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説明員(太田知行君) 簡単にとおっしゃいましたんですが、まず概要を申し上げますと、去年の秋のことでございますが、大体
先生御
指摘の時間などはそのとおりでございます。そして、一たん賃金カットをいたしましたけれ
ども、行われた事実と当局側の措置との間にアンバランスがあるということを門鉄当局も後に認めまして、カットした相当額に法定利子をつけましてこれは本人に支給をいたしております。
事実
関係としては以上でございますが、お話の中に今幾つかの御
指摘がございました点について申し上げてまいりたいと思いますが、まずひとつその背景をぜひお聞きいただきたいと思うのでございます。
これはちょっと長くなるかもしれません、なるべくかいつまんで申し上げたいと存じますが、去年の春ごろでございますけれ
ども、長崎諌早地区におきましてある箇所の主席助役の自殺事件が発生いたしました。本当の深層心理というのはだれにもわからぬとは思いますけれ
ども、状況から見ますると、ある箇所へ転勤して一カ月後にそういう痛ましい事件があったのでございまして、やはり職場の中で職員の協力が得られなかったとか、あるいは苦情処理
委員会で若干のトラブルがあったとかといったようなことに起因するのではなかろうかと、ほかにどうもサラ金だとか家庭内のトラブルだとかというのがないので、大方の
関係者は大体そんな推測をしているのでございますが、そんな事件がございましたものですから、総裁から特別命令が出まして、私も特別
調査団の一員として長崎地区へ参りましていろいろ
調査をする機会がありました。
その機会に点呼にも、今のこの問題の駅ではございませんが、その地区の点呼にも私立ち会いました。そこで非常に異常だなと思いましたのは、点呼でございますが、それはかなり大きな駅で、この駅は大きな箇所でございますから、助役が三人ぐらいいて、点呼を受ける人が三十人ぐらいいて、そういう規模を御想定いただけばいいんですが、「A君」−「出勤」、「B君」−「捺印」、「C君」−「作業」、こういう返事が返ってくるわけなんです。その前にまず、「A君」と言っても、最初は返事が出ないわけです。二度目に「A君」と言うと今のような大体三つのパターンの返事が返るわけなんですね。これは大変異常なことだなと、こういうふうにそこで思いました。
後で、一連の
調査を終わりまして現場長や管理職諸君に集まってもらって懇談会をやった際に、あれはどういうことなんだと私から尋ねましたところ、どうも点呼の際に「はい」という返事をすることが屈従や屈服を意味するという、まあこれはどこがどう
指導したかわからないけれ
ども、
指導があるやにその人たちは聞いておるんだと。それでまたその
指導においては、しかしずっといつまでも無言でいたり返事を拒否したりするとまたいろいろトラブルも生ずるから、二度言われたら二度目には今のように答えると。「出勤」というのは、出勤しているから見ればわかるだろう、「はい」と答えなくたっていいだろうと。「捺印」というのは、出勤簿に捺印をしているのをもう助役、君たちは見ているだろうと。「作業」というのは、作業をする意思でここに来ているんだから返事をしなくていいだろうと。
こういう趣旨ではないかという想定を、まあはっきりそれは
指導があったとか指令があったということじゃないと思いますけれ
ども、推定を聞かされまして、実はこういう状態はもう何カ月も続いているんですよと。何とかこれを是正しなければいけないんで苦慮しているところですが、何か本社としていい
指導の仕方はないでしょうかと、もう本当に涙ぐみながらの問いかけがございまして、私
どももいささか返答に窮する受けとめ方をしたのでございますが、特効薬がないんだと。ここはやはり一人一人に今の
国鉄の置かれておる状況を
説明し、事態の認識を求めて
指導し、教育をして注意を喚起するしかないと。ここはもうひとつ、君たちも大変だろうけれ
ども繰り返し繰り返し
指導してくれよと言いおいて帰ってきたのでございます。
先生のお言葉の中に、点呼の際に起立、着帽云々と、こういうことがございますが、これは何も職場規律を是正するに当たって昨今そういうことを言っているんではなくて、もう
国鉄のまさに大げさに言えば百年来の伝統としまして、朝の点呼というのは、さあ一日がこれから始まるんだという非常に大事な大事なこれはきっかけでございます。
ちょっと脱線して恐縮ですが、例えば保線とか電気という保守
部門は定量化されておりません。天候に応じてあるいは設備の状況に応じて作業が変わりますので、朝、さあきょうはこういう仕事をしよう、Aグループはこれ、Bグループはこれと、まさに仕事を指示する大事な場面でございますし、それからまた動力車乗務員にしても車掌にしてもこれは一対一の点呼をやります。朝、朝じゃない、まあいろいろ時間がありますが、当直助役の前に出て、きょうの注意事項はこうこうこうこうと。だれそれ出勤、それであなたの勤務はこうこうこうだ、注意事項はこうこうということをやりながら仕事を確かめ合って、まさに業務の円滑な遂行を期するという、これは私
どもはやっぱり純風美俗だと思うのでございます。
ですから、点呼を受けるに際しましては、もうすぐそのまま作業できるような態勢、保守
部門の要員であれば制服を着て作業靴を履いて、あのスパッツと申すんですか、脚半みたいなのを巻いて行ける状態にある、車掌であれば腕章を巻き全部その装備を整えて当直助役の前に立つ、こういうことでございますし、駅であればそれぞれの職務にふさわしい服装をして出ると。ですから、服装の整斉、作業への態勢というのが点呼に臨むに当たっての大事な大事なこれは要素でございます。それから帽子を持っている人もおりますし、それは帽子の要らない職種もある、こういうことでございますし、「はい」という返事は、そういう点呼の中でお互いにこれから仕事に向かうんだという気迫を示し合い、お互いに伝達事項を確かめ合うためのやっぱりこれは大事なきっかけだと。で、大げさですが、百年間やってきたことでございますし、それからまた全国のかなりな地域においてはそこのところは今や浸透されております。
長崎諌早地区において私が見ました異常な事態というのは非常に局地的でございまして、そういう状態であるだけに、あの地区における管理者というのはやっぱり必死に懸命の思いでこの是正に取り組んでいるのだろうと思いますので、やはりその心情は察していただきたいと思います。
ただ、明らかにこれはアンバランスがございまして、やっぱり勤務に対する知識の欠如もございますので、その当該の管理者たちを責める前にその
指導をもっともっと管理局はすべきだったんじゃないか、本社はもっとすべきだったんじゃないか。あわせて、私自身について言えば、恐らくそこの駅長さんもいたかもしれません、私との懇談の場に。一人一人を地道に
指導しなさいよと言っただけでは足りないんで、もう少し勤務の問題についても
指導しなければいけなかったんだなというふうに反省しているわけでございまして、そういう背景があるということも御理解をいただきたいし、それからお言葉にありましたように、力の論理とか圧迫の構図というのはいささかも我々
考えてない次第でございます。