○荒川参考人 私、参考人のサッポロビー
ル株式会社取締役副
社長荒川和夫でございます。ただいまより、参考人として、ビール業界の現状及び今回の
酒税の
増税について、私
ども業界の
意見などを述べさせていただきたいと存じます。
既に御承知のことと存じますが、ビールはビール麦によってつくられます麦芽とホップを主原料として、さらに米、でん粉など副原料を仕込みまして、それから酵母によって発酵、熟成させてつくります低アルコールの健康的な飲料でございます。
酒税法上「酒類」となっておりますが、致酔性の少ない、しかものどを潤す止渇飲料で、コミュニケーションの増進、あすへの活力の補給など、
国民生活の潤滑油としての働きを持つ、いわば生活必需的な飲料であると常日ごろから考えております。
現在、我が国では六つの会社が生産供給を行っておりますが、
昭和五十八年暦年での生産者の課税移出数量は約四百九十五万三千キロリッター、対前年比一〇三・七%になります。これは我が国で消費された酒類全体の約六七%を占めることに相なります。
かかる状態でございますため、
国民各所得層によるビール消費の差異はほとんどなく、幅広い消費者によって消費される
国民飲料と言っても過言ではないと存ずるわけでございます。ちなみに
昭和四十九年三月、オイルショック後の総合
物価対策の際には、五十三の生活関連物資の
一つとして、酒類の中ではビールだけが
価格凍結品目に指定された経緯もございます。
このように、
国民生活の場に広く溶け込んでおる商品特性にかんがみまして、私
ども生産者といたしましても、よりすぐれた製品をできる限り安い
価格で消費者の皆様に供給したいと常日ごろ考えておりまして、そのため、みずから経営の合理化に鋭意努力するとともに、私
どもの
企業努力の及ばない外部的なコスト要因、例えば原材料の
価格とか税金の
負担とかにつきましても、でき得る限り低く、かつ安定した水準に保たれることが望ましいと考えておる次第でございます。
ビールの消費動向について簡単に御
説明いたしますと、
昭和三十年代は年率一七%という高い伸びを記録いたしましたが、四十年代はそれが七%と一けた台の伸びになり、オイルショックを経まして五十年代に入ってからは三%と低下して、いわゆる成熟期、まあ成熟期と言いますと大変聞こえがよろしゅうございますが、低成長のジャンルに入っております。この間、ビールメーカー各社は、消費者の嗜好やニーズの変化に対応いたしまして、新製品の開発や既存製品の改良等、製品の多様化を図りつつ、需要の喚起に努めてまいったというのが現状でございます。一方、近年は、酒類全体の伸び悩みの中で酒類間の競争が一段と激化しており、景気不振、可処分所得停滞といった
状況のもとで、低
税率の恩恵に浴した低
価格酒の増進が顕著でございます。ビールもその影響を受けまして、首都圏での一人当たりの消費量が
昭和五十七年から減少に転じているというデータも受け取っているわけでございます。
次に、ビールの
価格について御
説明申し上げます。ビール各社は、高度成長期には設備の新増設、拡充を行いましてスケールメリットを獲得し、
価格を低位に安定させてまいりましたが、四十年代の安定成長期に入って以降も、合理化、省力化、省エネルギー化のための経営努力を重ね、経営の効率化、製品原価低減を図って
価格の安定に努めてまいりました。その結果、ビールの
価格は、
昭和四十年を一〇〇といたしますと、五十八年の
消費者物価指数の総合が三三九、同じく食料品が三四三となっておるのに対しまして、ビール大瓶一本当たりの標準小売
価格は二三八となっており、値上げ率が極めて低くなっているということがわかります。ちなみに、この期間の
酒税の増加率は二一一となっております。
しかしながら、
昭和五十年代に入りましてから、合理化、省力化による原価低減への努力も
限界に近づき、これに原材料費、物流費、人件費等の
上昇や割高な国産麦
——国産麦の
価格は輸入麦芽の
価格の約三倍に当たります
——の使用比率の
上昇などが重なりました結果、
価格改定を余儀なくされることが多くなってまいりました。
昭和五十年、
昭和五十五年、
昭和五十八年と、五十年以降三回、合計六十円の
引き上げを行っております。さらに、これに加えて
酒税の
増税が相次いで実施されましたために、ビールの割安感も近年失われつつあるものと考えております。
増税は、五十一年一月、五十三年五月、五十六年五月、この三回、
引き上げ総額は六十五円でございます。
かかる推移に基づき、先ほどの指数を、
昭和五十年を一〇〇として五十八年の数値を算定いたしますと、
消費者物価指数の総合が一五〇、食料品が一五八、ビール大瓶一本当たりの標準小売
価格が一五八、生産者
価格が一六二、税抜き生産者
価格が一三四となっております。ちなみに、この期間の
酒税の増加率は一八九であり、最高の
上昇率となっております。
ところで、現行のビールに課せられる
酒税は、一キロリッター当たり二十万百円、最も消費量の多いビール大瓶一本当たりで申しますと、百二十六円六十六銭となりまして、標準小売
価格に占める割合は四四・四%、生産者
価格に占める割合は何と五九・五%で、これは非常に高率であると存じます。国柄により飲酒慣行が異なることもございますが、世界の先進諸国において我が国のように高率な
税負担を課している国はないかと存じます。アメリカ一〇%、西ドイツ一七・一、フランス一九・一、イギリス三二・五。ヨーロッパ諸国の算定値には付加価値税を含んでおります。また、国内において他の物品、特に奢侈品の
税負担率と比較しましてもかなり高率でございます。ゴルフセット一三・八、ミンクのコート、ダイヤの指輪一三%等々でございます。ビールの場合、言うまでもなくぜいたく品ではございませんから、これらと比較いたしましても不公平感は免れぬものと存じます。
さらに、酒類は致酔飲料であるから、ほかより高い税を課して消費を適正水準に抑えるという考えに立つと、これはアルコール一度当たりの税額を平準化すべきであると判断されます。ビールのアルコール度数一度当たりの税額は、他の酒類と比較して、
負担水準がかなり高いものとなっており、この点からいっても妥当なものとは思えないのでございます。
このようなビール税の現状にかんがみ、ビール業界では生販とも
ども長年にわたり、
減税と酒
税負担の適正化、見直しを関係各方面に訴えてまいりましたことは、先生方も御承知のとおりでございます。このたびの
増税案によりますと、ビールは一キロリッター当たり一九・五%増の二十三万九千百円になるということでございますので、大瓶一本当たりでは百五十一円三十五銭という勘定になります。二十四円六十九銭増してございます。
酒税は
間接税、
消費税でございますので、
基本的には小売
価格として消費者に転嫁される性質を有しますが、このたびの
増税案によりますと、一本当たりの標準的小売
価格は二百八十五円から三百十円となり、小売
価格に占める
酒税の割合も四四・四%から四八・八%に
引き上げられることになります。したがって、ただいま申し上げましたように、これまで
減税、酒
税負担の適正化を強く求めてきた
立場からすれば、このたびの
増税は言うまでもなく見送っていただきたいというのが、私
どもビール業界の本音でございます。
また、これまでに酒類、特にビールに対して実施されてきたように、特定の物品への税を繰り返して
引き上げていくという歳入調達方法はぜひ見直し、再
検討を切にお願いする次第でございます。さらに、酒類へのある程度の高賦課がやむを得ないとしましても、その場合の
負担増にもおのずと
限界があるのでありまして、
現実の案に即して申し上げれば、近年の消費動向や値ごろ感の推移などから見まして、需要の著しい減退を憂慮しておる次第でございます。また、その
負担は、最終的に消費者の
皆さんにお願いするものであり、ビールの大衆性から見て消費生活への影響が大きいだけに、慎重な配慮が必要であるかと存じ上げます。
国民生活にかかわる
国家財政上の要請として、他の多くの品目に課せられている税目とともに、
酒税の
引き上げを求められた場合、ビールもいわゆる
財政物資として応分の
負担を引き受けざるを得ないと思いますが、先ほど申し上げた事情もあり、消費への影響について、従来にも増して危惧の念を抱いていることを御
理解いただきたいと存じ上げます。
さらに付言させていただきますと、前回、すなわち
昭和五十六年五月、
増税時の
国会決議を受けて設置されました
酒税問題懇談会や
税制調査会で示された酒類間の
税負担格差の是正については、今回の
増税案でその一歩を踏み出したと伺っておりますが、
税負担率の格差がむしろ拡大している面すらある上、さらに
増税が小売
価格に及ぼす影響の度合いから見ましても、ビールが最も大きいグループに入っており、ビール業界にとって寒心にたえないところでございます。
以上、業界の現状並びに今回の
増税案に接して感ずるところを述べさせていただきました。事は国政の問題であり、一業界の
立場、利害を超えるものであるとの認識は十分持っておるつもりでございますが、
酒税約一兆円を調達するビール業界の実情並びに老若男女、所得格差なく幅広く飲用されているというビールの
国民的飲料としての商品特性について、極力お酌み取りをいただくように切にお願い申し上げる次第であります。
どうもありがとうございました。(拍手)