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安倍国務大臣 日本の外交の基本方針は、日本自身の平和と安全を守るとともに、世界の平和と安全に貢献をしていくということであろうと思います。そういう中で日本の外交の基本的なスタンスは、日米を基軸としたいわゆる西側の一員としての立場を堅持しながら世界に貢献していく、同時にまた、日本がアジアの一国であるというその立場はこれを貫いていかなければならぬ。そういう中で、日本は積極的に多くの体制の違う国々とも平和外交という立場で外交を進めていくということを中心にして、今日まで来ておる
わけでございます。
日本全体の今の外交の中で、確かにおっしゃるようにほとんどの国とは大体うまくいっているのじゃないかと私は思いますが、残念ながらソ連との間は非常に冷たい
関係にあります。特に最近は、大韓航空機撃墜
事件がありまして以来、極端に両国の
関係が冷え込んでおるということでございます。しかし、何といいましても、ソ連は日本の隣国でありますし、あるいはまた超大国でもある
わけでございます。したがって、日本としてはこのソ連との間の
関係を何とか改善していく、そして真の友好
関係が樹立されることを心から期待する
わけですが、それにはやはり日ソ間に横たわっている懸案を解決しなければならぬ。
その懸案といいますれば、申し上げるまでもなく北方四島の問題でございます。この固有の領土を日本に返還していただく、それによって初めて日ソ平和条約が締結される、そこに真の日ソ友好
関係が樹立される
わけでございまして、日ソ
関係を考えてみますと一番大きな問題はこの領土問題である。残念ながらソ連は、この領土問題に対しましては、もう解決済みであるというふうな
姿勢でこれに対応しようとしない。今度もグロムイコ外相とも会った
わけでありますが、領土問題についてはソ連の態度が変わらないということで、我々は非常に残念である
わけでございます。
同時にまた、私たちが非常に心配をしておりますのは、最近のソ連の極東における大変な軍事力の強化であります。先ほどもお話がありましたが、ノボロシスクが今北上中だ。これがミンスクと一緒になって極東艦隊を形成することになりますれば、日本に対する潜在威力はますます大きくなっていきますし、同時にまた、今極東に展開しているSS20も、百八あったのが百三十六と配備が進んでおります。そして、さらにこれが百四十四にまで進もうという
状況にあります。何のためにソ連がこのように極東における軍事力を強大にしなければならぬか、我々は理解に苦しむ
わけでございますが、こうした情勢が結局日ソ間の友好
関係を阻害している
わけでございます。
我々は、ソ連に対して、そのことについて強く自制を求めておる
わけでございます。しかし、そうした基本的な領土問題あるいはまた軍備の問題、極東における軍事情勢、軍事力の強化といったような問題、あるいはまたアフガニスタンに対する介入は依然として続いておる、こういう
状況は変わっておらない
わけです。しかし、そういう中にあっても、外交
関係がある
わけですし、何とか対話の道は開いておく必要があるのではないか、そして、できるならばこれを進めていくことが大事じゃないか、そのことがまた領土問題をテーブルにのせる
一つの道筋にもつながっていくのじゃないか、こういうふうに考えております。したがって、ちょうどソ連の政権が交代したこういうチャンスをとらえて、私もモスクワに参りましたときにグロムイコ外相との間で意見の交換をいたしました。幸いにしてソ連も、日本との間に基本的に対立的な
問題点があるとしましてもやはり対話を開いていこう、これは日本がそれだけ世界の中で大きな存在になってきた。だから、対話を開いていこう、そういう
姿勢はグロムイコ外相も見せておりますし、我々はこれを非常に
評価しております。そういう中で我々は、三月十二日、十三日に両国で高級事務レベル会談を行うということも合意をした
わけでございます。
あるいはまた経済の問題につきましても、これは主として日本の民間とソ連との間で行われておりますが、この交流も、できるならばこれを拡大していくということについては日本政府としては異存はない、こういうことでございますし、また人的な交流あるいは文化の交流、そういう点もこれから話し合って進めてまいりたい、こういうふうに考えておる
わけでございます。
しかし、残念ながら日ソ間を取り巻く環境あるいは東西を取り巻くいろいろの枠組みというのが大きく変わっていないというところに問題がある
わけでございまして、我々としては、やはり東西の対立、緊張というものが緩和される、それにはINF交渉が再開されるとかSTARTが再開されるということが必要であろうと思うし、あるいは米ソの対話が進むということも大事じゃないか、またソ連はソ連なりにアフガニスタンから兵を引くということも、世界の緊張緩和のためには非常に大事な局面の展開につながっていくのじゃないか、私はそういうふうに考えておる
わけでございます。