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1984-04-24 第101回国会 衆議院 農林水産委員会 第11号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十九年四月二十四日(火曜日)     午後一時一分開議  出席委員   委員長 阿部 文男君    理事 上草 義輝君 理事 衛藤征士郎君    理事 田名部匡省君 理事 玉沢徳一郎君    理事 小川 国彦君 理事 日野 市朗君    理事 吉浦 忠治君 理事 稲富 稜人君       太田 誠一君    鍵田忠三郎君       佐藤  隆君    鈴木 宗男君       田邉 國男君    高橋 辰夫君       月原 茂皓君    野呂田芳成君       保利 耕輔君   三ッ林弥太郎君       山崎平八郎君    新村 源雄君       田中 恒利君    細谷 昭雄君       安井 吉典君    駒谷  明君       斎藤  実君    武田 一夫君       菅原喜重郎君    津川 武一君       中林 佳子君  出席政府委員        農林水産政務次        官        島村 宜伸君        農林水産省農蚕        園芸局長     小島 和義君        農林水産技術会        議事務局長    関谷 俊作君  委員外出席者        参考人        (東京大学名誉教        授)       川田信一郎君        参考人        (東京大学農学部        教授)      熊澤喜久雄君        参考人        (東京農工大学農        学部教授)    濱田龍之介君        農林水産委員会        調査室長     矢崎 市朗君     ————————————— 四月二十日  肥料価格安定等臨時措置法の一部を改正する法  律案内閣提出第四三号)(参議院送付) 同月二十四日  食糧輸入依存反対に関する請願(森田景一君  紹介)(第三三五八号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  地力増進法案内閣提出第四四号)      ————◇—————
  2. 阿部文男

    阿部委員長 これより会議を開きます。  内閣提出地力増進法案を議題とし、審査を進めます。  本日は、本案審査のため、参考人として東京大学名誉教授川田信一郎君、東京大学農学部教授熊澤喜久雄君及び東京農工大学農学部教授濱田龍之介君、以上三名の方々に御出席をいただき、御意見を承ることにいたしております。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。参考人各位におかれましては、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、本案審査参考にいたしたいと存じます。  次に、議事の順序について申し上げますが、川田参考人熊澤参考人濱田参考人順序で、お一人二十分程度御意見をお述べいただき、その後、委員質疑に対しお答えをいただきたいと存じます。  なお、念のため申し上げますが、発言の際は委員長の許可を得ることとなっております。また、参考人委員に対し質疑することはできないことになっておりますので、あらかじめ御承知おきのほどをお願い申し上げます。 それでは、川田参考人にお願いいたします。
  3. 川田信一郎

    川田参考人 最初にちょっとお断り申し上げたいと思いますが、私は本来は土の研究専門家ではございません。したがいまして、御承知のように地力にかかわることは直接には関係ないようでございますが、実は私自身農作物、いわゆる栽培植物研究者でございます。その栽培植物の根、植物には御承知のように葉あるいは茎、花、実というのがございますが、それに根という機関、この五つの機関がございますが、その機関の中で根だけが土の中に生えておりまして、この根の研究を実は昭和十六年以来やっております。ことに稲につきましては、敗戦直後からずっと稲の根の研究に力を入れて、かれこれ約四十年間稲の根の研究をやっております。もちろん研究はそれだけではございませんで、ほかにいろいろやっておりますが、一番私が私自身のライフワークとして力を入れたものは根でございます。  ところが、この根の研究と申しますのは、根は土の中に生えておりまして非常に研究しにくいので、世界的に見ましても葉に関するもの、茎に関するもの、花に関するもの、果実に関するものの研究は非常に多いのでございますが、根の研究というものはどの国におきましても非常に少のうございます。私はこの根の研究をし始めまして、先ほど申し上げましたように約四十年たったのでございますが、その場合に大学だけにこもっておりましては根の研究は十分にできません。根はいろいろな土に生えておりますので、日本各地北海道から沖縄まで随分各地農家が実際につくっておられる水田の根を見て歩きました。また、全世界を見るということはなかなかできませんが、しかるべき国々を歩きまして、やはりこれも農家が実際につくっておられる水田に直接に参りまして、そこで根をいろいろ調べさせてもらい、そこで研究材料をいただいて研究室に持って帰って研究をしております。  そういうふうなことを長い間やってまいりますと、根の生えております土というものをどうしても積極的に勉強しなければならないということになって、もちろん重点は根にございます。きょうは私は主として土に言及したいと思いますが、その根を研究しております間に、土というものが非常に重要な問題である。ある意味では土というものがなければ植物というものは育たないのじゃないか、作物は育たないのじゃないか。地球上の生物は、その基になっておりますのは高等植物の緑であります葉緑素、その葉緑素を含んでおります葉緑体が営みます光合成太陽エネルギーを吸収しまして、それに地球の上のすべての生物がおんぶをして地球の上の生態系が成り立っておるのでございます。その高等植物基本が私は根ではないかと思っております。  そういうことから、土自身専門ではありませんけれども、根の育つ環境としての重要な土に関する、今度出されました地力に関する法案について若干私の意見を申し述べさせていただきたいと思います。こういう根の生えております土、環境としての土の問題が国会で審議されるということは、研究者としては大変ありがたいことだと存じております。  そこで、少し具体的に申しますと、御承知のように日本では一応耕地水田と畑と分けております。水田と畑というのは長い歴史の間に出てきた言葉でございまして、ある意味では水田と畑というものは農業が発展いたしますと区別をしなくなる段階が来るのではないかと私は思っております。例えば北イタリアのロンバルディア平原に参りますと、あそこの水田というのは十年単位でいろいろな作物をつくりますが、あるときにはポプラをつくります。これは十年かかります。もしポプラをつくらなければ、稲二年、牧草三年という輪作で、五年輪作を二回繰り返します。こうなりますと、そこは一体森林と申しますか樹園地なのか、あるいは畑地なのか、水田なのか、区別がつきません。これは一つの集約的な土地の利用になるのではないかと思いまして、私は大変関心を持っておりますが、そういうことは日本でも、ある場合には水を落として稲をつくり、ある場合には畑状態にする、田畑輪換ということが昔から行われておりまして、しかも、今日なおそれが新しい問題として研究者の中において積極的に研究をされておるような次第でございます。  一応そうはいたしましても、水田ということについて見ますと、結局地力のある水田というものはまず高位収穫である、単収が非常に高いということが一つの特徴であります。それから、米というものは地力がなくなりますと必ず収量が落ちできますが、単収が落ちない。地力を維持しておけば単収は落ちません。  それから、これは細かく申しますと大変興味のあることでございますが、本当にうまい米、これは米商人やなんかにとってのうまい米ではございません、我々が食事してうまい米でございますが、そのうまい米がとれるところはやはり地力のあるところでございます。これは、私、三年ばかり前、日本の米どころであります山形県の庄内地方で調べました。庄内の藩主は鶴岡に住んでおったのですが、庄内平野の一番北の遊佐町の福山の米しか食わなかったというのです。この福山というのはやはり高位収穫地帯でございまして、同時に大変おいしい米がとれるところでございます。  それから、やはりそういう地力があって高位収穫、しかもうまい米がとれるような水田は、最近問題になっております転作でございますね、例えば大豆をつくりましても、トウモロコシをつくりましても、露地野菜をつくりましても、さらに、これは千葉県あたりでも見られるのですが、花の類をつくりましても、非常に品質のいいものが安定してたくさんとれます。さらに、果樹のような多年生の作物地力のある水田ですと大変よろしゅうございます。  それから畑でございますけれども、地力のある畑というものは、私の経験から申しますと、やはり高位収穫であり、品質が良好であり、農産物が美味でございます。殊に野菜などは、窒素中心とした化学肥料でつくった野菜に比べまして、地力中心としてつくりますと大変おいしい野菜ができます。また、つくっておる間に、いわゆる畑作で基本的な一つの問題になっております連作の障害というようなものがございません。  そういうふうに、簡単に申しますと地力のある水田あるいは畑というものは、農作物生産に関しましてはあらゆる作物栽培で大変重要な、かつ基本的な条件になると思います。しかも、昨今エネルギーの問題が出ておりまして、植物の場合には太陽の光を化学的なエネルギーに変える光合成、これは非常に注目されておりますけれども、それもやはり地力が非常にかかわっておる。殊に根から吸収される水分というものが非常に大きな意味を持っておるということも明らかになってきておりまして、これは非常に重要な事実でございます。  以上、大変粗っぽく申しました次第で恐縮でございますけれども、そういった地力を高めていき、維持していくためには、実は一年や二年の年月ではできないということを申し上げておきたいと思います。これは研究の上でも、きょう参考人として熊澤参考人濱田参考人が来ていらっしゃいまして、お一人は肥料専門、お一人は土そのもの専門でございますけれども、その面でもなかなかないと思うのですが、私が経験いたしましたところ、やはり地力をよくしていくには十年はかかります。単位として十年はかかります。地力をよくするために、法案に具体的なことがいろいろ出ておりますが、ことし手をつけましても一朝一夕にしてはできません。例えば化学肥料をことしやればことし、農薬をことしやればことしでございますが、地力に関する限りは平均十年と見ていいと思います。最も長いのは、北海道羊蹄山ろくの大変な篤農家でございますが、これは地力を養成するために十五年かかっております。そういうふうに、やはり一定の年限がなければ地力というものは形成されない。これは非常に重要な問題点であると思います。  さらに、もう少し詳しく地力稲作栽培について申し上げますと、例えば稲の根にはうわ根という根と直下根、下に伸びる根と土壌表層近くに生える根がございます。表層近くと申しましても、表面から五センチくらいの深さに生える根と、それよりも土の中に深く生える根と、二種類ございます。私が日本全国から材料をとってまいりまして、非常に詳細に数多く調べまして得ました結果は、うわ根だけで十アール当たり収量を約六百キロ上げることができます。ところが、十アール当たり収量を七百キロ、八百キロ、九百キロ、千キロ上げようと思いますと、うわ根では絶対に上げることはできません。七百キロ、八百キロ、九百キロ、千キロということになると、やはり地力にかかわる諸条件を十分満たしているかいないかによって決まります。  これは非常に重要なことでございまして、日本の国で十アール当たり六百キロでいいんだということになれば、何も地力をとやかく言う必要はありません。実は化学肥料だけでうわ根は育つのでございます。そして、下の根を育てるためには地力が必要だ、土壌環境の整備というのが必要なんでございます。したがって、表面から五センチまでの根は化学肥料、殊に窒素質肥料を追肥すれば非常に、きょうはここでスライドをお見せすることができませんけれども、明らかにそれが出てまいります。したがって、単収は高まりますから、将来九百キロまでとろう。九百キロとれれば、将来米の需要というものは一千万トン前後じゃないかと私は思うのですが、そうすると百万ヘクタールぐらいの水田があればいいので、あとの耕地というのは他作物がいろいろつくられるということも出てまいります。これはまた御質疑のときにお答えするような問題になるかとも存じます。  今申し上げましたように、うわ根を育てて六百キロにとどめておくならば窒素質肥料だけでいい。しかし、うまい米を、しかも他の作物を植えてもいいような水田にするためには、やはり土をよくしなければならない。土をよくするにはどうしたらいいかということを申しますと、まず湿田乾田にする。排水ということが非常に重要なことでございます。この排水もいろいろな排水がございますが、私は私の根の研究から三つの段階に分けております。一つは、湿田乾田にするという排水二つは、大変恐縮でございますが、農民言葉でございますけれども、中干しだとかあるいは間断かんがいができるような排水ができる。それから第三番目、これは非常に重要なのでございますが、透水と申しまして、水が表面から下の方に通っていく、この排水があります。この透水は大体一日に二ないし三センチぐらいが適当ではないかと思います。  それから、そういうような排水ができましたその土を今度は深くしていく、作土を深く、根が生える領域を広くしていくということ、これが重要でございます。そのためには、客土だとかあるいは深耕だとかといったようなことをいたします。  それからその次に、堆肥法案では土壌改良資材というようなことの中に入るかとも思いますが、堆肥をぜひやらなければなりません。これは殊に植物質基本とした腐熟した堆肥を十アール当たり二トンぐらいはやっていかなければならぬ。  つまり、種々の型の排水、それから作土の深さ、それから堆肥、そういったようなことをやることによって、先ほど申しましたようなうわ根だけでなくて、直下根も健やかに育ってくるのでございます。これもスライドを映せませんで残念でございますが、根を見ます場合に、今申しましたように直下根が多いか、あるいはうわ根が多いか、あるいは根の色はどうであるか、あるいは根の健全根不健全根というのがございますがどちらが多いか、あるいは一本の根に着目いたしますと、根の太さはどうなっているか、枝分かれはどうなっているか、あるいは根毛、根の表面に毛が生えている、これは非常に重要なものでございますが、こういうものがすべて、そういう排水あるいは客土深耕堆肥ということをやりまして、米が八百キロ、九百キロとれるようになると、根自身も非常にすぐれたいい根になると私は思っております。  そういうふうになりまして、やはり地下水も、これは私が尊敬しておりますすぐれた農家の言によりますと、約一・八メートルぐらいまでは下げられる。そうなれば土も非常によくなる。一・八メートル下げるということになると大変でございますが、そこまでいかないにしても一メートルまで下げられる。一・八メートルまで下げますと、水田果樹を植えても立派に生育すると思います。これは畑もやはり同様なことが言えます。殊に畑ではよく排水のことが言われますが、これは非常に重要です。それから堆肥、やはり土の深さ、こういったものが重要なことは、野菜の根やあるいは果樹の根やそういったものを見まして、やはり稲と同じようなことが言えるのではないかと思います。  そういう地力にかかわります法律を見てみますと、きょう皆様のお手元にあると存じますけれども、昭和二十九年ですか、八年ですか、耕土培養法という法律ができました。それだけなんでございまして、その後は一切ございません。その後、この土づくりに関しては、殊に私の記憶しておりますのは、昭和三十三、四年までは農林省も非常に積極的におやりになっていたのですが、それから方針がお変わりになったのです。それに、地力が実は落ちてきまして、昭和四十八年ごろから地元でやはり土づくりをしなければならぬということが起きてまいりまして、昭和五十二年に農林省土づくり全国協議会というようなことをお開きになったりしております。そうして、地力の問題は終始問題でございましたが、このたび新しい法律として脚光を浴びてきているということは、私自身、根の研究をしております者にとっては御同慶の至りにたえません。  ここで、最後になりますけれども、やはり地力をよくしていくには十年かかるということでございます。十年でございますから、その地力をよくしていく責任者はだれか。十年辛抱する農民というものはなかなかおりません。行政も政治の方も、十年一カ所にいてそのものに力を尽くすというのはなかなかおりません。一体だれが最低十年間責任を持ってやれるか、私は、そのあたりをやはり明確にしていただきたいように思うのでございます。今農村に参りますと、農民はすぐ、今やったらこの成果はいつ上がるのかということだけに非常に関心を持っている。これは、ここ二十年ぐらいの日本農村方々についた余りよくない癖でございます。しかし、少なくとも生物基礎とした農業に関しては、これはどんな国におきましてもやはり十年が単位じゃないか。明治神宮のあの森が、更地からできるのに六十年かかっております。伊勢の内宮の森が二百年かかっていると申します。いい杉がとれるには八十年と申します。やはり地力最低十年、これは、我々は一体何をもって時間の単位とすべきかということを提起していると思います。  ですから、十年、それから主人公をはっきりとしなければならぬということでございます。食べるということには、御承知のように妥協はございません。やはり人類が生存していく基礎でございます。民族が生存していく基礎でございます。国が生存していく基礎でございます。殊に穀物と野菜露地野菜は、これは生きていく基本的な二つ作物でございます。そういった作物が育ちますところの土、この土を積極的によくしていこう、守っていこう、こういう増進法案が提起されて先生方の御審議を得るということは、長年関心を持っております研究者の一人として大変喜びにたえない次第でございます。  三分ばかり超過いたしましたが、お許し願いたいと思います。  ありがとうございました。(拍手)
  4. 阿部文男

    阿部委員長 ありがとうございました。  次に、熊澤参考人にお願いいたします。
  5. 熊澤喜久雄

    熊澤参考人 熊澤でございます。  私は、現在東京大学植物栄養学というのと肥料学というのを講義しているわけでございまして、そういう点から、ここで何らかの意見を述べろというように呼ばれたのだろうと思っております。  植物栄養学あるいは植物栄養というのは、もちろんその植物あるいは作物の必要とする栄養分の必要とする理由、あるいはさらに、それをどういうような形でどういうふうに施したらいいかというようなことまで含む非常に広い範囲の学問でありますが、一方、肥料学というのは、肥料そのもの施用あるいは施用の原理などを含めて、これも土壌学との関連において割合と広く研究されているものです。特に地力との関係におきますと、そもそも肥料あるいは肥やしというのは、土を肥やすために施されているもの、あるいは今流の言葉で言うと、地力を増進するために土壌に施されるものを広い意味では肥料というふうに呼んでいるわけでありまして、そういう点で地力の問題、もしくは地力を維持したりあるいは向上したり増進したりという問題というのは、土壌学と同時に肥料学の非常に中心課題になっているわけです。  もう申すまでもなく、地力あるいは別の言葉で言いますと土壌肥沃度というものは、作物生産を維持していく土壌の最も大きな能力でありまして、この能力をいかにして壊さないで維持して、さらに増進していくかということは、我が国のみならず世界各国重要課題でありますし、それは昔もそうであり、現在も依然として同じことが言われているわけであります。したがって、地力が衰えたりあるいは土壌母材の損失ということもありますが、それ自体は文明の盛衰に関係すると言われているぐらいに非常に強調されておりまして、そういう点で、土壌の問題というのは単に農業のみならず、国家全体の問題として意識されていることは御承知のとおりだと思います。  そうはいいましても、土壌肥沃度あるいは地力というものは人類食糧を確保するという意味において最も重要な性質でありまして、また、これは個々農家の努力によって直接には維持されるわけでありますけれども、それの原理的なものあるいは政策的な方式は、広く、古くからそれぞれの地域あるいは歴史に見合った農法という形で展開されてきているわけであります。合理的な農業経営あるいは農法というものはすべて地力維持増進と相反するものではなかったということは、歴史的に明らかになっているわけです。既に御承知のように、土壌あるいは土壌資源というものは個々農家に属するものだけではなくて、これは国家的な資源であり、それを維持していくあるいは増強していくことは、これもまた細かく考えていかないといけないところもありますけれども、一個人の範囲を超えるようなところも大いにあることも御承知のところだと思います。そういう点から、今回国で地力増進法というものをいろいろ御討議なさっているということでありますが、私どもも、それに関係している、そういう領域で働いている者として大変喜ばしい状態であろうというふうに考えております。  それでは、いわゆる地力というようなことに関しまして日本の現状はどういうふうになっているかということを若干考えてみますと、既に我が国は古くからある面では非常に合理的な農業を営んできた。これは水田中心としてかんがい水を十分に利用する、それから、いわゆる地方収奪要素を軽減して、また、そこで足りない植物養分なども人ぷん尿なりあるいは堆厩肥などを中心として合理的に循環をしてきた。そういう点で、百年ほど前までは世界の中でも最もよい、現にかなった農業を営んできたというふうに言われていたこともあるわけであります。しかし、そうはいいましても、農業技術の発展というものは、それに伴って新しい地力を増進する資材としての肥料の形態あるいは量などを次々と変化させてきたわけでありまして、途中をある程度飛ばして言いますと、現在、有機質肥料に置きかわってきた化学肥料施用の時代というふうになってきているわけであります。  しかし、十数年前あるいは二十数年前くらいの状態を考えてみますと、先ほど川田先生もおっしゃいましたけれども、やはり基本としては堆厩肥中心として、それに補助的に化学肥料を使うという調和のとれた農業経営中心に据えられておりまして、それで来たわけでございますが、比較的最近になりまして、御承知のように農業の方面における機械化が大変進行して、それに伴って個々農家で保有していた労役家畜が減少してくる、あるいは農業労働力が不足してくる、労役家畜以外の家畜類の使用も次第に減少してくるというようなことから、堆厩肥生産が原料的に見てもそれから労働力の上からいっても非常に停滞をしてきました。また、一方では大規模のいろいろな農業耕作、大規模酪農なりあるいは大きな経営が発達してきますと、いわゆる耕種といいますか、そういうものと酪農との結合と一口にいいましても、それがなかなかうまくいかなくなってきて分離をしてくる、そういうような要因が重なりまして、経営内での堆厩肥中心とした有機物の循環というものに対して一定の変化が起こってきたわけであります。それは当然土壌の性質の一つの変化として来るわけでございます。  ここで、それでは土壌の性質というふうに一口に言いますけれども、どういうふうに整理して考えたらいいかということを、大学の講義的になって大変恐縮でございますが、ちょっと考えてみる必要があるというふうに思います。  作物生産関係する土壌の性質というのは、大きく見て化学的な面あるいは化学性、それから物理的な性質あるいは物理性、また生物的な性質つまり生物性という三つの方面から考察されるのが適当でありまして、この三つの性質が一定の条件のもとにおいて調和がとれているというときに、その土壌は非常に地力が高くなり得る、あるいは高い状態にあるというようなぐあいにも考えることができるわけです。  それはまた作物の側からいいますと、地力の高い土壌はその三つの性質からそれでは何が期待されるかといいますと、川田先生が先ほどおっしゃいましたが、一つは、作土の層が一定の要求されるだけのものがなくてはならない。さらに水が必要であり、あるいはこれも根の成長に関係しますが、土壌の中の空気の流通がよくなければいかぬ。ある程度養分の供給というものもなければいかぬ。それから土壌の反応性、余り酸性とかアルカリ性では困る。それから作物の根の性質に対して有害なものがあってはぐあいが悪いというようなことで、幾つかの項目に分けて、それらの項目についての作物の要求を十分に満足することができるかどうかということによって判定されていくわけであります。  そういうような土壌の化学性とか生物性とか物理性を改良するために我々はいろいろな手段を使うわけでありますけれども、そのうちの最も主な手段というふうなものとしては、やはり肥料が使われていっているわけであります。この肥料として使われているものは、初期には先ほど申しましたような堆厩肥中心でございました。それに化学肥料が加わってきた。この堆厩肥の性質を分解してみますと、これは土壌の化学性にもあるいは生物性にもあるいは物理性の改良にも関係をしていたわけであります。それが次第に化学肥料の増大に持っていくわけでございますが、化学肥料というのはその土壌のうちの化学性の改良に主として役立っているものでありまして、そういう点で土壌の化学性が悪いということによる地力水準の低下ということは大いに防げるわけであります。しかし、土壌生物性とか物理性の改良に対しては力が及ばないという性質を持っております。  かつて、第二次世界大戦が終わった後しばらくの間は、この土壌の化学的な性質、特に植物養分の不足というのが食糧生産に決定的に響いていたわけでありまして、その点で化学肥料の増産ということが直ちに日本食糧生産の増強ということにつながっていったわけでありますけれども、最近の事態はそうではなくて、むしろ堆厩肥が減少してくる。堆厩肥の中の植物養分の減少分は化学肥料によって補うことができますけれども、堆厩肥の持っているほかの機能というのはなかなか補うことができない。物理性もしくは生物性において不十分な結果が生まれてくるわけであります。農林水産省の各試験場その他県の試験場あるいは農業関係者の間で既にこの問題は十分に意識化されておりまして、その結果、いろいろ契機はありますが、石油ショックのときなどを一つの大きな契機といたしまして、やはり地力を増強しなければいかぬということでさまざまな施策が展開されてきて、その効果というのもいろいろな面で確かにあらわれてはきているというふうに思います。  また、土壌の化学性のみならず、生物性、物理性を改良するというような思想も農家あるいはその他そういう資材生産する方面にも随分浸透してきまして、最近では化学的な性質以外の性質を改良するような資材、ここでは特に土壌改良資材というふうに呼ばれていると思いますが、そういう土壌改良資材も非常に大量に生産されて供給されるようになってきております。もとより、堆厩肥、特に稲とか麦とか、そういったものの植物性の資材中心として発酵してつくりました堆厩肥というのは、何千年というようなぐあいの非常に長い間の歴史の試練を経ておりますし、それが最も有効であるということは間違いはないわけでありますけれども、そうはいってもなかなか要求されるだけのものを供給することはできない。そこで、それにかわるものとして、例えば有機質資材としては木材の皮を発酵させたバーク堆肥だとか、あるいは場合によっては泥炭のたぐいのものだとか、そういう代用品でどこまでいくか、代用品がずっと使われてきているわけであります。これらは、それ自体として合理的に使っていけば、先ほど申しました面の土壌の性質の改良には当然使えるわけであります。  それからまた、水とか空気というふうに申しましたけれども、水と空気の面からいいますと、また別のいろいろな無機的な改良資材土壌改良資材としてできております。農業経営の中においても、これもいろいろな事業によって行われていると思いますけれども、極力いわゆる堆肥もしくはそれに類似するものが生産できるような資材があるならば、それを集めて農家の畑に還元していくというような施策は行われているわけであります。  そういうふうにして、現在、化学的な性質のみならず、ほかの性質についても極力手を打って改良していこうというふうにされているわけでありますけれども、何せこのような土壌改良資材というものは非常に種類も多くて、またその資材材料も多々あるわけです。それから、同じ発酵するといいましても、発酵の程度をどういうふうにして判定するか、なかなか農家でも判定に困る。化学肥料中心としたいわゆる肥料、これは法律で言う肥料でございますが、これについては既に肥料取締法がありまして、いろいろ規格その他については厳重な規制がされていて、そして使う農家も安心して使えるということになりますが、後から出てきました土壌改良資材につきましては、これは非常に種々のものがあります。  先ほど申し忘れましたが、微生物肥料というようなものもありまして、これは例えば農家が生わらを水田から持ち去るということをしないで、それをそのまま水田に置いて堆肥にできないかというような要求がございますが、その場合に生わらがなるべく早く腐ってくれないと困る。早く腐るために微生物を使う。微生物を使うと、その分解菌の分解能の働きによって早く土壌の上において堆肥になるのじゃないかというような考え方があります。そのほか似たようないろいろなものがあるのですが、そういう微生物肥料というようにして評価されるようなものもあります。  こういったものは、あるものは評価済みであり、あるいは現地において試験済みであり、効果がはっきりしているものもありますけれども、あるものは非常に実験室的である。例えば微生物の効果を見る場合に、対象として殺菌土壌を使う。ところが、現実の土壌には非常に多種類の微生物がありますから、殺菌土壌で得られた結果というのは実際の土壌に持っていった場合に果たして適用できるかどうかということはわからないのであります。  その他いろいろ種類が多いし、やはり安心して土壌改良資材を使うということのためにはまだまだ研究が不足している面もありますけれども、さらに、現実に使われている土壌改良資材について農家が安心して採用できる。それから、採用するだけではなくて、それを一定の基準のもとに使用する。化学肥料であっても大量に使用すれば害があるということは明らかでありますけれども、土壌改良資材においても、その資材資材が非常に特殊目的を持っておりますから、その目的に従った使い方の指導が一方でなされていかなければいけないというふうに考えます。  また、当然、供給される資材の性質というのが使用者にとって明確でなければいけない。そういうことは現在の個々農家が自分で判定するということはなかなか難しいものですから、やはりある一定の基準というものを与えて、その基準に沿って評価できるというふうにするのは大変適切なことではないかというふうに思うわけです。法案の中に、土壌改良資材について品質表示というようなことがあるようでございますけれども、これは現在使用者あるいは生産者も含めて大変要求されていることであろうというふうに思っております。  最後に、現在取り上げられております地力増進法というのは、農業の発展の現段階において考えられているわけでありまして、先ほど川田先生も触れられましたけれども、かつて耕土培養法が成立して、日本土壌の化学的な性質を中心として不良土壌の改良に大変役に立ちました。これは統計的にもはっきりしておりますし、だれでも認められる。また、その改良の効果というのは、現在の日本全体の作物生産水準の向上のてこになっているということは明らかでありまして、その耕土培養法にかわるものとして、あるいはそれを一層発展させたものとして地力増進法が出てきたということは、農業の現段階にまことに相応じたものであろうというふうに大変高く評価するものであります。  しかし、この法律の中にも触れられておりますけれども、実際に地力を維持増強するということはそう簡単にできるものではない。これは絶えず土壌を調査する、地力状態を調査する、どこを改良したらいいか、どこに問題があるかというのを把握する必要があるわけです。そのために広範な調査が必要になってきます。調査のためには調査の専門家というものを、これは維持培養というわけにはいきませんが、専門家というのはやはり必要になってくる。そういう専門家の必要性ということは、これは農家ではなかなかできない。物差しではかったり、重さを見たりということは農家でできますけれども、その中の化学的成分がどういうふうな変化をしているか、あるいは微量元素と申しますが、植物にはなくてはならない、しかし余り土壌にあり過ぎては困るという元素がございます。その中の代表的なものは銅であり、亜鉛である。銅などは少なければ銅欠乏になる、そして植物は育ちません。ところが、多過ぎると銅過剰で害が出てくる。一体自分たちの土壌はどのくらいの銅を含んでいるかというようなことは農家ではわからない。そういうものに対して国もしくは公共機関専門家を用意して、十分にそれらの土壌の診断の要求にこたえるということは大変重要なことであろうというふうに思います。  それから二番目といたしましては、やはりそういう分析などをする場合に無手勝流ではなかなかできない。農家の要求に従っての分析といっても、単純なものはいいわけですけれども、先ほど言いました高度の技術体系をつくっております現在においては、そういう分析そのものもある程度突っ込んだものでなければ実際の役に立たない。そういうことで、やはり装備が必要である。各地に要求に応じて装備を配るということについても、大いに考慮していただきたいと思います。例えば農家が銅を分析してくれと持ってきても、そういうことはできないというふうにやられるのでは、これは何のために地力の調査をしているかということもわからなくなる場合もあるわけであります。ましてや、カドミウムとかその他いろいろ難しい問題もありますが、土壌改良資材土壌を改良していく中においては、これは一定の有機物である場合にあらゆるものが含まれているというようなことで、その中に何が含まれているかということを検定すると同時に、相手方の土壌がどういう性質のものであるかは、今の細かい段階からも十分に見る必要があると思います。  私も職業柄、世界のいろいろな国で土壌を見る機会もあるわけでございますけれども、総体的に見た場合に、日本土壌というのは長い間の努力によって非常によいところに保たれている。しかし、その中でも農林水産省の調査によりますとまだまだ数十%以上が欠陥がある、あるいは改良しなければいけないところがあるということがわかっております。より地方の低い、あるいは食糧生産能の非常に低い国と別に比較するということではありませんが、それらの国の水準は次々と高めることにして、さらに我が国の水準というものを十分に安定した高位のところに持っていき、さらに増強していくということが、日本食糧生産の安定に寄与すると同時に、世界食糧問題に対する日本の役割を果たすことにもなるというふうに考えます。  農業生産の非常に基本をなすものとしての地力について、今国会で一定の法案を成立されようというふうにして御討議されているわけでございますが、全面的にこの法案の趣旨に賛成するものであります。  以上でございます(拍手)
  6. 阿部文男

    阿部委員長 ありがとうございました。  次に、濱田参考人にお願いいたします。
  7. 濱田龍之介

    濱田参考人 ただいま御紹介にあずかりました濱田でございます。  本委員会におきまして地力増進法案審査当たり参考意見を述べさせていただきますことに対して、私としては大変感謝をいたしております。この点についてのお礼を申し上げたいと思います。  まず、私がこれからお話し申し上げようとすることにつきまして、その概略を申し上げます。大体四点に分けてお話ししようと思っております。  第一は、私自身ペドロジーという土壌学の非常に基本的な課題に取り組んでおりますことからも、そういった観点からの土壌の理解の仕方、土壌をどう見たらいいか、大自然の産物である土壌とは一体何物であるかということについてのおおよその御紹介をいたしたいと思います。  第二に、このような見方に立って世界の土、日本の土、そういったものを見た場合にどういうことが言えるか、世界の土、日本の土についての話題提供ということをいたしたいと思います。  第三に、人類にとっての生存の基盤である土壌は、真の適正な管理なしには土壌の持つ生産力を永続的に保ち続けることはできないであろうということについてお話を申し上げたいと存じます。  それから第四点でございますが、これはややわがままをお許しいただきまして、そういったことを踏まえて今世界で人々がどういうふうなことを考え、私ども自身もどういうふうなことを考えておるか、それから土壌に対するより多くの関心をお持ちいただくことが私どもの生存の基盤を大事にする上でもとても大事なことであろう、そういったことについて広く一般の人々の理解を得ることの大切さということを第四点の中でお話をしてまいりたいと存じます。  まず第一の点について申します。これは、土壌学の大変基礎的な課題をほんの数分でお話しするわけでございますので、いささかおわかりになりにくい点もあろうかと思いますが、御容赦願います。  土を理解する上で大切な事柄の一つは、土は大自然の長い歴史の中でつくられてきたものであるということを念頭に置いて土を見ることであると私は存じております。先ほど申し上げましたペドロジーといういわば基礎土壌学の一分野を構成する部分において、土壌生成、土壌ができ上がっていくことについての五つの因子、五つのファクターということが言われます。  それらの五つの因子とは、気候、生物、地形、母材、そして時間であります。近年、第六の生成因子ということが取り上げられておりますが、これは人因子を指しております。人の土に対する働きかけでございます。人間の営為ということも挙げられるようになりましたゆえんは、この機会に人間は土をよくするにも悪くするにも非常に大きな力があるのだということを強調するという意味でも大切なことかと思います。  土壌は、そのほかに土壌自身生態系を形づくっているとともに、大きく見ると植物、動物、人類を含めた大きな生態系を支える基盤であるということはもう既に多くの方がおっしゃっておられたことでございますが、そういった観点で、まず気候因子について簡単な着眼点を御紹介いたします。  世界的に土壌の分布を見ますと、寒帯にはそれに対応したポドソルと呼ばれる土壌が、温帯には褐色森林土やプレーリー土が、そして熱帯にはラトゾルが、というふうに気候帯に応じた土壌が分布しております。つまり、それぞれの気候帯にはそれぞれの独特の土壌が分布しているということでございます。  次に生物因子、これは植生の影響ということで御紹介を申し上げますとよろしいかと存じます。土壌の性質に強く影響を及ぼす植生の因子という観点から見ますと、例えば針葉樹林下の土壌は養分が洗い流されてしまいますが、草原下の土壌においては豊富な土壌有機物の蓄積により肥沃な土壌をつくり出すということがございます。  次いで地形因子については、例えば傾斜の程度、その斜面の凹凸が土壌の表土の流出しやすさを決め、その結果としての土壌の肥沃性を規定するということでもございます。この点につきましては、我が国では森林土壌の分類において非常にすぐれた着眼をされ、すぐれた分類体系が形づくられておりますし、また水田土壌についても、先ほど川田先生のお話にもありました地下水位の位置などを一つの大事な指標として、すぐれた分類体系が形成されております。  あと残ります母材因子につきましては、あのざらざらとした花崗岩を母材とする土壌と、ふわふわとして風に飛ばされやすい火山灰を母材とする土壌の比較をしていただければ、母材が土壌の性質にいかに大きな影響を及ぼすかということがおわかりになれるかと思います。  もう一つ、長い自然の歴史の産物であるということを申し上げました。これは時間因子とかかわり合いのあることでございまして、今まで申し上げた幾つかの因子とはやや異なった観点でごらんいただく必要があろうかと思います。  先ほど川田先生は、人が手を加えていい土壌をつくるには十年はかかる、場合によると十五年はかかる、いい杉ができ上がるには六十年はかかるというようなことをおっしゃいました。それに似た一つの見方かと思いますが、自然史の産物として土壌を見ます場合に、その土壌一つの完成した生態系に成熟した土壌に達するには、予想以上の時間がかかります。先ほど肥沃なプレーリー土という話を申し上げましたが、これなどはその有機物の年代をはかりますと数万年というオーダーでございます。いずれにしろ数年という単位ではなく、数百年、数千年という長い自然の歴史の産物であるということが言えようかと思います。その過程でそれぞれの環境の影響を受けながら、それぞれの環境に応じて土壌が形づくられてまいるわけでございます。  いささかかたいお話になりまして大変恐縮でございますが、土というものについてひとつ基本的な点で御理解をいただくことの大切さを私どもペドロジーをやっております者としてぜひ御理解いただきたいと思いまして、しばらくお時間を拝借させていただきました。  次に、第二、第三、第四のお話はやや雑駁なお話になるかもしれませんが、もうしばらく御勘弁を願います。  第二の話題でございます世界の土、日本の土ということについてお話し申し上げます。  世界じゅうをずっと見回しまして最も肥沃な土はどこにあるのだということは、当然皆さん方も大変関心をお持ちのことであろうかと存じます。それは、先ほどのお話の中にも多少申し上げましたチェルノゼムという名前の土やプレーリー土、これはブルニゼムという呼び方もされますが、そういった草原植生下の土壌でございます。草原植生下の土壌ということの背景にはいろいろなことがございますが、一つ大事なことは、降雨量がそれほど高くない。日本の千五百ミリとかいった降雨量には達しない。温帯地域における八百ミリとか六百ミリとか、そういった降雨量下の土壌であるという言い方もできようかと思います。そのような環境が母材の影響と相まって、土壌材料の影響と相まって非常に肥沃な土を形成いたしております。  残念なことに、我が国にはそのような土はございません。何らかの形で、我が国の土というのは肥沃度の点から見るとチェルノゼムやブルニゼムに比すべきものを持っておりません。なぜか。先ほども申し上げた中でも既にもうお気づきのことと思いますが、降雨量がかなり高いということ、もう少し厳密に申しますと、蒸発散量よりも降雨量が高いということでございます。これは中国大陸とかアメリカ大陸とかを御旅行になるときにぜひ念頭に置いていただきたいことですが、例えばアメリカ大陸を例にとりますと、東から西へ降雨量がずっと落ちてまいります。東の方は降雨量が比較的高く、日本と、もしくは日本より以上の部分もございましょう。ほぼ同等かと存じます。それで、先ほど申し上げました肥沃な土壌が出てくるような降雨量の場所と申しますのは、ちょうどインディアナ州とイリノイ州の境あたりかと存じます。ちょうどシカゴの線を南北に貫くあたり、それより西側に非常に肥沃な土壌が出てまいります。  私がここで申し上げたいことは、その分布もさることながら、日本にはそのような土が本来できにくい。できることが許されないという言い方はいささか妥当性を欠くかと思いますが、私どもはそういう自然条件下で毎日の生活を送っているということであります。そのような自然条件下では養分がどうしても下へ流れやすい、もしくは酸性化しやすい、つまり、ある意味土壌地力が落ちる方向へ自然条件は働きかけている、そのような要素があるということであります。言いかえますと、農耕地地力の維持のためには不断の努力が求められるということであります。それは、いわば日本土壌が持つ宿命のようなものであるとも言えましょう。  そのほかに、日本の畑土壌について見ます場合、もう一つの特徴として、火山灰土壌の分布の広がりが非常に大きいということでございます。我が国の普通畑の五七%、草地の七〇%以上が火山灰土壌であります。畑土壌の改良と言えば、まず火山灰土壌の持つ欠陥の改良ということになろうかと存じます。酸性の改良、燐酸の施用、風に飛ばされやすく水に流されやすいこと、それから風食や表土流出の防止などさまざまの手当てが求められます。  日本表層地質について見ますと、酸性岩が多く、塩基に富んだ岩石が少ない、これも日本における一つ土壌の性質を規定している事柄であろうかと思います。  また、水田土壌につきましても、外国のそれに比較して日本水田土壌は幾つかの異なった特徴を持っております。日本水田土壌土壌粒子は比較的粗いということがよく言われます。これは、山地から流されてくる土砂が河川に至り、さらに海に流れていく過程で、比較的傾斜が急なところを流れるため、粘土分のような粒径の細かいものは海まで流し出されてしまうからであります。これは、熱帯アジアの広大なデルタの緩やかな傾斜にたまる細かい粒径の粘土分の多い水田土壌とは際立って異なるものであります。  傾斜につきましては、例えばバンコク平野の広々とした、そこに広がる水田は、海岸から二百四十キロメートル以上も内陸まですべて一万分の一の勾配にすぎないのに比し、我が国では傾斜千分の一以下の水田は全水田面積の二八%しかないということが言われております。日本の一見平たんに見える水田も、外国のそれと比較すると傾斜の急であることが際立って理解されるわけでございます。  ただ、先ほど川田先生のお話もありましたように、適切な管理をすればと申しますか、傾斜が急であり粗粒質であるということは、ある意味ではその管理の手段さえ適切であれば、場合によると、粘質で平たん過ぎる場合よりも望ましいということも言えようかと思います。人がいかに知恵を働かせて適切な管理をするかということの観点に立ってこのような水田土壌を見る場合に、また一つ違った味わいのある理解の仕方もあろうかと思います。  第三の話題、今までに既に多少入ってまいりましたけれども、人が土に働きかけながら支えていくということの大事さについて取りまとめて申し上げたいと思います。  農林業というのは、人類が営む諸産業の中で唯一の永続性のある産業であるということが言われます。ただし、この永続性は土壌生産力、すなわちここで皆さん方が御審議いただいております地力の問題、地力が永続的であるということの上に立って初めて成り立ち得るものであります。この生産力は人間の無知や無関心によっていとも簡単に失われてしまうということは、過去の歴史が私どもに教えてくれるところでございます。  坂道の途中で荷車を支えてとめているようなものだという表現をある方がされました。坂道にとまっている荷車は、とめようと支えている人がいるからこそとまるのだ、もし支える手を外してしまえば荷車はそのまま坂道を一気に転がり下ってしまいます。現在の日本の農耕地土壌の置かれている状態を実に的確にあらわした例えではないかというふうに私は思います。常に支える努力をして初めて荷車は坂道の途中でとまることができ、さらに努力をすることによってそれは前へ進んでいくということではないかと存じます。適切な土壌管理に支えられて初めて農林業は永続性のある産業であり得るわけです。このために、土壌の諸性質を的確に把握し、その結果に基づいて、それに応じた適切な土壌管理が行われることが切に望まれるものであります。  次に、第四の話題に移りたいと存じます。  人類の生存の基盤として、土壌の保全、地力の増進の重要性については、農林業に関連した産業に従事する方々はそれなりに十分に御理解いただいていることと存じます。ただ、現代社会というのは農林業だけによって成立しているわけではございませんので、他産業の人々の間での御理解も得ることがまた大切なことではないかと私は考えます。また、国際的な土壌保全に関連した動きについても常に目を向け、場合によっては我が国がリーダーシップをとることもまた重要なことであろうかと存じます。  まず、一般の人々に土壌についての理解を深めることについての努力については、私どもの考えておりますことは、小、中、高校の教科書に取り上げるということが一例として考えられようかと思います。  また、社会教育の一環として、土壌博物館のようなものを考えることもいかがかと存じます。現在、オランダのワゲニンゲンには国際土壌博物館というのがございます。NHK取材班の「日本条件 六巻 食糧」というのは御案内の方も多くおいでのことかと存じますが、そこに取り上げられたこともございまして、最近は日本農家の方も、海外旅行のついでにそういうところを訪れておられるということを伺っております。また、そこには我が国からも幾つかの土壌断面標本が送られて展示されております。このようなものが我が国にもあれば、農業という産業に対する理解を、普通見過ごされがちな土壌の面から深めてもらうこともできましょうし、また、地球的な視野に立った人類の生存基盤である土壌についての一般の理解も深まろうかと存じます。さらには、土壌を通じての世界の自然、地理に関する資料や情報も収集することが可能となるでありましょう。  最後に、国際的な話題について幾つか御紹介申し上げたいと存じます。  人類は、過去一万年に及ぶ農耕の歴史の中で、高い生産力を持つ土地をほとんどすべて使い尽くしてしまいました。今後に残されたものは、欠陥の多い土壌であります。未耕地は欠陥の多い土壌でございます。したがって、従来までに耕地化された土壌を大変大切にしなければならないということでございます。その必要性はますます大きくなってまいりました。砂漠化、塩類集積、表土流出は、世界に広く問題になっていることでございます。  ここ数年、もう一つの事柄が問題として指摘されるようになりました。もう新しく肥沃な耕地はない、これ以上の肥沃な耕地はもうない、我々は皆耕地化してしまったのだということを先ほど申し上げましたが、せっかくのこの肥沃な耕地が他へ転用されているということであります。これは、国家的に見ても大きな損失であろうかと存じます。このようなことを含めて、国際土壌学会では世界土壌政策というものを提起しております。内容的にはまだ成熟した内容を持つものとは決して申されませんが、一つの注目すべき動きではないかと思います。  また、最近オーストラリアでは、土壌研究管理のための国際評議会というものが十有余年の準備期間を経て、昨年ようやく発足いたしました。  このように人類の生存基盤である土壌にかかわるさまざまな努力がなされております当節、地力増進法案をここでお取り上げいただきまして御審議いただきますことは、土壌学を学ぶ者の一人としてまことにありがたいと存じております。  どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)
  8. 阿部文男

    阿部委員長 ありがとうございました。  以上で参考人からの意見の開陳は終わりました。
  9. 阿部文男

    阿部委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。衛藤征士郎君。
  10. 衛藤征士郎

    ○衛藤委員 本日は、参考人の諸先生方におかれましては極めて御多用な中にもかかわりませず農林水産委員会にお出ましをいただき、極めて貴重な、また極めて御見識の高い御意見の開陳をありがとうございました。心から厚くお礼を申し上げます。  時間が限られておりますので、極めて簡単に質問を申し上げたいと思います。  私は、川田先生熊澤先生、濱田先生、三人の先生方にそれぞれお尋ねいたしたいと思う次第でございます。  先ほど三人の先生方から、地力というものが極めて大切である、地力の増進そのものに我が地球の全人類の生存、すなわち食糧がかかわってくるというようなお話がございました。まさにそのとおりだと思います。  そこで、ちょっとスケールは小そうございますが、今日我が国で土つくりに真剣に取り組んでおる、特出したような農業団体ですね、どこどこの農協が本当に真剣に土つくりをやっていますよ、どこどこの土地改良区がこういう問題に真剣に取り組んでおりますよ、あるいは全国に今たしか三千二百五十六市町村自治体がありますが、三千二百五十六の市町村自治体の中でこういう自治体の市町村長が大変取り組んでおりますよ、そういう御指摘がいただけますればお願いいたしたいと思います。これが第一点であります。  それから、国際的に見まして、世界の大統領とか国家元首とかいうようなレベルの方で大変土つくりに造詣が深くて、現に土つくりを一生懸命やっているという卓越した政治家なり、そういう方がおられましたらひとつ御指摘いただきたいと思うわけでございます。私は、寡聞にして今回ロンドンで行われますロンドン・サミットで土つくりの問題が話されるかどうか聞いておりませんが、私は非常に大切な問題だと思っておりますのでお伺いするわけであります。  それから、過去の歴史を振り返ってみて、例えばメソポタミア文明あるいはマヤ文明が土つくりをおざなりにしたために滅び去ったというような話も聞いておるわけでありまして、この辺の歴史的な経緯につきまして御意見をいただければと思うわけであります。  それからもう一つ、素朴な意見ですが、我が国土壌地力の回復力は強いのか弱いのか。また、堆肥厩肥、あるいは先ほどお話のありました化学性、物理性、生物性を持った化学肥料を施肥することによって、我が国土壌の回復が強いか早いか、あるいは永続性、継続性というものが強いのかどうかということにつきましてもお尋ね申し上げたいわけでございます。  ちょっと時間がありませんのでこれくらいにして、また時間がありますればお尋ねいたしたいと思います。ひとつよろしくお願い申し上げます。  それでは川田先生、お願い申し上げます。
  11. 川田信一郎

    川田参考人 日本全国地力を高めるための努力をしている協同組合や個人がおるかということでございますが、それは間々おられますが、極めてまれでございます。私の経験を申し上げまして恐縮でございますけれども、これはやはりすぐ成果になりませんのでだれもやろうとしない。  この間も、日本では有名な米つくりの庄内に三月下旬に参りましたが、そこの農協の、営農課長といいますと非常に重要な柱でございます。殊に、私の参りました庄内の北といいますのは、庄内米でも非常にいい米がとれるところ、日本でも有数な米作地だと私は思っておりますが、ここの農協の営農課長がせいぜい五年くらい先しか考えていないのですね。ですから、この庄内の農協の営農の責任者が土つくりについて一体どこまで考えているか、はっきり申し上げますと考えていないのですね。  ただ、個人としてはいると私は思います。たまたま土つくりにいいような自然環境条件下で生まれて育った人はいいのです。例えば米作日本一というのがございますが、この人たちは非常に収量が高い。あれは朝日新聞、後には農林省も一緒になって二十年間やりましたが、その共通事項の一つとして、収量の上がる、つまりいわゆる地力を保っているような風景が大体同じなんですね。それは非常に緩やかな傾斜地を持っておりまして、個人で排水ができやすいところ。ですから、低湿地帯、例えば泥炭地のようなところには出ておりません。つまり、個人で出る場合にはそういうところに生まれて育った人が割にいい業績を上げておられると思います。ですから、これは非常に難しいことではないかと思います。  ですから、私先ほど申し上げましたように、法案ができる。そして先ほど熊澤先生が言われましたように、耕土培養法でも非常に成果を上げたと私は思うのですが、さらに積極的に、だれかが責任を持って、やはり私は土というものは国が責任を持つべきだと思うのです。国の財産だと思うのです。ですから、国のだれかが責任を持って、しかも、十年先ですからすぐ功績はあらわれません。十年先というと、たてば何でもございませんが、将来を見渡すと大変なことでございますね。その十年先に全力投球ができる人がいるかいないかという問題がやはり基本になると私は思います。したがって、大統領だとか何かはなかなか難しいと思います。  それから、メソポタミアやマヤ文化のことでございます。これは私もいろいろな本をよく見るのですが、大体孫引きが多いのでございます。例えば、これは熊澤先生など御専門でございますが、農業の中に化学を入れた有名なドイツのリービッヒという人がおりますが、この人の書いたものに書いてございます。そういう古代文明の社会がやはり土を軽んじたことによって滅んでいくといったようなことが詳細に文献として書いてございます。  それから回復力の点でございますけれども、これはなかなか難しいと思うのでございます。例えば第一次構造改善事業が農林省昭和三十七年から始まっておりますが、あれから機械化が始まりました。殊に水田では非常に機械化が始まりました。そして耕起、すき起こすということが日本の国の水田からはなくなりまして、プラウイングがなくなってロータリーになった。ロータリーと申しますのは、せいぜい六センチか七センチかきまぜるだけで、すき起こすのじゃない。すき起こしというのは、二十センチとか二十五センチばっとすき起こすわけです。これが日本の国からなくなったわけですけね。かきまぜて、そこに化学肥料をやって、先ほど申しましたように追肥重点主義でやって、田植えは小さい苗を植えます。  それが水田地力が落ちてきた大きな理由にもなっているのではないかと思うのでございますが、それでは土を、今まで六、七センチのを一遍に二十五センチまで起こしてやればいいかというと、必ずこれは失敗いたします。日本の国の有名な篤農家に杉山良太さんという人がおりますが、この人が、例えば土を五寸起こすとするならば、十年かかって一年に五分ずつやれ、一遍にやっちゃだめだ。そして十年目にやっと五寸起こせ。ですから、一回土が悪くなりますと、それが回復するのにはじっと忍耐していかなければならない。どこかからお金を借りてきてすぐ土が買えるものではございません。ですから、回復も大変なことじゃないかと思います。  私は、私の経験に照らしましてそういうふうなお答えを申し上げたいと思います。
  12. 衛藤征士郎

    ○衛藤委員 ありがとうございました。  熊澤先生、お願いいたします。  熊澤先生の方から土壌改良資材のことにつきましての評価のお話がありましたが、積極的に評価されているのか、それともむしろ堆肥厩肥、こういった生物性が豊富にある肥料の方を評価するのか、その辺のところを簡単にお願いしたいと思います。
  13. 熊澤喜久雄

    熊澤参考人 御質問の中の相当部分については先ほど川田先生がお答えになっているわけですが、これは的確な例かどうかわかりませんけれども、日本における地力対策で一番手近なところですと、例えば何を増進するか、地力増進というのはつまりどういうことなのか、あるいは地力維持とはどういうことなのかということがありますが、問題になっているものの一つに連作障害というのがあります。  同じものをつくっていくとだんだんとできなくなってくる、病害虫が非常に多発をしてくる、そういう問題があって、これが現在でも非常に大きいのですが、そういったことを中心として、例えば三浦市の農協だと思うのですが、大根を非常に長くつくっております。かつて、先ほども申しましたような歴史的な時代においては、歴史的といっても比較的最近ですが、堆厩肥を使わなくなってきて酪農が分離していって化学肥料が増大してきたというところで、三浦一帯は大根ができなくなってきた。これは何かというと、微量元素の中の一つであるモリブデンが、ごくわずかですが欠乏してきた。これはモリブデンを与えれば直りますけれども、しかし根本治療にはならないということで、あそこでは堆厩肥を入れる。しかし、既に酪農を離してしまっているので、どうやって入れるかということでごみを入れている。三浦市が生産しているごみ処理場のごみを持っていって、それを堆肥にして入れていく。そういうことで直していきますが、長い対策としてはさらにそれだけでは足りないということになってきますと、いわゆる地域複合ということで、あれは厚木の方でしたか、そちらの酪農農家と提携して、そちらで生産している有機物、堆厩肥を運んできて入れていくということで大いに地力を増強したわけです。 さらに耕土の問題もありますので、作土も非常に深くしていく。場合によれば、作土を深くすることによって若返りを図っていくということもやっておりますし、また比較的近年になりますと、植物の中にはいろいろな植物があって、病原菌を殺すという作用を持つような植物もある。そういったものを一緒にまきながら大根とスイカをつくっていくというように、多方面の技術を組み合わせて地力を維持して、さらに生産を上げていくというような努力をしているのではないかと思います。適切な例かどうかわかりませんが、そういうようなことがあります。  それから外国その他のことですが、これもまたその国の置かれている条件によるわけです。例えばアメリカの場合には土壌が非常に広い、非常に肥沃ですけれども、管理が適切でないと表土が流される。これはNHKじゃありませんが、端の方から荒れていっているという問題はある。その問題は非常に古くからあるわけですが、その場合には土壌保全局、日本ではまだそういう責任を持った大きな局はないと思いますけれども、土壌保全のための専門機関があって、それが農業、耕作からすべてを指導していっている。そして表土の流亡を防ごうとしているわけです。各地に、重要なところには棒が非常に深く埋めてあって、本年度表土が何センチ流亡したということがわかるようになっている。これも、実際にそれがどれだけ効果を発揮しているかは別といたしまして、非常に注意を喚起して、ある場合には有効な耕作体系までも提示していくというような仕事をしているわけです。  それから、比較的近年、各国においては我が国と同じように有機物の増投ということは非常に必要だ、有機物の確保が必要である。しかし、国によってはその確保ができないところがある。それはなぜかというと、水田地帯において、水田ですとやはり燃料が足りない。日本はその燃料をプロパンなりあるいはその他の製品に求めているわけでありますが、そういったものが、金がない場合には石油も買えない。やはりわらを燃やさざるを得ない、あるいは周りの薪をとって燃やさざるを得ない。木をとってきてまきにして燃やしてしまう、あるいはわらを燃やしてしまう。燃やしてしまえば、水田その他畑には入らないわけです。それからインドなどにおいては、そういう有機物、燃料がないものですから、それこそ牛のふんまで乾燥して燃やしてしまうというような事態です。  それに対して、農業の体系の中に有機物を生産するシステムを入れようではないか、特に薪の問題が非常に重要である、木の生産をしながら同時に農業生産を高めるということで、言葉で言いますとアグロフォレストリー、アグロノミーとフォレストリー、農業と林業というものを結合させていこう。例えば中国のある人民公社では、あるというか、かなり広範に行われていると思いますが、広い平坦な水田地帯を持っている。クリークの周りに木を計画的に植えて、それが育っていくとそれを切って燃料にする。それの成長の度合いに応じて、次第に水田からとったわらは水田に返していくようにするというようなことをやっているわけです。ですから、それはだれが主宰してだれがという、大統領じゃなくてもう少しほかの技術的な方じゃないかと思いますが、各地にそういう動きは出ているわけです。  時間の関係で最後に土壌の改良資材でありますけれども、土壌の改良資材も使いようによっては大変有効なわけです。しかし、これはあくまでも化学肥料と同じように補助的な手段であって、自然における有機物の循環を利用するのが一番いいわけです。しかし、それではやはり間に合わないところがある。化学肥料が適切に使われるのと同じように、土壌改良資材というのも適切に使う必要があるわけです。もちろん、土壌改良資材の中で最も堆厩肥に近いものは、木の枝を切ってきたりあるいは桑で言えば桑の葉を利用した後の条のようなもの、あるいはどういうものがありますか、いろいろなものを集めてきてそれを堆肥にするというようなのは、多分現在でも農林水産省あたりの事業として各地で推進されているんじゃないかと思います。そういうものは非常に品質がよくて、堆厩肥にほとんど準じて使えます。  しかし一方、輸入木材などを中心としたものでやりますと、例えば個々のものがどうということじゃないわけですけれども、あり得ることとして申し上げますと、木の皮をはいでくる、それを十分に腐熟させて、普通の場合は数年以上かかるわけですが、十分に腐熟させて使えばバーク堆肥として有効だ。しかし、腐熟したかどうかということは、周りが色が変わるものですからわからない。日本の森林の中でひょいと転がっているものをかき集めてきても同じようなものになるということになってきますと、見た目には同じだ、しかし品質的には非常に違ってくる。中には発酵が不完全なために植物の生育に対して有害なものも含まれている可能性が十分にあります。そういうようなことを重々注意して、改良資材の性質に応じて使えば、これは十分物の役に立つと思うわけです。  以上、あるいは何か落としたかもしれませんけれども、これで終わります。
  14. 阿部文男

    阿部委員長 参考人各位にお願い申し上げます。  時間に制限がありますので、答弁は極めて簡潔にお願いしたいと思います。
  15. 衛藤征士郎

    ○衛藤委員 もう時間が参りましたので、濱田先生、申しわけございませんでした。お許しをいただきたいと思います。  ただいま日米農産物摩擦等いろいろありますが、要するに結論は、十年オーダーの土つくりの問題ですから、アメリカの農業、農産物に負けないように我々としては土づくりをやる、こういう御指摘だったと思います。きょうは極めて貴重な時間をいただきまして、本当にありがとうございました。  終わります。
  16. 阿部文男

    阿部委員長 小川国彦君
  17. 小川国彦

    ○小川(国)委員 三先生には、お忙しい中の御出席まことにありがとうございます。  三先生ともそれぞれ専門の分野が違いますので、どういうことをお尋ねしたらいいか、短時間にちょっと判断がつきかねますから、私の方で数項目にわたって御質問させていただきますので、その中から、全問に必ずお答えいただかなくても結構でございますから、御専門なり御見解を述べられる分野で先生方から御答弁いただけたらと思います。  実は私ども、地力増進法案が国会に提出されまして、先ほど来三先生方が述べられておりますように、日本農業の現状にとって地力の停滞はまことに悲しむべき状況でありまして、これを何とかしなければならないというときに農水省がこういう法案を提出してきたことは、一歩前進であると評価をしているわけであります。しかし、この法案をてことして日本農業の基盤である土づくりをさらにどのように前進させていったらいいかということを、これを契機に考える必要があるんじゃないかと私どもは思うわけでございます。  その中で、まず、土づくりというものは国や県がもちろん中心になって今回のような基本指針をつくっていってもらわなければならないわけでありますが、御承知のような行政改革の財政状況の中でこうした基本的な問題に対して財政的な裏づけなり措置をしていくことは、極めて厳しい状況の中にあるわけです。これは問題が極めて重要であるにもかかわらず、そこへの国民的な理解を得る、あるいは財政上の理解を得るということは極めて困難な仕事ではないかと思うわけです。しかし、我々はそこを何とかやっていかなければならない。そうすると、やはり農業の第一線で働いておられる方々がこの法案をてことしてどういうふうに地力づくりに取り組んでいくか、これには市町村の役場とか農協とか生産農民、この三者が一体になって土づくりに取り組んでいくということが必要ではないかと思うわけです。  実は私、きのう愛知県の赤羽根町というところに参りまして、ここの土づくりのセンターを見てきたわけです。先ほどの川田先生のお話のように、そこの役場の課長さんあるいは農協の参事さんが、係長から課長、参事になるまで十年かけて堆肥センターをつくること、土づくりに取り組むことをやってきたというふうな具体例を聞いたわけでございます。先ほど来先生方お話しのように、十年あるいは何十年、何百年かけてやる仕事だということなんですが、その主体づくりをどういうふうに進めていったらいいのか、その辺について、先生方が御存じの事例等あるいはそのあるべき姿について御見解を承りたいと思います。  それから第二点は、土壌調査のあるべき方向をどう考えるかということでございます。  アメリカでは、農商務省の中に土壌保全局という局もつくられているようでありますし、また、ソ連におきましては国立土壌研究所がある。あるいは、西ドイツも国立土壌地質研究所がある。フランスでは国立農学研究センターの中でやっているということです。あるいはまた、イギリスでは国立のマッコーレー土壌学研究所。オランダも国立土壌調査研究所ということでありますし、イタリアでも土壌調査保全研究所というものが独立した主体をなしているのですが、残念ながら日本は林業試験場とか農業試験場というところが中心で、農水省主体でこれが行われてきて、建設省の事業とかその他広範な土にかかわる各省庁があるわけなんですが、土壌研究機関というものがない。こういうものの設立について先生方はどういう御見解を持っていらっしゃるか。  それから、戦後我が国で緊急開拓地調査とか土壌環境基礎調査とかいうものが行われてきているわけなんですが、今後この調査のあるべき方向について、定点観測が行われたり全国的な規模の調査が行われたりしておりますが、これがさらに市町村単位、個別の農家単位までの土壌調査も考えなければならないと思うのです。そうした調査の現状とあるべき方向というものをどういうふうにお考えになっていらっしゃるか。  それから第三点目は、今度の法案ではその地域がおおむね不良農地であるというところを対象にしていく、北海道で二百ヘクタールそれから都府県で約百ヘクタールというものを単位として考えているようでありますが、不良農地というものは、農水省で出された統計で見ますと、畑などでは六〇%ぐらいが不良農地というような状況に考えられるのですが、一体不良農地というものをどう考えたらいいのか。  それからもう一つ、いい農地も当然悪化してきているわけでございますから、この法案ではまず不良農地というものを対象に考えているのですが、対象は不良農地だけでいいのか、いい農地をどう考えたらいいのか。この辺の御判断がありましたら御見解を聞かせていただきたいと思うわけであります。  それから、土壌改良資材の規制をどこまでやるべきか。これについては、品質表示制度という比較的規制効果の弱い制度の採用になっているのですが、現実に農家に聞いてみますと、何か海藻を乾燥したようなものを十袋買ったら温泉旅行に連れていくとかというようなことで、普及所に聞いたら公害がなければいいだろうというような話で、そういう冗談も交わされるようなことで、いろいろな不良品が売られている状況の中で、農業基本資材ですから、具体的には、売ってはいけないというまで規制するぐらいの厳しさがあっていいんじゃないか。品質表示制度だけで十分なのかどうか。この辺のところを承りたいと思います。  第一回はその辺のところを伺いまして、私の質問時間は答弁を含めまして二十分ということですから、できるだけはしょった形でお答えをお聞かせいただけたらと思います。
  18. 濱田龍之介

    濱田参考人 大変盛りだくさんの御質問でございましたので、いささか当惑しております。  まず、土壌主体の研究機関がないという御指摘のようでございますが、全くないわけではございませんで、農業試験場とかなんとか、すばらしい優秀な方がたくさんいらっしゃるということは申し上げておいた方がよろしいかと存じます。ただ、いろいろな社会的な環境とかそれからやはり文化的な背景とか、そういったこともございましょうし、そういうものに応じた形の適切な土壌研究機関ということは当然望まれます。  それから、主体とそれを支える部分を大切にしなければならないのではないか。つまり、農業に直接関与していない方々も土に関心を持っていただきたい。そういう意味土壌博物館といったもの、ただこれは博物館と申しましても研究機関であり、かつ開かれた研究機関であるという意味での博物館でございますが、そのようなものを設立することの意味というのは非常に大きな意義があるのではないかというふうに存じております。  それから、土壌調査のあるべき姿ということでございますが、これも基本的には、非常に長い年月をかけてその変化を追っていけるような体制ということが大事な点ではないかと思います。昭和何十何年にやったからもうあそこはできたのだという形でない、土壌調査のあるべき姿というものがあろうかと存じます。  それから、いい農地も悪化しているのではないか云々、これについてどう目を向けるか。これは先ほどの中でもちょっとお話し申し上げましたけれども、単なる悪化ではなくて、転用というのが最近世界的にも非常に大きな問題となっておりますということでお答えにかえさせていただければと思います。  あと、土壌改良資材についてはむしろ熊澤先生から……。
  19. 熊澤喜久雄

    熊澤参考人 では、簡単に申し上げます。  土壌研究所の件なんですが、我が国には日本土壌肥料学会という学会がありまして、その学会が十数年前ですが、土壌研究所の設立というようなことを結論的に出して、あちらこちらで話をしたことがあります。それから、学術会議でもそれ以前に土壌研究所の設立ということがありましたけれども、結局成就していないわけです。またその一方では、現在、土壌研究者が非常に大勢集まっているのが農林水産省の研究所ですが、かつてそこに農業技術研究所があった。恐らくこの委員会でも討議されたのではないかと思いますけれども、土壌専門研究する機関の必要性が非常に叫ばれている一方、その産業省の研究機関にあるという理由かどうか、農業環境技術研究所というふうに組織がえになっている。環境一般に土壌の問題を解消しているわけです。これは世界的な状況からいえば逆行だと僕は思うのですね。しかし、土壌研究者の大部分、中心的な部分はそこに結集しておりますし、それから、各大学の土壌講座において研究者はいるわけです。中国もしくはソビエトあるいは先ほどお挙げになりましたいろいろな国に比べて、日本土壌学というものがどうしても影が薄くなるというのは、はっきりした土壌研究所がないからだということは言えるのではないかと思うのです。  それから、土壌改良資材の規制をどこまでするかということなのでございますけれども、一方では兄弟分のようなものとして肥料取締法があることは御存じだと思うのですが、肥料の中に特殊肥料というものがあります。その特殊肥料、たしか先ほどの海藻とか、そういうものもそちらの方に入ってくるのではないか。肥料の方からいいますと、例えば下水汚泥を肥料にするといった場合には特殊肥料として施用するわけでございますけれども、その中の有害物の規制というのは、かなりはっきりとした数字が出ているわけです。必ずしもそれで十分であるというふうには言えないかもしれませんけれども、そちらの方の面があります。  今度出されている法律の内容を見ますと、その特殊肥料の中で、特に土壌の物理性あるいは生物性だと思うのですが、いわゆる化学性の改良を目標としたもの以外のもの、それ以外の性質の改良を目標としたものを対象とするというふうになっておりますので、その辺のどこからどこまでを入れるかということが、先ほどのどれだけ規制を強くするかということと非常に関連性を持ってくるのではないかと思うのですね。私の考えから言いますと、この法律の規制の対象としている土壌改良資材に関しては、ここで言われているような表示義務というところぐらいが実際的なんではないかと思います。
  20. 川田信一郎

    川田参考人 先ほど御質問の中に主体性のつくり方ということがございました。構造改善事業が始まりましたのが昭和三十七年だったと思いますが、あの当時、私、実は農林水産基本問題調査会のときに専門委員などをやっておりましたけれども、結果からずっと考えますと、一体構造改善事業をやった主体性はどこにあったかということ、これは反省してみますと、やはり非常に心配なのでございます。地力のような基礎的な問題、構造改善事業よりももっと根本的な問題の本当の主体性は、この法律では、農民あるいはその組織、こう書いてございますけれども、はてどこまでそれが徹底してやれるのかということを私非常に心配しております。  それからその次に、土壌の指導、これは熊澤先生が今おっしゃいましたけれども、やはり非常に影が薄いのでございます。地味でございます。私は作物の根の研究をしております。それから土の研究をしている研究者もたくさん知っておりますが、はっきり申しますと、これの研究費は文部省から来る研究費でやっておりまして、ほかの会社あたりからほとんど研究費は参りません。金になりません。基本的な大事な問題でございますけれども、非常に影が薄い、地味である。やはりこれをどういうふうに直していくかということが基本的なことだと思います。  それから、これは私心配なんでございますが、土壌改良資材でございますけれども、これは日本の場合どうも見ておりますと、何かひょっとありますと、農村に問題が起きますと、すぐそれを食い物にしようとする会社が出てくるのでございます。これがやはり心配でございまして、土壌改良資材というのが出てくると、それで今度は日本農業基礎をなす土地を大事にするための資材であるという根本的な理念が資材生産者にあってくださるといいのですけれども、間々食い物にされるおそれがある。この点はやはり気をつけていただきたい。  以上でございます。
  21. 小川国彦

    ○小川(国)委員 土づくりに対して主体性の問題が今ありまして、これは私ども抱えていかなければならないと思うのですが、農水省の今抱えております地力増進対策指針においては、「土壌の性質の改善目標」「資材施用に関する事項」「耕うん整地その他地力の増進に必要な営農に関する事項」これが出されているのですが、果たしてこれだけで、具体的な先進的な実験を行っているものを全国的に地力増進の事業を拡大させていくというのには、農林省が指針を出して都道府県が百ヘクタールぐらいを指定していっただけで、果たしてこれで水田と畑の根本的な地力に対する取り組みができるのだろうかという懸念を感ずるのですね。そこをカバーしていくものは何であるべきなのか、その辺についてはいかがでございましょうか。  どの先生からでも結構なんでございますが……。
  22. 熊澤喜久雄

    熊澤参考人 ただいまのところ大変問題なところでございますけれども、やはり農家がやる気を起こすということが非常に重要ではないかと思うのです。かつて地力がずっと増進していた、あるいはそれの表現形態としては生産が増強してきたということは、必ず農家がやる気を起こすような、そういう農政が展開されているときであった。今、一体つくればいいのか、つくらなくていいのかというような程度で、あるいは水田は非常に有利な条件を持っているわけですけれども、水田をどういうふうに持っていくのだというような点がまだ農家ですっきりしていないのではないか。やはりそういうやる気のある農政が展開されてきて、その精神が農家の方に浸透していくと、農家がやる気を起こしてくる。  よく人は、地力というのは人間の知恵を入れた知の力だ、そういうふうにも言えるぐらい人間と一体化する場面があるんだというふうに言われている。そういう人間の知を入れた知力と土壌地力が一体化するような場面というのは別のところで大いに展開されなければいけないんじゃないかと思うのです、ちょっと抽象的ですが……。
  23. 小川国彦

    ○小川(国)委員 濱田先生、いかがでしょうか。
  24. 濱田龍之介

    濱田参考人 内容的には先ほど来私のお話し申し上げていることと重複するかと存じますが、熊澤先生がおっしゃいましたような、やはりそれをやりやすくするような環境ということが大変大切かと存じます。私も実を申しますと知力ということを考えておりまして、土地の地と知恵の知、地力に対する知力が国民的に高まることである、土壌に対する国民全体の御理解が深まることであるということは非常に大切なことかと存じます。
  25. 川田信一郎

    川田参考人 その主体性でございますけれども、私どもいろいろ歩いてすぐれた農家に接触しておりますと、今熊澤先生がおっしゃいましたように、やはり農家自身農業をやっていこうという意欲、及び、これはまだ今いろいろと勉強しておるのでございますが、三世代にわたって安心できるような農業ができれば地力というものを培養できるのではないか。三世代、つまりじいさん、おやじ、孫、この三世代が安心してやっていけるような農業、そういう雰囲気がやはり必要なのじゃないか。そういう農家で、皆さんやる気があれば、地力というものが相当維持されていく主体性をなすのじゃないか。では、三世代が安心して農業をやっていけるにはどうしたらいいか、こういうことになりますとまた別の問題だと思いますが、ちょっと私の経験いたしましたことを申し上げます。
  26. 小川国彦

    ○小川(国)委員 時間が参りましたのでこれで終わります。  どうも大変ありがとうございました。
  27. 阿部文男

    阿部委員長 日野市朗君。
  28. 日野市朗

    ○日野委員 先生方にはお忙しいところ時間をお割きくださいまして、どうもありがとうございました。非常に参考になったと思います。それで、私からも二、三、先生方に伺いたいと思います。  まず、川田先生熊澤先生に伺いたいのですが、両先生のお話の中に、地力を増進していく、その責任者というのは国なんだというお話がございましたし、熊澤先生からも、この事業は個人の努力を超えるという表現もお使いになったと思います。私も全く同感なのでございます。ただ、今度の法案を見てみますと、実は国のこの点にかかわるかかわり方というのは非常に少ないわけでございますね。どのように地力増進をやっていくかという技術的な指針をつくるということ、ほぼそれにとどまっておりまして、それから先は地方の自治体、都道府県に任せているわけでございます。そして、都道府県において増進のための指針をつくっていく、こういう基本的な考え方になっているのでございますが、実は、私これを見て、地力を増進しろと言ってみたって、これは試験研究段階から金がかかります。それに、現在の農業そのものがそれこそ家畜と切り離されているところがありまして、例えば深耕しろというようなことを言ったって、今はもうそういうことができるような周辺状況がないというようなことがございますし、それから個々農家だって、地力を増強するための資本の投下がかなり必要だというふうに思うのですが、その資本の投下に今の農家は耐えられるだろうかという心配も実は私いたしております。  両先生から少しお考えを聞かせていただきたいというふうに思うのです。
  29. 熊澤喜久雄

    熊澤参考人 これは先ほどからたびたび出ておりますように、非常に息の長い目で見た事業といいますか、そういうことになるわけでございまして、そういう点からいいますと、そもそも地力を増進するというからには、地力の現状が把握されていなければいけない。個々の切り離された農家というのは、自分の畑は見ますけれども、それはその時点において眺めているわけで、それがどういう方向にどのように動いていくかはなかなか把握ができないわけです。国としての一定の施策を決めてそれを進めていくと、そのどこに重点を置くかということは、やはりそれ相応の地力監視体制、あるいは砕けて言えば地力の調査というものが絶えず行われる必要があるわけです。日本土壌図などはある段階まででき上がっているようでございますけれども、この土壌というのは、先ほどから話が出てきましたように絶えず性質が変わっていくものです。ですから、地力というものも絶えず、ある場合には上がっていったり、ある場合には下がっていく。そういう土壌の調査体制を常に維持して、適切な調査をして、その結果を農家に知らせていくというのは、職員がどこに属するかというようないろいろな問題がありますけれども、総体的には国の責任であって、またそれが最も基本になるのではないか。  それから、法案の中に出ております、農家からのいろいろな要求に応じて調査をしていくという場合がありますけれども、それも相当の準備がなければ、言うはやすくしてできないわけですね。そのために国としてどのような調査に応じられるか、それに対する人員の配置はどうなるかというところまで予算と同時に対応して出てこなければ、なかなか実効を上げるのは難しいかもしれないと思います。
  30. 日野市朗

    ○日野委員 川田先生、何かお考えの点ありましたら……。
  31. 川田信一郎

    川田参考人 この法案を見ておりますと、主体性の面は実に民主的にできていると思うのです。果たしてこの民主的というのが農村でどう具体的に生きていくかということが、私は非常に心配なんでございます。  こんなことを申し上げるとあれですが、三月下旬に先ほど申しました庄内の北の方の日本でも有数の米どころの農協で話をしろというので頼まれまして、私いろいろな勉強をやっておりましたけれども、また半日ばかり農家の人たちにお話ししたのですが、その席で三時のおやつになったのです。そのときに出たジュースが、ドイツの輸入のリンゴジュースなんです。そして、それがグリコ。ちょうどあのグリコの事件がありまして、グリコの製品でドイツ輸入の一〇%。それが農協で出てくるのです。農協の会議室なんですが、そこには牛肉とミカンの輸入は反対だとある。一体みんなこれは何と考えているのですかということを申し上げた。そういうようなところが現状としてはあるのでございますね。私は非常に気にかかりましたけれども。  それでは、例えば農林省あるいは農林省がお考えになったような団体、そういうところで積極的に主体性を持ってやっていったらいいかというと、これもいろいろと疑義がございます。殊に私は、昭和三十七年から発足しました、先ほどから申しております農業基本法にのっとりました構造改善事業を見ておりますと、多々失敗の例があるのですが、その責任が道義的には問われないで法律的に問われますと、法律的に見ますと全部農民が判を押しておるのでございます。ですから、いろいろな失敗は全部農民が失敗しておるということで、これでもし土の問題がうまくいかなくてあれすると、やはり責任は形式的には農民になるのじゃないか。  しかも、農家の人たち、相当すぐれた農家の人たちが、一方では牛肉だとかオレンジの輸入反対だということを言っていて、自分たちの日常生活ではどんどんそういう輸入されたものを食べている、そういった現状でどうやっていったらいいのか。これは私自身研究の方が専門でございますので、どうしていいかというのはまたおのずから違った学問分野の方が展開してくださると思いますが、やはりこのあたりは非常に一つの大きな問題じゃないか。年月がかかると同時に、一体本当の主体性、主人公になって土の問題を考えるのは、どういう機構で国が農民と一緒になって考えていくかということ。このあたりは十分に検討を農林省あたりでしていただきたい。過去にもいろいろの失敗もあるでしょうし、成功もあると思うので、農林省が少なくとも過去五十年間のそういう技術関係の反省が必要だと私思います。そういった五十年間のいろいろな反省を並べてみて、その中から、やはりよかった例も少なくないと思いますので、またよくない例もあると思いますので、先ほどから問題になっております主体性の問題は十分検討していく必要があるのではないだろうかと思っております。
  32. 日野市朗

    ○日野委員 国の責任といい、主体性といっても、結局こういう事業を進めるのはいろいろ金がかかってくると思うのですね。先生方の御意見の中に耕土培養法に対する評価がございまして、一応高い評価をしておいでになるというふうに私感じているのでありますが、あそこでは金を出すことを一応決めておったわけでございます。ところが、どうも今度の法案を見ると、金については農水省の方が非常に渋いようで、法案からは少なくとも直接金が出るというようなことについては、特に第一線でいろんな仕事をやる農民の人たちなんかには金はほとんど出ないようなんですが、これについて御感想を、一言ずつで結構でございますから、三人の先生方、お願いできますか。     〔委員長退席、上草委員長代理着席〕
  33. 濱田龍之介

    濱田参考人 どちらかと申しますと私の専門外の制度的なことについてでございましょうし、いささか当惑しておりますが、できるだけの手当てがいただけることがやはり何よりかと存じます。
  34. 熊澤喜久雄

    熊澤参考人 お金がどのように出るかということなんですけれども、実際にはどういうような事業が必要となってくるかということで、その事業のうちの相当部分は日常的に農林水産省の予算の枠の中でといいますか、あるいはやられているかもしれないような気もしないじゃないのです。私も、本当のところ何かやるというときには必ず金が要るんじゃないか。分析機械を一つ配置するにしても、あるいは土壌改良のある一つの事業をやるにしても、堆厩肥をつくるというような装置をつくるにしても、というふうに思うわけなんですけれども、その辺は従来どういうふうな予算が出ているかということをまだ十分知りませんものですから。ただ、金なしでできるということは、こういうようなことではないと思うのですね。
  35. 川田信一郎

    川田参考人 やはりお金にはプラス部面とマイナスの面があると思います。  例えば、いい例として挙げられますものは先ほどの耕土培養法、またその前のいろいろな識者の方々の御活躍で、日本の国の土壌改良と申しますか、地力にかかわることに対して当時国の予算は相当私は出ていたように思うのです。これが一番出ましたのが昭和三十年まででございまして、当時の予算をずっと私調べてみたことがございますが、三十年はちょうど日本の米が自給になった年でございまして、三十年以降、土壌をよくしていこうという国からの投資がぐっと減っております。先ほど私申し上げましたように、やはり十年はかかる。やはりそれが昭和四十年を過ぎて地力の落ちてくる一つの大きな隠れた理由ではないか。ですから、お金というものはうまく使えば、その国にとってまた農家にとっても非常にプラスに働いている。  今度はマイナスの面を考えてみますと、いろいろな農林予算を見てみますと、下手に補助金の形でいきますと、末端の事務機構は何をしているかわからないようなオーバーな事務、例えば改良普及所がございますが、普及員は何をやっているかというようなことがございます。そしてまた、そういうようなごくわずかのささいな金が農家の人たちをスポイルするというようなことがございますから、やはりそのあたりを、事お金に関してはプラスの面もあるしマイナスの面もあるということを私は痛切に感じております。
  36. 日野市朗

    ○日野委員 濱田先生に伺いたいのですが、実は今度の法案の定義をごらんになっていただきますとおわかりいただけるのですが、対象になる土地は農地でありまして、その農地の中でもどうやら放牧採草地あたりは除かれそうな感じでございますね。私、今世界的にみんな食糧生産に一生懸命になっているときに、日本で、例えば黒ボクという土がございまして、これは酸性が強くて扱いにくいとされておりますけれども、使いようによっては使えるというようなところも、これは使えるような地力の増進の方法というのも考えるべきではないかというようなことを考えておるわけでございます。そういう観点から、できるだけ農業に適した土地の範囲を広げていくということが今非常に大事なことではなかろうかと思うのですが、いかがでしょうか。  それからもう一つ、ついでに欲張って恐縮でありますが、世界で農耕地を広げていくというような努力が行われている顕著な例でも一、二挙げていただければというふうに思うのです。
  37. 濱田龍之介

    濱田参考人 この地力増進法の適用される範囲が今のままだと少ないようである、もう少し広げた方がいいのではないかという御質問と伺いました。  その適用する対象が実際に私としてはどういうものであるかということは深く存じませんので、適切なお答えを申し上げることはできないと思いますが、ただ、今例に挙げられました黒ボク土の有効利用、これは戦後開拓地の土壌調査とか、そういったものを通じてかなり積極的になされてきた部分ではないかと思います。あえて私見を申し上げますならば、黒ボク土の表層土を腐植を大事にしていただきたいということは、私なりの立場から強く申し上げたいことでございます。  それから第二の点の、世界で農耕地を広げる努力がなされているのかという御質問なんですが、先ほど私お話し申し上げた中にも触れましたが、これから広げられる農耕地で豊かな農耕地はもうないんだということが言われております。三十四億ヘクタール、三十二億ヘクタールとか、いろいろな数字がございますが、陸地面積の約二二%が可耕地であるというふうに言われております。穀物を生産しているところは大体七億ヘクタールか、ややそれを超えるぐらいかと思いますが、いずれにいたしましても、ほとんどの優良農地はもう既に開墾されたという御認識にお立ちになる方がよろしいのではないかと思います。  ただ、指摘されておりますところは、ブラジルにはまだ多少余裕があるというところもあるが、エジプトにはないというふうなお話も伺っております。ただ、実際にエジプトにいらした方に伺いますと、いやまだあるぞという話も伺いますので、いろいろの御判断の基準がございましょうし、大まかなお答えで御勘弁いただければと思います。
  38. 日野市朗

    ○日野委員 まだほんのわずかですが時間がございますから、川田先生、今の問題点、もし何かお話しいただけることがありましたら……。
  39. 川田信一郎

    川田参考人 今先生がおっしゃいましたように、何も悪い耕地だけを指定しないで日本全体の耕地を指定して、先ほど熊澤先生がおっしゃいましたように、いわゆる基礎調査所のようなところがあって、そして、これは濱田先生もおっしゃいましたが、いい地力のところというのはやはり坂を車がおりてくるのをとめているような非常に危険な状態なんでございますね。やはりいい地力というのは、万般安定してなくて、しょっちゅう注意していなければならないところがどうもあるようでございます。ですから、何か崩れていく一歩手前というようなところに非常にいいところが出てくるというようなことを先輩の先生方にも聞いたことがございます。ですから、やはり詳細に、広く、ずっと調べておくということ、そして単なるこの土地だというふうに限定しない方が、国が土を守るという姿勢からいけば望ましいというふうに私は感じます。
  40. 日野市朗

    ○日野委員 どうもありがとうございました。
  41. 上草義輝

    上草委員長代理 吉浦忠治君。
  42. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 三人の参考人先生方、大変お忙しいところ私どもの委員会で貴重な御意見をいただきまして、大変感謝申し上げる次第でございます。ありがとうございました。  時間の制約もございますので、なるべく簡潔にお答えいただきたいと思いますが、昭和二十七年でございますか、耕土培養法ができまして、その後三十四年以来地力保全基本調査ということで各地方の調査をいたしておりましたし、また五十年代でございますか、土づくり運動中央推進協議会というものもできて、調査をして今日まで来ておるわけでございます。土づくりの必要性というのはあらゆる機会にこの委員会でも取り上げられてきたところでございまして、恐らく政府としてもそういう点で十分関心があったこととは思いますけれども、この四年間のいわゆる不作ということが根本的な原因ではなかったのかなと思っているわけです。  こういうふうに立ち至った根本的な問題をやはりここで考えてみないといけないのではないかと思うわけでございまして、まず最初に川田参考人熊澤参考人にお尋ねをいたしたいと思いますが、この地力低下の根本原因をどのようにとらえておられるのか、この真の意味の原因を明確にしなければ真の対策というのは考えられないわけでございますので、いろいろお話を伺っておりますけれども、それについてどのようにお考えなのか、お尋ねをいたしたいと思います。
  43. 川田信一郎

    川田参考人 地力低下の根本原因ということでございますが、確かに昭和二十年代の増産時代は地力というのは相当考えられておりまして、たしか昭和三十三年ぐらいまでは農林省も積極的にそういう研究もしておられたようですが、三十四年から農林省が世話をされて例の基本問題調査会ができまして、農業基本法ができまして、構造改善が出発して、そして今度は実は土が忘れられたと思います。そして、あの当時は機械化機械化でございました  私はちょうどあのころ、ある地方の農事試験場の分場に参りまして、そこの場長に会いまして、実は稲の根の研究をしているのだ、それはやはり増産、十アール当たり収量を高める基本的な方向だと思うがということを言いました。これは私と同じで作物研究者の仲間でございますが、いやもう一切私たちのところではそんな研究はしてない、そんなことをしたって国から予算は来ないのだ、県から予算は来ないのだ、もう今は何でも機械化ということを使わなければ予算は来ないのだという話で、実はそれがずっと続いたわけでございます。あそこに一つ転換点があったと私は思うので、そのときは、本当に地力の問題を幾ら主張しても通らないという時勢でございました。  一体それはなぜ通らなかったのかというのは、自分でも反省し、もう少し勉強もしてみなければならないと思うのですが、あのときはけんもほろろでございまして、そのときに、私、高等学校のときに芭蕉の「この道や行く人なくて秋の暮れ」という俳句を教わったことがありますが、それをしみじみと身にしみて覚えたのが昭和三十七年の構造改善事業が出発したところであります。それほど寂しゅうございました。それが一体どこから来たのかというのは、やはりあのときの、昭和三十年代半ば以降の国全体の姿勢ではございませんでしたでしょうか。農家の人たちの中では、個人ではそういう人たちはおられましても、やはりなかなかそれはできなかった。やはり皆さん、機械化機械化で行ったんじゃないか。私はあの当時の寂しさを思い出しますけれども、土のことを言ってもだれも問題にしてくれませんでした。稲の根など研究するのはどこかのばかじゃないかというふうに言われておりました。やはりあのときの国の、これは先生方もよく御存じだと思いますが、国全体がどういう方向、どういうことをやってきたかということの反省をしていくことによって、先生に対するお答えがおのずから出てくるんじゃないか。ただ私の端的な経験だけを申し上げます。
  44. 熊澤喜久雄

    熊澤参考人 今川田先生がおっしゃったことをちょっと別の言葉で言いかえたにすぎないかもしれないのですが、農業生産性を考える場合にいつも問題になってくるのは、土地の生産性と労働生産性ということだと思うのですが、実際の合理的な農法というのは、この両者をうまく統合して、非常に長い基礎のもとに展開していくところにあるのだと思うのです。土地の生産性が非常に強調されてきて、収量が上がってきましたけれども、その一方で労働生産性が軽視されているんじゃないかということがあって、今度は逆に大型機械化あるいは構造改善その他が出てきたときに、労働生産性の面が土地生産性の方を、それに対する研究を無視したような形で進められてきた。それを合理化したのが経済合理主義的な考え方。つまり、経営としての農業というものを、先の長い期間ではなくて、そのときそのときの勝負として見てくる、そういう考え方が一方あったと思うのです。  労働の主体の方は、前にも言いましたけれども、それは別といたしまして、技術的な内容としては、やはり水田の場合と畑の場合で若干違うのではないかと思います。両者を統合して、水田と畑との交互転換、うまく畑にしたり田んぼにしたりするというのは田畑輪換ということで、昔から日本だけではなくて外国などでもその技術があるわけでございますけれども、そういう技術の展開に行くのではなくして、水田単作が出ていく、裏作は放棄されていく。それからまた畑の方では、大型である一つの専業体系が、非常に大型専業が出てくる。大根なら大根だけをつくる、キャベツならキャベツだけをつくるというような体系が出てくるわけで、これは機械装備その他の関係からいって、労働生産性の向上には大変寄与するでしょうけれども、土壌の方からいいますと全く事情が違ってくるわけです。  土壌というのは、もともと専業化を好まないというふうに言えるのではないか。土壌は非常に多様性を好んでいるわけです。それはなぜかというと、土壌の中の生き物が主に微生物、微生物だけじゃなくて、土壌生物を考えていただければいいわけですけれども、多種多様なものが共存してきて、その生き物のえさとなる有機物が十分に与えられてくると、そういう条件において健全さを保つわけで、それがある一つ作物だけができますと、その作物に非常に固有の、その作物を好きなような微生物、それはある場合には病原菌になりますけれども、病原菌だけが過度に繁殖してしまう。土壌生物間の相互制約というものがなくなってくる。  それは一つの例でございますけれども、土壌というのはもともと単作化に対して非常に鋭敏なところがあるわけです。技術的な内容としてはそういうことがありますし、さらに調査の不足といいますか、知らない間に例えば肥料養分が過剰になってくる、不足の段階を通り越して過剰になってくる。それは分析しないとなかなかわからないわけですね。そういういろいろなことが重なってきたのではないかと思います。特に水田の場合は、土壌が浅くなってくるというような大きな問題。それから有機物が不足してくるということも非常に大きな問題。有機物も、質のいい有機物というものがなければだめだ。特に冷害地帯あるいは温度の低いときの植物の根の生育というものに対しては有機物がかなり有効な働きをしているということは最近の研究でかなりはっきりしてきている、そういうようなことがあります。
  45. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 川田参考人にもう一度お尋ねをいたしたいのですが、今熊澤参考人の方からも御答弁いただきましたように、質のいい有機物ということでございますけれども、真の意味地力増進対策というふうなものはどうすれば本当の意味合いになるのか。先ほど川田参考人意見陳述をお聞きしまして大変参考になったわけでございますが、地力を高めることは一年や二年ではできない、最低十年から十五年かかるのだ、当然のことだと思います。そういうふうなことが果たして今の農家にできるのかどうか、今の政府のこの対策で、この地力増進対策というもので果たしてそれが可能なのかどうか。こういう法案はできたけれども、その事実はどういうふうにそれに沿っていけるものかどうかという危惧の念を抱いているものでございますが、先生の御意見をいただきたいと思います。
  46. 川田信一郎

    川田参考人 これは私の本当の専門としております作物の根とはかけ離れておるかとも思いますけれども、近ごろの農村のすぐれた若い人たちが十年という単位になかなか我慢ができないようなところがございます。今もう農村の子供たちは都会の子供たちと変わりないようなパソコンとかなんとかをやっている。すぐ効果の出るようなことに非常になれてきておる。農業のことで重要なことは、一年単位のことは幾らでもございます、肥料だとか農薬だとかというのはやったらすぐ効果が出ますから。ところが、土の環境のことになると十年かかる。その十年をじっと我慢できるということ、それは大変なことだと思うのです。  例えば農林省農業者大学校というのを建てております。これは全国の都道府県の知事推薦で若い人たちが集まって、東京の多摩にございます。私もそこでいろいろと講義もさせられることがございますけれども、三十人の定員でございまして、その中の大部分が穀物や露地野菜という、本当の基礎基礎農業と私は思うのでございますが、そういうものを専攻しようというのは一人もおりません。大体専攻しようとするのは花ですとか施設園芸だとか、それから酪農ですとか、何かすぐ金になるような、土をよくしていくような地味なことにはなかなか関心を持たないというところがあって、これは一体どういうふうに考えていったらいいのであろうかといつも思いながら生徒諸君に講義をしておるのでございまして、私自身もどうしたらいいかということはわかりませんが、しかしこれは研究自身がそうでございまして、やはりそういう年月に耐えてやっていけるということが大切じゃないか。  ちょうど昨年の今ごろ、農業経済では有名な東畑精一先生がお亡くなりになりまして、その東畑先生がよく晩年におっしゃった言葉一つに、君、二十年かかって書いた本は二十年の生命があるよ、しかし半年かかって書いた本は半年しか生命がないよ、学者というものは三十年なら三十年かかって本を一冊でもいいから書くことが大切だねということをおっしゃいまして、やはりどの道も大変苦しいんだなということをおっしゃって、ちょうどたまたまお亡くなりになって一年になります。こういうことを申し上げるのは少しどうかと思いますけれども、これも私などの仕事からいきますとやはりそうだろうと思います。三十年かかってやったことは三十年の生命を持つ、半年のものは半年で終わる。しかし、今全体の空気は半年、半年。もう書物などは御承知のようなあれでございます。ですから、もうそうなると地力の問題というものは、単なる一法案でなくて、農政の基本の問題になってくるのではないだろうか、そういうふうに考えております。
  47. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 最後に、濱田参考人にお尋ねをいたしますが、アメリカでは一ブッシェルのトウモロコシを輸出するのに二ブッシェルの土地を消費する、今こういうふうに言われているのでございますが、急速に世界は砂漠化しているとも言われておりまして、世界地力問題に対してどのような見解をお持ちなのか、これが第一点。  時間もございませんので、もう一点は、日本の現状についてどのような見解をお持ちなのかどうか。何が原因で今日の地力低下をもたらしたかということも含めまして御指導いただければと思います。
  48. 濱田龍之介

    濱田参考人 私が日ごろ考えておりますことそのものずばりの御質問をいただきまして、大変恐縮いたしております。と申しますのは、先ほどもおっしゃいましたように、私どもの食べ物は随分世界に依存しております。そうしますと、その食べ物を生産する土地というのは日本以外のところにございます。したがいまして、この機会にこういうことを申し上げるのが適切かどうかちょっと疑問ではございますが、日本地力日本の土地問題、日本土壌問題は世界土壌問題の一環である。場合によってはこれは国家主権の問題もかかわってくるかもしれませんが、アメリカのどこどこ州のどういう土壌はどうなっているかということについて我々が知ることというのは非常に重要な意味を持ってくるのではないかとさえ思っております。ちょっと短絡的ではございますが、土壌学者の立場からしますと、経済地理という分野があるやに伺っておりますが、そういう経済地理の分野の方が世界土壌図をごらんいただいて、それで非常にヤクロな地球の経済分析といいますか、そういうものをやっていただける方がいないかなということをいつも考えております。お答えとお願いと一緒になってしまって、大変恐縮でございます。  それからもう一つは、日本の土地問題がどうかということでございましょうが、もう既にお話をしました中に含まれておると思いますが、世界の土と日本の土を常に比較しながら日本の土のありようを見詰めるということが、多少抽象的ではございますが、大切なことであろうというふうに考えております。
  49. 吉浦忠治

    ○吉浦委員 ありがとうございました。  以上で終わらせていただきます。
  50. 上草義輝

  51. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 きょうは三先生から貴重な御意見を拝聴いたしまして、大変感謝しております。  土づくりの問題につきましては、私も長いこと農業をやってきた人間でございますので、全く心を打たれるところがございます。殊に川田先生から、地力保持、これはもう国家の責任で対応すべきだ、そういう御意見の発言がほとばしったときは、全くそうだなというふうに、今後そういう面に向かっての立法化も私たちが努力しなければならない、そういう一つ責任感をも感じさせられたわけでございます。  実際、現在地力の低下は大変な問題を提起しております。もう農業生産の問題ばかりじゃなくして、国土そのものがこのような略奪農業から果たして何年今後守られるのか、随分心配しておるものでございます。そこで、私は、こういう土に対する認識に対しまして一つの見方の転換期を与えるときに至ったんじゃないか、こういうふうに感ずるわけでございます。  といいますのは、このことを先生から専門的にお伺いするのですが、地力とは何かと地力をつくるとは何か、これは別個なことだと私は感ずるわけでございます。といいますのは、かって植物の成長に対しましては有機栄養論が今から百年前支配しておりました。この有機栄養論が支配する間は、結局地力をつくることに農法も従ってきたんじゃないかと思うわけです。  しかし、現在は無機栄養論が支配しております。事実、科学が分析しますと無機栄養論、これはそのとおりなのでございまして、分析的にはこのことに対しましてはだれも異存はないわけでございます。しかし、この無機栄養論が支配してきますと、どうしても農民自身も安易に化学肥料を投入して、地力をつくることに対する責任を全然感じないわけでございます。その結果いつの間にか化学肥料を多使用する、そのことによって地力が低下する、そのことが農作物の病害虫に対する抵抗力をなくす、そのことで農薬を多く使う、そのことにおいてさらに農薬の公害的な作物が出回ってくる、こういう悪循環になっているわけでございます。  そうなりますと、もう学校の教育において、先ほど濱田先生は、土壌博物館あるいは学校の教材にも、地力の問題、土地の問題の認識を深めるんだと言いましたその教科の中に、地力とは何かと地力をつくるとは何かということをはっきり分離しまして、いわゆる科学論と科学論じゃない、実際に我々がやってみますと有機物を入れないことには地力はできないのですから、何かこの両方のオーソライズされたような観念の仕方を教育しなかったら、本当に国民も、今宇宙まで科学が支配している時代だから我々の土も簡単に化学的処理で支配できるんじゃないか、こういう思い上がりが出てくるんじゃないかと思います。  こういう点で、やはり私はまだ土は生き物だという、そういう立場に立っておりますので、こういう日本の国において今まで何か見捨てられた面の一つのオーソライズ化といいますか、学問的な裏づけを啓蒙させるにはどうしたらいいのか、そういう点をどなたか、よかったら川田先生からでもお伺いできれば幸いだと思うわけでございます。  それでは、時間がありませんので、またまとめて質問させていただいてよろしゅうございましょうか。  こういう観点からいいますと、やはり私たちは自然の生態系の循環の法則を抜け出すわけにはいかぬわけでございます。しかしまた、自然の生態系の循環を抜け出せないといいましても、このことは私長年農村で生きていた関係からの感覚なんですが、現在の我々、いわゆる文明を幾らかでも享受している人間の住んでいる自然が、原始太古のままの自然というような自然があるのかないのか。私は、今我々人間が生存する自然というのは全部二次植生あるいは人工化された自然だと思うわけでございます。こういう人工化された自然の中で我々が自然の生態系を維持するのには、やはり人間自体の管理が絶対に必要だ。そういう点では、濱田先生が先ほど申されましたように、坂道の途中で荷車をとめているようなものだというのが実感でございます。  こういう点で、単なる自然崇拝者というか、そのまま放置すれば立派な自然になっているんだという概念も、いわゆる都会の人たちあるいは農村にも広まっているわけでございます。しかし、我々のあのきれいな田園風景あるいは森林、山のあの美しさ、あれを維持保全する、美しい豊穣な生産物をつくる、いろいろな花を咲かせる、これはもうみんな人間の努力がなかったらこういう生態系の循環系を維持できないわけでございますから、こういう点で自然観をもまた変えて再認識させなければならぬのじゃないか、そういうことを考えておるわけでございます。  こうなりますと、実は地力増進の中に、いろいろな増進資材の投入だけで果たして地力が維持できるかとなりますと、これまた私は疑問を感じております。今まで地力を維持した私たち農民の努力の中には、こういう自然体系の中で複合経営をやった、あるいは畜産等、農業するには必ず生き物を飼育しないと農業はできないんだ、土は養えないんだ、さらに、専業形態だけでは、先ほど熊澤先生も言われておりましたように、すぐに嫌地問題や何かで土壌は悪化することはわかっておるわけでございます。こういう点、植物生態系を利用した地力づくりというのは、牧草では地上に千貫の草が生育しますと根が地下に千貫も張って有機質を残す、そういうような自然のいわゆる地力維持のメカニズムもあるわけでございますので、こういう点ですぐれた作物経営の指針になるようなことがあったらひとつお知らせをいただきたいとも考えるわけでございます。  さらに、他産業との関連でいわゆる我々の農業の産業というものも見なければならぬわけでございますが、何といいましても、食物の自給というのは国家安全保障の一つでございます。そうなりますと、他産業自体もいわゆる自然を守る、自然といいましても地力を守るということ、農業を守るということには何らかの責任を分担してもらいたいというのが私の考えでございます。このために、実は都市ごみの堆肥化とかあるいは下水の排せつ物などの堆肥化、そういう方向への問題もいろいろ膾炙されているわけでございますが、こういう面への見通しと、それの処理の都市の人たちの分担というものも将来考えていくべきではないかとも私は今思考している人間でございますので、この点に対する他産業との関連、協力性に対して一体どういう手を打っていったらいいのかというような点、また何かこういう処理へのよい研究成果でもあったら御発表をいただきたい、こう思うわけでございます。  さらに、耕土を五寸つくるのに一年五分ずつ深耕していかないとできないんだというのは、全くそのとおりでございます。そういう点で、今のロータリー式のああいう農機具だけを普及させていいのか、私はそういう点でいつも疑問に思うわけでございます。イギリスの農業などを見ますと、二段すきで三十七、八センチぐらいまで深耕していくのですが、ああいうロータリーだけが一遍化していくという指導方法あるいは機械の普及にも全く疑問を持っております。こういう点でも、農機具改良に対するいい御意見等をひとつお聞かせいただきたい。  それから、今水田が休耕されるについて、還元層やすき土が破壊され、二、三年休みますと完全に漏水田化したりいろいろな機能が低下します。こういうことに対して、地力の面から、一度休耕して土地の基盤そのものが破壊された土地を回復するのに実は大変な労力が必要だと思うわけでございますが、こういう労力よりも、荒れていく土地そのものに対しての対策として今後どういう手を打っていったらいいのか。やはり基盤整備を再度そういうところには施して、いわゆるかんがい排水の系列化と同時に、基盤整備以外になかなか対応できないんじゃないかというふうにも私は考えておりますが、こういう水田の休耕による土質の変化というものに対するところの復旧対策、そういうものに対して何か御配慮がありましたら教えていただきたい、こう思うわけでございます。  以上御質問申し上げますので、よろしくお答えをいただきたいと思います。
  52. 川田信一郎

    川田参考人 それではまず私から、私のお答えできる範囲を申し上げてみたいと思います。  まず第一のことでございますが、私はこれはいつも不思議に思っているのですが、植物などの標本を飾っておくとか、あるいは作物の品評会のとき、あるいは植物図鑑でもそうでありますけれども、日本の場合にはどういうわけかいつも植物の根がないのですね。茎と葉と花だとか実のあれはあっても、一体どんな根をしているか一切ないのです。これは、教育の基本問題だと思うのです。やはりこういう根が生えていてこういう土壌断面であるという、これは濱田先生のおっしゃったように、例えばいろいろな博物館ができましてもそういうものが必要だと思う。これは、日本の場合の教育の一つの問題じゃないか。これは見事に、どんな植物図鑑にも根はございませんから、ごらんになってください。それから土壌断面の標本というのは、大学の研究室ぐらいかあるいは試験場にはありましても、ほかのところへ行ったら、土壌の断面というのはちっともないのです。いわんや、根と土壌を対照して並べてあるのは一切ございません。  それから二番目のことで、自然にかかわることでございますけれども、私もちょっと先ほど申し上げました明治神宮が、六十年前にあそこは更地だったのですね。そこへ当時の全国の青年団の人たちが、明治天皇の徳を慕って北海道から沖縄から、あのころは樺太がございましたけれども、木を持ってきて、そしてアカマツ林だとか本当の畑だとか、荒蕪地に木を植えた。今、だれが行きましても、あそこをそんな土地だと思いません。もう見事な自然だと思います。あそこに行きますと、今、生物系は恐らく安定しております。いろいろな鳥も来ておりますし、それから微生物も非常に多く、都会の真ん中にあんな見事な、あれはだれが見ても自然だと思うのですけれども、完全な人工です。ですから、自然を守れということは一体何なのか、これはまた困ったことであります。  例えば阿蘇山などへ行きますと、阿蘇山は加藤清正以来全体に手を加えているところですね。現実に、私はよく阿蘇の草地を見に行くのですが、阿蘇の自然を守れと言って、自然を守る市民運動があるのですね、そのあたりに。  それから、いわゆる植物に対しても、例えば我々は植物の分類というとカール・フォン・リンネの植物の分類で二名法を使っております。しかし、植物の分類の中に、そう以前ではございませんが、植物を人間とのかかわり合いで大きく三つの群に分けろ。一つの群は山野植物である。これは人と全然かかわり合いのない植物。それから一つの群は作物と雑草である。これは必ず起こして、それから有機成分が加わったようなところに生えるものが作物であり、雑草である。それから、ちょこちょこっと人が歩いたり、あるいは大変恐縮でございますが猫や犬や人間が小水をしたりするような人里に生える植物である。こういうふうに、人類が出現してから自然的な植物が三つに分かれてきたのです。この作物や雑草というものは、これは必ず起こしてやらないと、また、何らかの意味でそういった有機物、肥料成分を含んだ有機物をやらないと育たない。これはすぐだめになる。これなどは自然じゃございません、完全に人間の側の植物になっている。ところが、今度は山野草というものを持ってきますと、これは起こしたり肥料をやったりしていたらみんな枯れてしまいますから。皆様方が一番よく御存じなのは、例のツツジの科ですね、あれなどは、鹿沼土のやせた土に育ってないと育ちません。ですから、自然自然と言っておりますが、自然と人間とのかかわり合いというもの、これもまだ全体としてはなかなか常識化していないようなところがあるのじゃないか。  それから下水の堆肥化の問題ですが、これは熊澤先生が大変御専門にお仕事をおやりですから、熊澤先生に……。  それからロータリーですが、ロータリーというのは本当に困ったものだと私は思うのです。早い話が、土の上をちょこちょこっとやる。これはすき起こしも何もしないのですね。ところが、もういち早くそれを感づきまして、どこがどう感づいたのか、日本農業機械屋さんは、その欠点を補うような農機具を最近考えておるようです。おっしゃるように、やはりロータリーは問題ではないだろうか。  それから水田の休耕の回復の問題、これは私今ちょっと知見を持っておりませんので、熊澤先生あるいは濱田先生にお聞き願えればと思います。
  53. 熊澤喜久雄

    熊澤参考人 では、今の御質問の中の川田先生が残されました都市ごみとか下水汚泥なんですけれども、これは非常に重要な問題になるわけであります。もともと、冒頭にも私触れたと思うのですけれども、肥料というのは土地を肥やすために与えるのですが、そういう土地を肥やす資材をどこからどうとるかということの基本的な理念としては、やはり物質循環過程を合理的に貫徹させる。人間が生産したものを最終的に廃物として外に捨てていく場合には環境の汚染になりますけれども、それをある一つの系の中に置いてまたもとに戻してやる。二酸化炭素で同化したものは最終的にまた二酸化炭素に戻し云々ということで、それが施肥の基本原理になっているわけであります。したがって、昔は人間のし尿なりあるいは家庭のごみなどはすべて肥料として利用されてきた。それが中国及び日本のいわゆる農法の非常に特徴になっていたわけであります。ごく最近までし尿は利用されてきて、都市ごみもかなり利用されてきたわけでありますけれども、そこの利用が、やはりいろいろな理由があると思いますけれども、一方通行になってきて捨てられていった。そして、捨てていく、あるいは焼き捨てるということ自体が経済的に有利であるということになっていったのではないかと思うのです。それが次第に、埋立地が足りない、あるいは焼き捨てそのものに伴う二次的な公害の問題が起こってくるということで、そちらの方から何とかもとのようにならないだろうかという要求が出てきております。  しかし、これは簡単にはもとのようにはならない。何となれば、昔出てきたものと今出てきているものとは違う。昔し尿処理場から出てきたものと、現在下水処理場から出てきたものでは中身が違う。し尿処理場はくみ取り便所でそのまま持っていきますから、それは比較的純枠なものが出てきますけれども、下水処理場の場合には、道路の水が入ったり、あるいは屋根の水が入ったり、あるいは洗剤が入ったり、また極端な場合には工場下水が入る。工場の生産物も場合によったら入りかねない。工場の場合には下水の方に取り込むときにかなり厳しい規制があるようでございますけれども、いずれにせよ、分析の結果から見るとかなりの問題があります。そこで、そういう都市ごみなり下水汚泥なりは資源的に当然利用できるものですけれども、窒素、燐酸、カリだけで、あるいはその他の肥料的な養分、植物養分の価値だけで評価できない。あるいは、それが持っている有機物だけでも評価できない。それだけで評価するならば、これは大変よいものになり得るわけです。  そこで、その中の有害物の規制ということで一方考えていかなければいけないわけですが、規制はされて、それじゃ利用されたものについてどう考えるかということでございますけれども、これはもともとの由来が都市あるいは住民の廃棄物でございますので、その処理費というのがもちろん負担がえをされなければいけない。ところが、これは個々の事例に当たってみないとわかりませんけれども、場合場合によって非常に違うようでございますが、本来処理費でいくものが、途中から利用されるようになってくると生産費に回ってきて、値段がついてくる。もともとただでも引き取ってくれればよかったものについて、値段をつけて売る。その中には、あるいはいろいろ流通の問題があって、廃棄物業者ではなくて、生産物、下水汚泥からできた堆肥を売る業者というようなものももちろん出現してきます。したがって、これについては生産費の負担を農家の負担に持っていくのではなくて、もともと清掃費用の中の一部であるというようなことで、生産者あるいは公共側が負担するという考え方は当然成立するというふうに思うわけです。  それからまた、そういうふうな観点に立ちますと、出てきたものの販売ルートなどについても、単なる販売ではなく、やはりその地域でできたものをその地域に返していく、あるいはより広い範囲を考えてもいいのですが、どういう性質のものがどの農地に返されていくかというようなことまで、じっくり双方で、生産者の側、これは一般市民ですけれども、それと使用者一般の農家の側との意思の疎通というのが非常に必要になってくるのではないかと思うのですね。この問題はなかなか一般論ではいかないと思いますけれども……。
  54. 濱田龍之介

    濱田参考人 御質問の趣旨は、非常に簡単に私なりに理解しているところを申し上げますと、自然観についての再認識の問題と、それから農業という産業の持つある種の特殊性、他産業との関連、その二点ではないかと思います。ロータリー耕の問題は、もう既にいろいろ触れられましたので……。  非常に端的に申しますと、自然生態系をモデルにして我々はいろいろなものを考えるわけですが、その際に私なりに大切なことと考えておりますことは、一つのサイクルの完結ということがよく前提となって論議されます。そのときにいつも欠けるのは、そのサイクルのサイズの問題じゃないかと思っております。いろいろな物事を考える際に、サイクルの適正なサイズという観点からの考え方がもう一つ大事ではないかということでございます。  他産業との関係は、これは土地利用の競合の問題でございまして、先ほど私が申し上げた中の一つの論点に尽きるのではないかというふうに思います。
  55. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 もっと御質問したい、また本質論的な面の追求もしたいと思ったのですが、時間が来ましたのでこれで終わります。
  56. 上草義輝

    上草委員長代理 津川武一君。
  57. 津川武一

    ○津川委員 土壌学者の先生にお目にかかれればいつか聞いてみたいと思っておったのですが、私は青森県の西半分、津軽の出身でございます。ただいま参考人の三先生から貴重な御意見を伺わせていただいて、本当にありがとうございました。  先生方の話してくださったことで国政に参加してみたいと思っておりますが、その津軽でリンゴがことしで百十年になります。この百十年間、ボルドー液をかけ続けてまいりました。ボルドー液は硫酸銅でございます。熊澤先生が銅や亜鉛やカドミのことを話してくださいましたので、これ幸いと思って具体的なことをお伺いするわけでございますが、これだけの硫酸銅がたまってしまったら、リンゴ畑としてどういう影響がありましょうかしら。このままでほったらかしておいていいでしょうか。これに対して何らか打つ措置というものがあり得るでしょうかしら。教えていただければと思う次第でございます。熊澤先生、ひとつお願いいたします。
  58. 川田信一郎

    川田参考人 私は、何回も申し上げますが、作物の方の専門家でございまして、それなりにリンゴにも大変関心を持っておりまして、いろいろ勉強しておりますが、リンゴのボルドー、ただいまは津軽のリンゴでございますが、あのリンゴの薬剤散布、ボルドーの薬剤散布というのは、少なくとも第二次世界大戦前は四、五回じゃなかったかと思う。それが今日では葉が真っ白になるぐらい、おっしゃるように十何回もかけておる。  それが一体何に由来するのかということでございますけれども、よく東のリンゴ、西のミカンということで、ミカンとリンゴは私はできるだけよく現地を見て歩くのですが、例えばミカンの場合には、ハコベが雑草として出るようになったら地力はいい、こう言うのですね。そうすると農薬も少なくて済む。どうもあの農薬、銅を散布、つまり銅害でございますが、あれは本当に土だとか根を考えて栽培しているのか、あるいはもう地力など考えないで実をとることだけを考えているのかというと、実をとることだけ考えているのじゃないか。いわゆる化学的な栽培、ケミカルな栽培に非常に重点を置いてくる。そうすると、リンゴはまずいのです。やはり土でとったリンゴがおいしゅうございますから。私は、土自身の変化はボルドーをやったからどうであるということはわかりませんけれども、ここ数十年間の流れを見てみますと、簡単な、簡便な方法でリンゴの収穫を上げようということで、本当に土をよくしておいしいリンゴをとろうという姿勢でないから、ああいうふうにたくさんかけるようになったんじゃないかと思っております。
  59. 津川武一

    ○津川委員 ありがとうございました。  そこで、濱田先生にお尋ねしますが、実はきのう筑波学園都市に行ってきまして、環境技術研究所に行きましていろいろ教えていただきました。日本のソイルマップも世界のソイルマップも見せていただいて、日本土壌にはたくさんの問題があることも教えていただきました。この中で、改良を必要とする三等級と四等級が水田では四〇%、畑で六七%、樹園地で六四%もあるのに驚いたわけであります。そのとき土壌図を見せていただきまして、これもすばらしいものができておるのにただただ見とれた次第でございます。その後、世界土壌図を見せていただいて、日本土壌が劣っておることも教えていただいたのですが、濱田先生に今具体的に日本土壌世界と比べて話していただいたのでびっくりしたわけであります。今さらながら、きのう行ったことの感じを胸に抱き締めた次第でございます。  そこで、濱田先生は、これを学校の教科書に取り入れろ、博物館に、などということをおっしゃってくださいましたが、同時に、今までの論議の中で、農政の基本だということも、国の政治のあり方だということまで出てきたわけでございます。日本土壌のあり方、これをよくすることについての国民的世論を起こしていかなければ事が片づかない重大問題だということを今さら知らされたわけなんですが、この点で、濱田先生だけでなく、御三人のお気持ち、御意見を承れればありがたいと思います。お願いします。
  60. 濱田龍之介

    濱田参考人 どうも御質問ありがとうございますという気持ちでいっぱいでございます。と申しますのは、土壌学というのはまだまだ小さなところに閉じこもっていたのではないかという気がいたします。きょうここにおいでになった方に私は意識的にペドロジーという何か聞きなれない言葉をあえて使わせていただきましたけれども、ちょうどエコロジーという言葉が一世を風靡したことがございます。正しい御理解をいただいて、ペドロジーということについても御理解をいただきたいと思いますが、そういったことを少しずつでも皆さんに御理解いただくというよいきっかけを与えていただいて大変ありがたく存じております、というのが私の率直な、偽らざる感想でございます。そういうことでよろしゅうございましょうか。     〔上草委員長代理退席、委員長着席〕
  61. 熊澤喜久雄

    熊澤参考人 土壌については非常に大勢の方が関心をお持ちになっているわけです。評論家の方とか作家の方あるいは全く土壌とは方向が違うような方も土壌についてはいろいろな面で発言をされて、また、それだけの重要な事柄であるというふうには感じられるわけですが、そうは言っても、そう言ってはあれですが、そう単純には理解できるものではない。やはりかなり専門的な知識と専門的な技術をもっての解析が必要になってくるわけです。今先生おっしゃいましたような土壌図なども非常に長い期間かかって、我々もちょっとできないようなところもあるのですけれども、非常に大勢の専門技術者が養成されて、その人たちが長い期間かけてっくり上げたものです。各国とも土壌の調査はそういうふうにして行われているわけです。ですから、そういうようなことを将来にわたって維持し、大事にしていくことが一つは必要だと思うのです。  それからもう一つは、それでは問題ができたときの農民農家との対応関係ですけれども、例えば先生がおっしゃったボルドーはどうかという場合に、いろいろ手探りで考えることはできますけれども、やはり何といっても正確なのは土壌を分析してもらうことです。ですから、土壌を分析する、では、とり方はどういうふうにするか。これは多少の専門技術が要りますけれども、そういう土壌を持ち込んでいって問題点に対する答えを簡単に出してくるというのが本当の科学的な行き方じゃないかと思うのです。そうしますと、リンゴの根はどういうふうに分布していて、今のところこのくらいの土壌の銅含量だということがわかってくるわけです。  この地力増進法などの精神に基づいて、そういうように非常に気楽に農家が分析を依頼できるし、あるいはある一定範囲土壌地力状態、今の銅の含量なども非常に重要な地力状態に入るわけですけれども、法案をうまく利用してそれをやっていただけるといいのではないか。進んだ国々では非常にそれをやっておりますし、それから、そのための経費の補助というようなことなども当然考えられなければいけないのではないかと思います。答えはすぐに出ると私は思います。
  62. 津川武一

    ○津川委員 そこで、水田でいけば四〇%、畑地で六七%の改良を要する土壌があるわけです。そうすると、この調査をどうしておやりになるのか、ここの点が一つ問題になるわけです。  それから、今度は調査するにしても器具が必要だ、施設が必要だ、装備が必要だ、人が必要だ。これを改良するとなってくると、今度は設計も立てなければならない、手当てもしなければならない。確かにうんと大事な仕事になってしまいましたので、これをやるだけの体制、これはよっぽどしっかりしなければ法はできても空文に終わるのではないかという心配もあるのですが、こういう体制に対して、どちらの先生でも結構ですが、御意見を伺わせていただければありがたいと思います。
  63. 濱田龍之介

    濱田参考人 私、静岡県下をたまたま土地分類基本調査ですか、国土庁とそれから県の御一緒の仕事のお手伝いをここ十年来やってまいりました。その中では、五万分の一の土壌図づくり、それから地形分類図、それから土地利用図などなど、土地利用も含めたかなり総合的な調査が行われております。ただ、何せ五万分の一というスケールはやややりにくい面が多々ございます。全体的な利用という点でいけばかなりの情報量は集められるのですが、先ほどもおっしゃいましたようなそういったことに対する支えとなるもの、それはなおいま一歩不十分な点があるのではないかということは痛感いたしております。  私、最近どうも感じますことは、こういう地力増進法のような非常に基本的なことで一つの大事な目標が立ちますと、今度はそれとの関連の上でいろいろな調査が、私どもがやりたいということを提案しなければならないのではないかという責務さえ感じております。そういうことの組み合わせ、それにそういうことに対する御理解、そういったものが何となく熱気を持ってくれば、実際にそれを実行に持っていくのは、今度は予算的な手当てもありますが、かなりやりやすくなるんじゃないか、そのように思います。  もう一つつけ加えますと、十年なり二十年前までは、農家の畑へ伺って、穴を見せてください、ちょっと掘らせてくださいと申し上げると、どうぞどうぞとおっしゃったが、最近はひどくうさん臭い顔をして、ちょっとというような、そんな嫌な顔はなさらないのですけれども、私どもがそういう調査を的確に生かし切れなかったことにも罪があるのかもしれませんが、そういった意味で、いろんな形で、気持ちの上でのサポートでも結構ですから、やっていただけるような体制が組めれば大変結構なことです。それに当たりまして、こういう地力増進法というのは非常に大きな意義を持つものではないか、そういうふうに思っております。
  64. 津川武一

    ○津川委員 私たちもこの法律には賛成で、ぜひ進めたいと思っているわけでございます。ところが、この法律は農水大臣が計画を立てる、実施するのは知事がいろんなことをしていく。しかも、現在の予算の状況の中でほとんど予算が出ない。とすれば、地方自治体と農業団体と農民がこのことをやるのは当然です。私もそう思うのです。ところが、農民は今おしりに火がついておりまして、そんな状況になかなかない。これは、国がうんとお金でも出して引っ張っていけばいいわけなんですが……。この法案のことを、賛成で進めたいと一生懸命なんですが、さて行われるかどうかという点についてかなり危惧を持っているわけなんです。ここいらを突破するにはどうしたらいいかを、先生方にひとつ教えていただければと思います。我々行政で責任を持ってやりますが、先生方も御意見を出していただいて、ひとつ我々をアドバイスしていただければと思います。大事なことなんです。やりたいからこのことを言っているわけなんです。  そこで、川田先生にお願いしますけれども、先生は、地力のある農地からは収量が多く上がる、できたものもおいしい、連作障害も少ない、いろいろないいことを言ってくれましたし、私もそうだと思うのです。このためには日本田畑輪換が非常に大きな役割を果たしておるし、先生は、やがてはそれを繰り返して水田と畑の区別がなくなる、みんないい農地になると言ってくれたので、私も非常にうれしくなっているわけなんです。そこで、この田畑輪換の役割をもう少しお話ししていただいて、日本土壌を維持する上において水田が果たしておる役割、これをもう少し教えていただきたい。そして、連作障害をどうするかという点を含めて川田先生からひとつ教えていただきたいと思います。
  65. 川田信一郎

    川田参考人 私は、日本の国が全部田畑輪換になるということは、今のところはどうなるかは考えておりませんが、一つの進んでいったらいいというふうに思う道でございます。これは、いろいろな意味田畑輪換はすぐれていると思うのです。だが、それを実施するとなるとなかなか大変な問題です。殊に水の問題あたりも大きゅうございますし、いろいろございましょうが、やはりそちらの方向が一つの進んでいってほしいという方向だと思います。  それと直接関係ございませんが、農業の問題の中で、その国がつくる作物の優良な種を国内で生産し、土を守る、この二つができたら、その国は独立の一つ基礎ができると私は思っております。そういう意味で、田畑輪換は土にかかわる一つの技術でございます。また、土の利用の技術でございますので、これは基本的な一つの行き方として考えていいのじゃないか、こういうふうに思っております。
  66. 津川武一

    ○津川委員 連作障害に対してどなたかからひとつ教えていただければ、これで私の質問を終わります。
  67. 濱田龍之介

    濱田参考人 私は植物病理の専門ではございませんので、私の立場から連作障害のことについて多少申し上げます。 ペドロジーの分野ではまだ特に話題にはなり得ていないのですが、土壌伝染病の研究者の間でサプレッシブソイル、抑止型土壌とか抑止土壌と言っている、連作障害の出にくい土のことが話題になっております。そういう意味で、私は私なりに強調させていただきたいことは、長い自然史の中でできた土壌の中には、私どもにとって非常に大事な財産となるものがあるだろうということでございます。もちろん有機物の施用とか、そういった形で連作障害を防除できるんだという言い方をなさることもございますが、私などが非常に多くの資料について利用させていただいてちょっと拝見しますと、この有機物の利用と申しますのは、多様な有機物がございますし、また土壌も非常に多様でございます。したがいまして、一般的な結論というのはかなり出にくい。事実、非常に難しい問題でございます。  先生もよく御存じのことだと存じますが、土壌生物生態系というのは、この自然界では多分最も難しい生態系ではないかというように感じております。その一つの発露として連作障害がある場合に、それをちゃんと見きわめるということはかなりの努力を要するのではないか。そうしますと、技術的にやはり輪作を導入するということに現在の段階では解決策を求めなければならないのではないか、そういうふうに思っております。
  68. 津川武一

    ○津川委員 終わります。  ありがとうございました。
  69. 阿部文男

    阿部委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。  参考人各位には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げる次第でございます。(拍手) __________________________
  70. 阿部文男

    阿部委員長 引き続き、政府に対する質疑に入ります。  質疑の申し出がありますので、これを許します。野呂田芳成君
  71. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 ついこの間、国連環境計画の砂漠化防止行動計画の実績評価に関する報告書というのが出ておりますが、これを読んでみますと、大変慄然たるものがあります。今地球の上では、一年間に砂漠化していく農地が六百万ヘクタールだと言われております。六百万ヘクタールというと、日本の全耕地面積に相当するものでありまして、これが一年間に地球の上から姿を消していく、こういうことになるわけであります。  この報告書でさらに大変考えさせられるのは、現在砂漠化の危機に直面しているのは約百カ国に及びまして、四千五百万平方キロメートルだ、こう言われております。これは地球の上の全陸地の三分の一に相当するものであります。日本の国土総面積の百二十二倍に相当するものでありますから、これはいかに大きな問題を含んでいるかということになるかと思います。今ここに地球の人口の二割、八億五千万の人が住んでおる。  さらにこの報告書には、西暦二〇〇〇年までに砂漠化を防止しようとする行動計画の目標は達成することがほぼ不可能になった、このままいけば地球的な規模で大規模な災害が起こると指摘しているのであります。  私はなぜこの問題を持ち出したかというと、日本食糧事情というのは必ずしも需給構造は立派なものじゃございません。今、地球の上で全陸地の三分の一に相当するところが西暦二〇〇〇年に砂漠化するおそれがあるということになれば、ひいては日本食糧問題に大きな影響を及ぼすことになろうかと思うのであります。  そこで、まず、この法律の質問に入る前に、土地の保全とか地力の保全とかというものに関する国際協力について、我が国はどの程度のことをやっているのかということを伺っておきたいと思います。
  72. 小島和義

    ○小島(和)政府委員 ただいま御指摘がありましたように、世界各地におきまして耕土が失われつつあるという指摘があるわけでありまして、全世界にとりまして大変大きな課題になっておるわけでございます。ただ、これらの問題が起こっております地域は、それぞれ土壌状態も気象条件も違っておりますし、また、そこで行われている農業自体の内容も国によりまして千差万別なわけでございまして、日本の持っております技術的な蓄積というのがこれらの国々に対していかに貢献し得るかということが大変大きな問題でございます。  その意味で、五十八年度から日本といたしましてはFAOに基金を拠出いたしまして、この金をもちまして世界食糧需給の安定を図る観点から耕地保全を緊急に必要とする地域の現状把握を行いますとともに、それを保全するための手法を開発する、あわせて、日本の協力のあり方について検討するための資金援助を行っておるわけであります。また、その具体的な調査活動につきまして、現在、アジア地域でございますが、日本人の専門家を派遣いたしまして実際の調査活動にも当たらしておるというのが現状でございまして、その内容の充実に伴いましてさらに必要な手だてを講じていく、こういうことを考えておるわけでございます。
  73. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 今局長がお話しされたFAOの報告書を見ますと、今地球の上で人口の増加に食糧の増産が絶対に追いつけない国が六十数カ国になったと書いてあります。そういう状況の中で世界の砂漠化が進んでいく。これが進むということは、日本のような需給構造を持った食糧事情の中では、日本食糧そのものにも大きな影響をもたらしてくることは事実であります。  今抽象的に局長が表現されたけれども、恐らくFAOに派遣している人間は、技術者が二名ぐらいで金が二億円程度だろうと思うのでありますが、これではやはり世界第二の経済大国としては、これだけの地球上の脅威に対処するには余りにも過小じゃないか。そういう面について政務次官はどうお考えになるか、ひとつ御所見を伺っておきたいと思います。
  74. 島村宜伸

    ○島村政府委員 野呂田先生から御指摘があるまでもなく、実は私が初めて農林水産業について専門的な勉強をさせていただきましたときに一番驚きましたのはこの問題であります。この点につきましては今局長から御説明したとおりでありますが、仰せのとおり私の方もまだまだ十分でないと思いますので、今後ともこのことに大いに留意していきたいと考えます。
  75. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 長期的な課題でしょうが、これからぜひ前向きに、積極的に対処していっていただきたいと思うのであります。  先ほども話が出ておりましたが、地球の上の砂漠化というのは実は非常に雨の多い熱帯地方のモンスーン地域でも起こっているわけでありまして、塩が出てきてだんだんと砂漠化していくというような現象が大変報告されております。我が国には幸いにそういった砂漠化という現象は起こっておりませんけれども、しかし、この法律が出された背景にはやはり非常に大きな問題があるから新しく出してきたと思うのであります。  そこでお伺いしたいのでありますが、先ほども参考人意見にも出ておりましたけれども、日本の地質、地力というものは国際的に見てどんな水準に位置しているのか、そういう問題について御所見を伺いたいと思います。
  76. 小島和義

    ○小島(和)政府委員 日本土壌は、一般的にいいましてその母材の構成、それから温暖多雨な気候、急峻な地形などの影響を受けまして大変多種多様で複雑な分布をいたしておるわけでございます。土壌のそういう構成によりまして分類をいたしまして、三百二十ばかりの土壌等に分類をされておるわけでございます。その中で、特に火山灰に由来する土壌が多いということ、さらに雨が多いために栄養分が流亡しやすく、また畑におきましては酸性化しやすいというふうな特徴を持っておりまして、自然的な土地の生産力は概して高いとは言えないという状況でございます。  ちなみに、水田土壌の自然肥沃度の指標となっております土壌の珪酸含有量を国際的に比較をしてみますと、我が国土壌の自然肥沃度は大体真ん中辺ぐらいという地位を占めておりまして、土壌条件だけから見ますと、決して高いとは言えないというのが実情でございます。特に畑の場合におきましては、先ほど参考人からも御意見ありましたように、他の国々と比較をいたしましてみても決して高いとは言えないという状況に相なっております。
  77. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 今局長も言われたとおりでありますが、我が国の土質というものを見ますと、水田の場合でいけば普通以上の地力を持ったものがたった六割ということになっております。あとの四割は非常に地力が低いということになっている。普通畑については普通以上のものが三割で、七割が悪いということになっている。そしてまた、樹園地につきましては六割強が普通以下だということになっているわけで、どう見ても、これは私は客観的に言ってしまえば世界で見ましても中の下ぐらいの水準に位置するのではないかというふうに思うのであります。  そこで、少し苦言になるかもしれませんで恐縮ではありますが、今まで政府は二十七年にできた耕土培養法というもので土壌改良をやってきた。その法律の趣旨は、秋落ち水田とか酸性土壌とか、あるいは南九州の火山灰地を対象にしたような特殊土壌、こういうものに石灰や鉄分を投入することに限定してやってきたわけであります。ところが、この問題も四十六年から実質上ストップされているわけであります。それから十三年間、今日まで、いわば私は放置されたような格好で推移してきたんじゃないかと思うわけであります。  先ほど濱田参考人でしたか、うまい表現をしておりました。車が坂からおりようとするときに手を放して落とすようなことに、ある意味では十三年間はそういうおそれがあったんじゃないかと思うのであります。そういう遺憾の意を込めて、こういう問題が今日の地力低下を招いた原因じゃないかと思うのでありますが、その点について局長の御意見を伺いたいと思います。
  78. 小島和義

    ○小島(和)政府委員 確かに耕土培養法では、ある種の耕土培養資材の投入につきまして助成の道が開かれておったわけでございますが、このような資材投与に対する助成の道が講じられたというのは、時あたかも食糧増産が大変強く要請されておった、そういう時代的な背景をバックにいたしまして、それまで我が国農業におきましては肥料以外の資材を土地に投与するということについて農家が必要な知識を持ち合わせてなかったこと、さらには当時の物資の生産流通条件からいたしますと、必要な資材を確保して農家に提供するということにつきましてもいろいろ困難な点があった、こういう一種の時代背景をもちましてこの助成措置が講じられたわけでございます。もちろんこの法律が動いておりました時期におきましても、実際に補助金が支出されましたのは昭和二十七年から三十年まででございまして、三十一年以降は農業改良資金という無利子貸付制度によりまして、資材の購入について一種の助成が行われたという背景があるわけでございます。  ただ、この耕土培養事業が終わりましてこの方、地力問題について農林省がすっかり手を引いてしまったということでは決してございませんで、ただいま二十年かかりまして我が国土壌基本図を作製いたしておりますが、その地力基本調査が始まりましたのが昭和三十四年からでございます。二十年かかりまして、昭和五十三年までで全国の五百万町歩余りの農耕地につきましての土壌状態をあまねく調査したということは、世界に対しましても誇るだけの私どもの一つの成果であるというふうに考えておるわけでございます。  もう一つ昭和三十年代の中ごろからそういう調査が本格的に始まったと申しますのは、それまでの土壌に関します知見に比べまして三十年代以降に土壌の構造、地力のメカニズムといったいろいろなことがわかってまいりまして、決して特定の問題のある土地だけではなくて、さまざまな要因を含んだ農地につきまして一般的な手法で調査をすることが可能になってきたというバックグラウンドもまたあるわけでございます。それらをもとにいたしまして、実際の地力対策はそれぞれ問題のある地域ごとに進めてきたわけでございまして、耕土培養法が形骸化したということをもって直ちに何らの対策もしてなかったことを意味するわけではないということは御承知願いたいと思います。
  79. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 これは、私もかつて農林省の政務次官をやっておりましたから、そのざんげも含めてであります。もう一つは、皆さんに罪はないのでありまして、局長も課長も最近なったわけでありますから、むしろその前の人たちの問題を含めて私は申し上げておるのでありますが、耕土培養法が形骸化したにもかかわらず、今日まで法改正をすることが遅かったということに対する問題点を私は言っておるのでありまして、実際の事業を何もやらなかったということは言ってないわけであります。いずれにいたしましても、今回、今の人たちがこういう新しい法律を出してきたことは、これは本当にいいことでありますから、一生懸命やっていただきたいと思います。  そこで、農業者は実際は土づくりの必要性を十分認めているのだろうと思いますが、なかなかこれが行動に結びついてないというのが現実だろうと思うのです。農業者が地力維持増進を行わなくなった背景、あるいは地力増進を推進するに当たって何が隘路となっているのか、こういう問題について伺っておきたいと思います。
  80. 小島和義

    ○小島(和)政府委員 地力の問題につきましては、近年私どももその必要性をPRするということにつきまして、農業団体等と提携しながら全国的な運動を進めておりますので、一般論としてある程度御理解いただきつつあるというふうに考えておるわけでございます。ただ、実際問題といたしまして、自分の土地について何が問題で、 どういうことをやらなければいかぬのかということについての具体的な知識を必ずしも十分に持ち合わせていないという問題が一つと、仮にそういうことがわかったといたしましても、その対策のために費やすべき労働力あるいは資材というものが必ずしも十分に入手できないというふうなところに一つのネックがあるような気がいたすわけでございます。  そういう意味におきまして、今後私どもの進めなければならない対策というのは、一般的な土づくりの必要性を周知徹底させるということはもちろんでございますが、ただいま御指摘のありましたようなネックをどうやって解決をしていくのかという点にあろうかと思いまして、今回の法律案の提出も、その辺を念頭に置きながら起草した次第でございます。
  81. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 今局長が言われた中にも少し出てきましたが、非常に大きな隘路の一つは、やはり何といっても労働力の不足あるいは労働そのものが非常に重労働であるということが、ある意味ではサラリーマン化しちゃっている農業者が土壌改良から手を引いている大きな理由の一つじゃないかと私は思うのです。  そこで、そういうことをカバーする意味で、地力増進のための機械化の促進ということは、これからうんと考えなければいかぬ問題ではないか。機械化の促進ということと、それから国の助成ということについてもう少し前向きに考えていただきたい。あの法律を見ても、先ほどから指摘されているとおり、そういう問題については余りきっちりした規定もない。予算上は実際手を打っていることはわかりますが、機械化促進あるいは国の助成という問題について今後どういうふうに対処していくつもりか、その問題について伺っておきたいと思います。
  82. 小島和義

    ○小島(和)政府委員 土づくりの問題は、つまるところは個々農家の日常の営農活動の努力の積み上げということになるわけでございますから、その対策のすべてにわたりまして国が財政的なバックアップをするというのは、事柄の性質上もいかがかと思うわけでございます。  ただ、御指摘ございましたように、個々農家だけでは何ともならぬという問題があるわけでございまして、地域的な問題として解決するのにふさわしいような内容を持った事業につきましては、現在でもさまざまな助成の道を開いておりますし、今後もその努力は続けるつもりでございます。  具体的に機械の問題についてのお尋ねでございますが、これには実は二通りの内容があろうかと思います。  一つは、個々農家ではなかなかできなくなってきた堆肥づくりのようなものを、地域の有機物の供給センターのような形で農業団体等が中心になりましていわばより大型化して能率的にやっていく。そのための機械、施設並びにその運搬用の機械につきましては、現在でも助成の道を講じているわけでございます。  いま一つの機械の問題と申しますのは、先ほども参考人の御意見にございましたように、我が国の耕うん作業はロータリー耕が主体になっておりまして、心土破砕等を伴います深耕はほとんど行われていない。また、そういう深耕等をやろうといたしますと、日常使っておりますトラクター等の力をもってしてはなかなか対応し切れないという問題がございますし、また、個々農家では使う頻度が非常に低うございますから、なかなか購入に値しないという問題もございます。そのため、深耕とか土層改良という目的を持ちました大型の機械につきましては、現在でも地域の農業団体等に対する導入につき助成するという道を講じておりまして、あわせて土づくりに活用していただけるものというふうに考えております。
  83. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 今局長の御答弁のうち、主に後段の方にかかわる問題でございますが、深耕してないことが土質を悪くしている一つの大きな要因でもあります。そうしますと、大型機械なんかを買わなければいかぬということになりますと、個々農家は持つことができませんから、共同作業の組織化ということが私は非常に大事だと思うのですね。そうなってくると、現行では農協のような組織を使わなければいかぬだろう。  そこで、この法律で農協というものに対してどういう役割を期待し、また農協にどういうことをやらせようとしているのか、その問題についてひとつ伺いたいと思います。
  84. 小島和義

    ○小島(和)政府委員 この法律の中におきましては、農業団体という言葉自体として顔を出してまいりますのは、地力増進地域の指定それから対策指針の決定に当たりまして、いわば地域の農業者を代表する組織として意見を聞かれるという場面がまずあるわけでございます。それから、具体的な対策の推進に当たりましても、大部分のものは個別の農家で対応するということになるわけでありますけれども、今申し上げましたような地域全体として一つの施設をつくるとか、その地域が中心となりまして他の地域とのいわば地域的な連携、私どもの方でよく地域複合というふうなことを言っておりますが、例えば畜産地帯と耕種地帯とが提携をして必要な堆厩肥等を取得するというふうなことになりますと、その地域の生産者団体の活動に期待するところが大きくなってくるわけでございます。その意味で、個別の農家の努力とあわせまして団体の積極的な活動というものを大いに期待しているわけでございます。
  85. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 さらに、先ほどの局長の御答弁にもありましたが、やはり日本土壌の土質が悪いということの一つに有機物の欠亡ということがあるだろうと思いますね。そうすると、先ほども参考人との議論のやりとりがありましたが、堆厩肥をもっと施用しなければいかぬという大きな問題が出てくると思うのです。一方、今農林省においては、先ほどもおっしゃいましたが、有機物供給センターというものを予算をつけてやっている。私は、これはもう少し拡大してもらいたいと思うのですね。  例えば、霞ケ浦の水の富栄養化ということが言われますが、霞ケ浦へ行きますと法人一つで何千頭から何万頭という豚を飼っているわけで、そのし尿が霞ケ浦に流れ込むということなんかが非常に大きな要因になっているわけですね。そこで、そういった畜産農家耕種農家を結びつける役割は農協に大きく期待しなければいけないし、そうすることによって初めて畜産のし尿の処理もできる、そしてまた堆厩肥の造成もできるということになります。そういう面で、私は、農村環境保全あるいは土質の改善ということから見ても、もっと有機物供給センターのようなものを国策として拡大をしていく必要があるのではないかと思うのですね。その点についてはいかがですか。
  86. 小島和義

    ○小島(和)政府委員 最近の農業関係の予算の立て方といたしましては、御承知かと存じますが、新地域農業生産総合振興対策ということで、かなり統合メニュー化の進んだ予算の立て方になっております。もちろん事業のアイテム別の積算というのがあるわけでございまして、この有機物供給センターの予算積算上の箇所数というのは決して多いものではないと記憶いたしておりますけれども、それぞれの地域におきまして予算上予定いたしておりました箇所数以上のものが出てまいりました場合に、他事業とのやりくり等によりまして、実際にはかなり幅広く対応ができるという内容になっておるわけでございます。  ただ、昨今の、特に稲作、麦作関係の予算に対する御要望を眺めておりますと、土づくりの問題に特に御要望が集中しているというよりは、どちらかといいますとより大型の乾燥調製施設に御注文が殺到しているという状況でございます。ただ、そういう大規模の乾燥調製施設の設置に当たりましても、当然のことながらもみ殻等の利用できないものも出てくるわけでございますから、そういった農村部における一つの集中的な施設というものを軸にしてさらにこれを進めるということも実行上で可能になっておるわけでございまして、そういった他の施設の役割というものもあわせまして、今問題になっておりますような有機物投与というものを進めていくという考えを持っておるわけでございます。
  87. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 私は、局長さんの御答弁を聞いても必ずしも満足しません。有機物センターを見ましても全国でまだ四カ所しかないし、その予算はたった六千万ぐらいであります。この六千万を含めて、この法律で提案されたことを今日本じゅうでやろうとする予算、五十九年度の予算全部見ても、土地保全対策費は二十七億であります。どの県へ行きましても、一番小さい田に水をためるダム一つでも百億であります。二十七億というと、砂防ダムを一個つくるぐらいの予算であります。  こういう予算で本当にこの法律で振りかざすような土地の保全対策というものができるのかどうか、その点においてもう一度御答弁をいただきたいと思います。
  88. 小島和義

    ○小島(和)政府委員 これは、予算上の箇所数を大きく計上すればそれが各地域の土づくり対策に直結するということでは必ずしもございませんで、予算上の箇所数が多くてもそれだけ手が挙がらないというふうな事態もあるわけでございます。逆に申しますと、予算上の積算箇所数としては非常に少なくなっておりましても、御要望が非常に強いという場合に、他事業との調整によりまして御要望にこたえるという予算の執行が現在では可能になっておるわけでございますから、今回の法律によりますところの地域指定、対策指針というものを軸にいたしまして、現地からの要望が強まってまいりますれば、それに応じましてしかるべき予算づけはいたしたいというふうに考えております。予算の全体的規模の増額という問題につきましてはもちろん国全体の財政事情とも関連をいたしますけれども、最大限の努力をするつもりでございます。
  89. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 局長は五十九年度の予算が決まったから一生懸命言いわけしているのじゃないかと私は思いますが、どう考えても、今まで進まなかった土づくりというものが単に指針や対策をつくれば進むというふうに考えるということは、私は余り期待をすることは無理だと思うのであります。  政務次官に伺います。  今言うとおり、先ほどから非常に熱心に皆さん討論された、そういう日本の国を左右するような重大な問題について、日本じゅうの土づくりをやろうとするときに、たった砂防ダム一個分の予算ぐらいで、後は指導すれば何とかなるというふうに本当に政務次官がお考えかどうか。私は決して文句を言っておるわけじゃございません。何とか我々も頑張って土づくりを本当にやらなければいけないという、むしろ局長を、農林大臣を支援する立場で申し上げているわけでありますが、本当にそれでいいと思っておられるかどうか、決意のほどを伺っておきたいと思います。
  90. 島村宜伸

    ○島村政府委員 先ほどのその内容のある御討議を伺えなかったのはまことに残念でありますが、まさに御指摘のとおりだと私は思います。それと同時に、ただ一つ法律をつくったり方針を打ち出すだけで満足するわけではなくて、この問題は将来的な視野で、きちんとその対策を講じていかなければいけない問題だと私は考えます。
  91. 野呂田芳成

    ○野呂田委員 どちらかというと長年放置された問題が、今回、今の局長や政務次官の手によって前進したわけでありますから、それを了として私の質問を終わります。
  92. 阿部文男

    阿部委員長 次回は、明二十五日水曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後五時散会