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野口参考人 ゼンセン同盟の
野口でございます。きょうは本来会長の宇佐美が参って見解を述べるところでありますけれ
ども、所用のため参れませんので、私がかわって
ゼンセン同盟の見解を述べさせていただきます。
初めに、本
改正法案に関します
基本的な見解を述べます。
我が国の
繊維産業は、第一次石油危機以降
知識集約化を合い言葉に、消費者指向に基づく垂直的な
構造改善と、それを通じての高
付加価値商品あるいは差別化
商品の
開発に
努力してまいりました。その結果、たんす在庫が家庭にあふれているというような
状況でありますが、それにもかかわらず相当規模の最終消費を確保し、あるいは開拓し、また輸出面においてもそれなりの健闘をしてまいりました。これはまさに
現行の
繊維法が目指した
方向であります。
繊維法の適用事例は決して多いとは申しませんが、その過程で同法が示しました誘導的な役割というのは小さくないと評価いたす次第であります。
しかしながら、
知識集約化が進むにつれまして新たな問題が出てまいりました。これは既に触れられましたけれ
ども、第一は
消費者ニーズの
多様化によりまして、
生産及び流通が急速に多品種少ロット
短サイクル化してまいりました。特に、中小
企業におきましては、これに
対応する体制が整っていないというのが実態であります。
第二番目に、多品種少ロット
短サイクル化は当然
生産及び流通のコストの上昇を招きましたけれ
ども、最終消費の低迷によりまして小売価格に転嫁が図れません。したがって、多くの
業種あるいは
企業におきまして、適正な
付加価値配分にあずかれないような状態であります。
第三番目に、高
付加価値化、差別化といいましても限界があります。定番品とか最寄り品とか呼んでおりますけれ
ども、
我が国繊維産業の
基盤をなしております大
部分の
商品が
発展途上国からの
輸入品と激しく競合しておりますし、また次第にそれに取ってかわられております。
このたび提出されました
繊維法の
改正案は、
基本的には
現行法の
枠組みの中で消費者指向を明確にした
垂直的連携を一段と促進するものでありますし、同時にまた、その中で新しい
課題であります多品種小ロット
短サイクル化というような問題に
対応する体制を助長する意図を持っております。そのような
意味で、私
どもも本
改正案に賛成の意を表する次第であります。
次に、
制度の
運用面でございますけれ
ども、今申し上げましたように、本
改正案は古い皮袋に新しい
課題という酒を取り込もうとしております。しかし、古い皮袋であります
現行制度の
枠組みは、情報
開発センターの設置義務あるいはその他助成対象とします
構造改善事業に厳しい要件を課しております。このような要件には
産業や
企業の実態になじまないものが多い。つまり、
政府が要請しているところの
制度要件と
業界、
企業が実際に要求しているところにはずれがあるというように見ておりますし、特にこれからは多品種小ロット
短サイクル化への
対応が迫られますが、多分に
設備面への投資が
中心になってまいりますので、
制度の弾力的な
運用が望まれます。
また、昨年の
繊維工業審議会あるいは
産業構造
審議会における新
繊維ビジョンの
審議過程の中で、
設備登録制の存廃問題がいろいろと議論されました。これに絡みまして、同時に
業界団体のあり方もまた議論されたところであります。そのような
意味から、この
改正法案に基づきます
構造改善事業につきましては、
業界団体や
産地組合が主体的に取り組むことが必要であると思いますし、また、
制度そのものにつきましても主体的に参加できるような
配慮が必要と考えております。
次に、
法律を離れまして、
繊維産業の
環境問題について述べたいと思います。
繊維産業の
構造改善につきましては、新
繊維ビジョンが指摘していますように、本
繊維法によりますほか、
技術開発あるいは
国際化あるいは人材育成などの主要な柱がございます。これとともに、
繊維産業の
基盤をなす
環境の整備問題があります。この中で、労働組合の
立場から流通、
取引の
改善と
輸入への
対応について
意見を述べまして、
政府の
対応を要請いたします。
まず、流通、
取引の
改善であります。
ゼンセン同盟は昨年、組合員を対象に
繊維流通の
取引慣行に関する実態調査を行いました。その集約結果によりますと、不公正、不合理な
取引慣行は一向に
改善されておりません。むしろ深く静かに潜行して拡大していることが明らかになりました。また、その中で
取引のゆがみが
企業にではなく労働者個人にしわ寄せされている、こういうケースも増大してきております。
しかし、
取引慣行に関します問題は、優越的地位の乱用というような一方的なとらえ方で解決できるものではない、すなわち、公取に任せばよいというような問題でないというふうに考えます。それはリスク負担のあり方の問題でありますし、あるいは
付加価値の配分の問題でありますし、あるいは流通の効率化の問題でありますし、さらに商業倫理の問題でありますし、また従業員、労働者の管理の問題でもあるわけであります。多角的な観点からの検討を要します重大な問題であると考えます。
業界の
自主的努力を前提としながらも、新
繊維ビジョンにありますように
取引準則の策定等
政府の抜本的な取り組みを要請いたします。
次に、
取引に関しましては
繊維の上場
制度というものがございますけれ
ども、本法の志向いたします
消費者ニーズに直結した
知識集約化を阻害する
制度であると考えます。関連
業界も既に同
制度を必要としない体制を
確立していると考えますし、また、いずれも
業界団体は
廃止を要請しております。
繊維上場
制度の
廃止を要請いたします。
次に、
輸入の問題であります。
既に
業界の代表の方も述べられておりますが、
繊維産業に携わる労使が
国会及び
政府にたびたび重ねて要望してきたことであります。
先進工業国においては、
我が国の
繊維産業のように素っ裸で海外からの侵食にさらされているケースは例を見ません。このため
日本の
繊維産業はいわば常にぜんそくという持病を持っておりまして、
輸入の風がちょっと激しく吹きますとすぐに発作を起こすような状態であります。
欧米の諸国は、ガットのもとで承認されました国際
繊維取り決め、いわゆる
MFAに基づきまして多角的に輸出国と二
国間協定を結びまして、自国の
繊維産業と雇用を防衛しております。例えば最近では、周知のように米国では昨年十二月、ホワイトハウスが従来の
繊維輸入規制基準を一層強めた形で決めました。これに基づきまして新たに日米
繊維協定に二品目を追加するというような要請をしてまいっております。
しかし、私
どもはそのような安易な
保護貿易を求めているものではありません。短期間におきます
輸入の激増ということにより再び大幅な雇用調整を招くことのないよう
増加スピードを緩和する、しかも、それは特定
分野に限定するということを要求しているのでございます。
政府の責任ある、また毅然とした外交上の
対応をこれらの通商問題について要請申し上げます。
次に、若干労働条件の問題につきまして述べます。
繊維産業の労働条件は、総体的には低位にあります。賃金水準はもちろん、職種あるいは年齢あるいは学歴、また
企業の規模によって異なりますけれ
ども、平均しまして世間水準より一〇%前後低いというように言えます。
欧米ではまた週四十時間が一般化しておりますが、さらにまた、現在ではそれを短縮する
努力が続けられておりますが、
我が国の
繊維産業では、週四十時間制をとっている
企業はごく限られております。ちなみに三十人以上の
事業所を見ますと、
昭和五十六年の
製造業平均の年間所定内労働時間は千九百三十七時間であります。これに対して
繊維工業は二千十八時間、衣服その他
繊維製造業は二千四十二時間というような
状況であります。
新
繊維ビジョンは、副題は「
先進国型産業をめざして」というようにつけ、
技術革新と
文化的創造性を軸にしまして
産業再活性化の道を指し示しております。しかし、
技術も
創造性もそのかなめはそれを担う人材であると思います。
時代の要請にこたえる人材を誘引し、あるいは育成、定着化させるためには魅力ある職場
環境を確保することが重要であることはビジョンの指摘するとおりであります。
先進国型を目指した
産業の
構造改善には、また
先進国並みへの労働条件の
改善があわせて必要であります。このことをこの場をかりまして
業界団体のリーダー、また
繊維企業の
経営者に強く訴える次第であります。
さらに、本法にかかわります
構造改善事業の
実施は、当該従業員の雇用と労働
環境に少なからぬ影響をもたらします。そのような
意味で、個々の
構造改善事業への労働者の参加を
制度上明確に位置づけるべきであるというふうに考えます。
最後に、個別の
業種に関する問題でありますが、製糸、絹業問題について一言述べさせていただきたいと思います。
製糸業及び絹
織物業は、ともにかつてない危機を迎えております。それは、繭糸価格安定法に基づく
制度がもたらす構造的な危機であります。国際的な
産業であります
繊維産業にとって、極めて割高である原料を出発点にしなければならないということは致命的であるというふうに考えます。農業である養蚕業と製糸以降の工業とを切り離して
対策を講じなければならないというように考えます。このまま放置いたしますと、製糸、絹業がともに日ならずして崩壊する
可能性が極めて強い
状況にあります。繭糸価格安定法は議員立法によってできた
法律であると聞いております。抜本的
対策による
国会の責任ある
対応を強く要請する次第でございます。
以上でもって陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。