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国務大臣(渡部恒三君)
国民年金法等の一部を改正する
法律案について、その
趣旨を御
説明いたします。
我が国の公的年金制度は、
国民皆年全体制のもとで着実な発展を遂げ、社会保障の
中心的な制度として
国民生活において重要な役割を占めるに至っております。しかしながら、近時、
我が国の社会
経済は、人口構造の高齢化の進行、産業構造、就業構造の変化等により大きく変動しつつあります。これに伴い、年金制度のよって立つ基盤そのものにも重大な変化が生じております。
年金制度は、
国民が安心して老後生活を営んでいく上で最も重要な柱であり、このような社会
経済情勢の変化に的確に対応しつつ、
長期的に安定した制度運営が維持されなければなりません。とりわけ、
我が国社会が高齢化のピークを迎える二十一世紀前半においても、健全で安定した年金制度の運営が図られるよう
長期的展望に立った制度全般にわたる見直しが迫られております。
今回
提出いたしました
改正案は、このような
趣旨にかんがみ、年金制度改革に関する各
方面の御
意見をも踏まえつつ取りまとめたものであります。その主眼は、本格的な高齢化社会の到来に備え、公的年金制度の
長期的な安定と整合性ある発展を図るため、
国民共通の
基礎年金を導入するとともに、給付と負担の均衡を
長期的に確保するための
措置を計画的に講ずることであります。
こうした
見地に立って、今回の
改正案においては、まずその第一
段階として、
国民年金、厚生年金保険及び船員保険の再編成を図る等所要の改正を行うこととしております。
また、
基礎年金の導入に伴い、障害者の所得保障の大幅な改善を図ることとしております。具体的には、二十歳前に生じた障害につきましても
基礎年金を支給することとするとともに、成人障害者が自立生活を営む基盤を形成する観点から、特別児童扶養手当等の支給に関する法律を改正し、二十歳以上の在宅の重度障害者に対し、新たに特別障害者手当を支給することとしております。
さらに、昨今の社会
経済情勢にかんがみ、
昭和五十九年度において年金額等の改定を
実施することとし、そのための規定の整備を行うこととしております。
以上が
改正案の主な内容でございますが、以下、
改正案の具体的内容につきまして、順次御
説明申し上げます。
まず、
基礎年金の導入等年金制度の基本的な改正の内容について申し上げます。
第一点は、制度体系の再編成であります。基本的には社会保険方式を維持し、現行制度の独自性を尊重しながら、一方で
国民共通の
基礎年金給付を導入することにより、公的年金制度全体の整合性を確保することを目標としております。このために、
国民年金制度を
基礎年金を支給する制度として位置づけ、
国民年金の適用を厚生年金保険の被保険者及びその配偶者にも拡大することとしております。
基礎年金の給付は、老齢
基礎年金、障害
基礎年金及び遺族
基礎年金の三種類としております。
一方、厚生年金保険制度は、原則として
基礎年金に上乗せする報酬比例の給付としての老齢厚生年金、障害厚生年金及び遺族厚生年金を支給する制度に改めることとしており、この結果、いわゆる二階建ての年金体系となるわけであります。また厚生年金保険においては、被用者独自に必要な給付として、三級障害についての障害厚生年金及び子のない寡婦等従来の遺族年金の支給対象とされていた遺族に対する遺族厚生年金を支給するほか、当分の間、六十歳から六十四歳までの老齢厚生年金を支給することとし、全体として従来の給付要件は維持することとしております。
なお、
外国在住の日本人にも新たに任意加入の道を開くとともに、任意加入しなかった場合でも、いわゆる資格期間には算入することとし、無年金者の発生を防止することとしております。
第二点は、将来に向けての給付水準の適正化であります。現行制度のままといたしますと、受給者の平均加入年数の伸びに応じて給付水準が
上昇し続け、将来の保険料負担が過大となり、世代間の公平が失われ、制度の円滑な運営が損なわれることが確実に予測されます。そこで、本格的な高齢化社会を迎える二十一世紀に向けて、今後発生する年金給付については所要の見直しを行い、給付と負担の均衡を図ることとしております。
すなわち、年金水準につきましては、将来に向けて現在の水準を維持することとしました。具体的には、今後生じる
基礎年金の水準を
昭和五十九年度価格で月額五万円の定額としております。また、厚生年金保険の報酬比例の年金の乗率につきましては、施行日における年齢別に、二十年の経過期間中
段階的に逓減することとしております。この結果、被用者につきましては、夫の報酬比例の年金と夫婦の老齢
基礎年金とを合わせた年金額は、ほぼ現行の厚生年金保険のモデル年金の水準を維持することになります。なお、施行日において既に六十歳に達している者及び既発生の給付については、原則として従来どおりといたしております。
第三点は、婦人の年金権の確立であります。被用者の妻につきましても
国民年金を適用することといたしますので、改正後は、夫、妻それぞれに
基礎年金が支給されることとなります。これにより、従来からの課題であった単身世帯と夫婦世帯の給付水準の分化と妻の年金権の確立を図ることができることとなります。なお、当面は、被用者の妻にあっては、
国民年金への加入期間が十分でないことを考慮し、経過的に加算を行い、一定の水準を確保することとしております。
第四点は、給付の改善に関する事項であります。
物価スライド制につきましては、
実施時期を四月に繰り上げるほか、新たに障害
基礎年金や遺族
基礎年金の加算及び厚生年金保険の加給年金もその対象とすることとしております。
障害者の所得保障については、大幅な改善を図ることとしております。一つは、二十歳前の障害につきましても障害
基礎年金を支給することとし、拠出者の場合との給付水準の格差を解消することであります。その二は、資格期間でありますが、初診日前の被保険者期間中に三分の一以上の滞納がない限り年金を支給することとしております。その三は、障害
基礎年金の受給権者に子がある場合に相当の額の加算を新たに行うこととしたことであります。その四は、厚生年金保険の事後重症の制限期間を撤廃することとしたことであります。
遺族年金につきましては、子のある妻、高齢の妻に手厚い給付となるよう重点化を図ることとしております。
なお、厚生年金保険の各種の特例
措置については今回見直すこととしております。第四種被保険者制度いわゆる中高齢十五年加入の特例、第三種被保険者の期間計算の特例及び脱退手当金は、将来に向かって廃止するほか、女子の支給開始年齢につきましては、男子と同じ六十歳に引き上げることとしております。これらについては、例えば女子の支給開始年齢の引き上げについて、十五年かけて
段階的に行うなど、それぞれ所要の経過
措置を講ずることとしております。
第五点は、
費用負担についてであります。
基礎年金の給付に要する
費用は、
国民年金の保険料、厚生年金保険の拠出金及び国庫負担で賄うこととしております。
すなわち、自営業者世帯等については、
国民年金の保険料及び国庫負担がその財源になりますが、被用者世帯につきましては、被用者及びその被扶養配偶者に関して厚生年金保険が拠出金としてまとめて負担するという
考え方であります。したがって、厚生年金保険の被保険者及びその被扶養配偶者は、
国民年金の保険料を負担する必要はないという扱いになります。この拠出金の金額は、厚生年金保険の被保険者数と被扶養配偶者数の合計数の
国民年金の総被保険者数に占める割合に応じて政令で定めるところにより計算することといたしております。いわば被保険者数の頭割りで両制度が公平に負担するということになるのであります。
国庫負担は、
基礎年金に要する
費用に一元化するという
考え方であり、負担率は三分の一であります。厚生年金保険では、拠出金額の三分の一ということになります。なお、これとは別に、経過的な国庫負担等が行われることとなっております。
保険料は、自営業者等についてはこれまでどおり定額としておりますが、
昭和六十一年四月から
昭和五十九年度価格で月額六千八百円とし、その後も毎年度
段階的に引き上げることとしております。被用者については、
昭和六十年十月から保険料率を千分の十八引き上げることといたしておりますが、女子については、男子との格差を解消するため、引き上げ幅を千分の二十とし、その後も毎年千分の二ずつ引き上げることとしております。
第六点は、その他の事項についてであります。
まず、今回
基礎年金が導入されることに伴い、通算年金通則法は廃止することとしております。
次に、厚生年金保険については、常時従業員を使用する法人の事業所または事務所について、
段階的にその適用事業所とすることとしております。さらに、標準報酬については、六万八千円から四十七万円までの三十一等級に改めることとしております。
また、厚生年金基金については、年金数理に係る
業務等の受託
機関の範囲を拡大する等の改正を行うこととしております。
第七点は、船員保険についてであります。
船員保険の職務外年金部門については、年金一元化の
趣旨等にかんがみ、制度的に同一の内容を有する厚生年金保険に
統合することとしております。すなわち、船員は、厚生年金保険の第三種被保険者として適用することとし、過去の被保険者期間についても第三種被保険者並みに扱うこととするほか、職務上の年金について所要の改正を行うこととしております。
以上の年金制度の基本的な改正の施行期日につきましては、
業務処理面なども考慮し、
昭和六十一年四月一日としております。
ただし、障害年金の事後重症制度の改善につきましては
昭和五十九年八月一日から
実施することとし、厚生年金保険の標準報酬の上下限及び保険料率の改定については、前回改定時から五年目の
昭和六十年十月一日からとしております。
続きまして、第二の大項目であります特別障害者手当の創設について申し上げます。
二十歳以上であって、精神または身体の重度の障害により日常生活において常時特別の介護を必要とする状態にある在宅の重度障害者に対し、月額二万円の特別障害者手当を支給することとしております。
また、特別障害者手当の支給は、重度障害者の住所を所管する福祉事務所を管理する都道府県知事及び市町村長が行うこととし、特別障害者手当の支給に要する
費用は、国がその十分の八を、都道府県または市町村がその十分の二を負担することとしております。
その他、二十歳未満の重度障害児については、従来どおり福祉手当を支給することとしております。また、二十歳以上の従来の福祉手当受給資格者については、所要の経過
措置を講ずることとしております。
以上の改正については、
昭和六十一年四月一日から
実施することとしております。
最後に、
昭和五十九年度におきます年金額等の改定について申し上げます。
まず、拠出制年金については、公務員給与の改定及びこれに連動した共済年金の額の改定等を考慮し、
昭和五十九年度において特例スライドを
実施することとしております。改定率は共済年金と同じく二%であり、また
実施時期は、厚生年金保険、船員保険については四月、
国民年金については五月としております。なお、
昭和五十七、五十八両年度の物価
上昇率のうち、今回
実施の二%分を控除した部分については、次回スライドの際あわせて引き上げる扱いとしております。
福祉年金につきましては、拠出制年金の改善にあわせて年金額の改定をすることとしており、老齢福祉年金で申し上げますと、月額二万五千百円を月額二万五千六百円に引き上げることとしております。
実施時期については本年六月といたしております。
また、特別児童扶養手当の額につきましては、福祉年金に準じて本年六月から改定を行うこととしており、福祉手当の額につきましても、本年六月より所要の改定を行うこととしております。
以上がこの
法律案の
趣旨でございます。どうぞよろしくお願いします。(
拍手)
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国民年金法等の一部を改正する
法律案(
内閣提出)の
趣旨説明に対する
質疑