○遠藤和良君 私は、公明党・国民
会議を代表して、
雇用の
分野における
男女の均等な
機会及び
待遇の
確保を促進するための
労働省関係法律の
整備等に関する
法律案に対し、
反対の立場から
討論を行うものであります。(
拍手)
「天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず」「男尊女卑は野蛮の陋習なり。文明の
男女は平等同位、互いに相敬愛して独立自尊を全からしむべし」これは、この十一月一日から一万円札で登場する福沢諭吉の言葉であります。
およそ人間の尊厳と基本的人権、
男女平等は人類普遍の原理であり、これらを求める運動は、近代
社会の一大潮流を形成してきた感があります。そして、その精神を基盤にした
雇用における
男女平等の法制化は、欧米先進国においては既に一九七〇年代に完了しているのであります。ところが我が国では、今
国会にしてようやく国連で採択された婦人
差別撤廃条約を批准するため本
法案が提出されたのであります。その余りにも遅きに失した
政府の怠慢を、まずもって厳しく指摘しておきたいのであります。
しかも、その
内容は、主に
勤労婦人福祉法の
改正と労基法の一部
改正といった安直な方法によって批准への形式を整えたにすぎず、極めて実効性に乏しいものであります。もちろん我々も、既に署名のなされた婦人
差別撤廃条約を早期に批准することを望むものでありますが、その国内法の整備に名をかりて、
男女の
雇用の平等に関していやしくも
勤労婦人福祉法の焼き直しといった安易な方法をとり、しかもその
内容においても実効性が乏しい本
法案は、婦人
差別撤廃条約の本来の趣旨に反するものであり、断じて容認することはできません。
特に基本的な
問題点は、
法案審議の中でも明らかにされましたとおり、
政府はこの際、
女性の勤労権は基本的人権であるとの立場から、
男女雇用平等法を新たに制定すべきであります。何ゆえに単独立法の形をとらず旧法の一部手直しでお茶を濁そうとするのか、まことに理解に苦しむものであります。特に、
女性の
労働権を
勤労婦人福祉法の
改正で行おうとする時代錯誤の感覚は、まさに旧態依然とした
政府の体質を図らずも露呈して余りあるものがあります。すなわち、
女性の
労働権は、基本的人権として本来固有の権利として備わっているものであり、
福祉としてお上から与えられるものではないのであります。
勤労婦人福祉法の
改正で
雇用の均等を図ろうと意図すること
自体が
女性に対する
差別であり、本
法案は
男女差別を一層助長するものであると言っても過言ではないのであります。
私は、次に具体的な問題について指摘いたします。
まず、
女子労働者の
雇用に関して、
募集、
採用の入り口から、定年、退職、解雇の出口に至るまでの全ステージにおける
男女差別は、基本的人権を侵害するものとして禁止すべきであります。どころが本
法案では、
募集、
採用という
雇用の入り口から、
配置、
昇進という
雇用の全面にわたって、
差別がないように努めなければならないという努力義務
規定にとどめております。果たして、これで平等の理念が生かされるでありましょうか。さらにまた、出口の定年、退職、解雇、
教育訓練、
福祉厚生に関しては禁止
規定を設けたものの、その細部については省政令にすべてをゆだねて不明であり、しかも罰則はなく極めて実効性のないものとなっているのであります。
日本国憲法は、第十四条で法のもとの平等、第十三条では個人の尊重を示し、民主主義と
男女平等を明確に
規定しているのであります。そして
男女平等はその国の民主主義の水準を反映するものであり、民主主義の成熟度は
雇用における実態に顕著にあらわれるものであります。しかるに残念ながら、我が国においては依然として男性中心
社会、男子管理
社会といった弊害が続き、いまだに
女性の地位を圧迫したり軽視する傾向が強いのであります。確かに一昔前までは、男性は仕事、
女性は家庭といった観念が我が国にとどまらず諸外国にもありました。しかし、近年世界的に
男女平等、婦人
差別撤廃の力強い歩みが始まり、二十一世紀に向かって大きな革命的
変化が生じているのであります。
こうした
社会情勢を考えますとき、現在
国会に提出された
政府案のまま
法律となり、この
法律がそのまま国際舞台に上がるとすれば、私は冷や汗の出る思いがいたします。それは、まさに
日本の民主主義のおくれを全世界に示すに等しいものと言わざるを得ないからであります。繰り返して申し上げますが、単なる努力
規定ではなく、少なくとも禁止
規定とすることが、婦人
差別撤廃条約に示されているすべての適当な
措置の趣旨に沿う最低条件なのであります。
もう一点申し上げたいことは、監督機関として、違反した状態を是正するために
雇用平等監督官を置くとか、
紛争を行政的に解決していく有効な機関を設けるとかの
措置が当然必要であり、これなくしては平等実現の実が上がらないのであります。
ところが本
法案では、例えば苦情、
紛争は当事者における自主的解決にゆだね、場合によっては行政
指導による助言、
指導、勧告等を行うとしていますが、最も大切な是正命令が欠如しております。また、
機会均等調停委員会の
調停を求め得るものとしていますが、勧告に違反しても何らの
措置も行えず、
調停も当事者双方の同意が条件であって、もし使用者が同意しなければ
労働者は泣き寝入りしかないといった、まことに実効性に乏しいものなのであります。
次に、
労働基準法の
改正についても問題があります。
我が国の
労働基準法は、ILO等の国際レベルに比べると極めて劣悪であり、この
労働基準法によって男性
労働者の健康破壊が続出しているのが実態であります。現に勤務時間の短縮や週休二日制への改善の必要性が叫ばれていますが、一向にこの改善が行われないまま、
女子保護規定を緩和し廃止するという暴挙は、まさに
女子労働者を劣悪な
労働条件で働かせ、
女性の健康と母性破壊を促進するおそれがあることを危倶するものであります。本来労基法は、最低の
労働条件を定めることにより、
労働者全体の人たるに値する生活を保障するものであり、
女性の
労働条件を切り下げ
労働強化につながる今回の労基法の
改正は断じて認めることができません。
以上申し述べたとおり、今回の
政府案は、憲法及び
差別撤廃条約の精神にも反するものであり、我が国の特殊な
雇用形態の中でかえって
差別を温存し増長させる効果しかなく、断じて
賛成できるものではありません。したがって、
政府案に強い
反対を表明し、私の
討論を終わります。(
拍手)