また、その戦争を予想して軍備がつくられるし、あるいは軍事同盟がつくられてくるわけであって、その国際紛争の種になるものを除去していく、これが私はやはり、非常に険しい道、非常に遠い道ではありますけれども、結局は世界平和をつくり上げていく道ではないかというふうに考えております。  その紛争の種になります原因はいろいろあると思います。過去の歴史の戦争を全部取り上げて一つ一つ拾い出すことはとてもできませんけれども、宗教の対立てありますとか、宗教の対立ということは現在り言葉で言いかえるとイデオロギーの対立ということもそれに含まれるでしょう。信念の対立、自分の信念を広めていこう、相手に押しつけていこう、そういったふうな宗教といいますか、信条の対立てありますとか、あるいは未解決の領土問題、自分の国の領土と思っている領土がほかに占領されている、その領土問題の解決でありますとか、あるいは支配力の拡大といいますか、個人の場合でも同じことだと思いますけれども、権力意識、ウイル・ツー・パワー、他へ支配力を拡大していこう、これがやはり集団であります民族の場合においてもあるんではないかと思うのです。そういった支配力の拡大、これも一つの戦争の原因になるんではないかと思うのです。あるいは経済的な利害の対立、殊にその国の存在にとって不可欠な資源確保のために戦争をするというふうなこともあったように思います。あるいはその国が安全感を喪失した、これは事実そうであるのか、あるいはそう思っているフィクションにすぎない場合も私はあると思いますけれども、そういった自分の国の安全が脅かされている、そういう感じを持ったときに戦争が起こっていることもあるように思います。  さらに、そういった紛争の種があるときに直接の引き金になりますのは、例えば偶発事件、先般のラングーンにおける爆破事件なんというのは、ビルマの発表によりますと北朝鮮による韓国の要人の爆破事件ですけれども、ああいったことは昔であれば私は戦争になったのではないかというふうに考えております。しかし、特に最近重要なのは、相手の意図を誤認する、これが戦争のきっかけになっていることが多いように私は思います。第二次大戦にしましても、ヒトラーが、まさかイギリスは立つまい、そう思ってポーランドに攻めていって、それが結局戦争になっている。イランとイラクの戦争にしましても、新聞の報道ですからこれはどこまで本当かわかりませんけれども、イラクは、ちょっとおどしをかければイランは国内崩壊するであろうというふうに考えたというふうなことがありましたけれども、これもやはり相手の意図の誤認というふうな中に入れることができるのじゃないかと思います。  そういう意味で、安全保障条約があるから日本が戦争に巻き込まれる、あるいは自衛隊があるから日本が戦争に巻き込まれるという考え方は、私は間違いではないかと思います。恐らく岡崎さんも同じ意見じゃないかと思いますけれども、何かコメントがあればおっしゃっていただきたいと思います。
  126. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) その点だけのコメントを申し上げますと、まさに私は第二次大戦の各国の例から見まして、日本がもし戦争に巻き込まれるとすれば、これは日米安全保障条約があるとか、それからあるいは三海峡を扼するという意思があるとか、そういう問題と全く関係なしに、日本の置かれている戦略的環境から巻き込まれるだろうというふうに考えております。  これは具体的に申しますと、スイスとスウェーデンというものは中立ができまして、ベルギーとデンマークは中立ができなかった。ノルウェーもフィンランドもできなかった。これはベルギーとかデンマークの国民が平和を守ろうという意思がスイスやスウェーデンよりも弱かった、心の底から思っていたその思い方が足りなかったということでは全然ないのだろう。また、ベルギーやデンマークが平和外交に徹していなかったというわけでもないのでございます。結局、戦争というものは大国にとって生きるか死ぬかの問題でございますから、大国から見て戦略的にどうしてもここをとらざるを得ないと思うところはとらざるを得ない。その場合、唯一の尺度は抵抗がどのくらい強いかというだけのことでございます。最近の「ジェーン」の判断のようなものが出てまいりまして、ザ・モースト・ライクリー、最もあり得そうなと言っているわけでございますから、この「ジェーン」の判断が正しいとすれば、一次大戦、二次大戦の前に戦争が始まれば必ずドイツがベルギーをとると決まっていたようなものでございまして、それに近い状態が起こっているというふうに判断されるわけでございます。それに対して我が国ができる最も可能な方法は、安全保障条約を結ぶこととみずからの自衛力を高める、そして抵抗力を大きくすることだというふうに考えます。
  127. 関嘉彦君(関嘉彦)

    ○関嘉彦君 日本にとってやはり最大の問題の国はソ連だろうと思うのですけれども、このソ連というのは帝政ロシア以来いろんな歴史を経過しているのですが、この帝政ロシア時代のロシアと、それから現在のソ連との間にどれだけの国際政治上のコンティニュイティがあるか、連続性があるか、あるいは連続性がないか、これが我々ロシアを判断する場合に考えなくちゃならない問題だろうと思います。地政学的に見ると、ロシアがソ連に変わりましても、共産主義の国に変わりましても、地政学上の位置は変わりませんし、またスラブ民族としての一種の共通の性格、これは多少はだんだん時代とともに変わってきますけれども、やはり共通の民族的性格というのはそう簡単には変わるものじゃない。そういう点で考えまして、現在のソ連を考える場合に、帝政時代のロシアの対外的な行動と、それから革命後のソ連の対外的な行動とを考える必要があると思うのですが、これはいつでしたか、多分私の記憶違いでなければ大平首相の時代だったと思いますが、ソ連防衛的な国家であるか攻撃的な国家であるかということが問題になって、間違っていたら取り消しますけれども、たしか大平首相は防衛的な国家であるというふうに言われたことがあったように思いますが、防衛的、攻撃的ということもこれは厳密に定義していきますと難しい問題ですが、しかし私は必ずしも帝政時代のロシア、それから現代のソ連、一貫して防衛的であったとは言えないのではないかというふうに考えておりますけれども、岡崎さんどうでしょうか。
  128. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) この点は政府の見解というものは恐らく申し上げたことはないと思いますので、私個人の見解でございますけれども、別に政府の見解に反するということもございませんと考えております。  私よく海外の学者と議論しておりまして、西欧ではソ連防衛国家であるというのはかなり定説になっております。これは歴史が証明するわけでございまして、ナポレオンにしても、ヒトラーにしても、一次大戦にしても、それからさらにさかのぼってチャールス十二世のときも、ソ連は初め必ず侵略を受けました。それを押し返す、押し返す形でもって国を大きくしていく、これはヨーロッパにおけるソ連の歴史の定型でございます。  しかし、アジアにおける歴史を見ますと、日清戦争の後で遼東半島を還付させて、満州に大兵を送って半ば自分の領土にしてしまう。しかも日本から返還させた遼東半島をとる。これはいかなる点で防衛的であったかというのでございますけれども、これは当時のいかなる文献を見ても防衛的という結論はどこからも出てまいりません。せいぜい、どういう理由があったかといえば、ツァーの歓心を得るために側近がお互いに功名争いをやって、少しでもたくさんの領土を取ってツァーに献上するということだそうでございます。実はアフガニスタンの人間とかトルコの人間に言わせますと全く同じことでございまして、西側ではソ連は弱いわけです。いざとなれば負ける可能性があるわけでございますからどうしても防衛的になる。ただ防衛の弱いところでは、過去の歴史が示す限り防衛的であったという証拠はどこにもございません。極めて卑近な話で北方領土占拠、これが防衛的であるかというと、これはどういう方法によっても説明し得ないことだと思います。
  129. 関嘉彦君(関嘉彦)

    ○関嘉彦君 私もロシア時代から確かにそうであったというふうに考えておりますけれども、さらにそれが革命後ソ連に変わったわけですが、現代ではソ連社会主義国であり、社会主義国は平和愛好国であり、よってソ連は平和愛好国であるというふうなことを言う人はいなくなったと思いますけれども、しかし私はソ連という国を考える場合に注意しなければいけないのは、マルクス・レーニン主義の考えでは、つまりパワーコンシャスというのが非常に強いドクトリンじゃないかというふうに考えております。党の組織、国家の組織を見ましても、いわゆる民主集中制、権力を集中する、一つにして、そしてそこから、上から命令するというのがマルクス・レーニン主義の考え方だと思う。そういう国同士の間においてはいわゆるフェデレーション、横の協力という関係は生まれない、命令するのは一人でなくちゃいけないから。中国とソ連が対立したので、共産主義の国同士が対立したので現代の東西の対立はイデオロギーの対立てはないとよく言われますけれども、私は中国もソ連も民主集中制であるからこそ一つのインターナショナルの中で生活することができないわけであって、これはやはり依然としてイデオロギーが国際政治において重要な役割を演じているものと見ていいのではないかと思います。その点についてどういうふうにお考えか、岡崎さんにお願いします。
  130. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) ちょっと、私は質問の要点をミスいたしまして申しわけございません。
  131. 関嘉彦君(関嘉彦)

    ○関嘉彦君 あなたの本では、つまり帝政ロシア時代からの連続性を強調している面が非常に強いように思うのですけれども、その連続性の面はありますけれども、帝政時代のツァーの考えの権力の行使の仕方と、いわゆるマルクス・レーニン主義に立つソビエト共産主義の権力行使の仕方とは私は非常に違うように思う。したがって、国際政治を考える場合においてもそのことを、づまりウイル・ツー・パワーが非常に強い国であるということを自覚しておく必要があるように思うのですけれども。
  132. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) いずれも中央集権国家である、専制的国家であるという点につきましては同様であるというふうに考えております。
  133. 関嘉彦君(関嘉彦)

    ○関嘉彦君 私が言っているのは、つまり帝政時代においてはギリシャ正教で、ルネッサンスなんか経ていないギリシャ正教であるけれども、それからまたスラブの使命感というふうなものもあるけれども、一つの思想に統一する、最近の言葉で言えばいわゆる全体主義の国ではなかったように私は思う。ソ連になってからはそれが全体主義の国になった。最近それはだんだん緩和されてきつつあることは認めますけれども、少なくともスターリン時代に関する限りはそうであったし、それが国際政治にもソ連の対外行動にも影響しているというのが私の意見なんですが、岡崎さんどうですか。
  134. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) その御意見、ソルジェニツインの言っている意見と同様の御意見だろうと存じます。つまり、ロシアというのはかっては専制国家であったけれども、にもかかわらずロシアの民族性というものあるいは国民性というものを中心とした民族国家であった。現在のソ連は共産主義イデオロギーのもとの中央集権国家である。これは全く性格の異なるものである。一般の国家として普通の、話せばわかるとか、それからあるいは感情に訴えるとか、そういうことができない国であるということをソルジェニツインは言っております。これは一理ある議論だと思っております。
  135. 関嘉彦君(関嘉彦)

    ○関嘉彦君 ソ連の問題いろいろありますけれども、時間がありませんので。  日本が安保条約を結んでいるアメリカの対外行動といいますか、これは我々安保条約を結んでいるだけに、その対外政策というのを十分注意しておく必要があるように思うのであります。岡崎さんのかねがねの御主張は、日本はアングロサクソンの国と仲よくして手をつないでいかなくちゃいけない、私も同様であります。ただ、イギリスと違ってアメリカの場合は、ちょっと歴史的な経験が浅いせいか、その対外政策がある意味において非常にナイーブな点があるように思う。  アメリカ史の本を書いたある学者は、アメリカというのは十八世紀からいきなり二十世紀になった国であり、十九世紀を飛び越してしまっている。ヨーロッパの諸国は十九世紀にナショナリズムの運動でありますとか、戦争であるとか革命であるとか、いろいろなことを経験しておるので、いわゆる十八世紀の啓蒙思想を克服することができたのだけれども、アメリカはその十八世紀の思想をそのまま二十世紀に持ち越しているものだから、よその国も自分の国と同じように考えているんだ、すべて人類は一つなんだ、理屈を説いていけばみんなそれに賛成するはずだ、そういう考え方を持っているのじゃないかというふうに私は考えている。これがアメリカが自分の国の社会体制をアジアあたりに押しつけて、日本の場合それだけの素地がありましたから成功したですけれども、ベトナムで失敗して、フィリピンでもうまくいかなかった、形だけの民主主義であって、実質は独裁政治、それをカムフラージュするにすぎない、そういう国を生んでいるように思う。  あるいはアメリカ外交を見ておりますと、これはソ連なんかと非常に違う点ですけれども、自分の国の政策を盛んに批判するわけです。南米に対するレーガンの政策なんかをアメリカの議会などで盛んに批判しておりますし、それからかなりの程度においてその情報を公開する。その点は判断がしやすいのですけれども、ある意味においてそういった人間のどろどろした性格といいますか、ダークサイドを余り見でないような気がして、それが対外政策にもしばしばあらわれているのじゃないか。そのことをやはり日本としてはアメリカとつき合っていく上において注意していないと、こちらでは何の気なしにしたことがアメリカに対して非常に失望感を与えるというふうなことにもなりかねないのじゃないかというふうに思うのですけれども、岡崎さんはアメリカで長いこと生活をしておられた。私はアメリカというところは余り知らないのですけれども、私の考え方が間違っているかどうか。
  136. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) アメリカには確かにリベラリズムの伝統というのがございまして、リベラリズムの勢力というものは、まあこれは人口比にすれば非常に少ないのでございますけれども、学界、言論界に非常に強い勢力を持っておりまして、常に現実的な政治理論を持つ人から批判されております。キッシンジャーであるとか、それからサミュエル・ハンティントンであるとか、そういう現実的政治学者から批判の対象になっております。その内容は、つまり国際政治について甚だナイーブであるということなんです。実は先ほど上田先生がパルメ委員会報告をお出しになって、こういう結論に到達できないはずはないとおっしゃったときに、私発言する機会を逸したのでございますけれども、パルメ委員会に入っていますバンスという方は、現在アメリカのリベラルの指導的役割を持っている方でございまして、明らかに現在のアメリカ政府の政策とも違いますし、それから、もともと民主党の方でありますけれども、民主党の中の主流の考え方とも違うようでございます。  ただ、リベラルの方というのは大変人柄のいい方が多くて、極めて善意でいらっしゃるのでございますけれども、大体すべての平和運動というのはそういう結論になるのでございますけれども、非常な善意で世界平和ということで話をしているうちに将来の見通し、理想はよろしいのでございますけれども、結論部分になってまいりますと、日本の場合で言えば必ず日本防衛力を弱める方向、日米安保体制を弱める方向、それからアメリカの場合はアメリカ防衛力の手をみずから縛る方向、必ずそういうふうに結論がいってしまう。これがリベラリズムのナイーブさが及ぼす一番の害であるというふうに考えられております。
  137. 関嘉彦君(関嘉彦)

    ○関嘉彦君 まだ岡崎さんにいろいろ質問したいこともありますけれども、時間がないのでいずれ機会を改めて……。  次に、山田国連局長にちょっと事実についてお尋ねしたいのですけれども、INF交渉でいわゆる「森の散歩」という、ウィーンの森でニッツとクビチンスキーとか、ちょっと名前があれかもしれませんけれども、散歩している間に暫定的な協定に到達したのだけれども、それは結局両方が拒否してだめになってしまった。四、五日前の日本の新聞に載っていたのですけれども、あの協定がもう少し早くできていればINF交渉は成功していたかもしれないというふうな外国電報の記事がありましたが、あのいわゆる「森の散歩」というのが失敗したのはどういうところに原因があったのですか。もし御存じであればお答えいただきたいと思います。
  138. 政府委員(山田中正君)(山田中正)

    政府委員山田中正君) 先生今御指摘ございました森の中の散歩方式、米ソのINF交渉の首席代表の間での話があったというものでございますが、その内容として伝えられておりますのは、欧州において双方のINFミサイルの発射機を七十五基ずつに制限する、米国はパーシングⅡは配備しない、したがいまして巡航ミサイルが七十五、SS20が七十五、この七十五というのはヨーロッパ部分だけでございます。そして、いわゆるアジア部につきましては凍結する。それから航空機につきましては、双方百五十機以上の中距離核搭載航空機配備しないというふうなこと、こういう話が行われたということでございますが、まず本件が実現しなかったのは、首席代表間での非常に非公式な話ということでございまして、それぞれの政府が持っておりました基本方針の枠内でのことではございません。例えば、ソ連が現在も主張しておりますように米国のINF欧州配備は全く認めないという立場にソ連側から見ればそごをいたしておりますし、アメリカ側から見ますれば米ソのINFのグローバルな均衝を図るということでございますが、これは欧州部分について言っておりましてアジア部が抜けておりますので均衡が図られてないわけでございますので、それぞれの政府の基本方針に合致していなかった、そういう意味で合意が得られなかったというふうに理解いたしております。
  139. 関嘉彦君(関嘉彦)

    ○関嘉彦君 私も多分そうだろうと思っておりました。日本の新聞に出たのは単なる希望的なスペキュレーションではなかったかというふうに考えていますけれども。  軍縮交渉というのは、我々も心から望んでいるわけですけれども、余り簡単にできるというふうに考えない方が失望を招かないためにいいのではないか。やはり米国ソ連、この両方が本当に軍縮協定に到達するような条件ができないと、わきの国がいろいろ言っても到底簡単に成功するものじゃない。それが成功するのは両方の利害が一致した場合、利害は裏切らないということわざがありますが、両方の利害が一致した場合、例えば両方が経済的に困ってくるとか、あるいは第三の脅威があらわれてくるとか、そういった利害が一致した場合と、それから両方の間で信頼感が徐々につくり上げられてきたときじゃないか。米ソ以外の我々日本としてなし得ることは、その米ソの間の信頼感をつくり上げていく上で少しでも手伝いができればいいのではないか。余り日本が大きな役割を果たし得るというふうには考えない方がいいというふうに考えております。  最後に、時間がなくなりましたけれども、ちょっと一つだけお願いします。  矢崎防衛局長にお願いしたいのですけれども、自衛隊の問題、量の問題もありますが、私はやはり質の向上が一番大事じゃないかというふうに考えております。その質をよくするためには、どうも今までの予算を見てみますと、先ほどからもほかの方からの指摘もありましたけれども、正面装備に重点が置かれて、後方施設、特に宿舎であるとか、そういった隊員の待遇の面において非常に手が抜かれてきて、あれでは優秀な人が自衛隊を志願するということはなかなか難しいのじゃないか、私もそのことを感じておりますので、やはり質をよくする意味において後方の宿舎であるとかそういったふうな問題についてもっと力を入れてもらいたいということ。  それからもう一つは、将校になる人たちですけれども、こういう人たちが優秀な人でないと兵隊の教育もできませんし、作戦なんかを練ることもできないと思うのでありますけれども、そのためには今の防衛大学校だけではちょっと足りないのではないか。防衛大学校を卒業してある程度の軍役に服した人が一般の大学に学んで、技術系統はかなり行っているのじゃないかと思いますが、社会科学の方面においても普通の学生と同じような講義を受ける、そしてそれによって視野を広くしていく、そういう軍人をつくっていくことが必要ではないかというふうに考えております。  時間がありませんので答えはよろしゅうございます。私の希望としてお聞き取り願いたいと思います。終わります。
  140. 秦豊君(秦豊)

    ○秦豊君 きょうは余り質問はしないつもりです。  やはり国会の中には、安全保障問題に対しては絶えずクールであると同時に緻密であるというセクションが、空間が必ずなきゃならぬと思います。おのれ自身が例えば内閣委員会に属している場合あるいは予算委員会で質問に立つ場合と、当委員会で意見を述べる場合とは明らかにおのれを取り巻く雰囲気が違います。さっきから先輩、同僚委員が申されておりますように一この委員会は本来まさに長期的な視野に立って行政に欠落している安全保障政策への提言を担う場でありまして、そこにこそ私ども共通のレーゾンデートルがある、役割があると、こう思います。  ところが、さっきからの質疑にありましたように、私どもの耳目にこの総合安全保障という専門用語が触れるようになりましたのは、たかだか大平総理時代防衛大学校の卒業式訓示で大平総理が述べられた安全保障総合性というあたりに前後して、民間のシンクタンクあたりが盛んに多用し始めた。そのあたりからマスコミ用語にさえなって今日に至っております。なるほど、昭和五十五年に法によって総合安全保障関係閣僚会議は設置されたものの、鈴木政権ではそれでも七回開かれております。ところが、その過程のある時点で、鈴木内閣の官房長官を担当されておりました宮澤さんと私とのある日のやりとりの中で、宮澤さんがいみじくも述懐されたことは、秦委員御指摘のように、総合安全保障関係閣僚会議の現状はともすれば情報交換でありあるいは知識の交流に終わっていて、あとは事務にとどまっている。とてもとても総合安全保障関係閣僚会議で新たな政策やそのための意思形成ができる段階にはなっておりませんという正直な述懐を漏らされたことは議事録にもとどまっております。中曽根政権になりまして、総合安全保障関係閣僚会議が開かれましたのはわずかに三回であります。某マスメディアのコメントによれば、開店休業か総合安保閣僚会議と、こういう記事になるのが現状であります。したがって、言葉だけが独走をして、行政サイドに関する限り総合安全保障政策の総合化はついに百年河清を待つがごときものである、これが実態ではないかと思います。いや、だからこそ私どもの委員会の役割がしたがってまた加重される、増幅されるというのが私の自己認識であります。  わずかな時間でございますし、さっきから戦略的思考をめぐるやりとりもあったのですけれども、私自身の認識の中では、まさに我が国に最も欠落しているのは国としての戦略的思考ではないかと思います。矢崎さんさっきからずっと展開をされましたけれども、あれを全部まとめても私は国家戦略の展開と見るわけにはいかぬと思います。防衛力というのは、私は自己完結性がなければならぬと思います。自己完結性を持つためには、シビアな内部解析によって、例えばある正面を守るための、それも国是に近い専守防衛に最もふさわしい武器、装備の体系は何か、あるいはその兵器の組み合わせは何か、展開のための機動力は何か、その財源は何か等々の内部解析のシビアなもののフィルターを通して初めて装備が充実する、そういう視点もなく今日に至っている。だから、予備隊以来三十四年で、一次防以来今日に至っておりますけれども、依然として陸海空三軍の装備の現状というのは自己完結性という観点からこれを切る限り、どの断面から切っても私は粗略であると思います。したがって、これは五六中業から五九中業、さらに六二中業と積み重ねても、この現状では、これを延長する限り私は一九九〇年になっても日本防衛力の自己完結性は全うされていないのではないかということをおそれる一人です。  したがって、今私どもに必要な視点というのは、立ちどまるという視点ではないかと思います。つまり、前のめりになるのではなくて、アレグロじゃなくてアンダンテだと私はいつも言いますけれども、少なくともそのような緩やかな視点に立って陸海空三軍を見直す。そして政治は、例えばイギリスの国防予算の編成を見ましても、イギリスの議会が軍にオーダーをする、防衛期待度を持って、例えばNATO正面にはこれだけの国防予算を与えるからそのかわりヨーロッパ中部でこれを担いなさい、海峡防衛にはこれだけの予算を与えるからそのかわりここまでは絶対に守りなさい、あるいは本土防空はこう、シーレーンはこうと、こういう厳密はオーダーが、防衛期待度がイギリスの議会からイギリスの陸海空三軍に下命される。軍はそれを守る。果たして我が国にはそれがあるだろうかと考えると、私は甚だ寒い風景をしか見られないわけですね。お寒いとしか言いようがない。陸海空三幕それぞればらばらであって、陸海空三幕ばらばらの装備調達計画。だから口のいい人も悪い人も、買い物計画にすぎない、防衛計画ではない、これに反論できる勇気ある内局の高官は、あるいは政治家を含めてなかなか少ないのではないかと私は思います。  したがって、いずれにしましても、私は統幕は横並び一線なんだから、統幕議長といえども、それを内局がコントロールしています、厳しく抑えていますと言い得るかどうか、これからも言えるかどうか甚だ疑問なきを得ないし、また、国会というシビリアンコントロールの最高機関と言われているはずの我々のこのありようの中で、果たして毎年毎年の防衛予算に対する厳しいチェックが十分になされているかどうかについては、私も実は自信がないわけであります。自信がないから言わねばならないのであります。ともあれ、そういうことを言っていると切りがありませんけれども、やはりそういう視点が今安全保障問題、防衛政策を考える場合に最も必要ではないかということが私の申し上げたいことの一つ。  それから、今私どもは国防の基本方針あたりからそろそろ始まって、例えば一%論あり、非核三原則、専守防衛、武器輸出禁止三原則等々さまざまあります。その基本となる防衛政策の枠組み、原則等、アメリカ中心にした対ソ世界戦略というものの戦略の実態等を守っていると錯覚している、あるいは思い込んでいる建前としての防衛政策との乖離が急速に甚だしくなっている。この実態を見て国民の皆さんの不安もまた増幅されているわけであります。したがって、あらゆる意味で私は防衛政策、我が国安全保障政策は重大な転換期にある。だからこそ立法府のなすべきことは余りにも多いということを考えているわけであります。  まあせっかくの機会ですから、一つや二つはやはり皆さんに質問をしてみたいと思います。岡崎さん一私の大前提なんですよ、異論があれば反論をしていただきたいのですけれども、日本に体系的な国家戦略、どこから切り込まれても優に反撃し得る、答え得る精緻な十分な完熟した国家戦略は既に確立されているというふうにあなたお考えですか。
  141. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 秦先生御指摘のとおり、ほとんど私もごもっともと存じまして、やはり戦略的に物を考えていきませんと国民の理解というものが得られない、整合性のある、納得のある国家戦略というものが出てこない、そういうふうに考えております。ただ我々も、過去のいろいろ経緯その他の制約の中で、また民主主義でございますのでいろいろな妥協に従ってやっております。  国家戦略が日本にあったかどうかということでございますけれども、それを私はこういう公開の場で議論をするとかそういう点においては、これは明らかにちょっと弱い点があったことは認めるのにやぶさかでございませんけれども、あったことはあったと思います。つまりどういうときにあったかと申しますと、日本の議会民主主義というのは、いわば民主主義制度でございますから本来多数決のはずでございますけれども、同時にコンセンサスでございますね、ということでもってなかなかはっきりしたことは言いにくいわけでございますけれども、どうしてもこれだけは譲れない国家戦略という場合には、かなり多数をもって強行で実施しております。その例がサンフランシスコ講和条約であり、日米安保条約であり、それから六〇年安保改定であり、それから日韓正常化でございます。この場合は、国家の戦略として国民に対してじっくり説明をしているかどうかという点では確かに御指摘のとおり問題点はあったかもしれないのでございますけれども、やはりこれだけは譲れないという国家戦略がございまして、それを遂行したものというふうに考えております。
  142. 秦豊君(秦豊)

    ○秦豊君 あなたの著作をベースにした質疑が随分あったわけですけれども、あの著作は、少なくともそちら側にいらっしゃる政府側からコメントされる例えばシーレーンだけに限定しても、割とわかりやすいのはなぜか。常識を述べているからだと思うのです。あなたの常識を少し確認しておきたいのだけれども、例えばあなたは、アメリカの国防報告は毎年のように、日本極東におけるキーである、あるいはかなめそのものであるという記述をしているが、それは極めて当然であるという記述がありますね。それは私は私なりにわかっていますけれども、改めてあなたの踏まえ方を例えば、どういう認識が基礎になっていますか。
  143. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 私は、実は国防報告は過去十二、三年は読んでいるのでございますけれども、それ以前は読んでないわけです。それで、キーであるとか、かなめであるとか、あるいはいかりであるとか、そういうことを必ず使うのでございますけれども、それは沖縄返還のころからではないかと思います。それに対応いたしまして、我が方の外交青書、それから後から出てきます国防白書でございますね、これもアメリカ日本にとって一番大事な国である、それまで書かなかったのでございますけれども、七〇年代の初頭ぐらいから書くようになってまいりました。これは外交面でもって日米が非常に大事なパートナーだということをお互いに確認し合っている、これはもう続いております。ただその基本には、やはり日本というのはアメリカにとっても戦略的価値があるわけでございます。これは東西関係という枠内におきます日本の戦略的価値でございます。詳しくは申しませんけれども、地理的及び経済的、技術的に日本は非常に貴重な価値を持っている、そういうことでございます。
  144. 秦豊君(秦豊)

    ○秦豊君 例えば、中曽根総理が二月来の衆議院の予算委員会からずっと当院まで来ましてシーレーン防衛の中身について答弁された中に、たしか共産党の不破氏に対してシーレーン防衛ということについていろいろあなたは反論されるけれども、つまり不破氏に対してですね、シーレーン防衛というのはあなたの言っているようなものではない、日本のためなのであって、日本のためにやっている防衛行為なんだ、だからあなたとは見解が違うと不破氏に返しているわけですね。  ところが、対ソ世界戦略というものが牢固としてシステマティックに展開し組まれておって、積み上げられていて、そのあるパーツを担っているのが日本のシーレーン防衛であるというのは、これまた一つ軍事常識である。角度を変えればそうですよ。じゃ岡崎さんの認識の中では、アメリカの対ソ世界戦略というものの全体の中での日本のシーレーン防衛というのはどういう位置づけになりますか。
  145. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 日本のシーレーン防衛と申しますのは、これはもう国会でもって政府が答弁しておりますとおり、日本の自衛権の発動としてのシーレーン防衛でございまして、それ以上のことはいたしません。日本の個別的自衛権の発動としてのシーレーン防衛。ただその結果、それを日本が自衛権の発動としてシーレーン防衛しているということを与件といたしまして、それでアメリカ世界戦略をつくるということは十分可能でございます。これは東南アジアの国にとっても同じでございまして、例えば日本が南西千海里でもってバシー海狭くらいまでのパトロールを強化していくというような状況、それからスビックを中心とするアメリカが東シナ海の安全を守っているという状況、それがあって初めて東南アジアの国も非常に安心して安全保障の環境に置かれるというのが客観的な事実でございます。ただ、これが結果としてそうなったわけでございまして、日本という国が政策を実行していくことを与件としてアメリカ世界戦略を組み立て得る、そういうことでございます。
  146. 秦豊君(秦豊)

    ○秦豊君 最後だと思いますが、岡崎さんの担当していらっしゃる部の中に情報課というのがたしかあって、そこのいろいろな所掌というか所管というか、職務分掌ですな、その中に人工衛星写真の解析ですか調査企画ですか、私の記憶はその文書を持ってないからわからないが、それに類する表現がありましたね。しかし我が国はもちろん保有していない星ですから、一般的な偵察衛星の解析技術というふうなものを研究しているという意味ですか。それが一つ。  それから、今国会でもしばしば問題になっており、これからも問題になると思いますが、一体専守防衛という大原則を踏まえた場合に、ウサギの耳は長い方がよろしいという例の坂田さん以来のレトリックで、打ち上げてもらうかどうか、自前がどうかは別として、偵察衛星というものは北東アジアというものの極軌道で北東アジアに一個ないし二個我が国として保有した方が戦略情報の収集にとっては明らかに有利であり、具体的な成果がある、将来はその方向を目指すべきだというふうなことがぼつぼつ聞こえておりますよね。あなた自身はそれについてはどういうふうなお考えなのか、それを伺って終わりたいと思います。
  147. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) 私もはっきり記憶にございませんで、予算折衝の過程のいかなる文書でそういう表現が出たかはっきりは記憶しておりませんですけれども、私自身としましては、現在我々がやっております情報活動、これはできたばかりでございますので非常に忙しいのでいろいろなことをやっておりますけれども、その中の具体的な目標、具体的な計画の中には現在入っておりませんでございます。もちろんこれを、またある点でそういう考えが出たということも示すように、これを決して排除するものではございません。それについての研究を排除するものじゃございませんけれども、今のところ具体的な計画は持っておりませんです。
  148. 秦豊君(秦豊)

    ○秦豊君 それから人工衛星の保有、偵察衛星。あなたの私見で結構。
  149. 説明員(岡崎久彦君)(岡崎久彦)

    説明員岡崎久彦君) それについても私は具体的な計画を持っておりませんけれども、今先生がおっしゃったような目的日本が保有して、これを非常に実効、つまり日米協力上に実効あるものにするということにするためには、これは非常な投資が要るものでございます。この投資が、これだけの投資をするべきか否かという検討もしていない段階でございます。
  150. 秦豊君(秦豊)

    ○秦豊君 終わります。
  151. 委員長(植木光教君)(植木光教)

    委員長植木光教君) 本日の調査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後五時二十分散会      ―――――・―――――