○沼川洋一君 私は、公明党・
国民会議を代表し、ただいま議題となりました
健康保険法等の一部を
改正する
法律案につきまして、
総理並びに
関係大臣に若干の
質問を行います。
今日、
高齢化社会が急速に進展する反面、経済の低成長と厳しい
財政難という情勢の中で、今多くの
国民が
我が国の
社会保障政策の将来に大きな不安を抱き始めております。その原因は、
国民の間に老後の
生活設計に大きな不安が出てきているのにもかかわらず、
政府が確固たるビジョンを示さないまま、自助努力の名のもとに
財政再建のしわ寄せを弱い者に押しつけていることにあります。
高齢化社会への移行は、必然的に
負担と
給付のバランスが重要となってくることは確かでありましょう。しかし、ならばこそ、その
制度改革に
国民の合意を得る一方、財源の捻出に
政府みずからが血のにじむような努力を行わなければならないのであります。
しかるに、今回の
政府の
改正案は、
高齢化社会対応のための
改革というより、
マイナスシーリングという
予算編成の中で割り当てられた六千二百億円をどこにしわ寄せ消化するかという、歳出
削減に追い詰められた印象が強く、取りやすいところから取るという
患者負担の増大と
国庫削減がその目的であることは、だれが見ても明らかであります。(
拍手)我が党は国の
財政再建に反対するものではありませんが、
健康保険制度という
国民の健康と命にかかわる問題であるだけに、
財政的見地からだけの
改革を急ぐことは、真に必要な
医療の
改革を妨げるものと言わねばなりません。
〔
議長退席、副
議長着席〕
国民総
医療費が十四兆円を大きく超えてしまった今日、
医療改革は今や
国民的
課題であります。したがって、この
改革に当たって、
政府は、
我が国の
人口構造の質的
変化、
疾病構造の
変化、さらには、これからの本格的な
高齢化社会に備えるため、
中長期の展望に立っての健康づくり活動の展開や
病気を起こさない
予防と
治療の総合的な保健
医療のあり方を含め、幅広く今この時期に
確立する必要があります。また同時に、
医療保険制度の
格差を改め、
給付面で、
本人、
家族を含め
国民ひとしく平準化への具体的方向を明らかにすることであります。したがって、
医療保険制度の基盤を揺るぎないものにするとの
政府の
改正の
趣旨は口先だけで説得力に欠け、
国民の理解を得るのには極めて困難であると言わねばなりません。そこで、
改革に当たっては将来
計画を明確に示すことが必要であると
考えますが、
総理の御所見をお伺いいたします。
次に
指摘したいことは、提案の仕方がいかにも強引で、しかも短時間で処理しようという
傾向が目立つことであります。
厚生大臣の諮問機関である
社会保険審議会では、
意見が対立して一本化されず両論併記で答申が出され、また
総理の諮問機関である
社会保障制度審議会では、一本化答申という慣例に従ってはいるものの諮問案を全面的に支持したものでは決してありません。しかも注目すべきことは、この二つの
審議会が、今回の
改正案は
財政収支のみにこだわった感があり、
医療保険本来の
趣旨に照らして
検討が不十分と批判、また、
改革は慎重でなければならないと注文をしていることであります。それでも大筋で理解されたとして提案をされたことはまことに遺憾であります。
総理、あなたは
検討不十分というこの
審議会の
指摘をどのように受けとめておられるのか、お聞かせください。
また当面の
課題として、
医療制度の内部には薬づけ、検査づけなどの緊急に解決を要する問題が山積しております。物事には順序があります。このような前提的諸条件を未整備のまま、
予算編成を急ぐ余り
国民の
意見を聞くことなく拙速することは慎むべきであり、将来に禍根を残さないためにも今回の
改正案は再
検討すべきであると思いますが、
総理の御
見解を承りたいのであります。(
拍手)
次に、渡部
厚生大臣に
お尋ねをいたします。
先日、本院の
予算分科会で、あなたは、
制度間の
格差是正や
負担と
給付の
公平化を図るために
中長期計画を
国民の前に提示すると答弁されておりますが、その時期はいつごろになる
見通しか、また
計画には
制度統合も含まれるのかどうか、本法案の
審議に先立ち将来
計画を明確にしていただきたいのであります。
第二には、
被用者保険本人負担分の
導入についてでありますが、
本人負担分の
導入のねらいは
医療費の
抑制にあり、
厚生省は今後とも
医療費は
国民所得の
伸びよりも高いペースで
増加することを前提としているようでありますが、先般発表された五十九年度の
国民医療費は、推定では十四兆八千八百億円、対前年度の
伸び率は二・五%にとどまる
見通してあります。
政府が主張する
本人負担分の
導入に伴う
医療費抑制分は一%程度で、仮にその
導入が見送られても全体の
伸び率は三・五%にとどまることが明らかとなっております。五十九年度の
国民所得の
伸び率は推計で六・四%であり、このことは
国民所得の
伸び率以内に抑えたいとする
政府の目標を十分満たすものであり、あえて
国民に不安と混乱をもたらすこのような
本人負担分
導入を急ぐ必要はないと
考えますが、御
見解をお聞かせください。(
拍手)
また、
本人負担分の
導入のもう
一つの理由として、
医療費の明確化すなわちコスト意識を持たせるとの
説明がなされておりますが、現在各
保険団体が行っている
医療費通知運動が十分その成果を上げていることを認識すべきであります。
医療費通知
制度は、その目的は、
医療費の不正不当請求からの自衛だけではなく、
患者である被
保険者一人一人に
健康保険制度の中で自分の健康が一体幾らで維持されているか、
医療はただでないというコスト意識の向上に大きな役割を果たしているのであります。したがって、
医療費の明確化のため
本人負担導入をする必要は全くなく、現在の通知運動をさらに充実させるとともに、
医療機関に対しては
医療領収書の
発行の義務づけを行うなどの
対策にカを入れるべきであると
考えますが、
厚生大臣の御所見をお伺いいたします。
第三に、
医療の
適正化対策についてであります。
医療に対する
国民の信頼の確保と
医療費負担の軽減をするためには、
保険制度の適正な
運用と
医療費のむだや不正を排除することが何よりも先決でなければならないと思うものであります。そのためには、まず、
国民の大きな不信を招いている
医療の一部に見られる乱診乱療、不正不当請求の根絶を図ることであります。今日の危機的な
医療費の膨張に少なからず
影響があると
考えられる
医療費の
不正請求事件、時には司直の手を煩わし新聞紙上をにぎわわすこの種の事件が後を絶たないことは、いかに根が深いか。このことは
国民にとって大変不幸なことであります。
そこで、
厚生大臣に
お尋ねをいたします。
まず、不正事件が起こるたびに、常に国税庁、警察庁による摘発が先行し、
厚生省は監督、監視する
立場にありながら常に後追いの
状況であります。しかも、いつも
厚生省の監査結果を上回る不正額が出るということは、どこに問題があるのか伺いたいのであります。
さらに、監査権限についてでありますが、監査は
保険法に基づく行政権限でありますが、常に当該都道府県の
医療団体の立ち会いが必要であり、思いどおりにできないのが現状であります。少なくとも不正に対する監査は行政当局が
医療団体への簡単な通告程度で着手できるような
体制に改める必要があると
考えますが、
厚生大臣の所見を伺いたいと存じます。
次に、この問題に関連し、
医学教育のあり方について文部大臣に
お尋ねをいたします。
医師として品性が疑われるこのような
不正請求が続発するのは、もとをただせば倫理観に欠けるところに問題があります。近く
医師過剰時代が予想されています。毎年八千四百人の医学生が入学し、約八千人が卒業している
状況は、ここ十年間で医学生が二・二倍の
増加となり、急激なこのような
変化は世界にその比を見ないと言われております。
医療技術の修得はもちろん、人間としての人格、品性の向上、さらに医の倫理に関する問題等、このような根本的な面での医学部
教育のあり方を一考すべき時期に来ているのではないかと
考えますが、文部大臣の御
見解をお示しいただきたいと存じます。
第四に、
診療報酬の
支払い方式について
お尋ねをいたします。
現在の出来高払い方式が、必要な
医療を確保するとともに医学、薬学の進歩に大きな利点となってきたことは率直に認めるものでありますが、反面、薬づけ、検査づけ
医療のはんらんを招いてきたこともまた事実であります。
現行の
保険制度では、
医師の
立場からすれば、形のない技術料に相当するものは比較的低く抑えられているため、勢い薬
中心の
医療にならざるを得ない
傾向があります。そこで、従来から
指摘されてきた抜本的
対策として、物と技術の分離を図り、
医療機関が薬価差益に依存することなく技術本位で経営が成り立つ技術料
中心の
診療報酬制度の
確立とあわせて、医薬分業を大原則とした
医療制度の
改革に本気で取り組むべき時期が来ていると
考えておりますが、
厚生大臣の御
見解を求めるものであります。
第五に、
退職者医療制度についてでありますが、この
制度の創設については、我が党もかねてから早期実現を要求してきた経緯もあり、異論のないところであります。
厚生省のねらいが
国民健康保険に対する
国庫補助の
削減にあり、
退職者医療に名をかりた苦肉の
制度間
財政調整であるところに問題があります。
もともと
退職者医療と
国保の
国庫負担の
削減とは次元を異にする問題であり、
国保の
財政問題は、
国保自身の
運営の合理化、
効率化、
国庫補助の配分の
見直し等によって解決すべき問題であります。また
退職者医療制度として新しく公的
制度を発足させるに当たっては、誘導措置として
国庫補助を行い、国も
責任の一端を担うのが当然であると
考えますが、
国庫補助をしない理由について
厚生大臣の答弁を求めるものであります。
第六に、
療養費支給の
改正について
お尋ねをいたします。
現在、
保険対象外の先端
医療技術で
治療を受けた場合に、
対象外
医療だとして
保険が
適用されないことになっております。
改正案では、これを分け、
保険医療の
範囲の分は
保険を
適用するとしておることは一歩前進でありますが、
高度医療を受ける際
患者負担が少しでも軽くなる特徴はあるものの、しかし、
法律がこのように
一つの
治療に関して
保険内と
保険外部分に線引きし始めることは、これまで認めてこなかった
差額ベッドのようなものにも根拠を与えることになるという
心配が出てくるわけであります。
差額ベッドを認めず、全部
保険内で行えとしてきた
厚生省の
指導が果たして揺るぎないものかどうか、十分な歯どめが必要であると
考えますが、御
見解をお聞かせください。また、貧富の差で受ける
内容に差が出てくるおそれがあります。さらに、特別
サービスの差額
負担制度も、
患者の自由意思が通りにくい現状では
医療機関の利益追求の手段にされかねない
心配もあるわけでございますが、
厚生大臣の御
見解をお伺いいたします。
以上、数点にわたりまして若干の
質問をいたしましたが、
総理並びに
関係大臣の真摯な御答弁を期待いたしまして、私の代表
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣中曽根康弘君
登壇〕