○河本国務大臣 内需の拡大ということになりますと、やはり検討すべき課題は
幾つかあると思います。
その
一つは個人消費をどのように考えていくかということだと思いますが、これは何しろGNPの中で六割を占めておりまして、非常に大きな役割を果たしております。私は、昨年の九月の臨時国会で与野党の間で合意ができまして、五十八年から景気浮揚ができる規模の所得減税をする、こういう合意ができて文書を交換されましたので、これは大変いいことだ、これが本当に実行されれば景気は非常によくなるのではないか、こういう期待をしておったのでございますが、残念ながら、紆余曲折がございましたけれ
ども御案内のような経過で、今回の減税は効果ゼロとは言いませんけれ
ども、ほとんど効果が期待されるような内容にはなっていない、こういう結果になったということは大変私も遺憾に思っております。
しかしこういう減税問題は、やはり国民的な合意といいますか、非常に強い力が加わってまいりませんと、一人や二人がこうする、ああすると言ったってできるものではございません。そういう意味で、昨年九月のあの与野党の合意というものはもうあれで済んでしまったのかどうか大変私も疑問に思っておるわけでございますが、あのときのようなエネルギーがあって初めてこういう大事業というものはできるのだ、私はこのように考えております。しかしこの問題は大問題でございますので、前にも申し上げたと思いますけれ
ども、大蔵大臣と自由民主党の政策
責任者にその経過を言いまして、あのときの効果が上がってないではないか、だからもう一回税制全体を抜本的に見直す過程において、この所得税減税問題をもう一回再検討してもらいたい、こういうことをお願いしております。できれば、所得税の大規模減税によって景気が回復できるというあのときの合意が実現できることを私は強く期待をしておるわけでございます。
それから第二点は、ことしは中小企業の設備投資が数年ぶりでやや盛んになってきております。それは、中小企業では長い間投資ができませんでした。景気がよくない、
資金も十分調達できないということで、とにかく数
年間思うような投資ができなかったと思うのですが、幸いに景気がある
程度回復するのではないかという展望がようやく開けて、それじゃ新しい技術を投資しなければどうしても競争に負ける、やらざるを得ないという‘とで始められたケースが非常に多いと思うのです。しかしそれとても、昨年の投資額に比べて大体実質で五%、名目で六%ぐらいな投資であろう、この
程度であります。
アメリカの現在の設備投資を見ますと、昨年に比べて初めは一けた増であろうと言っておったのですけれ
ども、だんだんと拡大をしてまいりまして、現在では二八%ぐらいは昨年に比べて拡大するのではないか、こういう動きにもなっておりますし、中には二〇%を超えるであろう、こういう説すらも出ておるような
状態でございます。しかも、
アメリカの産業の内部では蓄積が非常に今拡大をしております。それは、大規模な投資減税によりまして償却が非常に進むものですから、それによる蓄積、それからもう
一つは景気回復による利益の拡大、それによる蓄積、そういうことで、企業内部の蓄積というものは現在の動きでは四千億ドルないし五千億ドルだ、こういう
数字を言っておりますが、いずれにいたしましても、昨年に比べて十数%の設備投資が進んでおるということは、
日本に比べてはるかに大きな金額でもありますし、
数字だ、こう思うのです。
今激しい技術革新が行われておりますときでありますから、こういうときにこそ思い切った投資をしないと、数年後には
日本の産業の国際競争力は弱まってまいります。
日本の産業もオイルショックまでは非常に新しい設備であったのでありますが、最近は相当古くなっておりまして、数年を待たないで、二、三年後には、今のような
状態であれば
アメリカの設備投資の方がはるかにすぐれたものになるであろう、私はこういう感じがいたしますので、そこで設備投資を、
アメリカとは指摘いたしませんが、とにかく
外国に負けないような設備投資をして産業の競争力を維持するということが最大緊急の課題でなかろうか、このように思います。それはまた同時に大きな景気回復にもつながるんだ、このように理解をいたしております。
それからもう
一つは、
日本の場合は先進国でありますけれ
ども、社会資本のストック、投資ということについては、私は先進国の中ではおくれておるのではないか、このように思います。下水とか公園なんか見ましても、あるいは住宅なんか見ましても、大変貧弱な
状態でございますから、やはり
日本では社会資本投資をもう少し積極的に進めていくという
一つの大きな課題があるのではないか、こういうように思うのでございます。
そういうことを考えますと、この際、金融政策が設備投資の分野で特に大きな役割を果たしてもらいたいわけでありますが、金融政策が大変やりにくい内外の条件がございますので、
日本銀行や大蔵省が大変苦労しておられると思うのですけれ
ども、何とかそこはもう少し工夫をしてもらって、物価が二%という非常に低い水準でございますから、もう少し金融政策に工夫の余地はないものだろうかと期待をしておるのです。そういう
幾つかのことを考えながら内需拡大をやはりこの際もう一回考え直してみる必要があるのじゃないか。幸い
日本といたしましては、先ほど申し上げました貯蓄過剰、
国内に
資金はたっぷり全体としてある、こういう
外国にない強い条件がございますから、そういう条件を生かしてもう一回よく検討すべきではないか、私はこう思います。
先ほど国債の話が出ましたけれ
ども、私は、過去十
年間の国債発行によって
日本経済の現在の基礎が固まっておるのだ、こう思います。だから国債に対しては正しい評価をするということが大事でございまして、また金額も大きいですけれ
ども、しかしそれは全体のGNPと経済の活力との比較において判断すべきであって、国債を出すということになりますと、何か犯罪のように曲解する向きもございますが、そういうことではなくして、正当な評価を与える必要があるのではないか。しかも
外国と違いまして、国債といいましても全部
国内での
借金でありまして、国民の貯蓄によって賄われておる、こういうことでございまして、
外国から全部金を借りておる、そういう国とは全然
事情が違いますので、こういう点も正当に評価しながら、先ほど申し上げましたような内需拡大対策というものを総合的によく検討する必要があろう、このように思います。