○塚田延充君 私は、民社党・
国民連合を代表して、ただいま提案となりました
雇用の
分野における
男女の均等な
機会及び
待遇の
確保を
促進するための
労働省関係法規の
整備等に関する
法律案に関し、
総理並びに
関係大臣に対し
質問を行うものであります。
国際連合は、一九四五年、それまで二度にわたって言語に絶する苦しみと破壊を人類に与えた戦争の悲惨さから将来の世代を救う目的で、国連憲章を採択いたしました。その基本理念は、個人の尊厳を平等に
保障する基本的人権と
男女及び大小各国の同権に関する信念を改めて確認することにあったのであります。
しかしながら、それにもかかわらず、
婦人に対する広範な
差別が依然として存在することを憂慮した国連は、一九七九年、
婦人に対する
差別の
撤廃に関する宣言に掲げられている諸原則を実施すること、並びにこのために
婦人に対するあらゆる
形態の
差別を
撤廃するために必要な処置をとることを決意して、
婦人差別撤廃条約を採択したのであります。
もとより、基本的人権は、人類の侵すことのできない永久の
権利として現在及び将来の
国民に与えられているものでありますが、それを現実のものとして享受するために、世界のあらゆる国々で、その
国民が血と汗をもって闘い取り、守り続けてきたものであります。
我が国におきましても、
女性の人身売買及び売春からの搾取の
禁止、政治に参加する
権利や配偶者を自由に選び婚姻する
権利の獲得など、基本的人権を
保障するための
男女平等確立の歴史があったことを想起しなければなりません。
我が民社党は、立党以来、党の理念として、「一切の抑圧と搾取から
社会の全員を解放して、個人の尊厳が重んぜられ、人格の自由な発展ができるような
社会の建設」を綱領に掲げ、その実現を目指してまいりました。今、国連において採択された
婦人差別撤廃条約の
批准期限を来年に控え、私は、
日本が世界に冠たる憲法を持つ民主主義国家として、どの国にも引けをとらない
男女平等の制度を確立し、
条約批准の条件を整えることが何よりの急務であると
考えるのであります。
そこで、まず
総理にお伺いいたします。
国連
婦人の十年最終年に当たる来年のナイロビでの世界
会議の前に、
政府において示された国内行動計画をすべて実行し、
婦人差別撤廃条約を
批准案件として国会に提出することを約束できるかどうか。また、ただいま提案となりました
法案も含め、
批准案件として
政府が
考えておられる
整備すべき
国内法令とは何か。それをどのような手順で
整備したいと
考えているのか。
総理の明確なる御答弁をいただきたいのであります。(
拍手)
さて、
我が国の憲法第十四条は
男女の平等の原則を
規定しており、これを受けて
労働基準法第四条は
男女の賃金
差別を禁じております。しかし、残念ながら今日の
雇用における
女子を取り巻く
状況は、憲法上の要請からはほど遠いところにあると言わざるを得ません。
募集、
採用においては広範な
男女の
差別的取り扱いが行われており、また
採用の資格、技能についても同様となっております。
採用に際しては、
女子を特定の職種、職場、職務に
配置し、初任給に格差がつけられ、
教育訓練についても、
女子には訓練の
機会が少ないとか、または
男女で
内容が異なる訓練が行われております。
配置転換についても、
男子に対しては計画的に行われていることが多いのに、
女子にはこのような慣行が少ないのが
現状であります。
このような
男女の
差別的取り扱いの結果として、
女子の賃金は、
労働基準法第四条が
男女の賃金
差別を禁じているにもかかわらず
男子の約半分にすぎず、
昇進、昇格の
機会も少ないという
状況にあります。もちろん、
女子の
雇用上の
差別は、
我が国の広範にわたっている
社会的
差別、家庭内の
男女の伝統的な役割分担の問題等々歴史的に培われた
男女差別を背景に持っており、
雇用上の
男女平等をこれらの問題と切り離して実現することは極めて困難であり、この点では、全般的な性
差別禁止に向けての条件づくりが
現状に照らしつつ並行的に行われなければなりませんし、公共及び
企業内保育
施設の
整備、育児
休業制度の普及など
女子労働者への基盤
整備が必要であることは、我が党が常々訴えてきたところであります。
我が民社党は、以上のような
状況から、
募集、
採用について
男女差別を
禁止し、
女子に
男子と均等な
機会を
保障するとともに、
雇用条件、
労働条件、
教育訓練等について
男女差別を
禁止し、法に
違反する
男女差別を速やかに是正するための
措置を講ずるため、
男女雇用平等法の
制定を提唱してまいりました。私は、
政府が、水と油ほどにも異なる
労使双方の
意見の調整を図り、さまざまな障害を乗り越えて
本案を提出してこられた御
努力には率直に敬意を表するものでありますが、我が党がかねてより提唱してまいりました政策と比較しつつ、
労働大臣にお尋ねしたいと
思います。
まず、
禁止される
差別に罰則がありませんが、その
理由をお聞かせいただきたいのであります。
第二に、
募集、
採用、
配置、
昇進について
事業主の
努力義務規定としておりますが、その
実効性をどう担保されるおつもりなのか、
労働大臣は
事業主に対してどのような
指針を示すおつもりなのか、具体的に明らかにしていただきたい。
第三に、
本案は、事業場における
配置、
昇進、
教育訓練、
福利厚生、
定年、
退職、解雇に関する
女子労働者と
事業主の
紛争につき、その
自主的解決を図るべく
規定していながら、具体的やり方が明らかではありませんが、これで十分機能するとお
考えなのか。
第四に、救済機関としての
都道府県婦人少年室長並びに
機会均等調停委員会は各県一カ所であり、かつ罰則の裏づけもないのに、
労使間の
紛争に関するすべての申請に対し迅速適切、
効果的な救済を行っていくことができるのか。
以上の諸点につき、御見解を承りたいのであります。
次に、
労働基準法の
改正に関しお伺いいたします。
現在、
労働基準法制定以来三十七年を経、この間
女子労働者の
実態は大きく変わっております。
我が国の
女子就業者数は、
経済の高度成長期を通じて増加を続け、現在二千二百万人、全
就業者の約四〇%に達しており、その
就業分野も自営業の補助的家族従業者から
雇用労働者中心に変化し、その数は約千四百万人を超えております。さらに、従来、単身未婚者が繊維産業や商業に従事していた時代から、現在は、既婚者を含み、あらゆる産業、
職業に従事するに至っております。
このような
現状の中で、
労働基準法の
女子保護規定がむしろ制約となる現象が出てきているのも否めない事実であります。このような事態に対処するためには、
男子を含めた
労働条件の改善、
母性保護規定の強化とあわせて、
労働基準法の
女子保護規定の一部見直しは必要でありましょう。
ただし、
現行のこれらの
措置はそれぞれ歴史的な背景を持っております。したがって、私は、科学的根拠が認められず
男女平等の支障となることが明らかである場合を除き、その解消には広範な合意が必要であり、
男女平等の
実効を着実に上げるために実情に応じた
方法で漸進的になされなければならないと
考えるのでありますが、
政府はどういう御認識のもとに
本案を提出されたのか、さらに、これによって
女子の
労働環境にどのような影響が及ぶと
考えておられるのか、
労働大臣にお聞きしたいのであります。
また、
本案では、国の育児
休業に関する
援助について
努力義務規定を設けておりますが、我が党は、育児
休業制度が西ドイツ、フランス、イタリア、スウェーデン等各国で既に
法制化されている
現状にかんがみ、乳幼児を有する勤労
婦人が子供を健やかに育てつつ
職業が継続できるようにするため、
我が国でも育児
休業法を
制定すべきだと
考えますが、
総理のお
考えはいかがでありましょうか。
最後に、
本案の見直しに関する
政府の御見解をお尋ねいたします。
もとより我が党は、この種の
法律が国家の存立の源泉である
労働に関する具体的な
権利と義務を
規定するものであり、現実に多くの矛盾と問題を抱えた
我が国経済の中にあって、理想は理想であるにしても、初めからすべて完全無欠のものとして
制定できるものとは
考えておりません。それは、六年の長きにわたりこの問題を論議してきた
婦人少年問題審議会が、主要論点について
使用者委員、
労働者委員、公益
委員の三論を併記するという異例の
建議を行ったということにおいても明らかであります。また、まだ法
制定の経験のない
我が国においてこの
法律を
施行した場合に、現実
社会の波の中でどう進んでいくのか予測しがたく、
社会自身もまた同様に動いていくわけであります。
したがって、
改正後適当な期間内に関係
規定の遂行の
状況を調査
検討し、必要がある場合にはこれを見直す旨の
規定を
本案に明記することが、責任ある提案者の態度ではなかろうかと
考えるのでありますが、この点に関する
総理の御所見をお願いして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣中曽根康弘君
登壇〕