○
参考人(
谷川久君)
成蹊大学の
谷川でございます。
本日は、
港湾運送事業法の一部
改正について
意見を陳述せよということでございまするが、
港湾運送事業法は、御案内のとおり、
昭和二十六年に制定され、その後の若干の
港湾運送事情の
変化に伴って
改正を重ねてまいっておりますけれ
ども、最後に
改正されたのは実は
昭和四十一年でございまして、ただいまの両
参考人の
意見陳述にもございましたように、その
昭和四十一年
改正以後における
港湾の
荷役の
革新は著しいものがございます。特に、
昭和四十二年以降、
コンテナ輸送の
導入という、いわば
海上運送における
輸送技術の
革新が
港湾に及ぼした影響というものは、非常に大きなものがあるということは、一般に指摘されておるところでございます。
特に、これは私の経験で、かつて
ヨーロッパから船で帰ってまいりますと、
ヨーロッパの港は
クレーンが林立する港でありました。それが、スエズを越えた途端に、
クレーンの見えない港になって、
沖取りを原則とするという
港湾荷役形態になっておったのでありますが、現在では、港の
整備、特に我が国における
港湾の
整備が非常に進みまして、
沖取り荷役ということはほとんどなくなっている。そこへもってきて、
コンテナ船による
輸送というものが
導入されてまいりましたために、岸壁での
荷役というものもほとんどが機械化されてしまってきているという
事情の
変化がございます。そのために、
コンテナの場合のみならず、そのほかの
荷役形態というものが一挙に機械化されてくることになって、
コンテナ埠頭のみならず、例えば
専用埠頭におきましても、
機械化荷役というものが
導入されてくるということになってまいりました。
そうなってまいりますと、従来、
沖取りを主体にしておりました
荷役において主役を占めておりました
はしけによる
港湾運送というものが、姿を消していくということになるわけであります。もちろん、現在でも、在来型の船舶における
荷役の促進のために、片側は岸壁で片側は
はしけを使うという
荷役も行われておりますし、さらに川筋への
輸送については
はしけを使わざるを得ないという形態も残っておりますけれ
ども、かつての姿に比べますと、
港湾荷役の形態というものは、特に
はしけを考えれば非常に大きな
変化をしておる。
一方、先ほど来指摘もありましたように、
コンテナ化が異常な勢いで進んできておるわけであります。かつて私が、アメリカで見てまいりまして、これからの
輸送形態には
コンテナが
導入されるであろうということを皆さんに申し上げたのでありますが、そのときは、往航復航の荷物のバランスがとれない以上、
コンテナ輸送は
導入できないだろうという予測を立てられた方が大方であったわけでありますけれ
ども、十年たった四十二年には
コンテナが
導入され、
導入されるとその後の進展はこれまた予想以上に激しいものがありまして、現在の
定期航路におきましては、アフリカ
関係と一部南米
関係、これは特に
港湾設備の
関係からでありますが、そこの
関係の
定期航路を除きましては、ほとんど
コンテナ化されておるというのが現実であります。
そうして、御存じのとおり、
コンテナによる
輸送の港頭地区における
荷役というのは、全く大型機械に頼り、しかも
荷役の効率化を図るために、電算機を
導入したコンピューターと結びつけての効率的
荷役を行うというような形態に
変化してきているわけであります。
そうなってまいりますと、二つの面で問題が出てまいります。
在来型の
荷役というものをしなければならない船舶、そういう荷物もまだたくさん残っておるわけでありますが、これは量的に言えば非常に減ってきておるということで、在来型
荷役の形態を前提にして物を考える、それを中心にして物を考えるということができなくなってきているという面が出てまいります。
それから一方では、
沖取り荷役の原則から岸壁
荷役の原則に変わってきたことによって、
コンテナ船以外の部分におきましても、
船内とそれから
沿岸との
荷役を直結してこれを扱うということが通常の形態になってくる。間に
はしけの介在がございませんから、
船内と
沿岸とが直結するということになってきて、その割合が非常にふえてくるということになってまいります。
そういう状況の
変化を前提にして業法を考えましたときに、業法における
免許基準というのは、これほどの激しい
荷役形態の
変化というものを前提にしないで、業の
区分、
免許の
区分をしてきていたわけでありまして、それから見ると、実際の
港湾運送業の引き受け形態と甚だ一致しない部分というものが出てくるというわけでありまして、その意味では、まず今回の
改正の中で
船内と
沿岸とをあわせて行う業態というものを取り出して、これがいわば主流になってきている部分でありますが、これを取り出して別の
免許基準とするということに位置づけるというのは当然のことでありまして、事態の
変化からいいますと、この
改正はむしろ遅きに過ぎているのではないかと私は考えているわけであります。
この点との
関連で、もちろんこの
法改正によって既存
業者の利益、権益というものが害されるということになってはいかぬという考慮からでありますが、経過措置として、従来の
免許そのものはそのままの範囲で効力を有するという取り扱いをされているのは当然かと思いますが、ただ、新たに設定されます
船内と
沿岸とをあわせて行う
業種について考えますと、一方で
業界への新規参入というものが事実上制限をされておるという状況のもとで、果たして新しい
免許基準に基づく
免許申請がどれだけなされるのか。必ずしもそう一気に、新しい
免許基準に従った新しい
業者が出てくることにはならないのではなかろうかという気がいたします。むしろ、一方でそういう新しい
実態に即した、
船内と
沿岸とを結びつけた業を行う
業種を設定して
免許基準を設定する以上は、少なくとも
船内と
沿岸と両方の
免許を受けている者については、一定の期間を限って、その間に新しい基準に適合するように誘導していくぐらいの配慮があってもよかったのではなかろうか、という気もするわけでございます。
いずれにしましても、新しい
免許基準を設けるということにつきましては、私はそれでいいのではないか、それがむしろ正しい道ではなかろうかというふうに思うわけであります。
それから、もう
一つ問題になってまいります下請制限の十六条の
関係でありますが、この十六条はどういう前提ででき上がっておるかと申しますと、本来は、一般
港湾運送事業者が荷物を集めてきて、そして全部下請に出してしまう、そして
港湾運送事業者とはいいながら何ら自分では本来の
港湾運送事業を行わないという態勢ができたのでは困る、しかもその中で中間利益を収受するというような形態ができたのでは困るということで、そこにはいろいろ弊害が出てくるということから、少なくとも一部について直営をするのでなければ下請をしてはならないという形で制限をしてきたのが、十六条の本来の趣旨でございます。
しかし、先ほど申し上げましたように、
港湾における
荷役形態というものは非常に
変化をしてまいりまして、特に大型設備を投入した近代的
港湾におきましての
荷役というものは、相当複雑なシステムを駆使してこれを行わなければならないという部分が出てまいります。それだけの施設をつくって、そしてその
統括管理をしている者については、これはそれ自体が
港湾運送事業の一部と見られるわけでありますから、みずからその個々の行為について直営をしなくても、下請に出すことを認めても弊害は起きないであろう、そしてそういう
統括管理的行為を行う
業者というものを育成していくことが一方で必要であるという認識に基づいて、新たに
統括管理の場合の下請制限の例外規定を設けようというのが今回の十六条の
改正の趣旨だと思います。
私は、少なくとも、
コンテナ埠頭等近代的な設
備で複雑な
港湾荷役のオペレーションについてコントロールをしていく、管理をしていくという
作業を行っている限りにおいては、これを下請制限の例外的に取り扱っても、本来十六条が危惧して、十六条を設ける前提としていたような弊害というものは出てこないということになると思います。これは、どういうものを具体的な対象としてとらえるかという命令の定め方にもよると思いますが、少なくともここで基本的に考えられている部分というのは、そういう弊害を伴わない部分であるので、これはそういう形態を認めても弊害は起こらないであろうと思われるわけで、この点についても、これでいいのではないかというふうに思います。
さらに、この
改正の持っているメリットが出てくるだろうと思われまするのは、実は先ほど申し上げましたように、
港湾荷役の形態が
沖取り荷役から岸壁
荷役に変わってきた、そうなりますと、
はしけの
荷役というものが非常に激減してくる。いろいろと
政府も施策を講じて、これは買い上げその他の手だてを講じておりますけれ
ども、なおかつ
はしけは現在でも過剰状態ということになっている。それはなぜそういう状態になるかといいますと、
一つには、一般
港湾運送事業者が一部の
作業を直営しなければならないという前提がございまするので、
はしけを直営
基盤にして一般
運送事業者として
免許を受けて営業している
港湾運送事業者は、
はしけを手放すわけにはいかないということになるわけでありますが、新しい
統括管理者を
基盤とする、
港湾施設における
作業の
統括管理をする者を
基盤とするその種の
免許ができ上がりますと、そういう
体制ができ上がりますと、従来、
はしけ基盤であるがゆえに、余剰であり、不経済的であると観念しながらも整理できないでいた
はしけを手放して、そして新しい
基盤の上に、一般
港湾運送事業者としての活動の
基盤を見出していくということが可能になる、そういうメリットが出てくると思うのであります。
いずれにいたしましても、そういう意味で、この主な
改正点、二点でございまするが、この二点、いずれもこのように
改正してよいのではないかというふうに考えるものであります。
私の陳述をこれで終わります。